資料3‐4 学問分野別の特性・特色

学術分科会
学術研究推進部会(第4回)
平成16年11月15日

※ 本資料は、各分野の研究者へのアンケート調査から、学問分野別に特性・特色を整理したもの。
今後の学術分科会での議論を踏まえ、適宜更新予定。

※は、アンケート表に明記がなかった方について、事務局で調べて記載したもの。
※専門分野の左欄は、事務局にて対応すると思われる【参考】の分科に当てはめたもの。

総合・新領域系

専門分野 特性・特色 方向性・課題等
情報学 情報学※ ○個別ソフトウエアなどでは競争力がある。 ●基盤ソフトウエアでは地盤沈下が著しい。
●大規模知的基盤の構築の方法が与えられていない。(情報検索の分野など)
●情報科学と生命科学の分野融合。
データベース コンピュータ ネットワーキング ○いずれの分野も学術研究推進のためには高度なハードウエア、ソフトウエアが不可欠。また、高度なハードウエア、ソフトウエア、さらにコンテンツの処理技術が重要な役割を果たす。したがって、高度なハードウエア、ソフトウエア、さらにコンテンツの高次処理に関する情報科学技術の研究開発が必須である。
○情報分野の将来の方向性としては、
(1)高信頼性、高安全性ソフトウエア (2)コンテンツ生成・検索・流通
(3)ユビキタスコンピューティング (4)ヒューマンインターフェース
(5)システム集積化を加速する技術(6)スーパーコンピューティング
 
認知学 ○認知科学(cognitive science) という研究分野は、人文・社会系、理工系、生物系にまたがる研究分野であるため、わが国の縦割り分野の中では大きく取り上げられてこなかったが、米国ではすでに大きな研究の流れを構成している。
○国民生活の質の向上とそれによる国力の推進を重視するこれからの時代にきわめて重要になると考えられ、米国等でも力を入れ始めている、認知科学およびその教育・生活・環境・デザイン・コミュニケーション・社会基盤等への応用については、わが国ではほとんど国の科学技術・学術政策として顧みられたことがない。
○わが国では、脳科学と教育の関係が論じられるようになってはきたが、脳科学の観点からのみならず、行動科学、情報科学を基礎におく認知科学の貢献は、特に米国、欧州ではきわめて顕著なものがある。
○中国・アジア諸国は、まだ国民生活の質の向上に目が及んでいない面があるが、早晩認知科学の研究強化が進むものと推測される。
○わが国ではいくつかの大学等の研究グループが認知科学とその応用の研究を行っており、国際競争力は十分にあると考えられるが、国の施策による総合的な研究推進が重要である。
●伝統的な研究分野の推進ももちろん重要であるが、同時に、わが国の将来に基礎・応用の両面にわたって大きな役割を担うと考えられる、これまでの人文・社会系、理工系、生物系の枠組みを超える新しい研究分野の立ち上げが不可欠である。認知科学はその典型例と考えられるが、他の例として、情報科学と他分野(例えば環境科学、ロボット工学、生命科学等々の連携・融合分野を立ち上げることが重要と考えられる。

