5.「大学教員等の発明に係る特許等の取扱いについて」

(昭和52年6月17日付け学術審議会答申) -抄-

3 現行取扱いの問題点

  我が国の大学教員の発明に係る特許等に関する現行取扱いは前記1・(2)で述べたとおりであるが、その実態は、他の組織体あるいは諸外国の大学の例に比べ、極めて多くの問題点をはらんでいると言つてよい。ここでは、その問題点を整理し、今後の在るべき方策を樹立するに際しての参考に資したい。

基本的問題

  まず、各国立大学の現状を見ると、学内で勤務発明規程を置く等により取扱い方式を明定している大学・研究所はごく少数であり、また、発明者の自由意思による譲渡の考え方や方式も必ずしも一定していない。国としてこれまで統一的な明確な取扱い方針を定めず、積極的に大学教員の発明を保護・活用する措置を講じてはこなかつた。そのため、大学・研究所間で特許権の帰属・管理方式が異なり、大学教員の間で公平を欠くのみならず、スムースな処理システムがないため、発明の成果を特許に結実させることなく、従つて産業界に反映されず、結果的に大学教員のアイデアが広くいかされないことが第一の問題である。
 大学について、長い間にわたりこの問題に関する整合性ある解決策が採られなかつたのは、より根本的には、大学という学術研究機関の性格上、民間企業等における職務発明と全く同様な取扱いがふさわしくない種々の要素があることに起因していると見られる。そのことは、特許法第35条の大学に係る適用に際しての基本的な問題と言えよう。

発明から特許取得までの問題

  次に、学内規程を置く場合又は任意譲渡による場合にしても、教員の発明が職務発明に該当するか否かの判定をいかなる組織でどのように行うかの問題がある。認定のための委員会を学内に設けている場合、学問分野の専門分化に伴い、当該発明の内容の審査、特許発明となる可能性の判断等の適任者は極めて少ないこと、職務発明か否かの判定基準の解釈が難しいこと、委員となつた者の時間的負担が大きいこと、機密保持が難しいこと、迅速処理が困難なこと等、様々な問題がある。
  また、申請手続は繁雑でありかなり高度の実務的及び専門的知識を要する。従つて、専門的事務スタツフや事務経費が全く用意されていない現状では、発明者個人の負担が過大となつている。大学には、最新の特許情報を持ち発明の権利化に関する専門的知識を持つ者がいないため、大学教員の特許は、いわゆる「弱い特許」となるとも言われてる。
  これらの事実は、同じような分野の研究者層が厚く存在し、特許情報の収集・管理、特許取得手続の専門処理スタツフがそろつている民間企業等と学術研究機関である大学とは組織の性格が本来的に異なつており、つまるところ、大学は、基本的に特許権取得について機動的に動き得る組織でないことを示唆していると見られる。

特許権管理上の問題

  このことは、特許取得後の特許権管理の問題にも当てはまる。大学には、特許の管理のための経費・スタツフが全く措置されていないため、当該特許に関する係争力は弱く、次第に周辺特許で固められて実効はあがらなくなるとも言われる。また、特許権の実施のための民間企業との連絡、外国からの問い合わせへの応答等も、現在では、すべて発明者個人の時間的、経済的負担となつている。注目を浴びる発明を一つ行つたゆえにより新しい研究に集中することができなくなくなるという事例が聞かれるが、これは学術研究の振興上大きな問題と言えよう。
  また、特許権の管理上企業等に実施権を認定することになるが、大学は実施権設定の審査機構としては適切でない場合が多い。更に、発明特許の実績が個人の業績として評価され昇進等につながる民間企業等の組織と異なり、大学の場合には、人事上の直接的なメリツトとならない。従つて、大学教員の特許等は、一般的な評価の基準によらず、学術研究の成果の評価の一環として考慮することが望ましいであろう。

