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3. 海洋研究
1.基礎調査研究
(1)基本的推進方策
   未知のフロンティアとして、海洋の動態、生物活動、海底変動等の海洋の諸現象について調査研究することは、人類の知的資産の拡大や国家社会の発展に資するものであるとともに、市民の科学技術への興味関心を高めるものとして重要である。
   また、海洋諸現象の研究によって得られる各種知見や基礎的海洋データは、海洋保全・利用の施策の推進を図る上で根幹となるものである。さらに、これらの知見やデータは地球環境問題を解明していく上でも、地震予知等防災面でも、また、海底の地殻変動やプレートテクトニクスの解明等地球科学技術に関する研究を推進していく上でも不可欠である。このため従前より海洋諸現象とその変動の解明やこれらの予測、海上交通安全、海洋の測地的・地理的情報取得等のための各種観測調査研究が実施されているところであるが、今後これら海洋調査研究の充実、強化を図るとともに、計画的、恒常的、連続的かつ長期的にこれらの知見やデータの取得を図っていく。

(2)実施計画
・船舶等の運航
   海洋調査研究に必要なデータ取得を図るために海洋調査船及び深海調査システムの運航及び共同利用を実施する。

・全球海洋観測システム(GOOS)構築のための基礎研究
   ユネスコ政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)等により、海洋のグローバルな観測網整備を目的とし、開始された長期的な国際共同プログラムである全球海洋観測システム(GOOS)に対して、我が国としても国際的な要請に応えるべく、海洋環境の変動予測、保全のための総合的観測システムの構築に必要な協力を引続き行う。また、GOOSの地域事業として北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)を、中国、韓国及びロシアとの協力により引続き実施する。

・太平洋における総合的な観測研究
   太平洋の海洋観測研究を米国との協力の下で実施する太平洋総合観測研究イニシアティブ(TYKKI)に係る観測研究を引続き行う。

・海洋中規模現象等の研究
   海洋中規模現象の力学モデルの開発を引続き行う。

・海洋物質輸送・物質循環研究
   地球環境変動に対する海洋物質循環の影響解明の研究を引続き行うとともに、近未来の地球環境変動予測のため高精度の過去の水温等海洋環境復元とその変動要因に関する研究を行う。
   また、大陸棚における物質循環に関する生物・化学的研究、海洋における炭素を中心とした物質循環に関する研究及びその動向調査を引続き行う。
   温室効果気体等の海洋上及び海洋中における分布・輸送・循環並びに大気−海洋間交換過程の観測と研究を引続き行う。
   衛星データ及び海洋観測船による高精度観測データを用いた太平洋における炭素循環のグローバルマッピングに関する国際協力研究を引続き行う。

・海洋生物・生態等調査研究
   地球システムにおける海洋生態系の構造と役割の解明として、特に海洋生態系の生物生産と物質循環に係わる生物機能の解明研究及び海洋生物を通じて多様性を生み出すメカニズムの解明研究を行う。
   深海底や地殻内の極限環境下の生物圏に関する諸現象解明に関する研究を極限環境生物フロンティア研究システムにより引続き行う。

・海洋底掘削による海底地殻構造の調査研究
   世界各地の海洋底を掘削し、地殻構造の地球科学的研究を行う国際深海掘削計画(ODP)については、第3期計画に引続き参加するとともに、平成15年途中から新しく開始される統合国際深海掘削計画(IODP)にも、積極的に参加・貢献する。また、IODP実施のために必要な地球深部探査船の建造を進めるとともに、安全かつ効率的な運用に必要な事前調査、運用システム、研究用データベースの構築を行う。さらに、艤装員等の運用管理体制を整備し、運用準備を本格化するために、地球深部探査センターの強化を図る。

・海洋調査船、探査機による深海域の総合的調査研究
   深海調査研究船「かいれい」や無人探査機「かいこう」等を用いた深海域の調査研究を行うとともに、固体地球統合フロンティア研究システムにより、地殻変動や地球内部変動等のメカニズム解明に関する研究を引続き行う。
   また、室戸岬沖等に設置した海底地震総合観測システムによる観測を実施するとともに、深海底ネットワーク総合観測システムの研究開発を引続き行う。

