次世代計算基盤検討部会(第4回)議事要旨

1.日時

令和3年1月22日(水曜日)13:30-15:30

2.場所

オンライン会議

3.出席者

委員

安浦主査、相澤委員、合田委員、荒瀬委員、伊藤委員、井上委員、上田委員、海野委員、喜連川委員、後藤委員、高橋委員、中野委員、藤井委員、山本委員

文部科学省

塩崎審議官、橋爪参事官、宅間計算科学技術推進室長、西川参事官補佐、太田専門職

オブザーバー

京都大学奥野教授、日本電信電話株式会社川添常務執行役員、理化学研究所計算科学研究センター松岡センター長

4.議事要旨

安浦主査により開会を宣言。
事務局から会議の議事およびオンライン開催の注意事項について説明があった。

【安浦主査】
本日の検討部会は今期の最後の開催となります。今回は、前回4人の委員の先生方からいろいろな視点から、次世代計算基盤のあるべき姿とか、それに期待するもののお話をいただきましたけど、本日も引き続きまして、伊藤先生から量子コンピュータのお話、それから外部から、利用者の立場で京都大学の奥野先生から医学、生命科学関係の利用のお話、それから、計算基盤と通信基盤はもうほとんど一体で考えないといけないという視点から、NTTの川添様に今後の通信基盤がどうなっていくかというお話をお願いしております。奥野先生、川添様、よろしくお願い申し上げます。
それでは、議題1に移りたいと思います。まずは伊藤委員のほうから、次世代の中核が量子コンピュータになるというのはちょっと早過ぎるのではないかというお話はしばしば出てきていると思いますけれども、ただ、量子コンピュータを無視できない時代になってくるというふうに考えられますので、量子コンピュータと従来型のコンピュータの連携と、次世代の計算基盤を考える上での技術の現在から見た5年後あるいは10年後の予想も含めてお話をいただきたいと思います。

