ジャーナル問題検討部会(第7回)議事録

1.日時

令和2年10月27日(火曜日)16時00分~18時00分

2.場所

オンライン会議

3.議題

  1. ジャーナルに係る課題について
  2. その他

4.出席者

委員

引原主査、竹内主査代理、家委員、小賀坂委員、尾上委員、倉田委員、小安委員、高橋委員、谷藤委員、林和弘委員、林隆之委員

文部科学省

杉野研究振興局長、塩崎大臣官房審議官(研究振興局担当)、橋爪参事官(情報担当)、三宅学術基盤整備室長、土井参事官補佐

オブザーバー

阿部 前国公私立大学図書館協力委員会委員長、筑波大学副学長・附属図書館長、上保 国立国会図書館利用者サービス部科学技術・経済課長、須田 国公私立大学図書館協力委員会委員長、慶應義塾大学メディアセンター所長、平田 大学図書館コンソーシアム連合事務局長、国立情報学研究所学術基盤推進部図書館連携・協力室長

5.議事録

【引原主査】 それでは、ただいまより第7回ジャーナル問題検討部会を開催させていただきます。
本日も、コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインで開催することとしております。通信状態の不具合が生じるなど続行できなくなった場合につきましては、検討部会を中断する可能性もありますので、あらかじめ御了承ください。
では、事務局より本日の委員の出席状況、それから配付資料の確認、オンライン会議の注意事項について、説明をよろしくお願いいたします。
【土井参事官補佐】 事務局でございます。本日は、委員は全員御出席されています。
今回は冒頭より傍聴者の方を入れてございますので、御承知おきください。傍聴希望の登録は87名でございます。報道関係者の方からも御登録がございました。
続きまして、配付資料の確認でございます。議事次第にございますように、今回、資料1から資料4までを、事前に送付させていただいております。なお、資料1の別添につきましては、本日の議論を踏まえまして、更新を重ねていくということでございますので、現状版ということで御認識いただければと思います。更新版につきましては、後日ウェブにて掲載する予定ということでございます。
続きまして、オンライン会議の注意事項を申し上げます。まず、通信の安定のために、発言を除きまして常時ミュート、またビデオをオンにしていただければと思います。主査におかれましては、ミュートの解除とビデオのオンを常時していただきますようお願いいたします。
委員の方々におかれましては、発言する場合は、手のアイコンまたは挙手をクリックして御連絡いただければと思います。主査におかれましては、参加者一覧を常に開いておきまして、手のアイコンを表示している委員を御指名をお願いいたします。事務局の方からも適宜サポートさせていただきます。
指名された委員におかれましては、御自身でミュート解除の操作をお願いいたします。また、御発言の後は、委員御自身で手のアイコンの非表示とミュートの操作をお願いいたします。戻されていない場合は、適宜事務局の方から確認をさせていただきます。
今回も速記者を入れてございます。発言の際には、お名前からゆっくりはっきり御発言いただければと思います。また、トラブル発生時は、電話にて事務局に連絡をお願いいたします。
事務局からは以上でございます。
【引原主査】 ありがとうございました。それでは、早速ですが審議に入りたいと思います。
今回の議題は、まず科学技術・学術政策研究所の林和弘委員よりオープンアクセスの動向等について御紹介いただき、その後、筑波大学URA研究戦略推進室の森本様から、筑波大学の研究成果公開の取り組みについて御紹介いただきます。その後、中間まとめについて、前回に引き続きまして御議論いただきたいと思っております。
それでは、最初に林和弘委員、御説明をよろしくお願いいたします。
【林(和)委員】 それでは、科学技術・学術政策研究所の林より、今回、オープンアクセスの動向というお題を頂きまして、タイトルとしては「オープンアクセスの進展が生み出す学術ジャーナルと論文の変容とオープンサイエンス」について話題提供させていただきたいと思います。
これが今回にお伝えしたい目次とメッセージです。最初に、オープンアクセス活動を俯瞰させていただいて、オープンアクセスを通じて研究者、図書館、出版社がどのように振る舞い、変化したかについて、これまで、第6回までの議論の論点なども含めて御紹介したいと思います。
その上で、学術ジャーナルと論文のDX、本来、デジタルトランスフォーメーションは科学そのものを変えようとしているのですが、オープンアクセスの仕組みの近傍で学術ジャーナルと論文の局所を見ても、デジタルトランスフォーメーションが起きているということをお示ししたいと思います。
その上で、私が今第1に取り組んでいるオープンサイエンス政策の中でも、研究データ基盤整備というものを中心にした議論を紹介させていただきながら、その間にギャップがあるということを含めて、オープンサイエンスパラダイムに向けた学術情報流通のデジタルトランスフォーメーションを俯瞰してみたいと。最後はちょっとチャレンジですが、是非皆さんと共有したいと思ってプレゼンテーションを用意しました。
早速ですが、オープンアクセス活動の俯瞰についてお話しさせていただきます。これはあくまで個人的な私見を大いに含んだ例として御覧いただきたいと思います。
この表の見方ですが、こちらは年代、10年おきに、非常に粗いですが10年おきの変化を見ていったときに、例えば研究者自身は、もう1990年代にはプレプリントサーバーを立ち上げ、セルフアーカイブを――要するにカッティングエッジな科学者はそういうことに取り組んでいて、2000年代に電子ジャーナルを受容した後に、ゴールドオープンアクセスジャーナルは2010年代ぐらいにPLOS ONEやScientific Reportsが、論文数が伸びるということをエビデンスに、ゴールドOAジャーナルが活用されていたと見ることができ、2020年代に入って、COVID-19が引き金を引いたプレプリントの活用がどのように行われるかということが言えるかと思います。
所作と書いていますが、結局、30年ベースで見ると、研究者は必要な情報受発信活動をそれぞれ素直に行う。この「素直に行う」というのが、いわゆる科学的批判精神を支える純粋な知的好奇心だと思いますし、逆を言えば、ハゲタカジャーナルに引っかかってしまうというようなことは、この素直さから由来するというような表現もできるかと思います。
続いて図書館を見ますと、図書館は1990年代に電子図書館構想自体はありましたが、OAは2000年代のBBB宣言からとすれば、それを踏まえたものではなかったと。その上で、やっぱり電子ジャーナルの前からあるビッグディールを、当初受け入れてコンソーシアムを形成してバーゲニングパワーを出そうとしていた。その一方で、機関リポジトリを開発して浸透させていた時代が2000年代だと思います。あと、グローバルに見ればPLOSのように図書館がOAジャーナルをつくるなどということが起きたわけです。
それが、2010年代に何が起きたかというとグリーンOAを強化しつつもなかなか難しいという話と、あと機関リポジトリを通じて情報発信をしようと。紀要等に代表されますが、そういった活動が目立つようになったと理解しています。
そして、OAとは関係ないのですが、特に日本はラーニングコモンズに注力してきたということが言えるかと思います。
そして2020年、あくまでも私見ですが、脱ビッグディールモデルはもう不可避だと思いますが、フリッピングモデルに本当に対応できるのか。それから、こちらは大事だと思うのですが、学術情報資源のデジタルアーカイブがいよいよ――これまでもやってきましたが、いよいよ図書館機能の大事な、不可欠なものとしての資源のデジタルアーカイブ化というものが、あるいはアーカイブへアクセスできることを保障するというようなことが重要になってくるのではと思っております。
それを所作としてまとめると、明日の図書館像を常に模索し、試行を繰り返してきたという30年間だというふうに、私には見えております。
最後に出版社ですが、出版社は1990年代は、JBC(Journal of Biological Chemistry)やElsevierのScienceDirectに象徴されるような、ウェブベースでの電子ジャーナルを開発した後、オープンアクセス運動に対して最初は反対していたのですが、それはビッグディールを加速させていたからにほかならないわけですが、まずグリーンOAを充用して、その後ハイブリッドOAを提供し、その一方でゴールドOAに対応すると、既存の出版社がゴールドOAに対応している間に、そもそもOAネイティブな出版社が生まれていたのが2000年代です。
2010年代になると、APCモデルというものでビジネスモデルが見えた途端に、パブリッシャーはゴールドOAジャーナルを直ちに創刊して、購読費モデルにプラスしてAPCよりの収益を上げるビジネススキームを創り出したと言えます。
その一方で、ゴールドOAはハゲタカジャーナル、粗悪学術誌という表現の方がよりベターかもしれませんが、そういったものが生まれて、さらにPlan Sなども、私の観点からすると、これは要するにゴールドOAの出版社と購読費モデルの出版社が対立しているような構図に見えるというような状況です。
その上で、2020年代になると、ポストビッグディールの実装をどのようにやるか、あるいはRead & Publish、Publish & Readでもいいのですが、Transformativeでもいいのですが、の需要や、あとプレプリントの需要が見込まれるという状況です。
出版社から見た30年を総括すると、結局オープンアクセスというスキームは取り込んで、常にビジネスとして最適化をしてきたと。情報提供者としての大枠は大きく変わらず、彼らのビジネスの中に取り込んできたというのが、この30年ではないでしょうか。
ということで、この表から言えるのは、もはや図書館と出版社の議論だけでこの問題を解決するという話では全くないということは、議論の中で既に言われていることですが、改めて結局、研究機関の経営の重要性、学術情報流通をオープンアクセスを通じてどのようにブランディングするかということを含む、経営の問題であると言わざるを得ないというのが私の総括となります。
例えば、最新の状況ですね、10月20日ですからほんの1週間前に出たニュースとして、OA2020、2020年までに要するに全ての購読費モデルをオープンアクセスモデルに変えましょうという、非常にチャレンジングなイニシアティブの中の最新情報としては、OA2020を進めているドイツのMax Planck Digital LibraryとSpringer Natureが、Nature誌を含む姉妹誌ジャーナル全ての雑誌を対象とした転換契約に合意ということで、これはこれで、当初の目標を達成するという意味では非常にインパクトのある事例として見受けられるのですが、その内容をよくよく読むと、結局、フリッピングにするときの1論文当たりのコストを9,500ユーロで見ていると。
この金額は、確かにNatureのような却下率が9割以上を超えるようなものをAPCモデルにすると、100万以上かかるという話は言われていましたが、実際にこの計算でやるということが、果たしてどういう意味を成すのか。見ようによっては、先ほど解説させていただいたとおり、出版社はビジネスとして淡々とそのビジネスを、フリッピングモデルでさえやっていくということを示唆する最新の事例として御紹介させていただきます。
という状況の中で、学術ジャーナルと論文自体だけ、その局所を見てもデジタルトランスフォーメーションが起きているということを、次に御紹介させていただきます。
まず、デジタルトランスフォーメーションということ自体、多義的なので、私の立ち位置を拙稿をベースに御紹介させてください。これは2013年に、「情報の科学と技術」というところに「学術情報流通の将来」というテーマで御依頼いただいた原稿で出した表なのですが、詳細は説明できないのですが、この目的のところをまず見ていただきたいのですが、そもそも紙物流、郵送ベースでつくられた学術情報流通システムを、まずデジタル化してWorld Wide Web化した、これが90年代から2000年代で、2000年代の後半は、それをさらに電子ならではのサービスに革新していったわけですが、2010年以降は、アイテムの本来の目的に立ち返って、別の手段、パラダイムで目的を実現するという時代という予察をさせていただきました。
これを上の方で見ていただくと、対象がまず電子化をして、新しい価値を付加してあげて、その後は結局、不連続に別業種、新規ステークホルダーが参入したり、異なる視点からの価値の付与、サービスが実装される。これが、私がこれから説明するデジタルトランスフォーメーションのベースの考え方です。