補償金、研究助成としての還元等の問題

  次に、発明者に対する補償金額が適切かどうかの問題がある。現在、国家公務員については、複数の発明があつても、また、1億円以上の実施料収入をあげても、一律に年間一人当たり150 万円が限度額となつている。この限度額の考え方は再検討を要すると言える。
  発明者、殊に大学教員等の学術研究機関の研究者は、新しい技術的思想を更に開拓するところに目的と意欲を持つため、個人への還元の額の増もさることながら、研究費への還元を最も望むものである。そこで、実施料の一部を研究者又はその所属する研究組織への研究費として還元していくことが必要であろう。また、特許の真の意味のアフターケアのためには、当該特許に関連する諸技術を更に開拓・確立することが必要であり、そのための研究費用はむしろ必要経費的性格を持つと言える。
  更に、今日、我が国の技術貿易の収支は、輸出が輸入の4分の1弱でしかない実情にある。その意味からも、外国への特許出願の必要はますます増加しており、外国出願をより容易にするだけの財政的裏付けも望まれる。

4 学術研究の特質と大学教員の特許の取扱いの考え方

(1)学術研究による発明と特許の特質

  学術研究は、もともと真理を探究するという人間の基本的な知的欲求に根ざす活動である。その中心的な任務は、新しい法則・原理の発見、分析や総合の方法論の確立、既成のあるいは新しい知識や技術の体系化による新たな学問分野の開拓などにあると言える。これとともに、学術研究の成果は、単に抽象的な学理の展開にとどまることなく、応用化・技術化を通じて具体的な効果を生み人間の日常生活を支える物質的基盤を提供する役割も果たしている。
  しかしながら、学術研究は研究活動の遂行上特許につながるような研究成果をあげることを直接的な目的としているものではない。ここに学術研究と発明等のかかわり方の第1の特質がある。
  このことは、例えば民間企業の開発的な研究や国公立の試験研究機関における研究の目的と対比すれば、より明確となろう。例えば、民間企業の場合には、企業経営の観点から市場調査等の手段を通じ具体的な製品化を目指した開発研究が行われるのが通例であり、研究の遂行上、発明・発見、更に特許への展開がかなり明りように予期されている場合が多いと言える。また、国公立の試験研究機関においては、より基礎的な研究も行われるが、主としてそれぞれの行政目的に照らした目的的研究の展開をその使命としており、発明・発見あるいは特許への結び付きは学術研究の場合に比して強いと言える。
  学術研究と発明等のかかわり方の特質の第2は、研究テーマ・研究方法の設定の仕方に見ることができる。学術研究は、本来、研究者の自由闊達な発想を源泉として展開されることによつて優れた成果を期待できるものである。真に独創性豊かな、従つて飛躍的な波及効果を生む可能性ある研究は学問の自由の上に築かれるものであることは、人類の長い間の歴史的体験の下に確立された思想と言えよう。この思想を根底として、学術研究についてはこれまでも研究テーマ・研究方法の選択なども一貫して研究者の発想に基づいて行われてきた。大学の学部や研究所の教員は、担当の講座・研究部門に関連する幅広い諸研究課題のうちから自らテーマを選択する自由を有するのが基本である。
  大学における研究の展開は、民間企業等に多く見られるような研究組織内での指示・命令に従う研究パターンとは、根本的に異なつていると言える。
  しかし、一方、近時、核融合研究、宇宙科学研究等、学術研究が大型化・巨費化し、あるいは各種の専門分野にまたがる学際的な研究領域の重要性が増したことに伴い、科学政策の観点からより計画的にプロジエクト研究を推進することが必要な分野が増しつつある。この場合、基本的には研究の自由は確保し研究者側の提案を基礎としつつも、研究の組織化、研究費投入の効率化の角度から研究計画が総合的に立案・実施される必要がある。従つて、このような分野の研究は目的的であり、かつ、特別の研究費が投入されることにかんがみ、特許権の帰属に関して一般的な学術研究と取扱いを異にすることが必要であろう。
  次に、学術研究上のこれらの諸特質は、その研究過程から生まれる発明、特許の内容、性質にも反映されることに留意しなくてはならない。
  すなわち、大学教員の行う発明は、直ちに製品化に結び付く技術的に完成された内容であるよりは、より原理的な発想、アイデアに重点が置かれているケースが多いと見られる。言わば、特許となり得る高度の技術的思想のうち原理的、基本的な部分に相当するものが多く、大学教員の特許はそれ自体で独立して実施可能なものは少ないと言える。そのため、特許の実用化には民間企業との協力により更に幾重もの技術的な工夫と洗練の過程を経ることを要するものが多いと見られる。
  更に考慮されるべきことは、大学教員が特許を取る目的としては、研究業績のプライオリテイを確保することに比重が置かれ経済的利益はむしろ反射的な効果とする考え方がかなり強く見られる点である。我が国では、アイデア、発見、発明等個人の知的活動のプライオリテイを尊重し、あるいは保証する慣行や制度が欠けている。大学教員の特許はそのための自衛的手段とされている傾向もある。
  この特許の内容及びその効果に関する特性は、学術研究に基づく発明や特許が、単に経済的側面としての工業所有権という観点からのみ取り扱われることなく、広く研究者の研究業績の一環として考慮されるべきことを示唆している。現に、工学系の研究者については、学術論文と並んで特許もプライオリテイの要素として評価を得ている場合もある。学術研究振興の角度から特許を取り扱うことは、研究者にとつても研究活動をより意欲的にすることとなり、ひいては原理的な発明、発見を盛んにし結果的に広く波及効果を社会に及ぼすと考えられる。学術研究は、有用性を目的とする科学技術への基盤を提供することが使命だとも言えるからである。

