オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方検討部会(第2回)議事録

1.日時

令和4年4月21日(木曜日)13時00分~15時00分

2.場所

オンライン会議

3.議題

  1. オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

竹内主査、尾上主査代理、石田委員、加藤委員、北本委員、坂井委員、佐藤委員、引原委員、深澤委員、堀田委員、村井委員

文部科学省

池田研究振興局長、工藤参事官(情報担当)、藤澤学術基盤整備室長、大鷲参事官補佐、黒橋科学官、竹房学術調査官、松林学術調査官

オブザーバー

高品 国立国会図書館利用者サービス部科学技術・経済課長

5.議事録

【竹内主査】  ただいまより、第2回オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方検討部会を開催いたします。
 本日は、コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインで開催することといたしました。通信状態等に不具合が生じるなど、続行できなくなった場合、検討部会を中断する可能性がありますので、あらかじめ御了承ください。
 まず、学術調査官が交代されていますので、事務局より紹介をお願いいたします。
【大鷲参事官補佐】  こちら事務局でございます。
 それでは、学術調査官の御紹介でございます。筑波大学図書館情報メディア系講師の松林麻実子先生が新たに就任されてございます。
 また、事務局にも人事異動がございましたので、御紹介させていただきます。まずは、情報担当参事官に工藤雄之、それから学術基盤整備室長に藤澤亘、そして補佐の大鷲が4月から着任してございますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 事務局からは以上でございます。
【竹内主査】  ありがとうございました。よろしくお願いいたします。
 それでは、前回の検討部会にて池田研究振興局長より御挨拶をいただく予定でございましたけれども、御都合がつかなかったため、本日ここでお願いしたいと存じます。池田局長、よろしくお願いいたします。
【池田局長】  皆様、こんにちは。御紹介いただきました研究振興局長の池田でございます。前回出席の予定でしたけれども、国会対応のため出席できず、大変失礼いたしました。
 委員の皆様におかれましては、非常に御多忙な中、この検討部会の委員に御就任をいただいておりまして、誠にありがとうございます。
 大学図書館は、大学における重要な学術情報基盤として、大学が行う高等教育、学術研究活動全般を長らく支えてきております。これまで学術情報の体系的な収集・蓄積、そして公開を長きにわたって行うとともに、資料のデジタル化や情報検索機能の向上といった電子図書館としての機能の充実、学生の能動的な学びを実現するアクティブ・ラーニングスペースの設置など、社会全体における電子化の進展や学びのスタイルの変化に対応した取組を行っていただいていると承知しております。
 昨今では、研究データの共有を目指したオープンサイエンスや、教育研究活動のデジタルトランスフォーメーションの流れが世界的に加速しております。特にコロナ禍で大学を取り巻く状況も非常に大きく変わっております。キャンパスに行かなくとも、リモートで研究ができるような環境がかなり進んでおりますし、教育面でもLMSなどを通じて今までとは違った学生指導の在り方も模索されていると思います。こうした流れは、コロナが収まっても、それ以前の対面を中心とした教育研究活動と組み合わさってこれからさらに進んでいくと思います。
 そのような中で、科学技術・イノベーション基本計画などにおきましても、大学図書館のデジタル化の推進と、これらを通じた支援機能の強化などの必要性がうたわれており、大学の教育研究を支える大学図書館のさらなる発展に対する期待が非常に高まっていると思います。
 委員の皆様方におかれましては、前回の検討部会でも様々な御意見をいただいたと伺っておりますが、引き続き、多岐にわたる御経験・御知見に基づき、忌憚のない御意見をいただければと思います。どうかよろしくお願いいたします。
【竹内主査】  池田局長、ありがとうございました。この検討部会に対しましても引き続き強力な御支援をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
 次に、事務局より、本日の委員の出席状況、配付資料の確認とオンライン会議の注意事項の説明をお願いいたします。
【大鷲参事官補佐】  事務局でございます。
 本日は、委員12名中11名の出席となってございます。岐阜大学の大藪委員が御欠席でございます。
 それから、オブザーバーとして国立国会図書館の高品課長、そして科学官、学術調査官の先生方におかれましては、全員御出席いただいています。
 なお、黒橋科学官につきましては、14時30分頃まで御出席の予定でございます。
 続きまして、配付資料の確認でございます。お手元の議事次第のとおりではございますけれども、資料1につきましては、本日、高品課長からの御発表資料、資料2につきましては、筑波大学の村井委員からの御発表資料でございます。そのほか、参考資料といたしまして、前回の検討部会でお示しいたしました論点案を準備させていただいています。
 それから、オンライン会議の注意事項でございます。
 通信安定のため、発言する場合を除きまして、常時ミュート(マイクOFF)の状態、ビデオはビデオを開始(ビデオON)の状態でお願いしたいと思います。
 そして、発言する場合には、手のアイコンまたは「挙手」をクリックしていただけたらと思います。
 主査の竹内先生におかれましては、手のアイコンを表示している委員を御指名していただければと考えてございます。
 そして、指名された先生におかれましては、御自身でミュートの解除(マイクをON)の状態に操作していただいた上で御発言いただければと思います。そして発言の際には、最初にお名前を御発言いただくとともに、オンラインでも聞き取りやすいよう、ゆっくり、はっきりと御発言いただけたら幸いでございます。
 そして、御発言の後には、先生御自身にて手のアイコンを非表示にしていただくとともに、ミュート(マイクOFF)の状態に戻していただければと思います。
 なお、個々のパソコン等におきましてトラブルが発生する場合もあろうかと思いますけれども、その際には、電話にて事務局まで御連絡いただければ幸いでございます。
 事務局からは以上でございます。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 では、本日の傍聴登録はございますでしょうか。
【大鷲参事官補佐】  事務局でございます。
 本日の傍聴登録は177名となってございます。報道関係者の方からも御登録いただいているところでございます。
 なお、本日は、録音・録画が入りますので、御承知おきいただけたらと思います。
 事務局からは以上でございます。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 それでは、審議に入りたいと思います。
 前回の検討部会では、研究及び教育のデジタルトランスフォーメーションを踏まえた大学図書館機能について、プレゼンテーションを踏まえた幅広い御意見を委員の皆様方から頂戴いたしました。今回は、コンテンツのデジタル化や、それと関わりの深い著作権制度について議論をしていきたいと思います。
 皆様御承知かと思いますけれども、2021年3月に出されております第6期の科学技術・イノベーション基本計画においては、「図書館のデジタル転換」という言葉が出てまいります。また、2020年9月の本検討部会の親委員会に当たる情報委員会の提言「コロナ新時代に向けた今後の学術研究及び情報科学技術の振興方策について」においては、「大学図書館においては、今後、より一層、デジタル化を進めることが必要である」と述べられ、また、「大学図書館のデジタル化と学術情報のデジタル化は密接に関連する課題である」とされております。また、それに続けて、「我が国全体で、多様な学術情報資源の共有等により、大学図書館が相互に連携したデジタル・ライブラリーとなるよう、検討・取組を進めるべきである」とも述べられているところです。ここでのデジタル化の議論は、これまでの大学図書館の中核で、また、これからも姿を変えて中核であり続けるであろうコンテンツの問題というふうに言うことができるかと思います。
 この提言におきましては、著作権についても言及があり、実際に著作権法31条が昨年改正されました。本日御説明いただく国立国会図書館のデジタルシフトに関しても、この改正が少なからず影響しています。国立国会図書館のサービス対象者の中には当然のことながら大学図書館のサービス対象者も含まれており、国立国会図書館のデジタルシフトは、日本の大学図書館のデジタルトランスフォーメーション戦略に大きな影響を与えるものと考えております。
 それでは、国立国会図書館の高品課長に御報告をいただきます。高品さん、よろしくお願いいたします。
【高品オブザーバー】  国立国会図書館の高品でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
【竹内主査】  よろしくお願いいたします。
【高品オブザーバー】  今回、審議の前提として考慮すべき点の一つに国立国会図書館のデジタルシフトを御記載いただき、誠に光栄に存じます。国立国会図書館では科学技術情報整備審議会という審議会を運営しておりまして、その委員長代理を竹内先生が長年務めていただきまして、佐藤先生にも委員として、また、一昨年度までは北本先生に専門委員を担っていただき、大変な御尽力をいただいております。そのおかげで、令和3年1月に、「『人と機械が読む時代』の知識基盤の確立に向けて」という印象的な副題が付された提言を頂戴いたしました。これから述べる国立国会図書館のデジタルシフトは、この提言に大きな刺激を受けたものでございます。
