平成18年3月14日に開催された文部科学省における「食品成分に関するデータ整備のあり方等に関する検討会」において、六訂日本食品標準成分表の策定に向けての検討がなされ、必要があれば収載食品の追加等が考えられる食品の1つとして地域伝統食品が挙げられている。また、このなかで地域伝統食品とは、主に特定の地域において、生産され流通している食品と注記されている。さらに地域における成分表策定の取組事例も見られるところであり、その収載の必要性、地方公共団体や関係省庁との連携のあり方、データの収集方法も含めて検討することとなっている。本調査では全国を対象として、1.地域伝統食品にはどのようなものがあり、その生産流通の地域と規模2.食品成分値の保有状況は、これらについての情報を集め、日本食品標準成分表への収載に向けての検討に資する基礎的資料の作成を目的としている。
地域振興あるいは食育などを目的に各地で地域の伝統食品を見直す動きがあり、野菜類などを中心に、こうした食品についてその情報を整理してホームページなどに掲載することが行われている。このような情報も本調査では有用であり、この種の事業は地方自治体の振興を担うセクションが主に担当しており入手先として重要である。
ところで、伝統食品に関わる調査として、本調査とは視点が異なるものの農林水産省の補助事業として地方品種を中心に全国の都道府県や農協等に照会する形で調査が行われており550を越す野菜について食味、外観、由来、出荷量などの情報が整理された調査結果が公開されている(「平成19年度外食産業・農業等連携ビジネス確立支援事業食材情報提供推進調査」)。地域の特色ある野菜が多くを占めているため地域伝統食品の野菜類について調査を進めるにあたり有用な資料と考えられた。
地域伝統食品の選定と付随する情報の収集にあたっては、地域の事情に明るく公の立場にある機関等から入手し、必要に応じて助言を受けることが重要と考えられる。また地域伝統食品の日本食品標準成分表策定に関わる動きや食品成分値も収集対象であり、成分分析を行っている場合には分析法についての情報も必要である。こういった観点から情報収集を行うにあたっては公設の試験所を中心に行うことが適切と考えられた。
本調査では全国の都道府県を対象としており、比較的短い期間で情報の収集及び整理を行う必要があるため、アンケート調査により全国を網羅的かつ定型的に情報を収集することにした。また、アンケート調査による情報で不足する部分は上記の公開資料や都道府県のホームページ等の資料により適宜補った。
アンケートでは地域伝統食品の定義として、前述の注記に従い「地域伝統食品とは、主に特定の地域において、生産され流通している食品」を用い、さらに具体性を与えるため、品種が異なること、古くからという言葉を加えた(様式‐7 アンケート様式)。しかしながら、こうした説明書きによっても地域で生産される多くの食品から地域伝統食品を選ぶ明確かつ十分な基準とは必ずしもなりえないことから、アンケートの回答を行う機関等の判断を優先することにした。
アンケートでは選定された地域伝統食品に付随する情報として、流通地域、生産量や食品の特徴等を記載して頂いた。さらに、食品についての成分値保有の有無と保有している場合には開示をお願いした。
アンケート対象とした全国の都道府県の公設試験所に事前に電話等で連絡し、背景を説明した上でアンケート用紙を送付して回答して頂いた。一部の公設試験所では都道府県庁と連絡をとり振興課などから回答して頂いた。なお、アンケート調査の実施期間は平成21年1月~2月である。
アンケート回答であげられた食品は、日本食品標準成分表の食品群に準じて分類を行った。すなわち、穀類、いも及びでん粉類、砂糖及び甘味類、豆類、種実類、野菜類、果実類、きのこ類、藻類、魚介類、肉類、卵類、菓子類、し好飲料類、調味料及び香辛料類、調理加工食品類、さらに日本食品標準成分表には収載されていない郷土料理の17とした。野菜類については非常に食品数が多いため、さらに利用目的による分類である果菜類、茎菜類、葉菜類、根菜類及び花菜類に便宜的に区分した。
表のカラムは食品番号(日本食品標準成分表の食品群番号)、都道府県名、食品名、流通地域または生産地域、生産量等、特記事項、成分データ保有の有無及び情報入手先で構成し、アンケート回答の記述はできるだけそのまま載せるようにした。特記事項等の記載がなく食品名だけからではどのような食品か分かりにくいもの、流通地域など食品に関わる付随情報がアンケートで得られなかった場合には、都道府県のホームページや公開資料(「平成19年度外食産業・農業等連携ビジネス確立支援事業食材情報提供推進調査」)などにより括弧内に適宜追記した。無回答または該当食品無しと回答した都道府県については、上記の資料から数点を地域伝統食品の該当候補として参考的に取り上げた。
