3.計画の実施内容

1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進

1.(1)地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化

○ 地震現象と火山現象の予測精度を向上させるためには、日本列島域を対象としたモニタリングシステムに加え、大地震の発生が予想される特定の地域や火山噴火の可能性の高い地域における地震・火山現象モニタリングが重要であり、高密度かつ多項目の諸観測を一層整備するとともに、既存の観測網の着実な維持・更新を行う必要がある。こうした地域では、活動の予測に有用な情報を数多く収集することが必要であり、より詳細かつ定量的な活動の把握と評価を行うことができるよう、モニタリングシステムの高度化を推し進める。地震発生の可能性が高い地域の中でも、東海・東南海・南海地域は、その切迫性が極めて高く、この地域における地震予知への取組は、社会的要請にこたえるという観点からも大きな意味を持っており、以下ではこれらを分けて記述する。

ア.日本列島域

○ 国土地理院は、全国のGPS連続観測網による地殻変動連続観測、水準測量や高度地域基準点測量、絶対重力観測及び地磁気連続観測を実施する。さらに、GPSのデータを用いて、断層モデルを即時的に推定するシステムを構築する。海上保安庁は、DGPS局のデータを利用して地殻変動を検出する。気象庁、国土地理院及び海上保安庁は、潮位連続観測を継続すると同時に、観測システムの更新やデータの一元化を進める。防災科学技術研究所は、傾斜計とGPSデータを統合処理する地殻変動総合モニタリングシステムの構築と運用を行う。大学は、歪(ひずみ)計のデータを用いて、超低周波な地震のような特異な地震の震源特性を明らかにする。

○ 防災科学技術研究所は、日本列島周辺の島嶼(とうしょ)部などの基盤的地震観測網(Hi-net等)の配備計画未達成域での整備を進める。また、次世代地震総合観測システムの開発を進め、地震波速度構造等の標準モデルを構築するとともに、低周波地震と深部すべりに関する情報収集を行う。気象庁は、一元的な震源決定処理のほか、低周波地震のモニタリングを継続する。また、地震活動の異常を定量的に評価・診断するシステムを構築する。大学、防災科学技術研究所、気象研究所及び気象庁は、高精度な震源及び発震機構解・CMT解の決定や震源過程解析を行う。大学は、短期間に地震が集中して発生する場において、効率的な地震活動のモニタリングを試行する。さらに、常時微動記録を用いて地下構造の時間変化の検出を行う。

○ 気象庁は、全国の30余の火山について連続的な監視観測を行う。その他の火山については、基盤的地震調査観測網等の活用と関係機関の協力の下、監視を行う。熱観測、火口近傍での地殻変動観測、ガス観測、地震・空振の長期観測などモニタリングの高度化を図る。全国主要火山に地磁気基準網を整備し、全国の全磁力分布を求める。また、地磁気基準値を迅速に提供する。国土地理院は、全国に展開するGPSによる連続地殻変動観測から火山性地殻変動を把握する。海上保安庁は、南方諸島及び南西諸島の海域火山において、航空機による熱画像撮影や磁気測量等による定期巡回監視を実施し、火山内部の磁気的・熱的構造の異常や時間変化を求める。また、測量船を使用して、海底地形や海上重力測量などの総合的調査を行う。

○ 気象庁、海上保安庁、国土地理院、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所及び大学は、火山活動が活発化した場合には、火山周辺での機動的観測、航空機や無人測量船等による観測、衛星搭載SAR(合成開口レーダー)などの人工衛星によるリモートセンシング技術を活用し、陸域、海域での火山観測体制の強化を図る。

イ.地震発生・火山噴火の可能性の高い地域

○ 大学及び気象庁は、宮城県沖及び周辺地域等において海底地震観測を実施する。また、大学及び海上保安庁は、ゆっくり滑りのモニタリング等の海底地殻変動等の観測を強化する。

○ 大学及び防災科学技術研究所は、歪集中帯、群発地震活動域、活断層周辺地域及び南関東において稠密(ちゅうみつ)地震観測網により地震活動をモニターする。防災科学研究所は、大深度地殻活動観測井の整備及び比抵抗の連続観測を実施する。産業技術総合研究所は、地下水連続観測を実施し、透水係数等の変化をモニターする。国土地理院は、水準測量を実施するとともに、稠密なGPS・光波測距による変動地形調査を実施する。

○ 国土地理院は、地震発生の可能性の高い地域において、水準測量・GPS・光波測距による測量を高頻度に実施する。また、日本海溝・千島海溝沿いの地域や糸魚川~静岡構造線北部において、GPS及びSARによる観測を実施し、地殻変動分布を明らかにする。海上保安庁は、伊豆諸島海域において、GPS連続観測を行う。

○ 気象庁は、火山噴火の可能性の高い地域において多項目観測を実施し、活動的な火山のモニタリングを強化する。大学は、マグマ活動の検知やマグマ上昇機構の解明及び火山性流体・熱水の分布や時間変化を把握するため、樽前山、有珠山、北海道駒ケ岳、岩手山、吾妻山、草津白根山、浅間山、富士山、伊豆大島、御嶽山、阿蘇山、雲仙岳、桜島等の全国の活動的な火山で、地震、地殻変動、電磁気観測を総合的に行い、活動的な火山のモニタリング機能を高度化する。防災科学技術研究所は、富士山等で地震・地殻変動等の多項目連続観測を実施する。また、活動が活発化した際には、人工衛星や航空機によるリモートセンシング技術を利用した観測を実施する。国土地理院は、GPSやレーザー測量、水準測量、地磁気測量、重力観測による機動観測を実施するとともに、活動的な火山を優先して地球観測衛星、航空機によるSAR等を利用して高精度な地殻変動の測量を実施する。産業技術総合研究所は、富士山などで地殻変動観測を実施する。

ウ.東海・東南海・南海地域

○ 気象庁は、ケーブル式海底地震計による海域の震源決定精度の向上を目指す。また、地殻変動監視と潮位データ利用の高度化を図る。国土地理院は、GPS連続観測点の増強、水準測量、絶対重力観測、地殻変動連続観測に加え、GPS、光波測距、水準測量等の機動観測を実施する。海上保安庁は、GPS-音響測距結合方式による海底地殻変動観測を実施する。産業技術総合研究所は、地下水等総合観測施設を用い、プレート間のゆっくり滑りを観測し、深部低周波微動を精査する。気象研究所は、歪計データ等の異常検出手法の改良を行い、過去の測地データの再調査や長基線レーザー伸縮計による観測の高度化を行う。防災科学技術研究所は、各種観測網を強化し、高精度地下構造決定及び相似地震活動のモニタリングを実施する。海洋研究開発機構は、実時間地殻活動モニタリングシステムの構築・拡充を行う。大学は、臨時地震観測、歪・傾斜・比抵抗等の連続計測、高密度GPS観測、全磁力、絶対重力と相対重力の繰り返し計測を行う。また、SARデータ及びGPSデータを用いて、定常的な地殻変動とその揺らぎを面的にモニターする。さらに、紀伊半島下のフィリピン海プレートの形状とその周辺のマントルウェッジの三次元構造を推定する。

1.(2)地震・火山現象に関する予測システムの構築

1.(2)(2-1)地震発生予測システム

○ 地震発生予測システムを構築するために、これまで、地震発生に至る物理・化学過程の理解に基づいて、プレート境界の応力・歪等の推移を予測するシミュレーションモデルを開発してきた。この開発した予測シミュレーションモデルに実際の観測データを取り入れることにより、定量的な地殻活動予測を行うことを目指す。予測シミュレーションモデルとモニタリングを総合化したものとしての予測システムの構築を目指す。

