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第2章 社会の多様な場で活躍する人材の育成

 科学技術と社会の関わりが深化・複雑化している現在、博士号取得者は、自ら設定した研究課題に対し、課題を解決するために十分な情報収集力・分析力、さらには円滑な研究成果の社会還元に必要な情報発信力等を備えていくべきものと考えられる。こうした素養・能力は、社会の多様な場でリーダーとして活躍するために必要な素養・能力でもある。
 しかしながら、現状の日米における博士号取得者の雇用部門別の分布状況を比較すると、我が国は民間企業で活躍する博士号取得者の割合が低いものとなっている(図9)。その背景として、大学が輩出する人材と産業界が必要とする人材との間に生じている質的・量的なミスマッチ、教員等の人材育成に対する意識の問題等が考えられる。実際の博士課程修了者の進路としては、アカデミア、産業界に各々2割強が就職しているが(図10)、今後、博士号取得者のキャリアパスを確立するためには、産業界との間に生じている人材のミスマッチを解消することが特に重要と考えられる。
 知識基盤社会において、大学が輩出する人材は国力の源泉であり、特に博士号取得者については、知識基盤社会の牽引者としての役割が期待されている。我が国の各分野から求められている優れたリーダーを確保するためにも、博士号取得者の育成については、その活躍の場がアカデミアのみにとどまらず社会全体であることを踏まえ、体系的に取り組む必要がある。
 現在、各種の競争的経費・競争的資金等を活用して特色ある教育研究や先端的な取組が進められている。今後は、その成果を我が国の大学全体に普及・定着させ、大学院が社会の期待に応えるべく、教育研究を充実させていくことが期待される。しかしながら、我が国の高等教育への公財政支出は伸びておらず(図11)、大学が教育研究をさらに充実していくためには、現在の財政的基盤では脆弱である。
 知識基盤社会を牽引する人材の育成・輩出をより一層加速するため、国は、高等教育への公財政支出の規模を、欧米主要国を上回る規模に増額すべきである。

1. 博士号取得者の社会の多様な場における活躍の促進

 修士課程(博士前期課程を含む。以下同じ。)の学生にとって、博士課程への進学を検討する際に、博士号取得者のアカデミアや産業界における雇用の増加が重要な判断材料となっているが(図12)、博士課程修了者の就職率は6割から7割程度で推移している(図13、14)。特に、平成9年以降、博士課程修了者数が大学の教員採用数を上回りアカデミック・ポストの不足が明らかとなっている(図15)。このような状況もあり、修士課程学生が、博士課程修了後の就職を懸念しているとの指摘もある。
 博士号取得者が社会の多様な場で活躍し、社会全体の牽引役として認知されることは、博士課程へ進学することの魅力を高めることにつながっていく。したがって、教育研究の質を向上させ、大学が輩出する人材と産業界が求める人材との間にある質的・量的ミスマッチを解消するための施策に取り組むことが不可欠であり、国は、大学院における優れた教育研究への支援を強化すべきである。一方、産業界は、高度な専門知識・技術に見合った待遇を保証するなど魅力あるキャリアパスを博士号取得者に示すことが期待される。
 また、研究費には様々な特性や目的があるが、我が国では、多くの研究費を実験設備等の物件費に充てる傾向にあり、人材育成のために使うという意識が希薄であるとの指摘もある。このため、大学は、人材育成の意識を教員等に持たせるとともに、教員の自己研鑽機会の充実を図るなど、多様な工夫に取り組むことが求められる。

(1)大学院等の人材育成機能の強化

(大学院教育の充実)