(2)現行法解釈と大学への適用の在り方

  これまで学術研究の特質とそこから派生する研究業績の一つとしての特許の特性を見てきたが、このことと我が国の特許制度特に職務発明制度との関連を明確にし大学教員の特許の取扱いを定める必要がある。
  現在の特許法は、既に前記1.(1)で述べたとおり、大正10年の特許法改正以来、職務発明に関しては原則として従業者等(発明者)に特許に関する権利を帰属させる発明者主義の考え方を採つている。他方、その発明活動を直接・間接に助成する立場にあつた使用者等の利益をも顧慮して、従業者等のなした発明のうち職務発明に該当するものにつき、使用者等に一定の権利を与えている(特許法第35条)。
  この職務発明の規定は、従業者等(発明者)と使用者等との間の利益の調整ないし公平の確保を図ることを目的としたものと考えられる。
  その場合、職務発明に関し使用者等に認められた法律上の権利は、業として当該発明に係る特許を実施するための通常実施権である。現行特許法の目的は、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与する」ところに置かれており、従つて、職務発明制度は主として民間企業において有効に機能すると言うことができ、使用者等としての国及び地方公共団体の公共機関に認められた通常実施権は実際上有効に働く余地は少ないと見られる。
  職務発明の概念は二つの実質的要件から成り立つており、その第1は使用者等の“業務範囲”に属する発明であること、第2は発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の“職務”に属する発明であることである。まず、“業務範囲”の解釈については、使用者等が国・地方公共団体の場合にはどの範囲までを指すのか極めて不明確であり、特に大学など学術研究機関の場合にはどこまでを業務範囲に含めて解すべきか大いに議論の分かれるところである。学校教育法上、大学の目的は「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる。」(同法第52条)ことと定められている。しかし、この規定ではあらゆる領域に関する“教授研究”が包含されており、職務発明の範囲を明らかにするための要件としての業務範囲と見るには広義過ぎると言えよう。更に、この“教授研究”の中に大学教員の発明までが当然に含まれていると解することは疑問であると言えよう。
  仮に、大学など学術研究機関の業務範囲を極めて広く解するにしても第2の要件である“職務”について見ると、なお一層、発明行為を教員の当然の職務と解することは問題であろう。すなわち、大学の教員は、「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」(同法第58条)ものとされている。大学においては、教育と研究は密接不可分であり、教育が研究を基礎として展開され、研究は学生の教授、研究指導と深い関連をもつて行われる。また、前記(1)に述べたように、研究自体の在り方を切り離して考察しても研究テーマ・研究方法の選択は研究者の自主性にゆだねられており、指揮命令による職務内容の決定方式とは大いに異なるところである。
  これらの諸事情を総合的に判断するとき、大学教員の研究がたまたま発明につながるとしても、それは教員の本来の職務遂行上当然に予想されたものというより、教員の研究生活を通じて得られた個人的な知的所産ないし英知のひらめきによると言うべきものが多いであろう。
  このように見てくると、職務発明規定の運用に関して大学教員を民間企業あるいは国公立の試験研究機関の研究者と全く同一に適用することにはおのずから限界があるものと考えられる。

