細胞・遺伝子研究評価作業部会

プログラム名 評価時期 課題名 代表者 所属機関 課題概要 総合評価 今後の進め方 評価結果概要
若手任期付研究員支援 事後 血管内皮、血球細胞の発生・分化機構の解明 依馬 正次 筑波大学 マウス個体を用いて血管内皮、血球細胞の発生・分化機構を分子レベルで解明し、約1世紀前に提唱された血管内皮・血球の共通の前駆細胞であるヘマンジオブラストの存在を検証すること、及び新規血管内皮・血島特異的遺伝子を単離し、胚発生時の造血や血管新生における機能を個体レベルで解明することを目的とした。 C 該当なし 「ヘマンジオブラストの存在の検証」及び「新規遺伝子群の血管内皮、血球細胞の発生・分化における機能解明」について、所期の目標を達成していない。研究計画については、血管内皮、血球細胞の発生・分化における機能解明、に焦点が絞られていなかった。そのために中途半端な結果に終わっており、改善の余地があったと考えられる。新規遺伝子の発見・解析においては、中間評価を反映させた。学術的に興味ある、重要と思われる成果が出ている部分もある。以上より、所期の計画以下の取組ではあったが、一部で当初計画と同等又はそれ以上の取組もみられると評価できる。
若手任期付研究員支援 事後 構造形成要素に基づく蛋白質構築原理の解明 新井 宗仁 独立行政法人産業技術総合研究所 「アミノ酸配列から蛋白質の機能を明らかにする」というポストゲノム時代の最重要命題を解決し、ゲノム資源を産業へ活用することが世界的な競争になっている現在、蛋白質の立体構造構築原理の解明は急務である。そこで本研究では、「構造形成要素」という蛋白質構造の基本単位に着目し、「文(=アミノ酸配列)」「単語(=構造形成要素)」「文法(=構造形成要素の連結法)」というアナロジーにより、蛋白質の立体構造構築原理を新たな観点から解明することを目標とした。 B 該当なし 構造形成要素間相互作用の検出方法、構造形成要素の理論的同定法等を開発したことから、所期の目標を達成している。ロスマンフォールドに限ってではあるが構造形成要素を実験的に確認し原著論文を発表したことから、所期の計画と同等の成果が得られている。モデルとなるタンパク質で、構造形成要素を詳細に確認した後、同じロスマンフォールドを持つタンパク質や他のフォールドのタンパク質について解析を行うという手順は概ね妥当な計画ある。以上より、ロスマンフォールドに関する構造形成要素の性質を詳細に示し、構造予測のみならず、機能予測にもつながる研究の展開が期待されることなどから、所期の計画と同等の取組が行われていると評価された。
若手任期付研究員支援 事後 DNA二重鎖切断修復制御のメカニズム 篠原 美紀 大阪大学 DNA二重鎖切断の二つの経路(非相同末端結合と相同組み換え)の細胞周期依存的な使い分けについて、その分子メカニズムを明らかにし、真核生物、特にヒト細胞のDNA二重鎖切断末端修復時における、細胞周期とDNA修復との間の連携メカニズムとしての制御機構の全容を明らかにすることを目標とした。 B 該当なし 哺乳類の二重鎖切断修復制御のメカニズムを解明するには至っていないことから、所期の目標をやや下回っていると評価された。酵母を用いて非相同末端結合おけるMRX複合体の機能を具体的に示し、、論文発表も十分行ったことから、所期の計画と同等の成果が得られていると評価された。ヒトの系への還元を常に心がけながら、当初のヒトの培養細胞を用いる計画を酵母の系に変更した点は、状況に柔軟に対応した結果であり新しい知見を得ることができたことから、概ね妥当であると評価された。以上より、ヒトでの解析には至らなかったものの、酵母を用いて独自性の高い結果が得られていることから、所期の計画と同等の取組が行われていると評価された。
若手任期付研究員支援 事後 脳内分散情報の視床による注意統合機構 小村 豊 独立行政法人産業技術総合研究所 脳はどのようにしていったん細分化された情報を統合しているのか、という結びつけ問題は、現代脳科学の本質的なテーマである。注意が特徴を統合する上で重要と考え、ほぼすべての脳領野と双方向性連絡をもっている視床に注目することにより、結びつけ問題を解決することを目的とした。 A 該当なし 情報統合実験に必要なシステムを自ら開発し、サルを使った視覚系内部の統合と、ラットを使った視聴覚統合の二本立てで研究を進めて結果を出していることから、目標を達成している。初期知覚系に位置づけられる視床において、すでに結合機能が表現されていることを電気生理学的に明らかにしたことなどから、所期の計画以上の成果が得られている。サルの行動課題を状況に応じて変更するなど、研究の進捗状況に応じて柔軟に対応した。以上より、視覚と聴覚の統合が一部視床で行われていることを証明したことや、将来的には認知症のリハビリなどへの応用が期待できることから、所期の計画以上の取組が行われていると評価された。
若手任期付研究員支援 事後 哺乳類での突然変異誘発の分子機構の解明 増田 雄司 広島大学 本研究は突然変異誘発の主要な原因である損傷乗り越えDNA合成とその制御をつかさどるタンパク質因子を網羅的に精製し、損傷乗り越えDNA合成装置を試験管内で再構成することで、ヒトでの突然変異誘発の分子機構を解明することを目的とした。 B 該当なし 所期の目標以上に多くの再構築に必要なタンパク質やタンパク質複合体を精製し、損傷乗り越えDNA合成反応を再構成した。精製されたDNA合成関連タンパク質因子の一つである、REV1の新しい生化学的性質を明らかにしたことから、所期の計画と同等の成果は得られている。研究を5つのサブテーマに分け、一つ一つ積み上げて着実に実行し、興味深い成果を上げていることから、概ね妥当である。以上より、損傷乗り越えDNA合成とその制御系のタンパク質の網羅的精製を目指した点など研究の進め方に関しては、生物反応を試験管内で再構成することができたことから、所期の計画と同等の取組が行われていると評価された。
若手任期付研究員支援 事後 哺乳類における受精後期の分子機構の解明 山縣 一夫 筑波大学 体細胞クローンでは胚の発生率の低さや産仔の胎盤の肥大、個体の肥満といった異常を示すことが最近になり明らかになってきている。これは、受精後期でみられる一連の形態、分子レベルでのイベントこそがその後の発生やエピジェネティックな表現型に重要であり、クローン技術では、これがバイパスされてしまうことにより異常が引き起こされるのではないかと考えられている。本研究では、受精後期でみられるイベントについての詳細な分子メカニズムを明らかにするとともに、その現象がエピジェネティクスに与える影響を解明することを目的とした。 B 該当なし 卵子に持ち込まれる精子由来因子の機能解明は未達であることなどから、所期の目標をやや下回っている。初期胚のライブセルイメージングシステムは、胚のDNAメチル化をリアルタイムで観察できる点で、世界的にも水準が高く社会的な波及効果もあることから、所期の計画と同等の成果が得られている。チャレンジングな内容であり、問題設定、アプローチともに妥当で、蛍光ライブセルイメージングの実験に絞ったことにより成果が得られていることから、概ね妥当な計画である。以上より、蛍光ライブセルイメージングシステムを開発したことは大きな成果であり、今後の発展が期待されることなどから、所期の計画と同等の取組が行われていると評価された。
若手任期付研究員支援 事後 膜蛋白質を介したシグナル伝達の構造的基盤 三島 正規 首都大学東京 シグナル伝達に関与する膜タンパク質、及びその膜タンパク質と相互作用するタンパク質群の構造解析を行い、シグナル伝達機構の解明において構造的基盤を与えることを目的とする。また、膜タンパク質は実験上の扱いの困難さゆえに構造解析が遅れていることを鑑み、測定手法において新規の手法の適用を試みることにより、膜タンパク質の構造解析の一般的な手法としてのさきがけとなることを目標とした。 B 該当なし 新しい解析法(樹脂固定化NMR法)の改良を行い、多くの膜タンパク質の構造解析に応用したという面では十分であったことから、所期の目標を達成している。論文の質量ともに申し分なく、NMRの専門家として、新たなNMR解析法による共同研究を精力的かつ着実に行っており、所期の計画以上の成果が得られている。フォボロドプシンの複合体構造解析及び情報伝達機構の解明という当初の計画が十分に遂行されたとはいえず、やや不適切であった。以上より、研究の進め方に関しては、強い独自性はないが、正攻法で綿密で粘り強い実験を行った結果、生物反応を試験管内で再構成することができたことから、所期の計画と同等の取組が行われていると評価された。
重要課題解決型研究 事後 優良盲導犬の育成に関する生殖工学的研究 鈴木 宏志 帯広畜産大学 本課題の目的は視覚障害者の生活の向上に資するために、生殖工学によるイヌの人工繁殖技術の開発とその応用によって、我が国における盲導犬の質、供給量の改善を図ろうとするものである。 B 該当なし 盲導犬の人工授精技術や精子や胚の凍結保存技術の確立、遺伝子データバンクの構築など、盲導犬育成に必要な技術開発がなされており、所期の計画と同等の取組が行われている。また、本課題のような盲導犬育成効率向上のための総合的な取組は従来なかったものであり、その目的が達成された社会的意義は高い。しかしながら、重要な課題であるにも関わらず、国内の団体との連携が十分に進んでいない点や、遺伝子多型解析における検討が不十分であるなど、現段階では実用化するためには科学的精緻さが不足しており、今後の取組が期待される。

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