最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、生命科学など先端科学のイノベーションへの展開
光科学技術は、情報通信、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス、環境、エネルギー等の戦略重点科学技術分野における研究開発を先導し、ブレークスルーをもたらす基盤的研究分野である。
従来から多くの研究者が個々に光を使った研究を実施してきているが、光源・計測法等の性能を熟知した研究・開発者とレーザーなどの光源を利用した広範囲の研究者とが密接に連携してオリジナルの研究を推進する体制が不十分であったため、最先端科学を先導する研究になっていない。
本戦略目標では、次のの条件を満たす研究開発に取り組むことにより、戦略重点分野における先端科学を先導し、光のエネルギーによって原子の結合状態を変化させることによる新規物質の創成や有害副産物の無害化、被曝することなく鮮明な透視画像で異物や腫瘍が発見できる技術等の開発による非侵襲医療の実現などのイノベーションへと繋げることを目指す。
第3期科学技術基本計画には「新たな知の創造のために、既存の分野区分を越え課題解決に必要な研究者の知恵が自在に結集される研究開発を促進するなど、異分野間の知的な触発や融合を促す環境を整える必要がある。」との記述があるが、光科学技術は、まさに、情報通信、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス等の各分野と光学、量子力学、電磁気学等の基礎科学とが領域を越えて融合することにより、新たなイノベーション創出に繋がる分野である。
また、本戦略目標に関連して、分野別戦略のナノテクノロジー・材料分野の基盤技術として「量子ビーム高度利用計測・加工・創製技術」が挙げられているとともに、情報通信分野の重要な研究開発課題として「課題7:融合技術課題(テラヘルツデバイス、医療IT、ITS技術の高度化)」や「課題9:将来デバイス(先端光デバイス、ポストシリコン、MEMS応用、磁束量子回路など)」等の光関連技術課題が列挙されている。この他にも、分野別戦略に列挙されているバイオイメージング、分子イメージング等の重要研究開発課題の実施にとって、光科学技術は不可欠な基盤的技術である。
一部の光科学技術については、これまで科学研究費補助金や運営費交付金等により理論的・萌芽的研究が実施されてきた。また、戦略的創造研究推進事業においても、平成17年度から、戦略目標「光の究極的及び局所的制御とその応用」の下で、「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」(CREST)及び「光の創成・操作と展開」(さきがけ)、「物質と光作用」(さきがけ)といった光科学技術の研究領域を設けて、研究開発に取り組んできている。
しかしながら、科学研究費補助金等による研究では、各研究者の個人的発想や興味に基づいて、個々バラバラに光科学研究が従来の光源を用いて行われている。
また、平成17年度からスタートしているCRESTでは、新物質材料や新機能デバイスの開発を中心とした新機能・新素材の創成等を研究領域の主眼として設定されており、必ずしも、最先端の光源や計測法等を使い尽くした光の基盤的研究が実施されているわけではない。さきがけでは、光と物質の相互作用など光の本質に関わるような基礎的研究課題が選定され、先導的な研究が一部なされているが理論的研究が主体であり、応用への展開に必要な光源・計測法等の開発者との連携・融合研究が実施されているわけではない。
本事業では、光源開発者、光の基盤的研究者、ユーザー研究者等において、これまで必ずしも十分ではなかった連携・融合への取組を飛躍的に改善する。これまでとは異なり、最先端の光の発生原理や性能、計測手法等に精通した光源開発者等の支援の下で、最先端の光源等の性能・性質を十分に使い尽くした光の基盤的研究及び利用研究を実施するものであるため、各重点分野で世界最先端の研究成果や画期的イノベーションの創出に繋がることが期待される。
本戦略目標の下、ユーザー研究者が光源開発者等と協力して光の利用研究を行うことにより、これまで必ずしも十分ではなかった光科学技術分野のシーズと他分野のニーズとの有機的連携・融合が進展し、次のような画期的なアウトカムが期待できる。
研究例毎に、具体的に将来実現しうる代表的な成果のイメージを列挙する。
光パルスの振幅や位相情報を制御することによって生じる選択的な化学反応への適用、ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)現象に基づく超伝導メカニズムの解明と高温超伝導物質の設計、光格子時計の周波数標準器としての活用 等。
極短パルス光の照射エネルギーを利用した新しい物質や状態の創成、極短パルス光の照射によるプラズマから発生させたX線や陽子線等の量子ビームを用いた超高感度・時間分解型の分析装置 等。
水の窓領域のコヒーレント軟X線を用いた生体細胞内部の連続観察、テラヘルツ領域での波面補償光学系を用いた高精細イメージング及び光CT法の実現 等。
研究例毎に関連研究の進捗をまとめると以下のとおり。
着目した化学反応に必要な、電子の遷移状態を選択的に変化させるためのパルスの波形整形法や液体中・表面等における化学反応の動的過程の計測に関する基礎的研究、希薄なガスを用いたBECの制御、15桁の周波数精度を持つ一次元の光子時計の研究等が行われている。
極短パルス光の照射による表面プラズモンを用いたメタマテリアルやプラズモニックデバイスの研究、物質の内部・表面の組成改質の研究、極短パルス光による電子の加速や量子線の発生等の研究が行われている。
数10ナノメートルまでの離散的な波長のコヒーレントX線が発生されている。また、0.1〜40THz(テラヘルツ)の波長領域の光が発生可能であり、このテラヘルツ光の波長選択性を利用した研究等が行われている。
本戦略目標では、最先端の光源等を使い尽くした各戦略重点科学技術分野の利用研究を実施するものであるが、この利用研究で得られる成果を更に発展させるためには、これまでにない全く新しい光源や計測法等を実現するための研究拠点型プロジェクトを文部科学省で並行して実施する。
このような2つの異なる研究プロジェクトを相互補完しあいながら効果的に運営していくためには、以下の研究運営体制を構築する必要がある。
本事業では、各戦略重点科学技術分野において光を利用している研究者(ユーザー研究者)が、最先端の光源等を他に類のない方法で活用して、全く新しい研究の方向性や新領域の開拓にチャレンジすることを目標とする。このため、ユーザー研究者は、最先端の光の発生原理や性能、計測法等に精通した光源開発者等の支援を得ながら、特色ある光を使い尽くした研究を推進する。
<研究例>
これにより、最先端レーザー等を用いて、他に類のない日本独自の研究成果や画期的イノベーションの創出を目指す。また、本事業の実施により、最先端の光の特性等に精通したユーザー研究者群を開拓・養成する。