3 学術情報ネットワークの今後の整備の在り方について

1.学術情報ネットワークの役割並びに位置付け

(1)学術情報ネットワークの整備の重要性

   学術情報ネットワークは、我が国の大学等における学術研究及び教育活動全般を支える最先端学術情報基盤(CSI)の中核を形成するものである。したがって、それを利用する様々な分野において我が国が最先端の学術研究を国際的にもリードしていくため、また、教育活動の進展に対応するため、CSIの更なる高度化に向けた整備を図っていく必要がある。

   国立情報学研究所は、大学共同利用機関として、この学術情報ネットワークを中心とした我が国の学術情報基盤をレベルアップする推進原動力としての役割を引き続き果たしていく必要がある。

(2)学術情報ネットワーク(SINET3)の整備状況

   国立情報学研究所は、その前身である学術情報センターの設置(昭和61〔1986〕年)当初から、我が国の大学や研究機関等における学術情報基盤としての学術情報ネットワークを運用してきた。平成4〔1992〕年には、インターネット・バックボーン(SINET)としての運用を開始するとともに、平成14〔2002〕年1月からは、従来のネットワーク環境では不可能であった膨大な量のデータを共有し、処理することが求められる先端的研究プロジェクトを支援するため、スーパーSINET(最高通信速度10Gbps)を構築・運用した。

   SINET及びスーパーSINETを統合し、平成19〔2007〕年度より運用を始めた現行の学術情報ネットワーク(SINET3)は、基幹回線については最大40Gbps、一般ノードについては最大20Gbpsで接続するなど回線の高速化とともに、基幹回線についてはループ構造による高信頼化を図っているほか、マルチレイヤ、マルチVPN、マルチQoS、L1オンデマンド等多様な先進的ネットワーク・サービスを提供している。

   また、SINET3は、米国との間において2本の10Gbps回線を、香 港及びシンガポールとの間においてもそれぞれ622Mbps回線を確保し、各国の研究教育ネットワーク(NREN)と相互接続している。さらに、欧州とも米国回線及びアジア回線を経由して接続されている。これらの回線を利用して、国際共同研究や国際間の遠隔講義などが推進されている。

   SINET3を運用する国立情報学研究所においては、ネットワーク運用の透明性を確保する観点から、「学術情報ネットワーク運営・連携本部」を設置し、各大学等関係者の協力を得て、ネットワークの整備・運用を推進する体制を構築している。こうした体制の下、国立情報学研究所においては大学等からの要請も踏まえて、全てのノードの回線速度を1Gbps以上に増速することにより、接続機関間のネットワーク環境を大幅に改善し、学術研究における大規模データの相互流通や双方向遠隔講義を可能にするなど、大学間におけるネットワークの連携強化を図っている。

   SINET3は、現時点において約700機関を接続し、そこに所属する200万人以上の研究者、学生等が日常的に利用している状況にある。こうしたことから、国立情報学研究所においては、平成19年10月に「SINET利用推進室」を設け、ネットワーク及びネットワーク・サービスの普及と利用支援の一層の強化を図っている。

   さらに、SINET3は、認証やグリッドを展開しつつ、機関や分野を超えた連携を可能とする学術情報基盤として整備が図られており、いまや学術研究及び教育活動全般にとって不可欠な基盤となっている。また、現行のSINET3は、従前より信頼性も大幅に向上してきている。

   今後、国立情報学研究所においては、最新の学術情報ネットワークの現状について利用者に分かり易く説明し、更なる普及に努めていくこととしている。また、利用者、利用機器の飛躍的増大に対応することができるIPv6の活用が各大学等において促進されるよう、普及に努めていくこととしている。