(3)大学教員の発明に係る特許権等の帰属の考え方

  大学教員の通常の研究活動の持つ上述の種々の特性にかんがみ、そこから派生する発明に係る権利は、原則として、特別の場合を除き使用者等に帰属させないものとすることが妥当である。
  大学教員の発明についてどこまでを使用者等に帰属すべき職務発明に含ましめるかの判断は、広い視野に立つた政策的観点から行われることが重要である。まず大学の目的は、投下資本に見合う収益をあげることではなく教育及び学術研究の発展を図ることにあるのであり、従つて、大学で生じた発明に係る権利をすべて国等の使用者に帰属せしめることだけが唯一の道ではない。要は、学術研究の発展にとつて、発明をどのように取り扱えば、発明に基づく特許の迅速かつ的確な有効利用を図ることとなり、かつ、研究者の新しいアイデアを生む意欲へとつながるか、更には、より長期的に見て日本の科学技術を開花させる方法となるか、などの観点から最善の道を選択すべきである。この観点から見ると、各大学や国に特許を迅速・的確に取得・管理する能力がないままに教員の発明をすべて国等に帰属させることとすると、結果的に、優秀な発明が特許出願されなかつたり、あるいは外国に逃避したりするおそれがあると言える。そこで、むしろ、教員の発明に係る権利は原則として個人に帰属せしめ、その発明の早期の実施化を図り、その収益をもつて研究を更に発展せしめる道を開く方が合目的的であると言える。
  しかしながら、既に述べたように、大学教員の研究活動の中には研究目標が明確に設定された特定の研究テーマにのつとり、かつ、特別の研究費、研究設備が投入されて実施される特別の研究活動がある。これらの研究のうち明白に応用開発を目的とする研究については、当初から職務として発明が予定されていたと解することができよう。その結果としての発明は、使用者等に帰属すべき職務発明として取り扱うべきものである。すなわち、国立大学の教員にあつては特許に関する権利は国に帰属し、公・私立大学にあつてはそれぞれ大学の設置者の所有に帰属することとなる。
  文部省の科学研究費補助金を受けて国立大学の教員が行つた研究に係る場合については、上記の基本的考え方にのつとつて取り扱うこととし、上記の職務発明に相当すると認められるときは、特許に関する権利は国有とすることが適当であろう。公私立大学の教員にあつてはこれに相当する発明に関し、国は通常実施権を留保する等の補助条件を定めることが妥当であろう。
  従業者等(大学教員)の発明について、使用者等に帰属すべき職務発明として取り扱うには、契約、勤務規則その他を定めて行うことが、法律上予定されている。そこで、大学教員に関しても、各大学において職務発明に関する学内規程が整備されることが必要である。これとともに、諸外国の例でも見られるように、研究の契約に際して権利の帰属を明確に規定する慣行が確立されることが望ましい。
  以上は、使用者等に帰属すべき職務発明の場合の取扱いであるが、大学教員の場合には、発明者の自由意思により自らの発明に係る特許に関する権利を使用者等へ譲渡するケースがしばしば見られる。これは、発明者が、特許に関する権利を個人有にとどめるよりも公共的に利用することを希望することを反映している。そのため、これら譲渡による国、地方公共団体、学校法人等への特許の帰属のための方途を、使用者等に帰属すべき職務発明の活用のシステムに準じて整備していく必要がある。
  次に、大学教員の発明が受託研究又は共同研究で行われた場合の特許に関する権利の帰属の問題がある。共同研究の場合には、発明への寄与の度合いに応じて共同研究者間で持分を定めて共有することが望ましい。大学教員の研究が使用者等に帰属すべき職務発明に該当する場合で、民間企業の研究者との共同研究が行われた場合、特許権は、研究者間で合意した持分に応じて双方の使用者の共有となる。受託研究の場合には、研究費の出所、研究の内容、受託研究者の寄与を勘案して個別、具体的に定められるべきであるが、受託契約を締結する際に、上記の考え方を基準としつつ権利の帰属関係を明確に定めておくことが望ましい。国、地方公共団体の場合、民間企業との共有の取扱いの方式及び実施権設定をより容易にすることが必要である。
  国際的な共同研究の場合は、権利の帰属関係に関してより難しい問題が生ずる。国によつて特許に至る発明の技術的段階が異なる点からも問題は複雑となる。しかし、多くは研究契約の際に特許権の取扱いについて種々の取決めが行われているようである。
  我が国としては、国際共同研究を通じ日本の研究者が広く国際的に活躍し発明等により知的貢献を行うことは極めて望ましいとの観点に立ちつつ、特許等の工業所有権の取扱いについては、将来の課題としてその対処方法を検討しておく必要がある。