 本日の報告内容ですが、まず、ビジョンの紹介をしまして、デジタルシフトを掲げた新しいビジョンの策定の背景、概要、その動向を説明いたします。
 国立国会図書館では、中期的な基本方針をビジョンとして打ち出しています。2004年に最初のビジョンを策定後、おおむね4年から5年のサイクルでビジョンを改定し、今回、5回目となるビジョンを策定いたしました。対象期間は2021年から2025年度の5年間になります。
 国立国会図書館の使命は、国立国会図書館法の前文に、「憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命」とすると記されております。使命は不変でありましても、社会の変化の中で使命の果たし方は変わっていき、中期的にどのような方向性を持って進むべきかを示す展望が必要となります。このため、使命に基づく業務・サービス運営上の中期的方針としてビジョンを定めております。
 新しいビジョンは、情報技術による社会活動やコミュニケーションの在り方が変容・変革が進んでいたところ、コロナ禍を契機としまして社会のデジタルシフトが加速した状況を踏まえて策定しております。今回のビジョンは、「国立国会図書館のデジタルシフト」と題しまして、デジタル対応の強化を促進する方向性を明確に打ち出しました。デジタル情報基盤を拡充し、その利活用を推進することに重点を置いております。
 また、2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が徐々に流行し、感染拡大防止のため、全国各地の図書館がサービスを休止・縮小するような事態になりました。全国各地の図書館がサービスを休止・縮小したことにより、調査研究や論文等執筆のために必要な文献が入手できなくなり、深刻な打撃を受けた研究者や学術団体から、国立国会図書館や大学、出版社等に休館中も文献が利用できる取組への要望が寄せられました。
 国立国会図書館のデジタル化資料の現在の総数は約281万点になります。しかし、インターネット公開ができているのはそのうちの2割程度しかございません。約8割の資料は、図書館の施設に足を運ばなければ利用できません。国立国会図書館だけでなく、大学図書館や公共図書館等が休館している状況では、技術的にはリモート利用できるはずの資料の約8割の資料にアクセスできないという状況でございました。このため、国立国会図書館には、図書館送信資料や国立国会図書館内限定資料をインターネットでも利用できるようにしてほしいという強い要望が寄せられました。
 各方面から、デジタル化の対象拡大や提供範囲の拡大など、情報アクセスの保障や強化を求める要望がございました。これらを受けまして、政府の知的財産推進計画や政権与党による提言にも、絶版等資料に係る権利制限規定の見直しや、国立国会図書館の蔵書のデジタル化に係る予算措置の必要性が盛り込まれました。
 このような変化を受けて策定しましたのが新しいビジョンになります。今回のビジョンでは、今後5年間を国立国会図書館のデジタルシフト推進期間と位置づけまして、情報資源と様々な知的活動を的確につなげるため、特に重点的に取り組む7つの重点事業を提示しております。また、使命に基づき、遂行する館の事業の全体像を基本的役割としまして、4つの領域に整理して示しております。
 デジタルシフトの7つの重点事業は、将来にわたる全ての利用者に多様な情報資源を提供するユニバーサルアクセスを実現する事業と、そのための恒久的なインフラとなる国のデジタル情報基盤の拡充を図る事業から構成されております。
 まずは、国立国会図書館の事業の土台となる基本的役割について御紹介します。基本的役割は、国会活動の補佐、収集・整理・保存、利用提供、また連携協力、我々だけではなかなかできないものが多くなってきたというところで、連携協力という柱も加えております。
 次に、5年間の重点となるデジタルシフトのうち、ユニバーサルアクセスを実現する事業でございます。「国会サービスの充実」、「インターネット提供資料の拡充」、「読書バリアフリーの推進」、「『知りたい』を支援する情報発信」の4つとなります。
 次は、国のデジタル情報基盤の拡充でございます。「資料デジタル化の加速」、「デジタル資料の収集と長期保存」、「デジタルアーカイブの推進と利活用」、この3つでございまして、デジタルシフトの肝の部分となります。
 ここからは、このデジタルシフトの肝となる国のデジタル情報基盤を拡充する3つの事業の動向を御説明いたします。
 まず、「資料デジタル化の加速」です。資料デジタル化の事業は2000年から20年ほどの経過をたどってございます。大きな転機になったのは2009年、当館が保存の目的でデジタル化することを可能とする著作権法改正が行われ、これにより資料のデジタル化が大きく進展しました。あわせて、緊急経済対策としまして大規模なデジタル化の予算が措置されまして、さらに2012年の著作権法改正では、絶版等で入手困難なデジタル化資料を地域や大学の図書館に送信することが可能となりました。現在、「デジタルで全ての国内出版物を読める未来」という目的の実現に向けまして、この5年間に100万冊以上のデジタル化を行うことを掲げ、取り組んでおります。
 2020年度の補正予算においては、総額約60億円の追加予算を措置いただくことができました。
 またさらに、2021年度の補正予算においては合計約47.5億円の追加予算が措置されています。今、これらの予算措置を成果に結びつけるためにデジタル化の加速を行っております。
 また、図書館における著作権に係る権利制限規定を見直す著作権法の改正が行われました。ポイントとして2つございますが、1つ目は、図書館送信サービスの個人への拡張、個人送信サービスです。これは5月19日に開始できるよう準備を進めております。2つ目は、図書館の資料の一部分をメール等で送信できるようにする制度の創設でございます。昨年10月に第1回目の関係者協議が開催されまして、国立国会図書館もこれに参画し、具体的な協議を続けております。
 次に、テキスト化の推進です。こちらはあまり知られていないのかもしれませんが、社会にインパクトを与える可能性を秘めているのはこのテキスト化の推進ではないかと思います。2020年度の補正予算によりまして、古典籍等を除くデジタル化資料約247万点、画像数で言いますと約2億2,300万コマの画像について、一括して全文検索用の本文テキストデータを作成中でございます。既に実験システムには一部を登載しております。これまで基本は画像でしか提供できていなかったデジタル化資料の大量のテキストデータが利用できるようになることを目指して取り組んでおります。
 次に、デジタル資料の収集と長期保存になります。国立国会図書館法に基づくオンライン資料の制度収集の対象につきましては、まず、国や自治体の公的機関が発行するウェブサイト、これが2010年4月からインターネット資料収集制度の対象となっております。一方、民間が発行するオンライン資料につきましては、無償かつDRMのない電子書籍や電子雑誌が2013年7月から制度収集の対象となっております。しかし、その際、有償またはDRMありの資料は、当分の間、提供免除とされ、現在に至っております。
 この間、オンライン資料の制度収集の在り方につきまして、有識者から成ります納本制度審議会に諮問するとともに、関係団体の協力を得まして収集に係る実証実験を行うなどの検討を行ってまいりました。そうしましたところ、2021年3月、制度収集の実施に当たって補償すべき費用の内容について答申がなされました。この答申の方向で国立国会図書館法の改正を目指し、準備を進めているところでございます。
 こちらは納本制度審議会答申の概要ですが、説明は省略させていただきます。
 次に、デジタル資料の長期保存に向けた取組でございます。こちらは2021年3月に基本計画を策定いたしまして、この基本計画に沿って様々な取組を進めているところでございます。
 最後に、デジタル情報資源へのアクセス向上に向けた取組としまして、ジャパンサーチによるデジタルアーカイブの利活用促進に向けた取組について紹介いたします。ジャパンサーチは、知的財産推進計画などに掲げられている国全体の取組でございます。多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索・閲覧・活用できるプラットフォームでございます。内閣府との協力の下、国立国会図書館は、システムの開発と運用・連携協力の実務を担当しております。3月時点で33連携機関、162データベースと連携しております。
 以上、紹介してまいりましたデジタルシフトに向けた取組と国立国会図書館の情報基盤の全体像との関係を図のように整理しております。紙の資料をデジタル化した資料や電子出版物として収集した資料は、国立国会図書館デジタルコレクションというものに格納されております。これらのデジタル資料と書庫にある紙の資料から成る国立国会図書館の情報資源全体の検索や利用申込みを担うのが国立国会図書館オンラインというシステムでございます。一方、国立国会図書館に限らない各種図書館や学術機関等の所蔵、デジタルアーカイブも含めた書籍等の分野に係る検索は、国立国会図書館サーチ、こちらが担っております。さらに、書籍等に限らず、文化財やメディア、芸術等も含む幅広い分野を横断する統合検索はジャパンサーチが担います。デジタル時代における日本の情報基盤の中核の役割を果たすべく、国立国会図書館では本日紹介しましたデジタルシフトに向けた取組を今後とも推進してまいります。
 どうも御清聴ありがとうございました。
【竹内主査】  高品課長、どうもありがとうございました。国立国会図書館の取組につきまして全体像を分かりやすく御説明いただけたかと思います。
 それでは、ただいまより質疑に入りたいと思います。高品課長の御報告に対して質問、御意見等をお願いいたします。どなたからでも結構でございます。挙手をお願いいたします。いかがでございましょうか。
 石田委員、お願いいたします。
【石田委員】  九大の石田でございます。御説明いただきましてありがとうございました。