2.学術情報ネットワークの今後期待される役割及び今後の整備の在り方

(1)学術情報ネットワーク整備の基本的方向性

   学術情報ネットワークを運用する国立情報学研究所においては、今後はCSI構築のため、学術コミュニティからの先端的なニーズを調査・分析した上で、最先端ネットワークに関する研究開発を推進するとともに、その成果に基づく機能の充実を継続的に図っていく必要がある。その際、学術コミュニティが求める最先端機能の実現を図りつつ、学術研究や教育の活性化を図っていく観点から、ネットワーク基盤のみならずネットワーク上で展開される機能、サービス等を一体的に整備していくことが重要であり、研究開発とネットワークの運用、機能提供といった事業との両輪体制の下にCSI構築に向けた取り組みを推進していくことが不可欠である。

   また、学術情報ネットワークを利用する大学等にとっては、基本的にはネットワークが安定的に接続できることはもとより、更なる回線速度の向上と高機能なサービスの提供に対する期待が大きい。さらに、テレビ会議システムやセンサーネットワーク等、継続的に利用可能なサービスの提供、複数キャンパス間における広帯域で接続可能なネットワークとしての活用に対する期待がある。特に、大学等における遠隔講義の増などに伴う回線需要の増大や災害時における回線の確保等に対応するため、適切な回線速度の提供と安定的な運用の保証に対する期待が大きい。また、高精細画像を用いた諸外国との教育研究活動が今後益々活発になると予想されることを踏まえて、国際回線の高速化に対する要望がある。
学術情報ネットワークの整備に当たっては、こうしたネットワークを利用する大学等からの要望等も踏まえて整備を図っていく必要がある。

   さらに、CSIの実現を目指して、ネットワークが提供する機能の質とコストの両立を図りながら、学術連携の強化のみではなく、産学連携や国際連携を一層図っていくことが重要である。

(2)学術情報ネットワークの需要予測

   現状を踏まえると、学術情報ネットワークの利用は、毎年1.3倍の増加が見込まれる。それを基に予測すると、現行のSINET3の契約期間である平成22(2010)年度末の時点では2.2倍、次期中期計画期間終了時の8年後に当たる平成27(2015)年度末時点では8倍以上に需要が拡大することが見込まれる。

   すなわち、現行のSINET3を前提に試算すると、研究の高度化等に伴うデータの大容量化とこれに伴うトラフィック量(通信量)の増大により、次期中期計画の早い段階から殆どのノードにおいて回線容量を大幅に超えることとなり、安定的な通信回線の確保が極めて困難になると予想される。

   今後、ネットワークの整備の検討に当たっては、こうしたネットワーク需要の飛躍的な拡大を勘案していく必要がある。

(3)現行学術情報ネットワーク(SINET3)の今後の整備の基本的考え方

   現在のSINET3の回線契約期間が平成22(2010)年度までとなっていることを勘案すると、この間は、基本的には利用状況を踏まえた一部ノードの増減速や研究者が随時L1オンデマンド機能を利用できる環境を整備することにより、利用回線の効率化を実現し、ネットワーク利用者の需要に対応することが適当である。

   また、全国大学共同電子認証基盤(UPKI)構築事業が運用段階に入ることから、ネットワーク及び認証等を含む利用者支援体制の充実を図る必要がある。

(4)次期学術情報ネットワーク整備の基本方針

   学術情報ネットワークは、CSIの中核であり、我が国の大学等における学術研究及び教育活動全般を支える基盤であることから、学術情報ネットワークを運用する国立情報学研究所は、今後とも、各大学に設置された情報基盤センターや情報処理センター等並びに研究機関などとも連携・協力して、持続的にネットワークの研究開発、整備及び運用を推進する必要がある。また、学術情報ネットワークの整備に当たって、国の支援は不可欠である。

   こうした観点を踏まえて、次期学術情報ネットワークの整備については、以下の5項目の基本方針の下に整備の方向性を検討していく必要がある。

1. 最先端の学術研究及び教育を支えるためのネットワークの高度化

   学術研究や教育活動の進展を背景としたe-Science及びe-Education等の重要性の拡大、高精細画像による遠隔講義、遠隔医療等学術に係る映像通信の増大及び大容量データの転送とバックアップ等、学術情報ネットワークの利用の増大に繋がる要素と学術情報ネットワークの今後の需要見込みを勘案し、次期学術情報ネットワークにおいては、大幅な回線速度の増強が必要である。