人文社会系

専門分野 特性・特色 方向性・課題等
史学 日本近世史
アーカイブズ学
【歴史学と隣接するアーカイブズ学について】
○国際的に見て、日本では大幅に立ち後れている。
○フランス革命(1789)以降、アルシーブナショナルが設立され、200年以上にわたって定着しているフランスを始め、欧米・オーストラリアのみならず、アジアの国々もアーカイブズ制度とその学問であるアーカイブズ学は進んでいる。
●記録史料保存法である日本の公文書館法(1988施行)はユネスコ加盟120ヶ国で最も遅い。
●国立公文書館(1971)の他、公共アーカイブズは約60館。中国の公共档案館3900館と比べ大きく異なる。韓国も急速に整えている。
●日本社会にとって、世界から大幅に遅れたアーカイブズ制度の整備は不可欠。 専門職(アーキビズト)を養成するため、アーキビスト養成大学院(専門職大学院)の設立が求められ、大学院教育担当者の養成が求められる。
文化人類学 文化人類学 ○専門ごとの区分けが比較的明確な人文・社会系の学問の中で、日本の文化人類学・民族学は、初期においては欧米の影響を受けつつ、様々な学問分野からの研究者が参入したが、教育制度の整備と共に専門化の傾向を強め、さらに最近では対象社会の変化にともない、自らの学問のあり方を問い直しつつある。
○この分野で海外調査に出る研究者の数は、世界でも有数である。
●研究論文は日本語で書かれるものの方が多く、調査件数に比べ国際的影響力は限られる。その点の改善のため、日本文化人類学会はJapanese Review of Cultural Anthropologyにより、日本人の研究の紹介を行ってきている。
法学 法学
国際法学
○人文・社会科学は、ことばによってさまざまな社会事象や人間の精神作用などを説明する学問である。
○国際法は、国際規範を研究対象とすることから、学問そのものが国際的であるが、これまで歴史的経緯および語学の点で世界的に日本がリードしているとはいえない状況があった。しかし、近年、中堅から若手の研究者において外国での論文・著作の公刊や国際学会での活躍が目立ってきている。
○研究は国際法の全分野について質の高いものがあり、研究内容が外国(特に欧米諸国)と較べて遜色はない。
○国際法は特に日本の独自性が強く現れるような分野ではないが、わが国の置かれた地理的経済的位置から、海洋法や国際経済法の分野での活躍が相対的に大きい。
○国際法について、アジアと較べればわが国の研究の質の高さは明らかである。
 
法学 ○わが国の法律学においては、従来から、外国の法制度の研究が盛んであって、国際的な色彩は濃い。 ●今年度から法科大学院が始まったが、法科大学院の授業・研究では、わが国の実務(判例)が主に研究対象となるため、外国法の研究はやや手薄になる可能性がある。
●わが国の法律学は、従来、西欧の法制度についての研究が盛んであったが、今後は、東アジア法などに目を向けて、東アジアの法制定・発展過程に寄与していくことが有益であろう。
●工学系との融合として、都市計画法、インフラ法、交通法、エネルギー法、原子力法など、法律学との関連は多い。
●生物系、医学系においても、生命倫理、個人情報保護の観点などから、法律学が関わっていくことは有益であろう。
法制史 ○社会科学の一分野である法学は、現に存在する法律の解釈を主たる任務とする「実用法学」・「実定法学」と法の基礎的・理論的研究を任務とする「基礎法学」に分けられるが、法制史は法哲学、法社会学等と並んで後者に属する。
○実用法学は各国独自の法律を対象とし、それぞれが独自の使命と課題を負っているので、通常は「競争力」の観念とは結びつきにくいが、各国の制度が違いつつも、事実上どこかの国の法制度が国際スタンダード化すると、他国もそれに追随しなければならなくなるような分野(例:知的財産法)では競争力が問われる。この点我が国はアメリカに遅れをとっている。
○基礎法学については、従来我が国の学界は手薄な面をもっていたが、最近は諸国が基礎法学への資源投資を怠るようになって、彼我の差は急速に縮まり、分野によっては世界をリードする研究者も出現している。
○特筆すべきは、近年、実定法学者と基礎法学者、さらに法実務家の協力により、発展途上国の法制度整備支援が盛んとなり、アメリカ(法)の覇権に歯止めをかける努力が実を結びつつあることである。しかしこの面では、ドイツ、オランダ、フランス、オーストラリア等もしのぎを削っており、今後の一層の努力が求められている。
●法学分野のパラダイムが大きく変わろうとしている。いわゆる司法試験科目中心の教育研究では世界の趨勢に立ち遅れる。基礎法学、他の社会科学との連携なしには日本の法学の将来はありえない。
経済学 経済学 ○経済学は人文・社会系の中で、国際化(国際的標準化)の著しい少数の専門分野の一つである。特に、理論経済学と計量経済学の分野は言語・教育・研究・評価等の点でほぼ完全に国際化しており、一部の領域(ゲーム理論、数理経済学等)では日本の研究者群が高い国際競争力を発揮している。欧米著名大学に招聘される研究者も少なくない。 ●日本固有の経済制度の理解を前提とする経済政策・経済事情の分野、史料等の講読を前提とする日本経済史の分野では、国際標準的な研究方法が浸透しつつあるとはいえ、なお従来からの教育・研究方法に沿った専門研究が中心となっている。この分野での研究成果水準も、国内での競争環境の高まりから着実に高度化しているが、研究成果の大部分が日本語で発表されているため、海外への情報発信は極めて限られている。
●今後伸びる可能性がある分野:グローバルな観点からの研究。例えば、東アジア諸国(特に中国)の経済制度・経済発展研究、空間経済学等。
●他分野との連携・融合が有効な分野:医療経済(医学)、技術進歩(ナノテクノロジー工学)、情報処理(情報科学)。ただし、経済学系研究者には医学・工学・情報科学等の基礎的な研究を併せて行う必要がある。
●現在の主流は社会学や労働法にある社会保障や福祉国家の経済分析的な研究。ただし、経済学系研究者も人口論、社会保障論等の研究を併せて行う必要がある。