表‐3‐1~表‐3‐17に食品群毎に分類して示し、表‐3‐6の野菜類についてはさらに区分して表‐3‐6‐1‐1~表‐3‐6‐1‐3、表‐3‐6‐2‐1及び表‐3‐6‐2‐2、表‐3‐6‐3‐1~表‐3‐6‐3‐5、表‐3‐6‐4‐1~表‐3‐6‐4‐5及び表‐3‐6‐5に示した。また上記の参考的にリストした食品は表‐3‐18に示した。
都道府県から提供された食品成分値データは日本食品標準成分表の成分項目にならった様式にその数値を入れ、日本食品標準成分表の成分項目に該当しない成分値についてはその他のカラムに、また分析法等は備考に入れ一覧表を作成した(表:地域伝統食品 栄養成分データ)。
地方自治体によっては地域の食品について公設試験所を活用するなどにより成分値データを収集しているところもある。こうした事業を進めている自治体の試験所は食品分析についても精通しており、公表されている成分値データの信頼性は高いと考えられる。
この調査では、地域伝統食品として選定されたもののうち多くの成分についてデータが公表されている食品を対象に成分分析を実施した。目的は、同一名称の食品であるものの、来歴が異なる食品を別々の機関が分析した場合に、両者の分析値にどの程度の開きが生じるかを見るためである。試料としては実施時期が冬季であったため、入手が容易な加工食品や茎菜類、根菜類を中心に10点の食品を選んだ。成分項目については、基礎成分とナトリウムとカルシウムは必須として、そのほかはビタミンやミネラルなどからその食品に特徴的なものを選んだ。分析法は日本食品標準成分表に示された方法を用い日本食品標準成分表に収載されていない成分については、例えばγ‐アミノ酪酸ではアミノ酸自動分析法を用いるなど、広く用いられている分析法を採用した。
47都道府県の機関等から回収されたアンケート数は42であった。このうち該当する食品が無いとするものが3であった。アンケートで挙げられた食品数は437になり、その内訳は、穀類12品目、いも及びでん粉類30品目、砂糖及び甘味類1品目、豆類22品目、種実類2品目、野菜類240品目、果実類31品目、きのこ類3品目、藻類10品目、魚介類55品目、肉類5品目、卵類1品目、菓子類7品目、し好飲料類1品目、調味料及び香辛料類12品目、調理加工食品類1品目であった。さらに、日本食品標準成分表の食品群にはない郷土料理が4品目であった。
野菜類が圧倒的に多く55
%であり、次いで魚介類13 %、以下果実類7 %、いも及びでん粉類7 %、豆類5 %と続く。野菜類をさらに区分した果菜類、茎菜類、葉菜類、根菜類及び花菜類では、葉菜類と根菜類とが多くを占めた。
穀類12品目うちに穀類を利用した加工食品が7品目含まれており、郷土料理の食材など地域とつながりの深い食品が目立った。いも及びでん粉類ではいも類だけがリストされている。流通地域や生産量のデータもほぼ揃っていた。生産量は1トン未満から1,000トンを超えるまで大きな開きがあった。砂糖及び甘味類では徳島県の阿波和三盆糖が1品目挙がっている。
豆類では豆腐類や納豆及び味噌などの加工食品が11品目と半分を占め、地域色が強い食品が目立っている。種実類は岐阜県のぎんなん、兵庫県の栗の2品目であった。
野菜類のうち果菜類と分類した数は55品目である。なすが一番多く18品目、うりが9品目、かぼちゃが7品目の順である。なすは奈良県の大和丸なすや京都の賀茂なすを除くと生産量は多くはなく、各地でそれぞれ特徴を有するものが生産され地場を中心に消費されている様子である。
茎菜類の数は29品目と野菜類の中では多くはない。特定の食品に品目が集まることはなく、たまねぎ、ふき、うど、芋がら、ずいき、しょうが、にんにくなどに分散していた。生産量については愛知県の愛知早生ふきなどを除くと少ない。
葉菜類では83の品目が挙がっており野菜類のなかでは一番品目数が多い。葉菜類中で漬菜類が最大で36品目であった。回答のあったものでは、山形県の青菜、長野県の野沢菜、熊本県の阿蘇高菜を除くと顕著な生産量のものは少ない。また特記事項などから各地域に根付いた系統のものが地元中心に消費されていると推測される。葉菜類ではこの他にねぎが18品目と多い。ねぎも京都府の九条ねぎや愛知県の越津ねぎを除くと生産量は少なく、地元消費が中心のようである。
