Q 1.我が国の科学技術の目指すべき方向はどのようなものと考えますか

回答の全般的傾向

  • 全回答者189名のうち184名の記入があった。
  • 意見は多岐にわたっているが、「科学技術の目標」に関する意見と、「科学技術振興の方針」に関する意見の2つに分類することができる。
  • 「科学技術の目標」に関する意見を概観すると、以下の6つの意見に集約できる。
    1. 環境、エネルギー、食料等の国際的・国内的諸問題の解決のための科学技術
    2. 知の創出のための科学技術
    3. 安心・安全・安寧を保障するための科学技術
    4. 活力を創出し、国際競争力を確保するための科学技術
    5. 質的な充足のための科学技術
    6. 世界のリーダーシップをとり、国際貢献に寄与するための科学技術
  • これらのうち最も多かった意見は「1.環境、エネルギーおよび食料等の国際的・国内的諸問題の解決のための科学技術」であり、回答者のうち3割弱がこれに関する意見を述べている。
  • 「科学技術振興の方針」については、以下の6つの意見に集約できる。
    1. 教育、人材育成を充実させる
    2. 我が国の特性に合致した独創的な科学技術を創出し、我が国の強みを強化する
    3. 資金配分や評価などのシステムを整備する
    4. 基礎研究と応用研究のバランスを図り、基礎から応用までの道筋を明確にする
    5. 科学技術の俯瞰的展開、複合化、統合化を志向する
    6. 国民の科学技術への興味を喚起し、理解を増進させる
  • これらの中では「1.教育、人材育成を充実させる」が最も多く、3割強が関連する意見を述べている。他に「2.我が国の特性に合致した独創的な科学技術を創出し、我が国の強みを強化する」と「3.資金配分や評価などのシステムを整備する」が各々1割強である。

以下に、代表的な意見の要約を例示する。

1.科学技術の目標

1.環境、エネルギー、食料等の国際的・国内的諸問題の解決のための科学技術

○ グローバル、かつ避けて通れない深刻な課題の解決のための科学技術に重点を置く。世界人口の増大と途上国の発展に伴う、エネルギー不足、食料不足、地球環境の保全に資する科学技術を発達させて世界に貢献する。これにより、日本の存在の重要性も高まる。

○ 日本固有課題の解決の重点化→エネルギー・食料などの脆弱性に即応する技術力確保。

○ 第3期の基本計画には、環境分野、製造技術分野、エネルギー分野を融合した、持続可能な社会構築に資する科学技術戦略としてサステイナブルテクノロジー(ST)戦略の推進を提案する。

2.知の創出のための科学技術

○ ある程度成熟した国家として「文化としての自然科学」を標榜し、国際的に尊敬される科学政策。

○ 世界のトップランナーとして、それに相応しいレベル(先進性、革新性、自立性、創造性、総合性、牽引力、表現力など)の科学技術を進める。

○ 人間の知的財産の蓄積に貢献し、豊かな心と豊かな知識を育む「科学」の意味を施策者が理解し、その理解を国民や次世代を担う子ども達に伝える努力を継続していってほしい。「豊かな科学」「質の高い科学」を発信できる国を目指していってほしい。

3.安全・安心・安寧を保障するための科学技術

○ 産業政策(成長)としての科学技術だけではなく、生活の質を向上させるための地域政策(分配)としての科学技術を視野に入れた方向にすべきと考える。例えば、生活の安全、自然の保全、食料の信頼、安全保障などがキーワードだと考える。これらの技術開発は新たな外貨獲得にもつながるはずである。

○ 物質的な豊かさを求めるのではなく、安心・安全で質の高い心豊かな生活のできる文化的な社会の創生をめざすべし。

○ 21世紀の我が国における科学技術政策の主要なベクトルは、人類の持続的発展に大きな障害となる自然災害への対応策(天災のみならず、人間活動による地球温暖化や異常気象も含む)に向けるべきである。

○ これらからは高度な科学技術を駆使したハイテク製品の開発よりも、世界全体の治安が安定し、人口が適正な水準に漸近し、自然環境との調和を図りながら、生活水準もある程度のレベルが確保された、そういった社会を築いていくことを最重要課題とすべきである。環境問題や貧困問題、防災、治安維持、食糧自給、エネルギーといった、安全で安心な生活を送るための基盤が、この高度に発達した文明社会において揺らいでいる。

○ 特に日本で問題となる老齢化社会に向けて、老齢者の健康で活動的な生活のサポート、労働年齢の引き上げを可能にするようなインフラ整備のための科学技術促進。

○ 国家の安全保障に係わる科学技術の維持。

4.活力を創出し、国際競争力を確保するための科学技術

○ 本当に将来、日本の社会に役立つ技術に対して重点的な投資が行われることが第一である。激しい国際競争の時代にあって、「世界への貢献」といった目標は、必ずしも国民のためにはならない。(結果的にそうなればよいのであって、目標ではない。)

○ 国際的な競争力を有し、このまま人口減少が急速に進んでも、国としての成長レベルを大幅に低下させないようなものが必要である。基礎となる科学技術が単なる欧米からの移転では、必ずしも我が国の優位性が認められない可能性がある。今後は、基礎となる部分においても、欧米に負けない最先端の技術が必要になる。

○ 国際的な競争力を有し、このまま人口減少が急速に進んでも、国としての成長レベルを大幅に低下させないようなものが必要である。

○ 新産業を創造するためのベースとなる市場の先進性とダイナミズムの維持・発展と、アジア諸国の中でリーダーシップが取れる国になることが国際競争力強化のための目標である。

5.質的な充足のための科学技術

○ 少子高齢化や価値観の多様化などにより、国民のニーズが量的な充足感から、質的な満足感へと転換してきており、精神的な幸福感を満たすような社会形成に必要な科学技術の推進が求められると考えられる。

○ 国家施策としては「国」にこだわらざるを得ないが、国家を強調しすぎないように努めるべきである。科学技術は基本的に人々の幸福に寄与する目的で開発、展開されるべきものである。個人の生命と生活における安全、生活の豊かさ、富の分布の公平性などがより確実なものとなるような課題の設定が望まれる。

○ 幅広い分野から専門家同士が意見を交わしたり、国民も交えて交流する仕組みを確立させ、真に国民の幸福につながる科学技術を目指すべきだと考える。

○ 科学技術基本計画は、科学技術創造立国の理念の実施にかかるものであるので、国策としての科学技術研究開発の推進のために立案されるべきものである。したがって、その価値判断は、明確に社会や国民、生活に有益であるかどうか、という視点が重要となる。

6.世界のリーダーシップをとり、国際的貢献に寄与するための科学技術

○ 人類の安全・安心・豊かさを世界の人々が同等に享受し、地球規模での持続可能な発展を支える科学技術の創造を目指す。現在は特定の国が繁栄し、多数の国家が疲弊していると思われる。1国の繁栄に貢献する技術開発よりは、できるだけ多くの国家の人々が自由と人間の尊厳を保ち、平和に生きてゆくための新しい技術開発を行う。

○ 日本が、世界に尊敬されリーダーシップを発揮できるようにすること。(これは、科学技術分野のみでなく芸術、文化(アニメなど大衆文化も含め)バランスの良い進展が行なえることを意味する。)

○ 文化を守る工学をコストを無視して、長期的視点にたって推し進めるべきではないか。文化を守る文化大国であることが重要であることは、フランスの例を見れば明らかである。日本も国内に守るべき文化を多くもつ。さらに有利な点として、広い映像化・放送技術分野を持っている。これらを積極的に活用して文化を守る工学を高めこれを利用して文化を守り日本文化を発信していく。そうすることで、日本国のバックボーンが形成され、国際社会においても日本が尊敬される国になる。同時に、コストを無視した最先端の技術開発を進めることで、メディア工学・芸術工学・コンテンツ工学の飛躍的発展がみられるであろう。いまはまだ見えない新分野が花開くかもしれない。

○ 日本は世界の先進国の一員であるという立場を認識して、今後、必要性を増すグローバルな考え方を基盤に(島国的発想を減らす)国際社会での協力あるいは競合と言う面で長期的な展望を持つことが必要である。

2.科学技術振興の方針

1.教育、人材育成を充実させる

○ 平均的な人材のレベルアップではなく、まずトップのレベルアップが重要である。

○ ハイテク科学技術を支える保守管理等の技術や考える力を重視した技術者教育をしっかり行わなければ、ハイテク科学技術は砂上の楼閣となってしまう。

○ 専門化による視野狭窄に対する対策、高度教育による基礎的理解・体験的理解の充実、高度教育を支える技術教育の充実。

○ 政府が目指すべきは、10年後20年後の科学技術であるべきである。重要なのは研究であり教育である。昨今の政策は、過去に財産(知識)を蓄えた人には有利であるが、これから知識を蓄積・使用する若い人のためにはなっていない。若い人に長期的に中程度のお金を回すべきである。

○ 小、中学校よりの基本的教育。(数学、科学など基本を叩き込む教育、人間性を豊かに育てる教育、国際感覚を育てる教育。)

2.我が国の特性に合致した独創的な科学技術を創出し、我が国の強みを強化する

○ 日本の独自性の確立、すなわち世界の2番手、3番手の研究を推進するのではなくて、日本に本当に独自性がある研究を推進する。

○ 多くの企業において普通に利用できる技術レベルでは、我が国の優位性を保つことは今後、ますます困難になることが予想される。このような状況を打破するためには、他の国や企業では手の着けていない独創的な科学技術の開発が必須となる。

○ かけがえのないものを守る工学を目指すべきである。米国で垣間見た現実として、軍事研究が先端技術を引っ張っていたことは、否定できない。軍事研究では、性能のみが問題となり、そういった最先端技術の中から、全く新しい技術分野やマーケットが生まれたりする。一方、日本の技術開発は民生品主導である。コストが前面に出て、近視眼的になる傾向がある。本来こういった傾向と無関係なはずの大学の研究も産業界からの方向性に引きずられ、二番煎じの感がいなめず、閉塞感も漂う。この閉塞感を打ち破るため、コストを無視することが許される軍事研究以外の研究分野を見つける必要が発生する。ここでのキーは、「軍事研究=国家というかけがのないものを守る研究」のうち、「かけがいのないものを守る」にあるのだと思う。

○ 日本の民族性(アジアの一員)、立地、資源、環境条件、人口、教育水準などの特徴をよく分析して国としての特色をのばすことが望ましい。

○ 長期的視野にたった、日本の特性に合う独自性のある方向性を打ち出すべき。石油などの資源に依存しないエネルギー体系の整備や世界的に見ても広い経済水域を活用した海洋利用技術など。

○ 世界の中でわが国が強い領域、世界の中で貢献できる領域を的確に定め、そこを強化すべき。

○ 我が国が得意とする電器、自動車等の分野に関連した幅広い科学技術における世界的なアドバンテージの獲得・維持を目指すべきであろう。科学技術は、大きな飛躍(ブレークスルー)が起こることにより発展してきた。目指すべきは、ブレークスルーを可能とする豊かな科学技術の醸成である。

○ 将来、日本が世界をリードする研究を先導すべきである。科学の視点のみならず、工学的な視点や、製造の観点、あるいは、資源回収、蓄積のための技術・施策も見過ごしてはいけない。

3.資金配分や評価などのシステムを整備する

○ 基礎科学分野については、どこかに重点があるというのではなく、研究資金をばらまく。経済発展のための研究については競争的資金を充実させる。

○ 知財権の創出に並行して、知財権の運用に力を入れる。

○ 科学技術の価値を評価できる人、体制・システム化。

○ 競争が出来る分野は、既に方法論や評価方法が定まっているといえる。しかし、本当の意味でオリジナルな研究は、当初は殆どの人が評価しえないものである。競争にもなっていないような独創的な研究が評価できるシステムを早急に作り上げることが求められる。

4.基礎研究と応用研究のバランスを図り、基礎から応用までの道筋を明確にする

○ 基礎研究の重視。

○ 基礎と応用にバランスの取れた科学技術の推進。

○ 各大学、研究所などにおける基礎研究の充実はもちろん大事であるが、それをその施設でtranslationして応用技術として実学に展開するインフラができていないように思われる。つまり、基礎研究と応用・実学とが乖離している。そのようなインフラを作ることがまず求められる。

5.科学技術の俯瞰的展開、複合化、統合化を志向する

○ 集中投入とは別に広い分野の芽を摘まない程度の少額資金を配分し、集中と分散、ピークと多様性を維持すべき。

○ 場を科学する学問群の重点化。問題を「場」としてとらえ、全体として効果的な対策をとることができるような科学技術を確立する必要があるが、現状では未だ個別の対象を扱う科学技術が主流。

○ 自然科学と人文・社会科学の総合化が図られ、科学技術が真に人間のため、社会のために奉仕するものとして機能するものとなるよう目指すべきである。

○ 自然科学と人文・社会科学の統合。各分野の専門家を集めただけでは、それぞれの専門領域に基づいた主張をするだけであり、総合はできても統合はできないと思われる。必要なのは、自然科学の素養をもった人文社会科学者、人文社会科学の素養をもった自然科学者ではないだろうか。

○ 科学技術はしばしば両刃の剣である。その扱い方を誤らないようにするためには、自然科学と人文社会科学の両方の素養をもつ人間こそが、将来、国の科学技術の管理者にふさわしい。

6.国民の科学技術への興味を喚起し、理解を増進させる

○ 「関心がある」が科学技術の推進のプリミティブながら強い原動力である。

○ 第一線の科学者と国民の間に位置する分野での人材養成や人材の発掘を位置づけ、科学の進歩が国民に身近に感じられるようなものとしていく。

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科学技術・学術政策局計画官付

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