理工系

専門分野 特性・特色 方向性・課題等
天文学 天文学※   ●今後伸びる可能性のある分野:惑星地球生命科学(惑星科学、地球環境学、生命科学の連携融合分野)
理論天文学 ○理論天文学では、林忠四郎京都大学教授や海野和三郎東京大学教授及びその門下生を中心に世界的に秀でた研究成果があった。
○1980年代から、野辺山宇宙電波観測所が設立され、我が国が大学共同利用施設として世界一線級の望遠鏡を持つにいたり、まず電波分野に秀でた研究成果を排出。更に、国立天文台の設立後、太陽ヘリオグラフ、すばる望遠鏡、VERA、理論シミュレーション用のスパコンなど、世界最先端の装置が大学共同利用に供されることとなり、さらには、X線天文衛星、赤外線天文衛星、VSOP等の成功によって、現状では日本の天文学分野の競争力は欧米諸国と並んでいる。
○天文学分野に置いては、ほぼオールラウンドに高い成果と実績がある。以上の実績が評価され、国際協力事業であるアルマ計画は日本参加が期待されたところである。
○すばる望遠鏡の主鏡面カメラや、ミリ波では世界最大の電波望遠鏡である野辺山45メートル鏡などは日本の独自性を示すものである。
○中国は、国家天文台を組織して体制変更等を行って、天文学の振興に努めている。また、台湾や韓国にも共通するところであるが、欧米や日本で教育を受けた研究者を呼び寄せて急速な発展を目指している。ただ、科学的成果の面では、まだ物足りない面がある。
○粒子線や重力波まで含めると、小柴先生の超新星ニュートリノの発見、ニュートリノ質量の存在確認、TAMA300等における重力波感度向上など秀でた成果がある。
●1980年代以前は、世界一線級の観測装置がなかった事情から、観測天文学は欧米諸国に遅れをとっていた。
●ただ、我が国は、研究者の数の伸び率は高いものの、研究者の絶対数の面では、米国や欧州に比べて少ない。現状では圧倒的に米国に多い。一層の人材養成は今後の課題である。
●伸びる分野:太陽系外の惑星探査・生命の探求、ビッグバン宇宙(ダークエネルギー、ダークマター問題)、銀河の形成と大規模構造の解明、極限状態の天体の研究(超新星爆発、ブラックホール、ガンマ線バースト)
●連携・融合の進む分野:太陽系外の惑星探査・生命の探求(惑星科学、生命科学、分子科学)ビッグバン(素粒子科学、物理学)極限状態の天体(原子核物理、物質科学、核融合、レーザー核融合)星の進化(原子核物理、核融合)
●研究者が少ないが重要:太陽系外縁部の科学、宇宙生物学
物理学 素粒子物理学 ○素粒子物理学は物質の究極的な構造を明らかにしようとするばかりでなく、宇宙のごく初期に起こった物理現象を理解し、現在の宇宙に至った過程を明らかにすることを目標とする分野に変遷しつつある。
○理工系の研究分野のなかでも際立って基礎的な分野であり、直接的な経済効果が期待されるものではない。
○近年「標準理論」と呼ばれる理論体系が確立され、ほとんどの実験事実は説明されるようになったが、これは究極的な物理法則ではなく、それを超えた物理法則が必ずあるとの信念のもと、新しい物理法則の手がかりを求める研究が盛んである。
○この研究のためには加速器という巨大設備が必要であることから、実施できるのは世界5ヶ所の大規模研究機関に限られ、ここで国内外の研究者による国際研究チームを組織して10年単位の研究計画を実施することが通例となっている。したがって国際協力はきわめて日常的である。
○我が国では高エネルギー加速器研究機構を中心にニュートリノやBファクトリーなど、最先端の研究が実施され、世界的に高い注目を集めている。この背景には国内の産業のきわめて高い技術力があることは指摘されるべきである。
○歴史的には欧米諸国がこの分野の中心であったが、アジアでも近年、日本のほかに中国が加速器を建設し、成果をあげている。
●今後10年は世界をリードしていくと思われる。
素粒子物理学 ○加速器の技術は核融合や原子力の技術に近い点も多く、技術交流という点では連携が可能であるが、学問として目指している内容に関しては、むしろ天文学や宇宙科学と共通点が多い。
○固体物理学、化学、構造生物学、医学などで放射光や中性子線を応用して研究する分野とは加速器技術、粒子(X線)測定技術、データ処理技術などで共通なものが多くあり、共同研究も行われている。
○素粒子物理学のデータ解析ではきわめて多量のデータを解析する必要があることから、データ処理技術に関してすでに国立情報学研究所や民間企業の研究所などと共同研究が行われている例がある。
