以上に掲げた状況を踏まえると、日中韓三国は、これまでの科学技術・学術分野の交流の実績を基盤としつつ、当該分野における地域共通問題への取組み等を通じて日中韓パートナーシップを強化し、「東アジア共同体」構想の一環としての東アジア科学技術コミュニティの構築を先導することを目指すべきである。また、三国のパートナーシップ強化により、アジア地域及びグローバル社会への貢献や、国際競争力の確保・向上に資することができる。
日中韓パートナーシップの強化により、東アジア共同体形成につながる東アジア科学技術コミュニティの構築を先導する。
アジアにおいて、中長期的に「東アジア共同体」を形成していくことがASEAN+3(アセアン プラス スリー)の場などで議論されているが、こうした東アジアの地域協力に寄与する観点からも、日中韓三国協力の重要性を認めることができる18。
地域協力の先行事例であるEUの歴史を見ると、通貨統合等の動きに先立って、人的交流等科学技術交流が行われ、地域協力の深化の基盤を形成してきたといえる。また、現代の「知識基盤社会」において、「知の創出」を担う科学技術・学術分野の域内協力が重要性を増していることを踏まえて、「欧州研究圏」(ERA)構想が進められている。同様に、東アジア共同体の形成に当たっては、その知的部分を担う「東アジア科学技術コミュニティ」構築を促進することが重要である。
また、日中韓の科学技術・学術活動は、東アジアにおいて量的、質的観点から高い水準にあると見ることができることから、日中韓協力の強化により、「東アジア科学技術コミュニティ」の構築を先導していくことが適切である。
※18 平成16年版外交青書(外務省)
アジアが共通して抱える重要な課題に日中韓共同で先導的に挑戦することにより、アジア、ひいてはグローバル社会に貢献する。
現在アジアは、SARS(サーズ)、感染症等の医療問題、エネルギー、環境問題等一国のみでは到底解決できない中長期的課題を抱えている。三国が協力関係のもと、他のアジア地域を先導する形でこれら諸問題に協力して取り組んでいくことは、地域の社会に大きく貢献できるものであるとともに、地域協力の効果を示す事例として、将来の東アジア共同体構築へ向けた重要なステップとなる。さらに、こうした諸問題への先導的な取組みは、地域にとどまらず、グローバル社会の持続可能な発展といった点にも貢献するものである。
日中韓のパートナーシップの強化により、国際競争力の確保・強化を図る。
地域の将来の優位性につながる重点分野について共同で研究を推進することにより、各国が有するポテンシャルを更に引き上げ、当該分野における国際競争力の確保・強化を図ることが可能である。具体的には、独自の科学技術を展開することによって、優秀な人材の確保をはじめ、技術面でのノウハウの蓄積、技術開発基盤の構築、技術の標準化の先導等を可能とする。こうした展開は、地域における科学技術水準を高め、先端的な人材や企業を惹き付け、ひいては産業界が、自らの競争力を高め、世界を先導する素地を形成するのに大きく貢献するものである。
東アジアにおけるコミュニティの構築は、結果として我が国の、そして中韓を含む地域のソフトパワーの充実につながるものであり、積極的にイニシアティブを示しつつ、地域の共通課題解決や国際競争力強化のための取組みを通して、東アジア地域の安定、魅力の向上を目指す。
「ソフトパワー」は、「強制や報酬ではなく、知や文化などの魅力によって望む結果を得る能力」※19であり、国の「ソフトパワー」は究極的には安定した国際関係の樹立、広義の安全保障の確保に資するものと捉えられる。これに関して、研究面での人的ネットワークの緊密化、即ち科学技術コミュニティの構築は、単に研究面での好影響を導くのみならず、政治経済上の国際関係と補完し合いながら、政治問題等国際関係の安定化に資することができ、米ソ冷戦やイスラエル・パレスチナ問題の中でも注目されてきた、いわゆる「トラック2」の外交ツールとして機能することも期待される※20。
既述のとおり、日中韓における研究者、留学生等の人的交流の規模は相当に大きく、人的ネットワークを緊密化する素地が備わっている。日中韓がそれぞれ補い合って研究環境の充実を図ることは、日中韓の科学技術・学術分野の魅力向上につながり、地域において優れた人材が往来し、ひいては世界の研究者にとって魅力ある地域の形成に貢献するものである。
また、日中韓が科学技術・学術分野での協力により、世界地域の共通の課題解決に貢献することができれば、日中韓三国の魅力、即ち「ソフトパワー」が充実し、他のアジア諸国等を惹き付けることが可能となる。その際、科学技術・学術をめぐる三国の現状を鑑みれば、日本が科学技術コミュニティの構築に当たって主体的役割を果たすことが期待される。
※19 「ソフト・パワー」ジョセフ・ナイ著(日本経済新聞社、平成16年9月)
※20 米国パウエル国務長官「アメリカ国内で教育を受けている将来の世界の指導者との友情ほど、アメリカにとって価値の高いものは思いつかない」(ジョセフ・ナイ「ソフト・パワー」より)
科学技術・学術政策局政策課