3.第3期科学技術基本計画で望まれる政策 (2)経済・社会への貢献に向けた日本型R&D体制の構築

1.知の創造を活力の創出につなげていく道筋や予算の仕組みの確立

 研究開発投資を経済・社会に活かしていくためには、「知の創造」によって技術の種を生み出し、「活力の創出」につなげていく道筋や予算の仕組みを確立させることが重要である。
 特許1件あたりの論文の引用件数であるサイエンスリンケージについては、わが国は諸外国に比して低い値となっている。国全体として、「知の創造」から技術の種が生まれ、「活力の創出」へと好循環を生み出していく上では、大学が、基礎研究を通じた技術の種の創出を行ない、公的研究機関が、政策目標に応じて技術開発を行ない、産業界は、高付加価値の製品やサービスの提供を通じて、経済活性化や雇用確保を果たす、というそれぞれの基本的役割を踏まえつつ、産学官が有機的に連携していく仕組みが必要であろう。
 第2期においても、産学のマッチングファンド、TLO、知的財産本部をはじめとする産学連携、大学や公的研究機関を核にした地域の活性化、大学発ベンチャー、大学発成果の育成支援など様々な取り組みが行なわれている。まずは、これらを総合的に評価し、一貫した戦略的の下で研究開発段階に応じたファンディングシステムを構築するなど、第3期に向けてあるべき姿を探っていくべきである。
 産学の連携をさらに推進していくためには、重要な技術領域において、大学と産業界が同じ土俵で、10年先をにらんだ目的基礎研究をレビューし、認識を共有することも重要である。また、大学が、国から支援を受けて行なった研究開発から得られた知的財産権を活用し、それによって得られた収入を、知的財産権のさらなる確保を含め組織としての産学連携活動に充当し、その成果がさらに収入を生むような好循環が出来ていくことも期待される。
 国立大学が法人化し、公的研究機関が独立行政法人化するとともに、企業での基礎研究が大きく変化している今こそ、技術と人とが好循環するという日本型の新しいR&D体制を構築すべき時である。

2.大学における「先端技術融合型COE」の新設

 技術の種を創造する大学に求められることは、世界トップレベルの研究の推進であり、そのためには、一流の研究者が世界から集まるような研究拠点の整備が不可欠である。大学を核としながら、重要技術を含め10年先をにらんだ先端的で重要な技術領域を設定し、有能なメンバーを結集して、その研究開発を強力に推進する研究拠点である「先端技術融合型COE」を産学協働の下に作り上げていくことが、日本の将来のために重要である。
 その際、求められるのは、既存の学問領域ではなく、将来をにらんだ新融合領域の研究であることから、大学が、産業界と相互に補完しつつ、十分な議論を経た上で研究領域を決定していくことである。また、学部・学科の枠を越えて、海外も含め、有能な教授・助教授陣を結集することも大変重要である。わが国企業が海外の大学に人を派遣するのは、こうしたCOEに参加することにより、世界トップの研究に触れることができるとともに、そこに世界中から集まる研究者や産業人から得るものが非常に大きいことに要因があり、わが国でもこうした知的融合と人的融合に優れたCOEの出現が望まれる。公的研究機関が、人材育成機能を併せ持つ形で、「先端技術融合型COE」の役割を果たしていくことも期待される。
 また、10年先をにらんだ先端技術融合型のCOEが新設され、有能な人材が世界から、さらには産業界からも集まるようになれば、産業界と大学の双方にとって非常に有益な人材の育成へとつながっていくものと考える。

3.国民への成果の還元の観点からの民間活力の活用

 知の創造から活力の創出につなげる資金は、これまで大学を中心に提供されてきたとの意見も出されている。今後は、産学官の有機的連携を推進する観点から、例えば、民間主導で研究全体を管理しつつ、大学がこれに参加したり、あるいは民間企業が政府の資金を直接受け取り、大学に再委託したり、さらには、大学の研究開発の成果の企業における実用化を支援したりする仕組みを充実することが望まれる。目的基礎研究分野におけるさらなる民間活力の活用も重要である。
 ナノテク・材料やバイオ分野においては、「知の創造」を「活力の創出」につなげる観点から、用途開発や素材のスケールアップへの戦略的支援も必要である。
 また、平成15年度税制改正において、研究開発促進税制につき、試験研究費の「総額」を基準にした「総額型試験研究税制」が創設され、研究開発促進税制が抜本的に拡充されたことは高く評価できる。今後とも、税制による研究開発の促進を重視すべきである。
 なお、基盤研究分野は、事業化までの期間が長く、リスクも大きいことから、技術開発制度における収益納付のあり方を検討すべきである。

4.政策目標達成への公的研究機関の役割発揮

 公的研究機関は、そもそも政策目的を遂行する機関である。まず、それぞれの政策目的を再確認するとともに、評価により常にスクラップアンドビルドが求められなければならない。その上で、達成目標とスケジュールを明確化し、技術の種を重要分野の技術に育てていくことにより、高いレベルで経済・社会に貢献すべきである。併せて、それぞれの目的と投入予算に応じた成果の国民への説明が求められる。
 また、中期計画の内容、資源配分状況や達成状況も、科学技術政策全体の観点からチェックされ、選択・集中が行なわれるとともに、将来的には、科学技術基本計画の期間と、中期計画の期間の整合性を確保すべきである。
 併せて、産業競争力の強化に役立つ先端研究施設について、産業界の使いやすい環境の整備が求められる。
 なお、科学技術については、厳しい財政事情の中でも将来への投資の重要性から配慮がなされているが、独立行政法人については運営費交付金の制約(キャップ)が例外なく適用されており、本省が管理する予算が増えている。資金の配分機関の独立行政法人であるファンディングエージェンシーについては、柔軟な措置が必要である。国や産業の持続的発展の基盤となる重要技術について中心的な役割を担うべき研究開発型法人についても、政策目的に応じた対応が必要である。

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科学技術・学術政策局計画官付

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