5 大学教員等の特許等の取扱いのシステム

  大学教員の特許の取扱いについては、上記した学術研究による発明の特質を踏まえ、及び大学教員の特許に関する基本的考え方にのつとり、最も有効・適切な管理・活用のシステムを構想する必要がある。その際には、特許権の保護と有効利用の観点に立つと同時に、発明に連なる幅広い学術研究の育成の観点から考慮することが肝要である。より具体的には、特許権の取得手続が容易、かつ、迅速であること、特許権の有効な活用が図られること、研究者の研究意欲を助長する方向であること、特許権の取得が研究費の充実に結び付くものであること、特に国立大学では国有財産としての運用の適正が期されること等の要請にこたえることが必要である。このためには、発明の発生から特許権の実施及びその成果の配分に至る一連の過程を一貫したシステムとして整備を図る必要がある。

(1)特許の管理・活用システムの在り方

  発明の発生、使用者等に帰属すべき職務発明の認定、特許出願手続、特許の実施及びその成果の配分等の一連の過程について、最も有効なシステムを形成するためには、大学での事務処理体制の限界を踏まえ、大学部内で処理することが適当なものと全国的な立場で処理すべきものとの機能分担を明らかにし、かつ、それらが総合的なネツトワークとして働くシステムであることを要する。

1.大学内のシステム

  まず、それぞれの大学において、教員の発明が使用者等に帰属すべき職務発明に該当するかどうか、任意譲渡の発明を国等の設置者が受けるべきかどうか等の判断を行う必要がある。そのためには発明の取扱いに関する学内規程を設けることを要する。学内規程は、各大学で設けるべきことであるが、各大学において区々とならないように、文部省において、全国的、統一的な基準(別添基準案参照)を明示し、各大学においてはこの基準を参酌しつつ学内規程を整備する必要がある。
  次に、具体的な判断を行うための組織としては、大学の規模、専門分野の特質、研究所の有無等の違いに応じて、大学・学部・研究所ごとに、あるいは規模の小さい大学については複数の大学の連合により、例えば発明委員会のような組織を設け、そこで判断を行うことが望ましい。
  また、発明を学術研究の成果の一環として位置付け、社会的な活用を図るためには、これらの内部組織を充実するとともに、教員の発明に係る研究業績が何らかの形で大学外へ出るときは、一応すべて届け出ることとし、届出のあつたものについて審査を行い、特許等の権利に結び付け、あるいは、研究成果の情報収集に役立てる等の方途が望ましい。同時に、学内の情報を収集し、委員会を運営し、及び特許の中枢システムと連携をとるための学内の事務体制の整備が必要である。