   海外も含めた複数機関間の共同研究の進展に伴い、多様な仮想閉域ネットワーク機能(VPN)の拡張、超大容量データバックアップ等のためのリソース・オン・デマンド機能の強化等の高機能化を推進する必要がある。併せて、利用者に対する安定した利用環境の確保の観点から、新技術の導入による更なる信頼性の確保と停止のない安定したネットワークの構築が必要である。

2. 大学等接続機関全体のネットワーク環境の向上

   大学等における学術研究及び教育活動の発展のため、非ノード校も含む我が国の大学等接続機関全体のネットワーク環境の向上が不可欠である。
   特に、非ノード校が行うアクセス回線の整備を効率的に推進し、学術情報ネットワーク全体の高速化を図る必要がある。また、複数キャンパスを有する大学等におけるキャンパス間接続への学術情報ネットワークの活用に対する要望が大きいことを踏まえ、これにも積極的に対応していく必要がある。

3. 先進的な技術・研究開発によるネットワーク設計並びに効率的な運用による経済性の向上

   次期学術情報ネットワークにおいては、大幅な回線速度の増強並びに機能、サービスの拡大が課題となるが、一方で、厳しい財政状況の下でその実現を図っていくことが求められる。このため、先進的な技術・研究開発によるネットワーク設計を行うことにより抜本的な経済性の向上を図る必要がある。併せて、関連設備の一括共同調達の方式を進めるなど経済性の一層の向上を目指すことが効果的である。

   また、次期学術情報ネットワークにおいては、接続拠点としてのノードについても、高信頼化、安定化及び可用性の向上が求められるが、経済性の向上を図りつつ対応する必要がある。

4. 大学等、研究機関及び産業界との連携・協力等の新たな展開

   大学等における社会・産学連携に貢献する活動及び共同研究の推進を支援するため、VPN機能を強化するとともに、共同研究等により大学等の施設・設備を利用する民間企業等のネットワークに対するニーズに適切に対応していく必要がある。このため、国立情報学研究所においては、産業界及び研究機関に対して、大学等との共同研究を実施する際の学術情報ネットワーク利用の効果等について、積極的に周知を行う必要がある。

5. ネットワークの持続的な整備方策の検討

   学術情報ネットワークは、学術研究の効率的な推進等のため、国公私立大学等に対して広く開かれた研究環境を提供しているところであり、効率性の観点からは、引き続き一元的な整備を図っていくことが適当である。同時に、学術情報ネットワークの安定的な運用を確保し、その整備を不断に進めていくため、国立情報学研究所においては、ネットワークの加入機関と連携しつつ、国の厳しい財政状況の下での継続的な整備方策を検討していく必要がある。

   その際、国の支援の下に国立情報学研究所が整備すべき部分と、各機関の判断に委ねられる部分とをどのように整理するのかについても検討していく必要がある。

   さらに、学術情報ネットワークの持続的な整備やその基になる研究開発を推進するため、一層の経済性の向上に努める一方、大量データの流通やストレージなどを活用しないと進展しない研究など、ネットワーク接続の新たなニーズあるいは特別なニーズについては、当該利用機関に対しても応分の負担を求めていくことを含めて検討していく必要がある。その際、利用者の実態なども勘案しながら、多角的な検討を行っていく必要がある。

   なお、学術情報ネットワークの運営及び整備に係る経費については、現状においては、国から国立情報学研究所に対して運営費交付金の特別教育研究経費として措置されている。しかしながら、我が国の大学等における学術研究及び教育活動全般を支える基盤としての学術情報ネットワークの性格上、今後、その安定的な財政基盤確保の方策についても、併せて検討していく必要がある。

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研究振興局 情報課 学術基盤整備室

(研究振興局 情報課 学術基盤整備室)