量子科学技術委員会 量子ビーム利用推進小委員会(第9期~)(第7回) 議事録

1.日時

平成29年5月18日(木曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 15階 科学技術・学術政策局会議室1(千代田区霞ヶ関3-2-2)

3.議題

  1. 軟X 線向け高輝度放射光源やその利用について(産業利用について、他の計測技術との比較について、国の主体について)
  2. その他

4.出席者

委員

雨宮委員、石坂委員、内海委員、尾嶋委員、金子委員、岸本委員、小杉委員、高橋委員、髙原委員、山田委員

文部科学省

伊藤科学技術・学術政策局長、中川大臣官房サイバーセキュリティ・政策評価審議官、村上研究開発基盤課長、上田量子研究推進室長、橋本量子研究推進室室長補佐、大榊量子研究推進室専門職

オブザーバー

矢橋牧名 理化学研究所 放射光科学総合研究センター ビームライン研究開発グループグループディレクター

5.議事録

【雨宮主査】  それでは、定刻になりましたので、第7回量子ビーム利用推進小委員会を開催いたします。本日は、お忙しい中、御出席いただきましてありがとうございます。
 本日は10名の委員に御出席いただいております。近藤委員、田中委員は、今日は御欠席です。また、今回は1名の有識者に御出席いただいておりますので、後ほど御紹介いたします。
 本日の会議ですが、委員会の運営規則に基づき公開という形で進めさせていただきます。
 それでは、事務局より配付資料の確認等お願いいたします。
【橋本補佐】  お手元の資料を御確認ください。議事次第にございますとおり資料1から資料6まで、それから参考資料を1つ机上配付しております。また、前回までの資料がドッジファイルに入っております。資料に不備がありましたら、事務局まで御連絡ください。よろしいでしょうか。
 それでは、本日の参加者について簡単に御説明させていただきます。
 石坂委員、内海委員は前回御欠席でしたので、御紹介させていただきます。御所属と御専門に加え、一言お願いできればと思います。科学技術・学術審議会の期が変わり初めての御出席ということで簡単にお願いできればと思います。
【石坂委員】  東京大学工学部の石坂と申します。専門は物性物理学になります。放射光は光電子分光という手法でよく使用しており、先週もお世話になっていたところです。よろしくお願いいたします。
【内海委員】  量子科学技術研究開発機構関西光科学研究所の内海でございます。関西光科学研究所は、京都府でレーザーの開発及び利用研究、それから兵庫県にあるSPring-8の一部をお借りして放射光の利用研究をやっております。よろしくお願い申し上げます。
【橋本補佐】  また、議題1に関してですが、軟X線向け高輝度放射光源やその利用につきまして、金子委員、高橋委員、尾嶋委員に加えまして、理化学研究所放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループのグループディレクターでいらっしゃいます矢橋先生より御発表いただきます。よろしくお願いいたします。
【矢橋グループディレクター】  よろしくお願いします。
【橋本補佐】  本日皆様におかれましては、お忙しい中お越しいただき、ありがとうございます。
【雨宮主査】  それでは早速議題1の軟X線向け高輝度放射光源やその利用についてという議題に入っていきます。
 それでは、この議題1に関して、事務局より御説明をお願いいたします。
【上田室長】  資料1を御覧ください。前回の当小委員会での御議論の後、雨宮主査と相談いたしまして、この形で文部科学省のホームページに掲載しております。「高輝度放射光源に係る地域構想の調査について」ということで、2月におまとめいただいた中間的整理から2か月半あるいは3か月くらい経ちますので、高輝度放射光源に関する検討を行っている全ての地域を対象とする調査を実施するという趣旨でございます。裏面を御覧ください。2段落目にございますように、「このため、高輝度放射光源に関する地域構想を公募しますので、以下の回答方法に従い、構想を御提出ください。調査の一環として、5月下旬頃に開催を予定している小委員会において、ヒアリングを実施することがあります」とあり、調査結果については、「小委員会における調査検討に資するもの」ということと、「必要に応じ計画具体化の検討に向けた基礎資料として活用されます」ということを記載しております。回答様式は自由ということでございます。中間的整理のポイントも明示しまして、この小委員会で国の政策の方向性をまとめ、御提言いただいたわけですから、これを踏まえ、御検討を行っている地域を調査するという趣旨でございます。なお、中間的整理につきましては2月にまとめられた段階でも、ホームページに掲載するとともに各都道府県に情報提供をしております。また今回のこの調査についても同様に、ホームページ掲載とともに各都道府県にお知らせしているということを申し添えます。
 以上です。
【雨宮主査】  どうもありがとうございます。何か御質問等があれば。
 特になければ、次の産業利用について、に入ります。産業利用の観点は、これまで中間的整理においても御議論いただいてきました。当小委員会には産業界御出身の委員として岸本委員に加え、金子委員、高橋委員がいらっしゃいますので、今日はそれぞれ放射光の産業利用の観点で御発表をお願いし、議論を深めることができればと思っております。
 それでは、まず金子委員より産業界における放射光活用についての発表をお願いいたします。目安は10分くらいでお願いできればと思います。
【金子委員】  はい、ありがとうございます。
 本日、私の方からは「産業界における放射光活用」ということで、弊社の方で行った放射光実験について御紹介させていただきたいと思います。
 2ページ目になります。弊社の方から出させていただいております燃料電池車の中には燃料電池スタックですとか、リチウムイオンバッテリー、パワーコントロールユニット、モーター等、要は走っているときに常に動いているものがたくさんございます。これらの各部品がやはり高性能になることによって車自体もどんどん高性能化していくということで、それぞれの部品の高性能化を我々としては開発しているわけです。そういう中で、実際動いているときに何がその中で起きているかということをきちんと把握して、そこの問題点を解決していくということが非常に重要となってきております。そのための現象解析として、我々は放射光を使っているわけですけれども、そのときのキーワードとしては、「in-situ/オペランド」、あと「非破壊」で、要は動作中の現象を見る。また、ただ単に構造を見るだけではなくて、そのときの「化学状態」についても追っていきたいというふうに考えております。
 次のページ(3ページ)にまいりまして、その際に我々は見たい現象に応じていろいろな分析手法を使います。放射光ももちろんですが、その他として中性子ですとか、あと電子顕微鏡及びNMR等々の機器も使っていくわけですが、それぞれ得意・不得意な部分がございます。中性子の場合ですと、ビーム系統の大きさ等々からやはり局所とか、あと構造解析には非常に強いのですが化学状態等に関しては余り得意でないと。片や電子線は非常に局所のところは見られるのですが、木を見て森を見ずになってしまって、ここのところではこれが起きているという局所的な現象になってしまう。あとどうしてもサンプリングをする中でかなり特殊な状態になってしまうということもございまして、なかなか実際に動いているところの現象を捕まえるということが難しいです。NMRも然(しか)りでして、やはりin-situのところに関しては、見ることが難しいという形です。そういう中で放射光は、ある程度サイズの幅も持ちながら、in-situで非破壊で見ることができるという点で非常に有効な手法だと我々は思って活用させていただいております。
 本日は電池を例に挙げて放射光の有用性に関して御紹介させていただきたいと思います(4ページ)。電池の中で、やはり充放電に伴ってリチウムイオンがどのような挙動を示すかというようなことを我々としては把握したいということで、リチウムイオンがどういうふうに動くのかということを電池セルのままで見ていくと。そのためにはまずは高輝度のX線が欲しい。さらにリチウム量がどれくらい動いているかという量の把握までするという意味で、遷移金属の価数をリチウムイオンの代わりに見ることによってリチウム量を把握するため、XAFS(X線吸収微細構造)法を活用しております。やはりin-situで見られるというところが非常に我々としては嬉しいところでございます。
 5ページが実際の断面方向の図です。これは、本当は非常に薄い極媒になります。従って断面方向で見ようと思うと、数百ミクロンのオーダーの現象を捉えなければいけません。分解能としてはミクロンオーダーが欲しいという中で、この絵にあるように大強度のX線を当てることによって、あと、電解液の方に仕込みを入れてあるのですが、少しそういう自分たちなりのアイデアを織り込む形で、実際の現象を捉えるということにトライしております。
 6ページがその中で得られた絵で、今、グレーになっておりますが、ここはムービーで見ていただきたいと思います。右側にグラフがあるのですが、グラフも少しずつ動いておりまして、グラフの動きがイオンの濃度になります。左側では徐々に濃淡が付いてまいります。これは最初の状態をゼロベースにして、そこからの差分を取ってコントラストを付けているという形になるのですが、in-situで取りましたというエビデンスのためにムービーで映させていただきました。これをもう少し分かりやすくしたものが次のページになりますので、そちらの方で説明させていただきたいと思います。
