2 情報基盤センターの在り方について

1.情報基盤センターの役割

(1)情報基盤センターの現状

 情報基盤センターは、全国の大学等に対して計算機資源などの提供、卓越した学術情報ネットワーク網の活用を推進するとともに、計算科学及び計算機科学に関する最先端の研究開発を行う施設として、また、地域における学術情報基盤の中核として、大きな役割を果たしてきた。

 情報基盤センターのスーパーコンピュータは、我が国の人文社会科学から自然科学まで学術分野全般における萌芽的研究からビッグサイエンスまで広範囲にわたって、また、国公私立大学等を問わず、原則として一定額の利用負担金を負担することにより利用できる環境を構築してきている。

 情報基盤センターにおいては、計算ニーズ等に対応して、定期的にスーパーコンピュータの増強を図っており、現時点で各センターが保有するスーパーコンピュータの理論的総演算性能は330テラフロップスとなっている。また、複数の情報基盤センター等においては、共同研究の成果に基づく共通の仕様により、それぞれが新たなスーパーコンピュータを調達し、これを基盤として研究教育における連携を図るなど、新たな取組みも行われている。

 また、情報基盤センターは、その前身である大型計算機センターからの経緯もあり、地域性を考慮して設置されている。その上で、卓越した学術情報ネットワーク網を活用することにより、我が国の学術分野の発展に貢献するとともに、各地域の学術情報基盤の中核として、主に近隣大学等に対する計算機資源の提供のほか、各大学等の学術情報基盤整備の在り方に関する情報提供、技術職員等を対象とした研修等を実施している。なお、情報基盤センターは、地理的に分散して設置されていることや、大学によって利用者ニーズも異なることから、それぞれの大学の特色や所有するスーパーコンピュータのシステムの特徴を踏まえて計算環境を提供できるため、多様性が確保されている。

(2)情報基盤センターの機能

 情報基盤センターの機能は、全国の大学等に対する共同利用の施設(以下、「全国共同利用の施設」という。)として、全国の大学関係者等に対する施設(計算機資源)提供、利用者支援、研究開発、人材育成、産学連携及び近隣大学との連携を含む地域・社会貢献の概ね6つに区分することができる。また、情報基盤センターは、各大学に附置されていることから、これらの機能と併せて、学術情報基盤に関する学内対応も求められている。
 このような情報基盤センターの機能・役割をまとめると次のとおりである。

1. 施設提供機能

 情報基盤センターは、自らが所有するスーパーコンピュータ等の計算機資源を学術研究や教育のために広く学内外の利用に供している。

2. 利用者支援機能

 情報基盤センターは、その所有するスーパーコンピュータの利用者に対する相談、講習会の開催、利用拡大のための広報などを行うほか、スーパーコンピュータの利用に当たっての高度なプログラミング指導などの支援を行っている。

3. 研究開発機能

  情報基盤センターは、学術情報基盤の高度化に資するグリッド、認証基盤等の基礎的ソフトウエア並びにネットワークの構築や応用等に関する研究開発の推進とその成果に基づく運営を行っている。また、全国の大学等との計算機を利用した共同研究を進めている。

4. 人材育成機能

 情報基盤センターにおいては、利用者に対する講習会を開催するほか、各大学等の技術系職員に対するプログラミング技術等に関する教育・研修の場を提供している。

5. 産学連携機能

 情報基盤センターにおいては、スーパーコンピュータを活用した産学連携による共同研究に対する支援や「先端研究施設共用イノベーション創出事業」等を通じて、民間企業によるスーパーコンピュータ利用の促進を図っている。

6. 地域・社会貢献機能

 情報基盤センターは、地域における学術情報基盤の中核として、近隣大学等に対する計算機資源の提供、学術情報ネットワークやスーパーコンピュータの利用に係る技術支援等を行っている。

7. 学内支援

 情報基盤センターは、各大学に附置され、学内において学術情報基盤の整備・管理や情報セキュリティ対策を統括するとともに、大学院教育に参画するなど、学内的な位置付けが確立している。