【伊藤委員】 ありがとうございます。このたびは、このような機会をいただきありがとうございました。実は私、科学技術・学術審議会の委員を10年間、これで務め上げるということが急に分かったらしく、これが最後の委員会出席ということになります。4月からは金輪際、科学技術・学術審議会には一切関われないということを言われまして、喜連川先生のように、何か遺言のようにここで残していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
学術を担う文科省として次世代計算基盤で目指すべきことということで、次世代計算基盤がもしフラッグシップ機と周辺高性能コンピュータの2種類に分かれるのであるとすれば――これはもう仮定です――私としては、フラッグシップ機には基礎科学の飛躍的発展、例えばノーベル賞やフィールズ賞の受賞につながる計算機の開発をしてほしいと、昔から思っています。今まで計算科学でノーベル賞が出たということは、私の知る限りありません。よって学術分野における、これこそ本当の意味での学際型ムーンショットプロジェクトになるのではないかと思います。ここでは、情報プロジェクトであり情報プロジェクトにあらずと、この赤字の部分は実は喜連川先生のスライドから幾つか取ってきた部分です。スパコンが、全てが情報プロジェクトではありません。本当の意味で科学の発展に寄与するためには、学際型の、全ての参加型になる、それでフォーカスを絞っていくということなると思います。ここに量子コンピュータ研究者も参加させていただければなと考えているわけであります。
周辺高性能コンピュータ、東工大のTSUBAMEとか、そういうのは非常に大切です。これこそ科学と工学の大きな発展に寄与する実用システムであり、そこの部分では、これも喜連川先生の話ですけれども、効率化という意味ではコンソリデーションを進め、データ基盤という、まさに大きなデータをどうやって使っていくかということと、それから人材育成の環境整備をしていくということと、量子コンピュータ研究者もここに参加させていただければと考えています。あくまでも現在の計算機を進めている方々が中心となり、量子コンピュータ研究者がここに参加させていただければというのが現時点での私の考えであります。
次のページ、よろしくお願いします。これは2015年11月12日に行政レビュー「スパコン」で私がなぜか参考人として呼ばれて、これは内閣府の資料から抜粋してきたものです。一番上の1段落は、科学者から見て一番可能性を感じること、これはつまり「京」とポスト「京」の予算について議論したものであります。当時は河野太郎行政改革担当大臣でした。今までノーベル賞というのは科学計算結果に与えられてはいない、実験結果または紙と鉛筆の理論結果。計算機の性能がどんどん上がるにつれて、純粋科学の発展に対する計算機の寄与はどんどん大きくなっているという意味で、どこかでクリティカルポイントを超えて、実験でもなく理論でもなく、計算で行った実験の結果により新しい発見ができることが来るのではないか、それができるようなコンピュータができたらすばらしいというのが1つのスパコンの定義だと、フラッグシップの定義だと私は思ってきました。ただ、その下に書いてあるように、また「京」以外に、東工大のTSUBAMEに代表される様々なスパコンがあって、それをどこに絞るというのは難しい。つまり実際には、下のほうにも出てきますけど、絞るのではないという発言をしていました。
2段落のところで、文科省の今日の説明――そのときの説明――にあったけれども、科学的なすばらしい成果を、論文も含めてもっとダイレクトに発表してほしいということを伝えていました。動く心臓を見せるのが悪いとは言いませんけど、それにどういう科学的成果があるのか説明が明確ではないと感じました。そこで「ろう人形館に行って、本物のアートでもなく、何かすごい技術をもって物まねをしたものを見せられているようなところがあるので、そこら辺は科学の迫力ということで示していただいたほうがいいと考えています」と発言したのです、ここの部分が実は、私、知らなかったのですが、相当切り取られて、私はネット上で批判されていたそうです。ただし、伝えたいことは、実はそのネット上の批判は、私が相当後で見ると、何か自己完結的に、伊藤公平はそんな悪いことを言っていたわけじゃないとまとまっていたのが不思議なところですが、こういう計算をすればこういうことができるということが分かっている結果を求めるシミュレーションだとすれば、それはフラッグシップ機を使わなくてもいいのではないかと、産業上大切なこととか、それは何も一番いいものを使わなくてもいいのではないかと、一番いいものを使うにはそれなりの、何というのかな、もっと我々が人間では行き着かないようなものを何か出してほしいという気持ちが素人としてはあったわけです。
今の「富岳」で飛沫のシミュレーションとかがテレビに出てきて、これはこれで菅首相にも引用されて、いいことだとは思うのですが、それだけが独り歩きしていくというのは、つまり、こうすればこうなるという説明だけではもったいない。今回の「富岳」のすばらしいことは、運用開始と同時にユーザーにとって使いやすく、実際に使えたということがすごいことで、すぐシミュレーションもできたということがすごいことで、それに皆さんが取り組んだということもすごいことなのですが、でもやっぱり科学的発展は何かということだけは、どうしても私としては気になることだと。利用は高まりました、でも科学的発展が何なのか、発見が何なのかということが一番気になるところであります。
では、次のページをお願いします。量子コンピュータの科学的可能性という意味で、古典情報、いわゆる世間のビッグデータを量子コンピュータで使えば速くなるのではないかという考えがあるのですが、これはここに出席されている大阪大学の藤井先生も、量子コンピュータの若手、中堅のスターでいつもおっしゃっていることですけれども、今の我々が持っているデータを量子コンピュータで使えるように量子状態に変換する時点で、ものすごい計算量が必要になることが大体知られています。ということで、古典情報を量子コンピュータで使うには、科学的な発見という意味でどこまでうまくいくのかということは相当な工夫が必要になると私は思っています。
一方、量子力学に基づく物理、情報、化学、ですから素粒子や原子や分子といった、もともと量子力学の世界のものは、理想的には直接量子ビットで担っていくと、量子状態を量子状態で表すということができれば、それは科学的可能性としては量子ビットで何か新しい発見が出てくるのではないかということを皆で目指すべきだというふうに私は思っています。金融、最適化といった産業応用問題は、新しい科学的発見があるかどうか分からないですけれども、いろいろ量子コンピュータで行うことは何も問題ありません。実際に慶應でもそういう問題に取り組んでいます。ただ、科学的な発見という意味では、量子状態を量子コンピュータで表し計算することにフラッグシップレベルで取り組んでいただきたいというのが私の考えです。
下のほうに示してあるのが最近のグーグルの成果ですけれども、H12、12個の水素分子の結合長、下のグラフは横軸が結合長で、縦軸がエネルギーで、どの結合長が一番低いエネルギーになるか、つまり安定するかということを計算したものですが、このレベルの計算がなかなか大変な計算ですけれども、それが12の量子ビットを使って量子コンピュータでできたということは、これはすごいことだと私は思います。
次のページをお願いします。量子コンピュータが、これからどんどん性能が発展してきます。性能指標として今用いられているもの、これから性能指標は変わっていくと思いますけれども、今用いられているものの1つにQuantum volumeというのがあります。2020年のQuantum volumeの値は64でした。64というのは2の6乗、この6乗の部分が6で何を意味しているかというと、6つの量子ビットを使って深さ6段の高精度計算ができるということです。来年はこれの倍になると言われています。64が128になる、これが意味することは、7つの量子ビットで7段の高性能計算ができるようになるということです。
53量子ビットとかの量子コンピュータがあるのに、なぜまだ6つとか7つとかいう話をされているのかと思われるかもしれませんが、それなりの精度を求めるとこういうことになっていて、左下のグラフですけれども、このグラフは4年間かけて、この性能指標が毎年倍になってきたということを示していて、去年の64はIBM、グーグル、Honeywellが出しています。この4点がこのまま伸び続けるだろうというのが、実はムーアの法則も最初の4年間の点をそのまま外挿した法則なので、これも、左側の量子コンピュータの性能指標もこのまま伸びるのではないか。またさらには、IBMなんかは、左の下を見てください。実は上にもう点が上がっていくので、これはもう指数関数、この2倍よりさらに加速するということを思っているところがあるみたいです。次のページをお願いします。実際にIBMでは、右から2つ目の2023年というところで1,121、1,000ビット以上の量子コンピュータをつくるということを、もう公言しています。
次のページをお願いします。では、そういうようにどんどん量子コンピュータが、体が成長していった場合、何ができるようになるかというと、結構単純な量子コンピュータのアルゴリズムを考えると、これで見ると2022年から23年の間で水分子ぐらいが計算できるのではないかと。さらに、CO2とかいうのがずっと上に来ています。ですから、今の我々の知っている量子アルゴリズムをそのまま延長していくと、科学計算というのはそれほど大したことはできないかもしれない、ということが、これだけを見ると言えるわけです。一番右上の2030年に行っても、あの程度の分子だということになるわけです。
次のページをお願いします。これを、アルゴリズムや計算機を一緒に、コデザイン的に成長していくことによって、このように一気に加速させることができるのではないか、したいというのが、今皆が行っている研究であり、ここら辺のところを大阪大学の藤井先生も精力的に進めていらっしゃいます。ハードが育っていく、今ハードが6ビットで6段の計算ができる、これは、4年前に赤ちゃんが生まれたことを考えると、体がやっと幼稚園児ぐらいになったぐらいなのですね。こんなことができるようになりましたといって我々が学会で発表しても、スパコンの人たちから御覧になると、その程度しかできないのかというふうに言われます。でもこれ、実際に子育てなんですね、この4年間、ハードも伸び、どんどん体が育っていきますし、それによって我々ができることもどんどん増えていって、我々は教育する側で、それにどういうことができるかというソフトやアルゴリズムを考える。
今、幼稚園児の運動会みたいな状態です。そこにオリンピック選手がやってきて、何をこんなおままごとみたいなことをやっているのだというふうに言うことはありません。その子たちが成長するのを知っているので、将来が楽しみだなと言ってくれます。これは量子コンピュータが今後、中学生、高校生を飛び級して進んでいくとしたら、どこかでスパコンなどから、量子君、ちょっとここを手伝ってくれると言ってくれるようになるのでは、それが今から10年後ぐらいにそういうことがあるとすれば、我々が研究をやっている意味は非常に大きいということになるわけであります。
次のページをお願いします。コンピュータ、今のスパコンでも不可能な問題に取り組む、それがもう量子コンピュータの使命ということで、例えば簡単なLiO2、酸化リチウムの様々な反応が量子コンピュータでできるのではないか、調べることができないかみたいなことを、慶應では1つ成果を出して、成果を論文にしていますし、また機械学習という分野に関しても、下にあるのは、化合物Aと化合物Bを反応させて、それがもし何らかの、がんとかに効く薬になったとすれば、これは非常に膨大なパラメータ空間であるとは思いますが、量子状態ごと機械学習することができるようになれば、今の研究とは違う領域に進むのではないかということが期待感としてはあるわけです。ただ、例えば上の化学反応を量子コンピュータで計算するために求められる精度は、もう1%、99%、ずっと高いということで、そうなってくると量子コンピュータの性能ももっとよくなってくれなければいけないということで、今後ということになるわけです。
次のページをお願いします。次世代計算基盤フィージビリティスタディがもし何らかの形でこれから出てくるとすれば――出てくるわけですよね。これがそのための委員会なわけですけれども、量子コンピュータの関わり方、私案です。量子情報処理というものには既に多額の国家予算が投入されています。個別に投入されています。そして量子コンピュータはまだ幼稚園児程度の、子育て状態です。ただし、次世代フラッグシップ機開発は、学術分野における学際的ムーンショットプロジェクトであってほしいと、望むならば、できればはやぶさプロジェクトのように、若手、中堅が集まって、もうロマンとドラマを持って取り組んで、これをやり遂げる、成し遂げるんだということを、プロジェクトチームとして熱気と結束を持って進めるような環境を用意してほしいというのが私の願いです。そのようなフィージビリティスタディが、計算機、それから学術界を中心にできたとすれば、そこに量子コンピュータの人たちが関わるのがよいだろうと。
スパコンの人と量子研究の人が交わる、一番単純で、これは最終目的では全然ありませんが、単純な方法の1つは、スパコン「富岳」を用いてゲート型量子計算のシミュレーターの開発をするということです。スパコン「富岳」で量子計算を実行できるようなシミュレーションをつくる、そうするとスパコンの中堅、若手の人たちが、量子コンピュータとはどういうふうなものか、またそれの可能性とか現実性ということを肌感覚で分かるようになると思います。量子コンピュータが将来使えるようになったとしても、必ずほかのコンピュータと組み合わせて使わなければいけないので、特にフラッグシップということになれば、スパコンと量子コンピュータのハイブリッド化ということでそういうものを考えていただければ、ロマンとドラマ、ノーベル賞、フィールズ賞を目指すというようなことができるのではないかという夢を私は思うわけであります。計算物理学者、計算化学者、数学者、計算機科学者によるスパコン、量子計算、量子シミュレーター、冷却原子を使ったシミュレーターとかもありますが、そういうようなものについてどういうことができるのかということを考えていただくのも、それだけでも意義があると思います。
