東京外国語大学概要/アジア・アフリカ言語文化研究所要覧

科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会(第26回)/学術研究の推進体制に関する作業部会(第14回)合同会議(平成19年11月22日)意見陳述要旨

東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所長
大塚和夫

1.アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)の概要

  1. 日本学術会議の勧告(1961年)に基づき、1964年にわが国初の人文・社会科学系全国共同利用研究所として設立され、東京外国語大学に附置された(『AA研要覧』2頁、特に断りのない限り、以下同じ)。
  2. アジア・アフリカを主要な研究対象とし、現地調査(臨地研究、フィールドサイエンス)に基づく史資料の直接的収集(ファースト・ハンド・データ)とその加工・分析を重視する研究所で、言語学、歴史学、民族学(文化人類学)が主要な学問分野(3頁)。2007年度の所員定員は40名、その他非常勤研究員など(5頁、45~54頁)。
  3. 全国共同利用研究所として――運営面では、運営諮問委員会、共同利用委員会(共同利用委員会、研修専門委員会、海外学術総括班専門委員会)、編集委員会などに研究者コミュニティを代表する外部委員に参加していただいて忌憚のないご批判・ご意見を伺い、運営のあり方の改善、研究の質の向上を目指している(4~6頁、42頁)。
  4. 全国共同利用研究所として――研究面では、共同研究プロジェクト(9~21頁)、国際シンポジュウム(23~4頁)、フィールドサイエンス研究企画センター(FSC;中東イスラーム研究教育プロジェクト、東南アジアのイスラームなどの活動;27~9頁)、情報資源利用研究センター(IRC;34~5頁)、アジア書字コーパス(GICAS;37頁)、競争的資金による研究(31~2頁)。
  5. 若手研究者の養成(40~1頁など)――大学院教育(博士課程後期)、言語研修、中東・イスラーム教育および研究セミナー、非常勤研究員、学振特別研究員、若手フェロー、短期共同研究員など。
  6. 外部機関との連携――共同研究プロジェクト、大学共同利用機関(人間文化研究機構)、四大学(東工大、医科歯科大、一橋大、東外大)連合、外国人研究者招聘(22頁)、外国研究機関との共同研究(25~6頁)、中東研究日本センター(29頁)、アジア・アフリカ研究教育コンソーシアム(CAAS)(『東京外国語大学概要』14頁)、グローバルCOE・コーパスに基づく言語学教育研究拠点(『東京外国語大学概要』17頁)

2.文系型「全国共同利用」研究所

  1. 国立大学附置研究所・センターのうち、人文・社会科学系(第3部)に加入しているのは13研究所・センター
  2. そのうち全国共同利用型は、AA研の他に、北大スラブ研究センター、京都大地域研究統合情報センター(暫定)。
  3. それ以外の附置研究所・センターも「共同研究的」活動をしている。

3.附置されている国立大学法人との関係

  1. 東京外国語大学は1学部の文系大学
  2. 国立総合大学(東大、京大など)、文系複数学部大学(一橋大など)、理系複数学部大学(東工大など)とは、大学法人内における附置研究所・センターの位置づけの違いが見られる。特に、特別教育研究経費などの予算獲得面で。
  3. 特別教育研究経費については、「アジア・アフリカの言語文化に関する共同研究」(平成17年~21年)、「中東イスラーム研究教育プロジェクト(学部・大学院と共同)」(平成17年~21年)を実施中であり、また、新規事業(連携融合事業)として、「急速に失われつつある言語多様性に関する国際研究連携体制の構築」(平成20年~24年)を、AA研等を事業実施主体として、概算要求中である。これらによって「全国共同利用」的研究活動が維持できている。