 知識基盤社会において大学院が育成すべき人材は、大学教員や研究者、高度専門職業人など多様であることから、大学は、教育理念や目的に応じて、学位段階に応じた達成すべき素養・能力、これに基づいて修得すべき知識・技能の体系、研究指導の方針を明らかにする必要がある。その上で、博士号取得者の質を保証するため、大学院において、学修課題を複数の科目等を通じて体系的に履修するコースワークを重視し、博士号取得者が社会の多様な場で活躍するリーダーとなるために必要な教育を充実させることが重要である。また、大学院生が自ら研究活動を遂行するための知識や経験を修得させるべく、研究科・専攻単位で教育方法の開発・展開を行うことが重要である。
 このため、大学院生に対して、アカデミア向けの教育研究のほか、産業界のニーズに応える教育研究等を組み込み、大学院生の希望に応じた複線的で多様なカリキュラムが準備されていることが必要である。
 さらに、大学は、産業構造や科学技術政策の方向性、学生の卒業後の活躍の場等を勘案しつつ、大学院のカリキュラムや入学定員について自主的な見直しを検討すべきである。大学院が産業界向けの教育研究カリキュラムを検討する際には、必要に応じて産業界の意見を聞くことが望まれる。その上で、研究開発をマネジメントできるリーダーや産学官連携を実践する際に鍵となる人材を育成するカリキュラムや、知的財産や技術経営等の実学的な内容など、様々な専門分野に関する実践的なカリキュラムを導入することも重要である。加えて、産業界からの講師招へい・産業界への講師派遣など産学双方向で人的交流を活発化させることも重要である。
 他方、「知」を巡る国際競争の激化や知識基盤社会の進展に伴い、社会人は常に新しい知識を吸収することが求められている。このため、社会人が実務上の経験を活かしつつ、より高度な専門知識の習得や知識・経験の体系化、広い視野、多様な価値観等を養うため、大学院で高度なリカレント教育を受けることが促進されるよう、大学院教育を充実させていくことも重要である(図16、17)。

(大学における進路指導体制の強化)

 大学は、就職情報窓口を一本化するとともに、修士課程学生に対し、博士課程に進学することの意義について説明するとともに、課程修了後の進路について適切な指導を行うべきである。また、大学は、博士号取得者の進路等を把握し、社会の多様な場における活躍振りを広く学内外に示すとともに、自らの教育研究の質の向上に活かすことが重要である。このため、大学は、これらの情報の継続的な把握に努めるべきである。
 大学と産業界の双方向の連携と学生の積極性も不可欠である。大学は、産業界と協働して、長期のインターンシップの実施、共同研究等を通じた実践的な議論の場の提供等を一層活発化し(図18)、学生や博士号取得者に対して就職機会等の情報を提供すべきである。また、学生や博士号取得者自身は、自らのキャリアパスは自ら切り拓くとの意識を強く持ち、広い視野で進路の方向性を常に考え、情報の把握や能力向上等に努めることが不可欠である。

(2)産業界による博士号取得者の受入れ

 大学教育の改革や後述する大学教員等の意識改革だけでなく、産業界の意識改革も必要である。最近の企業の採用実績を見ると、企業は博士号取得者を積極的には採用しておらず、その採用状況もほとんど変化が見られない(図19、20)。その原因としては、企業が博士号取得者に求める素養・能力を明らかにしていないことや、企業側に素養・能力を適切に評価できる体制がないこと、さらには博士号取得者が企業の期待する素養・能力を満たしていないこと等が指摘されている。博士号取得者の産業界への就職率が伸び悩んでいることは、博士課程への進学希望者の減少や、博士課程学生や博士号取得者が産業界への就職活動を躊躇することにもつながっていると考えられる。
 博士号取得者が、その素養・能力を向上させることは、キャリアパスの一つとして産業界を明確に視野に入れることができるようになるとともに、これまで博士号取得者の採用に必ずしも積極的ではなかった企業等による受け入れを促進する観点からも重要である。
 さらに、大学が大学院教育の改革を進めるためにも、産業界は、必要とする博士号取得者像について明確化することが不可欠であり、産業界として、博士号取得者が備えるべき素養・能力を具体的な形で大学や学生に示す必要がある。その際、産業界は、博士号取得者が企業内研究者としての能力にとどまらず、組織のリーダーとして求められる企画力、マネジメント力、幅の広い技術分野の統合力等も視野に入れ、多様な場で活躍できる人材としてどのような素養・能力を身に付ける必要があるかを、学・官の協力も得て具体的に検討すべきである。こうして明確化された多様な博士号取得者像を具現化するため、産業界は、大学からの要請に応じて、産業界のニーズを踏まえた教育研究カリキュラムの作成に積極的に参画するなどの貢献を行っていく必要がある。なお、産業界においては、大学(院)の教育研究に支障をきたさないよう、採用活動の時期の適正化に真摯に取り組むことが期待される。

(3)博士課程学生への経済的支援の強化

 博士課程学生が同年代の就職者に比べて経済的に厳しい状況におかれることで、優秀な学生が博士課程進学を避ける要因となってはならないことから、博士課程学生への経済的支援を充実することは不可欠である。
 このため、国は、生活費相当額程度を受給できる博士課程学生の割合について、第3期科学技術基本計画で掲げられた「博士課程(後期)在学者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す」との目標を早期に達成するとともに、更なる経済的支援の充実を図るべきである(図21、22)。
 大学院は、研究と教育が両立されなければならない場であり、博士課程学生は、教育を受ける立場であると同時に、教員とともに教育研究に参画する立場である。したがって、博士課程学生への経済的支援としては、研究に専念するためのフェローシップ、研究や教育の一部を分担する対価として給与が支給されるリサーチ・アシスタント(RA)及びティーチング・アシスタント(TA)(図23)、教育を受ける者に対する奨学金があり、これらの経済的支援については、受給する学生それぞれの状況に応じて、適切に支給される必要がある。
 特に、博士課程学生については、研究者として自立して研究活動を行うに足る高度の研究能力を身に付けさせるためにも、経済的な不安を抱くことなく研究に専念できる環境を整備することが重要であり、国は、フェローシップを拡充するとともに、それに充てる経費は、独立行政法人の運営費交付金の削減対象外とすべきである。
 また、欧米では、博士課程学生が、教育や研究の一部について責任を持って担う分の対価として生活費相当額の給与が支給される仕組みが確立している。大学院生に対し、将来自立して教育研究に責任を有する者になるとの自覚を持たせるためにも、TAやRA等の形で大学院生の貢献を金銭的に評価することが重要である。我が国としても、将来的には大学院生の4割が生活費相当額の支援を受けている米国並の水準となることを目指して、TA・RA等を拡充していくべきである(図24)。このため、RAの位置付けを明確にし、優れた研究に参画させることにより、研究推進と人材育成等を一体的に行う取組に対して国が支援する必要がある。また、例えば、こうした取組などをトレーニーシップ(3)的な仕組みとして実施することも考えられる。なお、RAを拡充する際には、コースワークなど教育面の充実にも配慮すべきである。さらに、奨学金についても、一層の充実を図るべきである。
 一方、大学は、国の支援に加え独自財源の確保にも努め、博士課程学生に対する経済的支援をより充実することが期待される(図25)。適切な支援を広く行うためにも、大学は、博士課程学生に対する経済的支援の状況について、学生個々人の受給実態を可能な限り正確に把握し、過剰あるいは過少な給付が行われることのないよう留意しつつ、一人でも多くの優秀な学生が生活費相当額程度を受給できるよう努めるべきである。
 このほか、産業界からの博士課程学生等に対する経済的支援として、公益法人の設立等を通じた奨学金や大学への寄付金等を活かした奨学金など様々な取組が行われている。今後、こうした民間における取組が一層拡大することも期待される。

(4)博士号取得者のキャリアパス多様化の促進

 博士号取得者は、高度の専門性が求められる研究能力とその基礎となる豊かな学識を身に付け、その素養・能力を活かしつつ、適性に応じて産業界における研究開発リーダーや科学技術と社会をつなぐ科学技術コミュニケーター、科学技術政策の立案者・実施責任者等として、社会の多様な場で先導的な立場で活躍することが期待されている。このため、国は、博士号取得者の産業界や教育界等へのキャリアパスを確立するための施策を積極的に推進すべきである。また、博士号取得者が、国や地方自治体の職員の採用に積極的に挑戦することも期待される。

(産業界へのキャリアパスの確立)

 産業界は、博士号取得者の採用に際し、研究の成果のみならず、課題設定・解決力や幅広い科学技術的素養等を評価し、適性に応じて、研究職以外にも事業・経営等の各部門において活躍することも期待している。したがって、博士号取得者の産業界での活躍を促進するためには、博士号取得者が、マネジメント力や複数の専門分野にまたがる様々な問題への応用力など、チームワークに優れたリーダーやイノベーション創造の担い手に求められる素養・能力を身に付ける必要がある(図26)。
 博士号取得者の就職状況を見ると、規模の大きな企業ほど採用されやすい傾向にあるが(図27)、こうした企業では、博士号取得者に対し、組織や研究開発チームの中核を担うリーダーとしての役割を期待している。
 他方、博士号取得者の高度な研究能力は、研究開発型のベンチャー企業等においても相応の需要がある。こうした企業で活躍する博士号取得者は、新たな産業分野等に果敢に挑戦し、新規事業・サービスを切り拓く起業力や知的財産の管理・活用力等を身に付ける必要がある。また、産業界で活躍できる博士号取得者の育成に当たっては産学の協働が不可欠であり、国は、産学協働による人材育成の取組を積極的に支援すべきである。

(高度な専門知識を必要とする大学職員等へのキャリアパスの確立)

 我が国は諸外国に比べ、大学等における教育研究支援体制や事務体制が脆弱との指摘がある。大学等は、これらの強化が重要なことは十分把握しているが、基盤的経費及び総人件費の削減への対応として、教育研究の主体者である教員等を優先的に確保することで教育研究体制を保ってきた結果、支援体制が脆弱化している。大学等は、博士号取得者をリサーチアドミニストレーター(4)や高度技術専門人材等に登用するなどして、博士号取得者の高度な専門性を活用することが期待される。このほか、博士号取得者の活躍の場としては、知的財産関連職、産学連携コーディネーター、国際的な研究協力に関する調整など国際業務専門職員等の専門性を必要とする職種が考えられるが、国は、こうした専門性を持った職員の育成について大学等が行う取組を支援すべきである。
 なお、博士号取得者の活用に際しては、モチベーションの維持とモラール向上のため、高いステイタスと適切な処遇を付与する必要がある。また、このような取組に限らず、大学等における事務・技術職員と教員の連携強化に留意すべきである。

(理数系専科教員等へのキャリアパスの確立)

 子どもたちが理科や算数・数学に興味・関心を持つためには、教員の役割や影響が大きい。しかし、小学校の教員は約6割が理科の指導を苦手にしているという調査結果がある。他方、博士号取得者には、理数系教科・科目を得意とする者も多いことから、子どもの教育に意欲を有する博士号取得者を、理数系専科教員等として活用することが考えられる。また、国は、大学が都道府県教育委員会と連携して、意欲ある優秀なポストドクター等を理科教育人材として発掘し、特別免許状の授与を含めた積極的な活用のためのシステムを構築することを支援すべきである。

(5)ポストドクターに係る課題の解決に向けた取組

 独立した研究者を目指すポストドクター(博士号取得後、研究室の主宰者又は助教等の職に就いていない任期付き研究者)にとって、ポストドクターであることは、自らのキャリアの見通しを得るために重要な意味を持つ期間である。このようなポストドクターが、アカデミアで活躍する基盤となる研究成果を十分にあげられる環境が不可欠であり、国は、フェローシップ制度の拡大を図る必要がある。また、ポストドクターが競争的資金を活用した研究に関わることは、研究者として成長する上で重要な経験であることから、大学等は、ポストドクターが申請資格のある競争的資金に積極的に申請するよう推奨すべきである。
 他方、ポストドクターは、雇用資金の目的や特性によって位置付けが多様化しているほか、企業からの転職者などポストドクター自身の経歴が複雑な事例もある。また、ポストドクターの任期を満了した後、他の機関でポストドクターを累次に亘って繰り返す者や不明者となる者が少なくなく(図28)、このようないわゆる「ポスドク問題」への対応を進める必要がある。

(「ポスドク問題」の解消)

 「ポスドク問題」は、アカデミアにおけるポスト不足が原因の一つである。また、多くのポストドクターの専門分野は、産業界で人材需要の高い分野ではなく、産業界に活躍の場が少ないことも原因と考えられる(図29)。ポストドクター自身も、専門分野以外の社会の多様な場で活躍できるだけの素養・能力を必ずしも十分に身に付けてこなかったことや、ポストドクターを繰り返すうちに高年齢化してしまったこと、ポストドクターを雇用した経験のない企業はポストドクターの採用を躊躇する傾向にあることなどが、この問題を一層深刻にしている。
 「ポスドク問題」を解消する有力な方策の一つは、アカデミアのポスト不足を緩和することであり、大学等が、准教授・助教等の若手研究者ポストを拡充することが望まれる。特に国立大学法人においては、総人件費の抑制に留意しつつも、若手の准教授や助教のポスト増に積極的に努め、現在の年齢構成の逆ピラミッド化の解消に努力していくことが望まれる。このため、例えば、教授が定年に達した時点で教授のポストを廃止する代わりに助教を採用することなど、積極的に「ポスドク問題」の解決に努めることが期待される。また、ポストドクターがアカデミアにおけるキャリアパスを切り拓くために、第3章に詳述するテニュア・トラック制を普及・定着させることも重要である。
 他方、ポストドクター自身が産業界等へ主体的に進出していくことを意識すべきであり、研究職以外の職も含めたアカデミア以外の進路も選択できる素養・能力を身に付け、そのキャリアパスが多様化するよう、産学官が密に連携して一体的に支援を進めていく必要がある。ポストドクターが、社会の多様な場で活躍するために必要な異分野に対応する力や実践的な技術開発力を身に付けられるよう、ポストドクターの目的や専門分野に応じて、例えば、企業等における長期インターンシップ等の受け入れの促進など、国は、アカデミアと産業界等の連携強化を支援していく必要がある。
 大学等においては、自機関に所属するポストドクターの情報を把握してデータベースを整備するなど産業界に発信できる体制を整えるとともに、そのキャリアパスを確保するため、雇用期間中にキャリア開発のためのトレーニングを受ける機会を提供することが期待される。
 「ポスドク問題」を根本から解決するには、ポストドクターとなる前段階の大学院における教育研究の充実が欠かせない。博士号取得者が特定の専門分野の研究能力を向上させるのみならず、大学院における教育研究を通じて汎用性の高い能力を身に付け、その能力を応用して新たな課題を見出し、幅広く取り組むことができるようなカリキュラムを大学院に取り入れるなど、課程修了後を見据えた体系的な教育やキャリア教育、進路指導に取り組むことも必要である。

(ポストドクターの進路選択)

 ポストドクターの期間が長期化し、高年齢化が進むと、その後の進路の選択の幅を狭めることになりかねない。ポストドクターの雇用者は、最終的な進路選択を検討しているポストドクターに対して、適切な指導を行い、その後のキャリアにポストドクターの経験が活かせるよう留意すべきである(図30)。また、国は、進路を選択する必要のあるポストドクターに、その後の進路についての判断を促していく必要がある。例えば、ポストドクターを対象としたフェローシップでは、支援対象を博士号取得後5年未満の者に限定している。
 ポストドクターの雇用者は、ポストドクターとしての経歴が長い者をポストドクターとして雇用する際、その後のキャリアパスに特に配慮して、進路指導やキャリア開発の機会を設けるべきである。

(ガイドラインの策定)

 ポストドクターを雇用している大学等は、雇用保険の事業者負担を徹底するなど、社会保険や雇用保険を含めた労務管理に十分留意して、その労働条件等の整備について、組織として主体的かつ積極的に取り組むべきである。
 このため、国、大学及び研究資金配分機関等は、互いに協力し、ポストドクターを雇用する際の労働条件や養成の在り方等を示したガイドライン(以下、「ポストドクター雇用等ガイドライン」という。)を策定すべきである。ガイドラインにおいては、ポストドクターの能力向上の責任が雇用する側にもあることなどを明確にし、処遇、雇用期間、指導教員等との関係等の項目を盛り込む必要がある(図31)。


3 高度な人材の育成を目的として、国が大学に一括して支出する資金(ブロック・グラント)のこと。国は、大学からの申請に応じて対象となる大学を選考し、大学はこの資金を原資として、さらに個別の優秀な学生を選考する。

4 競争的資金などの外部資金の獲得・管理を中核として、法令遵守や産学連携部門との調整など研究管理全般の業務を行う者をいう。

2.大学教員等の人材育成に係る意識改革

 博士号取得者がアカデミア以外の多様な場に進むためには、大学教員等による進路指導も重要であるが、指導すべき立場にある教員自身に、企業等に関する知見や経験が乏しく、博士課程学生や博士号取得者への情報の提供が不十分との指摘もある(図32、33、34)。社会が求めるリーダーとして博士号取得者を育成するためにも、大学教員等の意識の改革は重要であり、若い時期から指導者としての自覚を持ち、十分な経験を積むことが必要である。
 現在、教員の採用・昇任のための人事評価については、研究成果が第一義的な指標になっていることが多い。このため、研究成果に重きを置いたままでは教員の意識が変わらないとの指摘もある。教育や社会貢献等をこれまで以上に重きを置いて評価するなどして、大学自らが意識を改革し、トップダウンで取り組む必要がある。

(1)大学教員等を対象にした取組の推進

 全ての大学教員には、アカデミアであるか否かを問わず社会の多様な場で活躍できる人材の育成に向けた指導力が求められる。しかし、博士課程学生は将来アカデミアで活躍すべき者である、という前提で指導に当たる教員が多いとの指摘がある。
 このような教員の意識を変えるため、教員が大学の外に出る機会を増やすことが不可欠であり、教員自身の企業派遣実習(教員インターンシップ)の実施、教員が学生と共に企業等へ出向いて参画する実践的な課題解決型演習の導入促進、教員の企業への出向や企業との兼務等が考えられる。また、企業研究者の大学教員への登用や企業人によるキャリア指導研修の実施等、大学に外部人材を積極的に招へいすることで、教員や学生等が企業人と接する機会を増やすことも考えられる。
 このような取組を通じて、教員が産業界のニーズに直に触れ、産業界の求める人材像を把握するとともに、その経験を踏まえ、大学が育成する人材像を明確にして大学教育に反映させる取組が強化されることが期待される。また、国は、このような産学の柔軟かつ双方向の人材交流を支援すべきである。

(2)大学教員等の評価等を通じた教員の意識改革

 大学教員の人事評価は、教育、研究及び社会貢献等の多面的な活動を総合的に評価する必要がある。大学教員に対する人事評価や評価結果が受け入れられる文化の醸成、それが処遇等に適切に反映される評価等を通じて、大学等のイニシアチブの下、人材育成に関する教員の意識を高めていくべきである。その際には、大学教員が大学院生の適性に応じ、適切に進路指導を実施しているかなど、教育者としての側面がこれまで以上に重視された評価となることが期待される。
 また、教員は、博士課程学生を指導するに際し、学生個人の素養・能力に応じて、多様なキャリアパスがあり得ることを念頭に置くとともに、ポストドクターについては、単なる研究の支援者や補助者としてではなく、研究活動に参画する研究者として認識する必要がある。
 さらに、国立大学法人や独立行政法人においては、博士課程学生や博士号取得者のキャリアパス支援のための取組、大学教員や研究者の流動性を確保するための取組、後述する女性研究者の採用割合等についての目標設定及び多様な教員や研究者を確保する取組等を通じて、大学教員や指導的立場にある研究員の意識改革に資する取組に組織的に対応することが期待される。

(3)組織に対する競争的な支援制度等における対応

 ポストドクターの多くは、競争的資金や外部資金により雇用されている(図35)。研究資金配分機関は、個別の競争的資金制度間の整合性を図りつつ、その目的や特性に応じて、機関を対象とする競争的資金の審査項目に、キャリア教育の設定や過去の人材育成の実績等を盛り込み、これらを採択の一指標として評価することが必要であり、こうしたことは、大学教員等が、人材育成に対する意識を高めることにもつながっていくと考えられる。
 大学等は、博士課程学生やポストドクターに対する経済的支援の重要性に鑑み、組織に対する競争的な支援制度において、個々のポストドクター等が従事すべき任務を明確にし、RAやポストドクターの雇用経費等に充当する割合をより高めていくべきである。
 なお、大学等は、ポストドクター自身が一定期間、自立的な研究やキャリア開発のための活動に専念できるよう、プロジェクトの目的や特性に応じて、職務専念義務に関する現行の考え方の見直し等を検討する必要がある。
 さらに、競争的資金が世界をリードする研究人材を養成する上で重要な役割を果たしていることから、国は、基盤的経費を確実に措置した上で、競争的資金の拡充を図りつつ、研究者本人も含め、競争的資金から人件費を充当できる範囲を拡大していくことについて検討すべきである。

3.グローバル化に対応した人材の育成・確保

 「知」をめぐる世界的な大競争時代を迎え、優秀な人材の獲得競争が激化している中、我が国が世界をリードする科学技術水準を維持し続け、研究人材の国際的循環の一翼を担うためには、国内外問わずグローバルに活躍できる人材の育成が不可欠である。また、地球環境問題といったグローバルな諸問題の解決、科学技術外交の強化や国際共同研究の推進等を図るため、科学技術関係人材の国際化が求められている。
 国際的に活躍できる研究者を育成するには、海外で研鑽を積むことが有意義であり、研究者が各国の研究の最前線で切磋琢磨する機会を増やす必要がある。
 さらに、グローバル人材を確保するには、我が国の研究拠点における優秀な外国人研究者等を惹きつける魅力的な研究環境等の整備、事務・技術支援体制の強化、学業や研究に専念できる生活環境の確保等、周辺環境を含めた研究拠点の国際化の推進が必要不可欠である。

(1)日本人の「内向き志向」の解消と帰国後の活躍の場の拡充

 優秀な頭脳の国際的循環が急速に進展し、我が国も科学技術先進国として相応の貢献や影響力の行使が求められているにもかかわらず、大学における長期の海外派遣者数は減少傾向にある(図36)。
 国は、優秀な日本人研究者等が海外で研鑽を積むことができる環境を整えるとともに、経済的な支援も充実すべきである。大学等においては、若手研究者海外派遣事業など若手研究者が海外において研究活動等を行う機会を提供するプログラムを積極的に活用し、国際的視野に富む有能な研究者の育成を強化することが期待される。また、大学等は、海外の機関と協力し、単位互換等を含めた協定等を結ぶなど、学生や研究者の海外留学・派遣を今まで以上に積極的に進めることが期待される。
 日本人が海外に出て行きやすい環境をつくり、交流を円滑に進めるためには、大学等が互いに協力して、海外での日本人研究者のネットワーク化を図ることも有益である。日本人が「内向き志向」であることを示すものの一つとして、例えば、海外の日本人ポストドクターは、日本に研究者として戻る場所が無いとの指摘がある。国は、帰国する人材が我が国で再び活躍できるような環境を整備すべきであり、例えば、海外の日本人研究者に日本の大学等の公募情報を提供するデータベースを国が整備し、その利用を促進することが考えられる。また、大学等は、国が整備するデータベースを最大限有効に活用して、公平・公正で透明性のある手続きのもと積極的に国際公募を行うことが必要である。
 海外での研究経験のある研究者は、海外経験のない者よりも幅広い視野を持つ機会が多く、海外の研究者とのネットワークを有することから、グローバル化に対応した人材として期待できる。大学等は、研究者を採用する際に、国際的な視野を持った研究者としての素養・能力を十分に勘案すべきである。

(2)外国人研究者等の受入れの推進

 我が国における研究拠点の研究水準と競争環境の向上のためには、異なる価値観やキャリアをもつ優秀な外国人研究者等を海外から積極的に受け入れ、研究拠点自体を活性化させる必要がある。しかし、外国人研究者等の受入れ数は伸びていない(図37)。
 このため、大学等は、事務局の国際対応能力の向上、学内文書の英語化等の研究支援面での国際化、外国人研究者の退職金のない終身雇用等を進めるとともに、我が国の優れた魅力ある教育研究内容を積極的に海外に向け情報発信していくことが重要である。こうした観点からも、WPIプログラムでは、事務部門を含め英語を公用語化するなどの研究支援面の国際化を進め、世界最高水準の外国人研究者を惹きつけ、優れた研究環境と高い研究水準を誇り、研究者の多様性が確保された「目に見える拠点」を形成している。今後も、世界トップレベルの研究拠点の更なる強化・拡充を図っていく必要がある(図38)。加えて、大学等は、外国人研究者の活躍促進を図るための行動計画を策定することが期待され、国は、引き続き、その取組状況を把握し、公表すべきである。
 外国人研究者等が家族と共に来日することを検討する際には、外国人にとって暮らしやすい生活環境が整備されているかどうかが重要な判断材料となる。このため、国や大学等は、地方公共団体等と連携・協力し、多様かつ優秀な外国人研究者等を生活面で安心させる土壌を形成する必要がある(図39、40)。例えば、宿舎等の受入れ環境の整備や外国人特別研究員等のフェローシップ・奨学金の充実、外国人研究者の子弟に対する教育の充実、地域社会における多文化共生の推進も必要である。
 また、国は、日本国内で就職する外国人留学生や大学等で教育研究に従事する外国人研究者への支援を一層充実すべきである。
 外国人留学生については、「留学生30万人計画」に基づき、優秀な留学生を戦略的に獲得するための施策を進めていく必要がある(図41)。一例として、大学の目的・機能に応じて、質の高い教育の提供と海外から留学しやすい環境を提供するため、国は、英語による授業実施体制の構築や留学生の受け入れ体制の整備など大学の国際化拠点の整備に対する支援を充実し、その普及に努める必要がある。

