人類は、様々な現象の真理を探求し続けており、科学的な知見の体系的な発展という人類の資産を増加させている。この近代科学の一つの体系を構成している「海洋科学」をさらに発展・深化させる観点から、研究者が自らの自由な発想に基づき、観測等を通じて海洋の諸現象や生物・生態系、海洋底ダイナミクスの解明等に関する研究を行うことは重要である。また、海洋での諸現象は相互に密接に関連していることから、海洋を理解するためには、各分野間で知識を共有しながら研究を進めていくことが重要であり、水圏のみならず地圏、気圏、生物圏を含めた総合的な視点が不可欠である。このため、海洋科学以外の自然科学分野、あるいは人文社会科学分野との連携がますます重要になってきている。
さらに、自らの科学的興味・関心に基づく自由な発想による研究のほか、地球温暖化や気候変動、地震、火山の噴火等我々の生活に直接影響を与える自然現象のメカニズムを解明するためにも、海洋研究は非常に重要な地位を占めており、今後、これらの現象の解明に寄与するような研究を推進する必要がある。このような海洋研究を着実に推進するためには、未知の領域への到達、観測データの取得等を行うことが重要であり、海洋観測や研究に用いる基盤技術の開発や施設設備の整備を行うことが必要不可欠である。
また、海洋環境を維持しつつ、海洋を適正かつ効率よく活用するためには、海洋科学を発展・深化することにより得られた知見を、海洋の保全と利用に役立てることが重要であり、国連海洋法条約に基づく新たな秩序を維持するための基盤としても、科学的知見の一層の拡大が必要である。今後、我が国は世界に海洋国家としての意欲を示し、ひいては世界をリードする能力を備える為にも、海洋を利用し、守るための前提条件として、海洋研究を強く位置づけるべきであり、この位置づけを示すことにより、我が国の海洋政策の国際的戦略性や重点を明確化させることにつながる。
これらのことを背景として、研究を支える基盤技術開発、研究開発の体制及びインフラストラクチャーの整備を含めた海洋研究に関しての推進方策を以下に示す。
海洋に関する研究を行うことは、人類の知的資産の拡大に貢献し、国家・社会の発展に資するとともに、青少年の科学技術への興味関心を高めるものである。また、極域の海や深海底等を探求したいという人類にとって未知の領域を目指す行為は、研究領域を拡大するほか、人類の知的欲求から発するものとして、達成を目指すこと自体に意義がある。海洋については、継続的な三次元的な観測データがほとんど欠落しており、特に海洋の中深層から深海底にかけては海洋の動態、生物の活動、海底の変動について未知の部分が多い等、地球の諸現象の解明のための観測・研究を継続的に進めることが重要である。
これらフロンティアとしての海洋の解明に関する研究を行うに当たっては、研究者の自由な発想に基づく基礎的な研究と達成目標を明確にして重点的に実施するプロジェクト的研究開発が重要であるが、その内容に応じて、それぞれが適切に実施されるよう政策が立案・実行されるべきである。
● 深海の領域
有人潜水調査船・無人探査機等の技術を利用して、超高圧、暗黒、低温の深海領域の観測研究を実施し、超深海底付近で起こっている新たな造山運動(島弧生成の場)等の地球システム変動の理解に重要な未知の現象の発見を目指すことが重要である。
● 氷海域、荒天域及び海底火山周辺等の観測活動が困難な領域
冬期北極海の氷海域や海底火山付近等の通常の観測が困難な海域において調査を実行するため、自律型無人船及び潜水機を開発するとともに、これらの機器を動作させるために必要な、エネルギー源等の要素技術の研究開発を行う必要がある。
● 海底下の領域
統合国際深海掘削計画(IODP)に基づいて、日本の地球深部探査船と米国の従来型掘削船の2船を、統一した科学計画により国際運用することとなっており、現在建造中の掘削深度7000m、最大稼働水深2500m(将来は4000m)の能力を有するライザー掘削方式の地球深部探査船を用い、従来は不可能又は困難であった地震や津波の原因となる地震発生帯の直接掘削等による地殻変動メカニズム研究、地球環境変動の解明、地殻内微生物群の探求等を行うことが重要である。また、掘削孔を利用した長期孔内計測の実施が重要である。