一方、周辺スパコン、各大学に散らばるHPCIに関しては、ここにはアニーラも含めて様々な量子コンピュータが何らかの形で関わっていくと、本当に科学と工学の――ここにはわざと工学とも書いていますけれども――大きな発展に寄与する実用システムができるのではないかと期待するわけです。
次のページをお願いします。ここまでが私の発表で、あとはもう補足資料ですけれども、私がプログラムディレクターを務めているQ-LEAPプログラムでは、この中村泰信先生が代表となる超伝導量子コンピュータのハードの開発、それから、ここにも出席されている藤井先生が進める知的量子設計による量子ソフトウエア研究開発と応用といった、2つのハードとソフトのフラッグシップが立っています。それ以外にも、資料だけお配りしましたけれども、細かいハードウエアやソフトウエアの基礎基盤プロジェクトがありますので、その研究者、またこれに参加していない研究者名もリストしてありますので、その方々を上手に巻き込んで、特に藤井さんは巻き込んで、このようなことを国レベルで考えていっていただければと思います。
以上でございます。
【安浦主査】 伊藤先生、量子コンピュータの現状、それから今後の展望、それから科学技術の発展の中でどういうふうにこれを生かしていくべきかという、かなり根本的な思想までお話しいただきましてありがとうございました。
また最後に総合討論で皆さんから御質問いただきたいと思いますけど、今ここで伊藤先生に簡単な質問をされたい方があれば、挙手をお願いいたします。よろしいでしょうか。
それでは、時間のこともございますので、後ほど総合討論のところで、伊藤先生にまたいろいろ御質問いただければと思います。
それでは続きまして、京都大学の奥野先生のほうから、アプリケーション、今回は生命科学、医学、そういった立場から、創薬も含めて、どういうふうな次世代計算基盤への期待があるかということでお話をいただきたいと思います。奥野先生、よろしくお願い申し上げます。
【奥野オブザーバ】 よろしくお願いします。京都大学の奥野でございます。本日はこのような機会をいただきましてありがとうございます。
私のほうからは、あくまでも生命科学、創薬、医療のユーザの視点から、我々の分野にとってこういう計算が将来できたらうれしいというような、そういう観点でお話をさせていただきたいと思います。ですので、そんなことを言うけれども、こんなことできるわけないだろう、むちゃを言うなというふうに思われるかもしれませんけど、あくまで期待というような形で捉えていただけましたら幸いでございます。ちなみに私自身は、ポスト「京」、あと「富岳」の創薬計算の代表をさせていただいておりまして、今回新型コロナの創薬応用のプロジェクトの担当もさせていただいております。よろしくお願いいたします。
まず次世代を考える上で、我々にとって「京」から「富岳」に移ったところでどういう実感を感じたかということを少し御説明させていただきたいと思います。私どもの分野では分子動力学計算をベースで、「京」から「富岳」に向かって取り組んでまいりました。我々のところのターゲットアプリというのは、ここに示していますけれども、GENESISという分子動力学計算アプリをベースにしています。ちなみに、これは「京」から「富岳」になって125倍を達成しているものになりまして、トータル演算性能ですけれども125倍を達成しまして、劇的なインプルーブをしたというような状況でございます。
我々にとって、「京」から「富岳」に変わったときに何を目指してやってきたかといいますと、1つは、単一のタンパクで、ミリ秒スケールの長時間シミュレーションを実現したいということを目標にしてまいりました。さらにもう一つ重要なことといたしましては、今ですとウイルスですけれども、ウイルス丸ごと、あるいは細胞の中の多くのタンパク質というようなものの巨大な分子系を見たいというところで、ほかの応用分野と同じように、サイズのアップと、あとは時間の高速化というところの2つをポイントでやってまいりました。
その中で、今回「京」から「富岳」で100倍を目指したという1つの大きな理由といたしましては、我々生命科学にとっては、例えば酵素反応などのタンパクの生体反応というのが、ミリ秒スケールというのが1つ大きな壁になっていました。ですのでミリ秒を越えると、多くの生体の反応、分子レベルの反応というのをかなり正確に見ることができるということがありました。これが今回、「富岳」を通じてミリ秒の壁を破ることができたということが大きな1つのポイントになっています。
一方で、分子動力学計算の専用マシンというのが米国にあります。これはAntonという、MD専用機がございます。Antonはどれぐらいの性能を持って、どういうコンセプトで開発されてきたかといいますと、このAntonというのは、1つのタンパクレベルのものを非常に超高速に計算するということを目指しており、いわゆる時間の高速化の面を非常に考えています。その分、大規模スケールの計算というのは犠牲にしているというか、そちらの方向には今のところ進んでいません。このAntonは、1、2、今3まで出していますが、恐らくAntonの計画というのは、この上側に行くよりも、むしろやはりこの長時間側に進んでいくだろうというふうに我々は想定をしているところでございまして、今回重視しているのは、やはり大規模のシミュレーションもできるマシンであるというような、そういうところを我々の強みとしてやってまいりました。
一方で、医薬品開発において、この長時間のMD、いわゆるMD専用機を追求することがどこまで本当に重要なのかということを少しお話しさせていただきたいと思います。そのときに一例といたしまして挙げさせていただくのが、今回私どもが行いました「富岳」を用いた新型コロナウイルスの治療薬の探索の例を少しお話しさせていただきます。ここでは何を行ったかといいますと、「富岳」を用いまして分子動力学計算を行いました。その中で、現在利用されている2,100ほどの既存の医薬品の中からコロナの増殖を抑えるような治療薬を探すということを行いました。ここで重要なことというのは、医薬品の開発にとっては、膨大なケース数、化合物数を計算できなければ、やはりお話にならないということです。これは医薬品の開発に限らずに、生命科学というのは発見を最重視しますので、やはり発見をするためには多くのケースを施行できるようなマシンである必要があるということがございます。
今回我々は「富岳」を用いまして、実際に治療薬の探索、2,000種類の探索をすることに成功しました。ちなみに、見つかったものの最有力にしていたものは、現在米国で治験が実際に走っているところで、まさに「富岳」が見つけてきたものがもう現場のほうでも進んでいるというところで、これは創薬計算を長年やってきた私からすると、かなりの飛躍であると、考えられない飛躍であると実感をしております。
ちなみに、今回の計算はどういう計算を行ったかといいますと、先ほども言いましたけれども、トータルでミリ秒スケールというのが「富岳」が破った壁であると言いましたけれども、今回2,000種の化合物を評価するために、そうなると1回の計算を1マイクロ秒にして、掛ける2,000種類の化合物をやったということになります。これを計算しますと1日強ぐらいでMD計算が完了したということで、いずれにしましても数千規模の分子動力学計算、MDをできたのは世界初の成果であるということになります。だけれども、実際はこれでもまだ満足はできない状況で、本来信頼できる計算をするためには、やはりそのミリ秒スケールの計算がしたいと。トータルでミリ秒しかできない状況ですので、今回は1マイクロ秒ですけれども、本来なら1ミリ秒掛ける2,000をやりたかったということになります。
そう考えると、ポスト「富岳」で、例えばさらに今の「富岳」より100倍性能になってくれれば、10日程度で1ミリ秒掛ける2,000種類が実現できるようになってくるということで、今回「京」から「富岳」に行くときに100倍にするだけでも相当苦労したのですが、さらに100倍と、めちゃくちゃなことを言わんといてくれというふうに思われるかもしれませんが、あくまでアプリケーション側からの要望としては、こういうようなことが100倍になると見えてきます。
また、今コロナでさらに問題になっているのは、変異の問題があると思います。変異というのは、同じタンパクでも1つのタンパクを明らかにしたらいいわけではなく、どんどんいろいろなその変異体が出てくるということになります。実はこれはウイルスではなく、がんの領域ですけれども、がんでも抗がん剤を打っていると変異が出てきて薬が効かなくなるというのが非常に問題になっていますけれども、既に我々は、「京」コンピュータを用いてゲノムの変異というのをコンピュータ上に再現してやって、薬剤の反応性を高精度に予測するということが「京」を用いて成功しているという実績を持っています。
そのときの計算というのは、先ほどの計算とはちょっと違いまして、これは薬剤がどれぐらい安定に結合しているかというところで、タンパクと薬剤の結合自由エネルギーを見積もる、正確に計算するというような計算を行っています。「京」のときは数十種類の変異体を計算するのに1か月程度の計算が必要でした。「富岳」で同じような計算をすることを想定したら2日程度でできると、ですので数十種類の計算をするのに、「京」だと1か月だったのが、「富岳」では2日でできるというようなところです。この1か月、じゃあ1か月待てばいいではないかという話ですけれども、実はがんですと、1か月で患者さんはどんどん亡くなっていかれる可能性もある、パンデミックにおいても1か月も待てないということもありますので、やはりその1か月が2日程度になるというのは相当な意味があります。
ですので、現在でも、「富岳」でもかなりの威力を発揮するだろうと私は思っていますけれども、例えばポスト「富岳」で、これがさらに100倍性能になったとするのならどういうことができるかといいますと、数十種類ではなくて、さらに数千種類、あるいは万のオーダーの変異の計算ができることになりますので、将来こういう変異が出てくるかもしれないという将来の可能性、出てくる可能性の変異を見越した強力な医薬品とかワクチンの開発も、100倍性能になればできるところというのが見えてくるかもしれないと考えています。
さらに、これはあくまで応用側の都合ですけれども、産業利用あるいは臨床利用にとって最も重要なことは利用料金です。例えば「京」の有償利用のときは、タンパクと薬剤の1つのペアを計算するのに30万ぐらいかかっていました。これが「富岳」で、同じ量で換算すると、20分の1になります。1.5万円ぐらいで1つのペアが計算できる。つまり、これはどういうことかといいますと、確かに厳密に計算はできるけれども、1つのペアに30万かけるんだったら、これはもう実験しますという答えになります。実験をしたほうが安いことになってしまう、なりかねないということになります。「富岳」で今回1.5万円ぐらいになると、これはかなりもう肉薄をするというか、むしろ計算を先にやってしまおうと思うような実験サイドの気持ちにもなってくると思います。さらにこれが「京」から「富岳」になったような形と同じような形で発展して、ポスト「富岳」になったときに、さらに20分の1になると、800円になると。1ペア800円になるというのは、これはもう極端な話、誰も実験をしなくなるくらいすごいことになると、まず計算をやってしまおうというふうに必ずなると思います。
こうした視点をまとめさせていただきますと、あくまで分子動力学計算に関する部分ですけれども、分子動力学計算で、あくまで私の要望としては、やはり100倍以上が10年後もまた欲しいなと思っています。その観点では、単なる速度だけを重視するわけではなく、やはり大規模な系というのも、細胞やウイルスなどのシミュレーションもできるようにはなっていきたい。なおかつミリ秒スケールで数千種類の化合物、また数百円で1つのペアの計算ができるようになれば、もう実験を超えるようなものになってくると。そう考えると、やはり速さだけを追求するMD専用機よりも、巨大な分子系あるいは大規模なサンプル数を一気にできる、低コストを図るというふうな、そういう全てを追求していくということもやはり考えてほしいというふうに思っています。一方で、やはりMD、分子動力学計算で考えますと、今回の「富岳」のところの我々の唯一の心配というのは、GPUでないというところでございまして、世界ではGPUで進めていると、GPUの並列化というところが驚異的な部分もございますので、そこの部分は少し懸念点であるというところでございます。
以上は分子動力学計算という視点でお話をしましたが、実は生命科学、創薬、医療にとって、これは私自身の私見ですけれども、高性能の分子動力学計算単体ということを追求し続けても、生命科学、創薬、医療にとっては、必ずしも良いということではなく、やはりここに示しましたような統合的なフレームというのは次世代では考える必要があるだろうと。まさに今、データサイエンスと言われているものが非常に重要視されてきておりまして、我々としては、シミュレーションだけではなく、AI的なアプローチとシミュレーションを組み合わせていくということを現実的に考えていく、なおかつ適切にビッグデータ、実験データを入れていくというふうな、やはりこの3つのスキームの統合化をするようなフレームということをかなり意識して次世代を考えていくと、計算機の高度化という観点よりも、生命科学そのものの高度化というものがまさにこのフレームで実現されるのではないかと思っています。
