日中韓パートナーシップで目指すものについては既に示したが、こうした目標を達成していくため、以下のような方策の推進が必要である。
これらは、主として日本がとるべき推進方策を示したものであるが、日中韓パートナーシップ強化のためには三国が方向性を共有しながらこれらを推進することが必要である。今後、以下の方策を推進し、パートナーシップ強化を図っていくことを中韓両国に働きかけていくことが重要である。但し、パートナーシップの推進に当たっては必ずしも常に日中韓三国の組合せである必要はなく、日中、日韓、或いは中韓の二国間での取組みから始めることが適している場合もあることに留意すべきである。また、並行してASEAN(アセアン)諸国等との連携協力を推進することにより、将来の東アジア科学技術コミュニティ構築へとつなげていくことも重要である。
人的ネットワークの構築は、あらゆる協力関係の基盤であり、相互の信頼関係を強化し、我が国の「ソフトパワー」を充実する鍵となるものである。このため、地域において国際的活動を担うことができる人材を養成する観点から、日中韓三国間を中核とした人材の流動性の向上、人材のネットワーク化を通じて人材の交流を強力に推進する。
日中韓を核とする人材のネットワークを構築し、三国間のパートナーシップを強化するためには、まず基盤となる人材養成の段階まで含めて流動化させることが重要である。このため、これまで日本学術振興会で実施してきた外国人特別研究員制度などの研究者養成・交流制度の改善、充実により幅広い分野での交流を着実に推進する。併せて、地域に共通する課題や地域の将来の優位性につながる重点分野について共同研究の実施等を通じた人材の交流を加速し、地域における科学技術の核となる分野における人材を養成し、充実していくことが必要である。また、外国の大学との連携による共同の教育プログラムなどの先導的な取組みを積極的に支援することが重要である。さらに、中期的には、将来の科学技術を担う人材を地域の大学や研究機関において戦略的に育てるため、例えば三国共同拠出の枠組みによる人材交流制度の創設も視野におきつつ検討を進めるべきである※21。
※21 こうした人材交流制度の例としては、EUの研究人材交流制度(例:Marie Curie Actions)が挙げられる。
日中韓の人材流動性の妨げとなる制度的障壁については、必要最小限の規制を残しつつ、可能な限り除去していくことが重要である。こうした制度について具体的な改善方策を論じることは本WGの検討事項の範囲を超えるが、今後、以下のような点について、科学技術基本計画改訂の作業の中などで関係府省間の議論が深まることを期待する。また、資格の相互認証については人材流動性の促進の観点からも重要であり、今後、APEC(エイペック)エンジニア等多国間の枠組みも活用していくことが求められる。
ここで、相互主義の観点から見れば、中国、韓国における人材流動性の障壁の除去についても同時に検討されることが重要である。
日中韓を中心とした地域で人材を養成し、その層を厚くしていくためには、1で述べた人材の交流を恒常化し、研究者間の知的触発の機会を継続的に提供していくことが必要である。このため、研究フォーラム等「知の出会い」の場を創出し、研究者間の人的ネットワークの構築を促進するべく、日本学術振興会等による取組みの充実を図るべきである。また、帰国後のポスドク研究員、留学生などの知日派人材について、ネットワーク構築を促進すべく、日本学術振興会や大学等による取組みの充実を図るべきである。さらに、若手だけでなく、中堅、トップクラスの各段階において人材が繰り返し交流を図る場を設けることも重要である。同様に中国や韓国における科学技術の事情に詳しい人材のネットワーク構築も重要であり、研究助成機関等による体制整備が求められる。
このようにして養成した人材の能力を地域の経済社会の発展に活かすためには、産業界や政府との関わりをより深めることが必要である。例えば上述の知日派人材が我が国産業界との関わりをより密接に維持していくため、日本企業、日系海外現地法人への就職支援、インターンシップ等を推進することなどは重要である。その際、日中韓三国が、お互いに交流経験のある人材のデータバンクを整備し、将来の交流に活用することも有効といえる。但し、データバンクの管理・運用に当たっては個人情報の保護に細心の注意が必要である。
地域共通課題に三国の研究ポテンシャルを結集し、対等の立場で力を合わせて挑戦することが重要である。これにより、地域社会、ひいてはグローバル社会の重要な問題の解決に資することとなり、例えば持続的発展可能な社会を実現するための貢献が可能である。また、こうした挑戦の中から、世界に先駆けた独創的な研究が遂行され、科学技術コミュニティ全体としての国際競争力を高めていくことや、この地域の魅力、即ち東アジア共同体等の「ソフトパワー」が向上することも期待できる。また、共同で研究を進める際には、我が国の大学・研究機関を三国交流の拠点として十分活用できるようその機能を強化すべきである。