● 海洋を中心とした地球科学の深化
海洋の物理的諸現象と物質循環は、地球システム科学の中で、重要な役割を果たしていることから、海洋深層流等全球レベルでの海洋大循環に関する研究、海洋表層や中・深層の物質循環及びその変動機構の解明、氷海域での海洋変動と大気・海氷・海洋相互作用の研究が必要であり、窒素、リン、ケイ素、微量金属元素、微量活性ガス等の動態把握を行い、陸域・海洋・大気を通じた物質循環についての研究が重要である。
また、海底は地殻が薄く、地球内部の構造の解明に適しているとともに、海底の堆積(たいせき)物は太古からの地球の歴史を保存している。このため、海底の状況や地殻・マントルに関する研究を行うとともに、海底堆積(たいせき)層により過去の地球の環境について研究することが重要である。
● 海洋生態系-地球生命史の解明
海洋の表・中・深層の生物群集構造及び生産力や物質循環に関する諸現象の解明、極限環境下(熱水噴出域、地殻内等)を含む多様な海洋環境での生物群集の多様性と進化の過程、生物の適応現象及び生命機構の解析、浅海生態系、サンゴ礁、海草藻場の群集構造とそれらの物質循環における役割の解明を行うことが海洋を深く理解するために重要である。また、地球の生命史において海洋生物が果たしてきた役割について広く解析を進める必要がある。さらに、微生物を含む未知の生物の発見に務め、その機能解析の実施や、鯨類、鰭脚(しきゃく)類、海鳥類、海亀類等の大型海洋生物の回遊・移動の生態や海洋への適応機構等の解明が重要である。
海洋は地球表面の約7割を占め、その大きな熱容量や熱輸送、水循環等により大気と密接な相互作用を行っており、気候変動に非常に大きな影響を及ぼしている。また、海洋は表面で二酸化炭素の吸収・放出、深層への輸送と貯留を行うことにより、炭素循環にも重要な役割を果たしている。炭素循環に重要な機能を有する海洋の動態解明のための研究を推進することは、地球環境に対する海洋の役割の定量的把握・解明を図る上で極めて重要であり、積極的に実施していく必要がある。
また、南北極域における大気・海洋・雪氷の変動は地球全域に急激な異常気象をもたらす可能性が指摘されており、極域の持続的観測研究は不可欠である。さらに、海洋は台風の発達・減衰をはじめ、熱帯や温帯の気象現象の熱源として非常に重要な役割を果たしている。
さらに、地球温暖化による海水温の上昇に伴うサンゴの白化現象をはじめとして、海洋変動は生態系へも大きな影響与えることが懸念されている。
このように海洋は、気候変動をはじめとする地球環境の変化に大きく関連し、海洋の諸現象に関する原理を追求し、理解することが、地球環境問題等の諸問題の解決のために必要である。
海域に発生する地震・海底火山噴火・津波や高潮・高波は沿岸地域に甚大な災害を及ぼし、ときには重要な環境変動をもたらす。特に地球温暖化の進行に伴う海面水位の上昇は、さらに深刻な影響を与えることが懸念されている。このため、地震調査研究推進本部の方針も踏まえつつ、海域における自然災害の予防及び災害軽減のための研究開発を進めるとともに監視のためのシステムを整備することが重要である。また、これらの事象は地球内部の固体地球ダイナミクスと密接な関係があると考えられ、これらの変動を研究し、海洋プレートの生成-消滅-生成という再生過程や、島弧や大陸の成長過程を理解しなければならない。ここでは、既に海洋保全の項で述べた気候変動に対応する取り組み(沿岸域への影響評価、沿岸災害対策、二酸化炭素の海洋隔離による生態系への影響)とは別に、全地球的な気候変動への対応や海底プレートダイナミクスの解明等の地震火山等の自然災害防止に資する研究について記述する。
また、これらの研究の対象となる現象は、様々な形で我々の生活に影響を及ぼすものであることから、得られた成果については、速やか、かつ広く社会に公表するよう努める必要がある。