 1点、非常に単純な質問なんですが、お聞きしたいことがございます。スライド5のところにございましたけれども、デジタル化資料の提供状況といたしましては、8割が図書館施設内のみで利用というのが現在の状況だと思うんですが、今後の新ビジョンのとおりに進みますと、資料へのアクセスというのはインターネットを介したアクセスという形に変わっていくことになるのでしょうか。要は、利用者のアクセス、利用者から見たアクセスの状況の変化というのをお聞きしたいと思います。
【竹内主査】  ありがとうございました。よろしくお願いいたします。
【高品オブザーバー】  ありがとうございます。図書館送信は図書館相手のサービスなので、今回のようにコロナ禍で図書館が閉まってしまうと一般の利用者は図書館に入れないので、こういった資料にアクセスできないという事態が生じてしまいました。それを克服するために、今回、著作権法が改正されまして、この5月19日に個人送信が実現する予定です。個人送信対象資料は、完全にオープンにインターネットに公開されるというわけではなくて、図書館相手ではなくて登録された利用者に直接お届けできるという、そういう形で変わるかと思います。そのため、図書館に行かずとも、絶版等入手困難な資料、著作権の保護期間内の資料においても御自宅から閲覧できるようになる、また、プリントアウトも、少し先になりますが、実現できるように検討を進めているということになります。
【石田委員】  ありがとうございました。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 ほかに御質問等いかがでございましょうか。では、引原委員、よろしくお願いいたします。
【引原委員】  どうもありがとうございました。単純なことをお聞きするようで本当に失礼なんですけれども、今、いみじくもお言葉として送信という言葉をお使いになりました。送信というのは内から外へというふうにも考えられるんですが、内側であれば閲覧ができるという考え方であれば、内というのを広げていくという、ここからNDLとして自由に閲覧できるような状態、送信じゃなくてできるような状態を広げていくというような計画というのはないんでしょうか。ネットであればその境目というのがなくなると思うんですけども、その辺についてお聞きしたいと思います。
【竹内主査】  高品課長、よろしくお願いいたします。
【高品オブザーバー】  はい。御質問ありがとうございます。にわかに正確に理解できていないところがありますが、やはり我々としましては、著作権法の遵守、関係者、利害関係者との合意形成ということを重視しているところであります。ただ、そこの範囲内ですと、内から外へという送信というところのボーダーというか、そういった考え方にどうしてもなってしまうところです。
【引原委員】  すみません、聞き方がまずかったのかもしれませんけれども、要するに、足を運べばそこで見せていただけるという状況と、ネットワークで何らかの権利というか、認証をもらって直接アクセスするのは、何も変わらないことではないかと思うんですね。それを区別するという理由は何なんでしょうかという聞き方になるかと思います。よろしくお願いします。
【高品オブザーバー】  ありがとうございます。なかなか難しい質問をいただいたと感じているところですが、利用者の目線に立って言えば、シームレスというか、特に何の障壁もない形で国立国会図書館が持っているいろいろな情報にアクセスできるというのが最も理想形というか、そこに向かって進んでいく方向性としては間違いないのですが、我々が掲げているデジタルシフトというのは今のパラダイムの中で動いているものでしかまだないのだなということを、引原先生の御発言で感じたところです。
【引原委員】  そうですね。あえて申し上げたのは、やはり日本全体というのは非常に縦に長いというか、非常にいろんなところがあるわけです。近くにある人はアクセスができて、遠くの人は物すごい旅費をかけたりとか、あるいはお金をかけてでないとアクセスできないというのは、これはある意味で国の持っている知的財産への不平等を認めているということになるんです。それを超えるのが今のインターネット、今後のネットワークだと思うんですね。それにあえて乗り出すべきなのが日本がやるべきことなんじゃないかなと思うんです。格差をつけたまま日本全体を持ち上げるようなことってできないと思うんですよ。ですから、国立国会図書館が何らかの方法を模索してくださるというのが本当はいいんじゃないかなと思ったので、お聞きしました。無理なことをお聞きして申し訳ございません。
【高品オブザーバー】  ありがとうございます。大変貴重なメッセージをいただいたと思っております。国立国会図書館、以前は「永田町立図書館」とやゆされることもありました。本当に国民誰にでも開かれた図書館という点で、情報アクセスに格差が生じているというのは昔からそうだったと思いますし、今も東京近郊の人、関西館ができたので関西近郊の人、やっぱり大都市圏のところでの利用者は多いというところが実情です。今回の個人送信のところでそれが少し改善できていくのかなという、遅々とした歩みではあります。使命は高らかにうたっているところをどう実現していくかというのは、常にIT技術の発展や社会状況の変化を見据えて考えていかなければならないことを、今、強く認識したところでございます。どうもありがとうございました。
【引原委員】  こちらこそ、ありがとうございました。
【竹内主査】  ありがとうございました。ご指摘いただいた問題は著作権制度と密接に関わるところでございますので、後ほど村井委員からの御報告をいただいた後に、もし必要があれば議論を続けたいと思っております。
 ほかに御質問等ございませんでしょうか。北本委員、お願いいたします。
【北本委員】  ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センターの北本です。
 先ほどの御説明でテキスト化の推進について御紹介がありました。そして、国立国会図書館としては、社会に非常に大きなインパクトがあると期待しているという御発言もありました。私自身も全く同じ考えなのですけれども、現在のところはまだ実験システムとしてひっそりと公開している状態かと思います。これが実際に、社会にインパクトを与えるように、デジタルシフトの期間中に何かを大々的に企画する予定はあるでしょうか。これが大きな変化を引き起こしうることが、使う人にも見える形で打ち出せるといいと思うのですが、その辺りについてよろしくお願いいたします。
【高品オブザーバー】  御質問ありがとうございます。北本先生をはじめ、デジタル人文学の有識者の皆様にはいろいろとお話をいただくことがあります。やはり海外に比べると日本では圧倒的にテキストの量が少ないと。今回の247万点の資料のテキスト化、この量的なものが、研究に大きな成果を導き出していただける材料になることを願っております。これをどう国民の皆さんにアピールしていくかというのは今後の課題だと思っております。国立国会図書館でもいろいろ、長尾先生が館長になられてから研究開発というようなところに力を入れていまして、次世代デジタルライブラリーというようなサイトを、まだまだ知られていないんですが、そこでいろんな実験システムを公開しながら、イベントなどを行いつつ進めているところでございます。
 今回、遡及してテキスト化を作ったものだけではなくて、今後デジタル化していくものがテキストもできるようにプログラムを開発したところで、それはGitHubで利用できるように公開することもあります。世界中の力で精度を高めるようなことをやっていければ、大変有益なことになるかと思います。具体的なところはまだまだこれから、それこそ北本先生や有識者の方のお知恵を借りながら、どうやって活用を世間に広げていくかというところは、未知数なところが大きいというところでございます。
【北本委員】  ありがとうございました。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 それでは次に、堀田委員、お願いできますでしょうか。
【堀田委員】  都立大学の堀田です。どうも御説明ありがとうございました。
 私からは、下ページ20のデジタル資料の長期保存に関するところで、ちょっと素人質問かもしれませんけれども、1つお願いいたします。デジタル化したときに資料の長期保存というのが問題になるというのは当然明らかだと思うんですけれども、ここに書いてございますように、紙資料と同様に維持管理が必要ということで、この長期保存基本計画、2025年までの計画が出されていて、これから議論されるのかもしれませんが、そういう基本計画の中で、デジタル資料の長期安定保存のための何らかの革新的な技術とかの開発までを視野に入れているのか、あるいは、当面、新しい維持管理技術が出てきたらそれに次々乗り換えていって、中期・短期の保存を繰り返しながら長期保存を可能にするというような、そういうようなイメージなのか、あるいは何か別の考えがあるのか、その辺り、可能な範囲で見通しなりをお聞かせいただければと思います。
【高品オブザーバー】  ありがとうございます。紙の資料は、書庫の湿度、温度を管理して長い歴史の中で培ったノウハウの中で、100年後も読めるというようなことをうたってやってきたところです。しかし、デジタルになったものの保存、デジタル情報の長期保存というのはかなり厄介だなというのが国立国会図書館の長年の悩みで、やっぱり和紙が一番安定している媒体だなと改めて感じるところだったりもします。いろいろ調査研究を行ったり、外国の動向なんかをウオッチしてきましたが、なかなか具体的な対策を行うに至らなかったのですが、一通りのところを基本計画としてまとめたところです。
 技術の発展も著しいところでございまして、資料をデジタル化した容量は、何ペタという単位でストレージを持っており、吹っ飛んだら一巻の終わりというところであります。データセンターを外部にアウトソーシングして保存しているところですが、お金もかかり、クラウドサービスの利用の検討、パブリッククラウドに乗り換えようとか、いろいろバックアップの持ち方とか検討しているところです。
