平成17年3月17日
科学技術・学術審議会学術分科会・研究環境基盤部会学術研究設備作業部会
平成16年4月から、国立大学及び大学共同利用機関(以下「大学等」という。)は法人化されたことにより、各法人の教育研究活動については、それぞれの目標・理念や経営戦略に則り、中期目標・中期計画に沿って、自主性・自律性のもと意欲的で特色ある取組みが期待されている。
また、国(文部科学省)としても、社会経済の変化や学術研究の進展等を踏まえ、特に配慮が必要となる諸課題に対応した大学等の取組みについて、特別教育研究経費等により、必要な支援を行うこととしている。
ところが、研究設備の整備・更新等に関しては、法人化後も従来から部局等の判断に委ねてきたことで、大学全体としての計画的整備が余り進んでいないことが問題視されている。
このような状況が改善されなければ、研究の発展基盤を築く研究設備の維持管理が適切に行われず、ひいては学術の発展に支障を来たす恐れもある。
このため、大学等の現下の状況を踏まえ、研究設備の整備方策等を検討することを目的として、平成17年1月11日、科学技術・学術審議会学術分科会学術研究推進部会の下に「学術研究設備作業部会」が設置され、学術研究設備の整備の在り方について専門的な検討を行い、ここに「中間まとめ」を取りまとめた。
大学等における研究設備の整備の在り方については、科学技術・学術審議会の前身である学術審議会において、平成4年7月の答申「21世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」及び平成11年6月の答申「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について-知的存在感のある国を目指して-」で、基本的方向と必要な方策等が示されている。
平成4年の答申では、学術研究の発展において実験設備の重要性が著しく増大し、理論的研究面でも研究設備の利用が不可欠となっており、その結果、研究設備の有無やその性能・精度により、研究の成否や研究水準が左右される場合が多いと指摘し、必要な方策として、1.基盤的な研究設備の計画的な整備の推進、2.先導的な研究設備の重点的な整備・充実、3.研究設備の共同利用の積極的推進、4研究設備のレンタル等による導入の促進と維持管理の改善について提言している。
また、平成11年の答申では、研究設備の整備が十分でなく全体的に老朽化・旧式化し、必須の研究設備も不足する傾向にある状況を踏まえ、平成4年の答申の内容を改めて指摘した形となっている。
平成4年の答申の頃から現在までの研究設備に係る予算の推移(別紙1参照)をみると、当初予算は平成4年度の191億円から着実に増加し、平成8年度には333億円に達した。この間、平成5年度に692億円と平成7年度に555億円の大型の補正予算が措置されており、この5年間は答申に沿った整備が一挙に進んだと考えられる。
しかし、平成9年度から当初予算は減少に転じ、平成12年度には32億円まで落ち込む。その一方で、多い時で300億円強、少ない時でも100億円弱の補正予算が平成10年度から5年連続で措置されている。したがって、この5年間は当初予算を上回る額が補正予算で措置されており、当初予算による計画的な整備が困難になっていく一方で、補正予算の趣旨に沿った重点的な整備が進められたことになる。
そして、法人化に伴って大学等の予算制度が変わり、平成16年度からは、運営費交付金の中で設備関係経費として計上(集計)されており、平成17年度予算案では144億円となっている。
研究設備の現状を理解するために、以下のように区分し、それぞれの特徴と具体例、対応する主な組織を整理するとともに、その区分ごとに問題・要望等を整理した。(別紙2、3参照)
研究設備の導入状況を調査・分析するため、89国立大学法人及び4大学共同利用機関法人の全93法人に対して1億円程度のもの以上で共同利用に供している研究設備について、さらに、9国立大学法人(大規模、一般・医学部あり、一般・医学部なし、各3法人)に対して1千万円以上の全ての研究設備について、アンケート調査を行った。そのデータを基に以下の観点から分析した。(別紙4参照)
大学では、1千万円以上1億円未満が全体の9割を超えており、1億円以上の設備は1割にも満たないが、それぞれ金額を合計するとほぼ同額程度の額となる。
また、1億円以上の研究設備の約7割が共同利用に供しており、購入金額が大きくなるにつれて共同利用率は高く、10億円以上になると全て共同利用であった。
1億円程度のもの以上で共同利用に供している設備の6割近く56%が2億円未満で、10億円以上は1割弱の7%である。これを大学共同利用機関だけでみると、2億円未満が30%、10億円以上は24%となる。
また、共同利用のうち約4割が全国共同利用であり、大学だけでみても、約3割が全国共同利用である。全国共同利用の割合は、額の大きさに比例して高くなっている。
さらに、経過年数を見てみると、10年以上経過しているものが約3割で、5年以上10年未満が約4割、5年未満が約3割となっており、全国共同利用、学内共同利用のどちらも同様の割合傾向であった。