ここの、1つだけ例示を紹介すると、そもそも冊子を購読管理というのは、ラベルを管理していたわけです。どこに送ればいいか。それを電子化した際は、機関はIPアドレス、個人はIDのパスワードで送っていたわけで、それを効率化するためにパッケージとビッグディールモデルができたわけですが、オープンアクセスでデジタルトランスフォーメーションすれば、そもそも購読管理が要らない。例えばですが、そういう見方です。
そういう見方で、例えば紙面に依拠しないという意味では、既に2005年には動画ジャーナルが生まれ、2010年代後半ぐらいからデータジャーナルなどが生まれていて、徐々にはデジタルトランスフォーメーションが進んできてはいます。
今回やっぱり取り上げたいのはプレプリントサーバーの話です。この図は、皆さん既に御案内かと思いますが、傍聴の方もいらっしゃいますので念のため御紹介させていただくと、左側が従来の仕組みで、論文を出版社に投稿して、査読によるコントロールがあって、その後、読者に届けると。ここが購読費モデルだったりオープンアクセスモデルだったりするわけですが、古くは物理から、最近では医学分野でも、この論文投稿をする前から、同時にプレプリントサーバーにその草稿を載せて、即時公開して先取権を確保する、あるいは広く研究の意見を伺うというような行動がはやり出しているという状況です。
このプレプリントサーバーが、COVID-19で非常に注目されているということなので、科学技術・学術政策研究所でプレプリントを集めて調査した結果というものをこれから御紹介するわけです。
こちらは、週刊のプレプリントのCOVID-19に関する登録数です。週刊ですので、累積にするとさらに指数関数的に上がるわけですが、真ん中のmedRxivを中心に、バイオ、物理、それから社会学等でもプレプリントの登録が増えているということが分かりました。
それで、これは時間の関係で詳細には御説明できないのですが、結局、被引用数と原著論文に頼らずに、プレプリントだけでも研究の景色――「景色」とあえて表現させていただきますが、見ることができました。
これはまだプレプリントですから引用もありませんので、そのタイトルと抄録を自然言語処理をしてクラスター分析をしたものなのですが、こういう形で、中心としての医学のほかに、物理学の貢献、化学の貢献、生物科学の貢献、社会学の貢献が分かるというようなことが見えた上に、さらに別途、原著論文でCOVID-19に関する論文を集めて同様の分析をした際には見えてこなかった、治療薬探索のような領域といったものが見えると。
注にも書いていますが、これがあるから原著論文被引用数に解析を代替するというものではなくて、我々は、新しい研究の動向を知る手段を手に入れたと見るべきだと思います。そもそも研究動向を見る手段を新しく手に入れること自体が、デジタルトランスフォーメーションのきっかけになるのではと考えられます。
これを、ちなみにプレプリントサーバー別に見てやると、これも詳細は割愛させていただきますが、分かりやすい例ではChemRxiv、化学のアーカイブであれば治療薬探索のプレプリントが多いとか、arXivですと感染モデルのものが多いとかいったことが分かっていて、あるグローバルイシューに対しては、様々な分野の研究者が、その課題解決に貢献しようとしている姿が見られています。
ただし、もちろんこれは、既に議論されているように質の保証の仕組みというものがないものですから、質の保証、それぞれのプレプリントに関しては非常に注意深く判断すべきだと思いますが、それをある種ビッグデータ化することで、これまでは見えなかった景色が見えるというような状況にもなっています。
では、その医学のプレプリントというのは、去年6月7月に立ち上がったばかりなので、ほかはどうなのかという疑問が皆さんあるかと思いますので、プレプリントの嚆矢であるarXivですね、1991年より物理から始まって、現在ではAIや情報学などでも浸透しているプレプリントサーバーを、都合160万件を分析している結果が、まずこちらになります。
これを見ていただくと、これも累積ではなくて週刊なのですが、特に情報の分野が2015年あたりから――これはディープラーニングが多いということが分かっているのですが、という形でプレプリントがかなり情報分野で浸透し始めているということや、これに全部DOIがついているかどうか、arXivにおいてはDOIがついているというのは何らかの原著論文、査読ジャーナル、何らかの既存の出版物で後に出版されたと言えるので、DOIの付与を見てやると、こういう形で、直近のものは当然、査読が通っていないのでまだなのですが、しばらくすると既存出版物に公開されるわけですが、それ以外のものも残る。
これが全然全く意味がない論文かというと、出版バイアスと呼ばれるものが業界では広く認知されています。それはつまり、そもそも投稿者がよいと思うものしか出さないし、査読者がよいと思わないと通らないということ自体が1つのバイアスという見方ができますので、そうすると、それで除外された知見が入っている可能性があるということも見えてきているような状況です。
その上で、情報学の方でプレプリントが進んでいるということで、もう一歩踏み込んで、じゃあプレプリントがどのぐらい引用されているかというのを、arXivの中で見てやった結果がこちらになります。
こちらの、まず上の図表を見ていただきたいのですが、これは分野別に原著論文になった割合の推定なのですが、天文や物理学は、とにかく後でちゃんと査読付ジャーナルに出すという所作が見られているのに対して、情報系のプレプリントはそのままプレプリントのままになっているということが分かり、逆に、そのプレプリントが引用されている回数の平均を見てやると、これは当然逆になりまして、天文や物理では原著論文を引用するのでプレプリントが引用されにくいわけですが、情報分野ではプレプリントが引用されていると。つまり、プレプリントを出し、プレプリントを共有し、プレプリントを引用する文化というものがある程度存在しているということが見えました。
これはひとえに、こちらに書いてございますが、研究サイクルの速さにジャーナルの査読が追いつかないということが、定性的な専門家への調査などでも分かっているという状況です。
つまり、研究論文、これまでの査読システムに乗っからない学術情報流通は既に生まれていると言えるのでは――分野によっては生まれているということを示唆します。
さらに今回、これが別添資料1というもので詳しく御紹介しているもので、ちょっと余談となりますが、官房政策課、それから研究振興局情報参事官付、そちらにおられる依田さん、それから我々科学技術・学術政策研究所の小柴と私、林が、4人で限定的タスクフォースチームを組んで、さらに、プレプリントは引用から見て、どの程度学術情報流通に貢献しているかという調査を行いました。
これは先ほどと同じarXivのデータ160万件を対象にするわけですが、160万件のプレプリントはそれぞれ人生を持っています。どういう人生かというと、プレプリントを出して、物によっては、先ほどのベースでいくと6割ぐらいはジャーナル論文になるわけですが、引用で見た場合は、プレプリントの間にプレプリントから引用されることもあれば、原著論文から引用されることもある。ジャーナル論文から出た後も、プレプリントから引用されることもあれば、原著論文から引用されることもある。
まずこのスキームを御理解いただいた上で、このAとBとC、つまり何らかの形でプレプリントが関与しているものを足し合わせて、全体の被引用数で割ってやると、プレプリントが被引用行動の中における割合を示すことができるというわけです。
これ以外にもいろいろ調査しているのですが、今回この発表ではここに注目、注力して結果をお示しします。
そうすると、当初、作業仮説的には、情報学が高いだろうということは思っていましたので、情報学は、この表の中では計算機科学ですね、点線ですが、高いことが分かりました。プラス、数学も高いということが分かりました。
それ以上に実は驚いたのが、そのほかの分野全てが4割のところに位置します。これは何を意味するかというと、引用の中の生態系で見た場合、その4割はプレプリントを示しているということが見えたことが、非常に新しい発見でありました。
これはすなわち――限定的です、もちろんリミテーション・アンド・コンディションがあります。arXivをプレプリントとして、登録する研究者のコミュニティにおいてはというリミテーション・アンド・コンディションがあることを念のため申し上げますが、でも、既に現在は、経済学や生命科学でも、統計、ドライの研究などがarXivに載っているわけですが、いずれにしろ、そのarXivコミュニティの中で、プレプリントは研究インフラとして不可欠な存在となっている可能性が見えている。
ということで、その詳細につきましては参考資料、この参考資料が、まさに先ほど冒頭御紹介いただいたようにプレプリント版です。ややこしいのですが、プレプリントの調査を報告したプレプリント版を皆さんに共有させていただいておりますので、頂いたフィードバックを基に完成版をつくりたいという話になっております。
あと、これは速報版として、そちらにいる学術調査官の池内さんが、私どもの客員研究官として私と一緒にやった調査結果の先出しなのですが、これは先ほどのarXivとはまた違って、科学技術分野全般を対象に、1,914名ぐらいの科学技術専門家ネットワークを我々は擁しているのですが、その方にプレプリントについて聞いた結果の、ほんの一部だけ御紹介させていただきますと、全体としてプレプリントは過半を超えるぐらいの方が入手経験があります。これで非常に興味深いデータは、こちらにありますように、年齢別で見た場合にきれいにグラデーションが生まれました。当然ですが、若い人ほどプレプリントの入手経験があるということになっています。
ということで、これは世代交代によってデジタルトランスフォーメーションとして、プレプリントが進むことを、かなり示唆するものではないかということで注目しておりまして、今回御報告させていただいております。
ということで、学術メディアのデジタルトランスフォーメーションとして、プレプリントが今、注目されてきたわけで、そのプレプリントの状況というのを、できるだけデータを使って御説明させていただきました。
メディアがデジタルトランスフォーメーションするだけでなくて、アクターもトランスフォーメーションするという例を、今、この示しているスライドで御紹介します。
それはすなわちどういうことかというと、こちらにございますように研究助成団体がかんできているということです。
ウェルカム財団が初めて行ったわけですが、要は研究助成団体が資金を提供するだけではなくて、その成果を自分が用意したプラットフォーム上に登録いただければ、それをすぐ公開し、査読もアウトソースで行って広くその成果を共有しますよということを、2016年ぐらいから始めているという状況です。
これは当然のように、研究者自ら、ふだん使いの雑誌に投稿したいという行動と非常にコンフリクトするような状況ではあるのですが、資金提供者への案内ですと、それなりに効力があるというような状況で、依然推移が見守られている状況であるかと思います。
これがウェルカム財団から始まったわけですが、今現在はOpen Research Centralというイニシアティブに昇華して、こちらにございますようにFaculty1000Researchと呼ばれる、これはこの後、筑波大学さんから御紹介があるわけですが、そのプラットフォームに加えて、先ほど紹介したウェルカム・トラスト、それからゲイツ財団もこのプラットフォームを利用しておりまして、それからHorizon Europe、次のEUの研究助成の成果に対しても導入検討が進んでいるという情報まではつかんでおります。最終的に導入されるかどうかは、繰り返しになりますが、既存の出版社に出したい研究者の素直な行動欲求もあると思いますので、ちょっと注視しております。
このOpen Research Centralという仕掛けは、別の見方をすると、ここに書いてございますように、論文を書いたらまずデータとともに、あるいはソフトウェアも含むのですが、まずは公開して出版してしまいましょうと。その後、透明性の高い査読と、ユーザーコメントも含めて改訂を加えて、どんどんバージョンアップしていきましょうと。バージョンアップをすることで成果として非常によくなるはずだと。あと、最初の査読で、ちゃんと査読者はサインするのですが、通った時点で、各種データベースにインデックスされることで、原著論文と同じような扱いになるというのが、このOpen Research Centralの肝です。
