5.事前評価後の深海地球ドリリング計画に対する評価

5.1 深海地球ドリリング計画に対する評価

 航空・電子等技術審議会による評価後の深海地球ドリリング計画への取組みについて、これを推進してきた国内の関係者より説明を受け、以下の結論を得た。

5.1.1 地球深部探査船に関する取組みについて

 我が国が初めて主導する大型国際研究プロジェクトであるIODPの主力掘削船として、重要な役割を担う地球深部探査船「ちきゅう」の性能及び関連施設の運用環境について評価を行った。

(1)「ちきゅう」の建造

1 「ちきゅう」の性能と研究者の提案の反映状況

 地球深部探査船「ちきゅう」は、平成13年4月から建造が行われ、平成17年7月に完成した。その仕様については、掘削船技術及び深海掘削研究に関し高度な知見を有する学識者等からなる委員会を機構に設置し、船型、掘削システム、研究設備といった基本的な事項について、最新の技術動向、研究ニーズ等を踏まえ検討された。結果、「ちきゅう」は科学掘削船として初めてとなるライザー掘削方式、自動船位保持システム(Dynamic Positioning System:DPS)等の採用によって、航空・電子等技術審議会で適当と評価された性能(水深2,500メートル(最終的には4,000メートル)において海底下7,000メートルまで掘削)を満足する船となっているものと考えられる。また、「ちきゅう」の建造にあたっては、機構に外部の有識者からなる建造に関する重要事項の審議のための委員会を設けること等により、研究者・運航者等の立場からの意見を聴取し、様々な地殻の連続コアリング、採取したコアの研究のための最新機器の搭載、機器の最適配置の検討等、必要な措置が講じられた。この結果、「ちきゅう」は研究者・運航者等の提案が十分に反映されたものとなっていると評価できる。
 今後、その性能を試験運用において確認するとともに、国際運用に向けて着実に準備を進めることが必要である。さらに、科学者のニーズに応え、海洋底を掘削して、地殻とマントルとの境界(モホロヴィチッチ不連続面)を貫くため、「ちきゅう」の試験運用及び国際運用を通じて、機器開発及び運用技術の検討を行っていくことで、水深4,000メートル級での大深度掘削の世界に先駆けての実現に向けて取り組むべきである。

2 「ちきゅう」の建造体制とコスト

 「ちきゅう」の建造会社については、機構が、有識者により構成される委員会を通じて、十分な実績・経験に裏付けられた高度な技術力と、「ちきゅう」に整備されるべき機器に関わる国内外の企業等をとりまとめる管理能力を有し、確実に事業を遂行できる建造所として三菱重工業株式会社を選定した。三菱重工業株式会社の一元管理のもと、船体、DPS等については、これらに特に詳しい三井造船株式会社が、掘削関連機器については外国の企業が担当する等、効率的な体制で建造を行った。このように、外国の技術を日本に集め、世界最先端の科学掘削船を造るという、自前の技術体系の構築にも十分に配慮を行った。建造中には各年度において、機構が実績、見積書、公的統一単価等に基づく検討をもとに各種費用を算定のうえ、建造会社と契約を行うことで適切な費用で建造されるよう絶えず確認を行ってきた。これらのことから総合的に考えると、「ちきゅう」は、我が国に技術力が蓄積するような建造形態を確保しつつ、IODPの科学目的を達成するうえで必要な性能を満たすため、適切な体制で建造されたと認められ、その建造費用約600億円は適切であったと評価できる。

(2)「ちきゅう」及び関連施設の運用環境

1 効率的な運用体制の整備

 「ちきゅう」は、150名もの乗船人員及び掘削関連機器、船位保持装置、アジマススラスター等非常に特殊な機器を搭載しているため、その運用については、円滑な運用体制を確保するために十分な検討が必要である。このため、船の運航部門、掘削部門ともに、「ちきゅう」の艤装に携わり、それぞれの分野において十分な実績を有する国内外の会社の人材が配置されることとされており、「ちきゅう」の円滑な運用に必要な体制が備えられていることは評価できる。
 試験運用当初においては、機構が「ちきゅう」を自ら運用しながら必要な知見等を蓄積し、その知見に基づき、以後の運用者を含む運用体制を適切に定めるという段階的取組みも、より効率的な運用体制を求めるという姿勢として妥当であると認められる。将来的には、ノウハウの蓄積等によって、さらに効率的な体制を検討することが重要である。

