注)平成13年度21世紀型産学連携手法の構築に係るモデル事業「産学連携に伴う利益相反への対応のためのガイドラインの作成 -資料編-」(平成14年3月)より引用。
研究大学は金銭的な利益相反を懸念している。なぜなら、金銭的な利益相反は、大学の公正性※3と、その公正性に対する国民の信頼の根幹を揺さぶるものだからである。本委員会は、そのような利益相反から大学を保護するためには、次のような価値基準を充たすことが重要であると考えている。
大学で開発した知識を民間部門に伝えることは、研究成果が社会に利益をもたらすことにより、連邦政府から助成を受けている研究の目的の一つを実現することである。この重要な技術移転により、産学関係がますます緊密になっている。このことは利益ももたらすが、次に述べる二つの点から、学問研究が損なわれるリスクも増大させる。
1)個人レベルの金銭的利益相反:これは、研究を実施し、または成果を公表する場合に、金銭的な要因で研究者の職業上の判断力が損なわれる、または損なわれたように見える状況を指している。このような利益相反が生み出すと考えられるバイアスはデータの収集や分析、解釈のみならず、スタッフの採用や、資料の入手、結果の共有プ ロトコールの選択、臨床研究における被験者の選択、統計法の使用にも影響を及ぼす 可能性がある。
2)大学レベルの金銭的利益相反:これは、当該大学、その上級役員や理事、学科、学部その他のサブユニット、または提携機関や団体が、大学の研究プロジェクトに金銭的な利害関係を有する企業と外的関係または金銭的な利害関係を有する場合に起こる可能性がある※4。大学の上級役員や理事がその大学と商取引の多い団体の役員を務めている(またはその他の公的関係を有している)場合も利益相反が生じる可能性がある。このような利益相反の存在(またはそのような外見)は、大学の研究の審査や遂行において、現実のバイアスや、バイアスの可能性に対する疑いを生む場合がある。このような利益相反を評価または管理しなければ、大学の使命、義務または価値基準と一致しない選択や行動につながる可能性がある。
本委員会は、特定の利益相反そのものが問題であることは稀であり、問題はむしろ利益相反のための対策にあると結論した。ほとんどの場合、利益相反が明らかにされないか、評価または管理されない場合に問題が発生している。被験者を用いる臨床研究の場合を除き、大学にとっての問題としては、上記の二種類の利益相反を開示、評価および管理する強力な制度をつくることが大きな部分を占めている。個人レベルの利益相反の場合は、既存の管理制度と規制遵守を改善することが中心となるのに対し、大学レベルの利益相反の場合は、この分野を規定する法制がないため、方針および原理原則を定めることが中心となる。
本委員会は、個人レベルの利益相反の管理に関するガイドラインを作成した。これはやむを得ない場合を除き、被験者を用いる臨床研究と結びついた金銭的利益を原則的に認めないという、開示・審査手続の一般的アプローチと、被験者の保護制度との相互関係とを中心とするものである。このガイドラインのほか、有望な管理法をまとめ、大学の上級職員が制度の設計および機能を評価するために利用することができる質問のチェックリストを作成した。
本委員会は、大学における大学レベルの金銭的利益相反に関する手続(所有財産に関連する利益相反および上級職員が関与する利益相反のいずれも)は次の三つのアプローチに従うべきであると結論した。
主要な目標は、金銭的活動と研究活動を別個独立に管理することができるように、これらの活動に関する意思決定を分離することである。
大学レベルの利益相反について過去に作成された方針がほとんどなく、今回の作業がこの分野における手続の作成および制度化の第一歩にすぎない。大学コミュニティ内での今後の評価を通じ、および国内研究機関として我々のパートナーである連邦機関との対話を通して、本稿に述べる指針および業務が継続的に洗練・強化されることを本委員会は希望する。
大学は機関として適切な方針、手続およびインセンティブを提供することにより、研究、教育および公共サービスが責任をもって行われる風土を維持すべきであり、そうすることにより、開放的で公正な雰囲気を醸成すべきである。
