2.我が国が保有すべき海洋研究船について

(1)海洋研究船に対するニーズ

 海洋に関する研究分野は海洋物理学、地球環境観測、海洋化学、生物海洋学、海洋生物学、極限環境生物学、海洋地学、水産学、海洋工学など非常に多岐に亘るとともに、海洋研究船でなければ効果的かつ効率的に調査・観測できない項目も存在する。海洋研究船の整備に当たっては、それぞれの研究分野の観測に応じた研究施設・設備が求められる。
 海洋における主な研究分野において研究船での調査・観測が特に必要とされる研究項目を例示すると、以下のとおりである。

 その他、南極海や北極海等の極域における調査・観測に際して研究船は十分な耐氷性能が必要である。また、深海底層域、海溝域の大深度での調査・観測、人間活動とも密接に関係する沿岸域・浅海域での調査・観測を行うことも必要である。
 また、将来的には、海洋の長期変動を監視するために中長期的な継続観測を行う定点観測のためのステーションを整備し、併せて当該観測点を維持するために海洋研究船を運用することが望まれる。
 加えて、海洋研究船は海洋研究者・技術者の育成の場でもある。研究船の乗船を通じて海洋学の基礎的観測手法を教員等からの指導を受け、試料、データを自ら解析する作業は海洋研究や若い技術者養成に必須である。また、乗船の研究に従事した国内外との研究者とのつながりが、その後の研究の発展につながり、国際的な研究を展開する場になっている。このようなことを踏まえ、可能な限り多くの学生、大学院生及び教員が乗船を可能とすることが必要である。
 海洋研究船には、以上をはじめとした多様なニーズが存在しており、我が国の海洋研究船全体として、これらの多様なニーズへの対応が求められる。

(2)我が国の海洋研究船が持つべき施設・設備

 以上のニーズを踏まえると、我が国の海洋研究船全体として整備すべき機能、性能を抽出することができる。なお、船舶の施設・設備は、船体に整備される大型の施設(ウィンチ、クレーンなど)と、研究区画等に設置される中型・小型の設備(分析機器など)に分類され、船舶の整備とともに、これらの施設・設備についても計画的かつ継続的な整備が求められる。
 各分野の研究に必要となる主な船上の施設・設備をまとめると、以下のとおりとなる。

 これらの施設・設備に加え、分野によらずに共通的に整備することが求められる機能として、沿岸のそばに深海が存在するという我が国周辺海域の特徴を踏まえた7,000メートル級のウィンチ、観測点における船舶操縦の省力化及び自動化のためのダイナミック・ポジショニング・システム(DPS)があげられる。
 以上の研究施設・設備は、船上で研究を行うことが必要であるという海洋研究の特色を踏まえ、世界最先端の研究設備・装備を常に保持することが重要である。また、船内に研究用の十分なスペースを確保しつつ可能な限り多くの研究者や学生が乗船できるよう、十分な規模を持つとともに、数多くの運用を行うことが必要である。更に、研究船が教育、国際的共同研究に果たす役割を考慮しながら船内設備を整える必要がある。

(3)我が国の海洋研究船が持つべき機能

 我が国の海洋研究は、現在、世界を牽引する水準にある。特に、以下の研究においては世界の中核となり、世界・社会・国民へ貢献してきている。

 これらの研究において今後とも世界最高水準の研究を振興するとともに、新たな課題についても我が国がリーダシップをとりながら発展させていくためには、海洋研究船の整備が不可欠である。
 限られた財源の中、最大限の研究成果を挙げるためには、我が国が整備する海洋研究船は、先端的な観測施設・設備に加え、個々の海洋研究船が持つ固有のミッションを加味した施設・設備を整備することにより、我が国独自の体制を整備することが望まれる。
 国土の周辺に浅海、海溝などが近接する我が国の自然条件を勘案するとともに、我が国が世界の海洋科学技術を牽引して行くことを目標に、我が国の海洋研究船は、以下の規模ごとに整備する必要がある。

 以上の海洋研究船を整備することにより、我が国の海洋調査能力が、我が国周辺を中心とした全域に及ぶことが可能となる。
 また、海洋研究船に以下に掲げる機能を整備し、観測・研究を行うことにより、我が国の海洋科学技術の水準を引き続き向上させていくことが肝要である。

(4)今後の海洋研究船の整備に関する基本的考え方

 海洋研究船の整備・改修は、調査・研究を行う海域、観測・研究内容や最新の観測機器の開発状況を踏まえ、船舶の規模、施設や設備等を検討することにより、体系的に行うことが必要である。また、運航日数は、海洋研究船を利用する研究者の研究機会を左右するとともに、研究する海域を決定し設備の整備にも影響を与える重要な要素であり、運用形態も含め、慎重に検討する必要がある。
 現在、海洋機構が運用を行っている海洋研究船を、その船舶規模、一回の航海あたりの平均運航日数等で分類すると表1のとおりであり、各海洋研究船の特徴をまとめると表2のとおりである。
 これらをみると、各海洋研究船とも研究者のニーズに対応し、最大限の稼動日数を確保しているものの、短期間で沿岸域、近海域を調査・研究することに適した海洋研究船の隻数が少ない状況にある。また、これら沿岸域、近海域を対象としてきた「淡青丸」、「なつしま」は船齢を重ねてきており、これらの海洋研究船がこれまで担ってきた役割を今後も維持・強化するためには、継続的な海洋研究船の整備・改修が不可欠である。
 文部科学省においては、これらの意見を踏まえて、継続的かつ確実な海洋研究船の整備・改修を行うことが期待される。

(5)当面整備すべき海洋研究船

 我が国の周辺海域での調査・研究を行い、特に水産、海洋化学等の多様な科学的データを蓄積することは、我が国の海洋管理、各種資源の確保の観点から重要であり、我が国として早急に取り組むべき喫緊の課題である。
 海洋機構が運航を行っている海洋研究船のうち、沿岸域及び近海域を主な調査・研究対象とする海洋研究船(「淡青丸」、「なつしま」)の老朽化が顕著となっている。
 以上の状況を踏まえ、我が国のEEZ内での機動的かつ詳細な調査・研究活動を行うことを趣旨とし、沿岸域・近海を主たる航海対象とした海洋研究船の整備を最優先で行うことが必要である。
 この当面整備すべき海洋研究船については、多様化する海洋研究船へのニーズへ対応することが求められる。そのため、十分な連続航行距離や研究区画の確保など基本的性能・設備は確保しつつ、各分野の研究機材等は、コンテナにて整備し、航海の内容に従ってコンテナを交換する方式が適当である。
 要求される基本的性能・設備としては、以下のものが想定される。

 また、船上での研究を効率よく行うためには、以下の事項について整備することが必要である。

 その他、以下の事項についても整備することが必要である。

 なお、海洋研究船の整備を行う期間においては、他の海洋研究船の運用を柔軟に行い、研究者への影響を少なくすることが必要である。

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