例えば、具体的な例を少しお示しいたしますと、今我々の業界で1つ大きな話題になっているのが、グーグルの子会社DeepMindが開発したタンパク質の構造を予測するAI、AlphaFoldというのがあります。これが今、AlphaFold2になりまして、驚異的な精度になって、つい最近話題になりましたけれども、このツールというのは何を行っているかといいますと、アミノ酸の配列を入力いたしまして、ディープラーニングを行ったあと、そのディープラーニングの結果を入力にした分子シミュレーションを行ってタンパクの立体構造を出してくるというふうにして、配列から立体構造を予測するというものになります。このタンパクの立体構造を予測するというのは、我々の分野にとっては、X線結晶解析あるいはクライオ電顕、SPring-8とかSACLAを用いたりするようなところで、非常に実験コストもかかりますし、非常に重要な実験の部分になっていますけれども、それを計算でやってしまうというようなところは悲願でもありました。
ここで、これまでのアプローチというのは、超高速のMD、分子動力学計算ができればタンパクの構造予測ができるだろうというところで、やはりそのシミュレーションを主体にしてずっと進んできたというのがあります。ところがDeepMindがAIを組み合わせることによって、いとも簡単にこれまでのやり方を超えてしまったというところで、やはりここでAIの重要性というのが見えてきたということになります。
ただし、ここで我々が次に考えていることは、彼らはあくまでディープラーニングをして、そこから出てきた出力を分子シミュレーションに持っていくというところで、あくまでこれはAIと分子シミュレーションを独立して計算をしてつなげているということをしています。そうではなく次世代では、例えば、もうこれを1つのチップ上で行って、バックプロパゲーションそのものをエンド・ツー・エンドで後ろから、分子シミュレーションの結果から元に戻っていって、分子シミュレーションのパラメータも最適化していくというふうな、そういうことを考えていくのが次世代では非常に重要になってくるのではないかと思います。つまり、AIとシミュレーションというのが統合実装できるようなことというのが非常に重要だろうと考えています。ですので、ポスト「富岳」の時代はシミュレーションとAIの統合実装がもう常識になっているような、そういうことを考える必要があるのではないかと思っています。
ここでちょっと余談ですけれども、実は生体系にとっては、かなり準安定状態というのが多く存在します。その準安定状態というのも非常に重要な起点になっていますので、量子コンピュータで最適解を得るだけではやはり解決できない問題というのが、生命科学では難しい問題があるというところは一言断っておきます。
さらに、高性能MDだけでは十分でないというところで、これは、あくまで生命科学というのは原子、分子を出発点にして、細胞、組織、臓器、個体レベルにずっと進んでいきます。そういう中で、ここの赤字に示していますような様々なアプリケーションというのを実際は使っていくというのが重要になります。ですので、次世代というのは複数のアプリケーションを使いこなして組み合わせることというのが非常に重要であろうと考えています。
例えば、これは実際に私自身が、ポスト「京」あるいは「富岳」のときに審査委員会とかで、審査委員の方あるいは製薬会社の方から言われることがあるのですが、分子でそういうことをやっているけれども、副作用とかはどうなるんですかと言われるんですね。医薬品の副作用というのは、むしろ臓器とか体内のシミュレーションをやらないと分からない。ですので、その分子動力学計算だけを追求していても、副作用の予測は完全にはできないということになります。ところが、そういう質問をされるんですけれども、「富岳」で、ポスト「京」等で使うのが認められていたのは、我々としては分子動力学計算をしなさいということなので、それ以外のシミュレーションは当時、「京」とか「富岳」では申請で認められていなかったというようなところで、それを追及されても仕組み上こういう別のアプリケーションができないのですということがあって、そういうこともやはり問題があったと思います。ですので、生命科学にとっては1つのアプリに特化するのではなく、やはりトータル的に考える必要があると思っています。
そういうことを考えたときに、これはあくまでフラッグシップはこうあるべきだというところよりも、生命科学の都合ですけれども、やはり多くのアプリを組み合わせる必要があります。そういうことを考えたときに、まず複数のアプリを使っていく、個別に使う場合を考えても、全く使い勝手の違う専用機というのが乱立していて、この計算はこのスパコン、この計算はこのスパコンというような形で、それぞれの、異種の環境が用意されたとした場合、ユーザ側としてはやはり非常に使い勝手が悪いと、ユーザにとっては同一の使用感で使えるような、ユーザファーストなマシンであってほしいというふうな、都合のいいような意見をさせていただきたいと思います。さらに、それぞれのアプリというのが独立開発、独立利用するだけではなくて、アプリケーションが無駄なく統合化できる、それぞれが同じフレームで開発していたら、実はそこで統合化されているというふうな、そういう夢のような統合化環境というものもマシンに具備しておいてほしいなと思ったりもします。また、その統合化ができる、そういうことが使いこなせるような次世代のIT人材の育成というのも非常に重要だろうと思っています。「富岳」ではコデザインというのがキーワードになっていましたけれども、ポスト「富岳」ではアプリとマシンの統合化というのをパラレルで行っていくような、統合化というようなものを1つのキーワードにされてもいいのではないかと思ったりもしています。
ですので、ほぼこれで終わりですけれども、ポスト「富岳」に我々生命科学、創薬、医療の観点から望むところは、実際、現在コロナでもかなり「富岳」が活躍しているというのも事実ですし、私の実感としても、「富岳」であればかなり、「京」と違って、医薬品開発あるいは医療に資するところに来ていると思っています。ですので、スーパーコンピュータが命を守る時代、そういうキーワードが、ポスト「富岳」には必ずなってほしいと思っていますし、そういうところを目指せたらと思っています。
またさらに、先ほど伊藤先生もお話をしていただきましたけれども、サイエンスそのものをつくる、新しいサイエンスをつくるようなマシンであってほしいと。御案内のように、第1、第2、第3、第4の科学というもので、今データサイエンスが第4の科学と言われていますが、私自身はこの4つを統合化するというのが第5の科学になるだろうと思っています。これが生命科学にとって新しい発見につながっていくと、つまりスーパーコンピュータを使って統合化ができていれば新しい発見につながるというふうな、生命科学の新しい発見に資するのだと、それがイコール、ノーベル賞につながるというふうな、そういう新しいサイエンスをつくるようなスーパーコンピュータになってくれたらいいのではないかと思っております。
以上、時間が迫っておりますので、まとめさせていただきますと、最後のページにまとめたようなこういうような状況でございまして、先ほどの話の中で抜けているところといたしましては、ハードとソフトの開発に注目されがちですけれども、ユーザにとっては実際に運用する段階でサポート体制が充実されているということが非常に重要ですので、サポートがしづらいようなスパコンであると、これは何をやっているか分からないと、一部の人しか使えないようなスーパーコンピュータにやはりなってしまいますので、サポートのことも考えてスパコンの仕様というのはやはり考えないといけないだろうと思っています。さらに、情報分野で非常に人材が足りないと言われていますし、それはスパコンを使いこなす計算人材も圧倒的に少ないと。そもそも「富岳」からポスト「富岳」に向かっていく上では、計算・情報人材の育成とポストの増員というのをハード、アプリに併せて、やはり人の強化というのは本質的に重要であると思っております。
以上でございます。ありがとうございました。
【安浦主査】 奥野先生、どうもありがとうございました。本当に創薬の分野で大きな変化が起こり始めている臨界点にちょうど「富岳」が来ているという、その辺りの話、そして本当にこれが医学の中で新しい発見につながっていくには、もう一段、1桁から2桁上げないといけないというのが非常によく分かるお話をいただきました。
何かここで奥野先生にお聞きになりたいことがあればお伺いしたいと思います。
喜連川先生、どうぞ。
【喜連川委員】 非常にエキサイティングなお話、奥野先生、どうもありがとうございました。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございます。
【喜連川委員】 ちょっとお伺いしたいところは、最後のほうでおっしゃられました、例えば使い勝手をよくしてほしいとかアプリを効果的に統合してほしいとか、何かそういう御期待をいっぱいおっしゃっていただいて、そのとおりだと思うんです。ただ、コンピュータ屋さんの、ACM50周年、チューリング賞50周年のときに、多くのアーキテクチャー屋さん方が言ったのは、これからはもう専用化ですと、次の1ディケードか2ディケードを乗り越えるのはもうそれしかないというのが大体の意見。したがって、下はヘテロです。ヘテロなものをどう融合するかというときに、奥野先生にお考えいただくことは、こんな大きなマシンをつくってほしいということではなくて、億というお金があったときに、ハードウエアになんぼ出すのか、そしてその周辺のソフトウエアに、我々は性能は落ちてもいいからこれだけお金を投じるという、何かそういうメッセージ感をコミュニティとして意思決定せざるを得ない時代になってきてしまっているのではないかというのが私の印象ですけど、ちょっとつらいとは思うんですけどね、その辺は何かぜひ、御意見があると、おっしゃっていただけるとありがたいなと思います。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございます。本当に身勝手なあれなんですけれども、例えば今回「富岳」でコロナの治療薬探索をした実感からいたしまして、確かに「富岳」で計算をして、計算結果が出ました。実は「富岳」での計算というのは10日程度で終わっているのですけれども、そこの後処理に非常に時間がかかりました。その中で、例えば非常に初歩的なことですけれども、今回のコロナの事例ですと、あくまで試運転の状態で、本番計算を我々させていただきましたので、調整をしながらというところで「富岳」が動く期間というのも限られていると。そこで、「富岳」で計算が終わったら、まず私ども京都大学のサーバーのほうにデータ転送をすると。データ転送して京大側でまたその後処理をするというような、そういうことを行っていました。そうすると、データ転送にまず時間がかかりますと、それでデータ転送した後に京大側のサーバーのアプリケーションの開発をまたしないといけない、また時間かかりますというので、結局トータル数か月かかっちゃうみたいなことが起こっています。
でも、これはもう新しいことをやる時の常なんだろうと思いますけれども、基本的に、総合的に勝つためには、やはりそこの辺り、データ転送も含め、本当の意味で実感するところで、そういうところも全部ケアされないと世界には勝っていけないのではないかなというふうに、これはあくまでアプリケーション側の要望でございますけれども、そういう意味での統合化というのが非常に重要であるというふうに主張させていただきました。
【喜連川委員】 ありがとうございました。NIIももっと早く送れるようにしたいと思います。
【奥野オブザーバ】 いや、そういうわけではなく。失礼しました。
【安浦主査】 ありがとうございました。
ほかにもあるかもしれませんが、時間の関係がございますので、後でまた総合討論のところで御質問等いただきたいと思います。奥野先生、どうもありがとうございました。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございました。
【安浦主査】 今、奥野先生のお話にもありましたように、データ転送、まさに通信の部分がやはり切っても切り離せない話になってまいりまして、ここの部分、サービスはNIIがやっていただいておりますけれども、その下に実際のネットワークを張って維持する通信事業者として、日本の場合はNTT様がしっかりやっていただいているわけでございます。今回そういう視点から、NTTの研究企画部門長の川添様に、5年後から10年後のネットワークというのはどれくらいのものになるのか、どういうものをNTTとしてはコミットしていただけるのかというようなお話をしていただきたいということで、私がお願いした次第でございます。
川添様、よろしくお願いいたします。
【川添オブザーバ】 喜連川先生、あるいは安浦先生をはじめ、多くの先生方、本当に日頃から大変お世話になっています。今日も本当にこんな貴重な機会をいただきましてありがとうございます。
私の話は、ここで議論されているポスト「富岳」とかフラッグシップのコンピュータというよりは、「富岳」の裾野に広がるICTのインフラのことについて今日は御紹介したいと思います。一昨年の5月にNTTとして、新しくIOWN構想というものを発表いたしました。その内容について御説明したいと思います。
次のページをお願いします。今、ネットワークの状況は、今回のコロナがさらにそれを加速しているんですけれども、この左上の図にあるとおり異常な勢いでトラヒックが伸びていまして、もうこのトラヒックに追従するように、NTTグループ、通信キャリアはインフラを整備しているんですけれども、どこかでもしかしたら破綻してしまうのではないかというような勢いで伸び続けています。さらにそれに伴って、右上に行きますけれども、データの量もこのような形で爆発的に伸びていて、これが原因で、左下、IT機器も消費電力の伸びもこのような勢いです。現在本当に深刻な状況になっていまして、電力の卸市場は大体今20倍ぐらいの価格になっていて、いろいろなところが本当の意味で破綻してしまう可能性もあって、非常に深刻な状況です。
実際今、実は弊社のほうでも、いろいろなお客様が新しいクラウドサービス、必要なデータセンター、これを用意しようとしても、電力が足りなくてそのお仕事ができないような、そういう事態が起きています。決して自慢できる話ではないですけど、NTT、実は今、日本の総電力の約1%を使っている状況です。これがさらに今と同じ勢いで伸びてしまうということは本当に問題であり、これを解決していかないとICTの発展はないだろうと思っているところです。かつ、この右下、これがいわゆるムーアの法則の限界にいよいよ近づいているのではないかなと感じているところです。