研究大学と、連邦政府を含むその主要な研究助成者とのパートナーシップは、大学は大学が行う研究に関して説明責任があるという信念に基づいたものでなければならない。研究大学が個人および大学レベルの利益相反についての説明責任を全うする能力を証明することができない場合は、おそらく行政府または立法府、またはその両方がより指令的なアプローチをとるであろう。
従って、本委員会は大学に対し、利益相反に関する大学の方針および管理法を、セクション2の個人レベルの利益相反に関する運営ガイドラインと、セクション3に述べる大学レベルの利益相反の管理に関する三つのアプローチを用いて審査し、必要な場合は強化することを早急に考慮することを強く勧める。この作業は、研究大学の公正性を維持し、研究大学が奉仕する国民の信頼を維持することを確保する一助となるであろう。
全米大学協会(Association of American Universities、 AAU)は、大学で行われている研究が最高水準の倫理および公正性※5を満たし、国民の健康を増進させることを確保することが大学コミュニティのリーダーにとって最重要の課題であると考えている。このため、AAUは2000年3月に研究の説明責任に関する特別専門委員会を設置した。
本委員会の最初の課題は、臨床研究に参加する被験者の保護に関する大学の研究管理上の問題を評価することであった。この調査は2000年6月に発表された『研究の被験者に対する大学の保護に関する報告』にまとめられた。本委員会の第二の課題は、産業界と研究大学の協力関係の拡大から生じる問題、特に個人および大学レベルの金銭的な利益の相反を検討することである。本委員会は、これら両方の課題について、大学の研究に関する適切な説明責任を定め、また、規制遵守を監視するための勧告を作成した。
以下のセクションで述べる個人および大学レベルの利益相反の実用的な定義を作成したところ、本委員会には二つの非常に異なる課題があることが明らかになった。個人レベルの利益相反が生じ得る場合に、研究の客観性を達成するという大学の義務を達成するためには、既存の管理制度と規制遵守を改善すればよいのに対し、大学レベルの利益相反が生じ得る場合は、この問題を規定する一般的なアプローチや法制がないことから、研究の客観性を達成するためには方針や原理原則を定めなければならない。
個人レベルの利益相反の検討を始めた当初、本委員会は有望な管理法のリストを作成すれば大学による研究の客観性の確保を促し、アプローチに関する大学ごとのばらつきを少なくできると判断した。そこで本委員会は、大学がそれまでに作成した運営指針を調査し、運営の一般的アプローチが一致するかどうかを検討するため、2001年1月に個人レベルの利益相反の実情に関するワークショップを開催した。このワークショップの資料に基づいて、セクション2で述べる運営ガイドラインと有望な管理法のリストを作成した。
本委員会は、大学レベルの利益相反に対処する指針の作成には別のワークショップが必要であると判断し、2001年6月に、この目的のため現在および過去のAAU会員大学の学長や総長の会議を招集した。このワークショップの資料がセクション3の資料の基礎となった。
本委員会は当初、学長や総長が各大学で各種管理制度の適切さの評価を学内で依頼するに際して、質問表が役立つと考え、個人レベルの利益相反の管理に関する大学の管理者向けの質問表を作成した。同質問集は末尾に補遺として収載した。
本委員会が到達した一つの結論は、要するに、特定の利益相反そのものが問題であることは稀であり、問題はむしろ利益相反への対策だということである。ほとんどの場合、利益相反が明らかにされないか、評価または管理されない場合に問題が発生している。被験者を用いる臨床研究の場合を除き、利益相反を開示、評価および管理する強力な制度をつくることが大学にとって主要な課題になっている。
本報告書では、1990年に米国医科大学協会(Association of American Medical Colleges, AAMC)が作成した定義に基づく個人レベルの利益相反の定義を採用した。
学問における個人レベルの金銭的利益相反という用語は、研究を実施し、成果を公表する活動で、金銭的な要因で研究者の職業上の判断力が損なわれる、または損なわれたように見える状況を指す。このような利益相反が生み出すと考えられるバイアスは、データの収集や分析、解釈のみならず、スタッフの採用や、資料の入手、結果の共有、プロトコールの選択、臨床研究における被験者の選択、統計法の使用にも影響を及ぼす可能性がある。