ということで、これは出版プロセスのデジタルトランスフォーメーションも既に起きているという御紹介になります。
最後に、オープンアクセスパラダイムに向けてということで、オープンサイエンスとの悩ましい関係を御紹介させていただきます。
こちらは、オープンサイエンス政策、「日本の」とつけていますが、先進国を中心に大体同じような政策です。どういうことかというと、研究データマネジメント基盤というもの、あるいは研究成果公開を研究データベースで行うという、データインフラをつくろうとしています。日本では国立情報学研究所さんがそれを担当しているわけですが、このデータに乗せるために、データポリシーガイドラインやデータマネジメントプランの提出などを求めたり、あるいは最終的にデータを公開するデータリポジトリをつくる、あるいはつくるためのガイドラインをつくる。そして、既存の電子ジャーナルとの連携を行ったりする。それを促すパイロットプログラムがあり、あるいはそれをモニタリングしようという仕掛けがありまして、日本では統合・イノベーション戦略の下、この施策が進められています。
ただ、この仕掛け自体はいいのですが、最終的にインセンティブの問題が非常に大きくなります。結局、研究者は素直ですから、評判、昇進、研究費獲得につながるようなものでないとなかなか乗ってくれないというのが実際のところであります。
それに比べると、悩ましいけれども、今のオープンアクセスや論文ベースの学術情報流通には、一定のアドバンテージというか利点があるというのが正直なところであります。
その辺りを全部まとめて、学術情報流出のデジタルトランスフォーメーションを私なりに俯瞰した例がこちらになります。
これは、日本地球惑星科学連合で、去年、英語で発表したものを和訳したものなのですが、横軸は現実からデジタルトランスフォーメーションに流れる軸です。縦軸はペーパー論文からデータに依拠する軸と置きます。
そうすると、今現在のパラダイムというのは、Natureに象徴されるブランドやElsevierに象徴されるビッグディールの環境要因の下、被引用数、Impact Factorの効用と限界というようなものが議論されて、この辺を我々の委員会は議論の起点としているわけですが、今申し上げたように、研究出版プロセスや研究メディア自体がデジタルトランスフォーメーションを起こそうとしています。今日御紹介した研究助成団体のプラットフォームなどもここに入ります。プレプリントもここですね。
あと、まずは論文をベースとしたオルトメトリクス、ソーシャルメディアの反応なども見て、改良していこうとするわけですが、先ほど御紹介した研究データ基盤の政策というのは、かなり先ですね、オープンサイエンスパラダイムでデジタルネイティブな時代の研究データプラットフォーム、最終的には研究プラットフォームを試行して、European Open Science CloudとかNII Research Data Cloudがあり、データですから、こちらにございますようにWDS(World Data System)やCODATA(Committee on Data for Science and Technology)のような、これまで日本学術会議が取り組んできたようなデータに関する取り組みも内包するという形にはなるのですが、こちらにお示ししたように、非常にまだギャップが存在していて、今お話ししたように、こことここは全然、今つながっていない状態なので、それをつなげたいという思いも込めて、この図を描いて御紹介させていただいております。
なので、我々の議論をここで局所的にやること自体は悪くないのですが、例えばこういう全体の俯瞰図で、これを見ると結局、ここが内閣府が今やろうとしているところ、ここは文科省のこのジャーナル委員会でやろうとしていること、ここは日本学術会議がやろうとしていることということで、資源配分のポートフォリオ化が、例えばこういう形でできますので、それを踏まえた上での議論が必要なのではないかと考えている次第です。
それをまた違った面で、この研究データプラットフォーム、オープンサイエンスパラダイムになるとどういうことかというと、我々このジャーナル問題検討部会というのは、出版・公開プラットフォームの近傍で議論しているわけですが、それがデータ作成の方にも今、手を出そうとしているわけですが、私の将来ビジョンとしては、これは2016年に『情報管理』で書かせていただきましたが、研究活動をマネジメントするプラットフォームがいずれ出来上がるだろうと。それはいずれブロックチェーンも使ってということになるのではないかと。そうすると、著者ではなくて貢献者が研究の着想から出版までを把握できる時代になるというビジョンを持って、こういった議論を進めていく必要があるのではないかと。その中に新しいインパクトアセスメントが、新しい出版情報共有の仕組みが生まれる、そしてそれに応じた資金提供の動きができると思いまして、それはSNS、ResearchGateがこういったものに拡張できるポテンシャルもあるのかといった議論を、私個人はしているような状態です。
これは2016年に出たのですが、これも2020年6月、今年の6月に、ケンブリッジ大学の研究者がOctopusというプラットフォームをローンチしました。これは研究成果の出版プロセスを、要は先ほど申し上げた着想から出版まで、あるいはその評価までを8つの要素に分解して、それぞれのベースで成果を公開できるようにするというような仕組みをつくろうとしています。
これはまだ実態物が、9月に出ると言っていたものが、まだ今現在できていないので、いろいろ御苦労されているかもしれませんが、先ほど申し上げたビジョンが既に実装ベースに入ろうとしているという事例で御紹介させていただきます。
ということで、COVID-19で結局、従来の研究スタイルではない新たな研究スタイルが、今日はプレプリントを中心に御紹介させていただきましたが、それ以外にも、データサイエンスの文脈を含めて、様々な形で変わろうとしていると。これ自体は、インターネットの発達とともに緩やかに進行していたのですが、COVID-19によって大幅に加速された。この要素を加味せずに議論するわけにはいかないだろうと。
最後に、ちょっと時間が押していて恐縮ですが、あと1分で終わります。
これはよく使う事例なのですが、COVID-19で何が起きたかというと、情報学の研究者が、WHOのCOVIDのデータを使って自分のシミュレーションを当てはめたら面白い結果が見つかったから、自分のふだんの投稿先とは違うプレプリントサーバーに乗せて、SNSで拡散して広い意見を求めた結果、情報学以外の医学や経営学、情報学者等々と国際コラボができて科学インパクトが出ただけでなく、横浜市と提携してその結果を社会に生かすという社会インパクトを、非常に短い時間、半年もかからずにできているという事例で、研究データの再利用が進むことで、興味・関心を持った素直な研究者が分野を超えて自由に研究を進めて価値を発見するというオープンサイエンスの予察が現実になった、オープンサイエンスで講演させていただくときのチャンピオンケースで、これはお話しするのですが、皆さんにお伝えしたいのは、この事例では、出版社、図書館、学会が関与していません。関与せずとも、データからインパクトを非常に早く出せている。これがデジタルトランスフォーメーションの1つのイメージできる――たった1つかもしれませんが、具体的にイメージできる例ではないでしょうか。
ということで、まとめます。オープンアクセス運動の30年間を通じて、図書館はオープンアクセスを通じて出版社を何とか揺さぶろうとしてきたというのが実際だと思います。出版社は結果的に柔軟に対応してきた。研究者は素直に自分の研究が進むように、認められるように活動している中で、研究機関の経営の重要性というのが問われているのではないでしょうか。
その上で、学術ジャーナルと論文はデジタルトランスフォーメーションしておりまして、まず成果公開メディアが変容しており、プレプリントが注目されています。
それからアクターも変わっております。研究助成団体が新しいアクターになるとか、そもそも出版社等、既存のアクターが関与しないフローが生まれたりしています。それから研究プロセスの各段階で情報の共有と出版が行われようとする実践例も、既に出始めています。
そういう中で、オープンサイエンス政策との比較から見ると、やはりいろいろ、とはいいながら、一足飛びに研究データプラットフォームをつくろうというところとはまだギャップがありますので、下図でお示したとおり、学術情報流通に係るリソース配分のポートフォリオ化を行い、素早く判断していくことが重要と。全体最適化した後に局所最適化、そしてここが言いたいことで大事なポイントですが、今日の学術活動を支えるリソース確保が要らないとは申し上げません。ちゃんとそれは確保しつつ、明日の学術活動を見越した行動変容を促す、これはどちらも重要で、これはまた別でハイブリッド経営が必要というのですが、別な意味では、研究者が素直であるということと研究機関の経営というのは、どちらも研究者がやるとしたら非常に悩ましいのですが、それもハイブリッドとして取り上げていかなければいけないということで、私からの話題提供を終わりにします。ちょっと押して恐縮です。御清聴ありがとうございました。
【引原主査】 ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明につきまして、御質問ございましたらよろしくお願いします。手を挙げていただきますと、私の方で見えることになると思います。どなたからでも結構です。
小安先生。
【小安委員】 どうもありがとうございました。何となくデジャブ感がありますね。ずっと議論してきたことを大分まとめていただいたような気がするのですが、図らずも、何枚目からのスライドのウェルカム・トラストの成果公開の方針というのは良く理解できますね、我々。
ところが、その次のスライドで、結局研究者のインセンティブはどこにあるんだとおっしゃいました。これは一番最初の会で喜連川さんと私が、これは結局研究評価の問題だから、そこを避けて通れないのではないかと主張したところに、まさに戻ったような気が私はしています。
結局、今発表される論文の数を考えると、これを全部読むことは不可能だということはみんな認識しているわけです。だから、どの論文から読むかということを我々が選択しなければいけない。研究者の側がですね。そのときに何をメルクマールにするかというところが、やっぱり、必要です。これが正しいとは私は言いませんが、例えばブランドのジャーナルが狙ってきたのはそういうところですよね。
ですから、それがウェルカム・トラストのプロトコルを入れたときにどういうふうになっていくかというあたり、それからarXivも同じで、論文数はどんどんどんどん増えていく方向に行くと思います。そうすると、どういう形で研究者や研究そのものが評価されるかということを避けて通れなくなり、結局のところはそこへ戻っていくような気がしているのですが、それはどういうふうにお考えになっているでしょうか。
【林(和)委員】 ありがとうございます。まさにCOVID-19がもたらしたことで、今回はプレプリントだけを紹介しましたが、実は査読の意義も物すごく問われているのは皆さん御存じだと思います。すなわち、2大巨頭であるLancetとNew England Journal of Medicineが、相次いで論文を、元をたどると同じデータベースに行き着くわけですが、いずれにせよ撤回するということが起きました。
ですので、このプレプリントの質保証の議論というのは、相補的に今までの原著論文の査読の在り方というものを問い直しているというのが、私の理解だと思います。その結果、今までどおりの査読のよさというか意義、意義づけというのが再確認される分野が、実際はほとんどだと思うのですが、中にはそこから少しプレプリント・ファーストのような形にシフトするような、あるいはOpen Research Centralのように、とにかく早く世には出して、その後広く意見を伺うという方へシフトするということが起きるのではないかと思います。
ウェルカム・トラストが狙っているのは、まさにそのシフトだと思います。だから、今までの査読を否定するというよりは、付加的に別のクオリティコントロールの仕掛けを用意すると。あとは、その割合が増えていくとすれば、どこかのティッピングポイントでクリップするという、中長期的にはそういう戦略だということで理解はしています。