○今後これらの分野との交流がより盛んになり、共同研究にも成果が期待されるが、分野の融合にいたるとは考えにくい。
○我々は新たな物理法則の発見前夜にいると考える合理的な理由があり、これによって人類の自然認識が大きく変わろうとしていると言っても過言ではない。これは時空の構造に関わる発見かもしれないし、物質と力を統合するような新しい法則かもしれない。これを発見し、解明することが素粒子物理学の今後10‐20年の大きな課題である。
物性科学 ○物性科学の分野では(細かく見れば分野による強弱はあるものの)わが国の研究者の研究水準は国際的地位は(たとえば20年前と比較して見ると)格段に向上した。
○物性科学研究の鍵を握るのは試料であるが、新物質の発見と純良試料の作製に関してわが国の研究者の貢献は多大である。
●研究者の目はどうしても欧米諸国を向いており、アジア諸国との連携をいかに進めるかは検討課題。
宇宙線物理学※ ○特徴ある研究を選択的に遂行することにより、世界的にみて我が国の当該研究分野がもっとも高い生産性を有している。現在、中国、韓国等に技術的指導を積極的に進めているが、アジア各国は今後急速に力を付けていくと思われる。 ●加速器科学分野では、今後は国際共同研究(多数の国が一致共同して推進するグローバル化)が一層進んでいく。
●加速器科学分野に関しては、基礎的な研究とともに多彩な応用研究に加速器技術が利用される。新しい加速器技術をさらに開発していくことはきわめて重要であるが、それは基礎的研究からの厳しい仕様要求によって進展していくものである。
地球惑星科学 惑星物理学 ○地球惑星科学は、物理系を中心として理工系の1分野と位置づけられるが、最近では、地球の生命の誕生と進化という観点からの研究が注目を集めており、この意味では生物系との接点も多くなってきている。
○一時は圧倒的に強いと言われていた地震予知分野では、経験的手法の限界にぶつかり一時停滞したものの、基礎研究に立ち返るという見直しの結果、再度高い競争力を回復しつつある。
●地震学や火山学では、日本の独自性や競争力は伝統的に高く、世界をリードしてきたが、惑星探査を中心とする惑星科学については、宇宙プラズマ分野では高い競争力をもっているものの、全般的には米国に遅れを取っている。とくに、固体惑星研究においてそうである。
●将来の方向性について、地震学からは、断層面の不均質結合状態を解明し、さらに地震波伝搬経路の構造を解明し、対象地の基盤構造までの地震波を詳細に調べる。
●将来の方向性について、地盤工学では、表層の構造の影響を解明し、地表での地震動を正確かつ詳細に予測する。耐震工学からは、予測された地震動に対する耐震、免震構造の設計を担当する。
●このような連携を通して、きめ細かい地震防災計画を策定する。
プラズマ科学 プラズマ理工学 ○「プラズマ・核融合」は、核融合エネルギー開発を目指した領域横断的分野である。
○新たなエネルギーを開発し全人類の福祉に貢献するという目的は、科学としての可能性、工学としての最適性、環境学からみた適合性、社会学からみた公共性など、多元的な合理性の上に位置づけられなくてはならない。
○また超高温プラズマの生成と制御という困難な課題は、未踏の領域へ挑戦する複合的研究の場を作っている。
○約50年間で長足の進歩をとげた分野であり、非線形現象、集団現象といった基本的なテーマについての研究成果は、多くの分野を横糸的に繋ぐ学理として波及している。
○わが国は、核融合研究開始時から、国際的研究拠点の一つとして積極的に取り組んできた。
○核融合科学研究所(NIFS)、日本原子力研究所(JAERI)および大学は、多くのテーマについて世界をリードする成果をあげており、活発な国際研究協力がおこなわれている。
○次期国際プロジェクトであるITER(イーター)に関しても、一国として最大の影響力を有する。
○プラズマ・核融合は科学から工学への相転移期。
○研究の中心は未解明の現象についての実験・理論であり、多くの優秀な科学者が研究を企画・遂行する必要がある。
●今後は、基礎学術の学際化を強く意識する必要がある。たとえば物理学会・領域2(プラズマ関連分野)では、アカデミックアイデンティティーを刷新するために(1)プラズマ基礎、(2)プラズマ科学、(3)核融合プラズマ、(4)プラズマ宇宙物理の4つの柱をたて、研究交流の活発化と学理の深化を目指している。
基礎化学 物理化学 ○「優れた(主に電気的、磁気的、光学的)機能を有する物質(無機物、有機物、炭素材料等)の理解・開発」に関する研究の特色は、