● 気候変動に関する観測研究
地球上の気候変動を解明するためには、海洋調査船を用いた高精度かつ多項目の海洋観測による大洋規模の熱・物質輸送の把握や、熱帯降雨観測衛星(TRMM)等の地球観測衛星を活用した海流や降雨、氷床変動等の全球的な観測、熱帯広域に展開する大型観測ブイネットワークを用いた太平洋からインド洋にわたる赤道横断規模での海洋・大気の熱輸送の把握、中層フロートを用いた高度海洋監視システムの構築(ARGO計画)による表層・中層の海洋変動の解明が重要である。また、温室効果ガスの海洋上及び海洋中の分布・輸送・循環を把握するとともに、大気・海洋間の熱や温室効果ガス等の交換過程の研究が重要である。さらに、掘削による海底コア・氷床コアや海洋調査船により採取したピストンコアの分析による地球の古環境の研究や、南北極域における大気・海洋・雪氷の変動状況の把握が重要である。
● 海洋中の炭素循環メカニズムの解明
地球温暖化対策として、海洋中に二酸化炭素を放流・隔離することが一つの方法として検討されているが、実施することにより海洋環境が受ける影響については、十分に知見が得られていない。このため、海洋における炭素の循環メカニズムを解明する必要があり、海洋における二酸化炭素等の観測・監視の強化をはじめとして、物理的な輸送過程、生物化学的な固定過程及び海底への堆積(たいせき)作用を把握するとともに、海洋生物化学大循環モデルを開発し、海洋における二酸化炭素等の収支を定量的に把握することが重要である。また、海洋中の二酸化炭素計測手法等の研究開発を行い、国際標準化を図ることが重要である。
● 海洋を含む地球変動予測に関する研究
地球温暖化や水循環変動などの地球変動は、我々の生活に大きな影響を与える可能性があり、その悪影響を回避する対策を講ずるためには、地球変動の状況を予見する必要がある。このため、「地球シミュレータ」等のスーパーコンピュータを積極的に活用し、雲の活動・降水過程を含む水循環や、地球温暖化の予測モデルの高度化を行い、予測精度の向上を図ることが重要である。また、大気・海洋モデルの結合によるエルニーニョ・アジアモンスーン現象等の気候変動予測技術の高度化や、現在の海洋観測データと古環境のデータを反映させた海洋環境変動の予測モデルの開発、気候変動と海洋生態系の関係の解明により、地球変動予測技術の高度化に資することが重要である。さらに、得られた成果をもとに、海面上昇による陸地の水没、生態系の変化による食料問題等の我々の生活に与える影響を解明するとともに、その成果を、速やか、かつ広く社会に公表する必要がある。
● 地震・津波・火山噴火等を引き起こす海洋底ダイナミクスに関する研究
地震・津波・火山噴火等の発生機構を解明するためには、海洋プレートの生成プロセスとそこにおける熱や物質の循環に関する研究や、海洋プレートの消滅プロセスと地震発生メカニズムに関する研究、海底地形地質の生成・変動メカニズムの研究、ホットスポット域のダイナミクスの解明、さらには地殻変動や火山噴火の根源となるマントルダイナミクスの研究が重要である。また、地球物理観測網等の海底下現象のリアルタイム監視システムを広域に展開し、それを用いた観測研究を行う等、海底の地形や地質の構造、熱水・冷水、ガス等の噴出状況、地殻・マントル内部流体(水、マグマ)の分布、成分等の調査研究を行うことや、海底地震、海底火山噴火、津波の発生機構の解明と予測手法の開発を合わせて進めることも重要である。
今後、我々が海洋とかかわるに当たっては海洋を利用するとともに、積極的に保全・再生を図り、「海洋を守る」、「海洋を利用する」ことの調和を図っていく必要がある。そのため、「海洋を知る」という目標を最前線に掲げ、海洋の立体的な観測・研究により得られる知識をもとに、海洋の利用が海洋の環境に与える影響を把握し、持続的な海洋利用のために利用技術・方法を改善・開発することが重要である。
