5.イノベーションの好循環(知の創造と活用の好循環)の形成

1.産学官連携の推進

(産学官連携の評価)

  1. 基本計画がなければ産学官連携の基盤はここまで確立されなかった。
  2. 大学の法人化にあたって、産学連携が重要ポイントと認識して推進している。
  3. 政府の施策により既に産学官連携が重要という風は吹き、地方も動き始めている。
  4. 米国の研究所運営方式の一つである「GOCO(Government-Owned Contractor-Operated)」などに見られる「公的研究機関の運営を、民間企業や複数の企業などから成るコンソーシアムにアウトソーシングする」仕組みを導入すれば、産学連携の強化・拡大に向けて、一層の効果が得られるのではないか。(複数の指摘あり)
  5. 基本計画が策定されて以来、公的な資金を基盤として連携するスキームが増えており、代表的な大学では民間の資金が相対的な比率で減っている。代表的な大学においては苦労してまで民間資金を導入しようというインセンティブが減退しているのでは。
  6. 産学連携は盛んになってきており、やらないと罪との風潮があるが、工学系で基礎的な研究をしている先生や理学系の先生にも押し付けるのは問題。

(産と学の意識改革)

  1. 産学連携は全体的にうまくいっていない。特許取得を目的としているだけではない大学と、特許をサイエンスの果実と捉える産業界との間の特許に対する認識の差が大きい。(複数の指摘あり)
  2. 産学連携に積極的な大学教員は全体の10%程度と少ない。また、「研究期限の厳守」や「守秘情報の取り扱い」など、企業としての最重要事項に対し、大学側の認識の甘さなども指摘されている。
  3. 日本の大学の先生に守秘義務遵守の意識があるかどうかが産学連携のまず第一歩。

(共同研究(マッチングファンド))

  1. マッチングファンドは大学にとっては連携先の企業を見つける良い機会であり、魅力的な制度。産学連携の方向性をつけ、産学間の交流を深めるという点では有効な手段。(複数の指摘あり)
  2. 産学連携は、契約をしっかり結びアウトプットも事前に明確に決める「契約型」である必要。昔ながらの「あうんの呼吸」型ではいけない。
  3. 契約の仕組みが十分に整備されておらず、企業との契約がルーズなことが問題。
  4. 大学と外国企業との共同研究契約も増えてきていることを踏まえ、外国語の契約書の雛型や、外国企業に対する知的財産管理の国としての方針を示していただきたい。

(大学の知的財産本部、TLO)

  1. 米国のように、TLOや知財本部が学内にあっても予算や人事が独立している方が、業務を行う上でスムーズ。
  2. 知財本部とTLOの棲み分けの議論があるが、大学が意味を理解していれば、どんなやり方でもよい。
  3. TLOを専門分野別にネットワーク化することが必要。
  4. 技術移転1案件にも様々な分野が内在するものであり、専門分野に特化したTLOやそのための人材育成が得策とは思えない。また、TLO業務は大学と物理的近接性を持ち密接に連携しないと難しい。
  5. ただし、全国のTLOの技術移転ノウハウの共有と向上を目的とした連携や、そのための特定のTLOの活動は一時的には考えられる。
  6. 各大学に知財本部とTLOが一体として存在すべき。大学に知財本部とTLOが両方あるとどっちに行っていいか分からず、大きな問題。(多数の指摘あり)形態としては知財本部でもTLOでもどちらでもよく、双方残る場合でも密接に連携・協力することが必要。
  7. TLOを各大学に設置して、採算がとれているのか。各大学が連携して、広域連合にしていくべき。

(人材交流)

  1. 産学の人材交流はまだ非常に少ない。大学教員の兼業承認の簡素化、企業の現役研究者の大学客員教員としての雇用、大学内への企業の研究室設置等が柔軟にできるようにして欲しい。
  2. 企業と大学間の人の流れを増やすことが必要。
  3. 産業界には技術者を育てながら活用するという観点が重要。
  4. 大学の先生方(特に理工系)が自ら企業に1年程度のインターンシップに行って、企業の現場を知り、企業の考え方、優れた面を学ぶことがまず必要。
  5. 他大学への国内留学制度の企業留学版を作るべき。企業に行っている間は、実績を問わないようにしてはいかがか。逆に企業からも、例えば学部あたり毎年2人程度を引き受けるといい。
  6. 大学と省庁の間での人事交流やインターンシップをもっと実施したらどうか。
  7. 教授のポストやTLO、知財本部に企業から人を送り込むのが非常に難しい。

(大学人の業績評価への反映)

  1. 大学教員の評価に、論文だけでなく、特許や産学連携の実績、社会貢献などを考慮して欲しい。
  2. 大学の先生が、論文だけでなく、産学連携でも評価されることが必要。

(研究費の海外流出)