次のページをお願いします。それでNTTとしては、持続可能な技術革新ということで、Innovative Optical and Wireless Network、「アイオン」というふうに発音しますけれども、この構想を一昨年の5月に発表いたしました。
次のページをお願いします。ポイントは、光の技術をより一層使っていこうということです。光の技術、これは実はNTTは1960年代ぐらいから、NTTの研究所が発足した当時ぐらいから、かなり早い時期から研究開発を進めてきましたが、主には、この左側にあります光の技術を、光ファイバーに代表されるように、情報の伝送の部分に使ってきましたが、いよいよ情報の処理のレイヤーにもこの光を使っていかないと、先ほど御説明した課題を解決できないのではないかなというふうに考えているところです。これについてはもう長年、研究開発、いろいろな多くの研究機関でも研究を進めてきたと思うのですが、なかなか到達できなかった領域だと思っております。
次のページをお願いします。光と電気の話ですけれども、光から電気、電気から光に変換する装置、これは当時は、左側にありますけれども、このような架に入るような、こういう装置で光と電気の変換ポイントというのをつくって、主にはこういうものが、いわゆるネットワークの中継系の中に入れて、光ファイバーでの伝送からいろいろなサーバーでの電気処理に引き渡すということをしていました。これがここにきて大きく技術進展しまして、右側にありますけれども、コインのサイズ、これよりも小さいぐらいのレベルのデバイスで光から電気に変換できる、さらに長距離伝送あるいは大容量伝送ができるように、コヒーレント・オプティカル・サブアセンブリーと呼んでいますけれども、こういう技術ができてきたところでございます。
次のページをお願いします。これはCOSAといいますけれども、このCOSAの技術ができたので、次の段階、ステップアップとして、ずっと上に上がっていくんですけれども、光と電気の変換ポイントを、ネットワークの伝送の部分から、いわゆる基盤の中にまで入れ込んで、チップの近くまで光を持ってくる、これを光・電子コパッケージ実装と呼んでいますけれども、これをまずはつくり上げていこうとしています。さらにその先にはCMOSのチップの間も光伝送していく、そして究極は、この右上ですけれども、プロセッサーの中に光の処理のレイヤーと電気の処理のレイヤーを入れ込んだ光電融合型プロセッサーの実現を目指したいということです。皆さん御承知のとおり、このプロセッサーの中で一番電気を使っているのは、いわゆる電気の入出力をしているI/Oの部分ですから、ここの部分だけでもまずは光に置き換えることができたら、その上の、いわゆる論理処理をする電気のレイヤーのより一層の集積、さらに高速、クロックでの動作ができるのではないかというふうに考えているところでございます。
次、お願いします。これを目指しているんですけど、なかなかできなかった。これをやるためには、いわゆる光のトランジスタが必要であったんですけれども、これについて、実はNTTでやっとこさ、発明することに成功いたしました。大体1.6フェムトジュール・パー・ビットぐらいの電力でこれを動かすことができるのですが、これは『ネイチャーフォトニクス』に掲載されたところです。やはりこれを目指していた研究機関が多かったものですから、非常に大きな反響を呼びました。これができるとなると、いよいよ先ほど御紹介した光と電気を両方使った光電融合型のプロセッサーの実現に近づくのではないかということであります。これがIOWN構想の起源です。
次のページをお願いします。この光のトランジスタを2019年4月に発表してから、次に、この応用版として全光スイッチ、スイッチングも全て光でやってしまうというものを2019年11月に発表しました。これは、その次の年の1月の『ネイチャーフォトニクス』の表紙にもなりましたけれども、この論文が掲載され、また反響を呼んだところです。そして昨年の3月には光の論理ゲート、この論理ゲートの特徴は、いわゆるand、norとか、論理計算が全部光だけでできるということと、光なので波長ごとに、同時に1つの物理的な回路の中で複数の論理計算ができてしまう、そういう性能も持っている。さらに、これを光で全てやるためにはレーザも必要なので、超高速な、安定的な直接変調レーザの発明にも成功しているところでございます。
次のページをお願いします。こういう技術を使って、オールフォトニクス・ネットワークと呼んでいますけれども、エンド・エンドで光を使っていく、単なる伝送の部分だけではなくて情報の処理までやっていくということによって、消費電力でいうと約100分の1、伝送容量は125倍、これは光、光、光というふうに行っていますから、今はルーターを介すと光、電気、光となりますけれども、これを全部光でやってしまう。そして、何よりも大きな性能としては遅延時間です。どうしても電気に置き換えるためにデジタルサンプリングして、エンコード、デコードして、それでIPパケットにして伝送するということになっていますけれども、これも全部、一気通貫で光でやることによって、200分の1ぐらいの伝送遅延にできないか。今回の5Gも無線区間、大変小さな遅延時間になりましたけど、地上ネットワークを介して、IPネットワークを介して、そしてエンド・エンドで処理を、いろいろなサービスを提供するとなると、やはりそこの遅延時間は大きくなってしまうのですね。なので、無線区間に限らず有線の区間も含めて、さらに情報処理の中も含めて、より一層、遅延時間を減らすためには、今回御紹介したこのIOWNの技術を適用していくことがいいのではないかなと考えているところです。
次のページをお願いします。光で全てがつながってくると遅延時間が短くなるという話をしましたが、いろいろなサービスがギャランティードできると思っています。今は、この間というのはインターネットを介していろんなものがつながって、IoTというのもまさにインターネット・オブ・シングスで、つながっているんですけれども、実は必ずしもインターネットでない世界が多いんですよね。例えば自動運転の監視カメラと、それを処理するサーバー間というのは別に、インターネットのよさで、どこでもつながって、安くて便利だというよりは、安心・安全である、いろんなことがギャランティードされるということが言えるでしょうし、先ほど御紹介あったような医療の世界でいっても、遠隔医療で、例えば東京にいる外科医のドクターが地方の患者さんを手術するといったときに、間がインターネットというよりは、エンド・エンドでギャランティードされたこの光のパスでやってしまったほうが、遅延時間も少ないし、安全性も高いのではないかなと思っています。こういうことも、このIOWNの技術でできればなと思っているところです。
次のページをお願いします。そしてネットワークの構成も、こういうことを考えてくると大きく変わってくると思っていまして、今はどちらかというと、NTTの局舎から一般の家庭まで、スター型にこういう配線をしているんですけれども、今後は、右側にあるように、いわゆるループ、多段のループで構成して、いろいろなところから光がつながって、即応性とか信頼性を高めることができるようになるのかなというふうに思っています。
次のページをお願いします。これをやるためにまたいろいろな技術が必要だったんですけれども、これも最近めどがつきまして、光をこういう形でつなぎ合わせて、ファイバーです。光ファイバーをつなぎ合わせて、そのときに、つなぐときに今は一旦、瞬断というか、切断してつなぎ直すみたいなことをやっているんですけど、それを無停止で光の分岐をしていく、こういう技術も今出来上がってきたところでございます。
次のページをお願いします。こう考えてくると、ネットワークが今、もう全てインターネットありきみたいな、左側のIPセントリックという形で、情報の処理もそうですし、こういういろいろなサービスがIPネットワーク前提でやっているんですけれども、光のこういうネットワークを使い、光の処理をしていくとなると、IPセントリックというよりはデータセントリックの世界に向かうのではないかということで、この右側の世界を今、想定しています。この世界においては、確かにTCP/IPというプロトコルはこれまで本当に便利で、安定性があってよかったんですけれども、場合によってはそれぞれのサービスごとに、例えばコンピュータとコンピュータの間をつなぐプロトコルといった場合にはTCP/IPである必要はないかもしれないし、そういうものが柔軟につながるようなネットワークというものを今目指そうとしているところでございます。
次のページをお願いします。次は情報処理の話でいくと、今は、我々のお客様を含めて、いろいろな機能を拡充していくために、コンピュータのパワーを高めるために、左側にありますように5つのサーバーをつなげて、そしてそれを拡充していくということをしています。この構成だと、どうしても1つのサーバーの中で処理を完結させて、その完結した結果を次のサーバーに引き渡してという形になっているんですけれども、今日御紹介したIOWNの光電融合型デバイスというものができてくると、この世界も変わるというふうに思っています。すなわち右側の世界ですけれども、もはやこういうサーバーという箱は必要なくなって、必要なCPUあるいはGPU、あるいはメモリなんかが直接光でつながっていく、この光のデータ伝送路でつながっていくというふうになると、確かに物理的な遅延時間は最後まで残りますけれども、それの許せる範囲であれば柔軟にこういうコンピュータをつくることができて、こういうものが結ばれていく。先ほど冒頭に御紹介したように、今本当にあるロケーションの電力が足りなくてこういう処理ができないということであれば、物理的にそれを分散して、CPUも分散してメモリも分散して、でもこれはあたかも1つの大きなコンピュータであるようにつくる。まさにここに挙げているようなディスアグリゲーテッドコンピューティングと呼んでいますけれども、これを実現していきたいなと考えているところです。
次のページをお願いします。実際これをやるために、先ほどもちょっと御紹介しましたけど、光と電気の変換ということで、これに適した変換モジュールが大体このぐらいの大きさなんですね。今、実現できたところです。これを、右側にあるようにいろいろCPUあるいはメモリの中に実装して、今まではどちらかというと、そのガに、こういう情報を渡すところで光から電気に変換し、あとはPCIバスみたいなもので電気で処理をしていましたが、全てこのチップの中、近くまでこの光が来るということになると、まさに今日御紹介したディスアグリゲーテッドコンピューティングというものができるだろうと。これが実は我々、別の言い方で言うと、スーパーホワイトボックスという言い方をしているんですけれども、すなわちハードウエアとしてのコンピュータがこういう形で物すごいポテンシャルを持つようになると、まさに先ほど喜連川先生もありましたが、ハードウエアとソフトウエアの今までの境がより一層、万能なハードウエアが出来上がってくると、それがホワイトボックスという形になると、ソフトウエアでいろいろなものをアドオンできていくようになる。
インターネットの世界がどういう形で成り立っていたかというと、結局、ネットワークを構成するルーター専用機などの高価な装置をみんなで使って、そこでボリュームディスカウントして経済合理性を出したと。それに対して、このIOWNの世界では、光電融合型技術を使って、スーパーホワイトボックスを使って、ハードウエアとしては汎用化をして、あとは必要なファンクションをソフトウエアでつくっていく。例えば、今度の6G、ビヨンド5Gみたいな時代においては、今いろいろ日本勢がちょっと不利になっている基地局なんかの装置構成を見ると、今はもう専用のLSIを使って、専用のハードウエアで、それをつくった、海外勢にもう制されているんですけれども、このホワイトボックスをつくって、その中に5G、6Gで必要なファンクションをソフトウエアとして定義してつくっていくという構成、あるいは我々NTTのネットワークの中で言えば、先ほど言いましたルーター専用機なんかはもはや要らなくて、全てこのコンピュータによって、汎用的なホワイトボックスでルーター機能、スイッチ機能、それをソフトウエアとして定義してつくっていくという形になれば、最も経済合理性もできるし、さらに言えば固定とか移動とか、今はちょっと残念ながら分かれてしまっていますけれども、こういうネットワークのファンクションも1つのボックスの中でできるのではないかということを今考えているところです。
次のページをお願いします。こういうことをやって、ここからはもう先生方の専門領域で、私が話すのも今さらだと思うんですけれども、まさに先ほど奥野先生もありましたが、いわゆるデジタルツインという、いろいろなものを仮想空間でシミュレーションして未来予測をしていくという世界において、本当の現実世界においてはいろいろなものが、この図にありますように相関関係を持って、実はどういうものが影響し合っているかというのは、人間の理解を超えているところに実は本当の解があるかもしれないという、そういう世界も含めてコンピューティングできたらいいなと思っています。
次のページをお願いします。今、いわゆるディープラーニングあるいはシミュレーションを通じて、過去のデータを基に未来を考え、現在のアクションを決めるということを、こういうディープラーニング、深層学習、シミュレーションを通じてやっているのですが、ほとんどの場合、私の理解ではストレートフォワードであるんですが、先ほど奥野先生の御説明にもありましたけど、フィードバックがかかってこないといけないのではないかということで思っています。ただ、これをやると、これもやっぱりコンピュータとしては物すごい負荷がかかるというのもありますし、いろいろなものが相関関係を持っているということで、こういうことも今回のIOWNの技術を使って解決することができたらいいのではないかなと思っています。
あともう一つ、今のデジタルツインでよりよい未来を導き出す、ベストな未来を導き出すという計算をして、いろいろなことをやろうとしているんですけれども、実は今回のコロナでも本当に思ったんですけれども、ベストな未来がいいのか、場合によってはセカンダリーなぐらいがいいのかなというのはあるのかなと。よく私、未来を決めるだけではなくて、過去も変えたいと、そういうこともできるんではないかなということを今思っているんですけど、本当にそんなことできるんですかと言われるのですが、私たちも何か、これ失敗した、この判断間違ったと思っても、何日かたって、後からあれでよかったんだなと思い直すことがあると思うんですけど、これってなぜかというと、結局そういう未来を選んだのであって、その未来はもしかしたらベストな未来ではなくて、ベターな未来だったかもしれないけれども、結局、積分値として、例えばここにあるようなウエルビーイングを考えたときに、トータルとしてこれでよかったんだなという判断を人間はしていると思うんですが、こういう計算、要はこういう価値観というか、これをも導き出せるようなコンピューティングというのも今回のこの技術革新をもってなし得たいなと考えているところです。
次のページをお願いします。このIOWNですけれども、昨年の1月にIOWN Global Forumという形で、NTT、インテル、ソニーの3社で、設立メンバーという形で立ち上げまして、今35社が入ってきました。この中にはマイクロソフトとかエリクソン、デル、シエナ、主立ったICTのメーカーさん、あるいはトヨタ自動車さん、日本の企業、そして一般メンバーの中には、私もちょっとびっくりしましたけど、味の素さんとか矢崎総業さんとか、ICTと少し離れた領域の企業も次々と今増えて、入っているような状況でございまして、やっぱりこの新しい技術革新をもっていろいろゲームチェンジングを起こしていきたいという企業が参画して、入ってきています。
この活動、さらにどんどん発展していきたいと思っていて、今はメンバーシップとしてはここにあるようなものなんですけど、今後実は、増やそうということで、アカデミックな方々も入ってきやすいように、そういう枠をつくることをIOWN Global Forumの中でつい最近、決議したところでございます。実は私自身がこのIOWN Global Forumの初代会長をやらせていただいているところでございまして、ぜひとも皆様も御関心があれば、お問合せいただければいいなと思っています。
最後、もう1枚ありましたね。それで、今目指しているところですけど、大体2030年ぐらい、ちょうどこの時期というのは6Gの出てくるような時代だと思いますが、この頃には光電融合型の、こういう新しい技術革新をもって、新しいいろいろなサービスを各社から出してもらえるような、そういうことを目指しておりまして、その手前のところに、例えばIOWNの技術仕様を決めたり、あるいはユースケースを決めたりということで、今精力的に活動しております。
以上で私の説明を終わります。よろしくお願いします。
【安浦主査】 ありがとうございました。通信業界としてこういう方向、光に持っていって、計算の部分にまで光が入ってくるということで、どこからが通信で、どこからが計算か分からなくなるよというようなお話も含めて、未来の構想をお話しいただきました。我々、次世代計算基盤を考えていくこの部会におきましては、やはりこういう通信基盤がどうなるかということは常に見ながら話をしないといけないということで、川添様にお願いした次第でございます。
まずは川添様に直接何か御質問ございましたらお受けしますけど、何かございますか。
私のほうからちょっと川添様にお伺いしたいのですが、お話しいただいた中で2024年のディスアグリゲーテッドコンピューティングの、これはレファレンス方式のレベルの公開を目指しておられるということですが、ここのところで、先ほども少し触れられたように、より計算基盤のハードのほうは徹底的にユニフォーム化してしまって、あとはそれのコネクションとして、通信の負担が非常に見えにくくなるのであれば、思い切ってソフトで全ていろいろやっていけばいいという、そういう発想で進められているとお考えになっていると解釈してよろしいでしょうか。
【川添オブザーバ】 ありがとうございます。まさにそのとおりでございまして、どうしても今回の5G、先ほどもちょっと言いましたけど、例えば基地局をつくるといったときに、多額な投資をして、LSIを起こして、それで装置化してという、そういう人たちが勝つんだという世界も、実はもうそろそろ限界が来ていると思っていまして、実際それをやっている、例えばエリクソンは今回IOWN Global Forumに入りましたけど、彼らが一番心配しているのはそれなんですね。今までの彼らのそのアプローチだと、もしかしたら今回の6Gの時代においてはもう成り立たないかもしれないとなると、どういう技術に移っていくのかということを非常に気にしているのではないかなとも思っていまして、そうなればもう1回、ゲームチェンジングという言葉を使いましたけれども、確かに無線のレイヤーの処理をLSIを起こしてということをやってきた人たちが、それがたとえソフトウエアになったとしても競争力は持つというふうに思うのですが、そういうソフトウエアと、例えばシスコのルーターみたいなものだと思いますけど、シスコのルーターも何年かしたら実はソフトウエアになっちゃったということになれば、そういう形での新しいビジネスフォーメーションといいますか、ビジネスモデルもできると思っていまして、こういうことをぜひ、ある意味戦略として進めていきたいと思っているところです。ありがとうございます。
【安浦主査】 ありがとうございます。
伊藤公平先生から手が挙がっておりますけど。
【伊藤委員】 はい、お願いします。
すばらしい御発表ありがとうございました。私も物性なので、NTTさんなどの大活躍をずっと拝見していて、これはNTTがここまで構想としてつくられて、しかもこのGlobal Forumで世界的に進められているということを本当に頼もしく思います。先ほどおっしゃったように、大学はいろいろな研究をしていますので、ぜひ大学をこのIOWN Global Forumの中に入れていただき、特にデバイスなんかもいろいろな方法を持っていますので、そういう意味では大学のほうのマインドチェンジをさせる起爆剤にもしていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【川添オブザーバ】 先生ありがとうございます。本当によろしくお願いいたします。とてもこの話はNTTみたいな会社だけではできないと思っていまして、本当にいろいろな方々の知見とか、あるいは新しいアイデアをいただきながら進めていきたい。ただ、本当に気をつけなくちゃいけないと思っているのは、前回のインターネットのときは、ある意味、こういうものを、こういうインフラをつくればそれでオーケーみたいな感じで思っていたものですから、まさか今のGAFAみたいなものが出てきて、全て持っていかれちゃうみたいなことは思っていなかったので、より一層、その反省を踏まえて、想像力豊かに、こういう世界になったときにどういうことが起きるのかということも踏まえながら研究開発を進めていきたいと思っているところです。ぜひともお力を貸していただければありがたい限りです。よろしくお願いします。
【伊藤委員】 ありがとうございました。
【安浦主査】 ありがとうございました。
ここからは3人の、伊藤先生、奥野先生、川添様、どの方に対する御質問でも結構ですし、今のお話をお聞きになって、もう少しこういう視点というのはないだろうかというような、そういう御提案でも構いませんので、残りました30分弱、少し議論をさせていただきたいと思います。どなたからでも結構ですから、委員の先生方、遠慮なく挙手をしていただければと思います。
それでは、井上弘士先生、手が挙がったので、お願いします。
【井上委員】 九州大学の井上でございます。伊藤公平先生に質問させていただきたくて、手を挙げさせていただきました。
私、コンピュータアーキテクチャの研究をやっておりまして、我々も量子コンピュータはやはり今後の将来の重要な技術として捉えて研究させていただいているんですけれども、今、量子の分野のところで、いわゆる量子ゲートの中でも、誤り訂正をやるという方向と、NISQという方向と、あともう一つは、やはり産業化も進んでいる量子アニーラという3つの方向性があるんだなというふうに見えておりまして、これは今、量子の分野の中で、その3つの領域がどういう関係にあるのかというと、今後5年、10年たったときに、この3つの方向性が統合する方向に行くのか、もしくはちょっと違う方向に行くのか、ベクトルが変わってくるのか、その辺りはどのようにお考えでしょうか。
【伊藤委員】 これに関しては、私が発言した後に、ぜひほかの意見もいただきたいのですが、具体的には藤井さんの意見、私の発言に対するものではなくて、量子の今後については藤井さんの意見をいただきたいのですが、ゲート式というのは、基本的には万能量子コンピュータであって、その中の部分集合がアニーラであります。アニーリングというやり方に関しては、最適化問題が解けるということで、ある程度特化したものですが、その最適化問題というのは非常に重要な、例えば工場でどういう順番で物を組み合わせればいいのかとかいろんなことが入ってくるので、産業的にも非常に重要で、しかもその最適化の量子アルゴリズムをうまくシリコンのチップで解いてやると速くできるかもしれない、今のシリコンより速くできるんではないかということで、富士通、日立、東芝なども――東芝はちょっと違う方式ですけれども、つくっているということで、段階的には、よく言われることは、まずアニーラが応用に使われて、その後ゲート式が来るけれども、ゲート式はノイズがあるので、最終的にはノイズを乗り越えなければいけないので、2050年のムーンショットということでゲート式が完璧になりますようにということをやっています。
ただ、私、量子コンピュータを20年研究してきて、20年前に、いつ量子コンピュータができるとも思っていませんでしたし、実は本当にこんな量子コンピュータを使って計算できる日が来るとも、自分たちで狙っていたのですが、それが来たらびっくりしているほうでもあるわけですね。ですから5年、10年後というのはちょっと分からないというのが正直なところです。
今のでまずよろしいでしょうか、井上先生。
【井上委員】 はい。ありがとうございます。
【伊藤委員】 藤井さん、補足、また、もともとの私の方向性について、よろしくお願いします。
【藤井委員】 藤井です。ありがとうございます。基本的に伊藤先生のおっしゃるとおりだと私も思います。私自身も研究を始めたのは学部生の頃ですけれども、その頃、2006年ぐらいですね、その頃に今みたいな量子コンピュータが動いているというのは全然想定しておりませんでした。まだまだ量子コンピュータというのは動かないんだろうなという中、研究を楽しんでいたというようなタイプです。ですので、この次の10年どういうふうになるのかというのは全然予測できないかなと、私個人は思っています。
少なくとも、いわゆる量子アニーラ、もしくは半導体を使って組合せ最適化に特化したものというのは、かなりの規模の問題を解けるようなハードウエアというのが出てきているというのがポイントで、さらに、実際に量子デバイスを使った量子アニーラから、半導体を使ったもの、いろいろなラインナップがあるという点で、その組合せ最適化問題というのにフォーカスが当てられて、いろいろな問題の定式化であったりとか、そういったところが進んでいるというのが1つのポイントで、これをきっかけに組合せ最適化問題を考え直して解こうという1つのモチベーションになっているというのがポイントかなと思っています。
あと、NISQと、長期的な誤り訂正が必要になるような、100万量子ビット、1億量子ビット必要な大規模な量子コンピュータの関係についても、今現在NISQという形でいろいろな、化学計算に使いましょうとか機械学習に使いましょうという形で、量子コンピュータが得意であろう問題の切り出しというのが、実際に動いているNISQというマシンを使って行われています。そのNISQの段階で、実際に産業的に利益を生み出すようなアプリケーションが見つかるかどうかというのはまだ分かっていない、不確実性が高いという形で、今世界中の研究者や企業が取り組んでいるということですが、そこでいろいろ見つけた量子コンピュータが得意であろう問題であったりとか、それに対するアプローチですね、こういうふうにアプローチすべきであるという方法論というのは、長期的な、大きな誤り訂正量子コンピュータが出来上がったときにも、有力な量子コンピュータを使う方法として生き残るのかなと思っています。
ですので、今の段階、小規模なNISQのマシンというものを通してどういうふうに量子コンピュータを使っていくのか、どういう問題に対して量子コンピュータを適用するのかというところのノウハウをためていく時期なのかなと思っています。個人的には、NISQでいろいろ得られた知見というのがシームレスに発展して、大規模な量子コンピュータに長期的な視点でつながっていくということを期待しております。
【安浦主査】 藤井先生、どうもありがとうございました。井上先生、よろしいですか。
【井上委員】 ありがとうございます。もう一つだけ質問してよろしいですか。近い質問で。
今度はデバイスのほうで、量子コンピュータというと、やはり超伝導であったりシリコンドットであったり光だったりと、まだ固まっていないのかなと思っていまして、そうなったとき、先ほどありましたように、やはりソフトウエアレイヤーとの連携というのが重要になったときに、デバイスに対するソフトウエアスタックの依存性といいますか、そこをどううまく切れる、階層が切れるのかというのは結構1つのポイントなのかなという気がするんですけれども、その辺りに関してはいかがでしょうか。