 こちらの方が今のものを図式化したイメージ図となります(7ページ)。当初、負極側にいたリチウムが放電することによって徐々に正極側に動くということです。先ほどお見せしたように少しずつイオンが動き始めます。そのときに、電極の中に入っていくリチウムイオンと、電解液の中に残っているリチウムイオンの部分まで、見たいという思いが我々にありまして、そういうことで電解液の方に、先ほども言いましたように、少し重元素を入れるような形で、電解液中にどれだけリチウムイオンがまだ残っているのかというようなことを可視化しようということで行った実験になります。放射光を使うことによって、そこのところにきちんとコントラストを付けることができまして、一応そこの観察をすることができました。では1つ見られたらいいのかというと、そういうことではなくて、この技術が出来上がったことによって、電池の制御のときに充放電、アクセルをブンと踏めば当然急速に放電しますが、そういうときとゆっくりじわっとアクセルを踏んでいただいたときとで、どういうふうにそこの電池の中のイオンの動きが変わってくるのかというようなことを見るためには、やはり非破壊でin-situで見ていきたいと。そういうような、やはり実際に使っているときの電池の中の挙動が見られるという点で、放射光の嬉しさが十分生かせていると考えております。
 もう1つの事例を御紹介します(8ページ)。今度は少しマクロな視点での観察を示しています。これは面内方向での反応の分布を見るために少し視野を大きく取りたいということで、3mm×4mmの視野を見るというような実験になります。
 9ページではムービーではなくてコマ送りになってはいるのですが、実際、徐々に面内の中であるポイントから反応が広がっていくという絵が見て取れます。要は材料によってこのように、あるところ、局所ばかりが反応してしまって、全体として均一に反応が進んでいってくれないとか、そういうことが材料ごとに異なることがこの実験で分かってまいりまして、この技術を使って、どういう材料を用いると、より電池能が全体としてうまく活用できるのかとかいうようなことを見ることができます。逆に言うと、広い面積を一度に見ることができることによって、その反応の均一性というところを確認することができたという意味で非常に役に立った解析になります。
 最後に(10ページ)、勝手な私の視点なので聞き流していただいても結構なのですが、やはり我々産業界としては、いいものを作るためにこういうことが知りたいというときに、必ずしも「放射光を使えば何でもできるね」というふうには思っておりませんで、やはりそのニーズに合わせて最善の手法を組み合わせていこうと。放射光が得意なところは当然放射光からデータを取るのですが、それ以外の中性子ですとか、TEMですとか、そういうところが得意とするところはそちらから取って、相補的に現象を全体として捉えるということをしていきたいと。なので、できれば全く同じサンプルを放射光と中性子で取りたいとか、そういうような思いもございまして、できることならば放射光の近くにほかの分析、資料中は設備と書いてしまいましたが、ほかの手法ができると非常に有り難いと思っております。また、先ほども途中で少しお話ししたように、異なる材料や制御、条件の下でどういうデータが取れるかというか、どういう挙動を示すかということで、本当にデータを横並びで比較したいと。そのためには、今日はすごくいいデータが取れるのだけれども、明日は何か少しビームの出が悪いとかいうことではなくて、やはり再現性の高いデータを取得できるようなビームラインを使いたいというふうに思っております。そして最後なのですが、出来上がった部品だけを見たいということではなくて、本当は製造工程によっても、ものの出来・不出来が変わってきたりするものですから、その製造工程の現象を解析するためには、例えば電池とか燃料電池の方もそうなのですが、途中でペースト状のものを塗る工程があるのですが、そのペーストが時間とともにどういうふうに変化していくかを追ってみたいとか、少しそういう前準備をするようなスペースや設備を置かせていただけると非常にいいなというふうに思っておりますので、新しいそういう施設ができる際にはそういう部分も含めて検討いただけると有り難いというふうに思っております。
 以上です。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 それでは続けて高橋委員からの御説明の後、まとめて質問時間を取りたいと思います。
 それでは高橋委員より、製薬会社における放射光利用と産学連携(SACLA産学連携プログラムを例に)ということで、御発表をお願いいたします。同じく10分程度でお願いいたします。
【高橋委員】  御紹介ありがとうございます。第一三共RDノバーレ株式会社、高橋と申します。RDノバーレは、余り聞きなれない方も多いと思うのですが、製薬会社第一三共グループの研究開発系の子会社になっていまして、特に我々研究部門としては、あまり他の会社でやっていないような最先端の技術とか、そういうものを駆使して創薬に役立つ技術をどんどん身に付けて使っていこうという意思があります。というわけで、今回もSACLAという新しい技術を使わせていただくというお話をさせていただきます。
 内容としましては、今回の議題になる軟X線向けとは少し離れると思うのですが、SACLAという新しい技術をどのように産業利用に持ち込んでいったかという意味では参考になるところがあるかなと思いますので、何らかの参考になれば幸いです。
 初めに製薬会社の特有のバックグラウンドについて、少しお話しさせていただきたいと思います(2ページ)。創薬の流れというのは、御存知の方も多いと思うのですが、非常に長いプロセスが掛かります。最初に、こういう機能を持つ化合物ができれば、こういった病気に効くだろうということを、いろいろな資料や臨床の現場などから考えていく研究者がいまして、それをもとに、ではこういう化合物を創ればいいというデザインを合成の方が設計し合成して、これが実際良いかどうかというのは試験管レベルであったり、動物レベルであったり、そういったところで検証していく。この化合物が良さそうだということが決まってきたら、それは生産に入っていって、ようやく人に投与することができる。人に投与できるということになってから、また、最初は少数の人に実験的に投与して、安全な容量を確かめていった上で、多くの患者さんへ向けて臨床試験を進めていくという形で、非常に長いプロセスが掛かります。ですので、最初にこの化合物がよさそうということが分かってから実際それが製品になるまでに5年、10年掛かることも珍しくないので、最初の得られた成果を発表するのに非常に長い時間が掛かるというバックグラウンドがあります。我々の構造研究をしているグループは、主にこの化合物を設計するところ、Structure-based drug designというところに関係していて、構造解析という技術を使って化合物を合理的に設計していくというところに貢献しています。
 具体的にそこの部分のサイクルなのですが(3ページ)、我々はタンパク質の構造解析を行っており、この部分で放射光を非常に活用させていただいているわけで、タンパク質と薬剤候補化合物との複合体の構造を解析することで、その標的としているタンパク質に対して合成した化合物がどのように作用しているのかということを、まず調べます。その上で、もう少しここをよくすれば、もう少しよく効くのではないか、あるいは今、この化合物は人に投与しても吸収がうまくいかなそうというときに、もう少しここを変化させれば吸収できる化合物ができるのではないかといったことを、合成の方とディスカッションしながら化合物を設計して、実際それを合成する方が合成して、それを薬理の方が評価する。評価が得られたら、思いどおりに活性が上がった、ではもう少し何とかしたいというところも改めて構造解析を行って、もう少しこれをこうすれば良いのだというデザインを繰り返す。こういったサイクルをぐるぐる回していくということで、標的にだけ強く結合して他のものには結合しない、副作用のない、きちんと人に投与して効くという化合物を設計していくということを会社の中でやっています。この構造解析のところを、我々が非常に力を入れてやっています。
 ただし、これも非常に多くの方がそうだと思うのですが、簡単にできるところは既にやり尽くされてしまっているというのが現実でして、タンパク質の立体構造は世の中にデータベースがあるのですが、もうどんどん年数とともに指数関数的に増えています(4ページ)。この図は下が入りきらないので切っているくらいなのですが、1975年くらいからぽつぽつと出始めてきたタンパク質の構造は、もう最近では10万を超え、非常に多くの構造が世の中に知られるようになっています。しかしながら、まだまだ構造解析が困難な標的のタンパク質というのも非常に多くありまして、これは言ってしまえば、難しいものほど残されているという現状にあります。構造解析としてアカデミックにも難しいですし、逆に創薬標的としても、そういう難しいものを攻めていかないと、簡単にできるものはもう既に薬になっているという現状がありますので、今までできなかったターゲットに対して効く薬を創りたい、そのためにはやはり今までできなかった構造解析をやりたいというのが大きなモチベーションになっています。
 そこに、このSACLAという新しい技術が大いに貢献すると私たちは考えました(5ページ)。SACLAにおいては、これまでアカデミアの方々も含めて、多くのタンパク質の構造解析の分野でも幾つかの利用例が既に発表されています。今回あまり詳しい話はしませんが、私から見て大きく分けると、この3種類の方向性があるのではないかなと思っています。1つ目は、SACLAというのはレーザーのパルスという形でX線が出てきますので、そういう短いパルス状のX線という、この特性を活かして、時間分解能を以って構造解析をするということ。2つ目には、1つのパルスに対して非常に強いX線が出ますので、結晶が小さくても解析ができるという意味で、今まで結晶化が非常に困難だったタンパク質に対しての構造解析。3つ目が、一瞬で構造解析ができるという意味で、今まで長い時間を掛けてデータを取っていたものとは違う、放射線の損傷を避けた構造解析ができるといった側面があると感じています。
