4.産学官連携強化のために今後取り組むべき施策

産学官連携の推進のためには、知の源泉としての大学等の発展と、産学官連携に対する企業の理解と協力を前提に、大学等を核とした総合的な連携システムを構築することが重要である。政府においては3.で述べたような基本的な考え方を踏まえた上で、単発的な施策の積み重ねではなく、総合的・体系的に施策を推進することが必要である。
すなわち、長期的観点に立って、研究開発課題の発見と設定の段階から、ブレークスルーを目指して産学官連携を十分に意識することがまず緊急に必要である((1)参照)。また、より短期的観点からは、研究成果の効果的な社会還元を図る仕組みを確立しなければならない((2)参照)。同時に、昨今の厳しい経済情勢の中で、大企業のあり方は変貌を迫られており、最先端の分野での事業化がますます困難となる中、ベンチャーの役割が重要性を増している。特に、大学等発ベンチャーの創出に対する期待は高い((3)参照)。さらに、これらの課題に応えうる人材の養成も急務である((4)及び(5)参照)。具体的には以下のような施策が考えられる。

(1)ブレークスルーを目指した産学官連携による研究開発課題の発見と設定等

産学官連携の成果を上げるためには、学術及び産業技術における真の問題を設定し、それを解決するブレークスルーを生み出すことが必要である。このため、産業界との日常的な情報交換等によって、解決すべき問題を共有することが重要であることから、産学官関係者による積極的な対話の場を設けることが必要である。同時に、研究開発によって達成されるべき目標を明確にし、目標達成のためのロードマップを描き、節目節目における技術進展を的確に評価し、研究計画に反映させる仕組みを確立することも重要である。
また、経済・社会ニーズに応じた経済活性化のための研究開発プロジェクトの一層の推進や、企業資金の提供を前提とした共同研究に対するマッチング・ファンド方式による資金提供の充実等により共同研究や受託研究を推進することが有効である。さらに、現在その多くを諸外国に依存している先端計測機器等の科学技術基盤の整備を通じた経済活性化を目指すとともに、世界最高水準の研究を支える最先端機器の産学共同開発、研究成果情報のデータベース公開の促進(J-Storeの活用等)等に重点的に取り組むことが必要である。

(2)研究成果の効果的な社会還元の推進

大学等の研究成果の効果的な社会還元を図るためには、これまでのような個人的・非契約型の連携から組織的・契約型の連携へと転換することが必要であり、そのためにも大学等における知的財産ポリシーの確立と知的財産管理体制の整備が不可欠である。各大学等における早急な取組が期待される(なお、知的財産立国を目指す我が国において大学の知的財産の管理・活用は重要な課題であることから、特にワーキング・グループを設けて集中的な議論を行い、大学等における検討の参考となる基本的な考え方について5.で詳述した。)。
また、機関帰属原則下において大学等の研究成果が特許権という形で具体化され活用されていくためにも、海外を含めて特許を取得するための支援、特に資金的支援のための新たな仕組みを早急に具体化することが重要である。このほか、大学等における研究成果の移転の促進(「死の谷」克服支援)、日本版バイドール法(産業活力再生特別措置法第30条)の適用により権利を取得する大学等が責任をもって特許化及び実用化を実施し研究成果を死蔵させないための方策の確立、大学等における研究成果の知的財産化支援のメカニズム確立のための支援(大学知的財産本部整備事業の充実・強化等)についても、国全体の視野に立って効果的な施策を講じていくことが適当である。
さらに、意欲的な個人が十分に活躍できる「場」の形成という観点から、研究者・大学等の産学官連携への誘因の強化(大学等の機関評価における反映、表彰制度の推進等)や、利益相反・責務相反のルール整備の促進等も重要である(利益相反・責務相反の考え方については6.で詳述した)。

(3)大学等発ベンチャー創出の促進等

大学等発ベンチャーの創出については、ここ数年で大きく進展してきてはいるが、諸外国(アジア諸国も含む。)に比して我が国の現状は未だ十分ではない。このため、大学等にインキュベーション機能を備え、大学等の技術シーズや人的資源等を基にした「起業」が生まれる環境を醸成することが有効である(インキュベーション施設の整備等)。また、大学等発ベンチャーのスタートアップファンドの充実(大学発ベンチャー創出を目指した技術開発の支援及び事業化への支援、JSTプレベンチャー事業の充実等)等の直接的な支援のほかにも、知的クラスター等の整備、ベンチャー企業での兼業の推進、起業家人材の養成(専門職大学院(法科大学院、ビジネススクール、MOT等)の活用)により、大学等発ベンチャーを生み出す環境整備を図っていくことも重要である。また、ベンチャー設立を容易にするための最低資本金制度の見直し、資金調達の円滑を図るための証券取引法上の私募規制の緩和、SOHOの発展等に伴うベンチャー企業に適した柔軟な労働時間管理の実現(画一的残業規制の撤廃)等のベンチャー起業や新産業創出を促進する経済・社会環境の整備もあわせて必要である。

(4)産学官連携を支える組織の強化と人材の養成

組織的連携、契約型連携への転換を進めるためには、大学等において産学官連携を推進する組織(共同研究センター、研究協力部課等)、特に産学官連携の総合窓口を整備・強化することが重要である。各大学等において学内の共通的経費や競争的資金の間接経費等を使用してこれらの充実・強化を図ることが基本ではあるが、政府においてもこれに対して支援を行っていくことが重要である。その際には、産業界等の知恵・経験や手法を大胆に取り入れて、大学等のシーズを効率的に育成していくシステムを構築することが求められることから、各大学毎の状況に応じて、知的財産本部が適切なリーダーシップを発揮し、関係機関との連携や適切な人材配置、外部人材登用等を進めていくことが重要である。さらに、技術移転コーディネーター、法務実務担当者、知的財産管理の専門家など産学官連携に携わる専門的人材の育成・確保が緊急の課題となっていることから、知的財産に強い法科大学院やMOT等の専門職大学院制度の活用、知的財産専門人材養成への支援、目利き人材の養成のための措置が必要である。さらに、ベンチャーを支える人材養成のためには、博士課程レベルの教育機能の強化も今後求められる。企業側においても、これらの大学・大学院レベルの教育と連携した形でのキャリアパスの開発が求められる。

(5)人材養成・活用面での産学官連携の推進

人材養成面での連携を推進することも大学の教育を活性化する観点から極めて有効である。インターンシップ、連携大学院制度、共同研究における大学院生の参加等により学生段階における企業との交流を進めるとともに、実践的教育を実現するため産学共同による教育プログラム開発の推進を図るものとする。また、各セクター間の流動性の向上を図るため、公募制・任期制の一層の推進等が必要である。

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研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

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