本計画において、地殻活動予測シミュレーションモデル(地殻活動の推移予測を目的とした現実的な物理モデルに基づいた数値シミュレーションモデル)の開発を目指す。そのために、
ア)プレート相対運動が駆動する日本列島規模の広域地殻活動を予測するためのシミュレーションモデルの開発、
イ)現在稠密な観測が行われている特定の地域を対象としたより詳細な地域シミュレーションモデルの開発、
ウ)これらのシミュレーションモデルを継続的に高度化していくための地震発生過程に関する基礎的なシミュレーション研究、
を行う。これらにより、地殻活動データと大規模な計算機シミュレーションを結び付け、日本列島域(日本列島及びその周辺域)を対象にして、地殻活動の定量的な現状把握と推移予測が可能なシステムの構築を目指す。また、現在稠密な観測が行われている特定の地域を対象にして、地震発生に至る地殻の準備過程が地震発生サイクルのどの段階にあるかを定量的に示すシミュレーションを試行する。
大学、海洋科学技術センター等は、日本列島域を対象として、地殻・マントルの弾性-粘弾性構造、プレート境界や活断層の三次元形状、摩擦構成則の環境依存性等を考慮した地殻活動予測シミュレーションモデルを開発し、プレートの相対運動に伴う日本列島域の超長期的な地殻変形過程及びプレート境界での固着による応力蓄積から破壊核の形成を経て動的破壊に至る大地震発生過程の予測シミュレーションを行う。大規模なシミュレーションを行う上で重要となるのは、高速大容量の計算機システムであるが、平成14年度から稼働し始めた超並列計算機である地球シミュレータを利用できることは、研究計画の進展のために重要な要素である。本計画では、まずこの地球シミュレータ上にプロトタイプの地殻活動予測シミュレーションモデルを完成させ、次に地殻変動データや地震活動データを解析してプレート境界面の摩擦特性を定める。さらに、過去の大地震の活動が再現できるようにパラメータ調整を行い、地殻活動の実時間データを取り込んだ大地震発生の予測シミュレーションを行う。計画後期には、プレート内の大規模な活断層を地殻活動予測シミュレーションモデルに組み込み、内陸の地震発生サイクルのシミュレーションを試みる。
大学、海洋科学技術センター等は、現在稠密な観測が行われている三陸沖及び南海トラフ沿いを対象領域として、そこでの地震の発生系列を説明する特定地域シミュレーションモデルを開発する。三陸沖に関しては、1968年十勝沖地震や1994年三陸はるか沖地震等の解析から求められている地震時の滑り量分布及び近年のGPS観測等から求められている非地震性滑り量分布を説明できるモデルを構築する。南海トラフ沿いに関しては、歴史地震及び1944年東南海地震以降の地震学的・測地学的データから推定される滑りの時空間分布を説明できるようなモデルを推定する。さらに、プレート境界の大地震と内陸活断層運動との相互作用もモデルに組み込み、内陸地震の発生に関する知見を得る。
大学、海洋科学技術センター等は、西南日本を対象として、粘弾性不均質三次元大規模モデルを構築し、摩擦構成則を規定するパラメータをプレート境界面に与え、フィリピン海プレートの沈み込み運動を駆動力として、南海トラフ大地震発生サイクルを生じさせるシミュレーションモデルを開発する。さらに、将来的に発生が予測される想定東海地震、想定東南海・南海地震の動的破壊伝播のシミュレーションを行う。
気象庁では、東海地域を対象として岩石実験から得られた摩擦構成則に基づいた地震シミュレーションを行うことにより、想定東海地震の発生に先立つ短・中・長期的な地殻変動を予測する。また、東海から南海地域までのプレート境界の現実的な形状を取り入れた大地震発生過程のシミュレーションを行う。
大学等では、地殻活動予測シミュレーションモデルを継続的に高度化していくために、断層破砕帯内部の微視的物理・化学過程と断層の巨視的挙動(摩擦構成則)の関係の解明、断層間相互作用を考慮した複雑断層系の地震破壊過程の解明、内陸活断層での応力蓄積機構と地震発生過程の解明を図る。
大学等では、多項目データの統合解析に基づいて、日本列島域を対象とした地殻活動予測シミュレーションモデルの高度化を図る。例えば、現在構築されつつある逆解析理論を更に発展させ、GPSデータと地震データに基づいて日本列島の応力分布を推定する手法を開発する。
国土地理院では、2000年三宅島-新島・神津島の地殻活動を事例として、地震及び周辺の地殻活動を再現するシミュレーション手法の開発を行い、より現実的な地殻の物性に関する知見を得る。