 今回我々がSACLAを用いてやろうとしたことは(6ページ)、この2番目の高難度標的タンパク質の構造解析です。今までの放射光では十分な解析のできなかったタンパク質結晶であってもSACLAを使えばデータが取れるのではないかという期待ということで、シリアルフェムト秒X線結晶構造解析という手法をSACLAで利用させていただきました。
 その段階としては(7ページ)、SACLA産学連携プログラムというものが平成26年度に公募されていて、ここに応募させていただいたことがSACLAの利用の最初のきっかけになりました。これは今、理研のSACLA利用技術開拓グループにいらっしゃる岩田想先生を中心とされまして「創薬ターゲット蛋白質のシリアルフェムト秒X線結晶構造解析」というテーマを考えているので、参画企業として参加しませんかというお誘いが岩田先生からありました。そういうことで、我々も非常に興味を持っていましたので、これは非常にいい機会だと思いまして、こちらに参加させていただくことにしました。初年度には我々第一三共RDノバーレと武田薬品さんと創薬産業構造解析コンソーシアムという、これは製薬会社が何社か集まったコンソーシアムという形なのですが、これをまとめてという形で、3グループの企業が参加させていただきました。引き続き、平成27年、平成28年という形で、我々は継続してずっと参加させていただいていまして、その途中で何社さんかは入れ替わりがあったのですが、我々は3年間継続させていただいて、岩田先生のグループとともにノウハウを教えていただきながら、実際どういうふうにすれば産業利用ができるのかという検討を行ってきました。
 この産学連携プログラムというのは、具体的にどういうことをやってきたかという内容です(8ページ)。産学連携プログラムという形で採択されまして、年2回、ビームタイムを頂きました。これは上期・下期、つまりA期・B期にそれぞれ24時間ずつという形で頂いています。そのビームタイムに合わせて講習会という形で、岩田先生のグループの方に主催していただいて、これまでに得られた成果の紹介ですとか、データ処理、実際どうやってデータを取っていくのかというところを教えていただきながら、実際にこちらからもサンプルを持って行って実験をやってみるという枠組みでやってきました。こういった形で年2回、その場に集まって自分の試料を持ち寄って議論をして相談するということで、岩田先生のグループからも、その段階ではまだ論文発表されていなかった試料調製のノウハウですとか、実際の解析の仕方とか、そういったものを直接教えていただきましたし、実際測定しながら「ここが少しやりにくいね」とか、「前回に比べてここがよくなりましたね」とか、そういったディスカッションをどんどんしていきました。また、今はこのプログラム自体は成果公開という形なので機密情報は持ち込まないのですが、実際にこれを産業利用として成果占有で利用する場合、「データはこの部分は少し扱いとしてよくないね」と、「これはみんなに見られてしまうね」と、そういったことを確認していって、実際どうすれば運用上よくなるのかという話をしていきました。このような経緯を踏まえて、実際、現場の測定についても年2回3年やると大分慣れてきます。感覚的に慣れてくるということと、大体少しずつ進歩しているというのを分かってくるということ。また試料をどのように準備すれば良いかというところも、最初はうまくいかなくても少しずつ慣れてくるということが分かってきました。実際、そういった形でお試しの形のサンプルを幾つか測定させていただいて、実際に通常の放射光ではなかなか測定できなかった結晶でもSACLAを使うとデータが取れるという感触が得られてきて、その段階ではきちんとしたデータは取っていないのですが、多分このやり方でいけばできるということが分かってきたということ。また最初は必要なサンプル量が非常に多くて、余り現実的ではなかったのですが、これも実際にサンプルを注入するところの装置がどんどん進化していって、このやり方だと何とか現実的に準備できる量でデータが取れるだろうということが分かってきたので、成果占有利用に持っていってもいいのではないかという感触がつかめてきました。
 SACLAの成果占有利用自体は、2016年の上期からスタートして、上期にもう既にトヨタ自動車さんが使われたと伺っています(9ページ)。成果占有利用としては2時間単位で申請することになっています。これはSACLAのビームラインに対して、いろいろな装置を持ち込まないと測定ができず、また、いろいろな分野の方がいるので、基本的に同じような測定をする、我々の場合で言うとタンパク質の構造解析をやっているグループ、岩田先生はじめ他のアカデミアの方もいらっしゃるのですが、そういったアカデミアの方のビームタイムに接続する形で、装置や施設のセットアップは同じ種類の実験の流れで行うということで時間の無駄を減らし、その最後の2時間を使わせていただくというようなイメージで設定されています。その2時間当たりの成果占有利用料金と消耗品代という形で支払を行います。これは我々の方で非常に何度も申し上げてまとめていただいたことですが、データのアカウントとしては、安全なものを作っていただいて、データがそこにあるということすら、ほかのアカデミアの方からは見えないという形を作っていただきました。ですので、機密性も十分保持された状態でデータを取ることができました。申請は年2回なので、大分前から申請しなければいけないというデメリットはあるのですが、逆に言うと、少し早めに申請だけしておいて、その段階で困っているサンプルを取るという形で準備もできるというふうに思っています。ですので、今回我々はこの2016年B期に対して申請を行って、そのB期の最後の方の2017年2月に利用させていただきました。この結果は、一応成果占有で測定しているので、データとしてお話しすることはできないのですが、十分実用に耐えるデータを取ることができたということだけ申し上げておきます。
 ということで、今回の「産学連携プログラム」を実際体験してみての個人的な感想になるのですが(10ページ)、こういった産学連携プログラムという形で参加させていただくことで、こんなものがあるなということはもちろん論文とかで見て知っていたとしても、実際に自分たちのサンプルをそこに持っていって使うかというモチベーションがなかなか出てこないのですが、「こういうプログラムがあるのでやりませんか」ということでお声掛けいただいたことで、「じゃあ、自分のサンプルをそれに合わせて実際に作ってみよう」という動機が得られ、実際それを測ってみることができたというのが、最初の一歩として非常に大きかったと思っています。実際にやってみることで、最初は「面白いな」というくらいで多分済んでしまったのですが、実際、「この辺が使えそう」と、今までやはり難しかったことでもできそうなのだということが分かってきたというのが非常に大きな成果だったと思っています。
 また今回のプログラムを通してアカデミアの皆さんと多くディスカッションをさせていただくことで、普段は皆さん余り気にされないデータ保存の方法ですとか、たくさん試料がある人には余り気にしないようなサンプル量に対する感覚をお伝えすることができて、現実的にこういった障壁が解消されないと産業利用はできないのだということを伝えることができたと思っています。
 こういったやり取りを経て、実際成果占有利用を行うことができたので、このようにまだ多くの人がノウハウを持つわけではない新しい技術を利用していくに当たっては、最初にいきなり成果占有利用という形で枠を取るのは難しいので、こういった成果公開という形でお試しの枠というのでやらせていただくというのは非常に有効な方法だということを強く実感しました。以上です。こういった機会を頂いてありがとうございました。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまのお二人の発表内容を踏まえて、御質問、また御意見があれば、少し議論したいと思います。どうぞ。
【岸本委員】  よろしいですか。分かりやすい御発表をありがとうございます。
 どの内容も、同じ産業界としまして共感する中身ばかりなのですが、1つ目の金子委員発表のまとめ(10ページ)の「産業界ユーザーの視点から」の中身というのはどれも本当に共感する話です。
 それで、3ポツ目のところで、私は重要なのではないかと思うのですが、「作製できるスペース・設備を希望」というよりも、やはり「必要」なり「重要」という、非常に重要なファクターになるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
【金子委員】  そうですね。単語としては「熱望」とも言うべきかもしれないですね。非常に強く希望するという意味で行けば、少し弱い表現だったかもしれないので、本当に「必要」でも単語としてはいいかなというふうに思います。(閉会後、 該当語句を「必須」と修正)
【岸本委員】  そうですね。私たちも、これは海外で実験するときの事例なのですが、海外にサンプルを送って測るときに、やはり実験のときまでフレッシュな状態のサンプルを測りたい際は、二、三日余裕は見ますが、ぎりぎりの日にちで送ったりするのですが、それでもいろいろな事情でサンプルが届かなかった事例とかがあったりするのです。そういったときにどうするかと言いますと、例えばその国の大学と共同研究をして、その場所を確保したりします。そういうことをしなければならないということがあったりすると、本当に1年で終わるものが2年、3年掛かったりしてしまったりすることもあります。国内でも同じで、私はSPring-8をよく使わせていただくのですが、やはり近隣の大学でそういうサンプル準備をさせてもらえるような環境にすると、一気にやれる中身が変わってきますので、このような点も非常に重要なファクターではないかなと思います。
【雨宮主査】  はい、小杉委員。
【小杉主査代理】  今の点については前回フランスの放射光施設であるSOLEILの例を御紹介しましたけれども、1つのブースをある会社に占有させるというシステムについて少しSOLEILに聞いてみると、まだ1例しかないのですが、他にも需要はあるということでした。今のお話は、占有の部屋が欲しい、あるいは標準的な試料が作れる共通のスペースが欲しいということなのでしょうか。会社としてはもちろん占有でしょうけれども、そのあたりへの対応が施設側としては判断を迷うところだとは思います。
【岸本委員】  共通でもいいと思うのですが、例えば時間ごとに区切って利用できるとかですよね。やはり見られたくない試料があったりしますので、そういう柔軟な体制は必要なのかなという気はします。ただ、占有するとなると、すごいスペースを確保しなくてはいけないことになると思うので。
【雨宮主査】  ほかにいかがでしょうか。山田委員。
【山田委員】  非常によく分かるのですが、将来的に本当に実用化につながるようなものをやるときに、次のステップとして、実際に工場が造っておられる製造プロセスに、リアルタイムで、放射光施設で測っているデータがそのまま送り込まれるというシステムができてくれば、その試料だけを施設の近くで作ることプラス実際の製造過程にデータがそのままリアルタイムで送り込まれ、それを反映して現実のものを造るプロセスに反映させるというようなことも、もっと将来にはあり得るのではないかと考えているのですが、その辺はいかがでしょうか。
【高橋委員】  個人的には製造段階というのと試作段階というのは、研究の段階として多分大分違うものだと思っていて、安定して製造するというところでは、もちろんそういった考えが大事だと思うのですが、何をそこに持っていくかというのを選ぶ段階では、少しずつ少しずつ試すことが多くなるのではないかなと思うのですが。
【岸本委員】  これは産業分野によって考え方というのはいろいろとあると思うのですが、仰るとおり、そういうことが重要な産業分野も確かにあるはずなのです。それで、そのときに何が一番重要かというと、フィードバックをかけるという意味では、高輝度でしかもハイスループットで実験ができるというような体制ができてこそ、やはり成立する部分だと思います。
【山田委員】  そうだと思います。
【雨宮主査】  はい。
【内海委員】  成果公開型と成果占有型についてですが、SPring-8やJ-PARCでも長い歴史があって、こういうカテゴリー分けになっています。今、高橋委員は成果公開型でいろいろアカデミアの方と一緒に最初お試しをやった後、成果占有型に進むということをおっしゃいました。もともと制度設計をしたときにそういうことを想定しているのですが、そろそろこういうのではなくて次の形が必要だというようなリクエストや感じておられることが、産業界の方からありませんでしょうか。
 今のままで十分ですよとおっしゃるのであれば今の制度のまま行くだろうと思いますが、そろそろ考え直してもいいのかなというのが、端から見ていて少し思うのですが、いかがでしょうか。
【金子委員】  いいですか。実はSACLAに関しては、J-PARCのときに成果占有になるまでにすごく時間が掛かって、なかなか自分たちのやりたい実験がやれなかったということを踏まえて、SACLAは早く成果占有の仕組みを作ってくださいというのを、かなり強くリクエストしました。ということで、多分今回成果占有で使えたと思うのですが、ただ、その成果占有を作るという話のときには、まだ弊社にとってもやりたいものが見つかっていなかった状態だったのですが、やはりその仕組みがないと、やりたいと思ったときにすぐやれないという問題があって、J-PARCのことを悪く言うつもりはないですが、そのときのことを踏まえて我々としては、共用施設に関してはそういう仕組みを早く作っておいてほしいというのは強く希望して作っていただけたので、SACLAに関しては大変有り難かったかなというふうに思っております。
【高橋委員】  成果占有がどのような形がいいのかという点は、議論があるのですが、少なくともデータをほかの人に絶対に見られない形で取れるというところが、やはり何らかの仕組みがないと実現できないと思うのです。例えば成果公開の枠の中で取ったとしても、公開するのは技術的な内容のみでいいですよということで、もしかしたらそれでも良いのかもしれないのですが、そうするとデータ自体のセキュリティが保てませんよね。他の方から理論的に見えてしまうところにデータが置かれることになる。それで大丈夫なサンプルのときはいいのですが、少しそれはまずいだろうというデータも種類としてありますので、そこの安全性を成果占有利用料を支払うことで確保してほしいという、そういった要望はあります。
【雨宮主査】  ほかに。
【尾嶋委員】  金子委員のお話で、放射光の目と電子線の目というところが大変面白いと思います。例えば今のお話はどちらかと言うとかなり全体を見るお話だったのですが、リチウムイオン電池の場合、もっと細かいところを放射光で見たいという要求があります。電子顕微鏡までは多分無理だと思うのですが、どのくらい細かなところまで見えると実際に役に立つ研究ができると言えるでしょうか。
【金子委員】  ありがとうございます。電池は多分弊社だけではなくて、本当に世界中が、いい電池ができることを強く願っていると思うので、研究者もその解析のところに関しては非常に、電気二重層のところとか、それのための被膜のところとか、そういう本当にナノオーダーのところが見たいと思っているでしょう。電子顕微鏡の方では、空気に触れさせないようにいろいろと前準備も苦労しながら電子顕微鏡まで持ち込んで、その被膜をいかにしたら見られるかとか言ってやってはいるのですが、それだとやはり空気に触れさせないとかいうことは配慮していても、本当のところが見られているかとか、実際に使っている間にそれがどう変化するかとかいうところまで行けていないので、やはりそのあたりを見られるような手法があるといいなとか、あと、実はナノオーダーのところは放射光だけでなくてSACLAもやはり使っていきたいなとは思っていたりして、ただ、得意・不得意の意味ですと、軽元素に関しては、もう少し軟X線が使えるようになると分かることも増えてくるのではないかなという期待はしております。
【雨宮主査】  それでは、まだあるかと思いますが、予定の時間が来ましたので、次の議題に移ります。
 他の計測技術との比較についてということで、前回の当小委員会で紹介されましたけれども、当小委員会の親委員会である量子科学技術委員会から、軟X線の特徴について他の技術との比較があると分かりやすいのではないかという意見がありました。そこで、他の技術との違いについて御議論いただくために、今日は尾嶋委員より軟X線の特徴、なぜ軟X線光源なのかという視点で御発表をお願いしております。10分程度で、また御発表をよろしくお願いいたします。
【尾嶋委員】  御紹介いただきました尾嶋でございます。急きょそういう依頼がありましたので、かなり私見が入った発表になると思いますが、御容赦願いたいと思います。
 私自身は36年間放射光軟X線を使った研究をやっておりまして、軟X線でできるところ、できないところ、ほかの分析手法でも十分できるところは、わざわざ軟X線でやる必要はありませんので、どういうところが軟X線の特徴かという点についてお話を絞って発表させていただきたいと思います。
 X線は、もう御存知のように、エネルギー可変という点が非常に大きな特徴であります。これを使いますと吸収端を利用した元素選択的な解析・分析が可能になります。この図は第4回の当小委員会で発表させていただいたものですが(1ページ、中央)、横軸にエネルギーが書いてありまして、0eV(エレクトロンボルト)から1,000eVまであります。実は軟X線というのはもう少し向こう(右側)まで使えるのですが、この中にどの吸収端があるかと言いますと、カーボンからフッ素まで、要するに軽元素です。それから遷移金属の2p軌道です。それからレアアースのf軌道とか、基本的にはこのエネルギー範囲の中にほとんど全ての元素のどこかの吸収端があります。だからある意味では軟X線は非常に強力です。何に使えるかというと、LSIとか、スピントロニクス、マグネットですね。それから光触媒、水分解、光合成、超電導材料、これは銅の2p軌道を使うというようなことで、非常に強力なものでございます。一方、硬X線については波長が格子間間隔と同程度、ないしそれより小さいので、原子の構造解析を回折という現象を用いて行う。他方、軟X線は電子との相互作用が大きいので、光電子を飛ばしたり、X線吸収のスペクトルで分光によって電子の構造が解析できたりします。機能は原子の構造と電子の構造の両方で成り立っており、この両方ができるというわけであります。最近は、十数nm(ナノメートル)にナノビームを絞ることができますので、電子顕微鏡にはまだ全然かないませんけれども、かなりいいところまでは行くのではないかということでございます。
 これは釈迦(しゃか)に説法みたいな話でございますが(2ページ)、先ほど申し上げました電子と軟X線との相互作用ということで言いますと、金属でしたら価電子帯の一番上にフェルミレベルがあって、あと内殻があります。電子線とか、X線でこれをたたき上げて、いろいろな分光を行います。右側にポンチ絵がありますが、放射光のX線をサンプルに入れる、ないしは電子線を入れる。電子線の場合は高真空が必要であります。軟X線でももちろん必要なのですが、電子線はその制約がある。それで、飛び出してくる二次電子、オージェ電子、それから円偏光を使った場合のX線吸収のXMCD(X線磁気円二色性)、それから蛍光X線、こういうものを使って構造とか電子状態を調べることができるということです。
 一方、硬X線では回折X線やXAFS法、電子顕微鏡では透過電子線と、こういうものを使っていくわけでございますが、X線の場合は電子顕微鏡に比べてオペランド解析というところについては制約が比較的少ない。もちろん軟X線ではかなり大変ですが、電子顕微鏡に比べるとかなり制約が少ないという特徴がございます。それで、電子顕微鏡とオペランド解析という点に絞ってお話をさせていただきますと、先ほど金子委員からありましたように、動作中の構造ないし電子状態を見たいわけです。それが本当に燃料電池・リチウムイオン電池性能と関係があるので、最近はオペランド分光というのが非常に盛んになっております。実は去年の11月に応用物理学会の薄膜・表面物理基礎講座という会議がありまして、タイトルが「オペランド分光」でございました。放射光と電子線とレーザーラマン、赤外吸収、それからSPM(走査型プロ―ブ顕微鏡)、この4つの全体をまとめた基調講演をやって欲しいという依頼であり、お話をしました。
 放射光と電子顕微鏡との違いを説明させていただいたのですが(3ページ)、特に電子状態ということで軟X線に絞りますと、例えば我々がSPring-8の東大ビームラインで作っているこういう仕掛けがあります。図の左側が超高真空であります。このようにフランジがありまして、ここに150nmの厚さの非常に薄いSiCの薄膜を置いて、その向こうにカソード、メンブレン、それからアノードがあります。水素と酸素を入れて発電させ、燃料電池特性を見ながら電圧を変えて分光することで、リチウムイオン電池にもそれを適用した解析を行っています。これはX線吸収とか、発光分光という手法でございますが、一方、光電子分光も行われています。これはスタンフォード大学のグループが実施したもので、まさに同じように水素と酸素を入れて、白金触媒の三相界面(気相・液相・固相の界面)で白金の表面にOが付いたり、OH、OH-O、H2Oなどが付いたりしている様子を電位変化とともにどういうふうになっているか、更にどういう状態にすれば電池特性がよくなるかというような議論がされており、ネイチャーコミュニケーションズ誌に掲載されております。だから軟X線を使って光電子分光、発光分光ができるというわけであります。一方、電子顕微鏡については、いろいろな工夫がされておりまして、もちろんこれは超高真空ですけれども、ここは1気圧というか、水が流れているようなもので、液体フローセルを工夫します。つまり、非常に模式的なリチウムイオン電池をここで作って、充放電中正極の局所オペランドEELS(電子エネルギー損失分光)を測るということです。測定されるエネルギー損失は、100keV(キロエレクトロンボルト)、200keVのエネルギーの電子に対して、1eVくらいの分解能です。更に良くしていくと0.5eV程度になります。それで電子状態の観察により、リチウム、鉄、リン酸鉄、それが還元したとか、酸化したとか、そういうことが局所的にどう行われているかというデータを取っております。
 これはかなり私見が入っていて御容赦願いたいのですが、他の量子ビーム利用分析法との比較というのを書いてみました(4ページ)。左側に軟X線・X線、これは放射光でございます。それから電子顕微鏡、これはTEM(透過電子顕微鏡)・STEM(走査型透過電子顕微鏡)、それからSEM(走査型電子顕微鏡)もございます。それにオージェ電子、二次イオン質量分析法SIMS、電子線マイクロ分析EPMA、それからSPM(走査型プローブ顕微鏡)です。それから中性子散乱もあります。何が分かるかというのが右側にありまして、結晶構造と元素分析、元素の組成分析、化学状態。それから角度分解光電子分光でバンド構造、運動量空間での電子状態が分かる。さらに磁気構造。また、これらの技術は微小部には適用できるかというのを書いてございます。
 いろいろな比較がありますが、特にこれ(軟X線の段)を見ていただけると、軟X線は結晶構造もある程度分かる。他のところはみんな二重丸で、ここ(微小部分析)は一重丸ですが、全体として非常に良い。良いところだけ取ってきたのではないかと言われるかもしれませんが。特に元素分析はオージェ電子分光とか、二次イオン質量分析法、EPMAは非常に得意なわけでありますが、これらは電子構造とか磁気構造とか、他のところがなかなかできない。
 ただ、電子顕微鏡にしてもSPMにしても、すごく技術が上がってきており、磁気構造についてはローレンツ顕微鏡とかMFM(磁気力顕微鏡)、そういう大きな特徴が出てまいります。それから微小部分析については、これはもう電子顕微鏡やSPMには全然歯が立たなくて、これらは0.1nmくらいの分解能でできるのですが、軟X線はせいぜい数十nmです。ただ、数十nmでも相当いろいろなことが分かるということでございます。
 では、その顕微鏡でどこまで分かるかというのを示したのが、次の絵でございまして(5ページ)、顕微法というのは幾つかありますが、X線というのはとにかくエネルギー選別、高分解能が非常に容易なのですが、屈折率がほとんど1ですから、絞ることは非常に苦手なわけであります。したがって、仕方なくこのゾーンプレートという回折レンズを使います。そうすると強度が100分の1以下になってしまいますが、光の強度がSPring-8などでは強いので、こういう光電子分光でピンポイントでいろいろな情報が分かるというわけです。
 それから透過型では、これはPFでやられていますし、アメリカでも非常に精力的にやっていますが、STXMという走査型軟X線顕微鏡という手法があります。これは透過型で、(右上図、左側から右側に向かって)入射X線、出射X線です。つまり、X線を入れて透過X線で電子状態を見るというやり方でございます。だから数十nmの空間分解能でもエネルギー分解能は非常に高いというわけです。
 一方、電子線につきましてはTEMとSTEMがありますが、最近はSTEMでEELSという手法を使って見ていくのが主流です。しかも、この電子線の散乱が、重い元素ではたくさん角度が曲げられてしまうという性質を利用して、重元素についてはHAADF(ハイアングル・アニュラー・ダークフィールド)という手法で、外側のロング検出器で電子を検出して重元素をイメージングします。軽元素はそのまま通ってきた電子をイメージングするABF(アニュラー・ブライトフィールド)という手法でイメージしています。
 最後に、私は文部科学省の先端計測分析技術の委員(科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会 研究開発プラットフォーム委員会 先端計測分析技術・システム開発小委員会)をやっておりまして、それでいろいろな技術の比較をしたものを示しております(6ページ)。これは空間分解能であります。横軸がいわゆるビームのサイズと言いますか、二次元的な空間です。これが1cm(センチメートル)です。続いて1mm(ミリメートル)、1nm。X線がどこにあるかというと、X線は絞るのが難しいと言いましたけれども、このあたりにX線が固まっています。しかしながら、先ほどのゾーンプレートとか、超平滑ミラーとか、そういうのを使いますと、実は十数nm、この辺の領域まで一挙に飛んでくることができるというわけです。これからはこの辺の領域を荒らしていく必要があるのではないかなというふうに思っております。
 以上です。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、今のお話に関して何か御質問・御意見があればお願いいたします。
 はい、どうぞ。
【高原委員】  今日は電池の話が金子委員と尾嶋委員のお二人から出てきまして、その中で、いつも電池のシェアか、無機系か触媒系のところになってくるのですが、私はソフトマターが専門なので、セパレーターのところをいかに薄くするかというのがかなりハイパワー、それから安定性のところでも気になってくると思うのですが、そういうところでオペランド解析とかやる場合、ソフトだけではなくてテンダー領域というのもうまく活用しながらやっていくと、硫黄が入っていますので重要な情報が得られるかと。
【尾嶋委員】  そうです。硫黄とか、リンとか、そのあたりが重要です。
【高原委員】  ただ、そのあたりのところもかなりキーエレメントになってくると思います。
【尾嶋委員】  なってくると思いますね。
【高原委員】  なかなかそのあたりをうまく測る方法というのが、見つからないので、機会があれば教えていただければと思います。
【尾嶋委員】  基本的には結晶分光ですが、結晶分光ではX線のエネルギーが高いので、さすがに大気中はよくないですが、ヘリウム中なら減衰が少なくていいわけです。あと回折格子分光では、軟X線の減衰が大きいので真空中で分光します。回折格子でも非常に斜入射にすると2keV近くまでの軟X線は分光できます。その上のエネルギーになると、やはり超高真空中の二結晶の分光が必要です。昔NTT研究所で硫黄とかリンのX線を出そうとして軟X線用二結晶分光器を作ったことがありますが、なかなかそれが世の中に広まっていかない。使いにくいというのがあったが、軟X線用放射光源がなかなかないというのも広まらなかった原因です。だから今おっしゃった検出器の開発と放射光源の両方をうまく開発していかないとだめです。おいしいところはたくさんあると思うのですが、うまいアプリケーションを探すことですね。
【高原委員】  だから、今は有機ELでも、その辺りがやはりキーエレメントですし、有機トランジスタなどもそうですね。今の時代だと、いろいろそのあたりの技術というのが必要になってきます。
【尾嶋委員】  そうですね。ニーズが非常にあるので。
【雨宮主査】  本当に今の話は重要なところで、今日、尾嶋先生のお話だと、軟X線は2keVくらいまで。
【尾嶋委員】  2keVくらいまでです。
【雨宮主査】  高原委員が言われた2keVから5keVのエネルギー領域のテンダーX線の高輝度光源がなかったことが一因かも知れませんが、5keV以上のX線を用いて大気中で回折実験を行っている研究者と、2keV以下の軟X線を用いて真空中で分光実験を行っている研究者は、これまであまりお互いに交流することが少なかったというところがあって……。
【尾嶋委員】  それはありますね。
【雨宮主査】  テンダーX線を含む高輝度光源ができれば、そこで新たな学融合が起こり新しい学問領域が活発になるのではないかという気がしますね。
【尾嶋委員】  タンパク質の構造解析でも、硫黄の吸収端付近の異常散乱を測定すると、位相を決めるのが非常に楽になる。わざわざセレンを入れなくてもいいというのがありますので。