根菜類も大変多く72品目であり、大根が34品目、かぶが29品目であり2食品で大半を占めている。大根では守口大根、聖護院大根及び桜島大根を除くと生産量は少ないものがほとんどであり、地域色が濃いものが挙がっている。かぶについては生産量が顕著に多いものはあまりなく、長野県では7品目が選ばれるなど、1つの県から複数挙がっているところが目立つ。地域ごとに系統など違いを残しならから各地で古くから栽培されている様子が窺える。ごぼうは6品目と少なく、生産量は最大で35トンであった。
野菜類の最後の区分になる花菜類では日本食品標準成分表に収載されている食用菊が1品目挙がっている。
果実類は31品目であった。このなかでは柿が11品目と一番多い食品であった。全国的に知名度が高いものも挙がっており、流通地域も広く、県外への出荷も目立つ。きのこ類は3品目と少なく日本食品標準成分表に収載されているものも含まれる。
藻類は9品目あり地域色が強いものとしては、枠に入れて乾燥させたすき昆布(岩手県)などが挙っている。魚介類は55品目が挙げられた。このうち干すなどを含め何らかの加工が加わったものが26品目であった。これらのなかにはすでに日本食品標準成分表に収載されている食品も含まれるが伝統的な加工法によるものが目立っている。肉類は5品目、卵類は1品目といずれも数は少ない。千葉県の鯨肉の塩干品を除き鶏肉、牛肉など地元の育成品種やこれに他の品種を交配させたものである。
菓子類は7品目であった。表の特記事項の記載からは地域に根付いた菓子類と考えられる。し好飲料類及び調理加工食品類ではそれぞれ1品目ずつであった。調味料及び香辛料類では11品目あり、このうち、とうがらしが5品目であった。
郷土料理に該当するとしたものが4品目あり、魚介類の入手が昔は難しいなど地域の特性などが反映された伝統料理である。
野菜類が多くを占めた理由としては、種類が他の食品に比べ多くまた品種や系統のバリエーションが豊富であることにある。また、その地域の気候や土壌などに適したものが古くから栽培されて伝統野菜類となっていることから、日本は南北に長く気候の差が大きく平野が少ないため、地域が小さく区切られている地勢的なこともベースにあるものと推測される。また、自治体で地域振興等の目的に伝統食品の見直しを行うなかで、農産物については食品の由来、流通地域、生産量、食品の特徴などの情報整備が進んでおり、アンケートに回答しやすかったことも野菜類が多くなった要因と考えられる。
ところで、都道府県により挙げられた食品数に差が大きい傾向がみられた。これは地域伝統食品に該当する食品数の違いが基本的な要因ではあると思われるが、一般にこのような食品についての情報整備も産業振興の位置づけとしている都道府県では食品数は多くなっているようである。したがって、挙げられた食品数がかなり少なかった自治体でも、伝統食品の資料の整備が進めば該当食品が多く出てくる可能性はある。
アンケートで地域伝統食品として挙げられた食品437のうち、何らかの成分値データがある食品数は80であった。このうちエネルギー算出の基礎となる一般成分のデータがあるものは66である(表:地域伝統食品 栄養成分データ)。一般成分の他、無機成分とビタミンの一部について成分値データがある食品が58であった。これは437食品の13 %に相当する数であり、日本食品標準成分表の成分項目についてすべてのデータを保有しているわけではないが、比較的よく揃っているものが1割強ということになる。しかし、こういったデータを有する自治体としては福井県の28食品、富山県の16食品、京都府の10食品であり、その合計は54となり、3つの自治体を除くと残りはわずか4食品であった。したがって、ごく一部の自治体を除いては地域伝統食品に類する食品の成分値データは、公表出来るレベルにはないと推測される。福井県と富山県などの自治体の機関が成分分析を実施しているため、分析法等については、詳しい情報の入手や有益な助言等を得られるものと思われる。日本食品標準成分表への収載を考えると、例えば「ますずし」は、全国的に流通し1回の摂取量も多いので、日本食品標準成分表の収載成分で未測定な成分を追加分析することで可能となるものと思われる。