あと、今のは査読に関するクオリティコントロールに対する私なりの見通しですが、そもそもの評価に対してもおっしゃるとおりです。ですので、結局この図でお示ししている、この左下の象限の中で、その局所的な見立てで研究評価をしている限りには、右上に行くということはまずないだろうというのもおっしゃるとおりで、ここは2通りのアプローチがあると思っていて、1つは政策。政策が、スティック・アンド・キャロット、どちらを使ってもいいのですが、持っていくというパターンと、あともう1つは、私は、これは楽観的過ぎるかもしれませんが、若い研究者で行う新興分野は、放っておいても何かそういう方向にいくのではないかと見立てています。
どういうことかというと、新興分野は若い人たちが非常に研究サイクルを早く、しかもオープンに研究活動を行い、それを情報共有し、科学は発展しています。圧倒的にその方が研究サイクルが早くて進化が早いので、そういった人たちがこなれていて成熟する頃には、新しい成果公開の慣習や、その慣習を支えるサービス、ツールが出来上がるのではないかとは思っています。
そういった上で、それはそのツールが出来上がって、慣習が出来上がると、そこの上のコミュニケーションの中で、まさにピアレビューを通じた評価体系というのが出来上がると思っていますので、すごく楽観的ですが、そこが新しい評価になると。何を言いたいかというと、既に出来上がっている評価体系を変えるのは難しいだろうという意味合いで申し上げた次第です。
ですので、何が言いたいかというと、そういう新しい研究活動を行おうとする仕掛けを、どのように政策としてエンハンスするかというようなことを、こういったところでも議論する時代に入っているのではないかということが申し上げたかったことになります。
以上です。
【小安委員】 若い人たちに期待するのはいいのですが、その若い人たちを現在評価しているのが、その若い人たちの動きを理解できないかもしれないシニアです。その限りにおいては、若い世代は、そこで潰れてしまうのではないでしょうか。あるいは、ますます入ってくる人たちがいなくなってくるのではないかということを、多くの方が恐れているような気がしています。ですから、そこまでは待っていられないのではないでしょうか。
【林(和)委員】 おっしゃるとおりです。言いにくいことを言っていただいて、私はちょっと楽をさせていただきます、すみません。のどまで出かかっていたのですが、そこはやめたんです。
ただ、微力ながら、やっぱり今、意思決定――そうなんですよね、今、決定権者というのは、この左下のスキームで勝ってきた成功者ですので、この方々が若い人の新しい活動を評価するのは非常に難しい。だから、そこが私は、これも楽観的過ぎるかもしれませんが、科学者の見識なのではないかと思ったりもしております。それが、個々人の方で立派な方はたくさんいらっしゃるので、そういう御判断をされて、岸先生が山中先生を見いだすようなことは個別の事例ではありますが、それが組織や層としてできるかどうか、これは非常に悩ましい問題ではあるかと思います。
【小安委員】 ありがとうございました。
【引原主査】 では家先生、よろしくお願いします。
【家委員】 ありがとうございます。大変よく整理されたプレゼンテーションで、プレプリントの状況に関しては、一々そうだろうなとうなずきながら聞かせていただいたのですが、1つだけ意外だったのが、18ページにプレプリントの利用経験、これは利用したことがないという人が50%近くいるというのが非常に意外だったのですが、多分、14ページに挙げられているような分野では、これはもっともっと高いと。
【林(和)委員】 そうですね、もちろんです。
【家委員】 これは科学技術分野全般ですから、これは特にプレプリントが習慣化されていないような分野というのは、どんなところがありますか。
【林(和)委員】 やはり、2つの見方があります。プレプリント文化が浸透しているのは、まず読者と投稿者の重なりが大きい分野です。高エネルギー物理なんかはほぼ重なりますが、医学系や科学系は重なりが少ないので、なのでプレプリントはまだ、医学は伸びているところ、科学も今伸びているところではありますが、まだ少ないと。
あともう1点――3点ありますね、工学のようなアイデアが勝負のようなものに関しては、やはりプレプリントが低い傾向もあるかと思います。
あともう1つは、インダストリーに関連するものです。読む人だけが多い分野ですね。つまり、読むだけの人、つまり専門性がそれほど高くない。分からないわけではないけれど専門性が高くない読者マーケットがある分野の場合は、結局、誰かが信頼しているものじゃないと読みたくないというのがありますので、それでプレプリントが少ないというような、大体そういう傾向があります。
すみません、今、手元にすぐお示しできるデータというか、スライドを用意できていないのですが、この調査の分野別ブレイクダウンをしておりますので、それを近日中に御報告させていただきます。
先ほど申し上げたような傾向で、分野別にプレプリントの入手経験もきれいに分かれています。数学なんかは今100%に近いような状況だったりします。
【家委員】 ですから、世代よりも分野の方が違いが随分大きいのかなと。
【林(和)委員】 はい。すみません、今回はデジタルトランスフォーメーションをキーにしたので、このスライドをあえて御紹介しましたが、分野別ブレイクダウンもございますので、乞う御期待ということでよろしくお願いいたします。
【家委員】 ありがとうございます。
【引原主査】 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。
ないようでしたら、私からちょっとコメントをさせていただきますが、今おっしゃっていた、読者と著者が重なるというのは非常に大きいのですが、その重なり具合も、そのコミュニティの大きさだけではなくて、プレプリント自身が90年代以降しかないですから、その経験の中で生きてきた人たちでないと、多分それは使わないと思うんです。
ですから、bioRxivとかmedRxivなどはここ二、三年の話ですから、それはもう全然違う人たちがほとんどですので、何かうさんくさいという発想が多分、多いと思います。
ところが、それがSNSとの関係がかなり強くなったことで、一般の方々が飛びついてしまったことによって、違う脚光を浴びてしまっている。だから論文自身の脚光ではない部分というのが非常に大きいのではないかなと思ったのですが、その辺はいかがでしょうか。
【林(和)委員】 ごめんなさい、論文自身の脚光……。
【引原主査】 論文自身の内容を、そのコミュニティの中でのやり取りでの評価ではなくて、SNS的な脚光の浴び方というか、興味の高まりというのが、いい意味の評価であったり、悪い意味での拡散であったりということになっているのではないでしょうか。その辺はいかがでしょうか。
【林(和)委員】 それは、オープンサイエンスの情報流通における価値の多次元化や多義化という論点で必ず出るところで、SNSを通じた学術情報流通のコミュニケーションは、必ずしも科学的インパクトの文脈で語られないことの方が多いぐらいに、個人的には思っております。
やはり、要はインパクトですね。しかも社会的なインパクト、もっと掘り下げるとマズローの五大欲求に通じるようなインパクトがある論文ほど拡散されやすいという。要は衣食住に、あとその他ですが、関連するものほど拡散されるという傾向があります。
私は、それはそれで1つのインパクトを見ているので、それを正しく評価につなげればいいという中立的な立場ではあります。いずれにせよ、そういう形で流通させる際もプレプリントというのは一つ役割を果たしているのではないかと。
小安さんの御質問に戻っていくと、そういうふうな情報流通や価値観が多様化する中で、改めてサイエンティフィック・インパクトをしっかり査読で担保するということが再認識されるとか、そういった展開になってくるのではないかと考えています。
【引原主査】 ありがとうございました。ジャーナルが失っていた機能が、一つここで見えているのではないかと思うのですが、過去にも超伝導のときに同じような、フィーバー的な動きがありましたが、あのときなどは、今のようなSNSがない時代でも、プレプリントだけで非常に流通が回って、毎朝のように結果が変わってくるのを追いかけていったわけです。
だから、物すごく急激に立ち上がるときというのは、こういうシステムというのが有効である可能性はかなり高いということなのだろうと思うんです。
【林(和)委員】 はい。あと決定的に違うのは、やっぱりログというか、第三者がタイムスタンプをつけて情報を残せる――プレプリントが残り続ける限りという前提においてですが、そのことが非常に大きいと思います。
もう古い話をすれば、数学者が高名な先生に手紙を書いても引き出しの中に眠ってしまっていて、死後、それが見つかって、大発見だったなんていうエピソードがなくなりやすくなると。完全になくなりはしませんが。
ということで、科学の発展をより促すという、そういったことになるのではないかと思いますし、あとは共同研究、コラボレーションが生みやすくなると。それはインターディシプリンなり、同じ分野、違う分野、それからアクター間、セクター間のコラボレーションが生みやすくなる、そういう仕掛けになるかとは思います。
【引原主査】 ありがとうございます。まだあるかと思いますが、次の御発表に移りたいと思いますので、林さん、どうもありがとうございました。
【林(和)委員】 ありがとうございました。
【引原主査】 それでは、次でございます。筑波大学のURA研究戦略推進室、森本様、よろしくお願いいたします。
【森本URA】 筑波大学URA研究戦略推進室のリサーチ・アドミニストレーター(URA)、森本でございます。本日は「研究成果公開のグローバルスタンダードに向けた筑波大学の取り組み」ということで御紹介させていただきます。
本日の発表のアウトラインですが、人文社会系分野の見える化に、筑波大学はこれまで取り組んできたのですが、その取り組みのまとめのようなものを、このアウトライン沿って説明させていただきたいと思います。
本学のURAは、この筑波大ゲートウェイの広報を主に担当しておりまして、その立場から、本日はF1000の筑波大学ゲートウェイのお話をというお題を、依頼を受けたところなのですが、まずは背景として、筑波大学のゲートウェイ導入に至る経緯を説明させていただきます。
まず、世界大学ランキングの評価項目ですが、既に報道等で何度も出てきていると思いますが、世界大学ランキングの評価項目の中には、論文の被引用数に基づく評価項目というのがございます。大学ランキングで有名なものとしましてはTHEであるとかQSなどがございますが、この論文の評価項目は、Scopus等の論文引用データベースが基となっていまして、中身については英語論文が多くを占めておりまして、それ以外の言語で書かれた論文についてはほとんど収録されていないというのが現状でございます。
現在用いられている評価指標としましては、Impact FactorであるとかSJR(SCImago Journal Rank)、Eigenfactorというものがございますが、これらは引用という側面から出発した指標でございまして、引用という行為にポジティブな評価を認めるということを前提になされているわけですが、分野によっては若干温度差があるということが言えると思います。
そして、人文社会分野の学術誌ですが、この論文引用データベースに収録されにくいという特徴がございます。理由としましては、論文が2バイトの日本語で書かれている。それから、稿末に引用文献一覧をつけない論文も少なくないということでございまして、引用数の集計がしにくいであるとか、見えにくいということでありまして、評価の対象となってこなかったという過去がございます。
そこで、筑波大学の取り組みといたしまして、新たな研究評価指標の開発に着手いたしました。他大学の文系のURAの方にもかなり御協力いただきまして、論文引用データベースに収録されていない学術も含めまして、分野、それから使用言語に関係なく参照できる指標というものを目指してまいりました。
その中でできましたのがiMD、index for Measuring Diversity、そのまま、文字面のままなのですが、多様性を図る指標というものを提案いたしました。
もう1つの取り組みとしましては、11月オープンを予定しております筑波大学ゲートウェイということで、これも後ほど詳しく説明させていただきます。
では、次の話題に行きたいと思います。まずiMDの御紹介ですが、一般論として学内紀要よりは全国学会誌、全国学会誌よりは国際誌という、評価ということについては多くの研究者の同意が得られるのではないかと考えております。
これを定量化するにはどうすればいいのかということで、学術誌の著者所属機関の多様性を定量化してみました。ただし、質は定量化できないと。これは哲学的な話なのですが、Impact Factorももともと質ではなく話題性を定量化した。iMDも、質ではなく多様性を定量化したものとなっています。