2 安全な運用体制の整備

 「ちきゅう」は世界を舞台として航海し、高度な技術を要するライザー掘削を行うため、安全については特段の配慮が必要である。「ちきゅう」の運用における安全管理については、石油業界で採用されている労働安全衛生及び環境保全管理システム(Health, Safety & Environment-Managing System:HSE-MS)を導入し、これにより、目標管理、継続的改善、教育訓練、リスク管理、緊急事態対応等を含む統合的なマネジメントを行っている。各種作業については、マニュアルの作成・更新及び「ちきゅう」の全乗船者への教育訓練を徹底している。また、安全な研究航海の実施のため、掘削実施計画作成に必要不可欠な掘削海域のハザードを含めた地質の把握を事前調査として行っている。緊急時の対応については、事故等を想定したシミュレーションを繰り返し行うことにより、緊急時の組織体制、連絡体制等における不備の洗出し及び改善を行っている。さらに、環境保全については、船上における廃棄物の取扱いへの留意等海洋汚染の防止に関して、「環境管理計画」、「海洋汚染防止計画」等に即して取り組んでいる。これらのことから、「ちきゅう」の安全な運用のための総合的な体制が適切に構築されているものと評価できる。今後も安全に十分に配慮した体制のもとで航海が実施されるよう、絶えず注意することが必要である。
 なお、「ちきゅう」は、1で述べられている特殊性からその保守整備には多くの労力を要する。このため、航海中の故障等不測の事態により、その安全性が脅かされることのないように定期的及び日常的に保守整備を行うことが重要であり、これにより「ちきゅう」の継続的な運用を可能とし、効率的運用にもつながるものと考える。

3 研究支援体制の整備

 「ちきゅう」の船上研究支援体制の整備については、機構が我が国の科学コミュニティ、IODPの科学諮問組織(Science Advisory Structure:SAS)、外部有識者による委員会等の意見を検討・反映しつつ取り組んでいる。これにより、機構に研究支援を担当する部署を設けること並びに研究及び機器運用に精通した優れた人材を「ちきゅう」に配置することによって、各種データ管理、分析・解析機器の保守整備等を行う体制の構築が進められている。このように、「ちきゅう」がコアを適切に処理し、その分析・解析を行う「海の上の研究所」として機能するために取り組んでいることは評価できる。今後、機構は国際運用までにその体制を確立し、人材の育成等長期的な体制の維持・発展にも必要な措置を講じていくべきと考える。

4 海洋コア総合研究センターの整備

 高知大学海洋コア総合研究センターは、米国及びドイツのコア保管施設とともに、ODP、IODP等により採取されたコアを保管・分析・解析するための陸上研究施設であり、2003年4月に整備され、機構と高知大学によって運営されてきた。海洋コア総合研究センターでは、コア120キロメートル分を適切な温度下で冷蔵・凍結保存するための冷蔵・冷凍保管庫に加えて、採取されたコア等の試料の基礎解析はもとより高度な解析を要する研究まで、世界最先端の研究を一貫して実施することを可能とする研究機器が設置されており、必要な整備が行われていると評価できる。また、機構の関連研究部門が海洋コア研究センター内に移設され、研究実施体制の構築にも取り組んでいる。今後は、IODPのコアに関する分析・解析の中核的な施設として機能するための体制の充実に取り組むことが重要である。

5.1.2 IODPの構造と我が国の取組みについて

 IODPは、我が国が提供する「ちきゅう」(ライザー掘削船)と米国が提供する従来型掘削船(ノンライザー掘削船)を主力掘削船として、統一した科学目的のもとで複数の科学掘削船を相互補完的に国際運用する計画である。この新たな大型研究国際プロジェクトの意義、主導国としての我が国の取組み、国内における関連研究の推進体制について評価を行った。

(1)IODPの意義

1 科学目標とその意義

 IODPの目的は、深海掘削を用いて地球システム変動についての科学的調査を行うことであり、その科学目標は「IODP初期科学計画」(Initial Science Plan:ISP)において確認されている。ISPにおいて国際的に確認されたIODPの科学目標は地球環境変動解明、地球内部構造解明及び地殻内生命探求を三大テーマとしたもので、詳細は以下のとおりである。