また、海洋にかかわる科学的知見は、我が国の海洋政策や多国間における政策決定に反映されるものでなければならない。そのためには、行政が政策を実行する上で必要な科学技術を明確にすると共に、研究機関等は政策の判断を助ける客観的な科学的知見を積極的に提供することが重要である。
このように海洋保全・海洋利用等の政策を実施する上で必要な海洋研究については、国として積極的に取り組むことが重要であり、そのための研究体制の充実、成果や情報の有機的利用、人材育成を発展充実させることが不可欠である。
● 持続的な海洋生物資源の利用のための調査研究
持続的な海洋生物資源の利用のためには、その科学的知見を得ることが重要であり、我が国における漁獲量や漁獲物に関する情報の収集・分析、海洋調査等により水産資源や漁業の現状把握や、まぐろ、さけ等の回遊性の水産資源について、国際的に適切な管理を行われるために、必要な科学調査を行うとともに、効率的かつ高精度な調査手法の開発を行うことが重要である。また、漁場となる海域の海流や水塊構造を立体的に把握するため、船舶や地球観測衛星を用いて海流や水温等を調査し、それらのデータを総合化する技術開発を行うことも重要である。さらに、豊かな生物多様性を有し、観光資源としても重要なサンゴ礁生態系の変動予測及びサンゴの白化・死滅対策のための研究を行う必要がある。
● 海洋鉱物・エネルギー資源利用のための研究開発
新エネルギー及び再生可能エネルギーの効率的な利用のため、各地域ごとの潜在量の的確な把握を目的としたデータベースの整備が重要である。また、海底資源の実態把握及び鉱床形成モデルの構築を行うため、海嶺、海底火山等のマグマ・熱水活動や、海洋中の元素の挙動・循環に関する調査研究、メタンハイドレート等を対象とした地質学的調査や鉱床成因・形成・移動機構の解明を行うことが重要である。
● 海洋環境に配慮した沿岸空間利用・沿岸防災のための研究開発
沿岸域に憩いの空間を創出するため、砂浜、干潟、藻場、サンゴ礁等の保全や、損なわれた海洋環境を修復するための研究開発を行う必要がある。特に沿岸域における栄養塩や汚濁物質、土砂収支等に関しては陸域での人間活動と密接に関連しており、陸域の流域全体での窒素やリンの循環等も視野に入れ、総合的な循環構造の把握や、海洋の浄化手法、海岸保全手法の開発を行うことが重要である。また、海洋中に構造物を構築する際の影響を評価することが重要であり、構造物構築に伴う海底地形の変化を把握するための技術開発、付着する海洋生物が海洋構造物に及ぼす影響について研究を行うことが重要である。さらに、海砂採取が海底生物等の生態系に及ぼす影響評価について研究を進めることが重要である。
● 海洋予報の推進
地球環境の変動を理解し、それに的確に対応するためには、即時的な海洋の状況の把握とともに、将来の海洋の状態を予測することが必要である。我が国で運用される北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)データベースで収集された海洋データは、インターネットで利用できるが、今後も海洋観測を充実し、沿岸観測、船舶観測による海洋データのリアルタイム通報をさらに推進することが重要である。また、海洋データ同化モデル、予報モデルを開発し、観測による検証を行い、精度を高めること、海洋データと気象予報値を基に溶存酸素、栄養塩、植物プランクトン量を予報モデルに組み込んで、生物生産の予報を図ることが重要である。さらに、海洋予報の精度を高め、気候変動に伴う海洋変動予測の確度を高めるために海洋気候変動研究計画における海洋・気候の数十年変動に向けた研究(CLIVAR DecCen/WCRP)を推進することが重要である。
海洋に関する研究・観測を行い、人類の知的資産の一層の拡大を目指し、より高度かつ総合的な知見を活用して海洋研究・観測の基盤技術の開発を行う必要がある。
これまで入手不可能だった試料・データの採取や、より高度な分析を行うため、現在人類未到達のマントルを目指した地球深部探査船の建造や、気候変動予測の実現に向けた地球シミュレータ計画が進められているところであり、今後とも高精度な自律型無人潜水機の開発等の分野横断的な技術開発が必要である。