推進本部が策定した基盤的調査観測としての高感度・広帯域地震観測及びGPS観測により、日本列島域の地殻活動のモニタリングが行われている。これらの観測のデータ及び解析結果は広く公開され、地殻活動予測シミュレーションに必要な観測データとしても有効活用が図られている。本計画では、これに加えて地殻活動モニタリングに有用なその他諸観測も整備し、日本列島域モニタリングシステムの高度化を更に推進する必要がある。モニタリングシステムからのデータは、日本列島地殻活動情報データベースとして整理され、さらに、データ同化の手法により地殻活動予測シミュレーションに取り込まれることになる。また、こうしたデータは、シミュレーション結果の検証においても必須である。
このような日本列島域を対象としたモニタリングシステムに加え、大地震発生が想定される特定の地域における地殻活動モニタリングの高度化も重要で、高密度諸観測を一層整備する必要がある。特に、想定東海地震震源域及びその周辺、想定東南海・南海地震震源域及びその周辺は重要であり、以下では、これら両地域を東海地域、東南海・南海地域とし、その他特定の地域と区別する。
地震活動に関しては、基盤的調査観測の整備及び観測データの一元化処理によるモニタリングの高度化を更に進める必要がある。防災科学技術研究所は、基盤観測網の適正配備に関する研究成果を踏まえた上で、計画未達成域での整備を進めるとともに、ボアホール方式の広帯域・高ダイナミックレンジセンサーによる次世代総合観測システムを開発し、実用観測を行う。気象庁は、内陸の地震に対しては、震源計算に用いる地震観測点分布の最適化による震源分布信頼性の向上を図り、海域や深発地震に対しては、三次元速度構造の震源計算への取り込みによる震源決定精度の向上を図る。また、定量的地震活動解析手法の開発も行う。大学、気象庁及び防災科学技術研究所は、震源や発震機構などの実時間決定システムの開発、種々の帯域での低周波地震や低周波微動の準実時間検知システムの構築を図る。
地殻変動に関しては、広域地殻歪の時空間変動を把握する必要がある。国土地理院は、GEONETによって地殻変動を実時間でモニタリングするほか、GPSによる三角点繰り返し測量やVLBI観測などとの結合による地殻変動モニタリングシステムの高度化を図る。また、各機関のGPS観測に関する情報を集中できる仕組みを設ける。海上保安庁海洋情報部は、沿岸や離島のDGPS局のデータ利用を進める。大学は、GEONETデータの精密解析による歪時空間変化の準実時間モニタリングシステムの構築を図るとともに、応力逆解析手法による応力の時空間分布の把握を進める。海上保安庁海洋情報部、海洋科学技術センター等は、海底地殻変動観測を行い、プレート境界域における地殻変動の検出を進める。国土地理院、気象庁及び海上保安庁海洋情報部は、潮位観測を継続し、また、国土地理院は、水準測量及び重力を繰り返し測定することにより、地殻上下変動のモニタリングを進める。
その他、気象庁、国土地理院及び海上保安庁海洋情報部は、地磁気観測を継続することにより、地殻起源の地磁気時空間変化のモニタリングを進める。
気象庁は、既存の陸上観測網及びケーブル式海底地震計による定常的観測に加えて、自己浮上式海底地震計を用いた機動的観測を行うことにより、詳細かつ精密な震源データの取得を図る。また、他機関のデータも含めた歪・傾斜ノイズレベル調査及び実時間降雨補正処理により、地殻歪実時間監視の高度化を図る。これらの監視データは、シミュレーションによる地殻変動予測とともに、想定東海地震発生直前過程の把握に欠かせない。また、潮位観測も継続して行う。
国土地理院は、GPS観測点を増設して空間密度の向上を図るほか、衛星SARによる地殻変動の面的分布の把握を進める。特に、プレート境界の間欠的非地震性滑りの推移を監視する。また、高頻度水準測量、潮位観測、伸縮、傾斜、歪、重力等の観測を行う。
防災科学技術研究所は、微小地震観測及び地殻変動観測を継続して行う。特に、微小地震活動度の変化や中小地震の発震機構の変化をモニターする。
産業技術総合研究所及び大学は、地殻変動に伴う地下水位・水温及び地下水中の化学物質の変化をモニターするため、地下水・地球化学観測等を継続して行う。さらに、大学は、GPS、重力、光波測距、地磁気、地電位等の機動的観測を行う。
海上保安庁海洋情報部は、精度向上のための技術開発を進めつつ、海底地殻変動観測を行う。
