2.目指すべき経済・社会の姿

 わが国が厳しい環境の下、直面する課題を解決し、世界に貢献していくには、まず、2020~2030年頃の経済・社会のあるべき姿を設定し、これを科学技術の力によって実現すべく、これまでの取り組みによる成果を明らかにするとともに、「知の蓄積」を存分に活用し、その実現を図っていくことが必要不可欠である。
 既に、目指すべき国の姿ということでは、現行の基本計画において、「国際競争力があり持続的発展ができる国」、「知の創造と活用により世界に貢献できる国」、「安心・安全で質の高い生活ができる国」が示されているが、今後は、この3つの基本理念をベースとして、より具体化した経済・社会の姿を明示し、その実現に向けた施策を一貫して展開することが必要である。
 具体的には、次のような経済・社会を目指すべきであると考える。

(1)「国際競争力があり持続的発展ができる国」

1.「強みのある製造業を核にした価値創造型『モノ』創り国家の実現」

 資源の乏しいわが国が、エネルギー、資源、食料を確保するためには、産業技術力を高めて、将来的にも、一定規模の輸出を維持し続けなければならない。そのためには、高付加価値製品や新しいサービスの開発を進め、世界の「モノ」創りの中心であるアジアのリーダーであり続ける必要がある。
 日本が強い材料やデバイスとの融合・連鎖の下で、製造技術に支えられたハードをベースとして、新しいシステム、ネットワーク、サービスなどソフトとの融合を図り、情報家電、次世代移動通信システム、次世代自動車など、イノベーションを進める必要がある。さらに、加工・組立が海外に移ったり、海外で類似のサービスが行なわれたとしても、それを支える材料やソフトも融合されたデバイスに関する産業競争力を維持することを目指すべきである。また、新しいシステム、サービスについての先行者利益を確保していくことも大切である。
 さらに、安心・安全なネットワークに裏打ちされたユビキタスネットワークなどの構築を前提に、情報通信を活用して、サービス産業をはじめとした産業全般における生産性・利便性を向上させることも重要である。このことは少子化、高齢化の進展による経済成長の鈍化への対応としても大変重要である。

2.「エネルギーの安定供給と省エネ・省資源型の環境立国の実現」

 世界のエネルギー需要は、特に中国を中心にアジアで急速に増加する見込みである。財団法人日本エネルギー経済研究所によれば、アジア地域のエネルギー需要は、2020年には2000年実績に比して約2倍に拡大し、特に中国は、2000年の9.3億トン(石油換算)から、20.6億トンへと急拡大すると予測されている。
 石油・天然ガス価格の一層の上昇や地球温暖化への対策として、一次エネルギー源の多様化と高効率利用、エネルギー供給システムの改革、資源の循環利用技術の開発など、エネルギーの安定供給と省エネ・省資源型の環境立国を実現する必要がある。
 さらには、資源を有する開発途上国の技術発展によって、わが国に資源を輸出せずに、自ら材料開発に取り組むことも十分に想定され、このことが材料産業に悪影響を与えるおそれもある。限られた資源からの効率的生産や高付加価値化が求められるところである。
 環境・エネルギーについて制約が拡大する中で、省エネ製品や環境配慮製品の開発、生産システムの改革などにより、わが国製造業の競争力の強化を図ることも重要である。

(2)「安心・安全で質の高い生活ができる国」

1.「高齢化の下でも、健康長寿で、活力のある社会の実現」

 前述したとおり、わが国は世界に類を見ないスピードで少子化、高齢化が進展し、2006年からは人口が減少に転じる見込みである。このような状況において、予防や効果的治療法の開発等により、国民の健康寿命を延伸し、高齢者が健康で元気に活躍でき、豊かな国民生活を実現できるようにすることが重要である。

2.「広義の安全保障の確保による、安心・安全な社会の実現」

 国民の安全・安心の確保は、国の持続的発展を維持する上で最も基本的な要件である。テロやネットワーク攻撃の脅威、インフラの脆弱性を含む災害への対応、アジア諸国の急速な成長や世界全体の人口増加に伴う食料需給の変化などに備えておくことが求められる。

(3)「知の創造と活用により世界に貢献できる国」

○ 「世界の科学技術の発展にリーダーシップを発揮できる国家の実現」

 世界のフロントランナーとなった今日、特定の科学技術分野で世界をリードしていくことが求められており、さらにはその成果を国際社会への貢献につなげていくべきである。そうすることによって、国際的なプレゼンスの向上、リーダーシップの発揮につながると考えられる。日本が重要な基礎研究分野において、人材交流や知的ネットワークの要となることが重要である。

 

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