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第1部   基本的推進方策及び実施計画
   海洋は膨大な量の生物資源、鉱物資源及び石油等のエネルギー資源を包蔵しているばかりでなく、広大な空間を有し、潮流、波浪等の尽きることのない自然エネルギーが存在する場である。また、海洋は美しい景観や親水空間を有しており、国民の価値観の多様化に伴い精神的な充足を求める意識が高まっている中で、海洋は憩いの場、レクリエーションの場等を提供する等、多面的な価値を有している。さらに、近年の科学技術の進歩は、海洋の資源や空間の新たな利用方法を産みだし、この結果、海洋の開発利用が社会経済の発展に貢献する度合は近年飛躍的に増加している。このように、21世紀の日本の発展にとって、海洋開発が果す役割はますます大きなものとなってきている。
   一方、近年の人口増加や経済社会の活動の拡大等による環境負荷の増大は、海洋汚染をはじめとして海洋生態系の攪乱や生物資源の枯渇等を引き起こしている。また、地球温暖化等の地球規模の環境問題が世界的に大きな問題となっているが、地表の約70%を占める海洋はこれらの問題にきわめて密接に関係しており、国際的な連携のもと、科学に基づいて海洋や地球の変動を予測し、有効な対策を行うための政策が要求されている。
   また、国連海洋法条約が平成6年11月に発効し、我が国も同条約及び同条約第11部の実施協定を平成8年6月に締結した。国連海洋法条約は、国際社会における安定した海洋の法的秩序の確立に資するのみならず、海洋に依存するところの大きい海洋国家としての我が国の長期的かつ総合的な国益に沿うものである。
   平成14年8月の科学技術・学術審議会の答申「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」では、地球規模での環境問題に対する社会的な関心の高まり、海洋利用の多様化、国連海洋法条約に見られる国際的枠組みの確立などの海洋を取り巻く社会情勢の変化から「持続可能な海洋利用の実現」を最も重要な海洋政策の立脚点として位置づけており、基本的な海洋政策のあり方として次の3点が示された。

       これまでの海洋の恩恵を享受することに主眼の置かれた政策から「海洋を守る」「海洋を利用する」「海洋を知る」のバランスのとれた政策へ転換すること
  我が国の国際貢献と国益の均衡を図りつつ、国際的視野に立ち,戦略的に海洋政策を実施すること
  総合的な視点に立って,我が国の海洋政策を立案し,関係府省が連携しながら施策を実施すること

