平成22年度戦略目標-メニーコアをはじめとした超並列計算環境に必要となるシステム制御等のための基盤的ソフトウェア技術の創出

1.戦略目標名

 メニーコアをはじめとした超並列計算環境に必要となるシステム制御等のための基盤的ソフトウェア技術の創出

2.具体的内容

 スーパーコンピュータ(スパコン)を用いたシミュレーションは、従来の理論・実験とは異なる新しい研究手法を実現し、科学技術のブレークスルー達成や国際競争力の強化に資するものであり、その重要性はますます高まっている。その利用分野は、素粒子物理等の基礎科学からものづくり等の産業応用まで多岐にわたっており、また、環境・エネルギー、健康・医療、安全・安心等の社会課題解決への貢献も期待されている。
 このような中、シミュレーションに求められる精度は高まる一方であり、また、扱うデータも爆発的に増大している。特に、観測機器の高度化に伴うデータの増大が加速しており、例えば、次世代シーケンサは個人のゲノムデータを日々蓄積し、地球観測衛星からは日々大量の観測データが送られてくるといった状況にある。このような大量のデータを最大限に活用したシミュレーションを行うことが可能となれば、例えば、次世代シーケンサのゲノムデータから遺伝子の振る舞いが細胞や臓器にどのように影響するかという問題を全身スケールで予測することが可能になると考えられる。これは、手術前の評価や実験が行い難い事象に対する事前検討を行うことを可能とするものであり、従来の診断や治療の概念を根本的に転換する可能性がある。また、地球観測衛星から日々送られてくる大量のデータを用いて生物・化学過程を含んだ高精度な気候シミュレーションにより、地球環境-人間社会系の相互作用を含めた精緻な予測が行えることとなり、さまざまな政策決定や社会システムづくりへの貢献が期待される。
 以上のように、大量のデータを用いた大規模・複雑なシミュレーションを実現することは、多様な科学技術分野における革新的な成果に大きく貢献し、社会的、経済的に大きなインパクトをもたらすものと考えられる。
 平成24年に稼働開始となる次世代スーパーコンピュータでは10ペタFLOPS級の計算性能が実現することになるが、アプリケーションは、CPUレベルで8万並列(コア数で64万並列)を超える環境下での開発が求められている。今後の計算機開発の方向性からも、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を用いたCPUのメニーコア(Many Core)化や並列度が高まる傾向は明らかであり、大規模化・複雑化するシミュレーションを実現するためには、超並列コンピュータを明確に意識した先導的な取組が必要である。例えば、現在のノード間の並列は手動並列によって実現しているが、数十万を超える並列環境にあっては別の手法が必要となる等の将来のスパコン開発・利用における問題点が明確になっている。
 上記のような課題の解決には、従来のハードウェアとアプリケーションを中心とした研究開発だけではなく、両者を繋ぐソフトウェアであるオペレーティングシステム(OS)やミドルウェア、言語、コンパイラ、ライブラリ、開発支援ツールといったソフトウェアレイヤ(階層)に着目し、それぞれの要素を協調させた研究開発(例えば、将来の超並列時代におけるハイブリッド並列プログラミング手法や、超並列化されることによって発現する大量のファイルI/Oによる性能劣化への対処として超並列分散ファイルシステム等についての研究開発が考えられる)に取り組むことが重要である。
 具体的には、ハイブリッド並列プログラミング手法としては、ノード内におけるメモリ転送性能がボトルネックになることを見越した「メニーコア環境におけるプログラミングモデル、言語、コンパイラ技術」、「コアに最適にタスクを割り当てるOS、ミドルウェア」等の研究開発、ノード間制御としては、将来のスパコンが数千万を越えるノード数になった場合でも利用者に負担をかけることなくスパコンを効率的に利用できる「分散並列プログラミング」、分散並列プログラムを実現する「プログラミング言語およびコンパイラや数値計算ライブラリ研究」等のノード間での自動並列を実現させるための研究開発等が考えられる。分散並列ファイルシステムとしては、「OS内部の処理機構(ネットワークプロトコルなど)」、「並列I/Oライブラリ」等の研究をしつつ、ファイルシステムとして重要な役割であるデータ保全も念頭においた上での研究開発等が考えられる。
 本戦略目標では、超大規模シミュレーションやデータ解析を要する課題に対応するため、研究室単位の技術シーズをそれぞれの要素技術の協調を考慮しつつ高度化し、将来的な超並列システムの構成要素となることを目指したスーパーコンピューティング基盤技術の研究開発に戦略的に取り組む。これにより、新たな機能、手法の必要性やハードウェアに対する斬新な要求事項等、計算科学技術の革新的な展開を創出することが期待される。