4.女性研究者の活躍の加速

 我が国が国際競争力を維持・強化し、多様な視点や発想を取り入れた研究活動を活性化するためには、多様な研究者の質・量とも充実していくことが不可欠である。我が国は欧米に比べ女性研究者の登用が進んでいないため、潜在的な人的資源となっている女性研究者の活躍促進をより一層加速すべきである。このため、アカデミアや産業界等が協力して、多様な価値観や働き方を受容して働きやすい環境を醸成し、女性研究者が能力を発揮できるように努めていくことが極めて重要である。

(各機関における環境整備の促進)

 女性研究者が出産・育児等と研究を両立できる環境を整備するため、アカデミアや産業界等の各機関は、在宅勤務や短時間勤務等、柔軟な雇用形態の適用、研究支援員によるサポート体制の整備等を引き続き充実していく必要がある。また、出産・育児等により一旦研究現場から離れた者の復帰支援を充実するとともに、採用や処遇の際に出産・育児等の負担を配慮した人事の運用に留意すべきである。なお、これらは、育児等を行う男性研究者にも共通するものである。
 特に、企業については、大学等に比して女性研究者の割合が依然として低い状況にあり(図42)、女性が研究者・技術者としてのキャリアを追求する上で障害となる壁を積極的に取り除いていくことが期待される。

(国による活躍促進のための施策)

 これまで国は、女性研究者が所属する機関のシステム改革の促進、研究と出産・育児等との両立への配慮、そして女性研究者の裾野拡大という3つの観点から施策を講じてきた。これらが有機的に機能して、女性研究者の活躍できる環境が着実に整いつつある。
 しかしながら、欧米に比べ我が国の女性研究者の割合は依然として極めて低い水準にある(図43)。このため、国は、女性研究者が出産・育児等と研究を両立できる環境を整備する大学等への支援、女性研究者の採用に応じた人件費等の支援、出産・育児等による研究中断からの復帰支援といった、すでに講じている諸施策を引き続き充実すべきである。その上で、女性研究者の活躍促進をより一層加速するため、更なる抜本的な施策を検討すべきである。
 女性研究者の活躍促進については、量的拡大を図るのみならず、組織の意志決定への参画など質的な観点も重要である。しかし、教授等における女性研究者の採用割合は、依然として低い水準に留まっている(図44)。このような状況を改善するため、大学等は、より上位の職階に女性研究者を積極的に登用していくことなど、多様な工夫に取り組んでいく必要がある。例えば、優れた成果をあげている大学等に対し、国は、大学等の特性に応じて、より積極的に支援する施策を検討することも考えられる。

(次代の女性研究者等の育成)

 理系への進学を検討している女子生徒にとって、多様な場で活躍している女性研究者・技術者の存在は、将来の具体的な進路目標となることから、国は、女子生徒等と女性研究者・技術者との交流の機会を積極的に設けるべきである。さらに、理系の職業を検討している女子学生に、女性支援に関する各機関の取組状況やロールモデルとなる女性研究者・技術者に関する情報を提供することは有益であり、国は、こうした情報を積極的に提供すべきである。

(女性研究者の採用促進)

 第3期科学技術基本計画に掲げられた女性研究者の採用割合に係る数値目標(女性研究者の採用目標として、自然科学系全体で25%(理学系20%、工学系15%、農学系30%、保健系30%))については、早期に達成すべきであり(図45)、第4期科学技術基本計画においても、例えば、平成17年12月に閣議決定された「男女共同参画基本計画(第2次)」に「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する。」とあることを踏まえつつ、指導的地位にある女性研究者の採用に関する数値目標の検討など、引き続き性差によって不利な状況が生じないよう取組を強化する必要がある。
 大学等においても、女性研究者の採用割合等について数値目標を設定し、その目標達成に向けて努力することや、その達成状況、部局ごとの女性研究者の職階別在籍割合を公表するなど、女性研究者の一層の確保・活用に努めていくことが重要である。また、啓発活動等を通じて組織内の意識変化にも引き続き取り組む必要がある。
 国は、各大学等における女性研究者の活躍促進に係る取組状況や指導的地位にある女性研究者の割合等を把握し、公表すべきである。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)

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