iMDは、より多くの国と研究機関の研究者が論文を発表されているジャーナルほど高く出るという仕掛けになっています。特定のジャーナルに1年間に発表された全論文の著者の所属機関と、その立地国の数を基にスコアを算出しております。
Impact Factorと違うところは、短期的なトレンドの変化を捉えられないという特徴と、それから、スコア算出根拠となる被引用数データが透明性が低いということ等々、Impact Factorに問題あると思うんですが、このiMDはデータベースを必要としないので、このような課題はちょっと違うところにあるのかなと思います。
それで、iMDはこちらの式によって算出されます。Cというのはカントリー、国の数で、Aはアフィリエーション、所属機関数ということで、αとβは、今後重み付けができるようにということで係数を置いています。こちらについては、2017年に特許出願、筑波大学より出願しているものでございます。
これではかるとどうなるかといいますと、従来は、資料の白数字の1なんですが、Impact Factorのある学術誌だけが見えているというようなものです。CとかE、Fは日本で書かれた論文で、評価の対象となっていないということが言いたいんですけれども、いろいろな雑誌がある中でImpact Factorがついている雑誌だけが見えている。高数値か「0」かというものです。
あるいは、そういうものではなくて、有名な学術誌も紀要も同じように評価される。1本は1本として本数で評価されるということも行われてきたわけなんですけれども、iMDで数値を出して比較しますと、どの雑誌でも多様性を図っているということですので、多様性が高いです、多様性が低いですということを見ることができるとなります。
ただ、このiMDなんですけれども、今、更なる改良を加えて、iMD2.0として発表する予定で、また機会がありましたら、出来上がった後、お話しさせていただければと考えております。
では、筑波大学ゲートウェイなんですけれども、ここからは、F1000Researchの出版モデルの特徴を簡単に御紹介させていただいた上で、筑波大学ゲートウェイへの投稿方法とか、査読掲載料、筑波大学ゲートウェイの詳細について、詳しく説明させていただきたいと思います。
導入の経緯なんですけれども、2019年2月に、人文社会系分野における研究評価シンポジウムを虎ノ門ヒルズフォーラムでやらせていただいたんですが、ここでは人文社会系の研究評価について、Elsevierの方とかResearch England、それから、F1000 Research社の方もお招きしまして議論を行いました。
ここで登壇していただいたレベッカ・ローレンスという方と、このシンポジウムの後も御縁がありまして、F1000 Research社から、筑波大ゲートウェイの御提案を頂いたというのが最初の導入の経緯です。
F1000 Research社の「研究と学問、そして言語には壁があってはならない」という理念を共有できたことと、それから、日本と世界の学術コミュニケーションに一石を投じたいと考えたのがきっかけではあります。
その後、ローレンスさんが2度ほど来日されまして、そのときに、本学の研究担当の副学長と人文社会系の系長、学長補佐室長、そしてURAが直接説明を受けました。研究担当副学長が、この筑波大学ゲートウェイができた際に学内でどれぐらい投稿する希望があるのかという学内調査を行いました。その調査の結果、一定のニーズがあるということが分かりました。この結果を踏まえまして、最終的には学長に決断していただいたんですけれども、導入することに至ります。今は学内説明会を2回ぐらい実施している状況でございます。
これは後で出てくるスライドを先に持ってきたんですけれども、2020年9月1日から、F1000 Research社がPlan S等の影響を受けまして、料金を改定いたしました。以前は、文字数に応じた金額だったんですけれども、投稿する論文の種別において料金を設定したということになります。仮に文系の論文はというふうに考えますと、Category CのIncludesの下にResearch Articlesというのがすぐ出てくると思いますが、こちらに該当すると思います。大体15万円ぐらいということです。
では、この15万円という値段なんですけれども、文系にとっては、このAPCというのは、この15万円は結構高額であります。そこで、本学人文社会系が独自の投稿料支援プログラムというのを用意しまして、それで、初年度はそれを活用していただきまして、投稿していただくというようなことを考えて、今、走っているところなんですけども、これをグッドプラン、いい例として、筑波大学の全学的にも支援を検討しているということでございます。
また、国内に代理店がなかったので、直接、筑波大学とF1000 Research社が契約の話合いなどを詰めてきたわけなんですけれども、この契約手続に非常に手間と時間がかかりました。本当に大変だったんですけれども、この点につきましてはもうすぐリリースあると思うんですが、最近、代理店ができたと聞いておりますので、ここのハードルもなくなるのではないかという、今後は代理店を通じて契約をするということが可能になると聞いております。
従来の学術誌の主流な査読モデルなんですが、これは先ほど林先生から御紹介がございましたので、簡単に触れる程度で終えたいと思いますけれども、従来の学術誌は、論文を投稿すると匿名で査読が行われまして、査読に通った論文だけが出版されて、論文の著作権は発行する学会とか出版社に帰属するということになります。それに加えまして、論文を読む側も何らかの料金が発生する。オープンアクセスジャーナル以外は何らかの購読料が発生するということになっています。
それに対しまして、このF1000Researchのモデルなんですけれども、こちらは後ほど触れますけれども、投稿すると最低限のチェックが行われまして、それが終わりますと、約2週間程度で論文がウェブで公開されます。公開時は査読なし論文の扱いなんですけれども、DOIはつきます。つまり出版扱いとなりますので、この時点から引用が可能となります。
公開後にオープンピアレビューが始まりまして、査読が終わりますとScopus等の論文データベースに収録されるという流れになっております。そのほかのモデルはこちらにお示ししたとおりですが、時間の関係で省略させていただきます。
筑波大学ゲートウェイの投稿の流れなんですが、一つ一つは後で詳しいスライドで御説明させていただければと思いますけれども、最初、投稿しますと、公開前のトリアージが行われます。その次に、公開前チェックが行われまして、iThenticate等にかけられます。さらに、データの可用性、レビュアーの推奨事項などをクリアしますと公開となって、ここで支払いが発生しまして、公開査読になります。査読者2名の承認を受けますと、Scopus、PubMed、Google Scholarへの収録が始まるということになります。
投稿なんですけれども、投稿できる人と言語はこちらのとおりです。少なくとも共著者の中に筑波大学の教員が入っていること。英語ですと全分野投稿可能、人文社会系の分野については、英語だけではなく、日本語でも投稿が可能ということになります。
こちらは、今の既存のF1000Researchの投稿ページの画面なんですけれども、これは筑波大学ゲートウェイも同じです。最初にArticle Typeを選択しまして、Title、Abstract、Keyword、Authorを順番に入力していきます。
著者については、全ての共著者の役割というのも入力していきます。
こちらのスライドは原稿のファイルをアップロードする画面です。加えまして、データガイドラインに沿ってデータもアップロードする必要があります。APCの支払い方法もこちらで選択をします。
F1000では、論文は、クリエイティブコモンズのCC BY、データはCC0のライセンスで出版されます。この条件に同意する必要がありまして、ここで同意を行います。
最後に、投稿に当たり、共著者から同意を得ていますかとか、二重投稿ではないですねというようなことを確認しまして、ここで誓約を行います。
投稿後は、まず投稿資格の確認が行われまして、共著者の中で1人以上、筑波大学所属の研究者がいるかどうかというのを確認されて、その方が筑波大学の教員なのかというのはもちろんなんですけども、チェックが入ります。次に、剽窃がないかというのを確認されまして、データの可用性も確認します。この段階で、著者には、査読者、最初は恐らく5名だと思うんですが、5名の査読者を推進してくださいねというようなリクエストがここでなされます。
このチェックが終わりますと、論文がXMLに組み直しされまして、公開されます。恐らく英語論文は2週間ぐらいと言われているんですが、日本語論文の場合はもう少し時間がかかるんじゃないかなと言われています。組み終わりますと、筑波大学ゲートウェイの論文として公開されます。これはまだF1000の画面なんですが、Titleがありまして、著者名、Abstractですね。こちらにメタデータというものがありまして、論文もPDFでダウンロードするということが可能になります。
公開査読は、こちらの右側なんですが、オープンピアレビューということで、ここに表示されまして、「?」をクリックしますと、どういったところにレビュアーが疑問を持っているのかということが読むことができます。これも全て公開されています。
査読者2名の承認を得ますと、査読付き論文ということになりまして、DOIも働くと、作り直されるわけなんですが、Scopus、PubMed、Google Scholar等に収録されると聞いております。
こちらの査読画面の一例なんですが、こちらもダウンロードできるようにもなってございます。
では、「誰におススメなのか」ということなんですが、F1000の筑波大学ゲートウェイの説明を今までしてきたわけなんですが、これを研究成果の出版の一つの新たな選択肢として、筑波大学の研究者に活用していただきたいと私たちは思っております。特にこちらに当てはまるような先生方についてはメリットが大きいのではないかと考えております。
値段は、先ほどお示ししましたとおり、Research Articlesですと1,350ドルということになっています。長い論文を出版したいという研究者にとっては、料金設定は、ある方面から見るとお得なのではないかなと考えております。
それでは、最後、まとめとしまして、筑波大学ゲートウェイの可能性を私なりにお示しして、話を終わりたいと思います。
これまで見えにくいと言われてきました文系の研究成果を国際的に見える化するためには、iMD、それから、筑波大学ゲートウェイが有用じゃないかということで導入してまいりました。一つは、研究者は、科研費であるとか、様々な研究費を獲得して、実験、調査などを経て、アウトプットとして論文を出しているわけなんですけども、それは無償で提供されているものなんですが、そこに購読料とか掲載料が発生しているというのが現状でございます。
その版組代としてのAPCは必要経費と言えるのではないかと考えますが、特に理系分野なんですけれども、研究者が無償で提供するものを過度に商品化して、現行の出版モデルに対して、これはちょっとおかしいんじゃないかなと違和感を覚えている研究者は少なくないのではないでしょうか。
筑波大学ゲートウェイが波及しまして、どこの国の言葉でも迅速に、かつオープンに制約なしに研究成果を発信できることがグローバルスタンダードになっていけばいいなと、国際標準になればいいなと願っております。
少し超過しましたが、これで私の発表を終わります。御清聴どうもありがとうございました。
【引原主査】 どうもありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明に関しまして御質問等ございましたら、よろしくお願いいたします。倉田先生、よろしくお願いします。
【倉田委員】 慶應義塾大学の倉田でございます。御説明ありがとうございました。確認させていただきたい点があるのですけれども、現在、F1000で日本語を受け付けるという形を取っているのは、筑波大学さんのこの試みが初めてで、これだけと考えていますが、その認識で間違っておりませんでしょうか。
【森本URA】 はい。おっしゃるとおりです。
【倉田委員】 そうなりますと、この場合、日本語で論文を出す。つまり、F1000に英語で投稿する場合には、F1000の全体の、世界を相手にすることになるので、オープンレビューというのは一つの選択肢として、今もう既に動いているわけですから、ありかもしれないとは思います。しかし、これはレビューのやり方としては、今までと全く違う。しかも、レビュアーの方もオープンになるわけですから、そういう意味では、やはり負担はかなりあるものだと思います。それを英語で世界レベルで行うのではなく、日本で筑波大学さんだけがやられるということの意味はどこにあるんでしょうか。つまり、人文社会系の日本語の論文で、筑波大学の方しか出されていない論文をどなたがレビューするのでしょうか。