(3)研究の高度化・多様化等を背景とした情報基盤センターに求められる役割の変化

 情報基盤センターに求められる役割については、研究の高度化・多様化などを背景として、長期的な視野に立ったスーパーコンピュータの基礎的研究や利用サービスの充実などへの期待が増してきている。また、情報基盤センターには、スーパーコンピュータを所有しない大学等における情報システム構築に対する積極的な技術支援や情報提供、技術職員等を対象とした研修の実施等の活動の更なる充実などについても期待されているところである。

 また、国際的な情報発信や国際協力及び国際共同研究等を通じて、国際的な連携を強化していくことも期待されている。

(4)大学における情報基盤センターの位置付けの明確化

 情報基盤センターに期待される役割・機能を勘案して、情報基盤センターを設置している大学にあっては、法人化後においても、学内に止まらず全国の大学等関係者に計算機資源の提供等を行っていくという情報基盤センターの従来の役割・使命が実態上も変わるものではないことを充分認識し、その名称や機能について明確に位置付けていくことの検討が望まれる。

2.情報基盤センターに求められる機能の充実

(1)情報基盤センターの機能の充実

 情報基盤センターに求められる役割の変化・多様化に対応するため、各情報基盤センターにおいては、今後とも全国の大学関係者等に対する計算機資源の提供等といった従来の全国共同利用の施設としての基本的な機能を維持しつつ、例えば以下のようなそれぞれの機能ごとに具体的な活動等の充実を図っていくことについて検討する必要がある。

1. 施設提供機能

 我が国の学術研究や教育の進展に対応して、引き続き情報基盤センターが所有するスーパーコンピュータなどの計算機資源を広く学内外の利用に供していくことが求められている。

2. 利用者支援機能

 高度な学術情報基盤を自然科学のみならず人文社会科学も含む幅広い分野の研究者等の利用に供する機能に加えて、分野別のデータ管理や可視化機能等を充実させることが求められている。

3. 研究開発機能

 情報基盤センターが、利用者側と一体的に共同研究の推進を図っていくことが求められている。その際、各情報基盤センターにおいては、研究面での特色を活かしつつ、共同研究体制を構築していく必要がある。
 なお、研究開発の充実についての検討に当たっては、スーパーコンピュータの基礎的研究に取り組むとともに、情報基盤センターの研究者自身が行う研究と、学内外の研究者との共同研究の推進及び共同研究のマネジメントとの適切なバランスを保つ必要がある。

4. 人材育成機能

 計算科学の発展のため、情報基盤センターには計算科学の各分野に共通する計算機科学に精通した人材を育成するためのカリキュラムや教材の開発が期待されている。また、計算機科学やコンピュータ利用に関連して、大学院教育や学部教育への積極的な関わりも求められている。
 さらに、情報基盤センターを利用する各大学等からは、実務研修会や人事交流などを通じた技術系職員の専門性の向上に資する取組みに対する期待が大きい。

5. 産学連携機能

 情報基盤センターは、産学連携による共同研究を推進するため、民間 企業からの要望に基づく計算機資源の提供に引き続き努めるとともに、計算機科学の専門的立場から問題解決やアルゴリズム、並列分散プログラミング等の支援など民間企業からの更なる要請への適切な対応が求められている。

6. 地域・社会貢献機能

 情報基盤センターは、地域における学術情報基盤の中核として、従来の近隣大学等に対する計算機資源の提供やスーパーコンピュータの利用に係る技術支援のほか、大学の枠を超えて、学術情報基盤整備の在り方に関する情報提供、技術系職員等の研修機会の提供などの活動の更なる充実とそれを推進するための体制の整備が求められている。

7. 学内支援

 学内における学術情報基盤の維持・管理については、益々重要性を増しているところであり、今後は、組織的に対応していくための情報基盤センターの体制の整備が求められている。

(2)各大学の特色を踏まえた活動の充実に向けた検討

 情報基盤センターにおける現状を踏まえると、更なる活動の充実が求められている全ての機能を各情報基盤センターが個々に備えていくことは難しいと考えられる。したがって、各情報基盤センターにおいては、今後とも全国共同利用の施設として求められる基本的な役割を果たしつつ、それぞれの特色に応じて主体的な判断の下に、機能の面においてどのような活動の充実を図っていくのかについて検討していくことが求められている。

