課題番号:1204

平成18年度年次報告

(1)実施機関名

東北大学大学院理学研究科

(2)研究課題(または観測項目)名

中規模地震の震源過程・震源特性とそれに基づくアスペリティ像の確立

(3)最も関連の深い建議の項目

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成18年度実施計画の位置付け

 プレート境界やプレート内で発生する地震の発生機構を明らかにすることを最終目的とする。特に、データを蓄積しやすい中規模地震に注目し、それらの震源過程・震源特性から推定したアスペリティの分布や特性と、GPS観測により推定されるプレート境界や内陸活断層周辺でのマクロな挙動や構造との関係を調べ、規模依存性や活動履歴、環境依存性の解明を行い、アスペリティ像の確立をめざす。
 平成18年度は最近発生した地震の震源域周辺の詳細な構造の推定を進め、アスペリティの実体解明に寄与する。また、宮城県沖などのプレート境界およびその周囲に発生する地震のすべり量分布を比較しアスペリティの繰り返しすべりを検証する。

(6)平成18年度実施計画の概要

 2004年新潟県中越地震、1995年兵庫県南部地震などの中・大地震震源域周辺の詳細な地震波速度構造や地震波異方性構造・応力テンソルインバージョンによる応力場の分布を求め、地震波・地殻変動解析による地震時すべり量分布との比較から、アスペリティ領域の特徴抽出を試みる。また、2005年宮城県沖地震と1978年宮城県沖地震と地震時すべり分布を近地波形・遠地波形ジョイントインバージョンにより求めそれらの関係を検討する。広帯域地震観測および高サンプリング地震観測を実施し、東北地方周辺での大〜中規模地震の震源過程・震源特性の推定を行う。推定精度の向上のための広帯域地震計アレイ観測の実施のため、最適なアレイの配置についての検討を引き続き行う。

(7)平成18年度成果の概要

 2004年新潟県中越地震、1995年兵庫県南部地震・2001年芸予地震などの中・大地震震源域周辺の詳細な地震波速度構造を求め、地震波・地殻変動解析による地震時すべり量分布と比較した(Okada et al.,2006,2007;菅ノ又・他、2006)。その結果、1995年兵庫県南部地震については、断層に沿って低速度帯が分布することが分かった。すべり量の大きな領域は、地震波速度の低速度域の大きな領域を避け比較的高速度の領域におよそ分布しているように見えることが分かった(図1、図2)。この傾向は2003年宮城県北部地震・1997年鹿児島県北西部地震・2000年鳥取県西部地震と同様でも見られ、アスペリティ領域が地震波速度高速度域に対応している可能性を示した。

図1.1995年兵庫県南部地震震源域周辺のP波速度構造.黒十字は余震を示す。(a)平面図。(b)断層面に沿った分布(カラーコンター).ほしは震源を示す。地震時すべり量分布(Yoshida et al.,1996)をコンターで示す。(Okada et al.,2007)

図2.2004年新潟県中越地震の断層面に沿ったVp(P波速度)分布(カラーコンター)。遠地波形・近地波形ジョイントインヴァージョンによる地震時すべり量分布(八木・2004)をコンターで示す。(Okada et al.,2006)

 さらに、2004年新潟県中越地震震源域においては、S波異方性構造や応力テンソルインバージョンによる応力場の分布についても解析を進めた。地震波速度構造や余震分布もあわせて考えると、アスペリティ領域では、すべりに伴う断層に並行なクラックの生成や応力場の擾乱の可能性が、非アスペリティ領域では、非弾性変形により歪が解消され、アスペリティとならない可能性が示された。(Hondo et al.,2006、本堂,2006;図3)。

図3.2004年新潟県中越地震の震源域に対して得られたスプリッティングパラメータの空間平均(深さ4〜6キロメートル)。(a)φ(早いS波の振動方向の平均値。(b)波線の長さで規格化したSt(S波の到達時間差の平均値。データ数が100以上得られたブロックにおける結果を表示している。カラースケールはOkada et al.(2006)によるP波速度構造(深さ4キロメートル)。コンターは本多・河野(2005)によるブーゲー異常を表す。(本堂、2006)

 2005年8月16日に発生した宮城県沖の地震(マグニチュード7.2)および1978年宮城県沖地震(マグニチュード7.4)の地震時すべり分布を近地波形・遠地波形ジョイントインバージョンやGPSデータインバージョンにより推定し・比較した(Miura et al.,2007,三浦・他、2007、Yaginuma et al.,2006,2007,柳沼、2006;図4)。地震時すべり量分布も余震分布も、2005年の地震は1978年の地震の震源域のうち、その破壊開始点付近のみを破壊したことを示している。このことは余震分布の関係からも支持される。一方、1930年代に発生した3つの宮城県沖地震(1933年、1936年、1937年)の余震分布の再決定からは、それらの余震分布の広がりをあわせたものが、1978年宮城県沖地震の余震分布の広がりとおおよそ等しいことが分かった(Umino et al.,2007;海野・他、2007)。これらのことから、1978年の地震は複数のアスペリティの複合破壊であり、2005年の地震はそのうちの一つだけを破壊したと強く示唆される。

図4.地波形・遠地波形ジョイントインバージョンによる2005年宮城県沖の地震と1978年宮城県沖地震の地震時すべり分布。上図:2005年のすべり量をカラーコンターで,1978年のすべり量をコンター線で示す。下図:1978年地震のすべり量分布。(柳沼、2006)

 また、1978年宮城県沖地震の地震時すべり分布と地震波速度構造との比較から、1978年宮城県沖地震のアスペリティの広がりは上盤側プレートの高速度域の広がりに対応している可能性が示された(Yamamoto et al.,2006)。
 その他、東北地方周辺での大〜中規模地震の震源過程・震源特性の推定のために、広帯域地震観測・大都市圏強震動観測および高サンプリング地震観測を実施した。震源過程・震源特性の推定精度の向上のための広帯域地震計アレイ観測の実施のため、最適なアレイの配置についての検討を引き続き行った。

(8)平成18年度の成果に関連の深いもので、平成18年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

(9)実施機関の参加者氏名または部署等名

長谷川昭・海野徳仁・岡田知己・松澤暢・中島淳一・内田直希・他

他機関との共同研究の有無

  • 高サンプリング地震観測:防災科学技術研究所(小原一成・他)
  • 1997年鹿児島県北西部地震の研究:鹿児島大学(後藤和彦・他)・筑波大学(八木勇治)
  • 2004年新潟県中越地震の研究:防災科学技術研究所(浅野陽一・伊藤喜宏他)
  • 2005年宮城県沖の地震と1978年宮城県沖地震の研究:鹿島建設小堀研究室(武村雅之・他)・筑波大学(八木勇治)

(10)問い合わせ先