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4.海洋基盤整備
1.啓発活動
(1)基本的推進方策
   海洋政策を適切に推進するためには、海洋にかかわり合う人材の育成が必要不可欠であるが、我が国は周辺を海に囲まれているにもかかわらず、海洋に関する関心が総じて低いと考えられ、海洋に関する教育・理解増進についても必ずしも十分とは言えない。これまでも、海洋国日本の繁栄を願う日として「海の日」を祝日として、海に関連する様々な啓発活動を行ってきたところであり、引続き学校教育においても海洋教育の推進を図るとともに、国、地方公共団体、学校、企業、ボランティア団体等が協力して海洋を活用した体験活動等を積極的に推進することが重要である。

(2)実施計画
   「子どもたちの海・水産業とのふれあい推進プロジェクト」に基づき、子どもたちが漁村の自然の遊びに親しむとともに、水産業に対する理解を深めることができる地域環境の構築に向けた取組みを推進する。
   また、全国の青年の家、少年自然の家等の教育関係施設において、その地域特性に応じた体験活動が行っており、豊かな海に恵まれた地域にある、若狭少年自然の家、能登少年自然の家、淡路青年の家、沖縄青年の家等の施設では、生物観察、カヌー、釣り、磯遊び等の海洋を活用した体験活動を実施する。
   さらに、大学・大学院や水産系の高等学校等の教育において海洋科学技術の分野や海洋に関する国際・国内ルール等について幅広い知識を有した人材の育成する。
   海洋科学技術全般に関する情報の提供を行うとともに、海洋科学技術に関する文献、資料等の情報を広く収集、管理、提供する。

2.情報流通
(1)基本的推進方策
   海洋に関する基礎的情報は船舶の安全航行、防災、自然環境保護、水産、観光開発等の観点から迅速かつ容易に入手し、利用できるようにしなければならない。
   また、内外の海洋観測データを集約し、多くの利用者が、集約されたデータを円滑に利用することのできる体制を整えることが海洋調査研究を推進する上で不可欠であり、データの品質管理を含めた適切な管理・提供体制の充実、強化を図っていく。

(2)実施計画
・測地データの整備
   海洋空間の有効利用のため、海洋開発機器の整備、海洋データ高度利用システムの整備、海の基本図、沿岸防災情報図、沿岸海域地形図、沿岸海域土地条件図等の整備を引続き行うとともに、「国土空間データ基盤標準及び整備計画」(平成11年3月地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議決定)に基づき、海域・沿岸域に係るGIS(地理情報システム)基盤情報の整備及び更新を進める。
   天体暦の精度維持・向上に必要不可欠な星食・接食観測を引続き行う。離島を含む日本列島の位置を精密に測定し、その動きを把握するための測地衛星による海洋測地基準点測量等、及び地磁気・潮位変化等を測定するための観測を引続き行う。
   また、海域の地殻変動の検出を目指して島嶼・岬等および験潮所でGPS連続観測を実施するとともに、離島・岩礁等においても定期的なGPS観測を引続き行う。
   沿岸や離島の海の基本図の整備等の調査を引続き行う。
   また、沿岸海域地形図、沿岸海域土地条件図を作成する沿岸海域基礎調査を引続き行う。

・高度海洋監視システム(ARGO計画)の構築の推進
   日米をはじめとする関係諸国、世界気象機関(WMO)、ユネスコ政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)等の協力のもとで、全世界の海洋の状況をリアルタイムで把握するために開始されたARGO計画に参加し、最新の海洋観測技術である中層フロートや海洋短波レーダー等による観測及びデータのリアルタイムでの収集・解析・提供を推進する。

・気候変動に関連する観測データ提供
   大気中の二酸化炭素の濃度、ひいては地球温暖化に関わる気候変動の将来予測を行う上で極めて重要なファクターである、二酸化炭素の海洋吸収メカニズムの解明を促進するため、海水中に溶在している二酸化炭素関連物質の高精度なデータを効率的に収集するとともに、データを有効に活用するためのデータベースを構築し、国内外の研究者に対してデータを提供するためのシステムの研究・開発を行う。
   海洋中に溶存している二酸化炭素の収支に関する計測方法や計測機器の研究開発を行い、その成果の国際標準化を図る。
   二酸化炭素等温室効果ガスの観測データの収集、処理、解析、提供を行うため、WMO温室効果ガス世界資料センターを引続き運用する。
   地球温暖化に伴う海面上昇を捉えるため、海岸昇降検知センターを引続き活用する。

・海洋情報・データの収集提供
   海洋情報・データの収集、処理、解析、提供の効率化等のため、日本海洋データセンターの運営を引続き行い、海洋データ高度利用システムを維持・運営する。
   海洋観測ブイシステム等により取得される膨大な量の観測データを適切に管理するための各種データベースの整備と、これと共に国際的なネットワークシステムにより得られるデータを用いてデータ同化を行い、従来よりも幅広い利用者への海洋データの提供を促進するためのシステム構築を行う。
   海洋地球科学に関する観測データ、資料等を含めた電子化情報の集積、発信基地として国際海洋環境情報センターを運用し、地球環境変動研究の促進と、周辺情報技術産業や科学教育現場への情報提供、普及促進を推進する。
   油汚染事故等の事故・災害に対応する措置を効率的に行うための必要情報として、沿岸域に係る自然的・社会的情報の整備を推進する。
   UNESCO/IOC等が海洋観測資料・情報の収集・解析・配布を目的に実施する全球海洋観測システム(GOOS)等、世界主要海域の海洋観測や共同調査研究等に参加し、データの収集等を引続き行う。
   多国間の協力の枠組みである地球観測衛星委員会(CEOS)における情報システム整備活動等を通じて、地球・海洋観測情報システムの相互接続、相互運用性を促進する。
   人工衛星によって得られる海洋データ(水温、水色等)を収集、情報化、提供するシステムの技術開発に引続き行う。
   地球・海洋観測データ伝送・処理・解析の研究を引続き行う。
   また、遠洋航海に従事する船舶の通信の改善のための海上通信技術に関する調査研究を引続き行う。
   海洋地質データベース、海洋鉱物資源データベースの構築及びインターネットによる提供を行う。

3.国際問題
(1)基本的推進方策
   海洋に関する問題を解決するためには、国際貢献と国益の確保の均衡を図りつつ、国際的な協力の枠組み整備や、国際プロジェクトへの参加,開発途上国への支援等の国際協力を進めることが重要である。具体的には,海洋調査,海賊対策を含む航行の安全確保,海洋環境の保全,生物資源の維持・回復と最適利用のため,二国間や地球的規模での国際的な協力が不可欠である。
   海洋は広大であり、その実態解明は一国のみでなしうるものではなく、さらに、海洋に関する科学的知見、データや海洋開発に関する技術は、各国で共通に使うべきものがほとんどである。従って、海洋の調査研究や技術開発は国際協力により行うことが実効的である。近年の社会経済活動の拡大や科学技術の進展の結果、海洋の調査研究や技術開発の多くは大規模化しており、国際協力の必要性は高まっている。
   このため、我が国としては、二国間や国際機関を通じた国際協力の一層の推進や様々な国際協力プロジェクトへの積極的参画等に努める。
   特に国際貢献の観点から、全地球的課題である地球温暖化等の地球環境問題の科学的解明のための海洋観測・調査研究や、海洋汚染防止対策等の海洋環境の保全施策を推進していく上で積極的役割を果たしていく。また、海洋や海底下の実態解明等による科学的な知見の集積は、海洋はもちろんのこと地球そのものを理解する上で重要であり、今後一層関連研究の推進を図っていく。さらに、海洋調査研究の国際的なレベルの向上に積極的に貢献していくために、先進諸外国とともに率先して国際プロジェクトの企画、推進を行うとともに、国際的に魅力的な施設設備の着実な整備に努め、これを海外の研究者と共同に利用する等により、積極的な役割を果していく。
   さらに、我が国は開発途上国における同様の努力を支援するため、資金協力、技術協力、開発調査等による政府開発援助(ODA)の一層の効果的・効率的推進に努めていく。
   海洋開発においては、複数国間の権益の調整が重要であるとともに、多数の国の協力なくしては解決しえない問題もある。このため、第2次世界大戦後から海洋の開発利用に係る国際的なルール作りが進められ、特に今から30年前頃より、科学技術の進展を背景に、新しい海の利用の方法、条件にふさわしい国際法秩序の確立が希求されるに至った。
   このような中で、各国の協力の下、昭和48年から開催された第三次国連海洋法会議の結果、国連海洋法条約が昭和57年に採択され、同条約は平成6年11月に発効した。また、国連海洋法条約第11部の実施に関する協定は、平成6年7月に採択された。
   同条約及び実施協定は、領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚、公海、深海底等における、海洋環境の保護、海洋の科学的調査、海洋技術の発展及び移転、紛争の解決等の海洋に関する諸問題について包括的に規律するものである。
   平成8年には、我が国は国連海洋法条約の締結すると共に、それに伴う国内法の整備を行い、世界でも有数の排他的経済水域を有することとなった。
   また、海洋環境保全に関連する生物多様性条約、気候変動枠組み条約等の新たな国際的枠組みの構築や、国際海事機関(IMO)による海上安全、海洋汚染防止等の諸問題への取組み等が行われており、これらに伴う我が国の権利及び義務を認識し、海洋政策に反映させることが重要である。

(2)実施計画
   日米、日仏、日独等の二国間科学技術協力協定等に基づく国際協力の一環として、米国海洋大気庁、米国ウッズホール海洋研究所、仏国国立海洋開発研究所、独国アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所等との海洋科学技術における研究協力を引続き行う。この他の多国間による国際協力プロジェクトとして、米国等との共同による国際深海掘削計画(ODP)等を引続き行うとともに、ODPの後継計画としての同等の貢献を基本とした統合国際深海掘削計画(IODP)、気候変動の解明等に資するため、全世界の海洋の状況をリアルタイムで把握するARGO計画を推進する。
   西太平洋沿岸諸国の海洋学に関する科学的知識の向上と人材育成に資するため、ユネスコ政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)が行う西太平洋海域共同調査(WESTPAC)へ信託基金を拠出し、データ管理研修、海洋汚染に関するワークショップを実施する等、UNESCO/IOCの各種事業へ参加し、世界主要海域における共同研究等を引続き行うとともに、全球海洋観測システム(GOOS)の構築に引続き参画する。さらに、中国、韓国及びロシアと協力し、北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)を引続き実施する。
   太平洋・島サミット宮崎宣言において日本と太平洋諸島フォーラム(PIF)の共通課題として、海底鉱物資源に関する問題への対処で協力を強化することが取り上げられる等の状況の下、南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC)を通じた太平洋諸島各国からの要請により、太平洋諸島各国海域での海底鉱物資源の賦存状況調査をODA事業として引続き行う。また、環境影響評価を引続き行う。
   多国間共同研究事業である国際深海掘削計画(ODP)及び統合国際深海掘削計画(IODP)への分担金の拠出及び事業への参加を引続き行う。
   海洋環境の保全の重要性から、関係国の協調による行動を推進するため日本、中国、韓国、ロシアの4カ国により採択された「北西太平洋地域海行動計画」(NOWPAP)に基づく、特殊モニタリング及び沿岸環境評価に関する活動を行う地域活動センター(RAC)の活動等の事業に積極的に協力を行うとともに、地域調整ユニット(RCU)の設立による協力体制の構築に向けた活動を推進する。


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