1. 教科書改善に当たっての基本的な方向性

○ 教科書は、児童生徒が共通して使用する主たる教材であり、学校はもとより家庭での学習においても重要な役割を果たしている。教科書の内容を改善充実することは、教育の機会均等を保障し、児童生徒が基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付け、それらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等をはぐくむことに大いに資するものである。

○ 新しい教育課程の実施に向けて教科書が変わろうとするこの時機において、教育基本法や学校教育法が示す理念や目標等を適切に踏まえるとともに、新しい学習指導要領の趣旨・内容が的確に反映された質・量ともに充実した教科書としていくことが強く求められる。

○ 教科書は、各学校における授業において重要な役割を果たすものであることから、質の高い授業を展開するためにも、内容が充実し、児童生徒の学ぶ意欲を高め、理解を深めることに資する教科書が提供される必要がある。

○ 中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(平成20年1月17日)において提言されたように、繰り返し学習や知識・技能を活用する学習、発展的な学習に自ら取り組み、知識・技能の定着や思考を深めることを促すような工夫が凝らされた、読み応えのある教科書が提供されることが重要である。
 また、児童生徒の心身の発達段階を考慮し、適切な教育的配慮の下、公正・中立かつ正確な内容となっていることも引き続き求められる。

○ このような考え方の下、本審議会においては、今後の教科書の著作・編集及び教科書検定に求められるものを、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」として、次の六つの項目に整理した。

  1.  教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善
  2.  知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実
  3.  多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述
  4.  教科書記述の正確性の確保
  5.  児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進
  6.  教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

以下、それぞれの項目について具体的な内容を示すこととする。

1 教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善

 

○ 教育基本法の改正により、教育の目標として、新たに幅広い知識と教養を身に付け、豊かな情操と道徳心を培うことなどが規定された。また、学校教育法の改正により、新たに義務教育の目標が規定された。

○ これらの改正を踏まえ、「生きる力」を育成することなどを基本的な考え方として、学習指導要領が改訂された。新しい学習指導要領の総則においては、各学校において、教育基本法及び学校教育法に従い、適切な教育課程を編成するものとし、これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うということが示された。

○ 今後の教科書の改善に当たっては、教科書がこれらの目的・目標を適切に反映したものとなるよう、以下のように、教科用図書検定基準等を見直すとともに、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善が求められる。

◎ 教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標を達成し、新学習指導要領の総則に示された教育課程編成の一般方針や各教科の目標・内容等を適切に反映した教科書が提供されることが必要である。
◎ 教育基本法、学校教育法、新学習指導要領についての周知を十分に行い、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善を推進するとともに、教科用図書検定基準等を改善する必要がある。

2 知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実

○ 今般改正された学校教育法においては、義務教育の目標達成のため「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」ことが新たに規定された(第30条第2項)。
  また、新しい学習指導要領においては、この学校教育法の規定も踏まえつつ、児童生徒に基礎的・基本的な知識・技能を習得させるとともに、思考力・判断力・表現力等を育成し、学習意欲の向上や学習習慣の確立を図るということが基本理念として示された。

○ これらを反映し、知識・技能の習得、活用、探究に対応した教科書の改善が図られ、質・量両面における記述の格段の充実が図られるよう、以下のような事項について、教科用図書検定基準等を見直すとともに、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善が求められる。

◎ 個々の児童生徒の理解に応じ、きめ細やかな指導ができるよう、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実
◎ 幅広い教養・豊かな情操と道徳心、伝統と文化を尊重する態度などの教育基本法、学校教育法に示された目的・目標等の達成に資するための内容や話題・題材の充実
◎ 基礎的・基本的な知識・技能が着実に習得されるよう、既に学習した内容の系統的な反復学習や、練習問題などによる繰り返し学習に関する記述の充実
◎ 知識・技能を活用する学習活動が取り入れられるよう、観察・実験やレポートの作成に関する記述の充実
◎ 児童生徒の学ぶ意欲を高め、探究する力をはぐくむよう、他教科の関連する内容も取り入れ、学習内容が実生活・実社会に関連付けられるような記述や話題・題材の充実
◎ 課題解決の喜びを得るような練習問題や、なぜ学ぶのかという目的意識を取り入れた話題・題材の充実

