5.大学等における知的財産の組織的な管理・活用のあり方

5.大学等における知的財産の組織的な管理・活用のあり方 ※13

(1)知的財産の取扱いに関する基本的考え方

大学にとって、社会貢献は教育・研究に加えての「第三の使命」である。そして、知的財産の取得・育成・管理・活用は大学の社会貢献の一つであり、基本的な役割である。したがって、各教員は大学組織の一員として知的財産の保護・活用に貢献する責務を負うものである。また、研究成果の活用は、学術研究の活性化及び研究資金の獲得の点からも有意義である。
大学の知的財産の帰属については、従来の個人帰属原則のもとでは活用が不十分であったこと、近年の体制整備の進展、さらに国立大学法人化といった事情の変化を考慮し、今後は機関帰属を原則とし、各大学毎のポリシーのもとで組織として一元的に管理・活用を図ることが望ましい。

(2)知的財産等の帰属の見直しと制度の整備

1 特許について

大学における特許等の取扱いについては、昭和52年の学術審議会(当時)答申「大学教員等の発明に係る特許等の取扱いについて」において、学術研究の発展や知的財産の有効利用等の見地から、当時として最善の道として個人帰属の原則が採られており、現在に至っている。しかし、大学の社会貢献への要請の高まりや国民(納税者)の理解を得る必要性、近年の大学における体制整備の進展等に鑑みて「最善の道」を今日の時点で選択するとすれば、職務発明に係る特許権等のうち大学が承継するものの範囲について見直しを行い、機関帰属を原則とすることが適切である。具体的には、「大学から、あるいは公的に支給された研究経費を使用して大学で行った研究又は大学の施設を利用して行った研究の結果生じた発明」を職務発明の最大限ととらえ、その範囲内で各大学が自らのポリシーに基づいて承継する権利を決定することとなる。ただし、承継する権利の範囲の広狭等具体的なあり方については、大学毎の合理的判断に基づく多様性が尊重されるべきである。
具体的に機関帰属(原則)に移行するにあたっては、まず、発表前の発明届出を徹底することが必要不可欠であり、その前提として、教職員の意識の向上や相談体制の充実と、発明の迅速な処理が必要となる。機関帰属(原則)への転換の方法については、学内の発明規則等の改正や個々の教職員との契約により、職務発明について原則大学が承継する旨を定めることが可能である。もっとも、大学が承継した特許等の活用の可能性が十分に見出せない場合には、権利の譲渡・放棄を含め適切に措置するものとする。また、発明規則や契約においては、特許法35条の「相当の対価」を規定することが必要であり、その際には教員に対する補償やインセンティブの観点から、十分な対価の支払いが必要である。その際教員の所属研究室への研究奨励金としての還元といった形態も考え得る。
なお、国立大学の法人化時点で既に決まっている権利の帰属については、無用の混乱を避けるため、特別の事情がない限り、法人化後も変更しないことが適当である。
学生の発明については、教員との共同発明や大学の施設を用いた発明は大学の一元的管理のもとにおくことが望ましい。具体的には、Research Assistant(研究補助者)や研究プロジェクトの非常勤職員として大学と雇用関係がある場合は、職務発明として教員と同様原則大学が権利を承継することとし、雇用関係がない場合には、発明規則等によりこれらの発明について大学への届出を義務づけた上で、大学と学生との移転契約により承継することが考えられる。その際、対価の額や学生がベンチャーを起業する場合の扱いについては、学生側の立場に配慮した上で取り決めることが必要であろう。