分野別に件数で見てみると、大規模大学では理工系71%、医薬系17%、生物系7%、人文社会系2%、その他(情報基盤関係等)3%となっているのに対し、それ以外の医学部を有する大学では理工系51%、医薬系33%、生物系13%、人文社会系1%、その他(情報基盤関係等)2%であり、また、医学部を有しない大学では理工系38%、生物系21%、人文社会系6%、その他(情報基盤関係等)35%であり、研究設備の導入分野にはかなり違いがあった。
上記2の2により、以下のような研究設備を取り巻く課題が明らかになった。
法人化に伴い生じているものも含め法人化後においてクローズアップされている大きな問題等は、以下のとおりである。
これまでも指摘されていた問題ではあるが、競争的資金により導入された研究設備についてプロジェクト終了後のフォローアップ等に関する要望等は、以下のとおりである。
大学等における研究設備の整備の基本的な考え方については、法人化後の大学等においても、平成4年及び平成11年の答申に基づく考え方を踏襲して問題ないと言える。
したがって、その基本的な考え方を踏まえつつ、今後の研究設備の役割とその整備の方向性について、改めて考え方を整理することとした。
大学等が、学術ニーズ、国際協力、地域・社会貢献、国家戦略など多様な要請に応えていくためには、研究設備の存在は重要であり、その役割を以下のような観点で整理するとともに、対象となる研究設備を2の2の(1)の区分により整理した。
(1)国際的な共同研究拠点となる大型研究設備【国際対応型、専用型】
(2)先端的・独創的研究のための大型研究設備【国際対応型、専用型、汎用型】
(3)共同利用、研究基盤・支援のための研究設備【専用型、汎用型、基盤型】
(4)地域・社会貢献、国家戦略に資する研究設備【専用型、汎用型】
上記1の役割の整理に加え、以下のような観点からの整備の考え方を取り入れた研究設備の整備の方向性を示すこととした。
(1)我が国の学術研究水準の維持・向上に不可欠な研究設備の整備
(2)研究者コミュニティの強い要望等を踏まえた研究設備の整備
(3)特定の分野に偏らないバランスのとれた研究設備の整備
(4)人文系や研究支援等に必要な研究設備の整備
上記2~4の「大学等における研究設備の現状」、「研究設備を取り巻く課題」、「今後の研究設備の役割とその整備の方向性」については、それぞれ更なる審議が必要であるが、その際、国立大学法人化の趣旨を損なうことのないよう、また、国の厳しい財政状況の中で学術研究を推進する必要があることから、大学等においても設備マスタープランのような計画的整備に基づく要求を前提とすべきことに言及することが重要である。
そのうえで、以下のような「新たなルール作りの必要性」や「新しい整備システムの導入の必要性」について、大学等における学術研究の特色や実態を十分考慮しつつ、具体的検討を重ね、実現可能なものから順次、制度化していくことが望まれる。
今後の学術研究設備の導入の在り方については、上記5で述べたように、更なる審議が必要であるが、現時点で「中間まとめ」として取りまとめ、研究環境基盤部会(平成17年2月に学術研究推進部会を組織変更)へ報告することにより、同部会が平成17年3月末に大学等に対し示す予定の「平成18年度概算要求における特別教育研究経費(学術研究関係)の考え方」に反映させることができる。
このため、以下のように「平成18年度概算要求に向けて検討すべき事柄」と「今後の学術研究を推進するうえで早期に実現すべき事柄」に分けて取りまとめることとした。
これまでの審議において、極めて要望が強く、早急な対応が求められている以下の(1)~(3)について、平成18年度概算要求に向けて検討すべき事柄として取り上げるものとする。
大学間連携等による研究設備群の形成を支援する。
分野融合など新たな研究領域に対応する基盤となる研究設備群の形成を支援する。
既存設備の学術上の有効活用を促すための経費を支援する。
なお、国立大学法人化の趣旨を損なうことのないよう、また、国の厳しい財政状況の中で学術研究を推進する必要があることから、大学等において、設備マスタープランのような計画的整備に基づく要求を前提としたものとする。
また、大学共同利用機関等における大型研究設備については、国際的研究拠点として当該研究分野における世界最先端の研究を実施し得る研究環境を提供するものであり、我が国の学術研究をリードし、世界に伍して研究の更なる発展を図るためには、研究者コミュニティのニーズを踏まえ、継続的かつ適切に運転・維持管理、改良、改造等が行われることが重要であることに留意する必要があるものと考える。
上記1の「平成18年度概算要求に向けて検討すべき事柄」の更なる検討を含め、この中間まとめにおいて指摘したものについて、中・長期的な視野で検討していくことが重要であり、今後も継続的に検討を重ねる必要がある。その結果、今後の学術研究を推進するうえで重要であり、実現可能なものについては、順次制度化していくことが肝要と考える。
研究振興局学術機関課