【高原委員】  そうですね。
【尾嶋委員】  そこは是非やるべきだと思いますけどね。
【雨宮主査】  はい。ほかにいかがでしょうか。
 それでは、次の議題に入ります。まず、事務局より御説明をお願いいたします。5分程度で、資料に基づいてお願いいたします。
【上田室長】  事務局より資料5-1から5-3まで、御説明いたします。5-1を御覧ください。
 現在、9つの放射光施設が我が国にはございます。リング型の放射光施設という意味です。こちらの整備時期と整備主体について整理しました。3つのカテゴリーがあります。
 1つ目は共用法と呼んでおります「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」というSPring-8の建設を機に作られた法律ですが、これに基づき国が整備運営をしているもの。SPring-8の実際の設置者は、当時、理化学研究所(理研)と日本原子力研究開発機構(原研)でした。原研は現在、量子ビーム部門が量子科学技術研究開発機構(量研機構、QST)に移管されましたので、現在でいうとQSTということでございます。真ん中のカテゴリーが大学・大学共同利用機関が整備運営しているもので、80年代からそれぞれの施設が整備・利用開始され、90年代にもあったということでございます。右側にありますのが、地方自治体が主に整備運営したもので、こちらはいわば小型の放射光施設ということです。2000年代以降、こういったものが整備されてきました。このうち国の予算ということで言えば、共用法に基づく施設に共用のための補助金・交付金が交付されて運営されることになります。また、国立大学法人であれば、国立大学法人の大学予算といった中で整備・運営される性格のものでございます。
 裏面は、中間的整理にも付けてありましたがおさらいということで御参考までに紹介します。右上にSPring-8という硬X線があることに対して、現在御検討いただいている光源については軟X線のところで高い輝度を持つというグラフでございます。
 資料5-2にまいります。先ほど出てきました共用法について、念のため御説明いたします。この共用法に基づき、現在はスパコン「京」も含めまして、写真にございます4つの施設が動いております。広範な分野における様々な研究者、産学官の利用者の利活用がなされる中で、左下にございますように、施設設置者としては国の試験研究機関又は研究等を行う独立行政法人が対象になっていまして、研究等を行う独立行政法人というのは、国立研究開発法人のことでございます。現在、理研も原研も国立研究開発法人ということでございます。
 こういう設置者があって運転しているのに対して、右下に登録施設利用促進機関とあります。有名なところではJASRIとか、CROSSとか、RISTがありますが、これは共用法に基づき国に登録された施設利用を促進する機関ということです。設置者とは別に、公平かつ効率的な共用を行うために、1つは利用者選定業務を、もう1つは利用支援業務を行ってもらい、こちらに対して国から交付金が交付されます。
 次のページを御覧ください。4施設の予算額の大体の規模を太字で示してありますので、このような規模でそれぞれの施設が運営がなされていることを御覧いただければと思います。
 3ページ目には、念のため共用法の抜粋を入れてあります。目的です。第一条「先端大型研究施設の共用を促進するための措置を講ずることにより、基盤の強化を図るとともに」、「相互の間の交流による」、「多様な知識の融合等を図り、もって科学技術の振興に寄与することを目的とする」といった中で、第二条におきまして、この共用法の対象という、その先端大型研究施設とは、国立研究開発法人に重複して設置することが多額の経費を要するため適当でないというような大規模な研究施設であって、先端的な分野において比類のない性能を有し、広範な分野における多様な研究等に活用されて、価値が最大限に発揮されるものという定義がなされてございます。これに対して政府の責務がございまして、政府は共用を促進するために必要な措置を講ずるよう努めなければいけないという努力義務が置かれております。少し飛びまして、例えば第六条を見ていただくと、設置者たる理化学研究所については実施計画を策定し、毎年度、文部科学大臣の認可を受けなければならないというようなところで国との関与がございます。さらに第八条、第二十一条は、いわゆるJASRI等に関するものです。こちらは「次に掲げる業務の全部を行わせることができる」ということで、先ほど説明した利用者選定業務、利用支援業務について定められています。二十一条にありますのは、この利用促進機関に対し、「費用の全部又は一部に相当する金額を交付することができる」、ということで、これに基づき交付金が交付されているというところでございます。
 次のページにまいります。こちらは交付金は除き、運転に係る予算のみですが、最近の年次推移を示しています。運転予算が最近少し伸びているのは、電気代の増が主要因ですが、いずれにせよ着実な運転がなされているということは言えるかと思います。ちなみにSPring-8は平成10年からの変化も載せていますが、当時は運転費が120億円を超えるようだったところ、年々効率化が進み、現在は70億円から80億円台で推移しています。
 以上が共用法の説明でした。
 資料5-3を御覧ください。中間的整理では国の政策策の方向性をお示しいただいたわけでございまして、これに関して今後、計画案の検討を行うという場合は、国の主体候補、研究機関という観点があり、それを今日から御議論いただくに当たってこういう観点があるのではないかということです。1つは共用法の適用ということの観点があるかと思います。もう1つは国の組織の目的・業務の範囲との関係があろうかと思われます。もう1つは、実績あるいは能力ということで、放射光施設の整備運用実績あるいは能力があるか。放射光施設も大型プロジェクトですので、大型プロジェクトの管理の実績能力があるか。放射光をはじめとする量子ビーム利用をする利用研究の実績能力があるか。そもそも研究施設の共用の実績能力があるか。あるいは産業利用という話も3GeV級放射光施設の場合にはございますので、産学連携の場(プラットフォーム)の形成及び提供の実績あるいは能力があるか。このような観点があるのではないかと思われますところ、一応このような一枚紙にまとめてございます。
 説明としては以上でございます。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。国の主体についてということで、室長より御説明いただきました。その中で共用法ということの説明がありましたが、実際に共用法に基づいて施設運営を行っている理化学研究所から、今日は矢橋先生にお越しいただいていますので、その辺の視点に関して、矢橋先生に御説明をお願いできればと思います。
 5分程度で、よろしくお願いいたします。
【矢橋グループディレクター】  それでは簡単ですが、共用法に基づく施設運営主体から見たSPring-8の運営状況について御紹介させていただきます。
 おめくりいただきまして、一応このプレゼンテーションですが、理念それから制度・運用、成果というところで順番に御説明いたします。
 まず、その共用法の理念というところは、先ほど事務局から御紹介があったとおりで、この一枚紙にまとめてありますが(2ページ)、目的といたしまして「先端大型研究施設の共用の促進によって科学技術の振興に寄与する」ということが第一条に書いてございます。これは非常に幅の広い立て付けになっておりまして、非常に重要なのは、この「社会の要請に応じて、広いターゲットをカバー」できると。特に現代求められているのは産業と学術が共に協調しながら、どんどん成果を作っていくということが求められていますが、そういったところができているということでございます。
 それから下側、第三条の方でこういった活動を支えるために政府の責務として、共用を促進するために必要な措置を講じるように努めなければならないという努力義務が規定されています。
 次に行っていただきまして(3ページ)、こういう理念のもとに、では実際どういうふうな運用がされているかという説明でございますが、先ほどもございましたが、SPring-8・SACLAは、国立研究開発法人理化学研究所と公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)が連携して運営をしております。予算の流れでございますが、国からの共用法の予算としましては、右側3分の2のところがありまして、まず設置者としての理化学研究所に特定先端大型研究施設等補助金という形でSPring-8に84億円、SACLAに56億円という予算をいただいております。それから更に右側に、特定先端大型研究施設利用促進交付金ということで、これは登録施設利用促進機関のJASRIに14億円、SPring-8・SACLAを合わせた金額をいただいているということでございます。ここの根拠になっているのは設置者の業務、第五条、それから登録等、第八条、先ほどの資料にあるとおりでございます。
 具体的に登録施設利用促進機関の仕事といたしまして、利用者の選定・支援ということがございますが、その利用者の選定システムというのが次のページにございます(4ページ)。SPring-8・SACLAともに、選定委員会というのが置かれまして、ここで議論がなされます。選定委員会の下の組織としまして、実際に課題を審査するPRCというのがございます。必要に応じてその下に分科が設けられていると。申請の課題数としては、特にSPring-8は非常に多いので分科の数も多いわけですが、2,000課題/年、採択率が約65%、SACLAが、これもどんどん増えていますが、130課題/年、採択率が約50%ということでございます。