 CDとかDVDも出版物として集め出してもうかなり年数を経ておりますが、中のデータが壊れてしまっているかどうか、それを移し替えたり、移し替えたのは単に0と1の記号なので、それを読めるようにエミュレーションしていくところはまだこれから技術調査をしたりやっていこうというところで、なかなか決め手となるようなものはまだちょっと見いだせていないというのが実情です。いろいろな調査やプログラム開発を行ったり、だったり、外部の力を借りたりというところで試行錯誤しているというのが実情です。
 それで、資料の最後のところに書いてありますけども、同じ課題を抱える機関というのは多くございますので、そこと情報共有の場などを構築して、連携協力の取組の中でよい方法を見つけていきたいという、そういったまだ緒についたばかりというのが実情でございます。
【竹内主査】  ありがとうございました。
【堀田委員】  どうもありがとうございました。
【竹内主査】  ほかに御質問等ございませんでしょうか。坂井委員、どうぞよろしくお願いいたします。
【坂井委員】  今日は本当にありがとうございます。勉強になりました。単純な質問で恐縮なんですが、15ページの「図書館等による図書館資料のメール送信等」というところで、国会図書館の準備状況につきまして、差し支えない範囲でもうちょっと詳しく教えていただけますでしょうか。これ、来年の4月からサービスの開始と聞いておりますけれども、例えば著作権料をどう取るかとか、そういうお話に関しまして進捗をお聞かせいただければと思います。よろしくお願いいたします。
【高品オブザーバー】  御質問ありがとうございます。実はここは進捗が思わしくないというところが実情と聞いております。今、関係団体、図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会が開催され、全体会の下に4つの分科会が設置されて、具体的な協議を進めているという現状かと思います。国立国会図書館も主要なメンバーとして関わっているところでありますが、当館内でも、協議に関わっている当職員から、ほかの職員にまだ成果を示せるような段階ではないという状況であるのが正直なところです。特に補償金のところはなかなかまだ折り合いがつくのは難しいのかなというような感触を私としては得ているところです。国立国会図書館の場合、来館者に貸出しはしておりませんので、特に地域格差の問題もあって、遠隔から複写を申し込んで、紙で複写して郵送発送することを現在やっているところですが、その紙で発送するというところが大幅に短縮できるというのはきっといいんだろうなと思います。一方、御依頼を利用者から受けて、これが公衆送信可能な資料なのか、料金はどのくらいなのか、選別するか前段階のところは手順が増えるというのが感触としてありまして、そういった事務処理のスキームだったり、サービスのフローなどを結実させるにはなかなかまだ時間がかかるという印象です。
【坂井委員】  ありがとうございます。その協議会のありさまも多少は聞くことがあるのですけれども、やっぱり貴館は模範といいますか、代表といいますか、そういうところがあるかなと思いますので、ガイドラインのセッティングとか、あるいは文化庁への許可申請がどのようになるかとか、そういう流れとかの上で、我々がある種フォローしたり、場合によっては少し相談をさせていただいたりというようなことを、何か円滑にそういう協議会でできるための最初の原案のようなものを本分科会のような場所で教えていただけるとうれしいかななんて思いまして質問いたしました。いろいろありがとうございます。御尽力感謝です。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 ほかにいかがでございましょうか。こういうところであんまり主査が質問するというのはよくないのかもしれませんけれども、幾つか質問させていただければと思います。
 1つ目でございますけれども、最後のスライドにNDLのアーカイブというのが説明がございました。この国立国会図書館デジタルコレクションというのが、我が国における近代以降の文字資料のナショナル・デジタル・アーカイブというような位置づけのものだと私は理解をしているんですけれども、これを真にナショナルなものにしていくために、国立国会図書館としては大学図書館に対してどういう役割を果たしてほしいというふうに期待されているかということについて、お考えをお聞かせいただければと思います。
【高品オブザーバー】  ありがとうございます。国立国会図書館デジタルコレクションは、他機関でデジタル化したものも受け入れることをしております。国立国会図書館といえども持っていない資料はたくさんありますし、特に大学図書館、公共図書館の地域資料など国立国会図書館未所蔵の資料はあるかと思います。そういった未収資料のデジタル化されたデータの収集等の取組についてこれから力を入れようと考えているところでございます。7月にはホームページでも広報を強化して、そうした取組を進めていこうかと考えています。
 後ほどの村井先生のスライドにもあると思いますが、国立国会図書館は全方位的にサービスをする機関でございます。大学等だと大学の皆さんが所属するところにサービスは限られているところですが、国立国会図書館をプラットフォームとして使っていただいて、さっき引原先生の御指摘もあったところですが、まだ送信というレベルでしかないのではございますが、今までよりは幅広く届けられるような方向になっていくと思います。そういった資料のデジタル化を受け入れるプラットフォームとして活用していただくのが一つ考えられるかなと思います。特に国公私立大学図書館協力委員会の実務者の皆さんと、国立国会図書館のデジタル化に係る実務者での意見交換も最近行われていると聞いておりまして、そこではそういった未収資料のデータによる収集を呼びかけたり、あと学協会誌のデジタル化ですね、学協会では著作権処理しているものも多いと思いますので、インターネット公開できるものを増やしていったりして、少しでもナショナルアーカイブと呼ばれるものに近づけたいなと考えております。
 以上でございます。
【竹内主査】  ありがとうございます。
 すみません、もう一つ教えていただきたいんですけれども、資料10ページの、3.新ビジョンの概要の②というところで、国のデジタル情報基盤の拡充というところがございました。そこで、この5年間で100万冊以上の所蔵資料をデジタル化するということが書かれておりました。また、12番のスライドでしょうか、図書資料のデジタル化ということで、1987年までに刊行・受入れした国内刊行図書のデジタル化を進めるというようなことがございました。およそいつ頃までにどの範囲の出版物がデジタル化される予定で、最終的にそれができればおよそどれくらいの資料がデジタルの形で利用できるようになるかということについて、少し教えていただければと思います。
【高品オブザーバー】  ありがとうございます。この5年間、デジタル化の加速ということで、国内刊行資料の1980年代までは何とかやっていけないかというところで事業を進めているところですが、なかなかそう簡単にはいかないのかなというところが既に見えてきているところもあります。頑張ってやっていきますとしか言えないんですが、補正予算もここのところ立て続けについていますが、なかなか恒常的な予算措置ができていないところです。以前もリーマンショックの頃、いきなり100億円の補正予算がついて、これまで1億円ベースでやってきたところで、なかなか混乱が生じたこともありました。今後は、恒常的に予算措置ができるようにいろいろ工夫を凝らしてやっていこうとしているところです。当面、この5年で100万冊というのも、まだまだ頑張らないとできないなというところが正直なところです。この5年間で1980年代ぐらいまでのところへ国内刊行資料のデジタル化が進めばよいです。それで当館の資料の何割が見られるかというところはにわかに分かりかねますが、物量的にはやっぱり雑誌のほうはまだまだ手つかずというか、著作権処理も困難なところもございます。図書は、昭和時代までデジタル化するというところのめどをつけたいという状況かと捉えております。
【竹内主査】  ありがとうございました。絶版等入手困難資料という限定はつくわけでございますけれども、この5月から個人宛ての送信が始まるということで、どれだけ多くの資料がデジタルの形で提供されるかということが国の基盤として非常に重要な位置づけになってくるのではないかと考えております。ぜひとも1980年代とおっしゃらずに、せめて前世紀のものは全てというような状況になるよう、早くデジタル化が進むということを強く願っていると申し上げます。よろしくお願いいたします。
【高品オブザーバー】  ありがとうございます。
【竹内主査】  ほかに、この件につきまして御意見、御質問等ございませんでしょうか。もしもないようでございましたら、次に移らせていただきたいと思います。今、御議論いただきましたけれども、この検討部会の議論の中では、既に蔵書となっているもののデジタル化とこれから生産される学術的な成果のデジタル化ということについては、分けて議論していきたいと考えているところでございますけれども、国立国会図書館のデジタル化の進展というのは、過去の蔵書分、特に日本語資料のデジタル化と、それに基づくサービスをどう考えるかということに極めてダイレクトにつながっているものでございますので、また後ほどの著作権法に係る議論の後にでも整理して議論していきたいと考えております。
 それでは、続きまして、筑波大学の村井委員からの御報告をお願いいたします。よろしくお願いいたします。
【村井委員】  よろしくお願いいたします。
 それでは、私のほうからは、大学図書館と著作権法をめぐる課題ということで、最近の著作権法改正との関連を中心にお話しさせていただきたいと思います。
 あらかじめいただいたお題としましては、最近の著作権法改正が図書館にどのような影響を与えているのか、また、今後、大学図書館がDX時代に期待される役割を発揮していくに、さらにどのような点について、著作権法との調整、さらなる改正が必要なのかといったところになります。このお題を踏まえまして、著作権法改正についての御紹介などをさせていただきたいと思います。