この一般的定義に基づき、本委員会はさらに分析範囲を次に掲げるとおりに設定した。
近年、個人レベルの利益相反に関する大学の責任遂行状況に疑問を提起する学術雑誌やニュース記事、政府の発表や報告書が非常に多い。この個人レベルの利益相反については、1995年に二つの主要連邦機関が公布した規則で明確に述べられているとおりである。本委員会は、入手可能な情報を調査した結果、利益相反の発生状況に関する明確なデータは不足しているが、産学連携は明らかに拡大しつつあり、それに伴って、大学で行われる研究の公正性を損なう利益相反が起きるリスクも増え続けていると結論した。学術雑誌で、金銭的な利益相反に関する方針の厳格さは機関によってかなり程度差があり、施策遂行面の努力についても同様であることが明らかにされている。
本委員会は、個人レベルの利益相反が学術研究の公正性に及ぼすリスクが大きいことから、研究大学は研究の客観性を確保するためになお一層の努力を払うべきであると結論した。大学がこのように利益相反の管理に一層の努力を払えば、個人レベルの金銭的利益相反に適用される連邦規則の遵守状況を改善することにもなると考えられる。
大学が利益相反の管理に一層の努力を払い、このようなプロセスの可視性と透明度を高めることは、国民が目にする日進月歩の研究成果がいかに公正に生み出されたものであるかについて、国民の納得を得るうえで役に立つ。本委員会は、管理ガイドラインと有望な管理法の策定が、大学による利益相反管理手続の改善に役立つであろうと結論した。
知識の開発と技術移転のプロセスは、これまで大きな成功を収めてきた。このことは、個々の研究者や大学レベルのみならず、臨床試験の場合は患者やその家族にとっても、また、産業界や社会全体にとっても重要である。研究成果が社会に利益をもたらすことで、連邦政府から助成を受けている研究の目的の一つが達成されるからである。この技術移転という重要な活動に伴い、産学の関係がますます緊密になっているため、研究の公正性を保護し、被験者を用いる臨床研究の場合は被験者をも保護する強力な利益相反に関する手続の必要性が増大している。研究大学が自主的な知識の追求者としての立場を維持するためには、最高の倫理水準に従って研究の遂行を続けなければならない。利益相反※7の確認および管理に対するアプローチを変更する際には、学問上の発見の進行過程を不当に妨げないように注意すべきであると同時に、研究の公正性と治験における被験者の利益が十分に保護されることを確保するようにすべきである。
全米科学財団(NSF)および米国公衆衛生局(PHS)が定めた1995年の要求により、連邦の助成を受けた研究者は、客観的に見てPHSまたはNSFの助成を受けた研究に影響を及ぼすと思われる一定基準以上の金銭的利益を所属機関に開示することが義務づけられている。開示を受けた機関は、利益相反の有無を調査しなければならず、利益相反がある場合は、それを管理、軽減または除去する方法を決定しなければならない。1998年、食品医薬品局(FDA)は、新薬申請書を提出する会社に対し、研究結果が研究者の報酬に影響を及ぼすような金銭的な取決めが研究者との間で行われていないことを証明することを義務づけ、また、関係する全研究者に対し、金銭的な取決めおよびバイアスが生じる可能性を最少限に抑えるための対策をFDAに開示することを義務づける規則を定めた。
上記のNSFとPHSの新制度が定められてからの6年間に、産業界と研究者の相互関係は増大し続けており、各機関が独自の運営指針および手続を作成した結果、実務と方針にかなりのばらつきが生まれている。この6年間の経験を踏まえて、大学から次のような疑問が提起されている。
ワークショップでは、共通の運営方法として合意が得られるアプローチを特定する作業を行なうとともに、各大学で個々の金銭的な利益相反の管理に有益であることが認められた有望な方法を確認することを目指した。多くの場合、現行の規制要件を一歩進めたレベルで合意が得られた。ここで確認された事項のリストを基に、次項の「運営ガイドライン」およびそれに続く「有望な管理法」のリストを作成した。