【伊藤委員】 今、超伝導、それからイオントラップ、真空中に原子を浮かせ捕獲する方法、それから東大の古澤先生が取り組まれている光とか、ここら辺が今有力候補ですけれども、これも全て一長一短があって、実は全然違う方式がゲームチェンジャーが出てくる可能性も否定できないのですね。つまり、シリコンが突然、物すごいことで出てくるということもあるかもしれませんし、また超伝導の中でも、今は素子に磁場をかけなければいけないんですけど、磁場をかけないで済むようなデバイスができるというすごい発見を、私が領域総括しているさきがけの中で研究している日本の研究者もいます。
ですから、もう本当にまだ幼稚園児のような段階であるので、ここから突然違うものが入ってくると一気に進む可能性もあるので、そういう意味では、そっちのほうは科研費とかいろいろなことで、夢を持って科学者に研究してもらいたいと思っていて、ですから、どのデバイス、どの方式に限ってやるというのは、次世代のフラッグシップに関しては、まだ私は早いと思っております。ただ、次世代フラッグシップの方々が常に量子コンピュータの発展を目に入れるという意味では、その人たちをうまく、シミュレーターをつくるようなところでスパコンと、「富岳」の方々と量子コンピュータの人たちが交流を持つとか、そういう機構が必要かなというふうには思っているところです。
【安浦主査】 伊藤先生、どうもありがとうございました。
合田先生から手が挙がっておりますので、合田先生、どうぞ。
【合田委員】 NIIの合田でございます。奥野先生に質問させていただきたいことがあるんですけど、これの最後の喜連川先生からの質問の回答のところで、スパコンで幾ら速く計算が終わっても、それを送ったりポスト処理するのに時間がかかるという話があって、そういった話というのは、ほかの物理とか化学のシミュレーションをやっていらっしゃる方からよくお聞きしているところなんですね。
当然いろいろな分野の連携が必要なんですけど、私が思うに、スパコン屋さんとアプリケーション屋さんというのもかなり、特に「京」ができてからすごい密に連携し合うようになっていて、うまくいっていると思っていて、一方でネットワーク屋さんとアプリ屋さんの議論の場というのも結構あるというのは認識しているんですけど、最後のような話を聞くと、その3者がそろう場というのも実は必要な気がしている一方で、そういった機会というのが少ないというか、ほとんどないなというのを最近感じているんですけれども、そういった辺りについてアプリケーションの立場で御意見いただければと思うのですが、いかがでしょうか。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございます。我々アプリケーション側といたしましては、もうまさに先生おっしゃったように、やはり全体的に集まってそういう議論をどんどん深めていくというのが非常に重要だろうと思っています。例えば、実際に今回の「富岳」の件で起こった事例というか、「富岳」のほうから京大にデータ転送しているところで、ある時期から途端にデータ転送速度が、あり得ないぐらい遅くなったんですね。全然データが行かない、行かないとうちのスタッフが言って、いや、そんなわけないだろうといって、いろいろ言って、理研側にそういう状況があるとお話をさせていただいたときに、東大の先生もコロナのプロジェクトに入っておられて、東京大学ではそんなこと起こっていないとおっしゃられて、ということは、これは京大の問題だよねという話になったんです。
ですので、京大側のネットワーク関係の方に連絡をして、だけれども京大側もやはりすぐには対応していただけなかったということも実はありまして、それは京大側の問題だと思うんですけれども、窓口がどこにいるのかも分からないみたいな感じで、やはり我々ユーザ側からすると、何かそういうことが起こったときのトラブルシュートするときに、どこに誰がどういう状況というようなことがやはり実際現場では起こっていて、かなり緊急性が高くて時間の制約があるときに、急ぎでやりたいのに、そういうところの、どこに窓口があるのみたいなことを調べたりとか、そういうところ自身が、もう基本的にそういうことの積み重ねというのがやはり最後は勝負となってくるのではないかなと思いますので、やはり全体的にそれぞれのプレーヤーが本当にフラッグシップとして総合的に進めていくという体制もすごく重要だと思います。御指摘のとおりだと思います。
【合田委員】 御意見ありがとうございました。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございます。
【安浦主査】 よろしいでしょうか。
あと高橋先生から手が挙がっておりますので、高橋先生、よろしくお願いします。
【高橋委員】 ありがとうございます。高橋でございます。
川添様に御質問というか、お話をさらに聞かせていただければと思いましたけれども、2030年にもう具体化の話が出るということですので、大変すばらしい技術が実際に使われるということになる、私はわくわくするような気持ちで聞かせていただきました。恐らくもう既に検討を始められていると思いますけれども、例えば具体的な、どんな問題を解ければ、どんなイノベーションだったりブレークスルーが起きるのかということを、ぜひ。先ほど先生もお話がありましたが、大学を含めた、またその裾野を学術方面にも広げていただいて、ぜひブレークスルーが大きくジャンプアップできるような、そういうようなことを期待したいと思いました。
以上でございます。印象も含めて、そういうようなことで具体的な問題をどんなふうに考えていらっしゃるかというのを少しお聞きできればと思います。ありがとうございます。
【安浦主査】 川添様、お願いします。
【川添オブザーバ】 高橋様、ありがとうございます。本当に御指摘のところは非常に大きな問題ですけれども、例えばディスアグリゲーテッドコンピューティングといっても、その中でデータ転送のためのプロトコルをどうするのかとか、あるいはそういうCPU、GPU、メモリがこういうふうに分散されたときに、それぞれ物理的な遅延時間を加味した上で、OS層でそれを意識してハンドリングするような、新しいそういうOSですよね、これをどうつくればいいのか。研究課題はたくさんあって、それぞれ、例えばIOWN Global Forumの中にはマイクロソフトとかが入っていますけれども、そういうところが、何というんでしょうね、私の会長としての願いは、1社でそういう何か、ここに入っているからそこで決められてしまうのではなくて、本当にあるべき姿というか、一番最も適切な形というのをまさに研究領域として究めて、それでみんなが納得してそれを使っていくような、まさにそういうふうに向かえばいいなと思っております。
なので、本当にいろいろな方々の助けを借りたいと思っているところですけれども、今お伝えしたのは1つの事例ですけれども、まだまだたくさんあると思っています。先生の研究領域である、例えば海中なども大きなターゲットであって、そういう中でディスアグリゲーテッドコンピューティングでやるとか、あるいはもう宇宙もターゲットに入れていますけれども、宇宙にこういうIOWNの基盤を使って、宇宙空間で全て完結してやればエネルギーの問題も解決できるので、そういうような新しい構想とか、いろいろなことを考えてはいるのですけど、いろいろやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。ありがとうございます。
【安浦主査】 どうもありがとうございました。
喜連川先生、お願いします。
【喜連川委員】 川添さん、どうもありがとうございました。この間、見学に行かせていただいたときは別の方が御説明いただいて、今日とてもよく分かりましたので、感動いたしました。
それで質問は、シンプルに申し上げますと、電力というのは確かに非常に大きな問題であるというのはそのとおりだと思うのですけれど、やっぱりここのところにきて、ほとんどみんながすごく困っているのはファーウェイ問題ではないかなという気がしていて、そういう方向に対して今回のIOWNの構想というのが、どれぐらい射程距離といいますか、考える守備範囲の中に入っておられるのかどうかという辺りについて、何かお聞かせいただけるとありがたいなと思うんですけど。
【川添オブザーバ】 喜連川先生、本当にありがとうございます。ちょっと分かりやすいところから話をしますと、どうにかやはりそのオープン性というのを満たしたい、実現したいということで、今回の5Gで言うとO-RANという仕様を持ち込みました。これは何かというと、アンテナのユニット、無線のユニット、要は情報処理のユニット、そういうユニット間のインターフェースを明確に定義して、全部一気通貫で、ブラックボックスにならないようにするというようなことで、少しでもオープン化ができないかということでやったのですが、これもまだまだ実は足りないと思っていまして、それぞれのユニットの中でどういう処理をしているかというのが分からないと。これはまさに、だからファーウェイ問題の原点でもあると思うのですが、これをより一層クリアにしていくために、今日御紹介したようなスーパーホワイトボックスみたいなものをみんなで定義して、そこでハードウエアとソフトウエアの間の、例えばそこのインターフェースみたいなものは、先ほど御紹介したのは単なる物理的なインターフェースですけど、そうではなくて、こういう論理的なインターフェースのところでオープン化を図って、可能な限りブラックボックスになる領域を減らしていければなと思っているところです。これをやるためにも、やはり超強力なこういう基盤がないと、みんなここには乗ってこないので、それを実現したいなと考えているところです。
答えになっていましたか。
【喜連川委員】 ありがとうございます。今多分、世界の中でもこれだけしっかりした通信基盤を持てていると、要するに小学校から大学まで、子供たちがこれだけネットワークを使えるようになっているということは、やはり大昔にNTTさんの御請願があったということに国民はすごく負っているんですよね。そういう意味で今回のIOWN構想というものが、期待するところがとても大きいのですが、今おっしゃられたホワイトにするということは、実はハードウエアだけではなくて、御案内のように、今通常のソフトウエアもAIのソフトウエアもあらゆるところが、何というか、IT屋がきっちりできないということを国民感情として思われるような立ち位置になっちゃっているのではないのかなという気がしまして、ぜひそういうベクトル、IOWNに何もかも放り込むことはできないかもしれないですけれども、また一歩一歩お願いできればありがたいなと思う次第です。
【川添オブザーバ】 はい。先生、よろしくお願いします。もう先ほどから言っていますけど、皆さん助けてくださいという状況でございまして、ぜひやはり日本がというふうには、あまりそれを強調してもあれなんですけれども、せっかくこういうゲームチェンジングができるような新しいスタートポイントに立てるとしたら、アカデミックの領域から、本当に我々みたいな実業をやっている領域から含めて、そこでトータルパワーでこの問題をぜひ解決できたらいいなと思っていますので、よろしくお願いいたします。
【喜連川委員】 すみません、安浦さん、簡単にあと1つ、伊藤先生にお伺いしたいんですけれども、先生がおっしゃられた科学的発見をするようなマシンが必要であるというか、そこにコントリビュートできるかどうかが判断基準であるというのは僕も大賛成で、そこをエンドースしたいと思うのですが、ここの基盤部会として見たときに、計算基盤全体を100としたときに、量子コンピュータというのはどのくらいの領域を御支援いただけるのか。その辺のイメージ感をざくっとおっしゃっていただくことは可能でしょうか。
【伊藤委員】 うちの幼稚園児が将来頑張りますとしか言えないですね。つまり、本当に全てが、マシンもまだ成長段階ですし、それからアルゴリズム、要はそのマシンができてくれば急にみんな、レーザができて初めてレーザの使い道がいろいろ出てきたようなものであって、今本当に、ここから多分二、三年かけて大きな動きが世界中に出てくると思います。ですので本来であれば、今のスパコンの50%なんてということを言う人はいないと思いますけれども、2%ぐらいの不可能な問題ができるようになって、でもその2%の不可能が可能になった瞬間にすごいことになるかもしれないとか、そういうことを一つ一つ狙っていくだけですよね。私としては、そういう大きい賞を狙うようなフラッグシップ機が1つあって、あとは本当に各大学、または喜連川先生がもう以前に御指摘されたようなコンソリデーション、データ基盤というようなことと科学計算が一緒に合わさっていくと非常にいいものができるのではないかなというふうには思っていて、多分フラッグシップ機の捉え方がちょっと人とは違うのかもしれません。
【喜連川委員】 そうですね、ちょっと違うかもしれないですけれども、さっきの川添さんのお話なんかを聞かれると分かると思うのですが、これだけネットワークがパワフルな国ってないんですよね、見ていると。だとすると、そこそこのマシンでもいいので、とがったマシンをすぽんすぽんとつくりながら、そこで全然違うサイエンスの花を開かせるという夢は物すごく大きいのではないかなという気がしましたので、ぜひ先生、頑張っていただければと思います。
【伊藤委員】 あと、安浦先生との事前打合せでちょっと話したのですが、IOWN構想みたいなものの中で最強のコンピュータが、違った意味での最強のコンピュータがつくれたらおもしろいわけですよね。
【喜連川委員】 ぜひ頑張ってください。
【伊藤委員】 ですから、そういう若手のプロジェクトができると、はやぶさプロジェクトみたいなのができるといいなというのは思いますね。
【喜連川委員】 はい。そういうのをプロモートしていただけると。どうもありがとうございました。
【安浦主査】 どうもありがとうございました。
時間が大分迫ってまいりました。あと海野さんと、それから相澤先生から手が挙がっていますので、お二人からの御質問、御意見をいただいて終わりにしたいと思います。
海野様、どうぞ。
【海野委員】 Preferred Networksの海野と申します。非常に面白い御発表、どうもありがとうございました。
特に奥野先生にお伺いしたいのですが、この分子動力学のシミュレーションですとかいう話、まさに我々の会社でもやはり行っておりまして、特にシミュレーションとAIを組み合わせるといったお話があったかと思うのですが、いわゆるAI、機械学習のかいわいの中で、シミュレーションをニューラルネットの形で書いてあげることによって、結果的に現象をフィードバックさせてあげるという研究がかなり、この数年といいますか、1個トレンドとして起こっているので、全体のシミュレーションとAIの技術というところの区別がつかなくなっていくというか、統合されていくというのは、かなり近い将来もう実現していくのではないのかなという印象を持っております。
そうすると、多分いろいろな人がこういうシミュレーションですとかを使っていくことになっていくのかなと思っておりまして、そういったときに、こういう研究ですとか産業といったものが今後どうなっていきそうなのかといったところの展望ですとか期待感といったものを教えていただくと、我々としても開発する励みになるのかなと思うので、ちょっと御意見をいただきたいなと。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございます。やはりAIベースというか、データドリブン、機械学習、ディープラーニングベースですと、学習させるデータに探索空間が拘束、依存してしまうので、そういう意味では生命科学の問題というのは、非常にやはり探索空間が、我々が想定している以上にめちゃくちゃ広いというか、パラメータも分かっていない世界ですので、やはりシミュレーションの動きをAIに記述してやるというのも、僕は若干限界があるのではないかなというふうには思っていまして、やはり探索をするということをいかにやるかというところ。でも、シミュレーションベースで探索だけをしても、これは今度ハードウエアの問題で、やはり遅くなるので、AIと組み合わせるというのが今の私の考えというか、やはり今後のトレンドにしていかざるを得ないだろうと思います。そうこうしているうちに量子計算が非常に進んでいって、大きな大量の系の計算ができるようになっていけば、量子計算のほうでどんどんいけるというような状況だと思うのですが、やはり次の世代で生命科学の、その非常に探索空間の広いものを解くためには、2つをうまく組み合わせていって、探索をしながらAIということをやっていくというのが現実的なフェーズなのではないのかなと思っています。答えになっていないかもしれないですけど、そういう感じです。
【海野委員】 いえ、どうも。じゃあやっぱりその手法ですとかアルゴリズムの改善をしつつ、一方で計算機の速度もまだまだ足りないから、これからどんどん速度が上がっていってというのがやはり求められるという感じですか。
【奥野オブザーバ】 そうですね、分かりやすく言うと、やはりAlphaGo、囲碁の人工知能のように、人間のこれまでの常識では打たないようなところをAIは打ち出したというふうな、あれも探索のシミュレーションと合わせていると思うのですが、やはりそういう感覚というのが僕は非常に重要、生命科学にとって重要だと思っていて、そういう、人間が、これまでの実験科学者が常識で考えないようなところというのをシミュレートできて、そこから発見が見つかると、本当の意味でノーベル賞、そもそも多分ノーベル賞の概念そのものも変わってくるのではないかなと思います。
【海野委員】 なるほど。ありがとうございます。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございます。
【安浦主査】 それでは最後、相澤先生、御質問をお願いします。
【相澤委員】 相澤でございます。3人の先生方のお話、大変ありがたく聞かせていただきました。とても細かな情報をいろいろ伺うことができました。
私の質問は短い質問です。この3つの話の中では「富岳」がもう今現実になって使われているというものです。奥野先生への質問ですけれども、「富岳」自体は実際に動き始めて利用可能になってきているというところで、ただその一方で、私が門外漢であるところもあるのだと思うのですが、周りでそんなに「富岳」の話というのを聞くことが少ないということもあります。どれくらいのユーザコミュニティがいて、どう育ちつつあるのかということをちょっと知りたいと。というのも、やはりユーザの数ってそれなりに重要で、使っていくと様々なライブラリができて、より使いやすくなっていくということもあるので、今の「富岳」、それからポスト「富岳」に向けて、ユーザコミュニティというのはどんなふうになっているのかという、ちょっとした規模の感覚を教えていただければというふうに思った次第です。
【奥野オブザーバ】 ありがとうございます。あくまで創薬、今日ちょっとお話をした分子動力学計算の生命応用に関する部分のお答えをさせていただきますと、創薬におきましては、今、成果創出プログラムのほうで12名のPIに入っていただきまして、その12名のチームが創薬計算の「富岳」利用というのを行っています。もう一つチームがございまして、そこも4名ぐらいのPIになっていまして、ですので、たかだか十五、六名ぐらいのPI、研究室が創薬計算をするというところで今正式に、「富岳」の成果創出プログラムで認められていることになっています。これはあくまで創薬ですので、医療は医療でPIの先生方、チームがございまして、ほかの分野にもおられるというような状況です。
もう圧倒的に、やはりユーザが少ないというか、非常にニーズに対してそれをハンドリングする人材があまりにも少ないというような状況でございまして、やはりその部分においては開発者のほうに研究費がなかなかサポートできないとか、そういうような事情もあろうかと思いますけれども、例えば今回コロナの治療薬探索で急遽やらなければならないとなったときに、本当に私のラボも総出で、もうみんなこれに携わりなさいというところで、みんなそれぞれが分担をしてやっていくというような形ですので、やはり実際に、本当に私が言いたいのは、ハードウエア、アプリケーションというのは非常に重要だけれども、やはりそれを使っていく段においては人にお金をつけてほしいというふうな、そこの裾野をどんどん広げなければ、本当の意味でスーパーコンピュータを使いこなす、あるいは計算機を使いこなして生命科学の新たな発見につなげるようなところにまでは結局行かないと思っています。
【安浦主査】 奥野先生、どうもありがとうございます。
事務局のほうで、今「富岳」は、どれくらいの分野で使っているかというのはすぐ分かりますか。
【宅間室長】 事務局でございます。「富岳」はこれからでございますけれども、例えば「京」は延べ1万1,100人の利用者に利用された、また企業200社以上使われたというデータがございます。「富岳」は、この「京」のユーザを引き継ぎつつ、またさらにほかの分野にも裾野を拡大していくという努力をしているところでございます。
このようなお答えでよろしいでしょうか。
【安浦主査】 はい。またデータが必要でしたら、委員の先生方に、リアルタイムのデータも含めてお送りいただければと思います。
時間になりましたので、本日の議題はこれで終了したいと思います。
本日は、実は今期の検討部会としては最後の開催ということになります。今期第1回目に次世代学術情報ネットワーク・データ基盤整備作業部会という、後藤委員に主査をしていただいて、田浦先生に主査代理をしていただいた作業部会を設置して、非常に短期間に集中的な審議を行っていただきました。現在のSINETに代わる次世代の学術情報ネットワークとデータ基盤整備の在り方について取りまとめをいただきまして、7月の第2回の本部会に御報告をいただきました。前回の第3回から、「富岳」の運用開始、さらにその先を見据えた我が国の次世代の計算基盤をどうするかという議論をさせていただきまして、未来は読めないわけで、このコロナの状況すら我々想定していなかったわけですが、そういう中で5年から10年先の我が国の計算基盤がどうあるべきかということで、将来のHPCIの在り方に関する検討ワーキンググループの御報告を小林先生に前回していただきました。また、大学の情報基盤の観点から田浦先生に、情報基盤センターの立場での御意見を伺いました。それからスーパーコンピュータユーザの観点としては、物性系の話を常行先生からお話しいただき、そして喜連川先生から、もっと視点を大きく見た、情報基盤全体をやはりしっかり考えていかないと、我が国の研究基盤どころか教育基盤も社会基盤も全部駄目になるぞというような、かなり刺激的なお話をいただきました。
本日、それに引き続きまして、伊藤先生から、伊藤先生は幼稚園児とおっしゃいますけど、1つの新しい技術の可能性としての量子コンピュータのお話、それからスーパーコンピュータのリアルなユーザとしては、コロナでも直接「富岳」を使って御研究をされております奥野先生の、非常に現実に即した問題点の御指摘をいただいたと思っております。それから通信基盤について、やはり我々ももっと知っておこうということで、NTTからは川添様にお願いをいたしまして、非常に大きなスケールでお話しいただきました。二十数年前にFiber To The HomeをNTTさんが掲げられて、それを実現された、そのインフラの上で我々は今仕事をしているわけですけど、それを、今度は次のベーシックな情報インフラをどうつくるか、特に通信の部分をどうするかという夢のあるお話をいただきました。
今期の議論は一旦これで終了となりますが、事務局には、中間取りまとめに向けて、来期にしっかり引き継いでいただきたいと思っております。これは強く私からもお願いしたいと思います。そして、多くの委員の皆様で、引き続き次期委員としてこの部会に御参加いただく先生方も多いと思います。これは事務局のほうから個別に、何かいろいろ制約があるようでございますが、お願いが行くと思いますので、お願いが行ったときには、ぜひお受けいただきまして、これまでの議論をベースにして、さらに引き続いて円滑な議事進行を進めていただいて、我が国の次世代の情報基盤をどうするかという非常に大きな問題に対してしっかりした構想をつくっていただければと思っております。
いろいろ私の司会の不手際で時間が長くなることが多かったと思いますが、どうもありがとうございました。
それでは、事務局、橋爪参事官のほうから一言お願いいたします。
【橋爪参事官】 安浦先生、ありがとうございます。また、本日は活発な御議論、本当にありがとうございました。
先ほど安浦先生からもございましたけれども、この次世代計算基盤検討部会、非常に重要な役割を担っていただいておりまして、私ども心より感謝申し上げます。特に、先ほどもございましたが、新型コロナウイルスの大流行という今までにない状況の中で、データあるいは情報科学技術への社会の期待というものが非常に大きくなっている、そして研究、教育、社会の在り方自体も変わっていくというような大きな変化の中で、重要な要素であります次世代のネットワーク、そしてデータ基盤の在り方を、昨年は方向性を示していただき、またもう一つの重要な要素である次世代の計算基盤については、今まさにオンゴーイングで御議論いただいているような状況でございます。
ここで一旦今期が終了するということにはなりますけれども、先ほど主査からございましたように、私ども事務局といたしましても、これまでの御議論をしっかりと次期にも引き継いで、方向性をまとめていくということで取り組んでまいりたいと思います。もちろんこれまでの御議論につきましては、これもしっかりと事務局として受け止めさせていただきまして、施策に生かしてまいりたいと考えてございます。
改めまして、これまでの御審議に感謝申し上げますとともに、引き続き、まだ重要な課題であります次世代計算基盤の在り方については、今年の夏に一定の方向性の取りまとめを行っていくということでございますので、引き続き先生方にも御指導いただきたく、よろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。
【安浦主査】 橋爪参事官、どうもありがとうございます。
事務連絡に入る前に、この場をお借りしまして御紹介したい件が1件ございます。事務局のほうからお願いします。
【宅間室長】 事務局でございます。参考資料3を御覧いただければと思いますけれども、次世代コンピューティング・フォーラム、名称はまだ仮称でございますが、こちらの企画案の御紹介でございます。
HPCIコンソーシアム、またRIST主催、協力としましてNGACI、こちらは、今後の高性能計算環境または共用計算機資源としてどのような技術的課題があるかというようなことをコミュニティでオープンに意見交換して、ホワイトペーパーにまとめるという活動をされている、アカデミアの先生方を中心の発起人とする団体でございますけれども、こちらの御協力で、次世代コンピューティング技術に係る研究開発の方向性などについて、公開の場で、若手中心に産学で議論する機会ということで、このフォーラムの企画をされております。
この背景といたしましては、安浦主査から、本部会で次世代計算基盤の御議論を今いただいているところでございますけれども、それに並行しまして、コミュニティ、特に若手の方々を中心としたオープンなディスカッションをするべきという御指摘をいただきまして、文科省のほうからHPCIコンソーシアムなど関係の方々に御相談して、今、企画をこのように練っていただいているところでございます。
開催は2月下旬でございまして、今、25日を候補に調整されているというふうに伺っております。本部会での議論にも非常に関連深いものになりますので、日程など確定いたしましたら、委員の皆様にも御案内さし上げたいと思っております。
以上でございます。
【安浦主査】 ありがとうございました。御都合が合えば、ぜひ委員の先生方にも御参加いただいて、やはり次の世代の若手が本当にこの問題を背負っていただかないといけないので、この部会での議論等から出てきたいろいろな知見もダイレクトに、そういう若い方にも伝えていく、そういうことも必要だと思っておりますので、ぜひ御出席いただいて、御意見や御質問等を出していただければと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

最後に事務局より以下の事項について説明があった。
・本日の議論等で足りない部分やご意見があれば事務局までご連絡いただきたいこと
・今後3月末もしくは4月ごろの開催を想定、別途日程調整を行うこと

安浦主査により閉会。