気象庁、大学及び海洋科学技術センターは、既存の陸上観測網及びケーブル式海底地震計に加えて、自己浮上式海底地震計を用いた観測を行うことにより、詳細な地震活動を把握するとともに、精密な震源決定によりプレート境界の形状を明らかにする。防災科学技術研究所は、高感度地震観測施設を必要な間隔で整備するほか、数百から数千に及ぶ地点での簡易地震観測を行う。また、国土地理院のGPS観測整備と連携し、超長周期地震観測システムを整備することにより、非地震性滑り等の研究を推進する。さらに、防災科学技術研究所、気象庁及び大学は、この地域で多発している低周波地震と低周波微動に関する詳細な研究を進める。
国土地理院及び大学は、GPS観測点を増設して更に高密度化を図る。国土地理院は、衛星SARによる地殻変動の面的分布把握を同時に進めるとともに、高頻度水準測量、伸縮、傾斜、歪、重力等の観測を行う。また、国土地理院及び気象庁は、潮位観測を継続して行う。大学は、ボアホールアレーを構築し、傾斜、歪、間隙水圧等の複合連続観測を行うとともに、紀伊半島及び四国において絶対及び相対重力測定を行い、過去30年間に蓄積されたデータをいかして時間変化を追求する。さらに、海上保安庁海洋情報部及び大学は、精度向上のための技術開発を進めつつ、海底地殻変動観測を行い、プレート間の滑りや固着状態などに関する研究を進める。
産業技術総合研究所及び大学は、地殻変動に伴う地下水位・水温及び地下水中の化学物質の変化を明らかにするため、地下水・地球化学観測等を行う。海洋科学技術センター及び大学は、東南海・南海地域の海域及び陸域における地震・電磁気学的地殻構造探査を行い、モニタリングシステムの高度化に資するデータを提供する。
推進本部の地震調査委員会による長期評価を踏まえ、宮城県沖地震の震源域及びその周辺、糸魚川-静岡構造線地域における各種観測を実施する。
宮城県沖地震の震源域及びその周辺では、気象庁及び大学は、自己浮上式海底地震計を用いた観測を行うことにより、詳細な地震活動を把握するとともに、精密な震源や発震機構を決定する。さらに、気象庁は、過去の宮城県沖地震に対する余震の震源の再決定を行う。国土地理院は、稠密なGPS連続観測、高頻度水準測量、重力測量、辺長測量を実施し、地殻変動の特徴を明らかにする。防災科学技術研究所は、国土地理院のGPS観測整備と連携し、超長周期地震観測システムを整備することにより、非地震性滑り等の研究を推進する。大学は、海底構造探査による構造の時空間変化の検出を試みる。また、海上保安庁海洋情報部及び大学は、精度向上のための技術開発を進めつつ、海底地殻変動観測を行い、プレート間非地震性滑りの有無などの検証を試みる。
糸魚川-静岡構造線地域では、気象庁は大学等と協力して地震計を増設し、詳細な地震活動を把握するとともに、精密な震源や発震機構を決定する。国土地理院は、稠密なGPS連続観測、高頻度水準測量、重力測量、辺長測量を実施し、地殻変動の特徴を明らかにする。防災科学技術研究所は、国土地理院のGPS観測整備と連携し、超長周期地震観測システムを整備することにより、非地震性滑り等の研究を推進する。また、掘削調査等により震源断層の形状と物性の解明を行う。大学等は、糸魚川-静岡構造線地域で、制御震源及び自然地震を用いた地震学的構造探査と、地球電磁気的構造探査を実施して、震源断層の形状とその周辺の地殻の物性を解明してモニタリングの高度化に資するデータを提供する。
南関東とその周辺域においては、今のところ相模トラフ沿いの大地震発生の切迫性は高くないものの、南関東地域直下の地震の発生可能性は高まっているとされている。この地震の発生に至る地殻活動をモニターするためには、プレート境界及びそこから分岐した断層の位置・形状等の詳細な地殻構造に関する知見を蓄積して、南関東地域直下の地震の発生機構の解明に努める必要がある。大学及び防災科学技術研究所は、大規模な弾性波構造探査や掘削調査を実施して震源断層の特定に努める。
その他、国土地理院は、伊豆半島東部においても稠密なGPS連続観測、高頻度水準測量、重力測量、辺長測量を実施し、地殻活動の推移をモニターする。また、首都圏やその他の地殻活動の活発な地域で高頻度水準測量を行う。さらに、間欠的非地震性滑りが繰り返し発生していた房総半島で稠密なGPS連続観測を実施し、この地域の地殻活動の特徴を明らかにする。伊豆半島東部及び伊豆諸島において進行する地殻活動を把握するために、海上保安庁海洋情報部はGPS観測、重力測量、潮位観測、地磁気観測等を、大学はGPS観測、重力測量、光波測距、地磁気観測等を実施する。産業技術総合研究所及び大学は、伊豆半島東部等の幾つかの活断層近傍において、地殻変動に伴う地下水位・水温及び地下水中の化学物質の変化を明らかにするため、地下水・地球化学観測等を行う。
気象庁、大学及び海洋科学技術センターは、房総沖、三陸沖及び釧路・十勝沖において、海底ケーブルを用いた地震、津波等の観測を行う。
地殻活動予測シミュレーションモデルの開発には、基礎となるデータベースが必須である。このために、日本列島域を対象として、これまで蓄積されてきた地形、重力、地殻構造、地殻変動、地震活動等の基礎データを整理・統合する。また、地殻活動モニタリングシステムからの大量で多項目のデータを処理して有効な情報を取り出すためには、効率的なデータ解析手法を開発し、ほぼ実時間で更新される日本列島域の地殻活動情報のデータベース構築を図る必要がある。このデータベースに一元化された情報は、データ同化の手法により地殻活動予測シミュレーションに取り込まれることになる。
本計画においては、各機関が連携して、地震予知計画発足以前のものも含め、地震予知に関する各種の資料のデータベース化を速やかに実施し、過去の観測データの広範囲な活用を図る。同時に、ある時間断面での面的データを統一的形式で整理するなどして、データベースの高度な利用を図る必要がある。
国土地理院は、三角(辺)測量、水準測量、GPS観測、重力、地磁気、潮位等、多種類でかつ空間的・時間的分布の異なる地殻変動観測データを統一的な形式で整理し、地殻活動予測シミュレーションのための統合化したデータベースを作成するとともに、活断層の位置を詳細に表示した地理情報を整備する。
海上保安庁海洋情報部は、海底地形、海底活断層、GPS観測、SLR、地磁気、重力、潮位に関するデータを整理してデータベースの構築を進め、気象庁は、地磁気の永年変化に関するデータベースを構築する。
産業技術総合研究所等は、活断層で発生する地震の長期的予測のため、日本列島の主要活断層について、断層の位置、変位量、活動時期等のデータを収集及び整理し、統一的基準によって地震発生の可能性を評価することに資するデータベースを構築する。さらに、これらのデータと評価基準を公開し、常に修正及び検証が可能なものとする。また、地震に関連した地下水の変化等を順次収集し、データベースを作成して公開する。
気象庁では、地震活動に基づいた広域地殻活動の把握のために、一元化処理による全国地震カタログの作成を継続するとともに、地震原簿のコード化を引き続き実施し、過去にさかのぼった震源計算による地震カタログの高精度化と均質化を図る。さらに、気象庁と大学は、大学の地震観測網による験測データと、気象庁の験測データとの整合を図り、より統合的な地震カタログの作成を目指す。また、気象庁は震源過程解析の高度化のために、過去の地震記象のマイクロフィルム化を継続するとともに、それを用いた震源過程解析やCMT解析を引き続き行う。
防災科学技術研究所は、Hi-net、F-net、K-NET等から得られるデータ、気象庁や大学の観測網から得られるデータ及びそれらの解析結果を含めた情報を集積した地震データベースを構築して、予測シミュレーションのための基礎資料を提供する。
大学は、これまで蓄積されてきた地震予知計画によって収集されたデータ及び関連情報を、統一したデータベースとして整理し、異なる分野の研究者が自由に検索して活用できるようなシステムを構築する。また、過去の地震記象や重力測定値など地震に関する既存データを整理し、これらを利用しやすい形にデータベース化する。
地殻活動に関する観測データをデータ同化の手法により地殻活動予測シミュレーションに取り込むためには、広域観測網からの新たな情報を取り込んで、日本列島域の地殻活動等に関する情報を実時間で更新していく必要がある。そのために、大規模な観測データを効率的に処理するデータ解析システムを開発する。
国土地理院、防災科学技術研究所等では、観測データを予測シミュレーションモデルに組み込むために、東海地域等の特定地域についての地殻活動データ解析システムの開発を進める。また、国土地理院は、これまでに作成した地殻変動などのデータベースを用いて、地殻変動の離散的データから連続的な時空間分布を推定する解析ソフトウェアの高度化を図り、プレート境界面の滑り履歴を推定する解析システムなどの開発を進める。また、防災科学技術研究所は、Hi-net等から得られる実時間データを即時的に処理してデータベースを構築する手法等を高度化して、大地震の発生とそれに至る一連の過程の定量的な予測シミュレーションに資するための解析システムの開発を進める。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --