Q2.政府は科学技術振興に関し、どのような点に力を入れるべきと考えますか

回答の全般的傾向

  • 全回答者189名のうち183名の記入があった。
  • これら回答を概観すると以下の7つの意見に集約できる。
    1. 教育、人材育成の充実
    2. 基礎研究の充実
    3. 研究環境の整備
    4. 研究費の充実
    5. 評価システムの確立
    6. 国民の科学技術への興味喚起と理解増進
    7. 日本の特性にあう独自性ある研究分野の強化
  • 「1.教育、人材育成の充実」については、この設問への回答者の4割弱が述べている。この意見については、「初等中等教育」に関する意見と、「若手研究者育成」に関する意見のさらに2つに分けることができる。
  • 次いで多い意見は「2.基礎研究の充実」であり、2割強がこれに関連する意見を述べている。また、「3.研究環境の整備」、「4.研究費の充実」についても2割弱が意見を述べている。

 以下に、代表的な意見の要約を例示する。

1.教育、人材育成の充実

(1)初等中等教育

○ 独創性のある研究者を養成するには幼児期からの教育が重視されなければならない。現在の初等・中等教育の内容については多くの問題点を孕んでおり、教育行政のあり方を根本的に考え直す時期にきているように思われる。

○ 小学生を含めた若者たちに、「日本の豊かさの理由」をわかり易く説明し理解させる。「豊かな生活」の源は高い技術力をもつ工業製品の輸出。これしか日本の生きる道はないとして科学技術教育を進めるべき。

○ 初等教育から大学院教育、社会人教育まで、一貫した人材育成システムを真剣に討議すべき。

○ 特に小学校~高校間でより科学技術の基本となる基礎勉強をよりハードに行うべきである。科学技術の基礎を、より低年齢の子供たちに理解させるような教育を行っていくことが、将来の日本の科学技術を大きく向上させる。

(2)若手研究者育成

○ 現在の入試制度では、理系志望の学生ですら、物理を学んでいないものが多い。数学の力は非常に低い。この程度の理数科の力で国際的に競争ができるとは思えない。もっとレベルの高いことを学校教育で行なうべき。

○ 博士課程の学生定員を増やしても、学生の質が低い。無競争時代に育っているから、リーダーになろうとする意識が極めて低い。これでは、世界のリーダー、科学立国というのは掛け声だけに終わるだろう。大学・大学院における学生教育の再構築(厳しさの導入)が必要と思うし、「リーダー育成」「エリート教育」を具体的にやっていく特別プログラムが必要。

○ 知的エリートの地位向上。知的エリートの社会的・経済的地位の向上が必要。

○ 若手育成。特に大学のシステムを大幅に改善する必要がある。学部に入学するシステムではなく、大学に入学し、その中で自分の専攻を見つけていくことができるものに変える必要がある。取得する単位により専攻が自ずと決まる制度で、これは米国ではあたりまえのシステムになっている。

○ 任期つき採用などといった不安定な立場に若い人材を置くことは、優秀な人材を科学技術研究に集めるためには賛成できない。まずは、若手研究者の安定的な雇用確保と、わかりやすい処遇人事が重要。

○ 任期付き研究員は、研究機関側にとっては戦力として期待できない面が多々ある。何故なら、任期付き研究員は入ったときから次の受け入れ先を探さなくてはならないからであり、その研究機関への帰属意識も希薄になりがちである。研究者も人間であり、生活面が安定してこそ、精神面も安定して良い仕事ができるという側面を持っている。任期付きと任期なしの研究員を柔軟に採用するようにすることが研究機関側に望まれる。

2.基礎研究の充実

○ 基礎研究の分野でも近い将来応用が可能なテーマに研究テーマが偏ってきている傾向がある。すぐに応用ができない分野でも社会全体のバランスのために必要な学問も多く、「無用の用」という発想も必要。一方、応用にも結びつかないし、基礎研究としてもあまり面白さがない、といった中途半端な研究テーマは厳しく排除した方がよい。

○ 先端科学分野へ重点的に投資するだけでなく、基礎基盤分野へ投資するべき。お金になる分野は民間が投資をする。政府は人材育成のために投資をするべき。省庁が競い合って、同じような分野に研究費を投資するのはさけるべき。

○ 科学技術の基盤となる、新たな知を創造し、新規科学技術のシーズを生み出すための基礎研究の新興が重要。そのためには、研究者のすそ野を広げるとともに、競争的環境をさらに促進する努力が必要。

3.研究環境の整備

○ 大学や公的な研究機関では研究スタッフの人数は微増の状態にある一方、研究スタッフの研究活動を支える研究機関固有の技術スタッフは激減している。後方支援装備(技術スタップおよび研究業務に事務処理部隊)が弱体化している。このままでは研究組織が死に絶えるのは時間の問題である。