・太平洋における総合的な観測研究
   太平洋地域の島や沿岸地域において、地震、地球電磁気、GPSの観測を太平洋諸国と協力して実施する。

・海洋底及び海底掘削孔内での長期物理観測研究
   太平洋地域の海底と国際深海掘削計画により整備される海底掘削孔内に、地震及び地球電磁気の海底長期観測設備を敷設し、地球深部活動のモニタリングを行う。

・海底地質の調査研究
   地質情報に関する知的基盤整備の一環として、日本周辺海域及び西太平洋海域の海洋地質学的研究を引続き行う。

・海岸モニタリング調査
   広域的な視点からの海岸線変化の状況把握等の調査を引続き行う。

・気象・海象観測研究
   沿岸防災、地球科学研究に資する気象・海象観測研究を引続き行う。地球規模の環境変化に伴う、水循環変化が災害に及ぼす影響を評価する技術の開発・高度化を図るため、基準海面水位の観測等を引続き行う。

・海域重力とジオイドの研究
   日本列島周辺の広域の海面高に関する知的基盤整備の一環として、また、海洋変動の監視の高度化に貢献することを目的として、海域の重力場と海面高(ジオイド)のモデル化の研究を人工衛星重力データ等の活用により実施する。

2.海洋保全・利用のための研究
(1)基本的推進施策
   海洋環境を維持しつつ、海洋を適性かつ効率的に活用するためには、その前提条件として海洋科学を発展・深化することにより得られた知見を、海洋の保全と利用に役立てることが必要不可欠である。
   海洋は、熱輸送、水循環、炭素循環等で気候変動に大きな役割をはたしており、海洋の諸現象を理解することが地球環境問題等の環境問題の解決のために必要である。また、海域で発生する地震・海底火山噴火・津波や高潮・高波は沿岸地域に甚大な災害を及ぼすため、このような自然災害予防・軽減のための研究を進める必要がある。
   また、海洋生物、鉱物、エネルギー等を利用するための研究開発を進める必要がある。
   このような海洋保全・海洋利用等の政策を実施する上で必要な海洋研究については国として積極的に取り組むことが重要であり、研究体制の充実や成果や情報の有機的な利用等を図っていくことが重要である。

(2)実施計画
・地球変動予測のための観測研究
   地球変動予測実現のため,熱帯域における大気・海洋観測研究、海洋大循環による太平洋の熱・物質輸送とその変動に係る観測研究、北極海域における観測研究、海洋の化学環境変化の把握に係る観測研究及び北太平洋時系列観測研究を行うとともに、海洋環境変遷の解明に関する研究を実施する。

・海洋大循環等の研究
   西太平洋における汚染物質の拡散・地球温暖化と密接に関連する海水や熱の長期的な大循環等を把握するため、西太平洋海域共同調査(WESTPAC)を引続き行う。
   気候変動観測・監視業務への活用に向けての海洋データ同化技術の確立を図る。海洋大循環モデルの開発を引続き行うとともに、これを用いて海洋の数十年変動予測に向けた研究を継続する。

・海洋生物・生態等調査研究
   沿岸域における人工干潟の造成のための生態系に関する基礎的な研究及び沿岸海域における生態系変動機構の解明研究を引続き行う。
   日本の亜熱帯海域における海草藻場が環境に与える影響を評価する手法に関しての研究を引続き行う。
   河川から流入するシリカ、リン、窒素等の物質の変動が、海洋生態系に及ぼす影響について調査する。
   海底熱水系やその地下環境に発達した熱水微生物生態系の解明を図るとともに、海洋微生物遺伝子資源の獲得及び解析、その他の環境要因との関係解明等の研究を行う。

・潮汐・潮流・異常水位変動観測・調査研究
   潮汐、潮流等の観測及び解析や高潮、津波対策及び地球温暖化に伴う海面上昇等のための潮汐の観測及びそのデータの即時利用、津波予報等を発表するための地震・津波現象の観測・解析を引続き行う。また、台風による高潮予測のための数値モデルの運用を引続き行うとともに、モデルの高度化を図る。さらに、日本南岸の沿岸水位の短周期変動とその予測に関する研究を引続き行う。
   海岸事業調査として、潮位、潮流等の沿岸海象調査を引続き行う。

