資料1 高輝度放射光源とその利用に係る整備運用計画案(グランドデザイン)骨子(案)

平成29年7月27日
量子科学技術研究開発機構

1.検討の経緯

・ 世界的に軟X 線向け高輝度放射光源の整備が相次いでいる状況等を背景として、科学技術・学術審議会量子ビーム利用推進小委員会(以下「審議会」という。)において、本年2月、科学的にも産業的にも利用価値の高い軟X線向け高輝度3GeV 級放射光源の利用環境の整備を推進することが必要等とする中間的整理がまとめられた。
・ また、審議会において、本年5月、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下「量研」という。)が計画案の検討を行う国の主体候補として適切であ るとの見解がとりまとめられ、国から量研に対し、高輝度放射光源とその利用に係る整備運用計画案の検討を具体的に進めるよう依頼があった。
・ 量研は、「量子科学技術による『調和ある多様性の創造』により、平和で心豊かな人類社会の発展に貢献する」との基本理念のもと、世界トップクラスの量子 科学技術研究開発プラットフォームを構築することや産学官連携活動を推進しイノベーションハブとしての役割を担うこと等を重要な経営戦略に位置付けている。高輝度放射光源の整備運用を通じて、量研が、我が国の放射光科学、量子ビーム利用、科学技術・学術の幅広い分野にわたる共用、本格的な産学連携等に貢献すべく、審議会の中間的整理やこれまでの議論を踏まえ、国としての整備運用計画案(グランドデザイン)の骨子(案)をここに提案するものである。

2.基本的な考え方

・ 先端性と安定性を兼ね備えたコンパクトな軟X 線向け高輝度3GeV 放射光源(以下「本光源」という。)を新たに整備し、放射光による世界レベルの最先端学術研究及び多彩な産業利用成果を創出することのできる、利用者視点に立ったフォトンサイエンス&テクノロジーの研究開発拠点を構築する。
・ 「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下「共用促進法」という。)の枠組みに基づく科学技術・学術の幅広い分野 にわたる共用を見越すが、これまでの制度の枠組みに必ずしもとらわれることなく、柔軟な発想や検討に基づく新しい放射光施設にふさわしい運用を目指す。
・ 放射光科学に係る人材が結集してオールジャパンで整備運用に当たることができるよう、これに係る計画案の検討を行う国の主体候補たる量研の強みや専 門性を活かしつつ、関係機関の積極的な協力を仰ぎ、グランドデザインの検討を含めた本光源計画を推進する。
・ 国だけでなく地域や産業界の活力を取り込み、官民地域パートナーシップにより整備運用を推進する。国の主体候補が示すグランドデザインは、その第一歩 となるものであり、早期段階から地域・民間のパートナーとの対話を通じて、産学官の人材、知、資金を結集させ、新たな産学共創の場として真に利用価値の高い施設を整備運用していくことが重要である。
・ 我が国の高輝度軟X線利用環境は立ち遅れており、本光源の早期整備が求められることから、速やかに官民地域パートナーシップによる計画成案を得て、整備に着手し、2020年代初頭の運用開始を目指す。

3.整備する主要施設

1)加速器
 ライナック及び蓄積リングからなる3GeV 電子加速器。我が国で培われた技術的な実績・経験に基づき、先端性(エミッタンス0.9~1.1nm·rad、蓄積電流400~600mA)と安定性(実効性能での定常運転)を両立させた、コンパクトな(蓄積リング周長350m 程度)加速器とする。
 マルチベンドアクロマートラティスの採用による電子ビームの低エミッタンス化をはかり、発生する放射光の高輝度化、高品質化を目指すとともに、コンパクト性を活かして、整備費及び運用費の極小化をはかる。

2)ビームライン
 挿入光源からのビーム利用を基本とし、軟X線領域(200eV~5keV)において高い輝度(10の21乗 photons/s/mr2(平方ミリラジアン)/mm2(平方ミリメートル)/0.1%bw)を得られる特長を有することとする。なお、硬X 線領域(5~20keV)に至る幅広い波長領域もカバーできるよう、必要とする波長領域や偏光特性等に最適化したアンジュレータまたはウィグラーを採用する。
 ビームラインは施設全体で25 本程度の建設を可能とするものとする。各ビームラインにおいて、分岐によって実験ステーションを複数設置することも考えられる。運用当初段階において、利用ニーズに配慮した7~10本程度のビームライン整備を目指し、実験需要に対応できるビームタイムを確保する。

3)基本建屋
 ライナック、蓄積リング、ビームライン及び実験ホール、制御用スペース等を収容する基本建屋。実験ホールは、様々な大きさの実験装置・機器を柔軟に入れ替えられるなど利用者の利便性を重視し、オープンスペースで十分な広さを確保する。約200~300m四方の大きさと見積もられる。