学会誌であるならば、学会としてのある種の相互互恵といいますか、そういう考えが働くと思います。しかしそうではなくて、査読を頼まれて、それも非常に大変な今までやったことない査読を引き受けてくれる方がどのくらいいるのでしょうか。日本で初めて行うという理念は非常によく分かるのですが、現実として、これは回るのでしょうか。しかも、著者が5名推奨して、その中から選ぶということですが、F1000の編集委員会の方は日本語の論文は読めないと思うのですが。私が外から見ているとよく見えないところなのですが、その辺はどういう仕組みを使って、この試みを成功なさろうとされているのかという点を御説明いただけますでしょうか。
【森本URA】 倉田先生、どうもありがとうございます。御指摘のとおり、まだF1000Researchのプラットフォーム上で、英語以外の言語で出版をしているというゲートウェイは存在していません。ですので、一つのチャレンジだというふうに筑波大学は捉えています。世界のどこもやっていないところにチャレンジをしていきたいというところが一番大きくて、査読者を見つけるのが大変ということも御指摘いただいていますが、F1000Researchが持っている査読者リストというのは全て英語です。日本語の査読者リストは持っていませんので、著者の方が推薦して、その中からF1000の事務局から査読者に、推薦されましたけれども、レビューしていただけませんかというメールを送って、承諾を得た研究者の方からレビューしていただくというような流れになっております。
【引原主査】 倉田先生、よろしいでしょうか。
【倉田委員】 ということは、日本人の研究者たちの善意に期待してやってみようということでしょうか。
【森本URA】 そうですね。日本人に限るか、限らないかは分からないんですけど、少なくとも日本語が分かる方。
【倉田委員】 すみません。日本人というよりは日本語が分かる方ですね。
【森本URA】 はい。日本語が分かる方に。
【倉田委員】 これは具体的にはいつから始められるのですか。
【森本URA】 今、11月末のオープンを目指して、最終チェックを行っているところですので、早くて11月末かなと思います。
【倉田委員】 分かりました。ただ、やはり日本は特にオープンレビューに関して、ほとんど知識も経験もない方ばかりなので、その理解を得られるのかというのは、難しそうだと思いました。大変チャレンジングなことだなとお聞きしておりました。ありがとうございました。
【森本URA】 ありがとうございました。
【引原主査】 そうしましたら、手を挙げられています谷藤先生、先にどうぞ。
【谷藤委員】 谷藤です。大変インパクトのある御紹介をありがとうございました。大変すばらしいと思う最大のポイントは、筑波大学が大学として挙げて、これを一貫して、これから長期運用していくというのはなかなか勇敢だなと思って、印象深いところです。
これは大学のリポジトリと、それから、たまたまパートナーとしてF1000が入っていますけれども、外部の力を使って、全てオープンな精神でもって、研究の成果として同定しつつ、世の中でもオープン情報源として使ってもらおうという、そういうリポジトリとアカデミックな査読というものと、それから、オープンにするということの三位一体のケースモデルですよね。
これを筑波大学は、これから他領域に広げていこうという計画は何かおありなのでしょうか。
【森本URA】 ありがとうございます。まだそこまで話ができていませんで、初めての試みですので、恐らくこれを振り返るのは三、四年後かなと考えております。申し訳ありません。
【谷藤委員】 はい。そうすると、大学の紀要を超えて、アカデミックなパブリッシングプラットフォームとして目指していこうということなのですね。
【森本URA】 そうですね。そういう考えもございます。
【谷藤委員】 なるほど。これは林さんが御紹介されていたプレプリントという世界の動きと。新しい動きだなと思って、是非成功するといいなと一委員として思いました。ありがとうございます。
【森本URA】 ありがとうございます。
【引原主査】 では、先に。ちょっと待ってください。いっぱい手を挙げられていまして。林隆之さん。
【土井参事官補佐】 林和弘委員の方が先でございました。
【引原主査】 では、よろしくお願いします。
【林(和)委員】 ありがとうございます。私のときの議論とかぶるので、質問というよりはコメントかもしれないんですけれど、多分、今の人文社会系の方々の出版活動を変えるというのは極めて難しいという面がある中で、このプラットフォームを利用する場合は、若い人を中心に、むしろ新しいメディアを作って、世界にアピールしていくみたいな感じにこのプラットフォームを使うのがいいのかなと思う次第で、そうすると、人文社会系は非常にやりやすいポジションにあるというふうに。私はいつも人文社会系は伸びしろがあるという表現をさせていただいているんですけれども。そういったところからの質問で、査読者もそうなんですけど、想定の投稿者とかリサーチコミュニティーとか、そういうのというのは御用意されているんでしょうか。
これは私は出版業界にいたので、新刊ジャーナルを立ち上げるときはやっぱり、立ち上げのところのマーケットをどうつかむかということで、投稿者にある程度息をかけることがほとんどなんですね。なるべくハイインパクトの方と。そういったところのストラテジー。ごめんなさい。最初のコメントと矛盾しますよね。若い人をエンハンスしようと思ったら、そもそもインパクトがない人はなかなか呼べないんですけれども、そこら辺、私はこれは本当に面白いと思っていて、でも、そういった立ち上げのところも新しくいろんなストラテジーが必要になってくる案件だと思うので、その辺り、もしシェアできるような知識や御経験があったらコメントいただければと思います。
【森本URA】 林先生、どうもありがとうございます。本当に、今、F1000 Research社の方とも、この立ち上げ時期は非常に重要だということで、先週もビデオ会議をしていたんですけれども、筑波大学として一つ、取り組みとして御紹介できるとすれば、APC補助です。筑波大学ゲートウェイが構築されますというアナウンスは、全学に向けて何度もやらせていただいておりまして、よし、投稿しようと思っている先生の数というのは把握できないんですけれども、こういう補助があった場合に投稿しませんかというような呼びかけについては、既に手を挙げてくださっている先生がいらっしゃいます。それは補助をするに当たり、タイトルとアブストラクトぐらいは先に送っていただいているので、必ず投稿するんだろうなというふうに思っているんですけれども、それが一定数以上いるような感触で、今のところおります。
【林(和)委員】 追加でコメントすると、多分、これは査読者へのケアも何か必要な感じがするんですよね。今すぐ何か具体的なものはないと思われますけれども、オープンピアレビューは、倉田先生もおっしゃるように、かなり負担感があるので、そのインセンティブもすごい大事かなと思います。すみません。これはただのコメントです。
【引原主査】 では、次の御質問に移ります。次、林隆之先生、よろしくお願いします。
【林(隆)委員】 ありがとうございます。非常にチャレンジングな発表、私も興味深く聞かせていただきました。御質問は、今の林和弘委員とも絡むんですけれども、やっぱり人文社会系の研究文化との整合性なんですけれども、私もいろいろ見ていても、ヨーロッパの方だと、人文社会系も何らかの質をクリアしたパブリケーションのメディアの出版物をカウントするとか、ある程度の標準化を求める方向に行くと思うんですけども、日本で人文社会系の研究評価の業務、もちろん森本さんはお仕事しているから肌身で感じていらっしゃると思うんですけども、人文社会系の研究評価の議論をしていると、やはり研究の多様性であるとか、出版の多様性、あるいはそもそも現実として若い人は査読論文を書くけれども、年配の人はそういう形ではなくて、依頼があって研究論文を書くという、そういうスタイルが、そもそもカルチャーが違うという、そういう状況があるわけですよね。
今回作られているものが一体、例えば筑波大学の中で、人文社会系の研究者の方々の考えている、自分たちの今の研究文化とうまく整合するという意見が得られているのか。それとも、分からないんですけど、例えば経済、経営とか心理でしたら、別にこういう形ではなくても、普通にジャーナル論文を書くような人文社会系の分野ですので、そういうようなところをまずは狙ってやっていくという、そういうスタンスなのか。筑波大学の中での受け止め方をもうちょっと詳細にお教えいただけると有り難いと思います。よろしくお願いします。
【森本URA】 林先生、ありがとうございます。おおよそ若い先生が考えていらっしゃるような、アンケートを採って、お話を聞かせていただいた中には、従来のジャーナルに投稿しますと、早くて半年、長いと2年ぐらい、オープンになるまでに時間がかかることがあります。その間に、任期つきのために、研究室を異動したりというのは多々あると思うんですね。そうすると、自分の研究を、もう一度レビューを受けて、ここ、ちょっと足りないからもう少し調査してくださいというような指摘があったときに、果たして同じことを新しい現場でできるのか。新しい現場で立ち上げて、授業の準備をしている中でできるのかといったときには、この筑波大学ゲートウェイのようなところで、先にそのレビューが始まっていると随分違うんだというような声は頂いております。
【林(隆)委員】 そうすると、例えば今の話だと、若い人で異動しやすい人であるとか、今はポスドクが多いですから、ポスドクみたいな人たちが即座に論文を出したい、あるいは異動して違う業務が発生する前に、しっかりと完成させたいと、そういうニーズがあると、そういう理解でいいんですかね。
【森本URA】 そうですね。査読期間にもよると思うんですけれども、レスポンスがどの程度あるのかに依存すると思うんですが、自分が投稿した時点で言っていたことと、査読中に、大小あると思うんですが、いろいろな発見があった場合に、どちらを優先するべきかというところもありますし、やはり業績を上げないと次の自分のポストが得られないということもありますので、これは全分野に共通することでは全くないと思うんですけれども、ある分野では、もしかしたら先にパブリッシュをしておいて、ずっとパブリッシュをやれるよう受け続けるといったことで、若い方のポストの取り方が少し変わってくるのかなと、そういう可能性はあるのかなと思います。
【林(隆)委員】 ありがとうございます。
【引原主査】 そうしましたら、竹内先生、まだですね。
【竹内主査代理】 ありがとうございます。大変興味深い御報告をありがとうございました。F1000をベースとした筑波大学ゲートウェイに、やはり積極的に学内研究成果を出していきたいというふうに筑波大学さんは思っていらっしゃるんだろうと思うんですが、例えば学内での研究資金提供といったようなことと関連付けて、このプラットフォームへの投稿について、オブリゲーションとまでは行かなくても、推奨みたいなことはされているのでしょうか。
【森本URA】 こちらはしておりませんで、今の段階では、筑波大学ゲートウェイというのができます。特徴はこういったものですというような、紙で配ったり、時にはウェビナーなどを通じて研究者の方に広めているという状況でございます。
【竹内主査代理】 ありがとうございました。
【引原主査】 まだまだあるかもしれませんけれども、御発表に関する御質問、これで終わりにさせていただきたいと思います。
今日お話しいただきました林和弘先生と、筑波大学の森本様、ありがとうございました。いずれの場合も、論文の速報的な公開ということが非常に大きな根拠になっているかと思います。その後の査読まで含めるのか、あるいはそれは出版社に任せるのか。そのシステムの在り方が今変わりつつあると思います。
それも含めまして、この後の中間まとめの議論の方に移らせていただきたいと思います。そうしましたら、まず事務局から資料3につきまして説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【三宅学術基盤整備室長】 事務局でございます。それでは、私から、資料3、中間まとめの案について御説明いたします。
前回、第6回で、中間まとめの前回の案を出させていただきまして、様々な御意見を頂いたところでございます。意見を総括すると、かなり大きく見直しをする必要があると考え、主査とも御相談させていただきまして、全体的な構成の見直し、文章の見直しをして、再度お示しさせていただきます。
