資料4 原子力分野の研究開発の戦略的重点化について(論点メモ)

平成21年8月 

1. 第3期科学技術基本計画における分野別推進戦略(参考1参照)

(1)重要な研究開発課題

 現行のエネルギー分野の分野別推進戦略においては、以下の考え方に基づき、原子力エネルギーの利用の推進のための10課題を重要な研究開発課題として位置づけている。

○原子力発電は、エネルギーの安定供給に資するほか、地球温暖化対策の面で優れた特性を有するため、安全性の確保を前提に、中長期的な視点に立ち、核燃料サイクルに取り組むとともに、原子力発電を基幹電源として位置付け研究開発を推進する
○原子力技術は、他の分野に比べ、我が国の独自技術を保有することを目指した重要性が高い

(2)戦略重点科学技術

 また、今後深刻化が予想される資源制約および環境制約を克服するためには、原子力エネルギー利用の推進が資源小国の我が国にとって必要不可欠であり、「基幹エネルギーとしての原子力の推進」を基本戦略とする旨が定められ、以下の4つの中核原子力技術を戦略重点科学技術に位置づけ、計画的かつ着実に原子力の利用を推進することとしている。

○安全性・経済性に優れ世界に普及する次世代軽水炉の実用化技術 
○高レベル放射性廃棄物等の処分実現に不可欠な地層処分技術 
○長期的なエネルギーの安定供給を確保する高速増殖炉(FBR)サイクル技術 
○国際協力で拓く核融合エネルギー:ITER計画

(3)国家基幹技術

 さらに、「長期的なエネルギーの安定供給を確保する高速増殖炉(FBR)サイクル技術」は、エネルギーの乏しい我が国にとって、エネルギー安定供給に大いに貢献し産業の発展と国民生活の向上に資する技術であり、「環境と経済の両立」、「科学技術により世界を勝ち抜く産業競争力の強化」、「世界の科学技術をリードする」といった政策目標の実現にも貢献するため、我が国の存立の基盤として、国家による大規模かつ長期的な投資が必要な「国家基幹技術」として位置づけられている。

 

2.戦略的重点化の状況(参考2参照)

(1) 文部科学省においては、分野別推進戦略を踏まえ戦略重点科学技術への重点化が着実に図られていると考えられる。文部科学省における原子力分野の戦略重点科学技術の予算額の合計は、315億円(平成18年度)から545億円(平成21年度)となり、230億円(73%)の増となっている。

(2) これにより、2010年にはもんじゅの運転再開やFBRサイクルの革新技術の評価が予定されているなどFBRの実用化に向けた研究開発が着実に進展するとともに、ITER建設に向けた機器の製作等が計画通り進んでいる。

(3) 一方、原子力関連経費の予算は、2,675億円(平成18年度)から2,525億円(平成21年度)へ150億円(5%)の減となっており、合理化・重点化を進めているが、施設の老朽化対策や廃止措置等が進まない状況となっている。

 

3.現行の分野別推進戦略策定以降の原子力に関する国内外の情勢の変化

 以下のような情勢の変化に伴い、我が国にとっての原子力エネルギーの重要性は益々高まっている。

(1) 低炭素社会に向けた国内外の要請の高まり 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(2007年)、G8洞爺湖サミット首脳宣言(2008年)、エネルギー基本計画(2007年)、低炭素社会づくり行動計画(2008年)、環境エネルギー技術革新計画(2008年)等において、発電の際に二酸化炭素を排出しない原子力の重要性を明示。

(2) 世界的な原子力回帰(原子力ルネサンス) 米国で30年ぶりに新規原子力発電の建設へ。スウェーデン及び英国は2008年に原子力発電所建設の凍結を解除。中国、インド、ロシアについては現在、各々20基以上の原子力新設計画。