○地球環境変動解明
a)極限気候環境
 IODPでは、深海掘削によって得られる堆積物の高精度連続記録を解析し、極限気候環境時の地球システムの状態を把握することで、氷床形成及び寒冷化のメカニズム並びに温室地球への移行原因の解明を目指す。
b)急速な環境変動
 a)と同様に、深海掘削によって得られる堆積物の高精度連続記録を用いて、短期間での環境変動の原因の解明を目指し、近未来の環境変動予測に用いる。

○地球内部構造解明
c)地震発生帯
 IODPでは、地震発生帯の掘削を「ちきゅう」を用いた最初の研究航海の対象と位置づけており、海溝型巨大地震発生域の物性の理解及び長期孔内計測による微小変動のモニタリングによって、地震発生過程の解明を目指し、地震予測手法の開発に用いる。
d)大陸分裂と堆積盆地の形成
 地球システムの進化に重大な影響を与える大陸分裂及び海洋底拡大の原因を理解する目的で、分裂及び拡大の初期過程の詳細を把握し、大陸の縁辺部の構造及び堆積盆地の形成のメカニズムの解明を目指す。
e)巨大火成岩岩石区
 海洋域に存在する巨大な火成岩体の成因及びその形成と地球環境変動との関係の解明を目指す。
f)マントルへの掘削
 海洋地殻全体の組成及び構造の解明並びに固体地球の80パーセントを占めるマントルの特性を把握することは、地球の進化を理解するために不可欠であり、地球深部探査船を用いて海底下7,000メートルのマントルまでの到達を目指す。

○地殻内生命探求
g)深部生物圏
 地殻内には地表に匹敵する量の微生物が存在し、それらが生命進化を理解する鍵を握っている可能性が高いと考えられている。また、有用性の高い遺伝子資源を持つ地下微生物の発見も期待されている。
h)ガスハイドレート
 海底下には、大量のメタンガスがガスハイドレートとして濃縮されている。この分布状態、地殻内微生物の活動との関連を含む形成・分解過程及び地球環境への影響の解明を目指す。

 これらは、航空・電子等技術審議会で評価された科学的目的ともその方向性は一致しており、IODPは、我が国の国民の関心も高いと思われる環境変動、地震発生機構、ガスハイドレート等の理解を含めた地球と生命に関する広範囲な科学分野に大幅な前進をもたらすと考えられる。ISPの策定にあたっては、我が国研究者も積極的に参加し意見が反映されており、我が国にとってIODPは利益のあるものとなっていると認められる。今後は、IODP参加国がISPの達成のために必要な方策を常に意識しながらIODPを推進するように、我が国が主導していくべきである。
 また、IODPでは、「ちきゅう」と米国が提供するノンライザー掘削船を主要掘削船とし、欧州が提供するMSPを加えた複数の掘削船を用いることとなっている。「ちきゅう」が国際運用された後は、掘削の目的、目標深度等に応じてこれらの掘削船を計画的に運用するとともに、必要に応じて一つの科学目標達成のために特徴の異なる複数の掘削船を利用し、重点的に調査することも可能になり、我が国を含むIODP参加各国の研究者が科学目標を効率的に達成するために適切な体制となっていると考えられる。

2 社会・経済への波及効果

 IODPにおいて、「ちきゅう」を運用することによる我が国の社会・経済に対する波及的効果も大きいものと考えられる。特にIODPで行われることが有力な「ちきゅう」の南海トラフ等における研究航海により得られる試料を用いた研究を通じ、海底ケーブルネットワークとの連携による地震発生予測及び緊急通報による地震防災、気候変動モデルの検証による将来予測の精密化等の科学的成果を用いた実用分野の発展が期待される。また、世界を舞台として最先端の掘削技術を駆使して活動を行うことにより、極限環境における観測や大水深石油掘削、鉱山掘削等に関する技術開発・人材育成にも貢献するものと考えられ、これらの発展が多分野にわたって与える影響は大きい。さらに、大深度掘削での物質採取による科学的知見の蓄積は、医薬品等に利用可能な有用物質の採取を含むバイオテクノロジーの発展、メタンハイドレート等エネルギー資源ポテンシャルに関する開発等へ貢献することも期待される。

 上記1及び2のとおり、IODPは我が国にとって、十分に意義のあるものであると評価できる。

(2)IODP主導国としての我が国の取組み

1 国際的なIODP推進体制の構築

 IODPの枠組みは、IODPに参加の意志を表明する各国が集まった会議で協議された。この会議は、文部科学省がNSFと共同で議長を務め、これまで米国中心で進められてきたODPが、IODPとして日米主導の計画となるように調整が行われた。この結果、平成15年4月に文部科学大臣とNSF長官が署名した「統合国際深海掘削計画(IODP)のための協力に関する日本国の文部科学省とアメリカ合衆国の国立科学財団との間の覚書」が締結され、日米が対等なリーダーシップを発揮する仕組みが決定された。これにより、平成15年10月にODPが終了し、IODPが開始され、平成16年3月には欧州が、平成16年4月には中国が日米と覚書を締結し、IODPに参加した。
 IODPでは、各国を代表する科学者及び技術者により構成されるSASが、IODPの科学計画について長期的な指針を提示し、かつ国際的な科学コミュニティからの掘削計画提案に基づき、年間科学技術計画を中央管理組織であるIODP国際計画管理法人(IODP Management International, Inc. :IODP-MI)に勧告する。IODP-MIは、この年間科学技術計画に基づく掘削船の運用計画をその実施機関に作成するよう要請し、これを統合してIODP年間事業計画案を作成することとなっている。日米両国はこの年間事業計画案の承認の権利を有するほか、中央管理組織、SASの運営等においても、両国が同等に主導し、表明する意見が反映される枠組みとなっている。また、IODP-MIは札幌の北海道大学内に科学支援部門、ワシントンに計画管理部門を担当する事務所を置いている。
 総じて、我が国が主導する初めての大型国際研究プロジェクトとしてIODPの枠組みを構築してきており、その取組みは評価できる。

2 アジアを中心とした諸外国のIODPへの参加促進及び連携

 諸外国のIODPへの参加促進及び外国人研究者との連携により、IODPをより国際的なプロジェクトとして発展させることは、IODPの主導国である我が国が取り組むべき重要な課題であり、国際貢献の観点からも科学先進国である我が国の責務である。このことは、地球規模での掘削調査を必要とする科学の発展に不可欠であり、プロジェクトの運営においては、研究航海実施の円滑化、我が国のIODPに関する費用負担の減少につながる。特に、アジアを中心とした外国人研究者との連携については、アジア地域におけるIODP関連研究の促進及び基盤強化につながるため、我が国がアジアの地球科学・生命科学及び関連技術の発展に貢献し、主導していくという観点から重要である。我が国は、IODP発足前から研究者が諸外国でIODPへの参加を呼びかけるキャンペーンを実施する等、各方面からの働きかけを行ってきた。また、IODP開始後も、継続的に国際シンポジウムの開催、国際学会での普及広報等に努めており、これらの取組みは評価できる。今後も、我が国が、諸外国のIODPへの参加促進及び連携について、積極的に取り組むべきである。ただし、IODPへの我が国の貢献に見合うだけの科学的・技術的成果が我が国に十分に還元されるよう、戦略的に取り組むことが必要である。

3 世界的研究拠点の提供

 我が国は、世界唯一のライザー掘削方式による科学掘削を可能とする「ちきゅう」及び採取されたコアを保管・研究する海洋コア総合研究センターというIODPの遂行において大きな役割を担う施設をIODPに提供することで、ハード面において強くその存在をアピールできているものと評価できる。今後はそのハードの活用を含むソフト面で参加各国をリードしていくことが重要である。

4 IODPへの参加に関する取組み

 我が国は、IODP関連会合において米国と同数の委員数を確保するとともに、議長・副議長・共同議長の責務を米国と同等に負う等の役割を担うこととなっており、現在までも多くの我が国研究者がIODP関連会合に参加していることは評価でき、その研究者の活動は業績として高く評価されるべきである。
 しかしながら、現状においては、我が国研究者のコミュニケーション上の問題、深海科学掘削に関する経験不足等から、まだ会合における議論を十分に主導しているとは言い難い状況であると考えられる。今後は、会合の運営方法に関して我が国の委員の意見が適切に反映されるような方策、会合に参加する委員のモティベーションを高めるための方策、会合前の十分な検討を委員に促すための方策等、我が国の委員がより積極的に参加することが可能な体制を確立する必要がある。また、IODP-MIの理事会、SAS等の活動の重要性について、これまで以上にIODP関連研究者の所属機関に理解を求め、これらの関連会合への委員等の派遣を継続し、IODPをリードする人材の育成を行うべきである。
 乗船研究者の派遣に関しては、我が国は米国と同等の権利を有しており、我が国の研究者は米国及び欧州が提供する掘削船による研究航海に参加し、共同首席研究者としても活動していることは評価できる。しかしながら、乗船研究は長期間に及ぶこと、乗船地までは自らの責任で行かなければならないこと等から、研究者にとって負担を伴うものである。乗船研究は、IODP関連研究の推進、将来のIODPを主導する人材の育成等の観点からIODPへの参加において最も重要な活動の一つであり、我が国の研究者が今後とも継続して研究航海に参加できるよう一層配慮されるべきである。