この基本的な考え方を踏まえ、我が国における海洋の各分野毎の基本的推進方策及び平成15年度の実施計画を以下のとおり策定する。


1.海洋保全
1.海洋環境の維持・回復及び環境配慮への取組み
(1)基本的推進方策
   健全な海洋環境を実現し、美しく、安全で、いきいきとした海を次世代に継承するためには、海洋環境問題の根本的問題である人間活動に伴う陸域・海域・大気からの環境負荷の削減を図るための具体的な取組みを行う必要がある。特に閉鎖性海域においては水質汚濁に関する環境基準の達成状況は未だ低く、今後ともさらにその対策の推進を図っていく必要がある。
   海洋汚染の発生は、浄化能力を超えた汚染物質等の海洋への流入が主因である。このため、陸域からの汚染物質の流入規制、流入負荷を減少させるための施設の整備等を進めるとともに、国際的枠組みに基づく船舶・海洋投棄等に起因する海洋汚染防止策の推進等に努めていく。特に、産業廃棄物の海洋投入処分の規制強化に対応するために、科学・技術の開発・発展を一層推進する対策を図っていく必要がある。また、海洋浄化のための施策やそのための各種技術開発については、自然エネルギー、海洋自身の浄化能力等を最大限に利用するとの考え方の下にその推進に努めていく。
   さらに、人工化学物質の流入、油流出事故、外来生物種の侵入等は生態系に大きな影響を与える可能性があり、これらを未然に防ぐための取組みを推進していく。
   このような海洋汚染防止対策を進めるとともに、未だ解明されてない点が多い海洋環境問題に関する科学的解明を目指した調査研究を積極的に推進していく。
   海洋環境問題は一国のみの対応では不十分で、国際的取組みが必要な課題であり、国際協力により調査研究、技術開発、規制等を進めていく。
   海浜、干潟、藻場、サンゴ礁等は、生物種が豊富であり、これら生物が行う二酸化炭素、窒素、リン等の代謝が海洋の円滑な物質循環や浄化に重要な役割をはたすとともに産卵や稚魚の成育の場として高い生物生産力を有する。さらに、自然景勝地、野生生物の生息地として国民のレクリエ−ション、自然教育の場となっているなど、人間生活に多くの便益を与えている。このため、これらの海域環境の維持を十分図るとともに、侵食された海浜の回復、干潟や藻場等の保全・再生により自然環境の回復・創造を、多様な主体の参画のもと、今後もより一層積極的に進めていく。
   また、海域の自然環境の保全を図るうえで必要な基礎的なデータを得るとともに、海域環境が炭酸同化作用を有しており大気中の温室効果ガスの収支に大きくかかわっている海域についての基礎的なデータを得るため、これら海域における生態系の解明等の調査研究を推進していく。
   海洋が有する多様な恩恵を後世に継承し、海洋を持続的に利用するためには、海洋開発の実施にあたり、海域の持つ自浄能力や生態系及び良好な自然環境の重要性を認識し、海洋環境の保全に最大限配慮することが必要である。また、今後も、沿岸域の開発における多目的利用や、各地での開発構想が進展していくものと思われるが、これらに対しても適切に対応していくことが必要である。このため、事前評価の実施とともに、その海洋環境に対する影響の重要性に応じて開発前と開発後で海洋環境がどう変化したかを把握し、海洋環境の保全に資するため、開発以前のデ−タ、開発後のデ−タの収集、管理が体系的に実施され、効率良く利用できるよう検討する。また、海洋環境の保全と持続可能な海洋利用、沿岸防災等との調和を図るためには、海洋環境の社会経済的な価値を適切に評価することが重要であり、社会科学的な観点を含む多角的な観点から海洋環境を総合的に評価する手法について検討していく。さらに、海洋資源の開発に関しても新たな海洋汚染を起こさないような所要の技術開発を併せて進めていく。

(2)実施計画
1海洋環境の維持・回復
・閉鎖性海域等の海洋環境問題対策
   閉鎖性水域における水質汚濁に関する調査、閉鎖性海域富栄養化状況調査、閉鎖性海域の環境修復・創造技術の開発と効果検証に関する研究、閉鎖性内湾の環境管理技術に関する研究を引続き行う。瀬戸内海水域の特性を踏まえた有機汚濁機構の解明に関する研究に着手する。
   海域環境の保全を図るため、海面に浮遊するごみや油の回収を計画的に実施する。また、閉鎖性水域の総合的な水質保全対策の検討を進める。
   赤潮や青潮が発生し、環境改善が芳しくない東京湾の環境を改善するため、湾内の生態系を含めた自然環境メカニズムを解明し、環境変動のシミュレーションモデルを整備するため、湾口部における環境観測施設を整備するとともに、環境モニタリング調査結果等の共有や汚染源に対する環境改善対策を推進する。
   平成13年12月に都市再生プロジェクト(第3次決定)の「海の再生」として先行的な取組みが決定され、それを受けて設置された七都県市及び関係省庁からなる東京湾再生推進会議により、「快適に水遊びができ、多くの生物が生息する、親しみやすく美しい『海』を取り戻し、首都圏にふさわしい『東京湾』を創出する」ことを目標に、東京湾再生のための行動計画が平成15年2月に策定された。平成15年度よりこの行動計画に従って、七都県市及び関係省庁が連携して干潟・藻場・浅場等の再生・創造、合流式下水道の改善、河川の直接浄化、人工衛星による赤潮の常時監視等、東京湾再生への取組みを推進する。
   水質総量規制の対象となっている東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海について、水質、底質及びプランクトンについて統一的な手法による調査を行い、汚濁状況の把握を行う。