(3) 開発途上国における原子力発電の新規導入の動き 現在、31の国及び地域が原子力を導入しているが、43カ国が新規に建設を予定又は検討。

(4) 原子力産業の国際的な再編 拡大傾向にある市場をめぐって日、仏、米、露等が国際的な競争と協力をする時代になっている。我が国の原子力産業の国際競争力強化にとって重要な時期。

(5) 核不拡散と原子力平和利用のための国際的枠組等 核不拡散・核物質移転のための二国間協定の締結に向けた動きが活発化。我が国は7協定(米、英、仏、中、加、豪、ユーラトム)に加え、現在、露、カザフ、韓国と交渉中であり、さらに複数の国との協定交渉が見込まれている。また、原子力の核不拡散及び平和利用の強化の世界的な流れの中、IAEA事務局長に初めて日本人が就任。

(6) 我が国における原子力開発利用の進展 六ケ所再処理工場の竣工が間近であるほか、プルサーマル計画が着実に進捗。また、FBRサイクル実用化研究開発、ITER計画等が着実に進展。

 

4.第4期基本計画における戦略的重点化に向けた考え方(案)

(1) 原子力エネルギーの長期的重要性 現行の分野別推進戦略で述べられている原子力エネルギーの特徴、重要性等を踏まえた4つの課題の戦略重点科学技術としての位置付けの必要性等は、第4期科学技術基本計画中においても何ら変わるものではないと考えられる。

(2) 内外の情勢変化による重要性の増大 現行の分野別推進戦略の策定以降の原子力を巡る内外の情勢の変化は、原子力に関する研究開発及び4つの戦略重点科学技術の重要性を更に高めるものと考えられる。一方、各課題の投資効果等に関する評価や、例えば核不拡散技術や発電以外のエネルギー利用など4つの課題以外に重点投資すべきものの有無についても検討する必要がある。

(3) 分野の分類と原子力エネルギーの重要性 第2期及び第3期科学技術基本計画における「重点推進4分野」及び「推進4分野」の分野分類においては、シーズ側とニーズ側の視点が混在している等の様々な指摘があるものと認識しているが、仮にこれが見直されるとしても「原子力エネルギーの利用の推進」は、重点推進分野等の一つ又は「環境・エネルギー問題」といった大きな分野の中で重要な位置を占めるべき領域であると考えられる。

(4) 国家基幹技術の重要性・必要性 原子力エネルギーに関する研究開発など、長期的・国家的な視点に立って研究開発を進めていくことが必要な分野の戦略的重点化にあたっては、「国家基幹技術」の考え方が極めて重要である。「長期的なエネルギーの安定供給を確保する高速増殖炉(FBR)サイクル技術」は、引き続き「国家基幹技術」として位置付け重点的に研究開発を推進していく必要があると考えられる。

 

5. その他考慮すべき事項

(1) 科学技術基盤としての原子力の重要性 原子力技術は、エネルギーのみならず量子ビームやRIの利用等でライフサイエンス分野やナノテクノロジー分野において、重要な研究開発手段等を提供しており、その波及効果は非常に大きい。一方、放射性物質の安全かつ効率的な取扱技術の開発や人材育成等に必要な大学等のホット施設は、資金不足で維持管理・運転の継続が危ぶまれているものもある。幅広い分野で使われる原子力の基盤的な技術や施設に対して適切な資源配分がなされることが必要である。

(2) 人材育成 我が国の原子力技術に対する期待が高まる一方、我が国の大学においては、関連学部・学科数の大幅減少や原子力黎明期や発展期を支えてきた優秀な人材の大量退職等により人材不足が懸念されており、産学連携の取り組みを含めた人材育成を強化する必要がある。国家基幹技術等の研究開発を長期的に進める観点からも、人材育成や技術の伝承について十分に配慮することが必要である。

(3) 核不拡散と科学技術外交 核不拡散や国際協力など原子力に関する国際的な対応について、科学技術外交の一環として戦略的な対応を図っていく必要がある。

 

(了)

第3期科学技術基本計画における戦略的重点化(原子力関連)

お問合せ先

研究開発局原子力計画課

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