(3)国内におけるIODP関連研究の推進体制

1 国内研究者組織の構築

 機構は研究者による委員会を設置して、過去の検討をもとにIODPの科学目標の中で我が国が特に重点的に取り組むべき課題について、平成14年11月に「地球システム変動の解明を目指して-IODPにおける我が国の科学計画」を作成した。その後、IODPにおける科学計画検討・掘削計画提案を推進し、IODPを通じた地球科学、生命科学の発展に最大限貢献するための国内研究者組織として日本地球掘削科学コンソーシアム(Japan Drilling Earth Science Consortium:J-DESC)が平成15年2月に設立された。J-DESCは、掘削研究及び関連研究の発展に伴う先駆的な研究の推進を目的として、平成16年3月に「IODPにおける我が国の科学戦略-掘削提案の実現に向けて(1)」を新たな国内の統一目標として策定し、セミナー及びシンポジウムの開催等国内のIODP関連活動の推進に組織的に取り組んでいる。また、J-DESCは、IODP関連会合の委員及び乗船研究者の推薦等の研究活動における国際的な調整というIODPへの参加に不可欠な役割を担っている。このように、IODPを主導するための研究体制の構築が進められ、継続的な検討が行われていること及びこれらの活動にJ-DESCを代表する研究者が主体的に取り組んでいることは評価できる。今後もJ-DESCを中心に、国内研究者のネットワークによる新しい科学計画策定等に取り組むとともに、関係者はJ-DESCと連携して、研究者の活動の円滑化及び活性化に努めるべきである。

2 IODP関連研究の推進

 IODP関連研究の推進については、航空・電子等技術審議会の評価において、研究体制の整備に特に最大限の努力を払うことが適当とされた。これについて、全国の研究者を集め、IODP関連研究を我が国の中心として推進する組織が機構に設置され、機構の中期目標においてIODPにおける研究等を総合的に推進することが定められたほか、1でも述べられたとおり、機構と国内の様々な大学・機関に所属する研究者を結ぶ組織としてJ-DESCが設立されたことは評価できる。
 我が国では、IODPの研究航海によって得られた試料をもとに、大学等のJ-DESCの会員機関によって研究が行われているが、今後、IODPにおいて「ちきゅう」の国際運用が開始され、IODPが本格的に実施されるにつれて、関連研究活動が一層発展することが期待される。研究航海は、科学者の掘削計画提案をSASが審査し、IODP-MIに勧告することによって決定される。しかし、現在、我が国の掘削計画の提案数は減少傾向にあり、掘削計画の提案というIODPの根幹となる活動において、わが国がリードできていないのは重大な問題である。その要因として、掘削計画の提案に必要な事前調査費等の確保に関する問題があげられる。我が国の研究者が事前調査の成果をもとに提案した掘削計画が採択され、掘削実施を経て事後研究へと展開するという一連の活動が十分に行なわれることによって初めてIODPを真に主導していると言える。このため、他国の制度等も参考にしつつ、IODP推進が国家的プロジェクトであることを強く認識し、J-DESCの提言「IODPにおける我が国の科学戦略(2)-研究支援体制の確立に向けて-」に見られるような新規プロポーザル開拓のための研究を担う競争的資金及び我が国がIODP主導国としての責務を果たすための活動を担う経常的な予算措置による研究支援体制について早急に検討する必要がある。

5.1.3 人材の育成について

(1)研究者の育成

 IODP関連研究者の育成については、機構は、乗船研究支援、「IODP掘削プロポーザル作成の手引き」の作成等のIODP関連研究者への実践的支援を行っている。また、機構とJ-DESCはIODP関連研究者もしくは学生を主な対象として、IODP及び「ちきゅう」に関するセミナー等のアウトリーチ活動に取り組んでいる。このような取組みは、研究者のIODPに関する経験の蓄積の促進、より多くの研究者の確保及び各大学・研究機関における組織全体のIODP関連活動への理解につながることから評価できる。今後は、次代のIODPの活動をリードする研究者の育成が急務である。そのため、IODPに興味を持った若手研究者が乗船研究に積極的に参加することができるような支援体制の確立及び若手研究者等の興味を喚起するアウトリーチ活動に一層取り組んでいくことが重要である。