(1) 基本的に「スモールサイエンス」である。
(2) 研究の進め方としては、"bottom-up","curiosity-driven"の要素が強い。また、セレンディピティ(serendipity)による発見が研究を大きく進展させることが多い(例:白川先生のポリアセチレン、飯島先生のカーボンナノチューブ、秋光先生のMgB2)。
(3) 従来の研究分野(物理-化学-生物、無機-有機...etc.)を横断した発想・研究体制が極めて重要。
(4) 国際的に見て、日本が優位性を保つ(特に基礎に関する)領域が多い。
●応用に関しては欧米(アジアでは、ポリマーや炭素材料の分野で、韓国)が優位か。
●化学・物理・工学と生物との連携・融合がますます重要になるであろう。現在でもそのような動きは活発であるが、もう少し地に足の着いた研究が必要である。
化学
有機化学
○有機合成化学は、競争力があり、「モノ作りの出来る」卒業生に対する企業での需要も多い。 ●モノ作りの分野の、大学での研究者及び学生の人口(講座数)が減少していることを危惧する声が企業に多い。
電気電子工学 電気電子工学※ ○材料関係は人材豊富なこともあり競争力はトップクラス。システムに近づくにつれ、日本の成果は小さくなる。
○ソフトウエア関係はトップクラスではないが、先進国の平均よりは少し上になってきた。
●材料は近い将来、中国に追いつかれるだろう。
●現状では人気がないが国としてやるべき分野、例えば原子炉技術者、バイオ以外の農水林業の研究者の確保等が重要
基礎生物学 マクロ生物学 ○この数十年、生物系全体としては、一般的には研究費の配分が増えているといえる。
○我が国でもこの分野の研究は高レベルにあり、国際雑誌への投稿数も多い。
○日本で発行しているマクロ生物学の国際誌には、日本と欧米のみならず、インド、インドネシア、中国からも投稿がある。
●マクロ生物学は、環境問題に関する地球規模の問題に対応する大型プロジェクトは認められても、小規模の生態学的研究、行動学的研究、博物学的研究、人類学的研究には相対的に日が当たらない。
●今後、地球環境の悪化と共に、生態学、生態人類学、行動人類学、保全生態学、資源物理学などの分野の人々がもっと必要になるだろう。
●また、人文社会系との連携も必要になるだろう。
生物科学 化学
構造生物化学
○構造生物化学は、機能生物学、水の中の反応化学、分子進化生物学の分野の間に位置し、物質の機能という面から、酵素反応と生体物質間の相互作用の分子化学的側面を統一的に明らかにする。
○国際的に分担して協力して研究することが本来あるべき姿。国際的に協力していくので、日本の独自性は出てこないはず。
●ゲノム解析の情報を使ってアミノ酸配列から3次構造の予測へとつながるような研究、生体物質の立体構造が分かったとき、それを総合的に解析し、生体物質というマクロな分子を取り扱う分子構造学の分野、分子の構造を形成する過程の分子機構を研究する分野分子構造の形成過程を考慮し、アミノ酸の置換による立体構造変化の予測等の研究が分子的進化科学の分野にも発展する。
生物科学
分子生物学
○総体的な国際競争力はかなり高く、欧米先進国と肩を並べているといえる。大学院教育がしっかりしており、質のよいデータを出せるため。
○生物学分野で未だ大きな空白のある分野はゲノムの機能解析。ゲノム情報やDNAアレイによる解析は、その入り口を与えるだけで、発現制御機構と、そのネットワークの解析には多くの人材を必要とする。これは、医学や薬学との大きな接点を持つものであり、日本のバイオの盛衰とも関わってくる。
●ゲノム解析の情報を使ってアミノ酸配列から3次構造の予測へとつながるような研究、生体物質の立体構造が分かったとき、それを総合的に解析し、生体物質というマクロな分子を取り扱う分子構造学の分野、分子の構造を形成する過程の分子機構を研究する分野分子構造の形成過程を考慮し、アミノ酸の置換による立体構造変化の予測等の研究が分子的進化科学の分野にも発展する
分子進化学   ●生命情報学やバイオインフォマティックスという分野での長期的立案(戦略性)が急がれる。
●ハイテク等の国際的優位性を生命科学に活かす機会がこのままではなくなってしまい、欧米諸国からの遅れの取り戻しや中国・インド・ロシア等との競争力低下を大いに危惧している。
●研究分野の将来の方向性:生命情報学(情報生物学)やバイオインフォマティックス、生物の多様性と進化に関する研究を通じた統合化生物学やシステムズバイオロジーの確立。ゲノムや遺伝子発現・プロテオーム等に基づく医学研究。