・干潟・藻場・サンゴ礁の保全
   開発による干潟・浅場の消失は、内湾・沿岸域の水質悪化や生物多様性の劣化等をまねいていると考えられている。このため、残された干潟等を適切に保全するとともに、失われた干潟等の再生・修復が必要である。新たな干潟の創造や劣化した干潟の環境修復技術の確立を目指し、干潟の観測による浄化機能をはじめとした干潟の基礎的な機能や干潟をコントロールしている環境条件等の解明、干潟実験施設や人工干潟のモニタリングによる環境修復技術の開発を行うとともに、人工干潟の造成に欠かせない干潟の地形変化特性について観測を行う。
   また、干潟等の水質浄化機能をはじめとする多様な機能を適切に把握し、簡易に評価するための指針の策定を行う。
   国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターを拠点として、サンゴ礁モニタリングの推進、サンゴ礁に関する情報の収集・提供を行う。
   また、サンゴ礁生態系の保全手法に関する研究、亜熱帯地域での農地からの細粒赤土流出による海洋生態系への影響解明に関する研究及び海中公園地区指定のための調査を行う。
   自然環境保全対策の検討に資する基礎的調査の一環として浅海域の生態系の状況を把握するための調査を引続き行う。

・有害化学物質対策
   「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書(MARPOL73/78条約)」の附属書2に基づく未査定液体物質査定調査、残留性有機汚染物質(POPs)による海洋汚染防止対策の検討、廃棄物投入処分環境影響評価調査及び日本周辺の海洋環境の状況の評価・把握を目的とした生態系の保全を含めた総合的、系統的な海洋環境モニタリング等を引続き実施する。POPsモニタリング検討会で定めたモニタリング調査手法に基づき、POPs汚染の実態調査を全国で行う。
   日本周辺海域、主要湾及び廃棄物排出海域における海洋汚染の調査及び西太平洋、日本周辺海域における海洋バックグランド汚染の観測を引続き行う。
   さらに、内分泌かく乱物質による水産資源への影響の状況把握のための調査等、ダイオキシン等の有害物質の蓄積状況の把握、魚介類への蓄積メカニズムの解明に資する調査を引続き行う。
   船底塗料用防汚物質の海水中における物理的・化学的挙動の解明に関する研究及び水産生物に対する有毒性の解明及び環境保全目標に関する研究を引続き行う。
   港湾内の堆積物に蓄積する有害化学物質は、人への影響が懸念されており、合理的な底質管理手法の提案を目指し、化学物質汚染の実態調査、部微細留粒子の挙動解明等を行い、堆積物中の化学物質の分布予測モデルを構築する。また、港湾の底に堆積する高度濃度のダイオキシン類を含む底質を除去するための事業を行うとともに、この浚渫土砂を大量に処理するための技術開発を行う。ダイオキシンの鳥類、海生哺乳類等の野生生物の蓄積状況や、人への暴露実態を調査する。
   人の健康や生態系に潜在的に有害な影響を及ぼす可能性のある化学物質が、大気、水質、土壌等を経由して環境の保全上の支障を生じさせるおそれ(環境リスク)の定量的な評価を行う。
   環境に影響を与える恐れがある未規制物質について、問題が具現化した際の速やかな対応に資するため、標準的な分析方法を開発する。

・砂浜の消失防止
   防災上の機能と併せ、環境や利用の観点から良好な空間としての機能を有する砂浜の消失を効果的に防止するため、沿岸漂砂の特性の長期的な観測を行う。また、都道府県が沿岸ごとに海岸保全基本計画を策定する際の参考となるよう、広域の土砂収支図を作成する方法を開発するとともに、海岸侵食対策等に有効な地形変化の数値シミュレーションモデルの改良を行う。
   さらに、土砂収支の不均衡を是正するために有効な手法として、漁港、港湾やその周辺等に堆積した砂を海岸侵食箇所へ効果的、効率的に輸送・排砂するサンドバイパス工法の研究開発を行う。