2 その他の権利について

実用新案権、意匠権及び種苗法上の育成者権については、それぞれの権利を定める法律において特許法の職務発明規定(第35条)と類似の規定があることから、特許と同様の取扱いによって機関帰属を原則とする。
データベース及びプログラム著作権並びに回路配置利用権については、著作権法等において職務発明規定と類似の規定は存在しないものの、有効活用を図る観点からは大学による組織的な管理・活用が望ましい。具体的には、学外に移転する場合や特許等他の関連する知的財産を大学に届け出る場合には、著作権や回路配置利用権についても併せて大学への届出を義務づけることとし、必要な範囲で個別契約による権利承継を図ることが考えられる。この場合においても、教員への還元を含めて学内規則の整備が必要となる。
研究開発成果としての有体物についても、教員への還元に配慮しつつ、原則大学帰属とし、各大学において学内規程の整備と円滑な運用体制を整備することが求められる。具体的には、学外へ移転しようとする場合や具体的利用価値が認められた場合において大学への届出を必要とし、その後は組織的管理のもとにおくことが適当である。学外への移転に際しては、利用目的が研究開発目的か産業利用目的かに応じて、契約に基づく適切な取扱いが必要である。有体物の提供を受けた者がそれを利用して新たな知的財産権を創出した場合にいかなる取扱いをするかという問題や、大学自身が学術研究の遂行のために外部から受け入れる場合の取扱いについても配慮が必要である。
技術情報やノウハウ等についても、不正競争防止法等の改正の動向も踏まえ、今後は研究室の規律だけでなく、大学が組織的に取り扱うことが必要である。具体的には、特許出願前の研究成果や、特許等とともに企業に移転しようとする技術情報、共同研究中に企業から取得した営業秘密、共同研究の過程で生じたノウハウ等については、大学による組織的な管理が必要となろう。ただし、研究成果の発表の重要性など大学の特質と学術研究への理解を企業側に求めることも同時に必要である。

(3)大学等のポリシーに基づく研究成果の組織的管理・育成・活用推進のあり方

今後は、各大学が個性・特色に基づいて産学官連携/知的財産ポリシーを作成・公表することが必要である。ポリシーにおいては、各大学の使命や責務、研究成果の育成・活用に関する考え方、個別具体的な知的財産の取扱いの方針、紛争解決のための手続等を規定するものとする。
知的財産に関わる利益相反(大学での教育・研究上の責務と外部連携活動に伴う個人的利益との調整・調和の問題)についても適切な管理が必要である。
知的財産の組織的管理を進めるためには、まず各大学において知的財産に関する教職員の意識改革のための措置を講ずることが重要である。
さらに、各大学においては、外部人材の活用、TLOとの連携等により知的財産の組織的管理・育成・活用を戦略的に進める体制(知的財産本部機能等)を整備することが必要となる。その際には、複数の知的財産の一体的管理とともに、技術コンサルティング、共同研究、ベンチャー起業等各種手段の組み合わせによる総合的取組が必要となるため、各大学ではこれらの諸機能を集約し一体的に取り組む体制を整備することが必要である。なお、その際には意思決定の迅速性・柔軟性を確保することが重要である。
知的財産管理等に従事する職員については、従来の組織や業務にとらわれず、外部から実務者を積極的に招聘し活用することとし、教職員と外部実務者の有機的連携による業務推進を目指す。その際、これらの職員には高い専門性に応じた処遇が与えられることが望ましい。また、長期的展望・戦略から、大学内において必要な人材の採用・養成に努めることも必要であろう。
教職員の知的財産の創出・育成・活用への貢献についても適切な評価をし処遇に反映することが必要である。この点からもTLO等を活用した目利き機能の充実強化が期待される。
大学等の研究成果として生じる知的財産権の取得・管理のために必要な経費については、大学運営の基盤的な経費や競争的資金の間接経費等多角的な財源の確保が必要である。また、機関帰属への円滑な移行を推進するためには、移行期における大学の体制整備を支援する措置が特に必要である。さらに、専門的人材の確保(派遣)、養成(MOTコースの充実等)の支援措置も求められる。
知的財産等の活用実績の広報等国民の理解と意識の向上への努力も重要であろう。
なお、知的財産を機関帰属とした場合に人材流動化を阻害しないようなルールのあり方(発明者が移動した場合の対価の還元のあり方、発明者がベンチャー起業する場合の取扱い等)については、各大学相互の密接な情報提供や今後の議論の進展に期待する。
また、不正競争防止法の改正による営業秘密の保護強化の動向を踏まえ、企業における管理方策も参考にしつつ、大学の特性に応じた営業秘密の管理のあり方についても留意が必要である。

用語説明

※13 本章の内容は、本委員会のもとにおかれた知的財産ワーキング・グループでの議論を踏まえて取りまとめたものである(平成14年11月1日知的財産ワーキング・グループ報告書参照)

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研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

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