21.利益相反ワーキング・グループ報告書(概要)

1.WGにおける検討の経緯

  科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会の下におかれた「利益相反ワーキング・グループ」(主査:安井 至 東京大学生産技術研究所教授)においては、産学官連携の推進に伴って生ずる利益相反(教職員の個人的利益と大学における責任の衝突)への対応について、基本的考え方の整理と各大学における具体的な対応方策の方向性を検討するため、平成14年5月から10月まで計9回の会議を開催。その審議の結果を報告書として取りまとめた。

2.報告書の概要

1.利益相反とは何か

(1)利益相反とは何か(概念整理)

  • 産学官連携の推進に伴って生ずる利益相反とは、大学の教職員や大学自身が外部から得る経済的利益等と大学における教育・研究上の責任が衝突する状況のこと。
  • 利益相反は教職員や大学の産学官連携活動に伴い日常的に生じうる状況。
  • 法令違反の問題ではなく、社会的受容性(大学への社会的信頼)の問題。

(2)利益相反がなぜ問題なのか(問題の所在)

  • 利益相反に適切な対応を怠ると、大学のインテグリティ*が損なわれ、結果として産学官連携の推進が阻害されるおそれ。
    • ※ integrity:「社会的信頼」「尊厳」「らしさ」といった意味合い。
  • 米国でも、産学官連携システムが活性化するにつれて、政府系資金提供機関や大学関係団体が中心になって各大学の利益相反への取組を促進。
  • 我が国では、利益相反に関する議論の蓄積が十分でなく、利益相反に関する対応方針の確立は各大学が早急に取り組むべき課題。

2.利益相反への対応に関する基本的な考え方

(1)大学が利益相反に取り組む目的

  • 大学のインテグリティを維持し、産学官連携の健全な推進を図る(個人としての「お付き合い型」連携から組織的連携へ)。
  • 法令違反に至ることを事前に防止する効果もあり、大学の組織としてのリスク管理の一局面。
  • 教職員個人の責任と利益を大学が適切に分担することにより、意欲ある教職員が安心して産学官連携に取り組み、その能力を十分に発揮できるような環境を整備。

(2)教育上の責任の重要性

  • 学生が産学官連携活動に関与することには多くの利点もある一方、教育の機会や学生の独自性の確保、学問の探究など教育面での支障が生じないよう、最大限の配慮が必要。
  • 学生の教育を受ける権利や選択の自由といった観点からも考慮。

(3)対象者の範囲

  • 基本的には教員を対象とするが、大学の管理運営や産学官連携に関与するその他の職員(技術移転担当者など)についても同様の問題あり。
  • ポスドクや大学院生についても対象となる可能性あり。

(4)どのようなアプローチをとるか

  • 産学官連携を推進する観点からは、不適当な行為を予め列挙して禁止するのではなく、個別事例に応じて適切な対応を図るための手続・体制(マネジメント・システム)を構築することが適切。
  • システムの構築に当たっては、社会や大学そして教職員の正当な利益配分を管理しつつ、関連情報を学内で開示することによって透明性を確保し、社会への説明責任を大学が適切に分担。
  • 大学のインテグリティ確保の必要性が高い場合には、産学官連携活動の制限等一定の対処。
  • 具体的な事例ごとの対応策は各大学のポリシーに照らし判断。

(5)個人としての利益相反に関するマネジメント・システムの枠組み

  • 教職員の金銭的情報の開示と学内での利益相反委員会の設置を柱とするマネジメント・システムを構築(3.(1)で詳述)。
  • なお、医学・医療の分野における臨床研究に係る利益相反については、特に慎重な対応が必要。

(6)各大学における利益相反ポリシーの作成

  • 利益相反への取組は、各大学の産学官連携の取組状況や教育・研究に関する基本理念の在り方によって異なるもの。
  • 全国一律のルール化ではなく、各大学がそれぞれの個性・特色の一環として、固有の利益相反ポリシーとシステムを整備することが適当。
  • 社会への説明責任の観点から、各大学のポリシーは一般に公表。

(7)コンプライアンス(法令遵守)等との関係

  • 法令面での学内のサポート体制やコンプライアンスの意識の向上も重要。

3.個人としての利益相反に対応するための学内システムの在り方

(1)学内システムのモデル例

  • 各大学においては、透明性の高い学内体制、社会的な疑義に明確に応えて説明責任を果たしうる体制を整備。
<モデル例>
  • 教職員は一定以上の金銭的利益に関する情報を学内担当部署に開示。
  • 開示された情報をもとに利益相反アドバイザーが事実関係を調査検討。議論が必要な場合には利益相反委員会に報告。
  • 利益相反委員会は、利益相反に関する最終的な権限と責任を有する。担当副学長が委員長に就任するなど重責にふさわしい人選が必要。必要な場合には金銭的利益の放棄や研究プロジェクトへの不参加を勧告。
  • プライバシーに配慮しつつ、可能な範囲で一定の事項を公表。

(2)学内の体制整備

  • 情報の一次的検討、日常的な相談窓口として利益相反アドバイザーを配置。
  • 個別事例における対応方策の決定や、利益相反ポリシーの作成等、利益相反への対応方策全般について権限と責任を有する機関として、利益相反委員会を設置。
  • 利益相反委員会の審議に学外有識者や専門家の意見を適切に反映する仕組みを設けることが重要。
  • 学内での信頼関係を確立するために、関係者への継続的な啓発活動が重要。

4.責務相反等

(1)責務相反について

  • 責務相反は、教職員の大学の職務遂行責任と外部活動における業務遂行責任との衝突(兼業の時間配分などの問題)。
  • 各大学では、教職員の大学での職務内容を産学官連携活動との関係で明確に整理することが必要。
  • 大学の職務遂行責任を産学官連携活動との関係でどこまで弾力的に扱うかについて、各大学の基本理念に照らし適切にルール化。
  • 兼業については許可の際のルール化だけでなく、事後的な検証も重要。

(2)国立大学法人における倫理規程の在り方

  • 法人化後に各大学が定める倫理規程については、リエゾン活動やベンチャーへの関与が不当に妨げられないよう配慮が必要。

5.大学(組織)としての利益相反

  • 大学(組織)としての利益相反は、大学のエクイティ(株式等)保有、組織有特許のライセンス活動等の場面で生じうる。リスク管理が重要。

6.大学の取組の促進

  • 産学官連携を組織的に推進しようとする大学は、利益相反を自らの課題として真摯に取り組むことが必要。
  • 各大学では、本報告書を参考に、まず、セミナー開催等により教職員の意識啓発や理解向上に取り組むことが必要。さらに、利益相反ポリシーの作成、マネジメント・システムについての具体的な検討や事例集の作成も期待。
  • 国立大学協会において大学相互の情報交換等に積極的な役割を果たすことを期待。
  • 利益相反への取組を公的資金提供の判断要素とすること等により、各大学の取組を促進。
  • 大学のみならず独立行政法人研究機関や特殊法人等においても、それぞれの特色に応じて、利益相反のマネジメントに取り組むことを期待。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)