日本の展望―学術からの提言2010(素案) はじめに

 日本学術会議は内閣府に所属する特別の国家機関であり、科学者コミュニティを代表して政府や行政に対して勧告、要望、声明、提言などにより国の政策や学術に関して意見具申をする機能を持ち、人文・社会科学から生命科学、理学・工学など全ての学術分野を統括する。言い換えれば、日本学術会議は、我が国の学術全体を複眼的かつ俯瞰的に見ながら長期にそれを展望することが使命の一つである。
 こうした考えに沿って、2002年12月、当時の吉川弘之会長の下で長期的で調和のとれた助言として報告書『日本の計画 Japan Perspective』を世に問うた。その骨子は、地球の物質的有限性と人間活動の拡大によって生じた問題を「行き詰まり問題」と捉え、「人類社会の持続を可能にする」ための青写真を描く必要性を説き、それを「解決する方法論」を見出すことを目指して様々な提言を行うものであった。しかし、この報告書はいわば中間報告であり今後検討を重ねるべき問題点が多々残されている上に、時代を経ればそれなりに視点を変える必要もあろう。
 そこで我々は、これまでの60年間に日本学術会議が提出してきた数多くの社会への「発信」を踏まえた上で、上述の『日本の計画 Japan Perspective』における議論の方向を基礎としてそれをさらに発展させることにした。すなわち、10~20年先の学術およびその推進政策に対する長期的な考察を『日本の展望‐学術からの提言2010』として取りまとめることにしたのである。このことは、2008年4月8日の第153回日本学術会議総会で承認されている。なお、この「日本の展望‐学術からの提言」は6年ごとに改訂しながら継続的に発信し続けることとしている。
 この報告書では、人文・社会科学、生命科学、理学・工学の各部門およびさらに細分化された各学問分野別の議論から抽出されてくる提言を縦糸とし、人類社会の持続可能性、地球環境、安全とリスク、情報革命、世界とアジアにおける日本、個人と国家、持続可能な社会・生活の構築、現代の教養、大学と人材など現代社会における様々な課題別の議論から抽出されてくる提言を横糸としており、この両者が織りなす極めて贅沢な「学術の織物」である。また、この報告書は21世紀初頭の我が国で活躍する科学者達が、それぞれ異なる立場や観点から智恵を絞ってこれからの学術の長期展望をまとめた「智の結晶」でもある。さらに、これは日本学術会議の会員・連携会員が学術研究団体の協力をも得てまとめた「熱意の果実」でもある。関係の方々のご努力に心から感謝したい。この提言が、人類社会の発展のみならず、地球の明るい未来のために必ずや貢献できるものと確信している。

『日本の展望―学術からの提言2010』の概要

 『日本の展望―学術からの提言2010』は、21世紀の人類社会および日本社会にとって喫緊の課題である持続可能な社会の構築を展望して、人文・社会科学、生命科学および理学・工学の全ての諸科学を包摂する「学術」がその総合力をどのように発揮すべきであり、することができるかについての学術からの提言である。
 第1章は、提言の前提として、提言主体が自らの役割をどのように把握し、学術・科学・技術の相互関係、また学術と社会の関係をどのように認識しているかを提示する。第2章は、21世紀の世界において学術が立ち向かうべき課題を具体的に4つの領域の「再構築」問題として位置づけ、学術がどのように貢献すべきかを展開する。第3章は、世界の諸課題に立ち向かう現在の学術それ自体の発展動向を考察し、学術が進むべき方向を研究分野に即しながら明らかにする。第4章は、日本の学術が21世紀の人類社会への十全の貢献を達成するために、学術に関わる政策と体制がどのようなものであるべきかについて具体的な提言を行う。
 本『提言2010』は、内容を構成するそれぞれの項目について、直接にこのために作成された13の分科会の報告書およびこれまでに日本学術会議が公表した諸報告書によって基礎づけられている。本文に註を付し巻末に参照文献・資料の一覧を示した。
 本『提言2010』の概要を以下に図示する。

『日本の展望―学術からの提言2010』の概要

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