本文に入る前に、大きくどのような形で見直したかという全体的な方針について御説明させていただければと思います。
まず第一に、経緯、状況等を含めた全体の加筆と構造の見直しをしております。特に前回の案では、基本的には本部会にて議論したところの部分だけを書いておりましたが、会議の前提となるこの議論に至る経緯であったり、現状の状況についての加筆を行うとともに、特にAPCの部分に関しては、別途項目を設けておりましたけども、コストの話やオープンアクセスの話など、さまざまなところに影響してくる項目ということもございますので、それを全体の文脈の中で取り入れて再構成しております。
2つ目としましては、論点の明確化ということで、先ほどの議論にもありましたけども、ジャーナルの問題は様々な論点があって、それが相互的につながっているということがございます。
前回の中間まとめでは、短期的な課題のみをまとめるという方針で整理したということもあって、その辺りの議論が残されているということについてあまり明示できていなかったと考えておりまして、中間まとめ後の議論においてどういう観点について議論する必要があるのか、補強をすべき点の観点ということで改めてまとめさせていただくということをしております。
3点目としましては、これは簡単な話でございますけども、現状の把握ということで、ヒアリングを通じ、事例紹介させていただきましたが、こちらにつきましては、本文から外して、別添資料という形で整理させていただいております。
改めまして、本文の説明をさせていただければと思います。
まず「はじめに」では、改めて本部会で検討する契機となった流れについて、記載させていただいております。ジャーナルを取り巻く問題、こちらは従来の価格上昇の常態化にとどまらず、その顕在化、諸外国、OA2020やPlan Sの動きが活発化して、日本においても危機感が一層高まっているという状況がある。その中で、日本学術会議や国立大学協会等でも議論の場を設けられるとともに、文科省においても総合的な方策を検討すべきという議論があり、この部会が設置されているという状況でございます。
ただ、多くの研究機関、研究者等につきましては、複雑化するジャーナルの問題の現状とはまた別に、論文にアクセスできなくなること、投稿できなくなること、経費負担の懸念というものがあり、この部会では、まずは喫緊の課題として、購読料価格の上昇及びAPCの負担増への対応について検討するという流れをしたものでございます。それを踏まえて、現時点までの議論について中間的に取りまとめという、このまとめの位置づけを記載させていただいております。
2ポツにつきましては、現状について記載させていただいております。ジャーナルをめぐる状況については日々変化しており、その主導権は大手海外出版社が握っているという状況、論文のオープンアクセス化が、購読価格とAPCと一体的に取り扱う商品として取り込まれて、新たな局面を迎えているという状況でございます。
次のページに参りまして、海外、欧州におきましては、OA2020の活動が活発化していたり、中国では、トップジャーナルの創刊や囲い込み政策が行われるなど、ジャーナルの問題が世界の科学技術競争の主要な要素となっているという状況でございます。
また、オープンアクセス化を大前提として、論文だけではなくて研究データそのものが大きな価値を持ち、今後の次の競争の要素となっているという現状がございます。
また、他方、粗悪学術誌、いわゆるハゲタカジャーナルについて、主にAPC経費を目当てにした粗悪な出版社に、人的ネットワークや研究費が収奪の対象になっているという状況が顕在化している。
我が国の現状としましては、ビッグディールを中心とするジャーナル購読をめぐる国際的な動きについて、雑誌購読の維持、国内出版雑誌による巻き返しなどの動きが定まらなくなっているという状況があり、データの管理運用についてもオープンアクセスによる次の研究への資源とするシステム構築にはまだたどり着いていない状況である。
ジャーナルに限って見ても、大手の出版社を国内に有しない我が国は、ゴールドOAを適宜採用しつつも、グリーンOAを主軸として、研究データの管理方針及び管理計画をボトムアップに決定していかなければ、既存のサービスを利用し続けるしかない。ジャーナル問題は、単にジャーナルの講読経費の削減方策としてのオープンアクセスやAPCという問題にとどまらず、研究振興戦略そのものの問題であるということを指摘をさせていただいております。
以上のような状況を踏まえて、3ポツ、議論の方向性でございます。本部会においては、短期、中期、長期で課題を分け集中的に検討することとしております。
次のページに参りまして、ジャーナル購読価格の問題は、表面上は、ジャーナル購読価格が継続的に上昇して、経費が圧迫されているとともに、ビッグディールという契約形態が浸透した結果、未契約分のジャーナルを閲覧するということが当たり前という学術インフラとなっているという状況がある。
その上で、例えばビッグディール契約を中止した場合、将来のものはもちろんのこと、過去に発行されたものについてもアクセスが維持できないような状況が発生するという危機感が広がっているという状況がございます。
この危機感は、真に利用するジャーナルの選定や、利用状況の分析に基づいた経費負担を検討するのではなく、未契約部分のジャーナルへのアクセスを確保するための契約を維持し続けるという思考を生んでいるのではないか、とさせていただいております。
このような問題に関して、図書館等の学術情報流通部門からの説明と、機関を超えたデータ共有の試みが不足していて、大学等研究機関や図書館と研究者の連携は一向に進まず、情報の独占状態にある出版社との交渉力の差が大きくなっている。
なお、ジャーナルの問題を議論するに当たり、トップジャーナルの創刊という声もございますが、これは認知を受けるまでの作業、期間の膨大さを踏まえると、先導する見通しが立たないという状況。また、我が国の有数の学術情報プラットフォームの重要性を踏まえた戦略的議論に至っていないという状況があると書かせていただいております。それを踏まえて、対応する問題の解析と対応の整理等を次に書かせていただいております。
最初に、研究活動のサイクルにおけるジャーナル問題の位置づけということで、ジャーナルの問題は、単にビッグディールの問題として捉えられてきたという状況がございますが、研究成果全体のデジタル化が進む中、分野によっては、プレプリントが主流になるなどの研究成果公開の場の多様化が進み、かつ、研究データそのものの取扱いが急速に重要視されている。
これらの中、出版社の活動は、研究データの流通等研究活動全体に拡大しつつあり、また、論文をオープン化する流れは、次の研究を誘発すると同時に、研究公正の観点から研究者を守る保証に資する。しかし、今や、これらの全ての活動が出版社等でプラットフォーム化されており、研究活動の全体が出版社のサービスに頼らざるを得ない状況に向かいつつあるという状況でございます。
その上で、次のページ、短期的課題の件でございます。
本部会において、喫緊の課題として与えられた問題は、大学等研究機関の財務会計システム及び各研究者の研究費に大きく関わっている。ビッグディール等の購読価格の継続的な上昇は機関全体の議論が可能であるが、APCについては、個別の研究者の研究費から支出しており、一元的に議論することが難しい。その上で、支払い総額を把握することができない現状がより議論を困難にしているという状況がございます。
さらに、研究者の権利として研究成果の発表の場を方向づけることは避けるべきという考え方から、戦略的な動きを取る諸外国とは異なり、また、主流となる海外出版社のモデルは、我が国の事情と大きく異なるということから、諸外国の戦略をそのまま持ち込んで議論するということも困難である。
これまでの議論を踏まえると、現在、ビッグディール等の購読経費とAPCの経費の最適化が、取り得る最善の手段である。つまり、これまで主として図書館が対応していたジャーナルの購読料の経費とAPCの経費を紐付けし、最適な配分かどうかという観点で出版社と交渉する必要がある。その上で、複数機関間で、それらを併せた規模の設定を行うとともに、契約主体のグループ化等を行って、交渉に当たる必要がある。
JUSTICEにつきましては、モデルの多様化に対応できておらず、研究現場の動きを反映できないという批判につながっています。その上で、また、出版社にとっても、提案する商品が全体として組めないというデメリットを抱えています。
大学等研究機関が各自の最適な契約の形を定めた上で契約内容・経費配分を組み換えて、各大学や大学共同利用機関、国研、国会図書館等も含めて有機的なネットワークを構築する必要があると書かせていただいております。
なお、本部会では、カレントとバックファイルに関して、抱える問題の認識が不十分と捉えて、その関係のヒアリングを行ってきました。その判断に必要な検討事項の情報を収集し、これらの情報を図書館だけではなく、財務部等も含め、研究戦略に基づき参考資料とする必要があるとさせていただいております。
各大学等研究機関においては、契約内容が最適なものであるかどうか、データを収集し、様々な方針等も踏まえて、最も合理的な契約形態を判断することが必要である。併せて、バックファイルへのアクセス維持とその情報の共有とともに、対応し切れない部分についてどのように補うのか。ILLの活用も含めた仕組み構築等の対応も必要であるとさせていただいております。
ここから中期的課題と長期的課題でございます。中期的課題としましては、現在、オープンアクセス誌に掲載された論文と、講読に基づく雑誌に掲載された論文だけのいずれかでも、入手先としては不十分という、過渡期になっていて、中途半端な状態であると当面はその双方に対応しなければならないという状況でございます。
大学等研究機関が負担しなければならない経費の話につきましては、短期的に必要であり、それについては、(2)で書かせていただいたところでございますが、それらは中期的に達成する目標を見据えたものである必要があるということでございます。
補強すべき観点としましては、研究成果公開の在り方、オープンアクセス化の動きの我が国の対応方針ということで、内容としましては、オープンアクセスへの対応、我が国のプラットフォームの在り方、論文と研究データの紐付け、機関における研究データポリシーの明確化等が挙げられるのではないかと考えております。
また、長期的な課題としましては、そもそも研究をどのように評価し、それを支える新たな研究に挑戦できる環境を作れるかどうかという観点でございまして、補強すべき観点としましては、研究成果の発信力強化及び研究評価の関係ということで、研究評価の在り方に伴う学術情報流通への影響、理想的な学術情報流通モデル、粗悪学術誌への対応の必要性という点が補強すべき観点と考えております。
今後、こちらの中期的課題、長期的課題の議論を進めて、集中的に討議するとともに、これまでの指標にはない評価の可能性を具体的に検討し、その必要な条件の検討を進めることとする、とまとめさせていただいております。
この後、参考資料1としましては、合理的な契約判断のためのヒアリング事例、参考資料2としましては、講読・出版モデル導入に係るヒアリング事例について、内容をまとめさせていただいております。こちらにつきましては説明を省略させていただきます。
以上でございます。よろしくお願いいたします。
【引原主査】 ありがとうございました。前回、中間まとめの案というか、素案を出していただいて、その際に頂きました御意見に基づきまして、それまでの委員会での議論、それから、前提となる、この委員会を立ち位置ですね。それも含めた上でまとめ直していただきました。これまで議論したことは短期的な課題というポイントに集中させて、今回、今日も含めまして、中期的あるいは長期的な課題をどこを議論すればいいかということもまとめ直していただいたものでございます。
前回頂いた御意見のかなりの部分を反映していると思いますけれども、忌憚のない御意見をいただければと思います。よろしくお願いいたします。いかがでしょうか。小安先生、どうぞ。
【小安委員】 ありがとうございます。短期的課題のところを読んで、結局、この結論をどこに持っていくかというのは、まだ相変わらず曖昧で、これはいつまでにまとめるということになっているのでしょうか。まずそれを聞きたいのですが。
【引原主査】 これは主査として申し上げますけれども、この中間まとめに関しては、情報委員会の方にも報告いたします。中間が今日とすれば、今日の時点でのまとめとして報告していきたいと思っております。
その後、もちろん最終的なまとめに向けて修正していくことは当然やりますので、現時点でどう議論があって、理解されているかということになるかと思います。