・油流出汚染対策   
   流出油防除体制を強化するため、大型浚渫兼油回収船の整備を行う。
   特に、極東地域における油汚染対応体制の強化を図るため、韓国等近隣諸国との国際協力を引続き進めるとともに、より精度の高い漂流予測を行うため、リアルタイムデータの充実と漂流予測手法の高度化の推進及び波浪海域、氷海域での油回収技術の研究、荒天下における航行不能船舶の漂流防止等に関する研究を行う。
   また、大規模な油防除活動を的確に行うために必要な沿岸海域環境保全情報の整備等を進める。
   さらに、油汚染の漁業被害を最小限とするための情報収集・整備及び油処理剤が環境に及ぼす影響についての調査、流出油等の海洋汚染物質を迅速に把握するためのライダー技術の研究、微生物による流出油漂着海岸の環境修復技術に関する研究を引続き行う。

・発生負荷削減の取組み
   汚染物質の除去等の海域浄化対策事業、流域別下水道整備総合計画に関する基本方針策定調査や海洋等への汚濁負荷削減を目的とする下水道事業等を引続き行う。
   巡視船艇・航空機を用い船舶等からの油等の不法排出の監視取締りを行う。また、工場廃水の不法排出や廃棄物、廃船の不法投棄の監視取締りを行うとともに指導等によりこれら適正処理を促進する。
   船舶用公害防止機器の研究開発及び海洋汚染防止のための船舶の構造等の改善に関する技術基準の作成及び調査研究、船舶からの大気汚染物質及び温室効果ガス排出低減技術に関する研究、船舶からの油流出防止に関する研究、損傷船舶等の曳航技術に関する研究、有害排出物低減のための研究を引続き行う。
   陸域由来の環境負荷変動に対する東シナ海の物質循環応答に関する研究、亜熱帯地域での農地からの細粒赤土流出防止技術の確立に関する研究を行う。

・海洋浄化
   海洋環境を改善するため、汚泥浚渫(しゅんせつ)や汚泥上への覆砂等を行う海域環境創造事業を推進するほか、海面に浮遊するゴミ・油の回収事業を引続き行うとともに、水域環境の改善のため漁港水域環境保全対策事業を引続き行う。加えて、漁業集落排水施設整備のため漁業集落環境整備事業等を引続き実施する。
   漁場環境の状態を把握するための漁場の長期的な環境監視調査等を実施する漁場環境監視等強化対策事業を引続き行う。
   海洋における浮遊ゴミ、流失漁具等の廃棄物及び流出油の実態及びこれによる海洋生態系や漁業資源への影響を引続き調査する。
   海水交換型防波堤等の海水浄化技術の開発、付着生物及び底生生物の有機的除去能力及び潮汐作用等を利用した海域浄化技術の開発を引続き行う。
   ヘテロカプサ等の有害プランクトンにより引き起こされる赤潮被害防止のための、技術開発等を引続き行う。
   衛星データ等を活用したアジア・太平洋地域における統合的モニタリング、評価体制を構築するとともに、北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)に基づき、富山に衛星データ受信局を設置し、海洋環境のリモートセンシング手法を開発及び実施する。
   沿岸環境の水質悪化のメカニズムの解明及び浄化手法の研究開発を実施する。

・海洋環境影響評価技術開発研究
   生態系の定量的評価の確立に向けた取組み、生物の多様性や景観、ふれあいの場についての環境影響評価の検討、環境影響の回避・低減・代償措置を含む環境保全措置(ミティゲーション)の技術的・制度的手法の向上に関する取組みを行う。
   浅海域の底質、生物、干潟等を含む総体について、生物生産性及び物理化学的な観点からの物質収支やその循環、相互バランス等から、定量的に海域の健全度や疲弊度等を評価する手法の開発を行う。
   原子力発電所等周辺の主要漁場等における海洋環境放射能総合評価等を引続き行う。海域の放射能調査等に資するための海洋モニタリングシステムの開発、原子力発電所周辺の環境モニタリングの充実を図るための海洋モニタリングシステムの整備調査、人間活動による海洋への影響を解明するため船舶による海洋汚染モニタリングを引続き行う。
   広域の海洋汚染の海洋生態系への影響評価手法として、海棲ほ乳類等の長寿命動物を用いたモニタリング手法に関する研究を引続き行う。
   海洋環境の生物学的側面からの評価、診断を充実させるため、微生物群集を対象とした解析技術の開発を行う。
   海砂利採取等に伴う地形・底質・生態系変化等の影響評価手法に関する研究を実施する。
   さらに、広域及び長期の海洋環境の変動を観測・予測するために、航空機、海洋観測衛星、開口合成レーダ、海洋レーダ、ライダー及びブイを用いた海洋環境評価手法の開発研究を引続き行う。
   海水、海底土等の海洋の放射能調査を引続き行う。
   遺伝毒性を指標としたバイオセンサー系の開発に関する研究を引続き行う。

・沿岸域の海洋保全の取組み
   海岸における生態等の環境情報を収集・整理するためのマニュアルづくりの検討を進めるとともに海岸でのゴミの実態を把握するための調査を推進する。海浜生物の生息環境について、ボランティア等と連携した定点調査の活動支援に努める。また、一般市民等への海洋環境保全の思想の普及啓発のため、地方公共団体・企業等が行う海岸の清掃活動に参画するほか、海上及び海岸漂着物の調査結果をまとめ、「ゴミマップ」として公表を行う。
   また、海浜の美化、漁場におけるゴミ等の廃棄物の回収・処理、漁業操業時に入網したゴミの持ち帰り処理等を引続き推進するとともに、ボランティア等が行う海浜美化活動、生態系保護・育成活動等を支援する。
   さらに、ボランティアの清掃活動等で他の規範となる個人・団体への表彰を引続き行う。

・バラスト水による外来生物種侵入防止対策
   船舶のバラスト水中に混入するプランクトンなどの各種生物が本来の生息地でない場所に移動させられることによる生態系や人間の健康への被害防止等を目的として国際海事機関で新条約の策定のための審議が行われていることに対応し、早期の条約策定に向けて我が国で実施されている生物処理装置開発状況等を踏まえて具体的な条文の提案を行う等国際的な協力を進めていく。

2海洋環境に配慮した取組み
・海岸保全における環境配慮
   海岸周辺において生息生育する動植物や景観に配慮した、環境にやさしい海岸保全施設等の整備を引続き推進する。

・港湾整備における環境配慮
   環境と共生する港湾(エコポート)の実現に向けた取組みとして、良好な海域環境の創造を図るための底質の除去や覆砂、海浜の整備等を実施するとともに、生物・生態系にも配慮した環境を形成するため、干潟や藻場の再生・創造等を図る自然再生事業を積極的に推進する。
   「マリンエコトピア21」構想に基づき、指定地域ごとに策定した全体計画により、漁港環境整備施設、沿岸環境緊急回復、漁業集落排水施設整備等の事業を総合的、計画的に引続き実施し、また、漁港における水産資源の保全を図るために、海水交流機能を有する防波堤等の整備、水産動植物の生息・繁殖が可能な護岸等の整備並びに自然環境への影響を緩和するための海浜等の整備を総合的に行う自然調和型漁港づくり推進事業を引続き行う。

・海洋資源利用における環境配慮
   水産加工における廃棄物再資源化、環境に悪影響を与えることなく漁網や船底への生物付着を防止する技術の開発等を引続き行う。
   また、緊急度が高く調査可能な希少水生生物について、現地調査・保護手法検討に着手するとともに、国際的に問題とされているサメ類・海鳥の混獲に対処するため、サメ類の保全、管理及び海鳥の混獲の実態調査、海鳥混獲回避装置の実証試験、混獲対策に関する行動計画の策定を実施する。混獲問題に的確に対処するための漁具・漁法の開発等による新たな操業形態の検討等を行う海洋生態系保全型漁業確立実態調査を引続き行う。
   海洋石油開発等に伴う環境影響調査で得られたデータの取りまとめを行う。