 まず最初に、簡単に著作権法の基本的な構造について確認させていただきたいと思います。著作権が及ぶ範囲というのは著作権法が定める範囲で、著作物の利用全てに著作権が及ぶわけではありません。大きな枠組みとしては、複製や公の利用に著作権が及びます。公の利用には、公衆送信ということで、インターネット上の送信などが含まれます。このような著作権が及ぶ行為については、権利者の許諾なく行うと原則として著作権の侵害となります。しかし、著作権の制限規定というものも定められていまして、著作権が制限される場合というのは、一旦及んだ権利が制限されるということになりますので、この場合は許諾なく著作物を利用することができます。
 ですので、著作物を利用するための主なチェックポイントというのは幾つかありますが、この制限規定があるかというのが1つ大きなポイントで、また、最近の改正は、この制限規定に関するものが多くあります。
 次に、最近の著作権法改正について見ていきたいと思います。著作権法というのは、比較的頻繁に法改正がなされる法律になっています。最近でも多くの改正がなされてきました。国立国会図書館に関する改正については先ほど御説明があったところです。令和3年には図書館関係の権利制限規定の見直しということで、図書館にとっては大きな法改正がありました。
 まず、最近の流れということで、日本版フェア・ユース導入論から柔軟な権利制限規定が設けられた流れについて見ていきたいと思います。
 近時の法改正の特徴としましては、先ほど申し上げましたように、著作権の制限規定の改正が多いと言えると思います。すなわち、著作物の一定の利用を可能とする方向の改正が比較的多くあります。
 その背景としましては、日本の著作権法の特徴としまして、著作権の及ぶ範囲、権利範囲が広範で抽象的に規定されているという点があります。例えば複製や公衆送信という、まず一旦広い網がかかるようなイメージになります。それに対して、著作権が制限される場合、自由に利用できる場合というのは、日本では従来、個別の制限規定で細かくたくさん規定されてきました。これとよく対比されてきたのがアメリカのフェア・ユースの規定で、アメリカにはフェア・ユースという規定があり、フェアな利用、公正な利用であれば侵害とならないということで、考慮要素が掲げられるのみですので、どんな利用でもフェア・ユースとして許される可能性がある、そのような一般的な制限規定がありました。
 日本はそのような一般的な制限規定がないという状況で、問題とされてきたのが、特に著作権法をめぐる技術的な環境が大きく変化していくなかで、デジタル技術やインターネットの普及などにになかなか対応できないという問題です。迅速な対応をするためには法改正を待っていては遅いということで、日本にもフェア・ユースのような規定を導入すべきではないかという機運が高まります。それに向けて議論が開始されまして、2012年の著作権法改正につながることになります。日本版フェア・ユースの導入を目指したはずの2012年の著作権法改正なのですが、これは、途中の段階ではA、B、C類型という比較的抽象的な規定が提案されていたにもかかわらず、最終的にはほぼ個別の制限規定が幾つか追加されたというような状況に終わりました。これについては、フェア・ユースを期待していた人たちからは、フェア・ユース導入に失敗したとして批判されました。
 そのようなことがありまして、2012年に改正がされた直後からまた、やはりフェア・ユース的なものが必要なのではないかという議論が再びなされ、2018年の著作権法改正で柔軟な権利制限規定が設けられることになります。完全なフェア・ユースまではなかなか難しいということで、日本に適した制限規定の在り方として、柔軟性の高い規定を設けようということで設けられたのがこの幾つかの規定になります。例えば非享受利用として、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用などを一般的に許容するような規定が設けられました。また、先ほども御紹介がありました書籍検索サービスに関するような相当程度柔軟性のある規定なども設けられたところです。
 この柔軟な権利制限規定を設ける際に理論的な位置づけとして検討されましたのが、いわゆる「3つの層」論という考え方です。これは著作物の利用を3つの層に分けて考えるというもので、右に行くほど権利者の利益を害する可能性が高い、不利益が大きいと考えられる類型です。第1層は、通常、権利者の利益を害さないということで、非享受利用、すなわち著作物の表現を享受しないような利用については柔軟性の高い規定を設けるということになりました。第2層は、不利益が軽微な類型であり、ここも相当程度柔軟性を持たせた規定をつくるということで、この第1層と第2層において柔軟な権利制限規定を設けるという位置づけになっています。一方で、一番右側にある第3層というのは、著作物の本来的利用ということで、権利者に与える影響が大きいために、基本的には個別の制限規定で対応するという方針が示された類型になります。ここに図書館というのが既に位置づけられていました。図書館に関する制限規定である31条は、この後に令和3年の著作権法改正で改正がされることになりますが、著作物の本来的利用というところに位置づけられますので、権利者の利益への配慮が重視されているかと思います。
 柔軟な制限規定が設けられた2018年の著作権法改正では、もう一つ大きな改正としまして教育の情報化への対応がなされました。改正前は、授業の過程における著作物の使用について、複製や遠隔合同授業における同時送信でのインターネット上の送信のみが許容されていたところ、この改正により公衆送信が広く許容されることになりました。一方で、権利者に与える影響が大きいということで、補償金制度が導入されています。また、実際の運用において参考とするために、ガイドラインを設けるということがなされました。
 このように、広く利用を認めた上で補償金制度を導入して、またガイドラインを活用するというような流れは、この後の図書館関係の改正にもつながっていくものと思われます。
 以上のような流れを踏まえまして、令和3年の著作権法改正で図書館関係の権利制限の見直しがなされることになりました。こちらも先ほどご説明があったとおりなのですが、大きく分けて2つの内容になっています。1つ目が、国立国会図書館における絶版等資料の個人向けのインターネット送信ということで、改正前は絶版資料の他の図書館等へのインターネット送信のみが認められていたところ、個人向けのインターネット送信を可能とするというものです。2つ目が、図書館等による図書館資料の公衆送信ということで、こちらは、改正前はいわゆる複写サービスとして図書館のできる行為が複製などに限られていたところ、インターネット上の送信など公衆送信することを可能とするという改正になっています。
 まず、国立国会図書館による絶版等資料の個人向けのインターネット送信ですが、対象となる資料は、絶版等資料のうち3月以内に復刻等の予定があるものを除いた「特定絶版等資料」となっています。実際の運用は関係者の協議によるとされました。利用者は事前に登録が必要であり、著作権法上、プリントアウトや一定の要件の下でディスプレイなどに映して公衆に見せることも可能とされています。
 次の図書館等による図書館資料の公衆送信については、従来のいわゆる複写サービスをインターネットを通じて行うことが可能となります。送信主体となるのは特定図書館等ということで、図書館には、責任者を配置したり、職員へ研修することなどが求められます。データが不正に拡散しないような措置なども求められます。送信可能な範囲は、原則として著作物の一部分ということで、この点は従来と変わりませんが、政令で定める場合には著作物の全部が送信できるということになりました。また、権利者の利益に配慮し、著作権者の利益を不当に害するような場合にはこのサービスを提供できないというただし書が設けられています。このただし書の具体的な解釈・運用については、関係者によるガイドラインを作成するということになっています。
 また、図書館等による図書館資料の公衆送信では補償金制度が導入されまして、権利者が受ける不利益を補償するために、個別の送信ごとの課金になること、権利者の逸失利益を塡補できるだけの水準にすることなどが想定されています。具体的な運用は関係者間の協議によるということで、こちらも先ほどご説明があったところになります。
 以上の改正の流れを踏まえまして、最後に、図書館と著作権法をめぐる課題について検討させていただきたいと思います。
 まず、令和3年著作権法改正における課題として考えられるところを少しだけ挙げさせていただきますと、まず、国立国会図書館におけるデジタル化資料を今後どう活用していくべきかという点が、やはり残された課題としてあると思います。令和3年改正では、絶版等資料のみが対象とされましたが、改正に向けた検討の段階においても、将来的な可能性としては、この範囲を拡張しつつ、さらには補償金制度を導入するという可能性も示唆されておりました。インターネットは特に物理的・場所的な制約を受けることがありませんので、インターネットによる図書館資料の提供をどのように行っていくのか、国立国会図書館でデジタル化資料をどのように活用していくのか、ほかの図書館とどのように役割分担していくのかということが課題になってくるかと思います。
 また、やや細かい点ですが、図書館等による公衆送信サービスにおきましては、その対象が原則として著作物の一部分であり、政令で定めるものは全部の公衆送信が可能と規定されましたので、従来の発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物は全部複製できるという文言が削られています。そのため、調査研究に必要であり、権利者にそれほど大きな影響を与えないと考えられるような複製や公衆送信については、速やかに政令指定されることが望まれると思われます。