三国が地域共通課題に挑戦するに当たっては、研究者間の交流の蓄積を基盤として学術的観点から共同研究を着実に推進するとともに、日中韓の大臣級会合等において政策的観点から課題を特定し目的を明確にした上で集中的に取り組むことが効果的である。これらの取組みを支援する方法としては、前者の場合、例えば、日本学術振興会による研究者からの要請に基づくボトムアップ方式の研究助成が適当である。また、後者については、例えば、これまでトップダウン方式による研究助成システムの運用経験が豊富な科学技術振興機構が、既存の、或いは新たな仕組みにより、明確な目標に基づいて戦略的に実施する国際共同研究を推進することが適切と考えられる。
地域共通課題への挑戦としては、例えば、以下のような活動を挙げることができる。こうした活動については、ASEAN(アセアン)諸国等を視野に入れた東アジア地域にも共通するものが多いことから、地域協力へ向けた取組みを中長期的に強力に進めていく上での第一歩として、適切な取組みといえる。
アジア地域が共通して抱える問題に対応するための日中韓共同研究の機動的、戦略的に推進する。
(例:持続可能な発展と環境の両立に資する研究、エネルギーネットワークの構築によるエネルギー安定確保、文化の維持・発展に資する研究)
将来における日中韓、東アジア地域の国際競争力の向上に資するための環境整備に向けた研究や取組みを推進する。
(例:国際標準化に関する研究・取組み、社会インフラに関する研究、知的財産権のマネジメントに関する研究・取組み、環境・気象・災害予測/対策技術、影響評価技術の研究)
さらに、将来、日中韓の企業間の産業上の競争が想定される分野においても、当該分野に必要な人材及び研究基盤等について、例えば、国境を越えた広域なクラスターの形成等により、各国が協力して重点的に強化を図ることは、将来のイノベーション創出に貢献するものであり、相互発展の可能性を拡げるものと期待できる。
日中韓間の人材交流の促進や、地域共通課題への取組みによる効果を最大限に発揮していくためには、共通研究基盤の整備が必要である。また、日中韓がアジアの核となり、アジアを世界の3大研究センターの一つとして育成することを目指し、日中韓パートナーシップを中長期的に推進するためには、パートナーシップを持続的に支える多層的な枠組みを構築していくことが重要である。
加えて、科学技術のプラットフォームともいうべき共通の基盤を整備していくことは、日中韓間で競争関係にあるような科学技術の分野に対しても、相互の協調を促進する要因となるものであり、有益である。
地域共通の研究基盤(研究情報流通基盤等)の整備を推進していくことが重要である。例えば、共通標準での学協会誌の電子化支援に関する科学技術振興機構の取組みについて、中国、韓国との連携を進めていくことが考えられる。
また、国立情報学研究所等のシステムにより、日韓の大学図書館等で行われている国際ドキュメント・デリバリー・サービス体制の更なる充実が期待される。
その他、バイオやナノなど日中韓が世界をリードしていくポテンシャルを有する分野を中心とした研究情報のデータベースの共通化等についても共同で進めていくことが可能かどうか検討していくべきである。
同時に、日本は、科学技術先進国の一国であり、これまでの取組みにおける研究評価、技術評価手法、知財に関する制度設計等のノウハウ、事例を、研究基盤として中韓、アジア諸国と共有できるようにすることはパートナーシップの強化の観点から重要である。
以上のような情報発信は、域内の科学技術制度の共通化、共通認識の醸成にも資するものである。また、このような取組みについては、科学技術情報の流通に中枢的な役割を果たしている科学技術振興機構などのポテンシャルを活用していくことが適切である。
日中韓パートナーシップの強化に当たっては、以下に示すような科学技術協力に関する日中韓の多層的な枠組みを構築していく必要がある。その際、各層における枠組みの構築においても、単に表層的なものにとどまるのではなく、よきパートナーとしての信頼関係を着実に醸成していかなければならない。
また、これら多層的な交流を我が国全体として同時並行的、整合的に進め、各層での役割分担と連携の下でパートナーシップ構築に取り組むため、我が国の各層間での情報交換や協力を推進する。こうした各層、主体間での連携については我が国とともに中韓両国においても取り組まれることが望ましい。
さらに、近年、中国を中心に研究拠点を設ける我が国の大学や機関が増加している。このような中で、多層的な科学技術コミュニティの形成を同時並行的に進めるためには、我が国の大学、研究機関、研究助成機関、アカデミーなどが科学技術コミュニティの形成に向けた我が国のビジョンや戦略を共有し、互いに競争しつつも協調して活動することが必要である。このため、我が国の科学技術情報の提供、相手先国との連携の窓口、進出大学・機関間の情報交換の仲介や連携、新たに当該国への進出を希望する大学への情報提供や支援を行う機能を、国として、在外公館や、研究助成機関等関係機関を活用して整備すべきである。こうした機能の整備は我が国の効率的、効果的な国際的活動を支援するとともに、相手先となる中国、韓国にとっても有益なものと考えられる。
以上の提言は、日本から見た取組みを中心に記述したが、中国、韓国においても同時に、かつ相互に整合性ある取組みが期待される。このため、三国の関係者が定期的に活動の進捗を確認することが適当である。
科学技術・学術政策局政策課