2.地球環境問題への取組み
(1)基本的推進方策
   地球温暖化等の地球規模の環境変動に伴い、海面上昇、高潮等の災害、水産資源の変動等の食糧問題、サンゴやマングローブ消失等の環境への影響等が危惧されており、これらの問題に適切に対応することが重要である。
   地球温暖化等の地球環境問題に対応して、地球規模の環境保全施策の推進を図るには、地球全体を統一的な体系として捉えた上でその基盤となる諸現象の解明を行う必要があり、このため、地球規模での気候システムに大きな影響を与えている海洋に関する知見を蓄積することが必要不可欠である。また、地球的規模の環境変動に伴う海洋環境自身の変化を予測するためにも海洋に関する知見の蓄積が求められている。このような観点から、地球規模の海洋現象とその変動の解明及びその予測を可能とするために、全球規模の観測手段を適切に配置し、長期観測の実施により海洋現象を定常的に観測してその長期トレンドを捉え、また、関係機関の能力を結集した集中観測の実施により、特定の海洋現象のメカニズムを解明するという2種類の取組みを効果的・効率的に推進していくことが極めて重要である。
   このようなグローバルな観点から研究を進めていくべき分野に関しては、国際的な協力体制の下に進めていくことが不可欠であり、特に北西太平洋を中心とする海域において海洋観測・調査面で積極的な役割を果していくとともに、先進諸国との協力や広大な水域を有するアジア太平洋諸国との協力を進めていく。

(2)実施計画
・地球変動予測研究
   地球温暖化、異常気象等の地球規模の変動現象の解明とその予測の実現のため、海洋地球研究船「みらい」や深海調査研究船「かいれい」等による海洋観測研究を実施するとともに、地球フロンティア研究システム等により、気候変動予測、水循環予測、地球温暖化予測、大気組成変動予測、生態系変動予測及び統合モデルの研究を引続き行う。また、従来の観測で取得し得なかったデータのより効果的な取得を目指した地球観測フロンティア研究システムを引続き推進する。エルニーニョ監視予報業務を引続き実施する。また、数値モデルの技術開発を引続き行う。
   さらに、地球変動予測のためのシミュレーション研究を効率的かつ効果的に推進するために、世界最速の計算能力を有する計算機「地球シミュレータ」の安定・効率的な運用や研究開発及・研究支援等を行う。

・炭素循環機構の解明
   地球温暖化に影響を及ぼす炭素循環機構を明らかにするため、衛星データを用いて海域、陸域の炭素循環に係わるパラメータの分布を観測し、一次生産および関連諸量について、グローバルマッピングを引続き行う。また、海洋地球研究船「みらい」等により日本周辺及び赤道太平洋等の精査海域において、高精度の観測を実施し、炭素循環のメカニズムの解明を行うとともに、衛星データのバリデーションの精度の向上を目指す。また、太平洋域の人為起源二酸化炭素の海洋吸収量解明に関する研究を引続き行う。さらに放射性核種を標識とした調査を行い、炭素循環の諸過程を定量的に解明する。

・海面上昇への対応
   験潮所の地心絶対高を人工衛星レーザー測距等の宇宙技術を用いて検出する調査、海面水位変動メカニズムの解明及び影響に関する研究、海水面上昇を験潮と汎地球測位システムや超長基線電波干渉計等の測地学的な手法を使って検出する研究を引続き行う。また、地球規模で地球温暖化に伴う気象・海象変化による国土への影響が懸念されている現状を鑑み、21世紀の日本が確保すべき国土の安全性への要請に応えていくために、地球温暖化に伴う気象・海象変化に対応した国土保全のあり方について検討を行う。

・二酸化炭素海洋隔離技術の開発
   陸上で発生する二酸化炭素の海洋溶解、深海貯留など海洋を二酸化炭素処理の場として利用する技術を引続き検討する。また、このような二酸化炭素の海洋隔離法の環境影響評価に係る研究開発を引続き行う。太平洋地域における人為起源CO海洋吸収量の解明、海水中の鉄濃度調整による海洋CO吸収機能の強化に係る研究を引続き行う。




 


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