「運営ガイドライン」は規範的陳述(normative statement)形式で書かれ、大学における利益相反の管理には一定の限界があるべきことを示している。このことは、研究大学のコミュニティが共通の管理法を確認し、その一部をコミュニティ全体として採用すべきであるというAAUワークショップで表明された多数意見と一致している。また、「運営ガイドライン」は全ての利益相反を通常の事例ごとの審査により管理することができるわけではなく、特別な調査が必要な場合や、禁止が妥当な場合もあることを示そうとするものでもある。
これに対し、「有望な管理法」は大学コミュニティ内の情報共有の精神から提供するものである。各大学が自身の利益相反の管理制度を改善する際に参考にしてほしい。
機関は年1回の情報開示により潜在的な利益相反を確認する適当な手続を有するべきであり、かかる情報開示の厳格かつ一貫した審査を確保すべきである。このような手続は、関係職員(臨床試験の場合は被験者も)に利益相反を知らせる方法および利益相反の管理法を示すものでなければならない。大学は利益相反に関する決定を十分に文書化し、その遂行をモニタリングすべきである。大学は学生や被験者を含む研究関係者の全てが方針、手続、定義および不遵守に対する制裁を十分に理解させなければならない。最後に、大学はさまざまな関係部署(研究助成課、治験審査委員会、技術移転機関、研究政策決定機関、管轄学部/学科長など)による利益相反の管理に関する問題を大学内で調整する体制を確保すべきである。
大学内の金銭的な関係の複雑さに鑑みると、利益相反の状況を処理する最善の方法は、事例ごとの審査により、研究者の金銭的利益が大学での研究と結びついて利益相反を構成するかどうかを調査し、利益相反を構成する場合はその利益相反をどのように管理するかを決定することである場合が多い。個人レベルの金銭的利益は研究における利益相反ではない場合が多く、利益相反である場合でも、研究結果や被験者の治療に影響を及ぼすような利益相反とならないよう管理することができる場合が多い。しかし、大学と研究者は、研究の公正性を維持し、または被験者を保護するために、特定の研究を行ってはならないと決定する場合もある。この場合、大学または研究者は、プロトコールの変更、金銭的利益の剥奪、または研究の中止を決定することができる。
被験者を用いる臨床研究では、それ以外の研究にはないリスクが生じるため、被験者を用いる研究に結びついた金銭的利益は原則として認めるべきではない。やむを得ない事情によりこの原則の例外を認める場合は、研究の公正性と被験者の安全を確保するため、一層厳格な方法(被験者および学生への情報開示など)で研究を管理すべきである。また、損害を与えず、何よりも被験者の福祉を保護するため、医師と被験者の関係およびこれに伴う特別な要求に配慮することも重要である。
大学レベルの全ての研究プロジェクトについて、助成金を連邦政府から受けているか、連邦政府以外の法主体(non-federal entity)から受けているか、機関自身から受けているかにかかわらず、利益相反について同一の手続で管理し、同様に取り扱うべきである。
研究に従事する者は、大学での研究に関連する全ての金銭的利益を年1回開示し、新たな金銭的な状況が利益相反となるおそれがある場合および研究助成金申請書を提出する場合には最新情報を提供すべきである。開示は、PHSおよびNSF規則を遵守し、大学が指定した役職者に対して行うべきである。
研究に従事する者(「者」については上記の定義参照)が公表論文の原稿を提出する場合は、当該研究に関連する全ての金銭的利益を開示すべきである。医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)が採択した利益相反の開示に関する方針に合わせて、公表論文に情報を公表して、国民が関連情報を知ることができるようにすべきである。
研究に従事する者が研究結果を発表する場合は、報告する研究に関連する全ての金銭的利益を聴衆に開示すべきである。
1995年7月11日の連邦官報で発表された連邦規則および政策は、PHSの助成金を利用する大学に対し、大学が明らかにした利益相反の存在を保健・福祉省(HHS)に報告し、助成金を使う前にその利益相反を管理、軽減または除去したことをHHSに対して保証することを義務づけている。これに対し、NSFの助成金を利用する機関は、利益相反を十分に管理することができないと当該機関が考える場合のみに報告を行わなければならない。大学はこれらの義務を遵守しなければならない。開示義務の省庁間の整合性が増すことによって、遵守状況の改善に役立つ可能性がある。※8
利益相反に関する手続と被験者の保護制度は、いずれも利益相反に関する次のような役割を担っている。
- 大学の治験審査委員会(Institutional Review Board、IRB)は、関連する金銭的利益(および該当する場合はその管理法)を研究の被験者に開示すべきかどうかを決定し、開示すべき場合には、どのような形式でどこまで詳細に開示すべきかを決定する管轄権を有する。大学の被験者保護制度は、被験者がそのような情報の提供を受けることを確保する責任を負う。
- PHSとNSFの利益相反に関する規則および政策は、管理、軽減または除去を要する利益相反が個人にあるかどうかを判定する権限を、大学の利益相反に関する手続に責任を負う学内役職者(institutional officials)に付与している。しかし、17の連邦機関で被験者保護に適用されるコモン・ルールは、被験者を用いる研究を承認する権限をIRBに付与しており、利益相反には触れていない(IRBの委員の利益相反を除く)。大学におけるこの二つの手続は、いずれも臨床試験に関して、研究における金銭的な利益相反があるかどうかを判定し、ならびに提案された救済手段が研究の公正性と被験者を保護するために十分であるかどうかを判定するうえで重要かつ正当な役割を有する。
上記の手続を統合する一つの効果的な方法は、利益相反委員会または担当職員が、被験者のプロトコールに関する金銭的利益の開示を、プロトコールがIRBに提出される前に審査するよう努めることである(どのようなタイミングとなるにしろ、意図するところは利益相反がインフォームド・コンセントに影響を及ぼす前に利益相反の審査を行おうとするものである)。そうすれば、利益相反委員会または担当職員は、利益相反の有無を判定することができ、利益相反がある場合は、その利益相反が管理すべきもの(このような利益相反は原則として認められるべきではないとする前述のガイドライン参照)または管理できるものであるならば、最善の管理法を決定することができる。その結果、プロトコールがIRBに提出される際に、この決定および金銭的利益に関する情報の概要をプロトコールに添付することができる。また、IRBは当該プロトコールを承認するかどうか、およびどのような条件で承認するかを決定する際に、この情報を考慮に入れることができると考えられる。
大学は、管理を要する金銭的な利益相反の有無や、利益相反委員会または担当職員が遂行する管理計画を一層厳格化すべきであるかどうかもIRBが判定することができるような制度の設計を検討すべきである。そのような制度では、IRBも利益相反委員会も他方の管理要件を無効にすると管理要件を緩める結果となる場合は、いずれの機関も互いの管理要件を無効にすることができないこととなろう。また、金銭的な利益相反が除去または軽減されない限り、いずれの機関も研究の進行を阻止することができることとなろう。このような二重保護システムは、臨床試験に適用される二系統の連邦規則と一致し、被験者を用いる研究に必要な一層の安全性を提供するであろう。大学の利益相反と被験者保護制度をどのように設計する場合でも、この二つの制度の調整とコミュニケーションは重視すべきである。
大学は、適用される利益相反に関する法令の要件を充足し、最高の倫理水準および専門的水準を満たすために必要な資金を提供すべきである。研究の依頼者も利益相反に関する制度の費用の一部を公正な割合で負担すべきである。管理費用の回収に上限を設けると、実際の費用の償還が制限される場合があり得る。このため、直接的または間接的に費用を回収する別の方法を開発すべきである。
本委員会は、上記の運営ガイドラインのほか、個人レベルの金銭的利益相反の管理の成功例があることを認めた。利益相反に関する手続とIRBの手続は大学によりまちまちである場合が少なくない。本委員会としては、管理法の一部を示すこのリストを全大学が採用すべきであると勧告することではなく、研究大学コミュニティーでこの管理法のリストを共有および討論すべきであることを勧告したい。
前述のようなガイドラインの共有および採用ならびに有望な管理法の確認により、利益相反の管理が改善され、大学によるアプローチの共通性が増し、大学の利益相反に関する手続の透明性(国民の信頼につながる)も向上すると期待される。中でも、これらの活動によって大学コミュニティーが利益相反※12を減少させ、かかる利益相反に伴う研究機関の公正性に対する脅威と、臨床研究の被験者の福祉に対する脅威が軽減されことを本委員会は願っている。
治験の被験者については、人命に関わる問題であることから、運営ガイドラインでは、被験者を用いる研究における金銭的関係には一層高い基準を適用するのがふさわしく、利益相反に関する制度と被験者保護制度を調和させる必要があると定めている。本委員会は、AAMCがこの問題に関する委員会を召集したことを知っており、そのAAMCの委員会が上記の一層高い基準を実現するために必要な運営細則をある程度付け加えるであろうという理解のもとに、本委員会のガイドラインでは、この分野に関する記述を一般的なものにとどめた。
前述のガイドラインおよび管理法の一部が現行連邦規則の範囲を超えていることに注目してほしい。例えば、あらゆるロイヤルティに関する情報を開示すること、被験者を用いる研究に関連する金銭的利益を原則として認めないこと、連邦政府の助成を受けていない研究についても開示すること、現行の規制基準値は5%の株式所有または1万ドルであるにもかかわらず、株式に関する全ての利害関係を開示させることなどである。本委員会は、大学が運営ガイドラインと有望な管理法を慎重に審査・検討し、できるだけ多くの事項を採用することを奨励する。連邦規則を変更する必要があるかどうかは、各大学がどの程度積極的かつ足並みをそろえて個人レベルの利益相反の管理に関する方針と実施を強化するための措置を自発的にとるかによる。
研究大学は大学レベルの金銭的利益相反も懸念している。その理由は、大学レベルの金銭的利益相反は、大学の公正性と、その公正性に対する国民の信頼の根幹を揺さぶるものだからである。本セクションでは、大学レベルの金銭的利益相反を定義し、かかる利益相反のうち特に問題となるタイプについて検討し、そのような利益相反から大学を守るために必要な価値基準を概観し、そのうえで大学レベルの利益相反の評価・管理法をいくつか提案する。
いくつかの定義があるが、本稿で用いたアプローチは次のとおりである。
大学レベルの金銭的利益相反は、当該大学、その上級役員や理事、学科、学部その他の組織、または提携機関や団体が、大学の研究プロジェクトに金銭的な利害関係を有する企業と外的関係または金銭的な利害関係を有する場合に起こる可能性がある※13。大学の上級役員や理事がその大学と商取引の多い団体の役員を務めている(またはその他の公的関係を有している)場合も利益相反が生じる可能性がある。このような利益相反の存在(またはそのような外見)は、大学の研究の審査や遂行において、現実のバイアスや、バイアスの可能性に対する疑いを生む場合がある。このような利益相反を評価または管理しなければ、大学の使命、責務または価値基準と一致しない選択や行動につながる可能性がある。
大学レベルの金銭的利益相反は大学内のさまざまな場面で起こるが、一般に、分野や場面にかかわらず、大学の使命を損なう可能性が高い場合に大学(および国民)に影響を及ぼす。このような利益相反の主要なカテゴリーは次の二つである。
研究大学が金銭的な利益相反に対処することに関心を寄せる理由は、大学の使命との関連で本質的に正しいからであるが、それと同時に、そのような利益相反に対処しなければ国民からの信頼が損なわれる可能性があるからである。大学レベルの利益相反は、国民から預託されて、客観的に知識を追求することを許されている大学の役割を低下させる可能性がある。また、連邦機関や議会がこの分野の規制に関心を表明しており、研究大学コミュニティーは、関心の高まりに自ら対処しなければ、外部から介入されるであろうことを認識している。
大学が大学レベルの利益相反による害から保護したいと願う重要な価値基準とは何であろうか。それには少なくとも次に掲げるものが含まれている。
なぜ現在この問題に対処する必要があるのだろうか。個人レベルの利益相反に関するセクションで述べたように、大学はその研究、教育およびコミュニティーサービスの使命を果たそうとする際に産業界と協力する機会が増えており、地域の「経済的エンジン」とみなされる場面が増えている。このような協力の増加のせいで、大学は前述の大学レベルの金銭的利益相反の二つの主要カテゴリーに対処する制度を設置しなければならない。
本委員会は、大学における大学レベルの金銭的利益相反に関する手続(所有財産に関連する利益相反および上級職員が関与する利益相反のいずれも)は次の三つのアプローチに従うべきであると結論した。
大学レベルの利益相反のうち、大学レベルの所有財産に関連する部分については、金銭的活動と研究活動を別個独立に管理することができるように、これらの活動に関する意思決定を分離することが主要な目標である。高い水準でこの分離を達成することが要点である。
大学が上記のアプローチを実行するためには、大学レベルの利益相反に関する現在の方針と管理構造を見直し、次に掲げる措置を講じることを積極的に検討すべきである。
大学は、大学レベルの利益相反に対処する基準やガイドラインなどの明確な公開の方針を有するべきである。このような方針は、前述の三つのアプローチにより提起される無数の疑問(誰が何を誰に開示するのか。誰が何を管理するのか。誰がどの行為を禁止することができるのか。理事はどのように規制範囲に含められるのか。このような方針と既存の基本財産に関する方針との関係はどのようなものか、など)に対する解答を確実に出せるものでなければならない。この方針策定には、大学と会社が共同研究関係を継続する意思があるときに、大学が会社の株式を取得する場合など、管理するのではなく回避すべき取決めを定めることが含まれる。理事会は、このような方針が、状況変化に的確に対応できているかどうかを確認するため、定期的にこれらの方針を見直すべきである。
大学は、1.で確立した方針を遂行するため、大学レベルの金銭的利益相反を評価・管理するための明確な手続を設けるべきである。手続には、遵守を確保するためのチェックポイントおよび制度監査、ならびに上級管理職への報告などが含まれるべきである。
相反の事例に対する対策の優先順位の決定を行い、潜在的な利益相反の対処法に関する勧告を行うため、法務顧問、教員およびおそらく市民の参加者を含めた上級職員の混成集団により構成される場合があるであろう。あるいは、大学の理事会の構成員により構成され、理事会内に設置された委員会に報告を行う場合もあるだろう。この場合は、多くの大学の監査機関の運営方法と類似の方法で組織化することもできるであろう。別の選択肢は、上級職員により構成され、学長や総長に報告を行う審査機関を設置することである。さらに別の選択肢は、審査機関に同じような規模や学部構成の大学の職員を含めることである。審査機関が機関について二種類の利益相反を両方とも処理することもできれば、大学の所有財産に関する場合を大学の職員や理事が関与するものとは切り離して処理するために下位機関を設置することもできよう。
管理手続は、審査機関に対し利益相反の開示を、例えば年1回のペースで行う必要がある個人レベルのタイプ、ならびに審査機関に開示し審査を受けることを要する大学の株式やロイヤルティに関する取決めおよび関連する研究活動のタイプを具体的に定めるべきである。
判定の手がかりは、利益相反の除去を要求するのではなく、容認して管理することが妥当であり公共の利益となる場合とはどのような場合かを分析することである。一方では、ある大学で提案された研究活動を行う利益が高く、リスクは低く、かつその利益相反を除去すると(例えば、その研究を行わないことにより)国民に利益を与える可能性も除去されるような場合もある。他方、ある大学で研究を行う学問上の利益が疑わしく、かつリスクが非常に大きいため、産業界との研究関係を拒絶することにより利益相反を回避すべき場合もある。審査機関はこのような評価を行ったうえで、運営手続の構造次第で学長や総長または理事会に対し、対策の勧告を行うべきである。
潜在的な利益相反が措置を要する場合、大学が講じることのできる措置には無数のタイプがある。大学の投資が研究活動と相反する場合、審査機関が勧告することのできる選択肢には次のようなものがある。