【小安委員】 これは今期中にまとめるということですか。
【引原主査】 いえいえ。中間まとめは。
【小安委員】 中間まとめは分かりますが、最終報告はどうなるのでしょうか。
【引原主査】 今期中には、今期としての結論は出します。
【小安委員】 はい。わかりました。中間まとめの中でもまだ各機関が検討しろとかを書いてあるので、そんな悠長なことを言っていて間に合うのかなと、そういう感じがしておりました。例えばこれは……。
【引原主査】 いや、それはこの委員会の設定条件、設定はどういうことを議論すればいいかということをもう一度洗い直すことが一番重要だったと思うんです。ですから、短期にこうしなさいという前に、それは各機関がどうすべきかということをここで議論してきたんだと思います。小安先生の思いはあるかもしれませんけども、それは議論していないことですので、それは書くことはできないわけです。
前回もそういう意見がかなりたくさんあったんですけども、要するに、議論していないことを皆さんかなりおっしゃっていて、それはまとめにはならないわけです。ですから、今回議論して、ここで、あと、各機関がどうすべきかということの問題提起をしているというふうに理解していただいた方がいいかと思います。
【小安委員】 ですから、私は、この中間まとめは中間まとめとして、最終的にまとめるときには何らかの結論を求めていらっしゃるのかどうかということを伺いたかったのです。
【引原主査】 それは、この委員会としては、今期というのが、これが1期で終わるのか、3期につながるかというのは、そこは分からないんですけれども、最終的にはまとめを出さないといけません。あずけた部分に関してはこうするべきだというのは提言として出していくのが正しいと思います。
【小安委員】 なるほど。そうすると、例えばここも、参考1、参考2というように、参考でしたね。そこにいろいろな項目が書いてあって、例えばこういう情報を集めるとか。そうすると、これをやった上で、例えばビッグディールの解体ということもはっきり書かれていますけど、それを最後のまとめに書くかどうかも、集めた情報を踏まえた上で決定しようというのが主査のお考えというふうに理解してよろしいですか。
【引原主査】 はい。私の考えとしてはそうです。
【小安委員】 分かりました。まず進め方に関して伺いたかったので。どうもありがとうございました。
【引原主査】 今までデータもないまま、あるいは想像だけで議論していることが多かったわけですけれども、そうではなく、具体的なもの、これまで出していただいたものを含めて、それをベースにどうあるべきかというのを出していくというのが結論だと考えています。でなければ、同じことを何回も何回も繰り返すことになりますので、それだけは避けたいと考えております。
【小安委員】 よく分かりました。おっしゃる意味はよく分かりました。私は賛成です。
【引原主査】 ありがとうございました。
次、池内先生、どうぞ。
【池内学術調査官】 池内でございます。とても単純な質問で恐縮なんですけれども、5ページ目の中期的課題のところの囲みの部分の補強すべき観点というところで、1つ目のオープンアクセスへの対応ということが書いてあって、ここだけ非常に何かふわっとした表現になっていて、オープンアクセスの論文を増やすという話なのか。グリーンオープンアクセスを増やすとか、そういう話なのかどうなのか。詳しくお聞かせ願えますか。
【引原主査】 これは本当にアバウトに書かれてしまいましたけれども、今日、お話あったプレプリントなど、あるいはF1000の話もあるかと思いますが、オープンアクセス自身がいろんな多様な形を持っていますので、それ自身をどう取り込むべきかというのがここの議論になるかと思います。
ですから、単にグリーンだけではないというのが今日の御報告をしていただいた理由でもございます。
【池内学術調査官】 分かりました。ありがとうございました。
【引原主査】 それでよろしいでしょうか。
【池内学術調査官】 はい。
【引原主査】 だから、その次のプラットフォームの在り方というのも同じような話になるかと思います。
いかがでしょうか。倉田先生、どうぞ。
【倉田委員】 倉田でございます。全体としては、今の主査の御説明も含めて理解いたしましたし、大変御努力いただきまして、非常に分かりやすい構成になっていると思います。
ただ、文章の幾つかのところで意味が取りにくい表現になっているところがありまして、その辺、個別にコメントを後で送らせていただくというのはお許しいただけますでしょうか。
【引原主査】 もちろん、それは委員の先生方皆さんに最後にお願いしようかと思っていまして。
【倉田委員】 そうですか。はい。結構でございます。
【引原主査】 先月から今月の間というと、2週間の間に、かなり皆さん汗をかいてくださいましてここまで来たんですが、多人数の意見が重なっていますので、ぶきぶきした表現になっております。ですから、後でというか、もうここでお願いしますけども、委員の先生方、終わりましてからでも、ここはどうかというのを書き込んで送っていただけますとうれしいと思います。よろしくお願いいたします。
大きなところで、この方向性はどうだというような御意見ありましたら、いただければと思います。
阿部先生、お手を挙げていただいていますか。はい。
【阿部オブザーバー】 私も大変、前回に比べて、非常に充実した内容になったなと拝読させていただいているんですけれども、先ほど御質問もありました5ページの中期的課題、長期的課題のところの、主には書き方の方かもしれませんけれども、非常に囲みのところが、大事なものは項目として記載されているということではあるんですけども、これはこういう形で、一応中間報告ですけども、形はこういう形になるものなんでしょうかという質問なんですけどね。
上の方がかなり様々、文章的に記載されているのに対して、この中期的課題、長期的課題が項目的に4つずつ。4つ、5つ、列記されていまして、逆に強い印象を与えるんですけれども、こういった形で、ある程度中間報告とされる予定なのか。それとも、少し言葉にしていくのかですね。特に気になったのが長期的課題の1番目なんですけれども、研究評価というのが一番初めのときから非常に問題になっていて、大事だなという御認識だったと思うんですけども、研究評価の在り方に伴う学術情報流通への影響ということだとすると、研究評価の在りようによっては様々な情報流通が関わってくるんだよというふうな、そういう理解でいいのか、もうちょっといろいろあるのか。逆に、いろんなことを読んでほしいということなのかですね。そこら辺、いろいろあると思うんですけど、確認といいますか、教えていただきたいと思います。
【引原主査】 まず形式に関してですけれども、ここまで議論してきたのは、前回まで議論してきたのが短期的な課題のところまででしたので、そこまでは文章化をさせていただきました。中期的課題については、今後こういうことを議論しないと、中期的な課題の解決には至りませんよということで挙げたかったわけです。4つの項目というのは、別にこの4つをもっと増やしていただく、あるいは、これは違うんじゃないかという御指摘を頂いたらいいかと思っています。
変な言い方ですけども、全体としてどうあるかというのを最初に考えさせていただいて、中期的課題として残されているのは何だろうかということを箇条書した結果としてこうなっているので、そのときの原文のまま出てきている可能性があります。御指摘を是非いただければと思います。
こういう囲みで出すというのは結構強いイメージですけれども、中間まとめに関する今までほかのいろいろな委員会の経験から、何となく文章で流すよりは、この部分は議論されなければ中期的には課題が解決されないということを示した方がいいのではないかと私自身は思っております。ですので、今、この形で出していただきました。
【阿部オブザーバー】 ありがとうございます。私も前回申し上げたような気がしますけど、時期的な、短期、中期、長期とか分けた上で、短期的なところはここ、中期、長期に関しては、確かに引原先生がおっしゃるように、明瞭なことというのがある意味、見えないけれども、課題的にははっきりしているということがあるとすれば、少し強いメッセージを発するという選択肢はあるかなということで承りました。
【引原主査】 形式的にやっぱりこれが問題であるというような御意見を頂いても、それは全然問題ありません。どういうまとめ方を中間まとめでするかということだと思いますので、主にはこの短期的なところまで一旦まとめたという形にしております。
小賀坂さん、どうぞ。
【小賀坂委員】 小賀坂でございます。中期的課題と長期的課題の四角囲みについて、今、議論になった部分について、第2回の資料を眺めていて、長期的課題については、粒度も方向感も大変よろしいと思うんですけども、中期的課題についてちょっと思うのですが、第2回の資料では、オープンアクセスジャーナルですとかデータジャーナルという、ジャーナルという言葉を使って説明されていたところが、今、オープンアクセスというものに変わっているのと、それから、研究データポリシーという項目が入っています。ちょっと触れている方向が当初の問題提起と少しずれているかなという気がしております。
あと、これは私は分かりませんが、中期的課題の中にも、諸外国における取り組みとの連携という文言がありまして、これは多分、プラットフォームの在り方のところで出てきた課題かと思います。これもやはり、この紙ができますと、これで一定程度、今後の議論の方向性が定まってしまうと思うので、中期的課題のところはもう少し、第2回の資料など、当初の議論とのリンクももう少し検討の余地があるのかとは思いました。
以上です。
【引原主査】 ありがとうございます。ジャーナルという言葉は外しているのは、先ほど申し上げたように、いろんな形態が出てきているということも含めて、オープンアクセス自身がどうあるのかということで、少しアバウトになっています。ですので、ジャーナルに戻した方がいいという御意見であれば、ジャーナルも含めてという形で、これは表現を何らかの修正はした方がいいかと思います。
最後の研究データポリシーの明確化というのは、これはデータジャーナルに引っ張られている部分があるので、それがなければ、なかなかデータジャーナル等には、日本の場合は上手くいかない、出版することはできないと思いますし、今後の戦略のこともありましたので、ここを書いてもらって、そのままにしておりますけれども、ここもこれまでの議論の言葉に合わせるように調整させていただきます。ありがとうございます。
ほか、いかがでしょうか。もう時間もあまりないので、ここではというのを言っていただければよろしいかと思いますが、いかがでしょうか。
そうしましたら、時間も来ておりますので、事務局の方で、申し訳ないんですが、先ほど倉田先生から御指摘ありましたので、この後で、文言の修正、あるいは、ここが分からないというようなところを御指摘いただくと同時に、解決案も一緒に送っていただけますと、それは非常に有り難いと思いますので、よろしくお願いいたします。
大きな枠組みとしては、今日はお認めいただいたものとさせていただきますけれども、それでよろしいでしょうか。はい。では、中間まとめとしては、一旦この形で議論を終わらせていただきまして、あと、まとまったものをメール等でもう一度皆さん方に確認していただき、その上で、上の委員会に一旦報告するということにさせていただきます。
では、最終的な確認の上で、またよろしくお願いしたいと思います。どうもありがとうございました。
では、この後は、お時間になりましたので、事務局からよろしくお願いいたします。
【土井参事官補佐】 事務局でございます。本日の議事録につきましては、各委員に御確認いただいた上で公開させていただきたいと思います。
次回、第8回以降の日程につきましては、今、画面共有しておりますとおり、候補日を設定させていただいております。開催方法も含めまして、決まり次第、御連絡させていただきたいと思います。
事務局からは以上でございます。
【三宅学術基盤整備室長】 1点だけ。先ほど、追加の御意見についてはメールでお送りいただくとなりましたので、締切り等も含めて、一度、事務局からも御案内させていただきますので、よろしくお願いいたします。
以上でございます。
【引原主査】 そうですね。Wordのファイルで送っていただいた方がよろしければ、皆さん方、そこに書き込んでいただいたらいいと思いますので、よろしくお願いします。
よろしいですか。
【三宅学術基盤整備室長】 はい。承知いたしました。
【引原主査】 では、今日は長い時間、ありがとうございました。閉会させていただきます。どうもありがとうございました。

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