・地震予知、火山噴火予知のための海底観測研究
   測地学審議会建議の「地震予知のための新たな観測研究計画」並びに「第6次火山噴火予知計画」に基づく海底観測研究及び海陸境界域観測研究を引続き行う。
   地震活動の詳細な把握を目的として駿河湾等における自己浮上式海底地震計による地震調査観測を引続き行う。日本海溝等において、海底地殻変動観測を引続き行う。また、津波災害発災時における被害軽減のために津波防災情報を整備する。
   海域活断層の履歴及び活動度等に関する評価手法の研究を行う。

・海況観測・予報
   海象等の観測等の水路業務運営、海洋気象観測船の運航及び観測船測器整備、国際海上資料の統計業務、水温と海流の観測と予報、海洋気象ブイロボット業務、エルニーニョ監視予報業務を引続き行う。
   漁海況予報のための研究及び情報の収集を引続き行う。

・沿岸防災気象観測・調査
   沿岸における防災対策に資するための波浪の観測及び予報・警報を引続き実施するとともに、観測データのデータベース化と公開、災害に関連する海洋の波動現象に関する研究を引続き行う。
   港湾整備事業に資するため、ネットワークとしての沿岸波浪観測を引続き行うとともに長周期波や方向スペクトルの観測データの解析を行う。
   沿岸防災気象関連業務として海氷観測・予報及び情報の提供、霧観測を引続き行う。
   また、海氷のデータベースの整備を引続き行う。

3.基盤技術開発
(1)基本的推進方策
   あらゆる分野の海洋保全・利用の推進を図る上で、それを支える科学技術の存在は必須の条件である。深海における高水圧、波浪による衝撃圧、生物付着、腐食、情報伝達障壁等の海洋の持つ厳しい条件下での海洋調査を行い、研究開発の目的に応じた観測データを取得するためには、従来の調査・観測・分析技術の精度や継続性を向上させるとともに、複数の分野の科学技術を総合的に活用して開発を推進する必要がある。また、そのための研究体制の整備、拡充や、各種施設、設備の着実な整備等を進めていく。
   今後、研究開発の新たな展開を図っていくためには、独創的な科学技術の創出が求められているところであり、このような要請にこたえていくため、基礎研究の一層の充実を図るとともに、研究手段の欠如等の理由で従来は困難とされていた分野への研究に取組む等、新たな領域を開拓する研究を行っていく。また、海洋の開発利用と環境保全についてのシステム的な研究等、学際的横断的な研究についても積極的に進めていく。

(2)実施計画
   地球温暖化に伴う海面上昇、異常潮位、砂浜消失等の監視を行うため、ビデオ画像をリアルタイムで取得し、画像解析を行うシステムの構築を行う。
   地球規模での海洋調査研究を推進するため、生物・化学成分自動観測システム等の海洋観測技術に関する研究開発を引続き行う。
   地球環境遠隔探査技術の実用化のため、航空機搭載の高分解能映像レーダ、遠距離海洋レーダ等の高度センサー技術の開発研究を引続き行う。
   海底地殻変動観測のための音波を用いた海底測地技術の高度化及び正確な海況監視等のための衛星データ伝送・処理・解析等海洋観測技術の研究開発を引続き行う。
   海洋調査に係る海洋機器用構造部材、動力源やセンサー等基盤的先進的要素技術について開発を推進する。
   荒天域や氷海中域における長時間、広範囲の海中観測を行うための自律型無人潜水機(AUV)の研究開発を引続き行う。
   地震、津波、地磁気現象を海底において、リアルタイムに観測するための技術開発研究を実施する。
   柔軟な海洋遠隔計測実現のための深海リモートアクセスステーション及び定期船航路リモートアクセスステーションに関する研究開発を行う。
   港湾工事の大水深化に伴う潜水作業の効率化、安全性の向上を図るために水中作業の自動化のための特徴認識技術開発及び水中調査・施工ロボットの開発を引続き行う。
   深海調査研究船「かいれい」、無人探査機「かいこう」、有人潜水調査船「しんかい6500」、深海底の現象を長期連続観測するためのステーション等による深海調査研究を引続き行う。
   また地球環境変動の解明、地震発生帯における破壊メカニズムの解明及び地殻内生命と生物進化の解明等のため地球深部探査船の建造を引続き行う。



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