4.共同利用・共同研究拠点(仮)という考え方

  1. 以下では理系と文系の「共同利用・共同研究」のあり方を、かなり極端化してモデル化する。文系にも理系的モデルに近い分野もあるが、ここでは両者の対比を際立たせることに重点を置いた、「発見に資する」モデルを提示したい。
  2. 共同利用の類型――文系では、大型設備利用型はなく、研究資料提供型共同研究型(もしくはその両者の複合)が多い。したがって、予算規模も理系と比較すれば少ない。
  3. 研究推進の主体・単位――実験などチームプレイが重要である理系と比較すれば、文系は個人主体の研究の比重がより大きい。それは、研究成果発表の際に、連名の論文ではなく、個人名の論文(さらには著作)が圧倒的に多いことからも明らかである(この点は、研究評価基準の設定の際にも重要な要素になる――論文数、そして著書など刊行物のもつ意味など)。
  4. 文系的共同利用(研究資料提供型)の重要性――特定の研究テーマを設定し、一定期間内に一定の成果を上げ、それに基づいて次の研究テーマに移る理系と比較すれば、文系の研究資料は長期蓄積型といえる(理系のデータは新陳代謝型といえようか)。古い資料も共同利用のために保存し、提供する仕組みを維持しなければならない。それは古い資料も「新しい」読み方、解釈が常に行われる可能性があるからである。つまり、資料は増えることがあっても減ることはない。したがって、入手した資料の加工・保存・維持は恒常的な仕事となり、その費用は安定的に保証されなければならない。さらに、新しい資料の収集活動も経常的経費として保証されなければならない。
  5. 文系的共同研究の重要性――理系と比較すれば個人研究の比重が大きいとはいえ、文系においても共同研究のもつ意味は重要であり、今日では不可欠であるということができよう。それは、収集・蓄積した資料に基づき、国内外の研究者とのシンポジュウム、研究集会などの討論を通して、特定テーマや研究の質的向上が飛躍的に高まるからである。これは個人だけで行う研究においては決して得ることのできない、広い視野からの問題設定、議論の進め方、新しい知見や発想を提供するからである。特に近年では、海外の研究者との学術交流は、きわめて重要な研究発展の機会を提供するものである。
  6. 海外調査・研究拠点の形成及び維持の重要性――特にAA研のようなアジア・アフリカなど海外での調査・研究を主要な任務とする研究所(広義の地域研究志向といえようか)では、調査地の大学・研究機関などとの持続的・友好的な関係の形成とその維持、さらに当該機関などと連携した研究プロジェクトの企画・実現などを業務のひとつとしているが、これらは研究所所員のみならず、わが国で関係する研究者コミュニティにとってもきわめて重要な活動である。このような国際連携なしには当該地での調査・研究がスムーズに進まないこともありうる。だが、そのような関係の構築は一朝一夕には実現できない。双方の信頼関係が時間をかけて育まれ、そこで初めて築かれるものなのである。さらに、研究所がイニシアティヴを取った現地拠点の設置とその維持(理系の実験施設に匹敵するといえるかもしれない)も、その地域での調査・研究を推進するとともに、若手研究者の養成の面などでもきわめて有益である。AA研のようなフィールドサイエンスを重視する研究所においては、教育業務にかかるエフォートが比較的軽いこともあるので、このような海外での調査・研究の基盤作りに長い時間をかけて取り組み、貢献をすることができる。これは、文系の、特にフィールド志向の研究所・センターにおける共同利用・共同研究機能の重要な要素といえるものである。
  7. 中長期的な展望のもとでの文系的共同利用・共同研究拠点の形成に向けて――ここまで記してきた文系の共同利用・共同研究の特徴は、総じて「中長期的展望」の重要性を説くものである。これは、共同利用機能において研究者コミュニティに提供し、広く社会一般に還元する長期蓄積型の情報の収集・保存に関しても、共同研究機能における議論・討論の場の設定とその成果に公表に関しても、また、海外の諸機関との学術的な友好関係の構築とそれに基づく連携・共同研究の実現、さらに海外拠点の設立・維持に関しても、すべてについて指摘できるものである。もちろん、一定期間のプロジェクト型研究の重要性は否定しない。しかし、その成果の結実は、おそらく理系のものと比較すれば、短期的効果よりも、より長いスパンで考えなければならない性質のものであろう。文系の研究は、基本的に、わが国のかけがえのない知的財産・知的資源を築き、それを世界に発信するものである。その構築のために、政府が一定の財政的基盤を直接的に保証する共同利用・共同研究の拠点形成は必要不可欠なものと確信している。本会議での議論は、これらの点を充分に考慮して進めていただきたいと希望している。

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