2.(3)「地殻活動情報総合データベースの構築」研究計画

 「地殻活動情報総合データベースの構築」の研究は、地殻活動予測シミュレーションモデルの開発のために基礎となる観測データの整備と、地殻活動モニタリングシステムから有効に情報を取り出すために必要不可欠である。本研究計画では、これまで蓄積されてきた日本列島規模の各種の基礎データを整理・統合する「ア.日本列島地殻活動情報データベースの構築」を実施するとともに、地殻活動モニタリングシステムからの多種・大量の観測データを有効処理するための「イ.地殻活動データ解析システムの開発」を目指している。

ア.日本列島地殻活動情報データベースの構築

 日本列島における地殻活動情報データベースの構築のために、各機関により着実なデータ蓄積とデータベースの構築が、昨年度までと同様に実施された。地震予知研究協議会と地震調査研究推進本部が共同で、国立大学微小地震観測網により得られた震源データと検測データをとりまとめる作業を継続した。1998年に発生した約122,400個の地震のうち、検測データが10個以上のもの約74,000個について震源の再決定を行った結果、約70パーセントの地震の震源を求めることができた(東北大学[課題番号:1210]、海野・他,2007)。日本列島全域を網羅する高精度で稠密な重力データベースの構築を目指して、北海道地域の重力データの空白域においてデータの収集・整備を行った(北海道大学[課題番号:1010]、本多・他,2006)。この中で、2004年(平成16年)12月14日の留萌支庁南部の地震(マグニチュード6.1)の本震は、重力データから推定されている背斜構造のドーム状の高密度岩帯の南端付近にあり、余震域はそのドーム域に広がっていることが分かった。日本付近の過去の大地震や津波の記録、測地記録などの整理を目指して、強震計(SMAC型)記録の整理を昨年度から継続しており、さらに、WWSSN(世界標準地震観測網)の古いマイクロフィルムの整理を実施した(東京大学地震研究所[課題番号:1417])。全国約700か所の高感度地震観測施設と基盤強震観測施設、約1,000か所の強震観測施設から得られるデータを効率的に収集・処理・蓄積し、インターネットで公開するシステムを更に増強した。これらの基盤観測網のデータは地震予知研究の発展に大きく寄与している(防災科学技術研究所[課題番号:3011])。主要断層帯について、調査地点・調査項目ごとに汎用性を高めた新形式のデータ入力作業を完了させて、活断層データベースの機能を強化した「活断層データベース高度化版」を公開した(図54)。さらに表示デザインを大幅改訂して利用者の利便性の向上を図った(産業技術総合研究所[課題番号:5010]、活断層データベース高度化版)。主要活断層調査として整備した阿寺断層帯の都市圏活断層図(4面)を公表し、境峠・神谷断層帯(3面)と庄内平野東縁断層帯(2面)について調査を実施した(国土地理院[課題番号:6019])。
 過去の地震記象紙、地震観測資料及び地震観測原簿のマイクロフィルム化を継続して実施した(気象庁[課題番号:7012])。柿岡地磁気観測所の観測データの整理を行い、観測機器情報についても整理した(気象庁[課題番号:7013])。一元化処理による全国地震カタログの作成は昨年度までの作業を継続して行った(気象庁[課題番号:7014]、地震・火山月報,2006、地震年報,2007)。さらに、震源カタログの高精度化と均質化を図るための過去の地震の震源計算と総合的な地震カタログの作成も継続しており、1961年(昭和36年)から1964年(昭和39年)の全国地震カタログの改訂作業が一部を残して完了した。また、大学と気象庁の微小地震検測データとの整合を図るための調査を開始した(気象庁[課題番号:7015])。

イ.地殻活動データ解析システムの開発

 地殻活動モニタリングシステムからの大量データを有効処理するために、地殻活動データ解析システムの開発は重要である。地殻活動総合解析システムのユーザーインターフェイスの改善を引き続き行った。さらに、断層モデル解析のなかでSARの視線方向の変動量を計算する機能を追加するなど、データベースシステムの機能拡張を実施した(国土地理院[課題番号:6020])。

課題と展望

 データベースを構築するためには、基礎となる多項目で大量の観測データを効率よく整理・統合することが必要不可欠である。しかしながら、現状では、データ入力を担う「地殻活動モニタリングシステムの高度化」の課題やデータベースを利用する「地殻活動シミュレーション」の課題との連携が必ずしも密ではなく、それぞれの観測主体によって個々のデータベースが構築されているに留まっている。今後は、これらの課題とも密接に連携して、最終的な目標である地殻活動予測シミュレーションモデルの開発に寄与するためのデータベースを効率的に構築する方策を探っていく必要がある。

参考文献


図54
 活断層データベース高度化版のトップページ(産業技術総合研究所[課題番号:5010])。

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