  1. MITなど米国の大学はこれと決めた企業と付き合うが、日本の大学は同業の複数社に対して等方位外交をしてしまう。
  2. 民間研究費の海外流出は、民間の外国かぶれというのもあるが、外国の研究者の方が契約概念について文化があり、成果をきちんと出すからである。日本の研究機関も見習うべき。
  3. 民間が海外の大学に資金提供する理由としてはブランドの他に事業内容等について研究統括の長が企業訪問等によりしっかり説明をしてくれるなどのケアの良さが挙げられる。
  4. 日本企業が外国に研究費を出すのは日本の大学の責任ではないか。米国の大学が教授を連れて日本企業を回るということを日本の大学はやっておらず、その風土、意識がない。
  5. 民間企業は、国内大学との共同研究は技術者のトレーニングの場、海外大学とは研究の結果を出す場、といったようなダブルスタンダードで共同研究を行っている。

(外資系企業との連携)

  1. 大学からみると世界が市場であり、連携する企業としては国内外を問わない。(複数の指摘あり)
  2. 産学連携を進める際、日本企業は欧米企業に比べて契約締結などの意思決定が非常に遅く、これによって外資が優先されることも。

2.起業活動の振興

  1. ベンチャーの成功には信用力が鍵。「然るべき人材」がベンチャーを興し成功を積み重ねていくことが重要。大学の教授が大学発ベンチャーで成功することを期待。
  2. 中小企業・ベンチャーは公募申請の文書の作成も下手だし、時間もかけられないが、米国研究機関が海を越えて注文してくるような技術をもっているところもある。(競争的資金の)公募時に中小企業・ベンチャー枠をつくるくらいの措置が必要。
  3. 長年実績を積み上げてきた中小企業と創業間もなく技術で勝負するしかないベンチャー企業は立場が違う。ベンチャー支援策には「中小企業枠」ではなく「ベンチャー企業枠」という設定が必要。
  4. 米国で大学発ベンチャーが急激に増加したのは、冷戦後大学で軍事技術研究を行うことが難しくなったためにスピンオフしただけである。日本でもただ待っているだけでなく、実需を誘導し、最終需要のはっきりした市場を作ってあげることが必要。
  5. 数の拡充は、1000社くらいで打ち止めにし、これからは質を重視すべき。

3.知の活用の促進

  1. 民間企業のイノベーションを刺激する、先進技術の政府調達や、ベンチャー企業の製品の公的機関による調達は政策として行っても構わない。
  2. 公的研究機関が、研究機器やその開発等を発注する際、納入実績を基に大企業が受注する場合がほとんど。ベンチャー企業が技術を基にアピールしようにも機会がない。発注の際に、企業の資本金・従業員数や実績を問わず、技術で評価するような、ベンチャー企業も参加できる枠組みが必要。
  3. ベンチャーに客がいないのが問題。米国ではレーガン政権時に、政府調達の数%はベンチャーから買い上げるとの政策をとった。これが決定的な政策のキラーパスとなっている。政府調達の数%は創業間もない会社にまわすということを法律でも作って実行し、客を国が作ってあげることをすれば、死の谷問題に決定的に効くと考える。
  4. 研究開発に投資しても社会制度的に実現しないことがある。規制など社会制度を所管する側(医薬なら厚生労働省、環境なら環境省)と研究開発を行う側が繋がらないといけない。

4.国の研究開発プロジェクト

  1. 国が民間を巻き込んで、世界の産業界では勝負がついていてとても追いつけない産業技術の研究開発をすべきなのか疑問。半導体などは今さらという冷めた見方が産業界にもある。
  2. 産業技術の研究開発型研究プロジェクトは、ビジネスや民間企業の技術開発の実態をよく知らない大学教授や担当者が研究計画を作り、大企業側もお金がもらえればそれでよいという、もたれ合いの構図がある。大学教授は、個別的技術での専門性が高いので、企業コンソーシアムの中で、個別的課題のアドバイザーとして参加することがより有効であると思われる。
  3. 産業技術の研究開発プロジェクトは、旧来型の、力ずくの投資で新技術を開発するとの手法に見える。

5.知的財産の保護及び活用

  1. 日本の知財の問題点は、知財を保護主義で抱え込むこと。日本企業はロイヤリティ収入の監査もしない。知財を使ってもらってから、後でチェックしてロイヤリティを回収するという発想がない。
  2. 大学における研究成果の権利化が過重に重視されることには、マイナス面もある。秘密保持の条件がつくことにより、研究者間の自由な情報交換が阻害されてしまう弊害がある。
  3. 大学が権利を意識しすぎて(過敏に権利を保護したり、初めから高い実施料を設定したりするなど)企業としては産学連携を進めにくい。大学はもっとフレキシブルに。(複数の指摘あり)
  4. 教授が研究に没頭できる環境整備とモチベーションを高めるという観点から、特許について、発明者にも利益が還元される仕組みがほしい。
  5. 米国と比べ、日本の特許の特徴として、出願数は多いが認定率が低いこと、休眠特許が多いこと、企業による応用特許が多く学者による基礎特許が少ないこと、海外申請が少ないこと、が挙げられる。日本は知財の国際戦略に欠ける。
  6. 特許(とりわけ海外特許)の申請費、維持費は到底大学でまかなえない。
  7. 知財本部ではなく「知財商社」が求められている。

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科学技術・学術政策局計画官付

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