1.産学官連携の意義~「知」の時代における大学等と社会の発展のための産学官連携

(1)産学官連携の背景と意義

1 「知」の時代における産学官連携の重要性

「知」の創造と活用を図ることに大きな価値が置かれる「知識社会」の到来により、産・学・官のそれぞれのセクターにおいて産学官連携への動機が高まりつつある。「知識社会」において、産学官連携は大学等の活性化と我が国社会の発展に大いに寄与するものであり、その一層の充実・強化が求められる。
背景としては、まず、IT(情報技術)の進展を背景としたグローバリゼーション(世界的規模での競争市場の出現)の浸透により、「選択と集中」を基本とし、変化に迅速に対応できる企業経営が有効とされるようになったことが挙げられる。これに伴い、産業界では、事業毎の提携戦略の採択と研究開発戦略における基礎研究から開発までを自社あるいは関連企業内で完結させる方式から開発重視へ転換する傾向が見られる。また、分野によっては、独創的な基礎研究から製品化のための技術開発に至る過程が短縮されつつある。こうした状況のもとで、企業は、大学等を単なる人材供給源としてだけではなく、政府系試験研究機関も併せて、独創的技術シーズ創出のためのパートナーとして、そして、研究開発・人材育成の外部委託先としても意識するようになってきている。
また、大学教育の大衆化・多様化が一層進み、産業界のニーズにも配慮しつつ独創性のある実践的な人材を輩出することが強く求められるようになった。同時に、企業経営の変化、産業技術の高度化などに伴い、社会人再教育などの生涯学習ニーズも増大しており、これに応える必要もある。研究面では、従来型の学術研究に加えて、社会的問題の解決や社会での応用を主眼とする研究様式の広がりなどが認識され始めるとともに、ITの急速な進歩により、様々な組織・機関の研究者による共同研究の実施もより簡便になってきた。
さらに、「知識社会」における国際競争力確保の必要性から、世界各国で、科学技術への効率的投資、研究成果の活用やこれに基づく起業支援、教育・人材養成の強化等を通じて国家レベルでのイノベーションシステムの構築を試みる動きが広まっている。その中で大学等は、社会全体の「知」の源泉として重要な役割を担っており、大学等の研究成果等を活かすための産学官連携への国家的な期待・要請の高まりが見られる。また、地域レベルでも、地方公共団体による同様の期待のもとで、活力ある自立した地域づくりのための有力な政策として、大学等の独創的コンセプトから生じた技術シーズに基づく起業支援や新産業創出を目指した様々な取組が行われている。
特に、我が国では、平成13年3月に閣議決定された第2期科学技術基本計画にも述べられているように、経済・社会の「空白の10年」といわれる厳しい時期を経た後、その反省に立ち、新たな世紀において真の「科学技術創造立国」としての発展を目指すとともに、経済・社会の構造改革を実行することが緊急の課題となっている。
産学官連携の一層の充実・強化は、このような流れの中でとらえられなければならない。

2 「産」「学」「官」のそれぞれの意義と役割

「産」「学」「官(公)」それぞれの意義及び基本的な役割は以下のように整理できよう。
「産」とは、民間企業やNPO等広い意味でのビジネス(ないしプライベート)セクターを指し、「産」の研究開発は経済活動に直接結びついていくという意味で重要な役割を担っている。
「学」とは、大学、大学共同利用機関、高等専門学校等のアカデミックセクター(国公私を問わない)である。これらの機関は教育と学術研究を基本的使命とし、これらに加えて社会貢献をも使命とするものであって、優れた人材の養成・確保、未来を拓く新しい知の創造と人類の知的資産の継承等の役割を担っている。
「官(公)」とは、国立試験研究機関、公設試験研究機関、研究開発型独立行政法人等の公的資金で運営される政府系試験研究機関を指す。これらの機関は、政策目的の達成を使命とし、我が国の科学技術の向上につながる基礎的・先導的研究及び政策ニーズに沿った具体的な目標を掲げた戦略的研究を中心に重点的な研究開発を行う。また、公設試験研究機関は、地域産業等の現場のニーズに即した技術開発・技術指導に重要な役割を担っている。さらに、国・地方公共団体は研究開発基盤形成や制度改善においても重要な役割を担っている。
産学官連携は、このように基本的な使命・役割を異にするセクター間の連携であり、産学官連携活動に際しては、各セクターの使命・役割の違いを理解し尊重しつつ、双方の活性化に資するような相互補完的な連携を図っていくことが重要である。

(2)多様な産学官連携の形態・分野

産学官連携には多様な形態がある。一つの考え方として、その形態を、
1 企業と大学等との共同研究、受託研究など研究面での活動
2 企業でのインターンシップ、教育プログラム共同開発など教育面での連携
3 TLO(Technology Licensing Organization:技術移転機関)の活動など大学等の研究成果に関する技術移転活動
4 兼業制度に基づく技術指導など研究者によるコンサルタント活動
5 大学等の研究成果や人的資源等に基づいた起業
の五つに類型化することができる。ただし、実際の産学官連携においては、こうした活動が相互に密接に関連しており、例えば「技術相談」活動が、「技術移転」と「コンサルタント」の両方の要素を含むように、産学官連携が同時に複数の側面を構成することもあり得よう。このほか、教育・研究情報の発信、産学官関係者の交流など、本格的な産学官連携の前段階ともいえる諸活動や企業等からの大学等への寄附講座等の整備、企業の産学交流施設の大学敷地内への建設等の支援措置も、広い意味での産学官連携に含めることができる。こうした産学官連携関連活動の多様性を踏まえて、産学官連携のあり方や施策を検討する必要がある。
また、新しい「知」の時代における学術研究の総合的推進、技術革新の創出、社会的問題の解決等の観点からは、これまで取り上げられることが多かった自然科学分野のみならず、人文・社会科学分野における産学官連携の推進にも留意する必要がある。さらに、産学官の担い手となる企業、大学等の規模、形態、研究分野等によって、様々な産学官連携の進展があることにも配慮すべきである。
なお、各機関においてこれらの多様な活動すべてに取り組む必要はなく、それぞれの個性・特色に応じて、どの活動に力点を置いて取り組むかは各機関の主体的・戦略的判断に委ねられるべきものである。

(3)大学等から見た産学官連携の意義

「知」の時代における産学官連携は、社会の中核的な知的集団、あるいは「知」の源泉としての大学等がその教育・研究を活性化させ、社会の信頼を得つつ発展するための有益な手段であると言える。したがって、「今後は、大学等がその社会的使命を果たす上で不可欠な大学等自身の問題として、また、学術研究の進展の重要なプロセスとして」1 、より主体的、組織的に産学官連携に取り組む姿勢が求められる。
大学等における研究活性化の例として、大学等の研究者が企業との共同研究等の産学官連携活動に参加する場合には、
1 研究者が自らと異なる目的意識や価値観に触れることにより、革新的な技術開発につながる独創的コンセプトが生まれる。
2 社会的ニーズが刺激となって従来の学術研究では考えられなかったような新しい研究の萌芽、新たなシーズの発見がなされる。
3 大学等の研究に民間の経営の発想が組み込まれて、社会との連携が一層進展することが期待できる。
などの利点が考えられる。また、専門分野の融合や変化への迅速な対応が求められる現代において高い研究開発能力を保つためには、「幅広い知識を基盤とした高い専門性」2を有する研究者が求められており、このようなタイプの人材を養成する観点からも、教員が研究者としてのライフサイクルの一時期において産学官連携活動に参画することは有意義と考えられる。
また、大学における教育への影響の例として、最先端の産学官連携プロジェクトに、大学院の教育課程に差し障りのない範囲で大学院生(特に博士後期課程の学生)を参加させることには、
1 深い専門性を追求しつつ、同時に、広い視野を持つことができる。
2 我が国の経済・社会が抱えている課題を体得し、自らの基礎研究にフィードバックできる。
3 ビジネスにおける最先端の技術開発競争の激しさを体験でき、研究への刺激となる。
などの利点が考えられる。その際に、大学院生には視野の広い教育の機会を提供し、独自性と学問の探求を深めるための教育上の配慮が必要であることは言うまでもない。
さらに、産学官連携は、大学等の責務としての教育・研究の成果を「社会貢献」に活かすための一形態であり、産学官連携を通じて研究成果等の社会還元を進めることは、大学等がその存在理由を明らかにし、大学等に対する国民の理解と支援を得るという観点からも重要である。

(4)大学の使命と社会貢献

大学は、学術研究の推進や高度な人材の養成を通じて人類全体に対して責任を負い、歴史的普遍性や国際性を志向するものであるとともに、時間的場所的な諸条件を限定された一個の社会的な存在でもある。したがって、大学についてはその自主性の尊重が本質的要請であると同時に、大学には自律的に時代や社会の期待に応えていく姿勢が求められる。
大学は歴史的には教育と研究を本来の使命としてきたが、社会情勢の変化とともに、我が国の大学に期待される役割も変化しつつあり、現在においては、社会貢献を教育・研究に加えて大学の「第三の使命」として位置づけるべきである。言うまでもなく、人材養成や学術研究それ自体が我が国の発展に対する長期的観点からの社会貢献であるが、近年では、公開講座や研究成果の事業化・技術移転等を通じた、より短期的・直接的な貢献が求められるようになっており、これがいわゆる「第三の使命としての社会貢献」と考えられる。
なお、ここでいう「社会貢献」とは、単なる経済活性化だけではなく、地域コミュニティや福祉・環境問題といったより広い意味での社会全体(地域社会・経済社会・国際社会等)の発展への寄与と捉えるべきである。現在は特に産学官連携による技術移転や新産業創出に社会の関心が高まっているが、これらは大学による社会貢献の一形態であり、各大学においてはそれぞれの個性・特色に応じた方法で社会への責務を果たしていくことが期待される。
このように産学官連携は、あくまでも各大学の個性・特色の一環としてとらえるべきものである。したがって、活発に取り組む大学もあれば、ほとんど関心を示さない大学もあり得る。大学の使命・役割は前述のように多岐にわたるものであり、産学官連携や技術移転、知的財産管理はその一局面に過ぎないことは銘記されなければならない。
この「多様性」は、大学毎のみならず、個々の教職員レベルでも求められる。もっとも、各教員の研究テーマの多様性・独創性に鑑みれば、産学官連携を主な職務としない教員であっても、自らの研究成果やテーマについて産業界からのアプローチがある場合には、学内の産学官連携担当部署に連絡・相談するなどして、組織的支援を得つつ研究成果の活用方策を探ることが望ましい。そのためにも、学問分野の如何に関わらず、各教職員は社会貢献が大学の役割として期待されていることを常に認識しておく必要があろう。

用語説明

1「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」(平成11年6月29日学術審議会答申)
2「世界トップレベルの研究者の養成を目指して」(平成14年7月科学技術・学術審議会人材委員会第一次提言)p5-6

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