(2)技術者の育成

 現在まで、機構がIODPの主力掘削船として航海を行ってきたジョイデス・レゾリューション号への乗船を支援すること等により建造技術者、科学支援員を育成し、「ちきゅう」の建造及び科学支援の体制整備を進めてきたことは評価できる。科学支援員については、今後も継続的にこうした支援を行い、育成に努めることが重要である。
 ライザー掘削技術については、海底油田の探査のために開発され発展してきたものであり、我が国の技術が欧米各国に比べ遅れているのは事実である。「ちきゅう」運用初期においては、内外の企業の人材派遣を受けて運用されることで円滑性及び効率性を追求することは適切であるが、我が国への技術移転は、他分野にも効果が波及し我が国の大きな利益となる可能性があるため、これについても早急に取り組むことが必要である。
 また、「ちきゅう」の本格的な運用に伴いIODPへの認識が高まることが、関連する研究部門、技術部門の活動の拡大につながることを期待したい。

(3)計画推進実務者の育成

 我が国のIODPにおけるプレゼンスの向上及び国内研究者組織のより効率的・戦略的運営のためには、国内外のIODP関連機関において、科学的知識を持ちながらマネジメントに従事する者が重要な役割を持つ。IODPの中心的役割を担う機関において我が国の人材が活躍することは、我が国のIODPにおける存在感を高めることとなる。しかしながら、例えば、IODP-MIの職員に日本人は少ないというのが現状であり、科学的知識を持ちながら国内外の機関でマネジメントに従事する人材を育成することは我が国の課題である。また、今後の人材育成の成否に関わる点として、その役割の重要性に対して正当な評価を確立するべきである。

5.1.4 国民への説明について

 地球深部探査船「ちきゅう」の必要性及びIODPの科学研究の成果に関する理解はもとより、地球科学、生命科学、海洋科学に関する国民の知的好奇心を喚起し、我が国における地球科学を中心とした科学技術の理解増進及び活性化を目的として、IODP大学&科学館キャンペーン、ウェブサイト等を通じて国民各層に情報を届ける活動が実施されており、このような国民への説明に関する取組みは高く評価できる。「ちきゅう」が完成した際に機構が行った一般公開では、多くの見学者が訪れ、その関心の大きさを確認できた。今後は完成した「ちきゅう」を最大限に活用しながら、その科学的目的及び波及効果を中心により一層の説明を行い、国民の関心の高いプロジェクトとして認知されるよう更なる努力が求められる。特に、中高生を対象とした教育的な観点からの広報等に継続的に取り組んでいくことが必要である。
 さらに、産業界にも広くIODP推進の重要性について認識を求め、IODP活動の支援、IODP推進を通じて育成された人材の産業界での活躍の場の提供等が実現するよう努力すべきである。今後、「ちきゅう」の国際運用により、IODPが本格的に実施され成果が上がれば、そこから産業に応用できる技術が生み出される可能性は大きい。この可能性をさらに広げるためにも、普及・広報・教育活動による成果の公開、人材育成等が重要な役割を果たすと考えられる。

5.2 総合評価

 今回の中間評価では、事前評価の際に大きな価値を有すると評価された深海地球ドリリング計画は、現在も我が国にとって科学的及び社会的に意義が高いものであることを確認した。また、世界最高の科学掘削船である地球深部探査船「ちきゅう」の建造及び関連施設の運用環境の整備、国際的なIODPの推進体制の構築を中心とした我が国の主導国としての取組み、人材の育成並びに国民への説明といった我が国の取組みは、科学的・社会的ニーズ等を踏まえ、関係各機関により適切に行われてきていると認められる。よって、我が国が深海地球ドリリング計画を推進することは極めて有意義であると評価できる。今後は、その成果が最大限に得られ、社会に大きく貢献していくために、関係者が更に協力し、計画推進により一層取り組むべきである。
 ただし、深海地球ドリリング計画の推進に際しては、本評価において指摘された留意点に対処することが必要である。特に、事前評価でも指摘された研究体制の整備については、必要な研究推進組織が構築されたと評価できるものの、IODPの根幹となる掘削計画の提案等関連研究活動については課題があり、引き続き改善に向けて努力することが必要である。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課