また、研究開発の目的に応じて必要な量と時空間分布を備えた観測データを取得するため、従来の調査・観測・分析技術の精度や継続性を向上させることが重要であり、複数の分野の科学技術を総合的に活用して開発を進める必要がある。
なお、これらの大規模な基盤設備の運用に関しては、専門性の高い知識を継続的に蓄積するための観測支援制度が必要である。
● リモートセンシング技術の高度化
熱帯降雨観測衛星(TRMM)、ヨーロッパリモートセンシング衛星(ERS)、米国地球観測衛星(Aqua)等の衛星や航空機により、対象物の反射または放射する電磁波に関する情報を収集して、その対象物の種類や状態を観測するリモートセンシング技術を活用し、海洋諸現象、生態系等の観測技術や大気海洋現象の観測技術(降水、海流、波浪、風、陸面、海面)の開発を行うとともに、環境観測技術衛星(ADEOS-2)等の海洋の観測が可能な衛星の研究開発を推進することが重要である。
● 海洋観測技術の高度化
最新の観測技術を導入することで海洋観測・研究の基盤的なプラットフォームである既存の海洋観測・研究船の観測機能を強化するとともに、海中の水温、塩分、栄養塩、クロロフィル、動物プランクトン等のデータを自動的に測定・送信する高性能ブイの開発、波浪等の海象観測の精度向上や効率化のための技術開発を行うことが重要である。また、自立型の無人探査機等と組み合わせて極域を含む広範囲をカバーする海洋・大気観測の拠点となる多機能で新しい概念のプラットフォームの研究開発を行うことも重要である。さらに、これらの高度化された施設設備を有効に活用するために、十分な観測支援体制の整備を行う必要がある。
● 海底観測の強化
長期観測に必要な深海底での電源確保及びデータ伝送路に関する技術開発、海底観測ネットワーク化技術や新センサーの開発、地殻変動観測技術開発、信頼性の高い高速水中音響通信技術や高精度・高能率の水中音響による探査技術の開発を行う必要がある。また、統合国際深海掘削計画(IODP)等で利用される、海底下深部の高圧・高温等の特殊環境に対応した海底掘削技術や試料採取技術及び掘削孔の多角的利用技術の開発、深海底における重作業を可能とするための重作業無人機及び支援システムの研究開発を行う必要がある。さらに、管轄海域の確定、地震発生予測、火山噴火予知、海の基本図のための、外洋から沿岸域にわたる地理情報システム(GIS)の整備やプレート移動による離島の位置変化測定の精度向上を図ることが重要である。
海洋に関する研究や技術開発については、観測範囲や開発すべき事項が多岐にわたることから、産学官の関係機関が連携して、それぞれの役割において、その特長を最大限に発揮できる体制を構築して、我が国として総合的に海洋研究とそのための基盤整備を推進していく必要がある。特に、海洋観測を行うに当たっては、国際的な協力を積極的に行い、世界各国のそれぞれが役割を分担しながら、情報交換を行って進めていくことが重要である。その際、我が国が広域な排他的経済水域を有していることを考慮し、それに見合ったリーダーシップを発揮して広く国際的に貢献し、研究や観測を組織的・戦略的に行う必要がある。
また、我が国が海洋研究における新しい分野を開拓し、国際的な能力の高さを維持していくためにも、最先端のインフラストラクチャーの整備は必要不可欠である。
さらに、海洋研究を進める上で必要な各種の観測データは、空間的にも時間的にもまだ圧倒的に不足しており、海外の機関とも協力して可能な限りの観測とともに、国際的にも共通の方式で観測データの品質管理、保管及び提供を行うことに努める必要がある。
● 研究開発体制の整備