3.政策上の位置付け

 本戦略目標は、戦略重点科学技術「科学技術を牽引する世界最高水準の次世代スーパーコンピュータ」に該当する。
 また、第3期科学技術基本計画分野別推進戦略では、「スーパーコンピュータを継続的に開発するために、スーパーコンピュータ用に開発されるプロセッサ、並列ソフトウェア等の技術が、情報家電等我が国の主要産業の国際競争力を高める形で応用できるよう開発戦略を策定する必要」があるとされている。さらに「重要な研究開発課題」として、研究開発基盤を構成する情報通信分野に関し、「課題解決力や国際競争力の高いサービス提供を可能とする次世代のオープンアーキテクチャ及びその開発基盤の整備」が位置付けられており、具体的には、「技術としてはソフトウェアが鍵となり、オペレーティングシステム、ミドルウェア、コンパイラ等の基本ソフトウェアすべてをオープンアーキテクチャに基づいて俯瞰的に設計するとともに、それらによって構成されるオープンシステムの課題解決力や国際競争力を確保することが必要」とされている。本戦略目標はこれらに則るものである。
 また、「新成長戦略(基本方針)」(平成21年12月30日 閣議決定)では、「(5)科学・技術立国戦略」に(科学・技術力による成長力の強化)と(研究環境・イノベーション創出条件の整備、推進体制の強化)が挙げられており、このうち「優れた人材を育成し、研究環境改善と産業化推進の取組を一体として進めることにより、イノベーションとソフトパワーを持続的に生み出し、成長の源となる新たな技術及び産業のフロンティアを開拓していかなければならない」、「世界中から優れた研究者を惹きつける魅力的な環境を用意する」の箇所について、本戦略目標による推進が図られるものと期待される。

4.本研究事業の位置付け、他の関連施策との切り分け、政策効果の違い

 スーパーコンピュータを用いた計算科学技術の振興は、科学技術のブレークスルーや国際競争力の強化に資するものであり、日米間だけでなく中国も含めた世界的なスパコン開発競争が激化している。とりわけ米国では、次々世代のスーパーコンピュータの性能であるエクサ、ゼッタFLOPSを目指すハードウェア、アプリケーションの両面からの検討がDOD、DOEを中心に企業や大学も参画して開始されている。
 我が国における関連施策としては、平成18年度からの「次世代スーパーコンピュータの開発・利用プロジェクト」が挙げられるが、同プロジェクトは10ペタFLOPS級の計算機を開発するものである。本戦略目標は、これを超える将来のスーパーコンピューティングに活用される基盤技術の創出を目指すものである。

5.将来実現しうる成果等のイメージ

 本戦略目標の下での研究により、ハードウェアとアプリケーションをつなぐ基幹的ソフトウェアが強化され、将来の超並列環境下における大量データの処理の高効率化が期待できる。その結果、ハードウェアの性能を十分に引き出した高精度のシミュレーションが可能となる。
 また、IT分野における基盤技術の確立に継続的に取り組むことにより、スーパーコンピューティング分野のみならず我が国のIT分野全体の技術力の向上に資することとなり、関係分野における人材育成も可能となる。さらに、確立される基盤技術が新製品へ展開されることが期待される。

6.科学的裏付け

 「電子情報通信分野 科学技術・研究開発の国際比較2009年版」(JST研究開発戦略センター)には、スーパーコンピュータについて、「日本で開発された地球シミュレータが2002年から約2年半にわたり処理性能でトップの座を占めた。その後、一時低迷が見られた日本の開発力は、次世代スーパーコンピュータプロジェクトにより復活しつつある。これを持続させるための施策が重要」と記載されている。本戦略目標は、この指摘に対応した取組を行うものであり、将来のスーパーコンピューティング実現のための基盤技術の創出を行うものである。
 また、現在、我が国の大学の研究室等では、コンパイラ等のソフトウェアやOS等について、将来のスーパーコンピュータや情報関連機器の開発に利用可能な先端的な技術開発が行われているところ。これらの取組をベースに将来のスーパーコンピューティングの基盤技術の研究開発に取り組むことにより、飛躍的な成果が期待できる。

7.留意点

研究実施にあたっては、本戦略目標下での研究成果が実際に利活用されることが重要であることから、アプリケーション研究者等の計算機ユーザの参加を得つつ研究開発を進めることが好ましい。効果的な研究開発を促すため、特に重要な技術に集中して進めることが期待される。
 また、将来的なシステムインテグレーション等の開発に関する基盤技術の確立のためには、企業と情報を共有しつつ研究開発を実施する等の産学連携が重要であり、また、国際連携の促進も期待される。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

電話番号:03-6734-3982(直通)

(科学技術・学術政策局計画官付)

-- 登録:平成22年09月 --