6.外部連携活動のルール化と「知」の自律

6.外部連携活動のルール化と「知」の自律 ※14

(1)大学等の役割の公共性と運営の自律性

大学等は、教育や研究を通じて広く社会の発展に貢献することを本質的な役割とし、そのために公的資金や税制優遇等によってその運営の基本的な部分を支えられている公共性の高い機関である。一方、企業の本質的な行動原理は私的経済利益の追求であり自助努力を基本とする。産学官連携活動において大学や教職員が企業等から正当な利益(兼業報酬や実施料収入、研究費等)を得る、又は特定の企業等に対し必要な範囲での責務(兼業先での職務遂行責任)を負うことは当然に想定され、また、妥当なことである一方で、このような両者の性格の相違から、教職員が企業との関係で有する利益や責務が大学における教育・研究上の責務と衝突する状況も生じ得る。このような状況が「利益相反」「責務相反」と言われるものである。利益相反・責務相反は教職員や大学の産学官連携に伴い日常的に生じ得る状況であり、法令違反ではなく社会的受容性(大学への社会的信頼)の問題である。したがって、外部連携活動に伴って生じるこうした課題への対応(ルール化)は国による一律の規制にはなじまず、大学等がその自律性を発揮して、多様性の中で適切に対応していく必要がある。
利益相反・責務相反に対する適切な対応を怠ると、大学の社会的信頼が損なわれ、結果として産学官連携の推進が阻害されるおそれがある。米国でも、80年代以降、産学官連携が活性化するにつれて、政府系資金提供機関や大学関係団体が中心になって各大学の取組を促進してきた。我が国では、利益相反に関する議論の蓄積が十分でなく、各大学では対応方針の確立に早急に取り組むべきである。

(2)利益相反・責務相反への対応に関する基本的な考え方

大学の社会的信頼を維持し、産学官連携の健全な推進を図るためには、大学が組織として利益相反・責務相反に対応することが必要である。利益相反・責務相反への対応策を講ずることは、法令違反に至ることを事前に防止する効果もあり、大学の組織としてのリスク管理の一局面とも言える。同時に、教職員個人の責任と利益を大学が適切に分担することにより、意欲ある教職員が安心して産学官連携に取り組み、その能力を十分に発揮できるような環境を整備するためでもあり、個人レベルの「お付き合い型」連携から組織的連携への転換の一つの現れでもある。
特に学生との関係については、学生が産学官連携活動に関与することには多くの利点がある一方、教育の機会や学生の独自性確保、学問の探究など教育面での支障が生じないよう教職員は最大限の配慮をすることが必要である。学生の教育を受ける権利や選択の自由といった観点からも適切な考慮が払われるべきである。
対象者の範囲については、基本的には教員とするが、大学の管理運営や産学官連携に関与するその他の職員(技術移転担当者など)についても同様の問題があり、ポスドクや大学院生についても対象となる可能性がある。
産学官連携を推進する観点からは、不適当な行為を予め列挙して禁止するのではなく、個別事例に応じて適切な対応を図るためのマネジメント・システムを構築することが適当である。その際には社会や大学そして教職員の正当な利益配分を管理しつつ、関連情報を学内で開示することによって透明性を確保し、社会への説明責任を大学が適切に分担することが重要である。特に必要な場合には産学官連携活動を制限するなど一定の対処が必要となるが、具体的な事例毎の判断については、各大学のポリシーに基づいて決定されるべきものである。
各大学における利益相反への取組については、各大学における産学官連携の取組状況や教育・研究に関する基本理念によって異なるものであるため、全国一律のルールを作るのではなく、各大学がそれぞれの個性・特色の一環として、固有の利益相反ポリシーとシステムを整備することが適当である。また、社会への説明責任の観点から、各大学のポリシーは一般に公表すべきである。

(3)個人としての利益相反に対応するための学内システムのあり方

個人が得る金銭的利益に関わる利益相反については特に優先的に対応することが必要であり、各大学において透明性の高い学内体制、社会的な疑義に明確に応えた説明責任を果たしうる体制を整備することが求められる。具体的には、米国の大学の例を踏まえ、1.教職員が企業等から得る一定額以上の金銭的情報の学内開示を義務づけ、2.利益相反アドバイザーによる日常的な相談、3.利益相反委員会による組織としての対応策の決定、4.可能な範囲での情報公開、といったモデルが一つの参考となろう。
学内においては、利益相反アドバイザーの配置や利益相反への対応方策全般の権限と責任を負う利益相反委員会の設置等必要な体制を整備する。また、学外有識者や専門家の意見を適切に反映する仕組みづくり、学内での信頼関係を確立するための関係者への継続的な啓発活動にも積極的に取り組むことが求められる。

(4)責務相反等

責務相反とは、教職員の大学の職務遂行責任と外部活動における業務遂行責任との衝突(兼業の時間配分などの問題)である。各大学では、教職員の大学での職務内容を産学官連携活動との関係で明確に整理するとともに、教職員の兼業活動を許可する場合には、大学の職務に支障が生じないよう就業規則や個別の労働契約で適切に対応することが必要となる。その際、大学の職務遂行責任を産学官連携活動との関係でどこまで弾力的に扱うかについて、各大学の基本理念・ポリシーに従って適切にルール化しなければならない。また、許可制度だけでなく、許可をした後の活動状況について事後的な検証も不可欠である。
なお、国立大学法人については国家公務員倫理法の直接の適用はなくなるが、同法に基づき各国立大学法人が定める倫理規程においては、リエゾン活動やベンチャーへの関与が不当に妨げられないよう配慮が必要である。

(5)大学組織としての利益相

個人としての利益相反とは別に、大学が組織として、あるいは役員等が企業等と有する利害関係が、組織としての意思決定に影響を与え得る場合には、「大学(組織)としての利益相反」が生ずる。具体的には、例えば大学が組織有特許を実施許諾する場合の相手先企業や契約条件の決定において、大学が金銭的利害(株式保有、大型共同研究契約等)を有する企業との関係で、組織としての利益相反が生じ得る。リスク管理の観点から、この課題への対応策についても各大学の取組が期待される。

(6)大学の取組の促進

産学官連携を推進しようとする大学では、利益相反・責務相反を自らの課題として真摯に取り組むことが求められる。まずは、ワーキング・グループの報告書等を参考に、セミナー開催等を通じ教職員の意識啓発、理解向上に努めることが必要となろう。さらに利益相反ポリシーの作成、マネジメント・システムについての具体的な検討や事例集の作成などにも今後取り組んでいくことが求められる。国立大学協会やTLO協議会等の関係団体においては、これらの大学相互間の情報交換に継続的かつ積極的な役割を果たすことが期待される。
政府においては、利益相反・責務相反への取組を公的資金提供の際の判断要素とすること等により、各大学の取組を促進することも有効であろう。
独立行政法人や特殊法人等においても、それぞれの特性に応じたマネジメントを行うことが必要である。

用語説明

※14 本章の内容は、本委員会のもとにおかれた利益相反ワーキング・グループでの議論を踏まえて取りまとめたものである(平成14年11月1日利益相反ワーキング・グループ報告書参照)。

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研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)