国際的な研究開発の推進を図るため、地球圏・生物圏国際協同研究(IGBP)、世界気候研究計画(WCRP)、北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)、全球海洋データ同化実験(GODAE)、統合国際深海掘削計画(IODP)、国際海洋ネットワーク(ION)等の国際的な観測や研究開発プロジェクトに対して積極的に国内外で連携・協力体制を構築することが重要である。また、統合地球観測戦略パートナーシップ(IGOS-P)のようなプロジェクト間の協力・協調を促進する活動の支援、大型化が著しい海洋研究での先進・開発途上諸国を含めた研究協力を推進することが重要である。このような、国際的なプロジェクト等への円滑な実施に当たり、我が国の研究者の国際的なプロジェクトへの主体的な参加を支援できるよう事務局や参加経費等の環境の整備を行うべきである。また、中層フロートの展開や海底地震の観測網の構築等、国内の関係機関の連携・協力プログラムを積極的に推進するとともに、海洋における企業活動の活性化を図り、民間における研究開発を促進することが重要である。
● 研究推進のための連携・協力の推進
海洋環境問題のように多くの要因が複合化することにより生じた問題を解決するためには、これまでにない新たな発想による取り組みや新たな学問分野の創出等も必要とされることから、研究推進のための連携・協力を推進させる体制や研究の進展に即応した体制の整備・充実を図ることが重要である。そのためには、国立試験研究機関、独立行政法人、特殊法人、大学等における研究基盤及び体制の整備・充実のほか、研究資金・人的資源を適切に確保することが不可欠である。
● 船舶の有効活用の推進
地球温暖化や気候変動等のメカニズムを解明するためには、海洋に関する研究・観測を行うことが重要であるが、我が国の海洋調査研究に必要な装備を備えた船舶は、現在、不足している状況にある。このため、今後、海洋の調査研究を行うための船舶の充実を図るとともに、各大学等の研究機関が所有する海洋調査・研究船の運用をより効率的に行う体制を整備する等、船舶の有効活用を図るためのシステムや体制整備について検討することが重要である。
● 研究開発に必要なインフラストラクチャーの整備
地球深部探査船の建造及び運用のための実行組織の構築を行い、深海掘削による地殻変動メカニズムの解明、メタンハイドレート、地殻内微生物等の採取・分析を行い、地球の古環境の分析等をIODPで実施するための体制を整える必要がある。また、ドップラーレーダ、北極海ブイ、海洋音響を利用した海洋監視システム等の海洋観測機材や海底地震計等、インフラストラクチャー整備を進めるとともに、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」等の大型施設・設備の共用を促進することが重要である。さらに、太平洋及びインド洋の熱帯海域への大型海洋観測ブイの展開や、高度海洋監視システムの構築(ARGO計画)を推進することにより、世界的に異常気象をもたらす変動現象を監視する体制を整備するとともに、海洋調査船による観測、海洋観測ブイ、衛星観測を組合せ、最適観測システムの構築を図る必要がある。
● 研究活動に必要な情報流通の整備
国際海洋データ交換システム(IODE)の活動を支援するため、我が国の海洋情報を収集・管理・提供する日本海洋データセンター(JODC)を中心とした海洋観測を実施する各機関等の活動を積極的に推進するとともに、沿岸海域環境保全情報の整備等を進めることが重要である。また、ネットワーク観測情報に基づく沿岸の潮位や波浪に関する観測情報データベースの充実を図るとともに、異常潮位や高潮の予測精度の向上に活用するためのデータ活用システムの整備を行う必要がある。全世界に展開された地震計、GPS等のデータを国際的に交換し、総合的に解析するためのデータ管理システムの整備を行う必要がある。さらに、排他的経済水域内を中心とした我が国の精密海底地形図及び地殻構造図の作成、離島を含む日本列島の位置を世界測地系に結合するための海洋測地の推進、海洋の生物群集のデータ収集及びデータベース化や生物サンプルの収集・管理を行うとともに、遺伝子バンクを整備することが重要である。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --