英国議会上院の「科学と社会」レポート

 2000年に上院科学技術委員会がとりまとめた「科学と社会:Science and Society」(ジャンキン小委員会委員長)は、国民の科学技術に対する理解を増進する上での問題点及び必要な方策を綿密な調査、徹底的な審議を基にまとめられており、国内で高く評価されている。

「科学と社会」でまとめられた5つの総合課題

● 科学者と国民の間に新しい対話文化を創出する必要性

● 国民の価値観と姿勢に注意を向ける必要性

● 政府への科学的助言に対する国民の信頼が揺らいでいるおり、早急な対応が必要。

● 科学技術分野の助言、政策決定を行う全ての機関が、開放的で透明性のあるアプローチを採用する必要性

● 科学者とメディアが建設的な相互協力を行う必要性

 なお、上記上院科学技術委員会が取りまとめた報告書に対し、英国政府は、アクションプラントを含めた回答を上院に提出しているが、その内容は以下の通り。

上院の勧告報告書の内容と政府の回答(→政府回答)

1)国民の科学理解

● 研究評議会と大学は、科学者に対し、コミュニケーションに関する訓練、特にメディアヘの訓練を奨励すべき。また、研究学生向けの訓練も拡大し、自分の研究が社会のコンテクストの中でどのように位置づけられるのかを理解させるべき。
→ 研究評議会において、訓練ガイドラインを作成するとともに、科学コミュニケーションに関するワークショップを開催する。

● グラント提供機関は、研究者に対し、研究を国民と共有することを奨励する手段を講ずべき。また、これを実施する研究者に支援・報酬を与えるべき。
→ 大学、研究所の上層部が広範なプログラムを作成し、研究内容を国民に普及させるよう努力させる。また、研究評議会においては、助成を与えた研究者に国民が科学への理解を深める活動を実施することを義務づけている。

● 科学技術庁(OST)は、科学博物館と研究センターの連携を強化し、新たに発生する科学課題への対応を行うための相互協力を可能にすべきである。
→ 研究評議会は、既に科学博物館と科学センターが有益なコミュニケーションが図れるよう各種施策を実施しているところであり、更なる連携を進める予定。

● 科学技術庁(OST)は、質が高く、国民にアクセスを解放している科学情報サイトとの間にリンクを張り、インターネット上に信頼できる独立したサイトを開設、維持するための協力を行うインセンティブを妥当な機関に与えるべき。
→ 現在、上院が示したサイトの開発に資源を投入しているところ

● 政府は、女性の科学理解を深めるための特別イニシアチブに対する予算を継続すべきである。
→ OSTのPromoting SET for Women Unit(女性のための科学・工学・技術促進ユニット)において、SET(科学・工学・技術)への女性の参加、昇進を推進することに努めており、女性のSETへの進出を拡大するためのインターネットサイト(日常生活の科学について議論するフォーラム、分かりやすい言葉で解説する科学など)に対し、資金を投入しているところ。

2)不確実性とリスクのコミュニケーション

● 政府は、国民がリスク情報をどう受け止めているかについて、研究を行うべき
→ この分野の研究は既に行われており、リスクコミュニケーションの指針に組み入れているところ。

3)国民参加

● 国民との直接対話は、付け足しのように行われている活動から、科学を基盤とした政策決定を志向するものとすべき。
→ 国民との対話の適切な水準、タイミング、メカニズムを検討し、政策決定プロセスの様々な段階で・多様なグループから効果的なインプットが得られるような仕組みを導入する。

● 政府は、EU・国際レベルで科学課題に関する国民との対話促進の先頭に立つべきである。
→ 国内で科学フェスティバルを開催しているEU加盟国の経験をもとにした、科学コミュニケーションの最善実施例を交換し合うフォーラムとして、「欧州科学フェスティバル連合」を設置するようEUに働きかけている。また、各国の科学週間を密接に連携させることを求めている。

● 研究評議会は、どのプロジェクトに助成を行うかの優先順位決定などの作業に国民の参加を拡大すべきである。
→ 研究評議会は、将来の科学優先課題の大まかな枠組み決定に役立つ意見の収集活動に国民を参加させているが、今後とも拡大していく。

4)学校における科学教育

● 読み書きや算数の能力強化を理由に、小学校の科学教育時間を短縮すべきではない。
→ 小学校の科学教育は過去3年間に大幅に改善されたが、生徒がより科学を学習できるように教師が学科間で連携をとることを奨励する。また、科学教師が専門知識の開発ができるように小中学校の科学教師の支援を強化していく。

● 安全衛生規則により、生徒の興味を引く科学実験が妨げられているなどの問題があるが、政府は適切な対応を講ずるべき。
→ 安全な環境での学習を奨励するため、政府は、現在、学校の科学実験室の改修に6千万ポンドの予算を配分している。

5)科学とメディア

● 報道苦情委員会は、編集者を対象とした王立協会のガイドラインを採用すべきである。
→ 政府としても、同ガイドラインを支持し、メディアや科学界に奨励する。

出典:外務省HP 英国の科学技術の概要

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

-- 登録:平成21年以前 --