第1章 1.検討の背景及び目的

 「気候変動に関する政府間パネル(注3)(IPCC)」は、平成19年のノーベル平和賞受賞の大きなきっかけとなった第4次評価報告書第1作業部会報告書において、「気候システムの温暖化は疑う余地がない。このことは、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。」と述べている。ノーベル平和賞の受賞は、地球温暖化に関する世界の議論に対し、長年に亘る科学者の地球観測の成果により得られた客観的な科学的根拠をもってその見解を提示したことが評価されたものである。
 更に、同報告書第2作業部会報告書は、「最も厳しい緩和努力をもってしても、今後数十年間の気候変動の更なる影響を回避することはできないため、その適応は、特に短期的な影響への対処において不可欠となる。」と述べており、気候変動への適応の重要性が指摘されている。また、第3次評価報告書以来、気候変動の影響に関する研究数は大きく増加し、データセットの質も改善されたものの、観測データや文献の地理的分布に偏りがあり、特に開発途上国においてこれらの不足が目立つことを指摘している。
 この様な状況下において、衛星観測、海洋観測及び陸域観測並びに地球環境の予測といった取組や、これらにより得られたデータを有用情報として提供する役割が、今後もますます大きくなっていくことは明確である。
 昨年11月に南アフリカのケープタウンで開催された第4回地球観測サミット(注4)では、気候変動をはじめとする地球観測の国際的な連携の強化等が合意されている。また、同年12月にインドネシアのバリ島で開催された「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)(注5)第13回締約国会議(COP13)」では、条約の下に平成25年以降の枠組み等を議論する新たな検討の場を設け、平成21年末までに作業を終えることなどが合意された。
 本年6月に開催されたG8科学技術大臣会合では、議長サマリーにおいて、「気候変動のメカニズムを明快に理解することを可能とする観点から、最新の科学技術を用いた全地球観測、予測、データ共有の重要性が指摘された。我々は、国連の専門機関プログラム(WMO、UNEP、IPCC)及び全球地球観測システム(GEOSS)を通じて、努力を積み重ねることをコミットした。」とされた。また、同年7月に開催されたG8北海道洞爺湖サミットでは、環境・気候変動が主要テーマの一つとして取り上げられ、首脳宣言において、「地球観測データに対する需要の増大に応えるため、我々は、優先分野、とりわけ気候変動及び水資源管理に関し、観測、予測及びデータ共有を強化することにより、国連専門機関の事業を基礎とした全球地球観測システム(GEOSS)の枠内の努力を加速化する。我々はまた、地球観測における開発途上国のキャパシティ・ビルディングを支援するとともに、相互運用性及び他のパートナーとの連携を促進する。」ことが合意されるなど、気候変動問題に対する地球観測への期待が一層高まってきているところである。本章においてはこのような動きを受け、気候変動とその影響を監視・予測するための観測体制の在り方を示すこととする。

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