生物系

専門分野 特性・特色 方向性・課題等
農学 農学
作物学
○世界的な人口増に見合う食糧生産と地球温暖化・異常気象にみるような緑の惑星の疲弊・機器に対処するための環境保全と相反するグローバルな課題に、農学は真摯にコミットしている。
○食糧生産・環境保全など人類の衣食住を支える分野としての農学は21世紀になってますます重要度を加えている。両者の調和は難しいが、長期的なスタンスでの研究の積み重ねが必要な分野である。
○研究者の関心が深い分野であり、大学関係者だけでなく、産業官庁の研究機関もまた、世界横断的に取り組んでいる。
○各人、各大学・研究機関がそれぞれの資源を生かして、競争的でなく、むしろ協力して取り組んでいる。
●グローバルな取組如何で成果が左右される場合が多く、分野間の国際的な連携が必要。
●先端的な分野のみならず、こうした問題解決型研究課題にも大いに関心を持つ必要がある。
農学 ○農学は総合科学であるが、非医学系の応用生物学的な側面があり、これまで、その成果が産業にも応用されてきた実績がある。応用微生物学などは、日本がほこる科学のひとつ。
○近年は、農業生産を中心にした産業面ばかりでなく、生態系の環境保全の立場からも、重要な学術を担っている。
○農学の基礎的分野は、医学や理学の基礎的分野と基盤を共有する。
○農学分野の展望を見据えた上での、教育システム、学問領域の再検討は必要に思う。
○農学内部での自主的な将来計画委員会のようなものは必要かもしれない。
●成果が出るまでに時間がかかる科学であること、データ、資料などを継承していくべき科学であること等が特徴。
●農学領域は、研究者数は少なくともそれぞれの分野が必要な分野である。
●これからの世紀を考えるとき、植物科学分野(植物バイオ)などは、これからの環境問題、資源問題、食糧問題のために、理学の分野と協力し、さらに支援発展させる必要がある。
●微生物バイオについても、これからの発展が期待される分野。
●動物分野は、医学部の基礎科学のモデル生物を扱う分野と協力体制をとることが必要。
●医学以前の、健全な生活、健康な生活を築くには、非医学の生物学も重要。
基礎医学 生化学
細胞情報学
【生物系で特に脂質生物学について】
○この分野は糖鎖生物学とならび、ポストゲノム時代の大きな研究課題。
○脂質生物学の課題は4つあり、