4)研究準備交流棟
 来訪する研究者の実験準備・実験検証や異分野を含む産学の交流・融合促進等の場となる建屋であるとともに、国際的な来訪者も迎え、共創空間を提供する「施設の顔」であり、適切なブランディングデザインをもって整備することが重要である。

 整備用地については、加速器の安定運転及び放射光利用研究に必要な強固な地盤を有し、周辺環境からの震動やノイズなどの影響が無く、建屋を収容する面積を確保できることが必須である。また、本光源は広範な分野の学術研究や産業利用が見込まれることから、アクセス、利用者の利便(周辺の食事・宿泊インフラ等)、周辺の産学集積や産学連携の発展可能性などについても十分考慮することが重要である。

4.運用

・ 幅広い分野の研究者に広く門戸を開いた国際的な共用施設とし、最先端学術研究及び産業利用の双方のニーズに的確に答える、利用者視点に立った新しい放射光施設の運用を目指す。
・ 運用費の極小化をはかりつつ、安定的に年間6,000時間を超える運転時間を確保することを目指す。
・ 共用促進法の適用を見越しつつ、従来行われているような実験課題を公募し審査によって採択する枠組みに加えて、産学連携・産業利用を大きく促進するため、コーディネータやコンシェルジュといった人材の活用をはじめ柔軟な枠組みを新たに検討する。
・ 審査方法や成果公開/非公開のルールなどを再考するとともに、適切な利用料金を設定し、施設全体としての利用料収入の増加をはかる。また、測定代行(メールインサービス)や、一つの課題で複数のビームラインを横断的に利用する制度を設けることも検討する。
・ 世界トップレベルの質の高い学術研究成果を数多く創出するため、大学・研究機関の研究者とインハウススタッフが、強い連携・協力のもと研究開発を実施できる体制を整備するとともに、課題審査プロセスの検討を行い、メリハリある採択・ビームタイム配分ならびに新しいサイエンスの掘り起しを行う。合わせて、 人材育成の場としての機能を果たす。
・ 実験やデータ解析において、AI やIoT、ロボティックス等の最先端技術を積極的に取り入れ、利用者にとって使い勝手の良い利用環境を構築する。
・ 上記のいわば共用的なビームライン以外に、特定の者が整備を担う専用ビームラインを設置することも想定される。専用ビームラインの設置のあり方につ いては、大学等の学術コミュニティの今後の検討進捗にも期待する。
・ ビームラインの整備にあたっては、施設全体を俯瞰し、学術的にも産業的にも効果的でバランスのとれた形にするとともに、適時、適切なスクラップ&ビルドが行えるような制度を構築する。
・ SPring-8 やフォトンファクトリーなど他の放射光施設や中性子・高強度レーザー等の量子ビーム施設との強い連携・ネットワークを構築し、施設の役割分担 や相補性を明示するとともに、利用者の利便性の向上や人材の流動性を図る。
・ 施設の整備や運営にあたっては、アカデミアや産業界から幅広く意見を聴取し、それらを適切に反映させる。

5.官民地域パートナーシップを踏まえた役割分担

・ 本計画は、整備・運用を通じて官民地域パートナーシップにより推進することが肝要であり、今後の国の主体と地域・民間との対話により、その具体的詳細が 構築されていくものと想定されるが、本光源の実現と成功に向け、以下の基本的な役割分担を提案する。

― 加速器(ライナック及び蓄積リング)
 我が国が強みとする放射光科学の粋を結集した設備であり、技術的に安定した整備運用が肝要となることから、他の共用施設と同様、国が整備及び運用を担うことが適切であり、国の主体が国の財源を要求し、整備する。

― 基本建屋
 地域が民間活力の投入を含め国の主体以外の財源で整備費を用意する。建屋の整備は、国の主体との緊密な連携の下、地域・民間の適切な組織体が担う、あるいは地域・民間からの財源支出を受けて国の主体が担うことが想定される。建屋の運用は、将来の具体的な官民地域の協議に基づき役割を整理することが想定される。

― ビームライン
 地域・民間が利用収入を見越して積極的にビームラインの運用に関わる場合は、地域・民間において財源を負担する。それ以外の場合は、国の主体が地域・民間と協議し、ビームラインの整備運用を担う主体ならびに財源負担の役割分担について整理することが想定される。専用ビームラインについては、設置者が整備費を負担し整備を行う。

― 研究準備交流棟
 本光源の周辺環境との接続も含めた整備が重要と考えられることから、地域において整備費を用意することが望まれる。

 整備用地については、他の共用施設と同様、地域において整備用地の確保ならびに造成を行う。3.で記述した整備用地に係る事項については、専門家による考慮・評価を経ることが望ましい。

(了)

お問合せ先

科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室

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(科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室)