 こういう制度の下でいろいろな成果が出ているということで、次のページに行っていただきまして(5ページ)、成果といたしまして、簡単に利用者数、利用課題数、年間発表論文数と被引用状況の推移をまとめてございます。利用者数、これはSPring-8の方ですが、1997年の共用開始から順調に増えておりまして、現在、年間延べ1万6,000人を超えるという非常に多くの皆様に御利用いただいているということでございます。それから利用課題数、右側が1,400課題、それから産業の割合、これは右軸でございますが、全体の約20%ということで、これは世界的に見ても非常に産業界に使っていただいている数字でございます。それから下側、年間発表論文数でございますが、これは日本の総論文数の約1%になっておりまして、更に言うと被引用トップ1%解析をしますと、トップ1%で2.4%ということで、非常にクオリティの高い論文が生成されているということが言えます。
 次に行っていただきまして(6ページ)、産業の利用のところで本日もいろいろ御紹介がありましたが、非常に多様な分野、これは海外の放射光施設と比べましても特徴的でございます。海外は専ら創薬のところに注力しているケースが多いわけですが、SPring-8の場合はエレクトロニクス、素材、環境・エネルギー、創薬満遍なく、我々の生活の身近なところから非常に根幹のところまで、社会を支える製品開発に役に立っているということがございます。
 次に行っていただきまして(7ページ)、産業界との連携というのは非常に重要でございますが、これもいろいろなスキーム自体が進化をしておりまして、もともとSPring-8が造られた共用開始の直後は、割合個別の利用があったわけですが、それがだんだん業界団体を対象に業界の中の大きな問題に取り組むと。それから学術グループも一緒になってやっていただくと。そして現在は分析ツールのみならず経営戦略のツールとして使っていただくということで、絶え間ないゲームチェンジということを推進しているところでございます。
 更に次へ行っていただきまして(8ページ)、このような活動を支えていただいている運転時間の着実な確保をいただいているわけですが、これはSPring-8の運転時間の推移をまとめたもので、電気代等々、先ほども事務局から御説明がありましたが、値上がり等厳しい状況ではございますが、トータルの運転時間として約5,000時間、ユーザー提供として約4,000時間をキープできているということです。
 最後に、簡単ではございますが、まとめさせていただきます(9ページ)。共用法の理念に基づきまして、「社会の要請に応え続ける」先端大型研究施設が形成できてきたと。特にSPring-8は、「着実に確保された運転時間のもとで、目覚ましい産業・学術の成果を上げている」ということでございます。
 どうもありがとうございました。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 以上で、今、国の主体についてということで、室長それから矢橋先生から御説明いただきましたけれども、今のプレゼンテーションの内容に関しての御質問、コメントも含めて、この「国の主体について」という視点において議論できればと思います。
 それでは御意見をお願いいたします。小杉委員。
【小杉主査代理】  資料の5-1に整理されておりますが、今は主に共用法のお話が中心だったのですが、私と山田委員は大学共同利用機関に属しております。共用法で政府の責務としてしっかり支えるシステムができているのと比較すると、大学共同利用機関というのはなかなか今、法人化以降苦しい状況でありまして、PFでも運転時間を確保するというのは非常に難しい状態になっています。大学共同利用機関が大学と同じ組織になっている関係もありますが、大学を含めて全体として、共同利用機関に予算措置をしっかりやっていきながら教育も研究もやっていくという財政基盤が少しはっきりしないような現状を踏まえると、整備の主体は資料の5-1の左側にあるような共用法に関わるようなところでしっかりサポートされている組織がやるのがいいのではないかと考えます。
 施設を造る主体としては、ここ4、5年では、大学共同利用機関が予算も確保し、運営して、長期的に産業界に貢献することも含めてやっていくのは難しい状況にあります。そのため資料の5-1の左側にあるような共用法の体系でやれるのがいいかなという感じがします。ただ1点、やはり大学の方は研究者がしっかりやっていますし、いろいろな意味で実績として放射光分野を支えてきています。SPring-8やほかの施設も同じだと思うのですが、造るときの人材として、オールジャパンで取り組むことを考えると、やはり大学・大学共同利用機関の人材も含めてやっていただくのがいいかなとは思っております。
 以上です。
【雨宮主査】  どうもありがとうございます。オールジャパン体制でやるということが重要だということと、共用法で国がこういう主体になるという、この在り方が現時点では最適な方法ではないかという御意見だったかと思いますが、ほかに御意見はありますか。
【尾嶋委員】  少し違った立場から。結論としては小杉委員と同じなのですが、私は大学へ移る前に産業界におりまして、14年間放射光を使って研究をやってきました。
 そのときはKEKの放射光を使わせていただいて、実際にNTT・日立・富士通・NECの4社が専用のビームラインを作って実験をしておりました。我々は産業利用として特にX線リソグラフィーと解析の主にこの2本立てでやっていましたが、KEKの方たちには非常によくやっていただいていたのですが、やはりミッションが違うという……。先ほど矢橋先生の発表資料の2枚目にありましたが、大学共同利用ではやはり大学教員その他の者で同一の研究に従事する者の利用に供することということで、産業利用というのがあまりはっきりと書いていないのです。個々の人たちは非常によくやっていただいているのですが、やはり無理がある。私は大学へ移ってからも光ビームプラットフォームのナノテク関係でその委員もやらせていただいたのですが、どうしても大学共同利用でいくと産業利用に関してメインなミッションでない。その点が少し弱いのかなというふうに思いました。
 これからは、日本の国力を維持するのに放射光というのはなくてはならないツールで、特に産業界もかなり基礎的な研究をどんどんやっていかないといけないと思っていて、その部分についてはオープンイノベーションでやっていく。かつ、それと同時にマル秘のところというか、見せたくないところは成果占有でいく。だからそこの切り分けがやりやすいような機関が主体になるべきではないかなと思います。
【雨宮主査】  どうもありがとうございます。
 ほかに何か御意見。はい、山田委員、お願いします。
【山田委員】  私はKEKの立場なのですが、やはり今、大学共同利用機関法人もある意味での転換期を迎えているということは非常に強く感じています。やはりミッションが違うということを、今、尾嶋委員もおっしゃったのですが、確かに今の大学共同利用機関法人のミッションは非常に大事なものなのですが、時代の流れに沿った柔軟性を持ちつつ、そういうミッションを遂行していくというところが、今非常に大きく社会からも問われているのだということを感じています。この放射光の施設に関しても、まずは動き出してみると。動き出すのに何が一番動き出しやすいやり方かと言われると、やはり小杉委員や尾嶋委員がおっしゃるように、共用法をベースにした動き出し方の方が現実的だろうと、私も考えています。
 ただ、共用法に関しても、大学共同利用機関の運営方針ややり方に関しても、やはり究極的にオールジャパンで理想像を追い求めていくということが、これから将来非常に大事なことなのではないかと思います。
 ですので、やはり最終的には理想像を求めて、大学共同利用機関法人も変わるし、共用法の運営方針もそういうものを求めていくというところで、まずは共用法に基づく現行のやり方でスタートすべきではないかということを私も考えています。
【雨宮主査】  どうもありがとうございます。
 ほかにいかがでしょう。高原委員。
【高原委員】  私も小杉委員の御提案、共用法の適用の機関が受皿ということに賛成なのですが、以前の次世代放射光施設検討ワーキンググループでは私が主査をやっており、そのときの報告書の中で分散型プラットフォームというのを提案しました。そういったものを、今、大学の共同利用や共同研究機関でもアライアンスとか、そのような形で日本全国をカバーして相補的に行うというシステムを取り入れております。そういったシステムをうまく運営していただく場合、特にその施設によって得意・不得意がありますので、それをうまくシームレスにつなげて、ユーザーフレンドリーな環境を提供していただき、いろいろな解析とかを含めて、運営していただける主体の候補が必要ではないかと思います。
【雨宮主査】  どうもありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。
 国立研究開発法人が主体になって、共用法的なものから始めてみて、共用法も更に柔軟にというような御意見があったかと思いますが、例えば放射光施設の整備運用の実績のある法人という意味では、今、矢橋さんが理研の経験をお話しされましたが、ほかにどういう法人が考えられるかどうか、事務局から見てどういう法人があり、可能性があるのか、何か情報を頂ければ。
【上田室長】  先ほど御説明しましたとおり、SPring-8の整備運用した実績があるということでは理研と原研ということになります。なお、先ほど申し上げたとおり、その当時やってきた原研の量子ビーム部門は、現在組織としては量研機構ということになりまして、この量研機構がSPring-8に現在もビームラインを保有して拠点を有するということかと。整備運用実績という意味では、そういうことかと思われます。
【雨宮主査】  そうですね。確かにSPring-8は、もう20年前ですが、できたときには理研と現在のQSTということで立ち上がったわけです。そういう意味では、今日、QSTの内海委員が来ておられますが、そういう立場からの何か御意見はありますか。
【内海委員】  ありがとうございます。今御説明いただいたように、SPring-8の建設期と運用初期の頃は理研と原研の共同チームという形でやらせていただいていました。原研が当時の日本原子力研究所から現在の日本原子力研究開発機構に変わった際に、SPring-8の運営から撤退したという経緯がございます。その後、原子力機構改革の中で量子ビームを担っていた部署が原子力機構から離れて、昨年の4月に新しい量子科学技術研究開発機構として生まれ変わったところでございます。
 量研機構になって何が変わったのですかとよく聞かれるのですが、今までのいわゆる原子力という枠組みから少し離れて、広く科学技術一般の発展に貢献してくださいという、そういう使命を受けて発足した国立研究開発法人であるというふうに認識しています。
 私がこの委員会に参加させていただいていることもあり、量研機構では研究者も経営陣も、この高輝度放射光源のことを非常に興味を持って見てきているというのは事実でございます。
 量研機構の平野理事長の強いリーダーシップにより、量研機構が進むべき道筋というのを「QST未来戦略2016」というものにまとめてございます。そこには、世界トップクラスの量子科学技術研究開発プラットフォーム構築を目指すのだということが書かれています。
 したがって、これはあくまで私の私見ではございますが、その世界レベルの量子科学技術開発プラットフォーム構築を目指すのだという量研の基本コンセプトに、今回の高輝度放射光計画は大いに合致しているのではないかというふうに考える次第でございます。
 それからもう1つ、産業利用という視点でも、産学官連携活動を積極的に推進し、イノベーションハブとしての役割を担うということが、QST未来戦略2016に書かれております。この観点からも整合性があるという印象を私は持ちます。
 ただ、これ以上のことは私の一存では申し上げられないところもございますので、経営層と相談をさせていただくということにさせていただきたいと思います。
【雨宮主査】  そうですね。QSTが去年4月にできて、原研からQSTになったという非常に大きな変化ですが、内海委員の立場も分かりますので、それ以上のことは今の段階では意見を述べるのは難しいのではないかとは思います。ところで、国立研究開発法人として、放射光で今までの整備の実績のある理研の立場から見たときに何かコメントはあるのでしょうか。
【矢橋グループディレクター】  理研としましては、所内で我々も議論を少し進めておりますので、もちろんここで私の可能な範囲でのお答えにはなりますが、簡単に御報告させていただきたいと思います。
 理化学研究所として3GeV級放射施設に対応できる組織は播磨の放射光科学総合研究センターということになりますが、一方で播磨はSPring-8も、もう供用開始20年ということで、今特にアップグレードに向けたいろいろな検討をかなり精力的にやっていると。あと、一方でSACLAの方も供用開始5年ということで、こちらも利用拡大ということがありますので、いろいろこういったことに注力をしているところでございます。
 したがって、こういうことを考えると、この本件に主体的に取り組むのはなかなか難しいのではないかなということが思われます。ただ、一方で3GeV級放射光施設は国全体の放射光、それからSPring-8のアップグレードにとっても非常に重要かつ必要な計画であることは間違いないということがございますので、播磨の放射光科学総合研究センターとしても本来業務を遂行しつつ、協力できるものは協力すべきであると考えられるということでございます。
 いずれにしても、この場で申し上げられるのはここまででございますので、持ち帰って検討・確認を進めたいと思います。
 以上でございます。
【雨宮主査】  いかがでしょうか。現時点ではそれぞれ内海委員、矢橋先生の御意見をお聞きしました。個人的な感想というレベル以上のことは言えない立場だと思いますが、私としても、今までの議論の流れを聞いてきて、産業利用という視点、これだけの大型施設を動かすという視点、さらに、資料5-1に整理されている視点から見ると、共用法で整備するというのが最も現実的だと思います。したがって、理研・QSTの方がどう受けとめていただけるかということが次のステップとして非常に重要になってこざるを得ないと思います。何もないところから何かがポンと出てくるという手品があるわけではないので、当小委員会の期待感を各研究機関に持ち帰っていただければと思います。このことに関して、事務局から見た見え方等、何かコメントがあれば、いただければと思うのですが。
【上田室長】  中間的整理も含め、今、国の政策の方向性を御提言いただくために御議論いただいていると思いますので、産業利用も含めやっていくというのは1つの3GeV級放射光施設の形だという方向性、よくよく事務局としても承知しております。
 そういう中で、共用法を見越したような国の主体が適切という御議論は、それはそれで事務局としては受けとめるべきかなというふうに思っています。
 具体的な機関としては、理研とQSTが候補ということで、もし確認というのが必要であれば、事務局としてもサポート申し上げて両機関の御意向を確認するということも可能かとも思います。
【雨宮主査】  はい。是非そういうことの感触というか、現実感があるかどうか、問題点も含めて情報を頂ければと思います。当小委員会でいろいろと議論していまして、とにかく何か一般論を観念的にやっているわけではなくて、やはり次のステップということになると、国の主体という問題は非常に具体的な問題にならざるを得ない現実的な問題ですので、その辺のところを進めることができるかどうかというところは非常に重要なステップだと思っています。
 はい、どうぞ。
【尾嶋委員】  1点コメントなのですが、両機関ともすごい実績をお持ちだと思うのですが、一方、ユーザーの立場からすると、量子ビームサイエンス、量子ビーム科学というのは日本が非常に強い、得意とするところでありまして、もちろんそれの産業利用というのも精力的にやられているのですが、それのプラットフォームというのが、いま一つ見えないなというのを思っております。
 実はKEKの物質構造科学研究所、山田委員が所長をされておりますところで放射光と中性子とミュオンと非常に大きな成果を上げておられるのは分かるのですが、量子ビームと言った場合には、そのほかにもレーザーもあり、先ほど少し紹介させていただきましたが、イオンビームとか、電子ビームとか、そういうのも含めた量子ビームプラットフォームをやはり構築していって、1ユーザーとしたら、「こういうサイエンスをやりたい」ということをどこかに申し込んだら、コンサルタントというか、コンシェルジェみたいなものがいて、「これはレーザーでやればすぐ分かるよ」とか、「これは中性子でできますよ」とか、何かそういう効率のいい仕分というか、そういうものをやっていただけると、ユーザーとしては非常に効率よく、良いサイエンスだけに専念していけると。だからそういう観点でも検討していただければと思います。
【雨宮主査】  どうぞ。
【金子委員】  今の尾嶋委員のコメントに関して、まさに私の最後のまとめの1個目が、その意見と全くイコールでして、やはり1つの手法だけというわけではないので、これを知るためにはどうしたらいいかということを今は各社がいろいろ自分たちでトライ・アンド・エラーをしながら、「これだとここまで分かるね」とかいうやり方でしかやれていません。
 それをできることならば、尾嶋委員が言われたように、どこに行けばどこまでできるということがある程度分かっていらっしゃる方がいて、アドバイスしていただけると有り難いですし、それができれば同じようなエリアにあると、もっとうれしいというのが我々としてはあります。
 なかなか施設を動かすとか、そういうのは難しいところもございますので、既にあるものに対しては「あそこに行けばやれますよ」と言われれば、そこまで行くのですが、今後作るものに関して言えば、多少そういうロケーションのことも考慮していただけると大変有り難いかなというふうには思います。
【雨宮主査】  他の手法とのいろいろプラットフォーム、それから先ほど高原委員の方から日本には放射光が幾つもあって、そのアライアンス、ネットワーク的なものを通してのユーザーフレンドリーな利用環境の整備という視点、そこは今日の発表も含めて、委員の御意見を含めて、非常に重要なところかと思います。その辺の視点というものが十分に取り入れられること。
 また、別な言葉に変えると、オールジャパンのもう1つの在り方だと思っています。全てが協力して1つの施設を造るという在り方に加えて、その施設がオールジャパンの中で相補的にどのようなミッションを担っているかということをしっかりと自覚すること。2つの意味でのオールジャパンという視点が極めて重要だと思います。
 今日は国の主体ということも含めて御議論いただきましたが、用意した今日の議題は以上ですが、何か。では事務局の方からあれば。はい。
【上田室長】  今、主査がおまとめになったオールジャパンとか、量子ビームの相補利用とか、前回、4月の当小委員会で中期的な観点として挙げられた点が、結構今の議論でも出たと思います。当小委員会は、この軟X線向け放射光施設の御議論をお進めいただきつつ、時に並行して、時に順次、そういった国全体のグランドデザインというのも御議論いただければと事務局としては考えておりますので、また主査と相談して議題を考えていきたいと思います。
【雨宮主査】  それでは、今日の委員会の議題は以上ですので、何か事務的な連絡を事務局の方からお願いいたします。
【橋本補佐】  次回の小委員会の日程ですが、また改めて御連絡させていただきますので、御協力のほど、よろしくお願いします。
 本日の資料につきまして郵送御希望の方は封筒に入れた後、机上に置いたままにしていただければと思います。不要な資料やドッジファイルについては机上に置いたままにしていただければと思います。
【雨宮主査】  それでは以上をもちまして、第7回の量子ビーム利用推進小委員会を閉会といたします。どうもありがとうございました。


―― 了 ――


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