(1)エネルギー源としての脂質の活用と疾病予防、
(2)生体膜成分としての脂質の動態解析、
(3)生体制御分子としての脂質メディエーター解析、
(4)脂質ライブラリーと脂質データベース作成。
○一部を除き、どの分野でも日本は世界をリードしており、多くの先駆的業績は日本で行われた。
●昨年、米国のNIHがグルーグラントで脂質解析に40億を投じたことに危機感を持っている。
●脂質は水に溶けず、分子生物、電気生理で取扱いの難しい分野だったが、これから重要となる。データベース構築と検索エンジン作成が重要。
●脂質生物学研究センターの構築
●バイオインフォーマティックス
●神経では行動薬理学、心理学などの分野、教育-心理-哲学-神経科学の統合分野など
●メタボローム解析と情報データベース
医学 ○医学の分野では、治療も含めて組織の再生や修復の研究が注目されている。 ●最近、リーディングプロジェクトとして再生医療研究が開始されたが、幹細胞を中心としたTR的な要素が強く、組織特異的な分化誘導環境や組織の分化・再生開始局在、組織特異的分化誘導因子の発現等の基礎的研究が必要である。
●これまでの発生生物学の分野では、ショウジョウバエに代表されるより原始的生物を利用しての初期発生学に偏りがちであったように思われる。そこでは、初期発生に必要とされる遺伝子産物を同定することは比較的容易に解明してきたが、個体成熟後の細胞や組織修復において、あるいはその後の分化段階で再度必要とされる因子の研究、腸管の上皮細胞のように常時分化再生している細胞、あるいはそれら因子の機能を解析する領域をカバーしていなかった。従来の発生生物学領域とほ乳類での組織分化や再生・修復機構を繋げて分子レベルで研究できる領域が必要。
●分化発生誘導に関わる微小環境研究領域も研究者人口は少ないが、今後重要な領域になる。
●ポストゲノムの分野で、負あるいは抑制発現の領域に光があたることが望まれる。
内科系
臨床医学
消化器
内科学※
○生物系の医歯薬であるが、臨床分野であり基礎医学分野と異なり実社会との関わりが大きく、研究環境、目的など大きく異なる点が多い。消化器内科的領域の研究では、胃癌など我が国に多い腫瘍の研究、内視鏡診断、治療などアジア諸国はもとより、欧米に対して優位に立っている研究も多い。 ○今後伸びる可能性のある分野として、新しい医療機器の開発(医療工学)、栄養制御(肥満、癌、血圧など)、病院運営のためのシステムエンジニアリング、医療経済、医療安全工学など。

