上記2.(1)~(3)で示した経済・社会の姿の実現に向けて、第3期基本計画では、以下に示した政策の展開が求められる。産業界としても、科学技術をベースにした国際競争力の強化を通じて、新産業の創出、雇用の確保に全力で取り組むとともに、将来の目指すべき経済・社会の実現に向けた政策の推進に、積極的に協力していく所存である。
第2期基本計画では、重点4分野への投資が進められたものの、これらは基礎・基盤の強化が中心であり、出口指向の研究は必ずしも十分に行なわれてこなかった。また、重要な科学技術に関しても戦略的な推進が十分に図られていないため、さらなる優位性を発揮しえず、国際競争力へと結果的に結びついていないとの指摘も出されている。一方、米国では、国家安全保障とともに経済活性化や産業競争力強化の観点から、長期的な国の発展に資する技術を選定し、これについて予算を優先的に配分するなど、トップダウンで戦略的に推進している。
科学技術をとりまく環境が大きく変化する中、科学から技術、技術から産業へと研究開発投資を国民生活に活かしていくことが必要である。第3期基本計画では、第2期基本計画の下で蓄積された重点分野の科学技術を「活力の創出」へと結びつけるため、従来の重点分野に横串を刺す形で、21世紀の日本が目指すべき経済・社会の姿を見据えつつ、国や産業の持続的発展の基盤となる重要技術のイメージを明らかにすべきである。さらに、それを実現するための手段として重要技術を設定し、新産業の創出を始めとした「活力の創出」に向けたバリューチェーンを形成することによって、その開発を強力に推進すべきである。
将来の経済・社会の姿の実現に向けて、持続的発展の基盤となる不可欠な重要技術のイメージは、次の通りである。
(1)価値創造型「モノ」創りを実現する技術(材料やデバイス、プロセス、システム・ソフト設計など)とその融合や技術のナノテク化
(2)ハードとソフトを融合させる技術(システムLSIとソフトの連鎖など)
(3)信頼性の高いネットワークなど情報通信を活用して、サービス産業をはじめとした産業全般の生産性・利便性を向上させる技術(ユビキタスネットワークなど)
(1)エネルギーの安定供給、環境適合、経済性の3Eの問題を同時に解決する技術
(2)次世代のエネルギー・資源の安全保障に関わる技術(アジア地域全体のエネルギー安全保障への貢献を含む)
(3)限られた資源・エネルギーからの効率的生産を可能とする技術(バイオプロセスを含む)
(1)高齢者が元気に活躍できるようにするための技術(個人の体質に応じた、食品などによる予防、医療・診断、情報サービスなど健康管理、生活支援)
(1)セキュリティに関する技術(いわゆるデュアルユース技術を含む)
(2)食料の安全保障に関わる技術
(3)安全・安心な生活空間を実現する社会インフラ・システムに関する技術(衛星測位インフラなど)
(1)科学技術の発展への大きなインパクトが期待できる技術(ITER(イーター)、スーパーコンピューティングなど)
(2)フロンティアの開拓に関する技術(宇宙など)
国や産業の将来の持続的発展の基盤となる重要技術の研究開発は、総合科学技術会議がリーダーシップを発揮して、府省連携、分野融合により、総合的に推進すべきである。その際、研究成果を出すためのサイエンス・ポリシーにとどまらず、技術革新により社会を変革するためのイノベーション・ポリシーへの発展が重要である。
具体的には、まず、達成されるべき数値目標、スケジュールと官民の役割分担を明確にした上で、基礎研究から応用研究、実用化研究・実証実験、知的基盤の整備、さらには、規制改革、政府調達や国際標準化など市場環境整備、大学における世界トップレベルのCOE(Center of Excellence)の新設、中心となる公的研究機関の明確化、人材育成、国民の理解増進に至るまで、総合的かつ一貫した政策を推進することが重要である。その際、科学技術は常に世界との競争であり、わが国の強みと弱みについてのベンチマークをしっかりと行ない、強固な競争優位を築き得る戦略分野への重点配分に迅速に反映させる仕組みを強化することが重要である。
また、重要技術ごとにその目標達成のために各府省の研究開発及び規制改革等の関連施策を横断的・一体的に進めるべく、イニシアティブを発揮することが総合科学技術会議に期待される。
例えば、広義の安全保障の確保により、安心・安全な社会を目指す重要技術は、国の任務の遂行のために開発・調達されるべきものであり、米国の国土安全保障省や国防省、エネルギー省のように、行政責任を負う府省が研究開発にも主体的に関与すべきである。今後重点投資されるべきこの分野の研究開発について、府省の壁を越えた密接な連携の下、政府調達まで見据えて予算措置がなされ、明確な官民の役割分担の下で推進することが必要である。
今般、平成17年度において、水素利用/燃料電池やユビキタスネットワーク-電子タグ技術等の展開-などの8テーマを科学技術連携施策群として府省連携で推進するとされたことは、総合科学技術会議のリーダーシップを発揮する上での試金石である。その際、各府省の予算措置や取り組みとともに、府省連携のための科学技術振興調整費の活用やコーディネーターの設置など、その実効ある推進が行なわれ、総合的かつ一貫した政策へと発展するよう期待したい。
第2期科学技術基本計画では、ライフサイエンス、環境、情報通信、ナノテクノロジー・材料といった分野への重点化が図られてきたが、これらの結果、技術の種となる成果も生まれていると考えられる。棚卸の意味で、まずは、目的基礎研究から始めて、その実現に向けてどの地点まで至っているのかという観点から、その成果を確認すべきである。
さらに、今後は、重点4分野に横串を刺す形での重要技術への取り組みを踏まえ、重点4分野をライフサイエンス、情報通信、サステイナブルテクノロジー(環境・エネルギー)、ナノテクノロジー・材料の4分野に再整理し、引き続き、基盤的研究開発に取り組むべきである。その際、上記以外の重点分野については、国や産業の持続的発展の基盤となる重要技術の中で位置付けていくことが望まれる。
科学技術・学術政策局計画官付