○ 「地殻活動」とは、歪エネルギーの蓄積・応力の集中から大地震の発生に至る一連の過程及びそれに付随する諸現象のことを指す。大地震発生に至る一連の物理過程を理解・再現する延長上で大地震を予測する「地殻活動予測」が目標である。こうした目的のために、地殻活動予測シミュレーションの改良、シミュレーションに観測情報を取り込むためのデータ同化手法の開発を進め、実データと予測シミュレーションを結合させたデータ同化実験を実施する。また、モデルパラメータや観測情報の不確定さによる予測シミュレーションの誤差を適切に評価するための手法を開発する。さらに、現在の大規模予測シミュレーションでは考慮されていない物理過程や、破壊の非線形性、規模依存性等を考慮した地震発生の数値モデルを構築することにより、大規模シミュレーションモデル高度化のための研究を進める。内陸の活断層についても、予測シミュレーションに向けての研究を行う。

○ 地震活動のデータに基づく確率論的な予測を行うために、地震発生の準備過程や素過程を考慮した新しい地震発生予測アルゴリズムを開発し、これを用いて地震活動の予測実験を行う。また、地震・火山現象に関するデータベースの構築のための研究課題と連携して、予測の性能を評価するために必要な地震活動データを整備する。その際、同種の研究を行っているアメリカ、ヨーロッパ等の研究グループとの国際連携を図る。

ア.地殻活動予測シミュレーションとデータ同化

○ 大学、海洋研究開発機構、気象研究所及び防災科学研究所は、駿河トラフ・南海トラフ等を対象とした巨大地震発生シミュレーションやゆっくり滑りのシミュレーションを行い、プレート境界における摩擦パラメータ等を最適化して、過去の地震発生履歴の再現を目指す。また、粘弾性媒質を考慮したモデルでの地殻変動の計算により、観測データとの比較とその再現性向上を目指す。

○ 防災科学技術研究所及び大学は、準静的な歪エネルギー蓄積から動的破壊、強震動の発生に至る過程の大規模シミュレーションを行い、実際の観測データとの比較を通してアスペリティ領域の設定の最適化を行う。

○ 大学及び海洋研究開発機構は、地殻活動予測シミュレーションと地震・火山現象データベースの結合を強め、各種データをシミュレーションに取り込むために、データ流通システムの確立を目指す。地殻変動観測データを予測シミュレーションに取り込むためのデータ同化手法を開発し、沈み込み帯で発生した大地震の余効(よこう)滑り等を対象としたデータ同化実験を行い、プレート境界面上の応力や滑り速度の時間発展や摩擦パラメータを推定する。また、プレート境界型大地震を発生させるアスペリティを対象にして、アスペリティでの応力の増加と強度の時間変化のシミュレーションに基づき、アスペリティ破壊の予測を試行する。さらに、地震活動等の観測データを予測シミュレーションに取り込むための手法開発を進める。

イ.地殻活動予測シミュレーションの高度化

○ 大学は、プレート境界地震に関する地殻活動予測シミュレーションモデルを継続的に高度化するとともに内陸活断層への応力集中過程の数値モデルを構築するために、間隙(かんげき)流体圧の変動を考慮した断層滑り過程及び余効変動のシミュレーション、断層破壊過程の規模依存性を考慮したシミュレーション、媒質の塑性変形や非線形クリープを考慮したシミュレーションを行う。また、これら現象を含め、不均質媒質中の破壊現象を精度良く再現するための数値計算手法の開発を行う。

○ 大学及び海洋研究開発機構は、モデルパラメータの分布やプレート境界面上の滑り速度や応力などの初期値の不確定さが予測精度に及ぼす影響を調べることにより、観測の精度と予測の精度の関係について知見を得る。この結果を用いて、予測精度向上に必要な情報は何かを明らかにする。

○ 大学は、地殻の不均質性に着目し、地震の規模別頻度分布などの統計法則やそのパラメータを支配する物理を解明するためのシミュレーション研究を行い、統計法則のパラメータの時空間的な変動と大地震発生の関係を明らかにする。

○ 産業技術総合研究所は、内陸の活断層を対象として、地質構造と応力場に関する観測に基づいて物理モデルを構築し、シミュレーションとアンサンブル予測手法により内陸地震の予測モデル構築を目指す。

ウ.地震活動評価に基づく地震発生予測

○ 大学は、統計モデルや物理モデルに基づいて地震活動を評価し、時空間的に高分解能な地震活動評価を行う手法を確立するために、地震活動予測アルゴリズムの妥当性を評価・検証する枠組みを構築する。必要なデータの品質管理を行い、地震活動予測のアルゴリズムを整理してデータに適用可能なソフトウエアを整備し、地震活動予測の実験を行って予測手法の妥当性を検証する。

○ 防災科学技術研究所は、地震活動観測結果などを地震活動評価に利用できるようにする。また、これまで開発された地震活動評価手法を観測データに適用し、妥当性を検証する。

○ 気象研究所は、地殻活動評価解析手法の高度化を行い、地震活動予測アルゴリズムの開発を目指した地震活動の時空間的な特徴の抽出を行う。

1.(2)(2-2)火山噴火予測システム

○ より高度な火山噴火予知を目指して、噴火規模、様式、推移の予測を行うためには、噴火シナリオ(予想される噴火前駆現象や噴火活動推移を網羅した噴火事象系統樹)を作成することが有用である。そのため、地震・火山現象に関するデータベースを活用するとともに、地質調査・解析によって明らかにされた噴火履歴を参照して、噴火シナリオを我が国の主要な活火山について順次作成する。また、過去の噴火時の観測データの再検証や研究成果を取り入れて噴火シナリオを高度化する。活動的な火山について、観測データと噴火シナリオに基づき、火山活動の現状を評価し推移予測を試行する。

ア.噴火シナリオの作成

○ 火山噴火予知連絡会を構成するすべての機関が協力し、我が国の主要な活火山について噴火シナリオを作成する。このため、大学及び産業技術総合研究所は、個々の火山の噴火履歴、過去の噴火様式、マグマ組成の時間変化などの知見を噴火シナリオにまとめる。また、大学、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所、気象庁、気象研究所、国土地理院及び海上保安庁などは、過去の噴火事象について調査観測成果の系統的な整理を行うとともに、火山噴火に関する研究成果を取り入れて、シナリオ内の事象の分岐の判断材料を順次付加し、噴火シナリオの高度化を図る。

イ.噴火シナリオに基づく噴火予測

○ 活動的な火山について、観測データとその解析結果を、これまでの火山噴火に関する研究成果と総合して評価し、現在の活動状況が噴火シナリオのどの段階にあるかを判断する。さらに、噴火の近づいた火山や噴火活動中の火山については、各種観測データと噴火に関する研究成果及び噴火シナリオに基づき、現在の状態から火山噴火や噴火終息に至るまでの過程を様々な観点から想定し、噴火推移の予測を試みる。

○ 防災科学技術研究所は、地殻変動等の観測データから火山活動に伴う異常現象を自動的に抽出するシステムを構築する。

1.(3)地震・火山現象に関するデータベースの構築

○ 地震現象や火山現象に関する予測のために必要な基礎データベースを構築するとともに、それらに関する情報の統合化を図る。すなわち、関係機関が長期にわたって蓄積してきた素材的データや、モニタリングシステム及び観測研究で新たに得られるデータを集積・流通させ、利用しやすい基礎データベースを構築する。さらに、これらの基礎データと研究成果の統合化により、プレート構造データベース・地震破壊過程データベース、火山地質図などを作成する。

ア.地震・火山現象の基礎データベース

○ 地震に関して、気象庁は全国地震カタログの作成を継続し、成果物の研究者等への早期還元を引き続き行う。また、過去にさかのぼった震源再決定や大学の検測値の取り込みなどを行い、総合的な地震カタログの作成を行う。防災科学技術研究所は、基盤的地震観測として運用している高感度・広帯域・強震観測網のデータを整理保存するとともに、地震波形の特徴を抽出し、生波形データと併せて総合的な波形データベースを構築する。大学は、過去の地震・津波・測地記録等の収集整理と電子的保存による利用の容易化に努めるとともに、貴重資料の保存管理を行う。

○ 地殻変動等に関して、国土地理院は、インターネット上で全国のGPSデータの所在情報を検索するシステムを構築し、各機関の潮位データを海岸昇降検知センターで収集整理する。大学は、大学等の歪データ集積システムを構築する。気象庁は全国の高精度連続地磁気観測のデータベース化を引き続き行い、全磁力精密観測データの集約整理を行う。

○ 火山活動に関して、大学及び産業技術総合研究所は、ボーリングやトレンチ調査を含む地質情報を収集し、定量的な噴出物量、岩石学的分析、年代決定等の基礎データの充実を図る。国土地理院は、活動的な49火山について火山基本図及び火山土地条件図を作成するとともに、それらの数値データ化を進める。海上保安庁は、引き続き海域火山基礎情報図を作成するほか、既存の海域火山データベース等の高度化を図る。気象庁は、過去の噴火やその前兆・異常現象等の各種データを整備する。防災科学技術研究所は、航空機による火山体表面状態の基本情報を整備する。気象庁及び防災科学技術研究所は、国際火山観測所機構(WOVO)のデータベース構築に寄与する。

イ.地震・火山現象に関する情報の統合化

○ 大学及び防災科学技術研究所は、様々な手法による地震波速度構造、減衰構造、熱・温度構造、比抵抗構造などを統合したプレート構造データベースを作成する。さらに、アスペリティや地震破壊過程データベースを作成する。国土地理院は、地殻活動総合解析システムのデータベースを維持・更新する。

○ 産業技術総合研究所は主要活断層の諸データや地震に伴う地下水変化について、また、国土地理院は都市域周辺部の主要な活断層について、位置・地形等のデータベースの充実を図る。さらに、産業技術総合研究所は、活動的火山について形成史・噴火履歴も記載した火山地質図を整備する。

○ 産業技術総合研究所は、地質情報データベースの検索・比較等が可能な統合システムを構築する。防災科学技術研究所は、多項目のデータを容易に検索・活用可能にするシステムを構築する。大学は、過去の地震記録、津波記録等の所在情報のデータベースを構築するとともに、地殻の状態を表す新しい指標を考案し、日本列島における地殻活動の評価を総合的に行うシステムを開発する。

2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進

2.(1)日本列島及び周辺域の長期・広域の地震・火山現象

○ 日本列島の周辺で発生する地震現象や火山現象の予測にとって基本的に重要である長期的なプレート運動とそれに伴う広域の応力場を明らかにする。また、上部マントルにおけるマグマの生成・上昇機構を解明する。これらの研究に加えて、マグマ等の地殻流体の分布を含む、広域の地殻・上部マントル構造を明らかにし、地震活動と火山活動の相互作用に関する研究を推進する。さらに、過去の海溝型巨大地震の履歴を精査することや内陸地震発生にかかわる長期的な地殻歪の時空間分布を明らかにする。

ア.列島及び周辺域のプレート運動、広域応力場

○ 大学は、ロシアを含む我が国北部周辺において高精度連続GPS観測及び広帯域地震観測を実施して、日本列島の北端部周辺域の地殻活動の解明を進め、プレート運動モデルの高度化を図る。また、モンゴルに既設のGPS点での観測を継続し、日本及びアジア・西太平洋の観測点等のデータとの統合解析を実施して、日本列島周囲のプレートの相対運動について、時間変化の可能性を検討し、日本列島の地殻変動との関連を考察する。

○ 国土地理院は、超長基線電波干渉法(VLBI)の国際・国内観測及びアジア・太平洋地域でのGPS連続観測を実施し、周辺のプレートの広域的相対運動を把握する。海上保安庁は、和歌山県下里において人工衛星レーザー測距(SLR)観測を実施し、広域のプレート相対運動決定に資するデータを得る。

イ.上部マントルとマグマの発生場

○ 大学及び防災科学技術研究所は、日本列島域の地殻・上部マントルの地震波速度構造、反射地震断面、減衰構造、散乱構造、比抵抗構造を高分解能で求める。これらの構造から、温度構造、流動・変形場、地殻流体の分布を定量的に推定し、深部低周波地震や上部マントルにおける水の輸送過程、島弧マグマの生成・上昇機構の解明を目指す。

○ 海洋研究開発機構は、日本とインドネシアで発達段階の異なる島弧の岩石学的・地球化学的比較研究により、島弧地殻・マントルの進化過程を解明する。また、伊豆・小笠原・マリアナ弧において、地殻上部マントルの詳細な地震学的構造探査を実施する。

ウ.広域の地殻構造と地殻流体の分布

○ 大学は、地震発生と地殻流体及び火山分布の関連を明らかにするため、稠密自然地震観測、制御震源地震探査及び比抵抗探査を実施する、反射波や変換波などを用いて日本列島域全体のモホ面の形状や地殻内の不連続面の形状を推定する。散乱波解析に基づいて日本列島における短波長不均質構造を明らかにする。

○ 防災科学技術研究所は、三次元地震波速度構造・減衰構造と深部マグマ溜り及び深部低周波地震との関連を明らかにする。また、地殻熱流量データが十分でない地域で精密な測定を行い、地殻熱流量分布を求め、地震波速度構造、減衰構造も利用して、日本列島の地下熱構造モデルを構築する。

エ.地震活動と火山活動の相互作用

○ 大学は、伊豆、中部日本や九州等で、海底地震観測を含む地震、地殻変動、地球電磁気等の観測を行い、火山流体の移動と地震活動との関連を明らかにする。また、大地震発生に伴う応力変化が、火山活動に与える影響を解明する。

○ 防災科学技術研究所は富士山から伊豆半島に至る地域で、大学は九州で、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震活動と火山活動の関連性の研究を進める。

オ.地震発生サイクルと長期地殻歪

○ 大学等は、海溝型地震について地質・地形学・歴史地震など長期間にわたるデータを基に、地震発生サイクルや規模を推定し、連動型巨大地震についての知見を得る。内陸地震については、地殻の塑性歪速度を明らかにし、塑性歪の蓄積過程を解明する。地質情報・変動地形・重力異常などの地殻構造データに基づき、潜在震源断層の分布を推定する。

2.(2)地震・火山噴火に至る準備過程

2.(2)(2-1)地震準備過程

○ プレート境界における地震発生準備過程の解明のために、アスペリティの空間規模及び分布を把握するとともに、プレート間固着を支配する物理・化学的過程の理解を進めることにより、アスペリティの実体を明らかにする。プレート境界地震の発生時期を予測するためには、境界での滑りと固着の状態の推移を把握する必要があるが、特に、短期的及び長期的なゆっくり滑りの大地震発生前における変化は、プレート境界地震の最も重要な発生準備過程の一つであるため、その解明を進める。また、地震の規模は、複数のアスペリティがどのように連動して破壊するかに依存するため、観測的研究に加え、実験的及び理論的研究によって、アスペリティの相互作用を解明する。内陸地震については、広域の応力によって非弾性的な変形が進行して、特定の震源断層に応力が集中する過程を定量的にモデル化する。そのために、歪集中帯の観測を強化し、地殻・マントルの不均質構造と変形様式を詳細に明らかにすることで、歪の集中機構を解明する。また、スラブ内地震の発生機構を理解するために、スラブ内に取り込まれた流体の分布と挙動を明らかにする。

ア.アスペリティの実体

○ 大学、海洋研究開発機構、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所及び海上保安庁は、地震、SAR、GPS、海底地殻変動、重力等の観測を充実させてプレート境界の滑りと固着の状態の把握に努める。また、プレート境界近傍で発生する地震の震源と発震機構解を高精度で推定することにより、アスペリティ周辺のプレート内応力状態の空間変化を明らかにする。

○ 大学、海洋研究開発機構及び防災科学技術研究所は、制御震源探査、地震波トモグラフィー、変換波解析等により、プレート境界面の形状や海陸プレート内の三次元地震波速度構造を推定し、アスペリティと非アスペリティ領域の構造・状態の違いを明らかにする。海洋研究開発機構は、地震学的構造モデルと深海掘削による成果とを統合して、地震発生帯の媒質モデルを構築する。

イ.非地震性滑りの時空間変化とアスペリティの相互作用

○ 国土地理院、防災科学技術研究所、海上保安庁、海洋研究開発機構及び大学は、測地学的な手法のほか、低周波微動・地震や、相似地震(小繰り返し地震)を用いる手法を高度化し、プレート境界上の滑り速度分布の推定精度及び分解能の向上を図り、プレート境界におけるゆっくり滑りの時空間的推移を解明する。さらに、大学、防災科学技術研究所及び産業技術総合研究所は、プレート境界近傍で発生する地震を観測し、地震発生場における応力状態の時間変化を抽出する。また、大学は、電磁気学的観測や海底ゆう水量観測により、ゆっくり地震の発生と流体移動との関連を明確にする。

○ 大学及び防災科学技術研究所は、アスペリティの繰り返し破壊の時空間的な揺らぎの解明を進める。特に、アスペリティ周囲のゆっくり滑りが、アスペリティの破壊の繰り返し間隔や滑り規模に与える影響を明らかにする。アスペリティ分布とプレート内不均質構造並びにプレート内応力場との関連を明らかにして、プレート境界上のアスペリティ間の相互作用を解明する。

ウ.歪集中帯の成因と内陸地震発生の準備過程

○ 国土地理院は、歪集中帯等において、GPS・光波測距・水準測量等の観測を行い、地殻変動の時空間分布を明らかにする。大学等は、新潟~神戸歪集中帯及び近年発生した内陸大地震発生域などにおいて、稠密自然地震観測・電磁気学的観測・GPS観測・制御震源探査等を実施する。その結果から、上部地殻、下部地殻及び上部マントルまでの地震波速度・減衰・電気比抵抗構造、散乱体・流体分布、媒質の異方性、微小地震の詳細な震源分布、発震機構解等を明らかにする。

○ 大学及び防災科学技術研究所は、歪集中帯において、ボーリングコア試料や発震機構解等から応力の推定を試み、GPSなどの歪観測と比較して、地殻の弾性変形と非弾性変形を分離する。これらの知見を考慮して、定量的な数値モデルを構築する。同様の研究を歪速度が小さい地域等でも行い、内陸の地震発生モデルの一般化を目指す。また、断層の両端部の非弾性変形と断層への応力集中過程の関係、震源断層の強度回復過程などに関する研究を推進する。

エ.スラブ内地震の発生機構

○ 大学は、海溝付近から島弧下までの海洋プレート内の不均質構造や震源分布・発震機構解を詳細に調べることにより、スラブ内の強度分布並びに流体の供給・輸送過程を明らかにし、スラブ内地震の発生に至る過程を解明する。

○ 大学は、プレート境界のアスペリティ分布、プレート内不均質構造並びにプレート内応力場の関連を明らかにして、プレート境界地震とスラブ内地震との相互作用を解明する。

2.(2)(2-2)火山噴火準備過程

○ 観測に基づき火山活動の現状を評価し、噴火の時期と規模を予測するために、複数の火山において多項目の地球物理学的観測や探査及び地質調査を実施して、マグマ上昇・蓄積過程の多様性の理解とモデル化を目指した研究を推進する。また、これらのマグマ上昇・蓄積を支配する火山体構造や、水蒸気爆発の準備過程の理解に必要な火山体浅部における火山流体の状態と変動についても解明を進める。

○ 噴火間隔、規模、様式についての規則性や時間的変化を理解するため、全国の活火山の地質調査・岩石学的研究を実施して精度の高い噴火履歴を解読するとともに、マグマ溜まりにおけるマグマの分化や混合などのマグマ発達過程を解明することを目指す。

ア.マグマ上昇・蓄積過程

○ 大学、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所、気象研究所及び国土地理院は、GPS、水準測量、光波測距、干渉SAR、航空レーザー測量等の地殻変動解析や地震、電磁気等の解析から、マグマ供給系を含む火山体の構造や状態及びそれらの時間的変化を明らかにし、マグマの上昇や蓄積を把握する。防災科学技術研究所は、これらに加え、温度変化や火山流体の観測データも考慮して総合的なマグマの動態モデルを構築し、噴火に至る過程を解明する。また、大学は関係機関と連携して、桜島や伊豆大島などのマグマ蓄積過程にあることが確実な2~3の火山において、多項目観測・探査を5年間集中的に実施し、マグマ蓄積の物理過程を明らかにする。さらに、複数の火山においてGPSの稠密連続観測を実施して、マグマ蓄積過程の多様性とその要因の解明を試みる。

○ 大学は、火山体掘削により噴火発生場の理解を進めるとともに、地球電磁気、火山ガス、放出熱などの繰り返し観測により、噴火発生場における火山流体の分布や状態、及びそれらの変動を明らかにする。産業技術総合研究所は、熱水系発達過程のシミュレーションを実施し、熱水系の変動原因と観測される現象の関係を明らかにする。また、シミュレーション精度の向上のため、主に伊豆大島で熱観測、電磁気構造探査及び自然電位連続観測を実施する。

イ.噴火履歴とマグマの発達過程

○ 大学及び産業技術総合研究所は、活動的な火山について、積算噴出量と噴火時間を示した階段図を作成し、噴火の規則性を理解する。また、典型的な噴火について、集中的な地質調査、浅部のボーリング・トレンチ調査、噴出物の化学分析及び年代測定を実施して、噴火様式の時間的変化を明らかにする。

○ 噴火履歴が明らかになった火山について、噴出物の同位体比を含む化学分析、微小部分分析、含水量などの揮発性成分の分析を行い、マグマ溜りの数や位置及びマグマ混合や分化過程などを明らかにするとともに、噴火履歴とマグマの発達過程との関係を理解する。

2.(3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程

2.(3)(3-1)地震発生先行過程

○ 地震発生の予測の時間精度を高め、短期予測を可能にするためには、地震発生の直前に発生する非可逆的な物理・化学過程(直前過程)を理解して、予測シミュレーションモデルにそれらの知見を反映させ、直前過程に伴う現象を的確に捕捉して活動の推移を予測する必要がある。これまでの研究によって、地震に先行して発生する現象は多種・多様であり、地震発生準備過程から直前過程にまたがって発生する現象の理解を進める必要性が認識されてきた。このために、(1)地震に先行する地殻等の諸過程を地震発生先行過程と位置付けて研究し、(2)そのメカニズムを明らかにして、特定の先行過程が地震準備過程や直前過程のどの段階にあるかを評価し、(3)数値モデルを作成し、(4)モデルを予測シミュレーションシステムに組み込む必要がある。地震発生予測システムの研究で行う(3)と(4)の研究に資するために、地震発生先行過程に関する研究では、上記のうち(1)と(2)を実施する。

ア.観測データによる先行現象の評価

○ 大学及び防災科学技術研究所は、均質化された地震カタログを用いて、静穏化・活発化・四次元相関等に着目し、地震サイクルの中での地震活動変化を再評価する。大学及び産業技術総合研究所は、地殻変動・水温・水位・ラドン濃度・間隙水圧等のデータを解析し、観測点ごとの特性を理解するとともに地震発生に関連する異常抽出手法を開発する。また、大学は鉱山において、震源域の至近距離で地震・地殻変動を観測し、鉱山の地震やゆっくり滑りの先行過程を明らかにする。

○ 大学及び防災科学技術研究所は、断層面での弾性波透過率・反射率の時間変化から地震先行現象の検出を目指す。また、波形記録の相関解析から地下構造を推定する地震波干渉法により、地震活動に関連する構造変化の検出とその原因の解明を目指す。

○ 大学及び気象庁は、地磁気・地電流等の電磁気学的変動を連続観測し、局所的な全磁力変化と応力変化との関連を明らかにする。大学は、地震に先行する電磁場の変動を調べ、地震発生との関連を解明する。

イ.先行現象の発生機構の解明

○ 大学は、地震発生サイクルの様々な段階での地震とゆっくり滑りの相互作用を、観測データと数値シミュレーションの結果をあわせて定量的に評価することにより、大地震発生の切迫度評価のための指標を得る。

○ 大学は、地球潮汐等による応力変動が震源核形成に及ぼす影響を理論的に明らかにする。さらに、地震活動や地殻変動の非線形潮汐応答から、応力が破壊臨界値に近づいている地域の検出を目指す。また、余震や誘発地震を含めた種々の微小地震活動の発震機構から応力変化を推定し、先行現象の発生機構や規模について考察する。

○ 大学は、地震発生域近傍の比抵抗や地電位の変動と地震発生との関連を明らかにするとともに、変動機構の理論的解明を目指す。

○ 大学は、近畿地方中北部において、地震学的・測地学的観測に基づいて、地殻構造や広域及び断層近傍の応力場の時間的変化の検出を試みる。また、兵庫県南部地震前後の地殻変動や地震活動の変化の原因を理解するために、地震活動やGPS、SAR等の測地データを新たな手法により再解析する。

○ 海洋研究開発機構は、様々なスケールの不連続面を含む媒質中の大規模破壊に先行する現象を数値シミュレーションや室内実験により調べ、これまでに得られている先行現象に関する観測データを物理的に解釈する。

2.(3)(3-2)地震破壊過程と強震動

○ 大地震の断層面の不均質性と動的破壊特性及び強震動・津波の生成過程を理解するために、震源解析及び震源物理に基づく破壊過程の研究を推進する。プレート境界のアスペリティ分布及び内陸活断層やスラブ内地震の強震動生成域を事前に推定するために、強震動生成域と地震活動や地殻不均質構造等との関連性を調査する。短周期強震動の生成に関わる、断層滑りの動的特性とアスペリティ内の微細構造との関連を重点的に調査する。不均質な地下構造や詳細な海底地形及び断層破壊の動的特性を正しく評価した震源モデルを用いて、強震動及び津波の大規模数値シミュレーションを行い、マグニチュード(M)8クラスの海溝型地震からマグニチュード6クラスの内陸地震まで、幅広い規模の地震に用いることができる強震動・津波の予測手法の開発を目指す。

ア.断層面の不均質性と動的破壊特性

○ 大学は、プレート境界のアスペリティ及び内陸活断層やスラブ内地震の強震動生成域の事前推定を目指し、過去の大地震の解析事例を増やすことにより、断層面上の強震動生成域と地殻不均質構造及び微小地震活動との関係を解明する。大学は、動的断層運動パラメータを推定し、震源断層の微視的または階層構造や、破壊伝播の確率論的な揺らぎを取り入れた破壊過程のモデルを構築する。これら震源解析の高度化のために、新たな観測データと解析手法を導入した、高分解能・広帯域震源逆解析法を開発する。

○ 大学及び気象研究所は、強震観測網等による強震波形に加え、海底津波観測網により得られる津波波形を用いて震源断層パラメータを高精度に推定する手法を開発する。また、ゆっくり滑りや低周波地震を含む、震源破壊過程の多様性と大地震への発展可能性についての理解も深める。

○ 産業技術総合研究所は、制御震源及び自然地震を用いて、断層面における反射強度の分布と強震動生成域及び破壊過程との関係を調査する。防災科学技術研究所及び気象研究所は、実時間観測データを用いた震源逆解析の高度化と即時化のための研究を進める。

イ.強震動・津波の生成過程

○ 大学及び気象研究所は、強震動・津波の生成に大きく寄与する、地下構造と震源のシミュレーションモデルを整備する。地下構造モデルでは、陸域から海域にまたがる統合化を進めるほか、短周期波動伝播に寄与する不均質ゆらぎを考慮した地殻・マントル構造をモデル化する。震源モデルには、アスペリティの階層構造など、巨視的及び微視的な構造を取り入れる。それらを踏まえ、大規模並列計算機を用いた地震波動伝播と広帯域強震動生成に関するシミュレーションを実施して、強震動・津波の生成過程の解明を図る。

○ 大学は、平野部及び伝播経路において広帯域強震観測を実施して、長周期地震動の生成機構を解明し、シミュレーションモデルの妥当性を検証する。

2.(3)(3-3)火山噴火過程

○ 火山噴火の規模や爆発性を支配する要因を理解するために、火山浅部でのマグマの上昇と火山爆発現象のモデル化を行うことを目標とする。そのために、繰り返し発生する噴火を対象として集中的な地球物理学・物質科学的観測を行い、火道浅部におけるマグマの移動、発泡、脱ガス等に伴う諸過程やマグマの物性変化を高時空間分解能で明らかにする。

○ また、噴火の推移を支配する物理・化学的要因を理解するために、新たに噴火が発生した火山において地球物理学・地球化学・物質科学的観測を実施する。さらに、これらの観測結果や地質学的情報に基づいて、噴火推移に関する定量的な噴火シナリオの開発研究を行う。

ア.噴火機構の解明とモデル化

○ 大学は、地震学、測地学、電磁気学及び火山化学的な観測をブルカノ式やストロンボリ式噴火が頻繁に繰り返し起こる桜島、諏訪之瀬島、阿蘇山、浅間山、十勝岳、インドネシア・スメル火山などを対象に実施し、爆発に伴うマグマ溜りや火道のマグマ圧の変化などの測定を試みる。その際、爆発噴出物の物質科学的解析により火道内のマグマ状態を推定するとともに、ボーリング・物理探査等による地下情報を取得する。これらの結果に基づき、マグマ上昇と火山爆発現象のモデルを構築する。さらに、構築されたモデルについて、観測データを用いてその有効性を検証する。産業技術総合研究所は、国外の活動的火山において火山ガス観測を実施して、脱ガス過程のモデル化を行う。

○ 防災科学技術研究所は、噴火活動に関する多項目観測データから地下のマグマの動態を推定し、マグマの移動やマグマの発泡・上昇など噴火に至るまでの噴火過程をシミュレーションすることを目指す。

イ.噴火の推移と多様性の把握

○ 大学、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所及び気象研究所は、噴火の推移に関する物理・化学的要因をとらえるために、噴火現象の地震学、測地学、電磁気学、火山化学及び地質学的観測研究を合同で実施する。また、噴火後の火山流体の移動を把握するために、有珠山や三宅島において、繰り返し空中磁気観測を含む総合観測を行う。

○ 産業技術総合研究所及び大学は、噴火の進行に伴うマグマの脱ガス過程の変化を明らかにするために火山ガスと噴出物の観測を実施する。

○ 防災科学技術研究所は、米国・イタリア等と噴火現象の解明に関する共同研究を進める。産業技術総合研究所は、インドネシアやイタリア等の火山で地質・温度構造を調査し、噴火過程及び噴火様式に関する共同研究を進める。

○ 大学、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所及び気象庁は、研究の進んだ火山において、噴火の推移や多様性に関する観測研究結果や過去の噴火履歴などの地質学的情報を統合し、進行中の噴火について、今後想定される噴火推移や事象の発生確率を算出する手法を開発する。

2.(4)地震発生・火山噴火素過程

○ 地球構成物質の変形・破壊の特性を、広い条件範囲にわたって実験的に明らかにする。地下深部の岩石の変形・破壊特性を推定するために、地震波速度や比抵抗等の地球物理学的観測による推定が可能な物理量と変形・破壊特性との定量的関係を室内実験により解明する。地震発生モデルで利用するために、変形・破壊の物理・化学的素過程を理解して、実験結果の実験条件範囲外での適用可能性について検討する。様々な規模の地震破壊を至近距離で観察できる鉱山の誘発地震等を用いて、変形・破壊現象の規模依存性を明らかにするための実験・観測研究を行う。さらに、火山噴火においては、変形・破壊以外に、マグマの性質と挙動を理解することが不可欠であるので、噴出物の分析・解析や室内実験を行うとともに、それらの結果を考慮した噴火のシミュレーションを行う。

ア.岩石の変形・破壊の物理的・化学的素過程

○ 大学、防災科学技術研究所及び産業技術総合研究所は、室内実験により、地殻から上部マントルでの温度・圧力等の環境下で幅広い変形速度等の条件における岩石及びマグマの破壊・変形特性を明らかにする。その物理・化学的素過程を物性理論により理解するために、摩擦溶融や流体・粉体等の挙動も考慮して、数値実験、試料の分析を行う。

○ 大学及び産業技術総合研究所は、岩石の変形に伴う微小破壊活動や化学反応、物性、岩石組織の変化等についての室内実験及び試験観測をおこなう。また、種々の物理・化学過程の地学的現象に対する寄与を理論的に評価する。

イ.地殻・上部マントルの物性の環境依存性

○ 大学、防災科学技術研究所、海洋研究開発機構及び産業技術総合研究所は、南海トラフ地震発生帯コア試料などを用いた室内実験等により、弾性波速度・減衰、電気伝導度、透水性などの物性の温度・圧力・構成鉱物・内部構造・含有流体などへの依存性を定量的に明らかにするとともに、物性変化を支配する素過程を理論的に解明する。

○ 大学及び産業技術総合研究所は、地表に露出した変成岩の観察から変形時の応力を推定する手法の高度化を図る。大学及び防災科学技術研究所は、微小地震の活動から断層の摩擦特性を推定するために、室内実験の微小破壊及び微小地震の解析を行う。

ウ.摩擦・破壊現象の規模依存性

○ 大学及び防災科学技術研究所は、室内実験等により、摩擦滑りの弱化特性距離を支配する微視的要因を明らかにする。また、大地震発生時の摩擦特性の理解を目指し、高速・大変位滑り条件下での摩擦実験を行う。大学は、鉱山の採掘で誘発される地震に伴う地震波や歪を至近距離で観測し、岩石の巨視的破壊に伴う応力変化や微小破壊活動についての室内実験結果と比較することにより、岩石破壊過程の規模依存性について理解を得る。

エ.マグマの分化・発泡・脱ガス過程

○ 大学及び産業技術総合研究所は、室内実験によりマグマの脱ガス・発泡過程を明らかにする。また、噴出物や液体包有物等の分析や数値実験等により、マグマ移動に伴う揮発性成分の挙動をモデル化する。海洋研究開発機構は、島弧及びプレート内マグマの含水量と分化過程の関連を解析する。また、大学は、噴出物の物性測定と組織解析、及び室内実験を行い、その発泡・結晶化・脱ガスの履歴を解読する。さらに、大学は、物質科学的観測量と地球物理学的観測量から、火道内のマグマ・火山灰・火山ガスの流体力学シミュレーションを行う。

3.新たな観測技術の開発

3.(1)海底における観測技術の開発と高度化

○ 日本列島は海に囲まれており、巨大地震のほとんどは海域にあるほか、伊豆諸島を始め多くの活動的な火山島が海域に存在する。そのため、海域においても、陸域の観測網と同等のデータを取得する必要があり、地殻変動帯域から地震帯域までの広い周波数帯域で、高ダイナミックレンジの観測を実施する必要がある。しかし、現在の観測技術では、海域で陸域と同じ観測を行うことは難しい。そこで、海底における諸観測技術、特に地殻変動と地震観測技術の開発と一層の高度化を行う。

○ 日本周辺のプレート境界における地震活動及び固着状態を高精度でモニターするためには、海域における地殻変動及び地震活動の実時間観測が不可欠である。海底での実時間観測と実時間データ伝送に関する技術の開発を行う。

ア.海底地殻変動観測技術

○ 海上保安庁及び大学は、GPS-音響測距結合方式による海底地殻変動観測の一層の高度化を進め、海水温分布の時空間的不均質によらず、また従来よりも短時間で2~3センチメートルの繰り返し精度が得られるよう、効率的で安定した計測技術の開発を行う。

○ 大学及び海洋研究開発機構は、圧力計を用いた海底上下変動観測について観測測器の高度化及び高精度な上下変動値を推定する解析手法の開発を進める。

○ 大学は、海底における傾斜観測を行う技術の開発及び高度化を進め、0.1マイクロラジアンの精度を目指す。さらに、海洋研究開発機構及び大学は、海底掘削孔を用いた傾斜及び歪観測のための技術開発を行う。

イ.海底地震観測技術

○ 大学は、観測の空白域となっている日本海溝軸及びその周辺など水深6,000メートルを超える海底での地震観測の技術開発を進める。

○ 大学は、海底における1G程度までの加速度観測技術及び潮汐変動までの広域帯にわたる地震観測技術の高度化を進める。また、複数のセンサーを同時に用いて観測する複合海底観測システムについても高度化を行う。

ウ.海底実時間観測システム

○ 大学、海洋研究開発機構及び海上保安庁は、海底ケーブルを用いて、深海底における地震、地殻変動及び津波の実時間観測システムを構築するための技術開発を進める。できるだけ多点高密度での観測を行うことができ、障害に強く、機動的な観測も実施できるシステムを目指す。

○ 海洋研究開発機構は、地球深部探査船「ちきゅう」によって開削された観測孔を用いて、地震、歪、温度、傾斜などの実時間観測システムを構築する。また、孔内観測と海底観測網を合わせた実時間観測に向けた技術開発を行う。

3.(2)宇宙技術等の利用の高度化

○ GPSや衛星搭載SAR等の宇宙技術は、地震及び火山活動を深く理解するとともにそれらの活動を的確に把握するための観測手段として重要な役割を果たしている。それらのデータを利用した解析技術の高度化を図ることにより、より高精度な測地手法の実現や様々な地震や火山活動をより高い精度で把握するリモートセンシング手法の実現を目指す。特に、「だいち」などによる衛星観測は、国内国外の地震・火山現象の解明に有用なデータを提供しており、地球観測衛星が継続して打ち上げられることが極めて重要である。

ア.宇宙測地技術

○ 国土地理院及び大学は、GPSの1秒間隔データを用い、地震前後や火山噴火過程等、高速に進行する地殻変動について、その時間推移を準実時間で把握する技術の高度化を図る。

○ 国土地理院及び防災科学技術研究所は、GPSによる地殻変動観測の高精度化のため、季節依存成分の定量的補正手法、電離層及び大気による遅延誤差の補正手法、及び非潮汐海洋質量による荷重変形補正手法について、それぞれ高度化を図る。気象研究所では、GPS観測等の火山監視において、障害となる気象の影響による雑音の除去手法の開発等による火山監視手法やデータ処理手法の改良を行う。

○ 国土地理院は、GPS、水準測量、潮位観測、衛星海面高度計等の各種測地的データを統合し、上下変動情報抽出の高精度化を目指す。また、他機関のGPSデータを国土地理院の運用するGPS連続観測網(GEONET)と共通の基盤で取り扱えるように統合解析の技術を開発する。

○ 大学、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所、国土地理院及び気象研究所は、「だいち」等による衛星SAR干渉解析による地殻変動把握技術の高度化のため、永続散乱体干渉手法、GPS等との統合解析手法、大気伝播誤差補正手法及び干渉データの位相連続化手法の拡張や改良を進める。

イ.リモートセンシング技術

○ 産業技術総合研究所、大学及び防災科学技術研究所は、人工衛星リモートセンシング技術を用いて、活動的火山の熱的活動・火山ガス・変色海水・地表面状況等を観測する手法を開発する。

○ 情報通信研究機構及び大学は、航空機等によるSARやレーザーを用いた地形変化等の計測手法の開発を進める。また、産業技術総合研究所及び大学は、活動的火山の内部で進行する熱的状態の変化をとらえるために、航空機等による磁気探査技術の高度化を図る。さらに、防災科学技術研究所は、航空機リモートセンシング技術を用いて、熱的活動、火山ガス等の火山体表面状態の計測を実施し、火山活動を評価する技術を開発する。

○ 産業技術総合研究所及び大学は、火山ガスSO2(二酸化硫黄)放出量の観測精度の向上及び高時間分解能化を進めるとともに、携帯型マルチガスセンサーシステムによる火山ガス組成の連続観測の実用化を図る。また、防災科学技術研究所及び気象研究所は、噴煙監視のためにレーダー等を用いた計測技術を開発する。

3.(3)観測技術の継続的高度化

○ 地震・火山噴火予知研究では、従来の観測手法の高度化により、地震活動・地殻変動や火山活動に関する質・量的に新たな情報を得ることが可能となり、飛躍的な進歩を遂げてきた。そのため、新たな観測技術の開発と同時に継続的な高度化が必要である。特にプレート境界面あるいは断層面の結合状態、マグマや流体の移動、また、それらに付随する地殻現象のモニタリング技術の高度化が必須である。そのために、自然の信号源である地震波や宇宙線を用いた方法に加え、人工的に精密に制御された弾性波震源や電流源等を用いる技術の開発と高度化を推進する。

○ また、地震活動の活発な地域や噴火活動域において地震・測地・地球電磁気観測等の多項目観測データを広域かつ稠密に取得するために、山間地・離島・火口近傍等の電源や通信事情が不十分な場所でデータを効率よく取得する技術を開発する。さらに、首都圏を始めとする人工的雑音の多い地域や堆積層が厚い地域での観測、降雨等の気象の影響を避けた高精度の地震活動・地殻変動の観測を行うために大深度ボアホール内観測の高度化を図る。

ア.地下状態モニタリング技術

○ 大学は、能動的信号源を用いる技術開発として、精密に制御された弾性波震源・電流源等を用い、岩盤内の構造や比抵抗変化、さらに、摩擦や応力などの状態変化を計測する技術の確立を目指す。また、大学及び気象研究所は、プレート境界等の地震発生場及び火山において、精密に制御された弾性波を用い、信号伝播特性の時間変化を高安定度・高分解能で計測する手法の確立と高度化を目的とし、実用レベルの監視システムの構築を目指す。

○ 防災科学技術研究所は、Hi-net等の稠密地震観測網で得られたデータを用い、自然地震の反射波・透過波・散乱波などを用いた地震波速度トモグラフィー、散乱トモグラフィー、変換波波形の時間変化の解析等に基づいて、プレート境界の物性的特徴を抽出するとともに、その時間変化をモニターするための解析技術の開発を目指す。また、大学は、宇宙線(ミューオン)透過像撮影による密度分布を高空間分解能で可視化する技術を高度化し、火山、活断層など浅部地殻の密度構造モニタリングシステムの開発を目指す。

イ.地震活動や噴火活動の活発な地域における観測技術

○ 大学は、地震活動や噴火活動の活発な地域にも展開可能な400~500点規模の高密度地震計群列システムの技術開発を行う。また、電力・通信事情の悪い山間地や離島での多項目観測を効率的に行うため、省電力な地震・GPS観測システム等、多項目観測データを同時に収集し、効率的・安定的に伝送する衛星テレメタリングシステムや地上無線テレメタリングシステムを開発する。さらにマグマなど火山流体の移動を地表の重力変化によって検知するため、野外でも使用可能な省電力・堅牢・高精度な小型絶対重力計の開発を進める。

○ 国土地理院は、実用化されているGPS火山変動リモート観測装置(REGMOS)に、地磁気センサーや監視カメラを搭載し、多項目観測により浅部マグマの挙動を監視する多機能な機動観測装置を開発する。

ウ.大深度ボアホールにおける計測技術

○ 大学は、改良された水圧破砕法、ボアホールジャッキ法等を用いて、3,000メートルを超える大深度ボアホール内で利用可能な応力の計測技術の開発を進めるとともに、レーザー技術を利用した大深度ボアホール内における広帯域地震計測、傾斜計測法の開発を進める。

○ 防災科学技術研究所では、地下温度の高い火山地域に設置することも視野に入れ、3,000メートル級ボアホールで安定に計測可能な、広帯域地震計、傾斜計及び強震計の開発を進める。

4.計画推進のための体制の強化

4.(1)計画を推進する体制の整備

(観測研究計画推進委員会の充実及び関係機関の役割の明確化)

○ 地震・火山現象を理解し、予測するためには、長期にわたる継続的な観測データの取得が不可欠であると共に、今後発生する事象については、可能な限りの高精度のデータを取得することが重要であることから、国として、継続的な観測とそれを実現する体制の更なる整備が必要である。

○ 現在、測地学分科会地震部会の下に設置された観測研究計画推進委員会は、地震予知研究に関する1計画の進捗状況の把握、2計画の達成度の評価、3計画の実施に関する問題点と今後の課題の整理、4各機関の実行計画に関する情報交換及び協力・連携体制の検討を目的としている。この観測研究計画推進委員会を、火山噴火予知研究も含めた計画全体を推進するための組織に改組し、本計画の目的達成に向けて関係各機関が協力して、定期的な進捗状況の把握、実施計画及び研究成果の取りまとめ、研究の評価を実施する。

○ 一方、地震予知連絡会については、設立当初からこれまでの活動を積極的に評価し、今後は、観測研究計画推進委員会と適切に連携・協力しつつ、「1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進」を図るために、地震活動・地殻変動等に関するモニタリング結果を中心とした情報交換を行い、モニタリング手法の高度化を検討する場として、その役割を明確化した上で充実する。

○ 大学は、引き続き地震・火山噴火予知研究協議会の機能を強化して、関係機関の協力の下、主として、基礎的な観測研究の推進を図り、観測研究計画推進委員会の活動に貢献する。

(地震調査研究推進本部が策定する新しい総合的かつ基本的な施策への反映)

○ 地震・火山噴火予知研究計画(仮称)は、予知の実用化を目指し、研究者の自由な発想に基づいた議論の上で策定され、地震予知研究、火山噴火予知研究を大学や関係機関が役割分担をしながら推進するための計画であるのに対して、地震本部が策定作業を進めている「新しい総合的かつ基本的な施策」は、国として今後10年間に推進すべき地震調査研究の基本を定めるトップダウン型の計画である。

○ これまでの地震予知研究の推進により、特に海溝型地震の理解が進み、物理モデルに基づく中期予測も視野に入りつつある。また、南海トラフにおける巨大地震の連動性などの理解も進んでおり、さらに、歪集中帯、糸魚川~静岡構造線断層帯、首都直下地震、海溝型地震を対象とした地震本部の重点調査観測において、基礎研究面を中心として連携を図ってきた。今後も引き続き、本計画に盛り込まれる実施内容が、「新しい総合的かつ基本的な施策」の策定に際して、十分に反映されることを期待する。

(火山監視観測網の整備と火山観測研究の充実、火山噴火予知連絡会の機能強化)

○ 国民の安全・安心を確保することは国の基本的な責務であり、気象庁は我が国の30余の火山において連続監視を実施しているが、今後も、火山噴火予知連絡会の検討結果・提言を踏まえて、監視観測網の強化に努める。その上で、各大学、研究機関は、火山研究予算の厳しい状況等も直視しつつ、火山噴火予知の高度化を目指して、観測機器等の研究資源を特定の火山に集中するなど、観測研究の効率化・重点化を図ることを検討する。

○ さらに、このような重点化を受け、例えば防災科学技術研究所等の研究機関において、大学の観測研究の支援を目的とした共通基盤的な観測体制を整備すること等についても検討する。その際、観測点数や観測項目等を含む整備計画の立案に関しては、火山噴火予知連絡会が積極的な役割を果たしていくことを期待する。

○ また、火山噴火発生時に的確な予測を行い、火山災害を軽減するための情報を発表するために、火山噴火予知連絡会の機能の更なる充実を図る。具体的には、火山の監視・観測データに基づく火山活動の総合的評価、成果・情報の交換及び発信、ハザードマップや噴火シナリオ作成、緊急時の観測研究体制の整備等がより的確に行われるよう努める。

4.(2)基礎的な観測研究体制の強化

○ 地震・火山現象を理解し、予測するためには、長期にわたる継続的かつ基礎的な観測研究が不可欠である。これまでの継続的な観測研究によって多くの新事実が発見され、新しい概念と新モデルの創出が図られた。その主な担い手は国立大学であり、これまで全国共同利用研究所や附属研究センター等を中心に整備が図られてきたところであるが、平成16年の法人化により各大学の自主的・自律的判断の下、大学全体の運営方針の中で位置付けられることとなり、より競争的な研究環境となった。

○ 一方、地震・火山噴火予知研究計画(仮称)の推進には、継続的かつ基礎的な観測研究を個々の法人の枠を超え全国の国公私立大学及び研究機関の研究者が連携して拠点を形成して実施して行く必要性がますます高まっている。そのための制度的な位置付けを明確化する必要がある。

○ また、災害及び防災に関する総合研究に資するため、工学・人文社会科学等の他の研究分野との共同研究を促進する。

○ このような状況においては、全国共同利用研究所の役割はこれまで以上に重要なものとなることから、例えば、地震・火山噴火予知研究協議会が置かれている東京大学地震研究所を中核的な研究拠点として、各大学の地震・噴火予知関連研究センターとの連携を一層強化することが必要である。

4.(3)計画を実施するための予算的措置

○ 国、各大学及び関係機関においては、地震予知研究及び火山噴火予知研究が本計画に則って着実に推進されるよう、予算・人材面での適切な措置を講じるべきである。特に国立大学法人については、全国共同利用による人的・物的資源の効率化を図りつつ、必要な経費を運営費交付金等により支援されることや、関係機関における共通基盤的な観測網の整備及び維持について、国による予算的な配慮が必要である。

○ また、本研究は、短期間で目標を達成できるようなものではないことに留意する必要がある。研究者の自由な発想に基づく個々の基礎的研究の果たす役割が大きく、それらの着実な積み重ねにより、より長期間を見通しつつ、段階的に予知の実現を目指すものである。このため、本計画のうち、特に萌芽的な研究や基礎基盤的な研究等に対して、国として支援を行うための研究資金制度等の充実を期待する。

4.(4)人材の確保、特に若手研究者の養成

○ 大学は、教育研究環境の向上を図るなど、長期的な視野に立って大学院生の確保に努めるとともに、観測研究を生かした教育活動を継続して若手研究者の育成に努力する。また、地震予知研究及び火山噴火予知研究に携わる次世代の人材を確保するため、国、大学及び研究機関、さらには研究者自身が、関連する他分野との連携を図り、高等学校や大学等での地学等関連する教育の充実・強化に努める。

○ 大学や研究機関等においては、地震予知研究及び火山噴火予知研究に携わる研究者のキャリアパスを確保するため、若手の准教授、助教等のポストの確保や、ポストドクターの年齢制限等採用要件の柔軟な運用、民間企業等との共同研究を通じた就職先支援等の具体策を講じるよう努力する。また、若手研究者の研究資金を確保するため、国において、特に若手研究者を対象とした競争的研究資金制度等の充実を期待する。

4.(5)国際共同研究・国際協力の推進

○ 地震・火山現象に関する理解を深め、地震予知及び火山噴火予知の研究を推進し、災害軽減に資するためには、国内外の地震・火山活動に関する国際共同観測・比較研究、多国間の観測データの持続的交換、知識・経験の交換・共有、技術の交換・支援や人材の交流・育成が有効かつ不可欠である。そこで、関係機関は、それぞれの実績や機能を踏まえ、かつ、相互に連携を図りながら、これらの実施に当たる。相互に連携して国際共同研究・国際協力を推進するため、当面は地震・火山噴火予知研究協議会、自然災害研究協議会、防災研究フォーラム等の既存の組織を活用しつつ、新たな連携の仕組みの構築を目指す。

○ 大学は、全国共同利用の地震研究所の国際地震・火山研究推進室の機能を活用して継続的に研究者の招聘・派遣を行い、地震・火山噴火予知研究に関する国際共同研究を推進する。諸外国で発生する大規模な地震・津波・火山活動に対する緊急調査のために必要な体制の整備を図りつつ、機動的に調査を実施する。また、地震・火山噴火予知研究に関する我が国での国際シンポジウムの開催、及び諸外国で開催される国際会議のセッションの企画や研究者の派遣を行う。さらに、留学生や研修生の受け入れ等により国際的な人材の育成に努め、国際共同研究推進の基礎を作る。

○ 防災科学技術研究所は、アジア・太平洋・中南米の開発途上国において、地震・火山噴火に関わる災害軽減のための国際共同研究や観測網整備・運用に対する技術支援を行う。

○ 海洋研究開発機構は、環太平洋及びインド洋における地震発生帯研究推進のため、米国、カナダ並びにインドネシア等の大学研究機関との共同研究・連携研究を実施する。また、米国、カナダ及び欧州の国際的な海底観測ネットワークの研究グループと連携を図り、海底観測の技術開発並びにデータ活用を推進する。

○ 産業技術総合研究所は、アジア太平洋地域を中心に東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)などを通じて、地震・火山情報の共有化のためのワークショップなどを行う。

○ 気象庁は、国際地震センター、米国地質調査所、包括的核実験禁止条約機構、米国大学間地震学研究連合(IRIS)及び近隣国との地震観測データの交換を継続するとともに、組織的な連携・協力を行う。また、航空路火山灰情報センター、北西太平洋津波情報センター及びインド洋津波監視情報関連の業務を引き続き行う。さらに、開発途上国における地震・火山の観測体制や、津波の警報体制の整備に対して技術的な支援を行う。

○ 国土地理院は、国際GNSS事業(IGS)に参加し、IGS観測局の運用・データのIGSデータセンターへの提供を継続することにより、プレート運動や地殻変動の高精度な監視に必要なGPS衛星の精密軌道の決定に貢献するとともに、国際VLBI事業に参加しVLBI国際共同観測を定常的に実施することで、地殻変動やプレート運動監視の基準となるITRF座標系の構築等に貢献する。また、アジア太平洋地域の広域地殻変動を把握するため、アジア太平洋GIS基盤常置委員会を通じて、当該地域の国家測量機関と連携した測地観測データの交換・収集を行う。

○ 海上保安庁は、国際レーザー測距事業(ILRS)に参加し、レーザー測距データの提供を継続することにより、日本周辺のプレート運動を把握する。

○ 建築研究所は、開発途上国の地震災害軽減に資するために、これらの国の研究者・技術者に対して地震学及び地震工学に関する研修(国際地震工学研修)を行い、地震学、地震工学、地震防災対策、津波防災の専門家の育成に努める。

4.(6)研究成果の社会への還元

○ 国民に対して、地震予知・火山噴火予知研究の成果を分りやすく継続的に伝えることは、地震及び火山噴火に関する防災意識の向上に貢献し、防災・減災対策に有益である。同時に、研究成果の発信は、地震・火山噴火予知研究の重要性と本計画を推進することへの理解を得るためにも重要である。このため、本計画によって得られた研究成果を社会に分かりやすく伝えることに一層努力して取り組む。

○ 地震に関しては、最新の科学的な知見や情報を基に、地震本部地震調査委員会が地震活動評価や地震発生可能性の長期評価及び強震動評価を行い、その結果を公表している。本計画の成果を、地震調査委員会の評価に適切に活用されるように努める。東海地震予知について、気象庁は、関係機関の協力を得て観測された地殻活動の状況に応じて情報を発表している。本計画で得られた知見を地震防災対策強化地域判定会での議論に随時反映させる。

○ 火山噴火に関しては、気象庁は、火山防災に関する情報を公表している。気象庁は、情報の質的向上を図るため、火山噴火予知連絡会及び関係機関の協力の下、防災対応を分かり易く表現した噴火警戒レベルを導入する火山を順次増やす。また、海上保安庁は、引き続き、船舶の安全航行確保のため、航行警報による情報提供を行う。本研究計画の成果が、これらの防災情報の改善に寄与できるように努める。

○ 研究成果の普及のためには、関係機関が連携して、計画全体として組織的な情報の発信に努める必要がある。例えば、ホームページ等の充実、講演会の開催、講師の派遣、パンフレットや解説書の発行、防災関係者との研究会や勉強会、さらに、マスメディアへの解説を積極的に行うなど、固体地球科学の分野についてアウトリーチ活動を幅広く強化し、研究成果に基づく正確な科学的な知見の普及活動を進めていくことが必要である。

○ その際、より効果的な普及活動として、防災に関する各種説明会等と連携することにより、より大きな効果が得られることが期待される。また、このような直接的な普及活動以外にも、国や地方自治体の各種委員会等を通して研究成果が社会に活かされることも重要である。

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