上記の系以外のもの

専門分野 特性・特色 方向性・課題等
  環境配慮材料(エコマテリアル)、環境適合設計(エコデザイン)、環境経営システム等 ○循環型社会、持続可能発展という包括的、総合的研究分野。
○日本は技術アプローチに優れている。
●新分野なので研究費の確保が困難。
●日本はSTS(Sustainable Technology Strategy)=持続可能性技術開発に関する総合戦略を持つべき。
●日本はシステムアプローチが弱い。
  生態人類学 ○地球生態学(生態人類学、環境人類学を含む)は、従来、自然系中心の研究(地球温暖化)か、経済学中心の開発経済学など社会系研究分野に特化したものとしておこなわれてきた。これは世界的な傾向である。
○欧米では、政府主導型の研究とNGOなどを中心とした実践的な研究が主流であり、我が国では環境省、国土交通省、経済産業省などが環境問題の研究をリードしてきた。
○昨今、里山論、ビオトープづくり、自然再生事業等を官学民の共同によりおこなう新しい動きが注目される。
○環境問題の解決には統合・循環・接合・ネットワークなどのアプローチによる分野横断型の研究が不可欠であるが、そうした研究に資するための、自然系と人文・社会系を統合した実績は達成されているわけではない。ある特定の地域に特化した研究があっても、それの普遍的な位置づけはまだまだの現状にある。
○今後、日本が取り組むべき課題として、全世界的な水問題、二酸化炭素排出規制などグローバルレベルに対応する研究と、今後の中国の動向を踏まえたアジアに焦点をあてた地域的な研究が是非とも必要である。長江の洪水や東シナ海の汚染、工場の排出する有害物質などが日本に与える影響(酸性雨、日本海の汚染、食料の安全保障)は多大であり、日本の国家的な環境政策とも連動する重要な課題である。
○日本が輸入するさまざまな天然資源や食料が、生産の現場である中国や東南アジア、世界の熱帯林、サンゴ礁などでどのような問題を引き起こしているかを詳細に分析することが、日本の立場と途上国の環境問題を相互に考えるうえで日本の研究の果たす役割を際だたせる。
○生態人類学や新しい地球環境学は、本来的に還元主義ではなく、自然と文化の相互作用を統合的に把握する点に大きな特色があり、研究の視点についても時間・空間的な比較を重視することと、集団をとらえるさい、民族(ethnic group)の概念を重視する。
○この観点は、環境や自然への認識が民族により異なるという理解につながるものであり、自然と文化の多様性を統合的にとらえるうえで、政治生態(eco-politics)とでもいえる新しい研究の中核となる可能性を秘めている。政策立案面でも注目すべき分野と考えられる。
○物質文化やモノの研究は、民具研究や博物館中心に進められてきた。
●「食と健康」の分野は自然系と人文系の融合分野であるが、還元主義的な研究のいきづまりが懸念される。
●生命現象の研究で、生き物の文化的な意味などについてまったく無知な傾向をもつ研究者があり、生命現象の複合性に関する研究が看過されているので、自然と文化の関係に配慮した研究推進を積極的に計るべきである。
●地域全体を共同研究で明らかにする地域研究は、かつて9学会連合が実施したが、個々の分野の寄せ集め的であった。真の地域研究にむけての新たな領域を開拓すべきである。
●環境関連の融合領域は今後とも重要になるであろう。
●伝統工芸、職人の文化に関する研究は地味であるが、日本の文化を継承していく上で進めるべき分野である。
●地域にある在来の知識や技術についても、経済中心主義、大量生産主義により急速に失われつつあり、遺伝学(農学分野)、民俗学などの共同作業が有効な結果を多数生み出す可能性をもつ。
  生命倫理 ○生命倫理分野はその実践性にかんがみれば、理系(生命科学・医学)に加えて、人文社会系の関連分野、たとえば法学、経済学、社会学、心理学、などとの連携を考えるべき学際的分野である。 ●生命倫理は、理論的学問としての生命倫理学と、倫理規範策定や日常の研究・医療の現場での倫理問題の解決という生命倫理の実践との間でやや乖離がある。
●生命倫理は、欧米と較べて生命倫理学の研究者が社会に向かって発言することは多くない。
●生命倫理の理論研究は外国文献研究型が多く、日本独自の倫理観、生命観に基づく生命倫理理論は必ずしも育っていない。
●生命倫理学会もまだ年が若く、学会員はおよそ1000名を擁するが、研究方法論的に必ずしも十分に確立していない部分があり、今後の発展が期待される分野である。
●これまでの研究分野を越えて研究組織を広げることは用意ではないので、そのためのインセンティヴを広い範囲で考える必要がある。

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