3 多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述

○ 教科書の著作・編集に当たっては、教科書が本来、児童生徒のための図書であって、著者の学術研究の発表の手段ではないことが十分認識され、内容が一面的な見解に偏っていないか、広く受容されている内容となっているかなどについて十分な吟味・検証がなされなければならない。
  特に、多様な説があるものや学説等が確立されていないものなどについては、様々な角度の視点からの記述などにより一層公正性・中立性に留意し、児童生徒の多面的・多角的な思考に資するような記述となるよう配慮する必要があり、以下の観点の改善を図るため、教科用図書検定基準等を見直すとともに、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善が求められる。

◎ これからの教科書については、教育基本法において示された教育の目標等や学校教育法に示された義務教育の目標、目的を達成するため、教師が自信と確信を持って児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた記述がより一層求められる。
◎ また、一面的・断定的でない多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述がなされることも重要である。

4 教科書記述の正確性の確保

○ 教科書は児童生徒が学習する上で極めて重要な役割を担う教材であるということにかんがみ、その記述に際しては、誤記、誤植、誤字、脱字等があってはならず、教科書の著作・編集・検定の各段階における以下のような改善を図るため、教科用図書検定基準等を見直すとともに、教科書発行者における必要な取組が求められる。

◎ 教科書の著作、編集、検定の過程において、教科の主たる教材としての正確性が一層確保される仕組みや、申請段階において客観的に明白な誤記・誤植等をなくすための仕組みを整備することが必要である。
◎ 発行後においても、客観的に明白な誤記・誤植等が速やかに修正され周知されるような取組を推進することが求められる。

5 児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進

○ 児童生徒が一層意欲的に学習に取り組むようにするためには、1から4で示した方向性を踏まえて記述内容の質・量の充実を図るとともに、全体的な構成、レイアウト等の面における教科書編集上の配慮・工夫も必要であり、教科書発行者における以下のような取組が求められる。

◎ 学習指導要領の改訂による授業時数増にも対応し、新学習指導要領に示す内容を不足なく、丁寧にかつ分かりやすく記述した上で、個々の児童生徒の理解の程度に応じて発展的な学習やつまずきやすい内容の繰り返し学習、補充的な学習を指導しやすいような教科書構成上の配慮・工夫。また、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続への配慮・工夫
◎ 記述すべてを教えるのではなく、発展的な学習など個々の児童生徒の理解の程度に応じて学習する内容について、編集上の区分の徹底
◎ 児童生徒が興味関心を持って読み進められるよう、話題や題材の創意工夫
◎ 児童生徒が家庭でも主体的に自学自習できるよう、丁寧な記述、練習問題、文章量の充実。また、児童生徒が学びやすいよう、学習内容を踏まえた教科書の体様への適切な配慮
◎ 本文記述との適切な関連付けがなされたイラスト・写真などの活用。一方でこれらの多用によって児童生徒の想像力が阻害されないような配慮
◎ 障害の有無にかかわらず、すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の研究

6 教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

 

○ 我が国の教科書制度は、著作・編集に係る民間の創意工夫を生かしながら、教科書検定により適切な教科書を確保するという仕組みであり、教科書の改善のためには、教科書検定の手続き自体の改善を進めることが重要である。

○ 教科書検定手続きについては、静ひつな環境の中で、委員ら専門家の知見によって、公正・中立に専門的・学術的な審議がなされることが必要であり、その確保を前提とした上で、国民の信頼を高めていく観点から、手続きの透明性を可能な限り向上させることが求められる。

○ 具体的には、以下のような観点で教科書検定手続きの改善を図る必要がある。

◎ 申請図書に対し、審議会や教科書調査官がどのように関与し、結果としてどのような過程によって検定意見が付され、合否判定がなされたかなど審議結果に至る一連のプロセスを一層透明化する
◎ 検定手続きの透明性の向上に当たっては、静ひつな環境における専門的かつ自由闊達な審議の確保との十分な両立を図る
◎ 審議に当たって特に慎重な判断を要する事項を審議会が選定し、より専門性の高い重点的な審議を行う

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