平成18年度の成果の概要

1.はじめに

 平成15年7月に科学技術・学術審議会において建議された「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の推進について」(以下、「第2次新計画」という。)のもと、平成16年度より地震予知に関する研究計画が実施されている。第2次新計画では、計画を推進するために、科学技術・学術審議会測地学分科会地震部会の下に、計画実施機関からの委員で構成する観測研究計画推進委員会を平成16年4月に設置し、年度ごとに観測研究実施計画及び観測研究成果報告の取りまとめを行うこととした。
 本報告は、第2次新計画における平成18年度の主な研究成果を取りまとめたものである。
 なお、計画の実施機関は以下の通りである。

 地震の発生を定量的に予測するためには、広域の地殻応力が特定の断層域に集中していく地震発生の準備過程を理解し、地震断層域で応力が再配分されるしくみを理解する必要がある。さらに、観測を通じてこれらの過程を迅速に把握するとともに、地殻活動の推移予測を目的とした物理モデルに基づいた数値シミュレーションモデルによる予測を行うことが必要である。この考えに基づき平成16年度から実施されている第2次新計画では、次のような項目に沿って研究を実施している。

 上記項目のうち「(1)地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の推進」は、地震発生に至る地殻活動の全過程と、その過程に伴って現れる種々の地殻現象の発生機構を解明するための総合的観測研究であり、次のような小項目に分けられている。

 また、「(2)地殻活動の予測シミュレーションとモニタリングのための観測研究の推進」は、地殻活動の推移予測を行うための地殻活動予測シミュレーションモデルの開発研究及び地殻の状態を実時間で把握する地殻活動モニタリングシステムの高度化のための研究であり、次のような小項目に分けられている。

 「(3)新たな観測・実験技術の開発」は、地震発生に至る一連の過程に伴う地殻現象を高精度で検出するための、新たな観測・実験技術の開発研究である。
 「(4)計画推進のための体制の整備」については、計画全体を効果的に推進できる体制の整備、観測研究プロジェクトを立案・推進するための広く開かれた仕組みの整備を図るものであり、平成16年度から科学技術・学術審議会測地学分科会地震部会に設置された観測研究計画推進委員会が重要な役割を担っている。観測研究計画推進委員会は、国立大学法人、独立行政法人、政府機関等の組織がそれぞれの機能に応じた役割分担と密接な協力連携の下に計画を推進するための委員会であり、本報告書も同委員会により編集されている。

2.重要な成果

2−1.プレート境界地震の発生予測

 本計画を通じ、プレート境界における地震発生を説明する有力なモデルとしてアスペリティモデルの重要性が述べられている。このモデルを更に進展させて地震発生予測につなげるには、プレート境界の固着度が何によって規定されているかを明らかにし、アスペリティ間の相互作用を理解することが重要である。
 西南日本に見られる深部低周波微動や低周波地震、および間欠的ゆっくり滑りは、フィリピン海プレートと陸のプレートの間の固着域(地震性領域)と定常的にゆっくりと滑っている領域との遷移域で発生していることが分かっていた。データを詳細に解析することにより、この遷移域において周期20秒程度の超低周波地震も発生しており、しかも深部低周波微動や短期的ゆっくり滑りと同期して発生していることが明らかになった(図1)。
 東南海・南海沖では、150年程度の再来間隔で繰り返し大地震が発生してきたことが知られているが、それらの地震の様相は必ずしも毎回同一ではなかったことが知られている。津波堆積物調査を行った結果、過去3,300年間に8回の大津波に襲われたことが判明した(図2)。最新のものは1707年宝永南海地震によるものと考えられ、このような大津波が約300〜700年に一度の超サイクルで発生したと推定される。684年天武南海地震(白鳳地震とも呼ばれる)、1361年正平南海地震、1707年宝永南海地震が、このような地震であり、再来間隔から見て、次の南海地震も同様な地震となる可能性がある。
 地球シミュレータを活用して、南海トラフ沿い巨大地震発生サイクルのシミュレーションモデルを開発した。西南日本の下に沈み込むフィリピン海プレートの三次元形状モデルに構造探査結果に基づく摩擦特性の不均質分布を与えて地震発生サイクル・シミュレーションを行い、地表変位の時空間変化を計算した。その結果、固着の剥がれに伴って隆起域と沈降域の境界が15年間で数キロメートル程度移動することが分かった(図3)。

2−2.内陸地震発生域の歪・応力集中機構

 本計画では、内陸地震発生のしくみを解明するために、内陸地震発生域における不均質構造と歪・応力集中機構を明らかにすることを目指している。その目的のため、特に日本列島の中で歪速度の速い領域である歪集中帯への歪・応力集中機構の研究が実施されている。跡津川断層での合同観測の結果、断層深部で定常滑りが起こっており、それが断層浅部への応力集中の原因になっている可能性が指摘された。
 平成9年に実施された東北日本横断地殻構造探査による地殻・上部マントル構造と温度の空間分布を考慮して、応力集中過程のモデル化を行った。下部地殻及び上部マントルの温度条件下では岩石の変形は流動則に従うと考え、非線形粘弾塑性有限要素法を用いてシミュレーションを行った。奥羽脊梁山地及び出羽山地付近で高温のためにリソスフェアが薄くなり、上部地殻の下部に応力が集中する様子が再現された(図4)。
 解析手法を高度化し地震時の滑り分布を詳細に把握する研究が進展した。三次元速度構造モデルを用いてグリーン関数(地震波伝達関数)を再計算して2003年(平成15年)宮城県北部の地震の震源過程の再解析を行ったところ、一次元構造グリーン関数を用いた結果よりもやや北側にアスペリティが求まった(図5)。

3.成果の概要

 ここでは、(1)地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の推進、(2)地殻活動の予測シミュレーションとモニタリングのための観測研究の推進、(3)新たな観測・実験技術の開発の3項目について、平成18年度に達成された成果の概要を示すことにする。

3−1.地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の推進

1)日本列島及び周辺域の長期広域地殻活動

 日本列島の地殻活動を理解・予測するためには列島から東アジア規模の観測研究が必要である。これは、日本列島周辺でのプレート運動によりもたらされる力が日本列島における活発な地殻活動の原因であり、さらにその力が日本列島内で再配分され地震発生域に作用しているからである。そのため、日本列島周辺のプレート運動の詳細及び日本列島規模の構造と変形を知る必要がある。

ア.日本列島及び周辺域のプレート運動

 日本周辺のプレート運動を解明するという目的のため、中国、ロシア、モンゴル等、東アジア及び太平洋地域におけるGPS(汎地球測位システム)精密計測が実施されている。モンゴル国内のGPSデータを収集した結果、アムールプレートの西側境界がモンゴル西部を通っていることが分かってきた。このような観測の継続により、日本列島周辺のプレート運動が解明され、日本列島での地震発生予測に資することになる。

イ.列島規模のプレート内の構造と変形

 地震基盤観測網を活用し、上部マントル及び地殻における高精度な三次元的地震波速度構造及び減衰構造を推定すると共に、変換波の波形解析等に基づくモホ面、プレート境界の形状等の推定など、詳細な地球内部構造の解明を進めた。三次元速度構造を用いた変換波の波形解析により、東海から九州北部までの領域において新たなフィリピン海プレート形状モデルの構築を行った。従来の研究で明らかにされている中国地方に加え、淡路島周辺や琵琶湖北東部下に非地震性海洋プレートの存在を確認した。

2)地震発生に至る準備・直前過程における地殻活動

 応力の集中と地震の発生の関係を解明するには、地震発生に至る準備過程から直前過程までの地殻活動を相互に関連する一連の過程として研究する必要がある。近年、急速に理解の進んだプレート境界における歪・応力集中機構、内陸地震の準備過程、地震発生直前の物理・化学過程及び地震発生サイクルについて、それぞれの成果を概観する。

ア.プレート境界における歪・応力集中機構

 来るべき大地震についてアスペリティの位置をあらかじめ特定しておくことは、被害予測の上でも極めて重要である。既にアスペリティの位置がよく分かっている領域について詳細な構造探査を行い、アスペリティと非地震性滑り域の構造的差異を明らかにし、その知見を元に、来るべき大地震のアスペリティの位置を特定することが重要となっている。これまで、プレート境界からの反射波強度や、プレート境界の上盤側における地震波速度の違いが抽出されており、また、陸上及び海底の地殻変動、相似地震、地震の発震機構解からも情報が抽出されつつある。
 宮城県沖における構造探査実験より推定された沈みこむ太平洋プレートの形状と、これまでに知られているアスペリティの分布とを比較したところ、プレートが折れ曲がる領域を避けてアスペリティが分布していることが分かった。
 水準測量データを追加し、再解析した結果、東海地域で2000年(平成12年)後半以降に観測された長期的ゆっくり滑りが過去にも20〜30年程度の間隔で繰り返し発生していたことがより明確となった。

イ.内陸地震発生域の不均質構造と歪・応力集中機構

 比抵抗と速度構造の両方の分解能が向上し、また震源決定精度も向上したことにより、三者の相関が認められる事例が増えてきた。これにGPS観測から推定される歪速度と、発震機構解や異方性構造から推定される応力分布と併せて、跡津川断層等、いくつかの断層については深部モデルを構築するための情報が揃いつつある。
 跡津川断層周辺において断層に囲まれた領域を一つのブロックとしたブロック-断層モデルにより、各ブロックの運動を解析した結果、断層浅部はほぼ完全に固着していることが示された。このことは、高密度のGPS観測網のデータを見ても、GPSの測定精度(1ミリメートル毎年弱)を上回るクリープは存在していないと考えられる。また、地震波速度トモグラフィの解析により、跡津川断層両端部の立山・白山といった火山地域には低速度域が存在しており、さらに跡津川断層中央部においても断層深部に低速度域があることが明らかになった。一方、断層浅部の地震発生深度においては、地震活動のやや低調な領域が高速度、高比抵抗になっており、アスペリティの位置を示している可能性が高いと考えられる。

ウ.地震発生直前の物理・化学過程

 南アフリカの金鉱山での歪計の記録において、ゆっくりとした歪ステップの前後に更にゆっくりとした歪変化が観測された。この歪変化は断層滑りによって生じている可能性が高い。ゆっくり滑りとはいえ、前駆的滑りが実際に存在することが、実験室ではなく野外で確かめられたことになり、その価値は極めて大きい。

エ.地震発生サイクル

 通常考えている地震発生サイクルよりももっと長いサイクル(超サイクル)で、大規模な地震が発生している可能性が以前から指摘されていたが、2004年(平成16年)にインドネシア・スマトラ島沖で発生したマグニチュード9の大地震は、そのような地震が実際に発生しうることを明確に示した。平成18年度にはこのような超サイクルの地震および地震発生サイクルの揺らぎの研究が進展した。

3)地震破壊過程と強震動

 大地震の破壊過程を詳しく調べることにより、地震の破壊開始点やアスペリティの分布及びその周辺の応力や強度に関する情報が蓄積されていく。このような研究を通じアスペリティの分布やその活動の再来性の理解が進めば、地震規模の予測だけでなく大地震時の強震動生成域についても定量的評価が可能となる。

ア.断層面上の不均質性

 前述したように、三次元速度構造モデルを用いて計算した地震波伝達関数(グリーン関数)を使うことにより、地震時の滑り分布がより正確に分かるようになった。また、1995年(平成7年)兵庫県南部地震(マグニチュード7.3)の震源域周辺の詳細な地震波速度構造を求め、地震波・地殻変動解析による地震時滑り量分布と比較した結果、滑り量の大きな領域は、地震波速度の低い領域を避け比較的高速度の領域に分布しているように見えることが分かった。

イ.地震波伝播速度と強震動予測

 二次元差分法シミュレーションによる地震波伝播計算との比較から、プレート内の互層構造が短周期地震動の導波効果を示すことを確認した。また、厚さ30キロメートル程度の薄いフィリピン海プレートでは、プレート内部の速度勾配により、散乱体の規模よりも波長の長い地震波が周囲の低速度のマントルへと散逸する効果も確認した。

4)地震発生の素過程

 地震発生や準備過程の解明及びそれに伴って発生する現象の解明のためには、実験室における研究が不可欠である。本計画では、これらを「地震発生の素過程」研究計画として推進している。

ア.摩擦・破壊現象の物理・化学的素過程

 地震発生におけるアスペリティの実体を解明するためには、断層の摩擦や破壊現象を理解する必要がある。そのために、高速・大変位滑りで発生すると考えられる摩擦溶融やそれに伴う摩擦特性の変化、鉱山における超高周波破壊過程観測、透過弾性波による摩擦強度のモニターと断層ガウジ(断層帯内の細粒破砕物)の挙動、破壊によるガスの放出等の実験的研究が実施された。昨年度、岩石接触面を透過する弾性波の観測から摩擦強度をモニターする手法の可能性が示されたが、平成18年度はその手法がガウジを挟んだ模擬断層についても有効であることが確認された。

イ.地殻・上部マントルの物質・物性と摩擦・破壊構成則パラメータ

 種々の構造探査で得られたP波、S波、比抵抗等の値が実際にどのような状態のどのような物質を表すかを知るための研究が必要である。そのために、高温高圧における蛇紋岩の弾性波速度や電気伝導度に関する研究が実施された。

3−2.地殻活動の予測シミュレーションとモニタリングのための観測研究の推進

1)地殻活動予測シミュレーションモデルの構築

 本計画の重点の一つは、地殻活動予測シミュレーションの研究である。現実的な物理モデルに基づいた数値シミュレーションモデルによる地殻活動シミュレーションモデルの開発が行われれば、時々刻々と変化する地殻活動の情報と照らし合わせながら行う地殻活動予測が現実味を帯びてくる。

ア.日本列島域

 地殻活動シミュレーションモデルの原型(プロトタイプ)を高度化し、1968年(昭和43年)十勝沖地震(マグニチュード7.9)及び2003年十勝沖地震(マグニチュード8.0)を例として、プレート境界での準静的応力増加-動的破壊伝播-地震波動伝播の連成シミュレーションを行った。

イ.特定の地域

 三陸沖プレートにおける余効滑り・余震域拡大の数値シミュレーションにより、余効滑りや余震域の拡大速度は定常的摩擦の速度依存性を支配するパラメータ(A-B)に依存することを明らかにした。また、前述したように、南海トラフ沿い巨大地震発生サイクルのシミュレーションを行い、固着の剥がれに伴って隆起域と沈降域の境界が15年間で数キロメートル程度移動することを示した。

ウ.予測シミュレーションモデルの高度化

 動的断層滑り過程における摩擦発熱、流体圧変化、空隙発生及びそれらの間の非線形相互作用についてのシミュレーション、有限要素法を用いた2000年(平成12年)の伊豆諸島の火山活動と東海地域のゆっくり地震の関係を調べるシミュレーションなどが行われた。

2)地殻活動モニタリングシステムの高度化

 地殻活動のモニタリングは、地殻活動予測シミュレーションに必要な観測データを提供するものである。現在、GEONET(国土地理院の全国GPS連続観測網)やHi-net(防災科学技術研究所が全国に展開している高感度地震観測網)を始め多くのデータが広く公開され、それらのデータを地殻活動モニタリングに活用するための多くの研究が行われている。これらに加えて地殻活動モニタリングに有用な諸観測を整備し、日本列島域及びいくつかの特定の地域のモニタリングの高度化を推進している。

ア.日本列島域

 地殻活動のシミュレーションと定量的比較が可能な地殻変動データを提供するGPSやVLBI(超長基線電波干渉法)観測の精度向上の研究が継続して実施されている。GEONETの1秒サンプリングデータがリアルタイムで利用可能になり、2006年(平成18年)4月21日に発生した伊豆半島東方沖の地震(マグニチュード5.8)においてリアルタイムの地殻変動検出を行なうことができた。この事例は、GPSデータを用いてリアルタイムに地殻変動を検出した我が国では初めての例であり、世界的にも珍しいと思われる。
 地震観測については、Hi-net等を利用したモニタリングシステムの高度化により極めて効率的なデータの収集と処理が実現され、日常的な地殻活動に対する監視能力が飛躍的に高まった。従来から指摘されていた南海トラフ沿いの地域だけではなく十勝沖でも超低周波地震が発生していることを検出した。その他、地磁気、潮位等も継続して観測されている。

イ.東海地域

 大地震の発生が予測されている東海地域では、歪計、傾斜計、地下水位観測等の観測網の検知能力の検証と向上のための研究が継続的に行われている。短期的ゆっくり滑りにおいて、隣接する観測点同士の同時異常監視が現象の早期発見及び把握に極めて有効であることを確かめた。また、地下水等総合観測施設を増設し、ダイナミックな地下水変化を地殻変動・地震と直接比較してすばやく解析できるシステムを構築した。GPS連続観測点データから東海地域の長期的ゆっくり滑りについて詳細に検討した結果、当初の浜名湖周辺での滑りが沈静化し、その周囲で滑りが生じていることが分かった。

ウ.東南海・南海地域

 巨大地震発生域である、東南海・南海地域においても各種のモニタリング研究が行われている。南海トラフ沿いで発生する超低周波地震については、新たに開発した超低周波イベント解析システムにより深部低周波微動域でも超低周波イベントが発見された。

エ.その他特定の地域

 近い将来の大地震発生が予測される宮城県沖では、長期観測型海底地震による繰り返し観測が行われ、詳細な地震活動が把握されている。またGPSデータの解析により、2005年(平成17年)の宮城県沖の地震(マグニチュード7.2)では1978年(昭和53年)の宮城県沖地震(マグニチュード7.4)のアスペリティの一部が破壊されたあと、その周辺で非地震性の滑りが発生・伝播し、本震で破壊を免れた領域は引き続き強く固着していることが示唆された。
 内陸で最も地震発生確率の高いとされる糸魚川−静岡構造線においては、地殻構造調査の他、重点的な地震及びGPS観測が実施されている。
 南関東においては、フィリピン海プレートの形状と地震活動の関係等が明らかになった。深さ1,000メートル級の調査ボーリングを1箇所実施し、堆積層の物理特性を求めた。
 日本海溝・千島海溝沿いについては、海底地震計による連続データの解析を進めるとともに、余効滑り等のモニタリングを行っている。

3)地殻活動情報総合データベースの開発

 地殻活動情報総合データベースは、過去のデータやモニタリングのデータを効率的に利用する上で重要である。

ア.日本列島地殻活動情報データベースの構築

 日本列島における地殻活動情報データベースの構築のために、各機関により着実なデータ蓄積とデータベースの構築が実施された。地震予知研究協議会と地震調査研究推進本部との共同作業により、国立大学微小地震観測網により得られた震源データと検測データの取りまとめ作業を行った。重複観測点を排除した検測データを基にした併合データを用いて、震源再決定を試みた。さらに、重力や活断層、地磁気のデータベースの整備も進められた。

イ.地殻活動データ解析システム

 地殻活動総合解析システムのユーザーインターフェイスの改善及びデータベースシステムの機能拡張を行った。

3−3.新たな観測・実験技術の開発

 新たな観測・実験技術の開発によって従来取得できなかった観測データが得られ、研究が飛躍的に進むことが期待される。本計画では、以下の項目に重点を置き、継続的に観測・実験技術の開発を進めている。

1)海底諸観測技術の開発と高度化

 日本周辺のプレート境界の地震のほとんどは海域で発生する。陸上の観測データのみでは分解能が悪いため、海底での観測技術の開発が必要である。海域における観測技術として、GPS-音響結合方式による海底地殻変動観測、海底の圧力・傾斜観測、海底ケーブル利用の観測システム、海底ボアホールを利用した歪・傾斜変動観測、海底における長期地震観測の開発及び高度化が進められている。熊野灘の測位観測地点近傍で2004年9月に発生した紀伊半島南東沖の地震(マグニチュード7.4)にともなう海底地殻変動が確認され、そのデータは断層モデルパラメータの推定に有効であった。

2)ボアホールによる地下深部計測技術の開発と高度化

 ボアホールジャッキ式応力において、応力測定プローブの接触領域をある程度以下になるように調整すれば、正確な測定値が安定して得られることが分かった。また、地殻歪を高精度で計測するためのレーザ変位計の基礎的研究を実施した。

3)地下構造と状態変化をモニターするための技術の開発と高度化

 アクロス震源のオフライン連続観測記録について、アレイ伝達関数のセンブランス解析(正しい入射角を仮定したとき、センブランス値が高くなる)を行い、モホ面及びプレート境界での反射波に相当すると考えられる波群を検出した。

4)宇宙技術等の利用の高度化

 平成18年1月に打ち上げられた地球観測衛星「だいち」のSAR(合成開口レーダー)データを使用した干渉解析が実施され、2007年(平成19年)3月25日に発生した能登半島地震(マグニチュード6.9)に伴う地殻変動が検出された。

4.課題と展望

 現計画では、長期にわたる地殻活動によってもたらされる広域応力が特定の断層に集中していく地震発生の準備過程と、それに続く直前過程における応力の再配分機構を理解し、観測によるそれらの過程の迅速な把握と、物理モデルに基づいた地殻活動予測シミュレーションモデルを開発することが重要とされている。
 その中でも、プレート境界における地震発生に関する有力なモデルであるアスペリティモデルの検証と精緻化が重要な課題となっている。アスペリティモデルによると、プレート境界でのプレートの結合状態は、境界面での摩擦構成則のパラメータの連続的分布によって表され、地殻活動の予測シミュレーションを進める基礎となる。平成18年度には、フィリピン海プレートと陸のプレートの間の固着域(地震性領域)と定常的にゆっくりと滑っている領域との遷移域において、周期20秒程度の超低周波地震が深部低周波微動や短期的ゆっくり滑りと同期して発生していることが明らかになった。通常の再来間隔よりも長い間隔(超サイクル)で複数のアスペリティが連動して破壊する巨大地震が過去に起こっていたことが明らかになってきた。そのような現象も説明しうるプレート境界モデルを構築していくことが、今後の重要な課題であろう。また、地殻活動予測シミュレーションモデル、モニタリング、地殻活動情報総合データベースの連携をより強めて研究を進めていく必要がある。
 内陸地震発生域に関しては、比抵抗と速度構造の両方の分解能が向上し、また震源決定精度も向上したことにより、三者の相関が認められる事例が増えてきた。これにGPS観測から推定される歪速度と、発震機構解や異方性構造から推定される応力分布と併せて、深部モデルを構築するための情報が揃いつつある。今後はデータ解析とモデル構築を同時に進めて、モデルから期待される現象が実際に観測されているかどうか、常に検証しながら研究を進めていくことが効果的であると考えられる。また、多種のデータを併せることにより、地下に存在すると想定される流体の種類や存在形態、量について、推定の幅を狭めることができるようになると期待される。この意味で、跡津川断層や中越地震震源域における各種データの総合的解析が極めて重要である。

(A)
超低周波地震CMT解
(B)

図1
 深部超低周波地震の活動(防災科学技術研究所[課題番号:3002])。(A)深部超低周波地震の震央位置及びメカニズム解(2006年1〜6月)。(B)2006年1月における三重県から愛知県にかけて発生した移動性深部低周波微動、短期的スロースリップ及び超低周波地震活動。


図2
 南海地震の超サイクルを示す津波堆積物(東京大学地震研究所[課題番号:1406])。津波堆積物調査によって得られた大津波の履歴から通常の再来間隔より長い間隔で連動型巨大地震が発生したことが分かった。(左)コア写真と砂層。(右)年代測定結果(暦年補正済み)。


図3
 地震発生サイクル・シミュレーションに基づく地表変位の時空間変化。左:水準路線。中央:水準路線での上下変動。地震の60〜45年前(黒),45〜30年前(赤),30〜15年前(青)の変動量を示す。右:地震発生の約60年前と約15年前の、プレート境界での滑り速度(プレート収束速度で規格化して対数をとったもの)の分布。青は固着域を示す。固着域が狭まっていく様子が見て取れる。(名古屋大学[課題番号:1704])


図4
 地殻・上部マントル系における応力集中過程のシミュレーション(Shibazaki et al., 2007)。東北日本弧に0.2センチメートル毎年で120万年間短縮変形を与えた場合の結果。(a)相当応力(Pa(パスカル))。(b)相当歪み。(c)変位の垂直成分(センチメートル)。(b)図中の矢印は、左から北由利断層、千屋断層、上平断層の位置を示す。DWとOBRは出羽山地と奥羽脊梁山地の位置を示す。(東京大学地震研究所[課題番号:1412])


図5
 一次元地下構造(左)と三次元地下構造(右)のグリーン関数を用いた2003年宮城県北部の地震(ほし)の震源逆解析によって求めた滑り量分布の比較。西傾斜の断層面を仮定した。赤丸は前震と余震。(東京大学地震研究所[課題番号:1407])

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