一部の食品について実際に成分分析を行い、アンケート調査により入手した成分値データと比較した結果では、2つの成分値データはそれぞれ別試料の分析値であることを考慮すると、両者の数値の開きは全般には比較的小さいといえる(表:地域伝統食品 栄養成分データ)。例えば栃木県の「しもつかれ」は近い値を示す成分が多く、調理で鮭の頭をすり潰して加えることから、検出されるはずのドコサヘキサエン酸は予想される範囲内の値であった。かぶ、ねぎ、とうがらしの生鮮の農産物は当然ながら一般成分等の主要成分には顕著な差はみられていない。また、ビタミンCやカロテンについては、栽培時期や栽培法等で含量が大きく変動することが予想されるため、この程度の開きは十分ありうると考えられた。両者の成分値で差が大きいものでは、「げんげ・一夜干し」のレチノール当量がある。内臓が含まれている食品であることから、レチノール当量が高いことが予想されるが、両者は77μg/100gと1200μg/100gの値であった。これだけの差は魚体における内臓(特に肝臓)の比率の違いなどの要因が考えられたものの、原因は不明であった。今後さらに詳しく調べる必要がある。
今回の調査で挙げられた地域伝統食品について成分値を保有している自治体は限られていることが分かった。また、日本食品標準成分表のすべての成分項目になると、これを保有している都道府県はなかった。したがって、日本食品標準成分表のすべての成分項目について追加収載する場合には、新たに成分分析を行う必要があると考えられる。
地域伝統食品あるいはこれに類する食品のなかには、広島菜のようにすでに日本食品標準成分表に収載されているものもある。生産量が多く、全国的に流通している広島菜は一般食品として日本食品標準成分表に収載すべき位置づけにあると判断されたものと思われる。一方、今回のアンケート調査では、生産量が数トン以下のものも数多く挙げられている。これらは特定の地域で生産・流通している食品と考えてよいものが多く含まれ、地域伝統食品の色彩が濃いものと考えられる。
日本食品標準成分表への収載を考えたときには、生産量は大きな基準の1つと考えられる。生産量が多いものは食品としての重要度は高く、日本食品標準成分表へ追加収載する必要性も高くなるが、地域伝統食品の色彩は薄くなる傾向にある。一方、生産量が少ない食品は、地域伝統食品に該当するものが多くなるが、全国など大きな枠組みにおいては、重要度は低くなる。したがって、日本食品標準成分表への収載を検討する場合には、生産量と地域伝統食品としての特徴との関係をさらに整理しておく必要があるものと思われる。
ところで、日本食品標準成分表では多くの品種をまとめる形で食品の収載が行われている。例えば、ねぎでは、古くから各種品種群が各地に普及しているとしたうえで、日本食品標準成分表ではねぎを根深ねぎ、葉ねぎ及びこねぎの3つに集約している。今回の調査でねぎが18品目挙っており、ここから特定の品名のねぎを地域伝統食品として、仮に収載するとなると、掲載食品の細分化の方向になり収載方針の転換につながるともいえる。
以上
様式‐7 地域伝統食品についてのアンケート回答用紙
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回答年月日: 年 月 日
質問1 貴自治体の地域伝統食品(通常の農水産物とは品種が異なり,古くから主に特定の地域で生産され,流通している食品)について可能な範囲で結構ですので,以下の例を参考に記入をお願い致します。
成分値の欄では記載された食品の成分値をお持ちの場合は(○),無いときには(×)を入れて下さい。(○)の場合は是非成分値をお知らせ下さい。記入に際して下記のように基礎成分の他に特徴的な成分もある時には合わせてお願いします(分析表等別添可)。なお,数値が分析による場合には(◎)を入れていただくと共に分析法についても情報提供をお願いします(様式自由)。
食品名 | 年間の生産量/出荷額 | 流通地域 | 成分値の有無, 100g あたりの食品成分値 別紙も可 | その他特記事項 |
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(例)○○茶 | 200 トン/ 1.0 億円 | ○○県△△市 | ○:水分 2.8g ,たんぱく質 24.5g ,脂質 4.7g , 灰分 5.0g ,炭水化物 47.7g ,カフェイン 3.2g ,タンニン 13.0g ,ビタミンC 260mg ,◎(全て食品成分表の分析法) | ○○茶は *** を原料としたお茶で香りが高く *** を豊富に含みます。 |
質問2 質問1で挙げられた食品を分析用に提供可能でしょうか(はい いいえ)
「はい」とお答えいただいた方には,本調査の実施にあたり,一部の食品についてご提供をお願いすることがあります。提供可能な食品名に○印を付けて下さい。調査終了後に分析値をお知らせします。
科学技術・学術政策局政策課資源室
-- 登録:平成21年以前 --