 その際、従来の全国共同利用の施設としての実態も踏まえつつ、情報基盤センターが研究開発機能の強化を図った上で、学校教育法施行規則に位置付けられた共同利用・共同研究拠点制度に基づき、拠点としての認定を受けることを目指すことも考えられる。

 なお、情報基盤センターは、スーパーコンピュータを所有することにより計算機資源を集中しつつ、それを全国の大学等に対して利用に供することにより計算機資源の共有が図られている。一方、スーパーコンピュータを所有しない大学等にあっては、当該大学等の情報処理センター等において、学内の情報基盤の構築に加えて、スーパーコンピュータの利用に関する教育や支援も含めて行われている現状にあり、引き続き、情報処理センター等の役割は重要である。

3.情報基盤センター間及び次世代スーパーコンピュータを含む関連機関との連携協力の在り方

(1)情報基盤センター間の連携の一層の強化

 我が国の学術情報基盤全体の適切な整備を図るとともに、平成18年度から開発・整備が進められている次世代スーパーコンピュータとの有機的な連携を図っていくためには、情報基盤センター間の連携を一層強化していく必要がある。

 また、我が国の学術情報基盤全体の高度化を図るため、情報基盤センターと国立情報学研究所とが学術情報ネットワーク、グリッド技術、認証基盤等に関する研究開発やその成果の普及・運用等の面において、連携の一層の強化を図ることが重要である。

(2)情報基盤センターと次世代スーパーコンピュータとの役割分担と連携

 情報基盤センターは、大学附置の全国共同利用の施設であり、大学の研究者や民間企業の利用者に対して計算機資源の提供や利用者支援を行っている。一方、次世代スーパーコンピュータは、産学官に開かれた共用施設として、大学等のみならず幅広く産業界等の利用に供することが期待されている。

 両者のそれぞれの役割や計算機資源等を考慮すると、情報基盤センターは、主として多様な研究者の比較的中小規模の計算を必要とする研究や、次世代スーパーコンピュータにおいて利用するアプリケーションの開発における利用が想定される。一方、次世代スーパーコンピュータは、産業界等のニーズにも幅広く対応し、これを用いなくては実行できない一定水準以上の大規模計算を中心とした利用が想定される。

 次世代スーパーコンピュータと大学等が保有する計算機資源並びに計算環境との連携の在り方等については、本年7月、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会情報科学技術委員会の下に置かれた次世代スーパーコンピュータ作業部会が、次世代スーパーコンピュータの共用促進と研究機能の構築に関する報告書を取りまとめた。この報告書においては、次世代スーパーコンピュータが、そのアプリケーションの調整や研究者の技能向上、計算機資源の効率的・効果的な活用を図るため、大学等が所有する計算機資源との適切な役割分担と有機的な連携を図ることが不可欠であることを指摘している。特に、大学の情報基盤センターや同センターが所有する計算機資源との積極的な連携を図ることは、単に次世代スーパーコンピュータの活用の観点から必要なだけでなく、我が国の計算科学技術をはじめとした科学技術全体の振興を図る上でも重要であり、例えば以下のような取り組みを念頭に置きつつ、具体的な連携方策について検討を本格化させる必要があるとしている。

  1.  次世代スーパーコンピュータにおいて利用するアプリケーションの開発に既存の大型計算機を活用すること
  2.  次世代スーパーコンピュータと関係機関が有する計算機の資源量や特徴等を考慮し、利用者のニーズに応じた最適な計算環境を提供すること
  3.  大学の情報基盤センター等において次世代スーパーコンピュータに関する技術情報や技術的助言を行うこと
  4.  計算機を活用したシミュレーション研究を行う計算科学や計算機に関連する研究を行う計算機科学などのカリキュラムを有する大学との連携により、効果的な人材育成を行うこと など

 今後、各情報基盤センターにおいては、それぞれの活動状況や将来的な方向性等を考慮しつつ、次世代スーパーコンピュータとの間においてどのような連携を図っていくのかについて主体的に検討し、対応することが求められる。

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研究振興局 情報課 学術基盤整備室

(研究振興局 情報課 学術基盤整備室)