○ 政府の科学技術の振興についての最重要課題は、研究機関の基礎体力を付けるための支援要員の増強である。研究スタッフの研究時間がルーチンワーク的な装置の運用のために割かれている。

○ 大学の独立行政法人化などによる一連の大学改革が進むことによって、重点化していない大学での研究環境が圧迫されつつある。その結果、隙間的におこなっていた研究が出来なくなると予想される。

○ 研究の拠点作りは非常に重要だと思うが、そこだけで研究が行なわれるのではなく、ネットワークとして全国レベルで研究が進展できる環境を作ることが重要。

4.研究費の充実

○ 先端技術、既存重要技術、将来必要になる技術の基礎研究のそれぞれに対して、バランスよく資金を投入すべき。

○ 研究機関への予算の増強などが考えられるが、「ばら撒き」型ではなく、研究遂行能力が明白で、かつ実績のある研究者やそのグループに配分されるような「カラクリ」が必要。平等的な配分では、その一部は科学振興と直結しない。

○ 科学研究費の増額。研究結果の実績も重要であり、個人の論文数や質の高い雑誌(インパクトファクター等)の点数で補助金が獲得できるシステムを作る。

○ 科研費等においては、分野の分け方が旧態依然であり、中小分野や新しい分野には競争的資金が配分されにくい構造となっている。

○ 研究費の使用規則について自由度を上げることが非常に重要。科研費で机は買えないなどの規制をできるだけ緩やかにすることが、研究助成をうけた側のエネルギーの無駄な消耗を防ぐ事に役立つ。アメリカの仕組みはよく知らないが、セミナーなどに招かれるとそのあとで食事などに誘われ、これは一人25ドルまでなら研究費のカードで支払われるようになっている。旅費についても同じカードですべて決済されているようである。

5.評価システムの確立

○ 評価システムの充実。評価する人や機構を評価する仕組みが必要。

○ 評価のために第一線の研究者が多大な時間を割いているのが現状。加えて大学では大学の運営のために貴重な時間を割いている現状で、十分な研究ができる環境ということができるのかはなはだ疑問である。小規模な大学・研究機関でも、大規模な大学と同じ自己点検評価等の報告や機能が求められるため、小規模の大学等では研究のために十分な時間をとることがいよいよ難しくなる。

○ 予算の配分に責任を持つ事のできる専門家を増やす必要が有る。また、研究・開発結果の評価も絶対評価でなく、相対評価を導入する必要がある。全てが良かったでは、評価にならない。

○ 成果の評価が甘いのではないか。外国で以前やられたことが、今回新たになされたようにきちんとした形式で記述されていても、それを見抜ける見識の持ち主を審査側に配置すべきである。

○ 研究評価とそれに伴う資源配分等、研究評価の影響は極めて大きい。科学技術予算や評価について、すべてを一元的にするのではなく、評価のスタンダードを明確にして異なった視点から評価する複数の評価システムが必要である。

6.国民の科学技術への興味喚起と理解増進

○ 国民生活の不透明感や精神的荒廃を鑑みると、将来に通じる基礎科学および技術、世俗的世界の一段上を感じさせる文化、文明的な事項につながる科学や技術は重要であり、それらの意義、成果を広く公表するとともに啓蒙的広報、教育が必要と感じる。

○ 国民に対する科学技術の啓蒙。遺伝子治療や遺伝子組み換え作物に見られるように、しばしば科学技術に対して感情的な反対運動が起こることがある。この背景には、理解できないものに対する恐怖心があると思われる。このために、科学技術の啓蒙活動を行える人材育成と、メディアなどを通した日常的な啓蒙活動にもっと積極的に力を注ぐべきである。

○ 科学技術の成果が、実社会の製品技術などにどのように取り込まれているか、分かりやすく解説すべきである。

○ 国民の科学技術リテラシーを確立するための施策。原子力、宇宙開発、安全保障等について冷静な議論ができる土壌が不可欠。

7.日本の特性にあう独自性ある研究分野の強化

○ わが国がこれまで培ってきた強い領域をさらに強化し、世界に貢献できるようにすべき。

○ 我が国独自の独創的な科学技術を創成すべき領域、また、創成が可能な領域を調査して、戦略的に決定する必要が有る。

○ 環境、エネルギー、食料、社会基盤など国民の生活、安全、健康に直接かかわる分野への振興がなおざりにされてきた。

○ 日本の国際的レベルは高く一流である。しかし、日本からの新しい芽の発信は少ないと認めざるを得ない。“日本から新しい芽を出すにはどうしたらよいか”、そこに力を入れるべきだと思う。

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