今後の地域科学技術振興施策の在り方について(中間取りまとめ) 1.はじめに

 我が国の経済がようやく長期に亘る停滞を脱却し回復基調にあった中で、米国の金融危機に端を発する世界的な経済不況の影響により、国内企業は大きな打撃を受け、少子化による国内市場の縮小、開発コストの上昇や研究開発効率の悪化などにより、地域の産業を取り巻く環境はなお一層厳しい状況にある。また、これまで我が国の企業が強みを発揮してきたいわゆる「自前型」、「垂直統合型」の研究開発システムは、大学や研究開発法人等との連携や、知識融合によるイノベーションなど、オープン化・グローバル化といったイノベーションを巡る新たなシステムに変革することが求められている。
 そのような中、今後とも我が国が国際競争力を確保しつつ、生活する国民一人一人の生活の質の向上を図るためには、東京一極集中ではなく、各地域が自立し、競い合って活性化を図っていくことが重要であり、それを実現するためには、科学技術を大きな原動力として、イノベーションを創出し、産業競争力を強化していくことが必要不可欠である。

 これまで、政府においては、第1期科学技術基本計画以降、地域の科学技術振興を重要な柱の一つとして位置づけ、地域を活性化し、我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーション・システムの競争力強化を目指している。特に、第2期科学技術基本計画では、地域における科学技術振興のための基盤整備を図るため、地域における「知的クラスターの形成」を積極的に進めることを決定している。

 これを受け、文部科学省では、優れた研究開発ポテンシャルを有する地域の大学等を核として、産学官の網の目のようなネットワークを構築し、イノベーションを連鎖的に創出するクラスターを形成するため、平成14年から「知的クラスター創成事業」及び「都市エリア産学官連携促進事業」を推進し、現在までに、全国に大小数多くのクラスター形成を支えてきた。

 最近では、平成20年5月に、総合科学技術会議において、各府省、地方自治体、独立行政法人などが推進する地域科学技術施策全体を俯瞰しながら、地域のイノベーションの創出を強力に推進するため「科学技術による地域活性化戦略」が決定された。そこでは、自律分散型の社会基盤構築のため「イノベーション・エコ・システム」という考え方が用いられ、地域の多様性を確保しつつ、強い拠点をより強くし、世界に伍する、我が国の成長センターを形成するため、国としても支援することが必要とされた。

 このように、クラスター形成事業をはじめとした様々な地域科学技術振興施策が我が国の持続的な発展に必要不可欠との認識が示されているが、本報告書は、これらを踏まえ、地域における科学技術の振興を一層加速し、各地で連鎖的なイノベーションの創出を図るため、これまでの施策についての現状と課題について整理すると共に、それを踏まえて、第4期科学技術基本計画を見据えた今後の地域科学技術振興施策の在り方について取りまとめたものである。

 なお、本報告書における「地域」とは、「中央」・「首都圏」との対比で用いられる「地方」とは異なり、歴史的・文化的・経済的にまとまりを持つなど、イノベーションを創出するために適切な一定の圏域を指すこととし、また、その圏域における産学官連携に関わる様々な主体(プレイヤー)の総体を指すものと整理する。そのため、地域の範囲は目指すイノベーションの姿に応じ異なるものであり、単一の行政区域に限らず、複数の行政区域からなる広域的な地域や、都道府県内の一部の地域、市町村等が複数連携した地域など様々なケースが存在し、柔軟な概念で捉えることが必要である。

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科学技術・学術政策局計画官付

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