2.中枢システム

  使用者等に帰属すべき職務発明に該当すると判断された発明については、特許の申請手続及び特許権の管理・実施等に関する業務は、大学の外に設けられた専門の組織において集中的に処理するのが適当である。組織としては、特殊法人、財団等が考えられるが、その経営基盤の安定、事務処理体制の充実等の観点から、ある程度全国的な規模のものが望ましい。この業務を学術振興の角度から取り扱うためには、学術の振興に関する事業を行うことを目的として設立された特殊法人日本学術振興会が中枢システムの機能を果たすことが適当であると考えられる。中枢システムにおいて手続を行つた特許の実用化の促進あるいは実施の業務に関しては、例えば新技術開発事業団等既存の技術開発関連の組織と密接に連携し分担することが望ましい。
  中枢システムの役割としては、単に特許取得手続のみならず、例えば、大学関係、諸外国等の特許やノーハウに関する広義の研究情報の整理に関する事務及び特許権の管理・実施に関する事務等を行うことが望まれる。そのためには、各分野の専門スタツフ及び特許の専門スタツフをそろえ、あるいは少なくとも弁理士等の専門家の協力を得る組織上、財政上の整備を要する。中枢システムは、国有特許については取得手続ほか管理に要する費用は国の費用で充てるとともに、将来、国立大学教員の個人有の特許及び公私立大学教員の特許については、それぞれ特許権の所有者の費用負担の下にサービスを行うことが適当であろう。
  なお、各大学・研究所ごとに設けられ、特許に関する適切な運用がなされると認められる財団等の組織については、中枢システムと並行し、相互に補完し合いながら、適切に運用されることが望ましい。

(2)研究者、研究組織への研究費還元システムの在り方

  特許の実施料は国有特許の場合には国に帰属し、その一部が発明者に対する補償金として還元され、個人有のものについては当該個人に帰属することとなる。その意味で、現在の国有特許に係る補償金の限度額は再検討を要しよう。これとともに、大学教員の場合には、採るべき必要な方策のポイントは研究費への還元の問題にある。すなわち、大学教員の特許取得の第一義的目的は、プライオリテイの確保にあり、個人的な経済的利益への還元はそれほど強くはない。そこで、大学教員の場合には、アメリカの大学や東北大学などで既に行われているように、特許の実施による収入の相当部分を当該教員の研究費として還元し、更に進んだ研究を行うために用いるみちを開くことが強く要望されている。研究費への還元により、大学教員の発明が一層促進され、幅広い波及効果を持つことは、将来の我が国にとつて最も望ましいものとなろう。
  このため、国有特許の場合、実施料の一部を当該教員又はその所属する研究組織への研究奨励金として還元することが必要である。

  なお、実用新案の取扱いについては、上記の特許の場合に準じて行うことが適当である。
  更に、これまで大学教員に係る工業所有権の帰属について検討してきたが、大学等の学術研究機関において研究活動に従事する技術職員等の職員についても、同様の取扱いをすることが適当であろう。

  なお、以上で述べた基本的考え方に基づき、各大学における特許取扱いのシステムを含め、国として採るべき特許等の取扱い方針について取りまとめたのが、別添の「大学教員等の発明に係る特許等の取扱いに関する基準案」である。

別添

  (略)

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)