 さらに、令和3年改正でも、まだできることが限られていると思いますので、新たなサービスの対応に向けて改正が必要な場面が出てくる可能性があります。そのような場合には、権利制限規定を拡張したり、新設しつつ、権利者へ影響を与えるようなものについては補償金制度を導入していくという対応が考えられるかと思います。また、フェア・ユース導入論も依然として存在します。立法を待たずに、新しいサービスなどに対応できるというメリットがありますので、フェア・ユースの導入という可能性も残っているかと思います。
 最後に、立法政策における課題として、著作権法のバイアスの問題を指摘しておきたいと思います。組織化されやすい利益は立法過程に反映されやすく、組織化されにくい利益は法の形成に反映されにくいという性質があります。特に知的財産は物理的な歯止めがなく、ロビーイングのしがいがあるために、権利者の権利が社会的に望ましいレベル以上に拡大しやすいということが指摘されています。権利者などはロビーイングを行うメリットを多く持っているのですが、ユーザーは利益が拡散されているため、個々が感じる利益は小さく、なかなかロビーイングなどにつながりません。しかし、実はユーザーの利益は総体としては大きなものなので、こちらもきちんと法律に反映していくことが望まれます。
 このようなバイアスの問題なども踏まえますと、著作権法の在り方を考える上では、現在の著作権法を前提に、いかに遵守してその範囲内でサービスを提供していくかという点だけではなくて、図書館の機能を果たすために著作権法がいかにあるべきかということを図書館側から提案していくことというのも重要であると考えられます。図書館からの立法への働きかけ、情報発信というのが今後重要になってくるのではないかと思います。
 著作権法というのは、もともと技術の発展により生成してきた法制度ですので、技術の変化とともに改革が求められるべきであるということも主張されてきています。旧態依然とした法制度が足かせとなって技術的恩恵の享受に失敗するようなことがあってはならないということが指摘されますように、デジタル技術やインターネットが普及して、技術的には多様な著作物を利用者が利用できる可能性が飛躍的に高まっているなか、そのような利用者の利用を可能としつつ、他方で権利者の保護によって創作のインセンティブを確保するというバランスをとりながら、著作権法が最終的に目的としている文化の発展に向けて、どのように著作権制度があるべきかということを、図書館側からも提案していくということが求められているように思います。
 私からは以上になります。ありがとうございました。
【竹内主査】  村井委員、ありがとうございました。著作権法のこのところの改正というのは非常に頻繁でございますし、法に明るくない人間にとってはフォローしていくのはなかなか難しいところがあるんですけれども、基本的な考え方あるいは権利制限の変化みたいなものをおまとめいただくとともに、これから大学図書館が真に機能していくために、著作権法というものに対してどのように向き合っていくべきなのかということについての大変貴重な御示唆をいただいたかと思います。
 それでは、ただいまの御発表を含めまして、また、先ほどの高品課長からの国立国会図書館に係る事柄との関連というようなことも多分あるかと思いますので、その辺りは自由に御発言をいただければと思います。委員の皆様、よろしくお願いいたします。
 引原委員、よろしくお願いいたします。
【引原委員】  村井先生、どうもありがとうございました。非常に勉強になりました。物すごく基本的なことをまたお聞きするんですけれども、著作権法において、図書館というのはどういう機能として認識されているんでしょうか。今お話を聞いていますと、図書館というのは取次ぎのような形になってしまって、図書館の機能というものが何かこの著作権法の中では出てこないように感じたんですけども、その辺は何か私の認識間違いなんでしょうか。
【村井委員】  御質問ありがとうございます。著作権法に図書館の機能がが直接は規定されていませんので、むしろほかの法律ですとか図書館側から提案していっていただいてよいのではないかと個人的には考えています。
【引原委員】  なぜお聞きしたかといいますと、著作権法の運用に当たって、図書館、大学図書館あるいはNDLも含めて、かなり権利者のほうに配慮した行動を取っていると思うんですね。それを逆に著作権法自身が求めているような部分がある。ところが、この著作権法の中では図書館の機能というものをいいように利用しているのではないかと私は感じてしまうんですけれども、そういう読み方というか、見方をするというのは間違い、ほかの法律で何かきちんと定義されているというふうに理解したほうがいいんでしょうか。
【村井委員】  今おっしゃった、いいように利用されるという点をもう少し御説明いただけますでしょうか。
【引原委員】  著作権法を遵守することを図書館というのは求められてしまうわけですけれども、それは法律としてはあり得ると思うんですが、図書館がやる必要もないのではないかというふうに私は思うんですが、それはどうなんでしょうかということです。もちろん、扱うものが著書であったりとかデータであるというので、扱うものからはあると思うんですが、例えば商品を買ったときに、販売店がその全部のものを責任持つということじゃなくて、製造会社であるとかそちらのほうが責任を持つというのが多くの商品の場合あるわけです。この図書館というのが、その間に立って、フェアになるようにしなさいよとか、そういう誰に向いて行動を取っているのか分からない部分があるんですね。著者のほうを向いているというときもあれば、利用者のほうを向いているというときもあると。先ほどおっしゃったように、時代に応じて著作権法を図書館から提案しなさいということであれば、それは利用者側からということなのか、それもどちらか分からなくて、要するに図書館が何をどういうふうに定義されているかによってかなり違うのではないかと思ったからお聞きしました。すみません、中途半端なことを。
【村井委員】  いえいえ、ありがとうございます。十分なお答えができないかもしれないのですが、著作権法自体は、そこはフラットといいますか、あくまで著作物の一定の利用に対してそれを著作権法上行うことができるかどうか、できるとしたらどのような条件の下であるかなどを定めていますので、図書館が存続期間の残っている著作物を例えば複製する、公衆送信するといったときに、それを許すのかどうか、またどのような条件でといったことをを定めるのが著作権法の行っていることで、そこで図書館……。
【引原委員】  例え、今おっしゃったようにコピーをするという行為は、確かにコピー機が図書館にあるということは事実なんですけれども、図書館がさせているわけではないわけですよね。
【村井委員】  はい。
【引原委員】  今は例えなんですけれども、著作権法というものの代替、代弁者というか、代理執行者が図書館であるという必要はないわけですよね。
【村井委員】  それは、例えばもう利用者に委ねるという可能性がある。
【引原委員】  はい。
【村井委員】  そうですね、例えば複製については私的複製という規定がありますので、31条との関係をどう見るかというのが問題にはなりますが、可能性としては利用者に私的複製をしてもらうということでで対処するという考え方もあり得ます。ただ、31条という規定が既にあり、図書館がこのような条件で複製できると定める条文があることを前提とした議論にどうしてもなってしまいますので、それ自体に問題提起して規定の在り方を変えていくとか、31条をそもそも根本的に見直すといった議論になるでしょうか……。
【引原委員】  ありがとうございます。無理を申し上げているつもりは全然なくて、先ほどの高品さんの話にもありましたけど、図書館の考え方自身が変わってきたときに、本当にずっとこの著作権を守る、代理執行者的な図書館というのがあり続けられるのかというのがものすごく疑問なんです。そうしたときに、どういうふうにしてこの著作権を守るのかということになったときに、基のソースから止められてしまうということになりかねないなというふうにちょっと危機感を持っています。だから、在り方自身が、まだ物にしがみついたような、その制度を維持するということがもう無理なんじゃないかというふうに感じています。それを図書館のところまで引っ張ってきて何とかユーザーがそれに従うようにしてきているんですけれども、ネットワークになっている時代にもうそれは無理だろうと思うんですね。それを物として、物と情報が一致したものとして、著作権を守るように、あるいはそこから課金するという制度自身が、もうグーテンベルクの時代のままというか、何かそういうような気がします。ここは大きな変化のタイミングじゃないかなと私は感じているんです。あと私の意見を言うつもりはないんですけど、そういうことが今の御説明の中でもやはりちょっとまだクリアじゃないなというふうに私は思いましたので、コメントさせていただきました。ありがとうございました。
【村井委員】  ありがとうございます。
【竹内主査】  今の引原委員からのお考えの提示というのは、実際に著作物の流通環境が変化している中で、法体系が十分に対応できていない部分とか、あるいはアカデミアの考え方でいえば、著作権者自身がそれをどういうふうに扱ってほしいと考えるかということに対する意思表明がまだ十分に行われていないとか、様々な問題を含んでいる話かなと思っております。この検討部会の中でも考えていかないといけないオープン化という問題をいろいろな形で規定しているのが著作権法という制度であるという部分はあると思いますので、ひょっとすると今回ということではなく、別の回でも、大学図書館の機能を考える上でもう少し深掘りをしないといけない課題かなと思いました。
 では、尾上委員、お願いできますでしょうか。
【尾上委員】  尾上でございます。村井先生、ありがとうございました。非常に勉強になりました。
 この中で、引原先生のお話と関連するんですけども、ちょっと違う見方で、図書館としてこういう状況で何をやっていけばいいかというような目線で考えてみたんですが、例えば、13ページ目に「3つの層」の図を出していただいていたと思うんですけども、これも多分同じような話だと思うんですが、今もう恐らく大学図書館でやっていることというのは、この右側だけというものでもないんだろうと思っていまして、著作権って非常に広い考え方でいうとというところだと思うんですけども、そういう中でどういうことができるか。あるいは、大学で考えたときに、これは大学の図書館ということでいうと、関係者、学生、教員、いろんな方、職員の方もいらっしゃる中で、どういうふうにこういう考え方というのをちゃんと浸透させて、それを正当にマネージしていくのは図書館の仕事なのかって言われると、これはクエスチョンだと思うんですけど、例えば我々の大学でも、知的基盤総合センターというところがあって、知財の教育とかはそっちでやっていただいたりもしていたりするんですが、うまく協力しながらというふうなことは思いつつ、これ、ぜひ先生の御示唆を賜りたいのは、図書館ってどういうところに、ここでいうと、恐らく著作物をまず念頭に置いての動きというのがここに考えられるんだと思うんですけども、もう少し大学の中の図書館の位置づけというのが変わっていこうとしているときに、どういうところに力点を置いて活動していけばいいか、何かもしアイデアがあればぜひ教えていただきたいと思いました。いかがでしょうか。
【村井委員】  おそらく御質問の趣旨が十分に理解できていないかと思うのですが、どういうところに力点というのを、もう少し具体的に御説明いただけますでしょうか。
【尾上委員】  例えばここで多分出ているのは、やはり図書館が著作物を扱う組織だという前提の考え方で、恐らく今、出てきているんだと思うんですけども、もう少し我々、活動の幅というのはやっぱりどうしても広がってくると思うんですが、あくまで図書館というのは、著作物対応を著作権の正当な利用のためにはしていけばいいだけなのか、例えば先ほどの授業の配信の話とかもありましたけども、比較的大学の中では著作権に近いというか、明るい人たちがいる組織だというところで、もうちょっと手を広げていくべきなのかという、そういうところだと思うんです。
【村井委員】  ありがとうございます。今まであまり考えたことがない問題なのですが、広く情報を扱うという点では、ぜひいろいろな面で図書館が情報発信や情報提供などに関わっていただけるといいのではないかと思うところです。確かに先ほどのお話もありましたように、著作権法が直接関係してくるのは、あくまで著作権法が保護している対象となるものであるという関係性にはあるのですが、著作物という枠組みにとらわれず広い面で考えていかなくてはいけない問題があるということで今後検討させていただきたいと思います。
【尾上委員】  ありがとうございます。すみません、答えにくい質問をして失礼しました。
【村井委員】  ありがとうございます。
【竹内主査】  尾上委員の御質問は、著作物というものであるとしても、従来、図書館が扱ってきたもの以外にも様々な著作物が大学にとって非常に重要な意味を持つようになっている中で、法制度の問題と、それから実際の著作物の扱いを学内で誰がどのように扱っていくのかということの関連の話であると理解しました。
 加藤委員からお願いできますでしょうか。
【加藤委員】  お茶の水女子大学の加藤と申します。著作権に関する非常に丁寧な御説明、誠にありがとうございました。
 私からは非常に簡単な質問ですが、この中間的な解決方法ということで補償金を支払うわけで、大学も当然補償金を支払っています。この金額というのが、妥当なのかか、今後、例えば値上がりとかしたら、教育環境、非常に困ります。補償金の金額は関係者で決めるというような御説明があったんですけれども、この補償金自体が今後どのようになるかという見通しなどがお分かりであれば教えていただきたいと思います。
【村井委員】  御質問ありがとうございます。補償金というのは、この35条関係のほうの補償金でしょうか。
【加藤委員】  そうです。
【村井委員】  補償金は、やはり公正な金額である必要があるということで、あらかじめ教育機関から意見を聞いた上で設定し、文化庁官が認可することになっていますので、高くなり過ぎないようにということにも配慮して決められていくと思われます。今後入ってくる図書館関係の公衆送信に関する補償金制度も、図書館等の意見も聴いた上で認可の手続きを経て決められていくと思います。金額を決める上では、理論的な整理も重要であると思われますので、補償金をどのように位置づけるのかを考える必要があると思います。例えば権利者への損害の填補と説明されたりしますけれども、教育目的利用や図書館資料の研究目的の利用などは、公益性が高い利用であり、経済学的に見ると外部性の大きい利用であると考えられますので、そのような利用の性質をきちんと考慮していただければ、本来そこまで高くするべきではないということは言えると思います。このような理論的な位置づけを踏まえれば、そこまで高額になることはないと期待したいところですが、ただ、実際の運用は関係者の協議に委ねられる部分が大きいというのが実際のところではないかと思います。
【加藤委員】  どうもありがとうございました。
【竹内主査】  佐藤委員、お願いいたします。
【佐藤委員】  佐藤です。分かりやすい御説明をいただきまして誠にありがとうございました。
 31条について伺いたいんですが、35条とは違って、31条の図書館における複製、公衆送信の制限、ご説明の資料では13ページの第3層というところに関して、現在の第31条の議論が、国会図書館の公衆送信サービスにしろ、それから今回の改正にある各特定図書館における公衆送信の問題にしても、基本的には紙による所蔵資料を電子化して提供するという、いわゆるデジタル化資料という範疇のものであって、デジタル資料、もともとがデジタルになっているものについては基本的に除外をされる。つまり、ライセンシングによって提供されるものについてはライセンス契約の契約条項によって利用が規定されるのであって、この著作権法が及ばないということなるかと思います。しかし、オープンな利用を考えた場合に、今後、ボーンデジタルな資料、電子ジャーナルであるとか電子書籍についても、その著作権の制限、要するに、公共的な利用であるとか文化の向上に資するものとして利用の在り方を考えていかなければいけないのではないかと思うんですが、その点で、今後の著作権法改正あるいはその法律に基づく制限規定あるいは利用の在り方についてどのように考えたらいいか、御示唆をいただけないでしょうか。
【村井委員】  御質問ありがとうございます。やはりライセンスに基づく著作物の利用は基本的には契約が優先するというのが原則ですが、ただ、そのようなライセンスの条項と、著作権法の「公序」と呼ばれるものが対立したときにどのように考えるべきかというのは、古くはシュリンクラップライセンスなどのようなソフトウエアの契約条項の問題から議論されてきた問題で、例えば、少なくとも引用などはライセンスで規制するべきではないと指摘されてきました。31条においても、条文上はデジタル資料が排除されているわけではありませんので、デジタル資料が今後増えてくると考えられるなか、仮に契約によってすべてが図書館の公衆送信などのサービスから除外されてしまうと、それも大きな問題になってくると思われます。当事者のライセンスの契約の在り方や、関係者の協議による契約に委ねられる部分が大きいとしても、その中でも許されるべき利用は何であるかといったようなことは、検討しなければいけない問題であると改めて気づかされました。御指摘ありがとうございます。
【佐藤委員】  ありがとうございました。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 深澤委員、いかがでございましょうか。
【深澤委員】  1個前の質問なんですが、SARTRASの値づけのお話だったかと思います。御存じのように、SARTRASは、お金を集めて、誰にお金を返すかというと、団体に返しているわけです。例えば音楽だったら、JASRACに返す。決して特定の作曲家だとか特定の歌手だとかに返すんじゃなくて、JASRACという団体に対してお金を返し、そこから先はJASRACが勝手に特定の歌手なり作曲家なり作詞家に分けてくださいねという扱いをされているわけで、実はそのJASRACみたいなものがないのは大学の先生で、大学の先生は著作物をいっぱい作っていて、ただ、JASRACみたいに大学の先生方の著作物をまとめて扱っている組織がないので、実は大学の先生に対しては返す場所がないというのが、SARTRAS的に我々大学の教員が一番弱いところだと思っているので、例えば、大学の先生は要らないので、その分安くしてくださいというのも案の一つだろうと思うし、きちんとした組織をつくって、そこに大学の先生に加盟していただいて、そこを経由して大学の先生に実際に補償金を返すとかというふうな、大学の先生方にお金を返すことも考えていかなければいけないんだろうなと思っております。単なるコメントです。ありがとうございます。
【村井委員】  ありがとうございます。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 主として村井委員のプレゼンテーションに対する質疑ということでございましたけれども、前半の高品課長からの御報告も含めまして、少し議論すべき点があればお願いしたいと思います。今日の主たる議論の部分というのは、これまで既に図書館の蔵書となっている紙の資料をどのようにデジタル化するか、あるいはその利用の利便性をどう高めるかというところに話は行っていたかと思うんですけれども、実際のところは、我々としては、これから大学等において生産される学術的な成果をどのように使っていけるようにするかというようなところも大きな課題になってくるわけでございまして、先ほどの尾上委員の御発言というのは、多分その辺りを少し意識していただいたものではなかったかと思っております。
 また、今回の議論では国立国会図書館のデジタイゼーションということが中心でございましたので、これまでの蔵書ということを考えても、いわゆる日本国内で刊行されたものだけの話が中心でございました。しかしながら、大学図書館で扱っているものにはそうでない資料類というのは非常に多いわけでございまして、様々な資料のタイプによって、我々がこれからどのように対応していくのかということについては、少しずつ戦略と申しますか、考え方を変えてやっていかないといけないというところがあるのかなと思っております。
 ちょっとそういう仕分をしつつ、どういう資料に対して我々はどのように対応するのかといったようなことについても少し御意見をいただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。いかがでございましょうか。
 どなたかから口火を切っていただけませんでしょうか。深澤委員、お願いいたします。
【深澤委員】  じゃあ、口火をということで、今日、この委員会が始まってからコンテンツという言葉が何度も使われてきているんだと思います。データという言葉もしくはデジタルデータという言葉も使われてきていると思っております。この委員会として、そういうものとして何を指していくのか。非常に分かりやすいのは、EジャーナルみたいなものだとかEデータベースみたいなものは分かりやすいんですが、それ以外の、例えばオープンサイエンスの下でいろいろ言われています、要はオープンデータだとか、研究者が研究の成果としてつくったデータだとか、いろんなものがあると思っております。何が面倒くさいかというと、例えばEジャーナルだと、図書館が面倒見ましょうねというのは割と広い合意があると思うんですが、例えばオープンデータ、研究データ、誰、大学の中のどこが扱うんでしょう。引原先生とも少しお話をさせていただいたんですが、そういうものって、例えば大学の研究推進部署が扱うのか、教務の部署が扱うのか、デジタル・ITをつかさどっている部署が扱うのか、図書館が扱うのか、デジタルと言った途端にすごいぐちゃぐちゃになってくるような気がするので、そこら辺を少し整理の軸として持っていたほうがいいかなと思っております。もし引原先生、サポートしてくださることがあれば何か。
【引原委員】  深澤先生がほとんど言ってくださったんですけども、結局、学位論文の電子公開のときがありましたが、そのときも、どこが扱うのかという、どちらかというと嫌だというほうで投げ合いをしていた時代があったと思うんですけども、大きな権利であると同時に、知財としての権利であると同時に著作権的なものもあって、学位論文という非常に著者校のものに対しても、そういうような学内であまりやりたくないというものがあったわけですね。ましてやデータというのはその流れの中にあって、非常に大学の中で各部署が今まで扱っていなかったところになってしまうんじゃないかなと思います。だから、深澤先生おっしゃったように、いろんな部署が絡んでしまって整理をしないといけないんだろうなということは我々大学でも思っていますし、日本全体としても、今、図書系とか、それから情報系とか教務系があまり手を出さないように、固まっているような状態ではないかなと思っておりました。
【竹内主査】  ありがとうございます。著作権法35条に関わる話でも、一体学内で誰がやるんだというので様々な議論があった経験を多くの方がされているのではないかと思いますけれども、そういうふうに、従来の図書、それから雑誌の延長で理解できるデジタル物というのは、図書館でやるべきだということに対するコンセンサスというのは比較的得やすいんだと思いますが、そうではないものが様々今日つくられてきているわけでございまして、それをどのように扱っていくのかというのが大変に難しい課題であるというところがあって、この検討部会の中でも整理をしていかないといけないということを改めて深澤先生から御指摘をいただいたということかと思います。
 坂井委員、お願いいたします。
【坂井委員】  東大の坂井です。大変貴重な御意見をたくさんありがとうございます。先回、尾上先生からも、大学の中で横串を通すのは大変だというお話をいただいたばかりですけども、枠組み自体を少し整理し直して、大学の組織や、高等教育全体におけるデータの保存と利活用の仕方を考え直す時期が来ていると思うんです。利用者にとっては、書物やデータはどこにあってもいいわけです。権利者が誰で、著作権が守られて、読み手が合法的にコンテンツを入手できる、そういう安全性や信頼性が担保できる状態にあれば本当にどこにあってもいい時代になっているはずで、にもかかわらず、1大学の中でも、これは教育担当理事で、これは研究推進部で、これは研究担当理事でと、担当者がごまんといて、一堂に会するのが本当に月1回できるかどうかみたいな話になっちゃうわけですね。さらに、大学間では、オープンデータのやり取りもそうだし、あるいは著作権物だってデジタル化したらもうどこにでも送れるわけですから、ここで議論することの一番大きな枠組みというのはそこに結局落ち着くような気がいたしました。国大図協や国公私など、図書館の組織もちょっと種類が多過ぎかもしれません。その辺、皆さんの御意見を伺いたいと思いながら深澤先生のお話を伺っておりました。
【竹内主査】  ありがとうございます。大変重要な御示唆をいただいていると思っておりまして、今回の論点の中にも、大学図書館間の協力、あるいは大学図書館を超えた図書館の協力の在り方については、デジタルトランスフォーメーションのプロセスの中では当然考えなきゃいけないことでして、学術情報流通ということを考えたときに、1大学の1図書館の機能ということと、それから日本全体の大学を横串にするような機能ということと、場合によってはさらに世界を相手にした機能というようなこともあるわけです。例えばプレプリントサーバーみたいなものは、1大学が設置して1つの国の中で完結しているものは決してないわけでございまして、そういったことを考えていくと、幾つかのサービス、それからプラットフォームの整備の在り方というのは、従来のような単純な形でいかないというのはもうはっきりしているということだろうと思います。その中で我々としては、この議論を重ねていく中でよりよい答えを見つけていくしかないと思うわけでございますけれども、その辺り、今日の議論と必ずしも直接に関係なくても、今、深澤先生から問題が提起されたことに端を発して少し話が広がってはおりますが、その辺りのことも含めて御意見をいただければと思います。
 引原先生、お願いいたします。
【引原委員】  坂井先生が話をかなり大きくしてくださったので、それに合わせて大きくしたいんですけど、結局、利用者というものと、それから著者というか、そのやり取りの話は著作権であり、国会図書館と利用者との関係という中で考えないといけないのは、誰が利用者で、誰が権利者かという認証の問題が曖昧になったまま、この話を進めているんだと思います。だから、本当だったら1対1の対応をするようなものを、誰が使っているか分からないフリーライダーが多いから多めにお金を取っておきましょうとか、何かそういう話になってしまっているような、非常に下世話な話になっているような部分がかなり多いと思います。ですから、私、別に推進者じゃないですけど、国民にマイナンバーみたいなものを本当に与えるんだったら、そこから得られる権利というか、ものをたくさんやっぱり提供すべきであって、それによって必要なものが得られると。それを放棄する人は得られないというのが基本であろうと思うんですね。ですから、そういう認証が明確じゃないままこういう話をすることが問題で、例えば大学の教育を京都大学で受ける、教育を受ける人は京都大学の認証を受けている人がその講義を取れるということなんですけども、ヨーロッパのシステムとかだったら大学を渡っていくことが当たり前ですから、その認証は共通の大学の中でマッピングされているわけですよね。だから、いつまでも1つの箱とかいうものに入れ込んで教育とか情報とかを扱おうとするこの体制をやっぱり見直していかないといけないんじゃないかなと思いました。だから、図書館というのを大学間でどういうふうに認証を共有化してやるかというのは、早稲田大学さんが慶應とやられているような話につながっていくんだと私は思っていまして、そういう議論につながればいいかなと思いました。
【竹内主査】  引原先生、ありがとうございました。まさに今おっしゃられたように、認証と申しますか、一人一人がこれを使っていいのか悪いのかというようなことを、大学の枠とかを超えて、システムとしてちゃんとつくっていくということが非常に強く求められているということだろうと思います。こういったことも、いずれかの回においてできれば早慶の新しい枠組みなどについてもお話をいただきたいと個人的に考えているところでございますので、そういったタイミングでぜひ議論を深めていければと思っております。
 本日も、高品課長、そして村井委員からは大変貴重なプレゼンテーションをしていただきましたことに対して、改めて感謝を申し上げたいと思います。また、委員の先生方におかれましては、様々な御意見を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。とりわけ最後のほうでは、この検討部会において何をどう議論すべきなのかということについて改めて御示唆をいただけたと考えております。本日いただきました意見等につきましては、事務局のほうで整理をした上で、今後の審議に生かしていければと考えております。
 最後に、事務局より連絡事項等あればお願いしたいと思います。
【大鷲参事官補佐】  事務局でございます。
 本日の議事録につきましては、各委員に御確認いただいた上で公開させていただく予定でございます。
 次回(第3回)につきましては、6月13日(月曜日)を候補日としてございます。開催方法等につきましては改めて御連絡させていただきます。
 事務局からは以上です。
【竹内主査】  ありがとうございました。
 次回につきましては、先ほど深澤先生からも御発言があったことと関わる、研究データと大学図書館の関わりということをメインとして話を進めていきたいと考えているところでございます。
 それでは、以上をもちまして日の会議は閉会とさせていただきたいと思います。皆様、どうもありがとうございました。
―― 了 ――

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