大学はヒトを患者や研究の被験者として取り扱う場合に特別な責任を負う。研究の被験者に対する特別な責任はIRBが負う。しかし、大学レベルの利益相反の審査機関が被験者に関わる潜在的な利益相反に直面した場合は、その潜在的な利益相反の特別な調査が必要になる(個人レベルの利益相反について前述したことと同じ)。なぜなら、大学は研究そのものに対する責任よりも大きな責任を患者や被験者に対して負うからである。さらに、IRBは利益相反の問題に広く対処するために設置される機関ではない。審査機関がこの特別調査を行い、個人レベルの利益相反について前述したところと同じ方法で(セクション2参照)、大学のIRBと情報交換すべきである。
一般に、大学が会社に有する株式の利益の流動性が低いほど、審査機関は潜在的な利益相反を警戒すべきである。大学が会社に有する非流動資産の価値は、流動資産の場合よりも大学による研究その他の活動による影響をはるかに受けやすい。
大学は機関として適切な方針、手続およびインセンティブを提供することにより、研究、教育および公共サービスが責任をもって行われる風土を維持すべきであり、そうすることにより、オープンで公正な雰囲気を醸成すべきである。大学が、機関としての公正性という大学が最も重視する価値基準を守り続けるためには、責任を持って大学レベルの利益相反に関する有効な手続を確立しなければならない。大学の信頼性は、大学が大学レベルの利益相反を認定・管理するために確立した管理制度の信頼性にも左右される部分がある。
大学が審査機関を用いて、必ず開示を行い、ほとんどの事例を管理し、必要な場合は禁止するための明確な管理の方針・手続を確立する限りにおいて、国民は研究大学の公正性に信頼を寄せるのであり、このことは個々の大学にとっても大学全体にとっても非常に重要である。本委員会は、大学レベルの利益相反について過去に作成された方針が少なく、本委員会による作業がこの分野における手続の作成および制度化の第一歩にすぎないことを認識している。大学コミュニティー内での今後の評価を通じ、および国内研究機関として我々のパートナーである連邦機関との対話を通じ、本稿に述べる指針および業務が継続的に洗練・強化されることを希望する。
個人レベルの利益相反に関する手続が必ずしも満足の行くレベルに行われておらず、大学レベルの利益相反に関する方針が策定されている例がほとんどないことが懸念された。そのような状況を動機に、本委員会は鋭意検討を進めた。また、研究の客観性は大きなリスクに直面しており、迅速な行動を要すると結論した。本委員会は、AAU加盟大学に対し、各大学がそれぞれの制度の妥当性の評価をまだ行っていない場合はそれを直ちに実施するよう勧告する。
本委員会は、本報告書の勧告が公正性を保護する非常に重要な上記の制度の改善のために有益な手引きとなると考えており、各大学が本報告書の提案の採用を積極的に検討することを奨励する。そうすることが、個々の大学にとっても大学コミュニティーにとっても有益であると考える。本委員会が臨床研究の被験者に関する報告書で述べたように、現代の変転きわまりない研究環境では、大学が研究を遂行する場合と同じくらい慎重に、研究の管理を実施することが必要である。このことは利益相反についてもいえる。
最後に、研究大学と、連邦政府を含むその主要な研究助成者とのパートナーシップは、大学は大学が行う研究についての説明責任を有するという信念に基づいたものでなければならない。研究大学が個人および大学レベルの利益相反についての説明責任を全うする能力を証明することができない場合は、おそらく行政府もしくは立法府、またはその両方が、より指令的なアプローチをとると考えられる。
従って、本委員会は大学に対し、利益相反に関する大学の方針および管理法を、セクション2の個人レベルの利益相反に関する運営ガイドラインと、セクション3に述べる大学レベルの利益相反の管理に関する三つのアプローチを用いて審査し、必要な場合は強化することを早急に考慮することを強く推奨する。この作業により、研究大学の公正性が維持され、研究大学の奉仕対象である国民による信頼が維持、確保されよう。
研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室