海洋利用は、「海洋を知る」及び「海洋を守る」と有機的に連携した要素の中でとらえることが重要である。海洋環境汚染に対する海洋利用施策の影響、あるいは海洋生物資源を含む生態系全体に対する施策効果等が顕在化するまでには時間がかかることが多いため、長期的視点に立って市民一人一人の利益となる利用を行うことが不可欠で、近年、海洋利用が多様化していることを踏まえ、総合的視点に立って、異なる分野の利用施策の連携を行うことが必要である。施策実施にあたっては、市民の立場から海洋利用を考え、利用施策に関する情報を公開し、その理解を得るよう努めるべきである。
近年の人口増加と生活の高度化によって、沿岸域での海洋利用の空間密度が高くなっており、特に沿岸の開発に当たっては、国、漁業を含む地域産業、開発企業、地方公共団体、地域住民、海洋を憩いの場とする市民等の関係者間で、環境保全のあり方や利害調整・補償のあり方について、総合的な視点に立って問題を解決し、有機的な連携を図る必要がある。その際、海洋利用が海洋環境に与える影響を考えると、人文社会科学を含む幅広い観点から国としての施策を打ち出すことが重要である。このように、3.3において示した「総合的な管理」については、特に海洋利用の分野において配慮されなければならない重要な概念である。
また、前回の答申時から海洋政策を取り巻く状況の中で最も変化したことは、環境に対する配慮を最大限求められる点である。昨今の日本近海及び世界的な海洋環境汚染を考えると、21世紀において海洋の持続的かつ健全な利用を図るためには、海洋環境保全の視点が不可欠である。今後の海洋利用においては、公正かつ的確な形で海洋環境への影響を評価することが同時に求められており、海洋環境影響評価技術の確立、影響評価ガイドライン(指針)の明確化、海洋環境影響評価体制の整備を行うことが不可欠である。
このように、海洋利用のための施策を推進するためには、「総合的な管理」と「海洋環境保全との調和」が重要であることを述べたが、海洋利用関連施策を効率的かつ効果的に社会に反映させるためには、さらに、海洋利用施策の目標を重点化することが必要である。「海洋環境の保全」及び「国際貢献」に特に留意し、次のとおり海洋利用の重点化の柱を定め、これに基づいて具体的な施策を分類・整理し、効率的な海洋利用施策の実施への指針とする。
国民生活にとって最も基本的な物資である食料の確保は、国の基本的な責務であり、世界の食料需給が不安定な側面を有しているなか、食料の過半を輸入に依存している我が国にとって、その安定供給の確保は重要な課題となっている。
このような状況を踏まえ、2001年6月に今後の水産政策の指針として制定された水産基本法では、水産資源の持続的な利用を基礎として、国民に対する水産物の安定供給と水産業の健全な発展を図ることを基本理念に掲げている。今後、同法の示す方向に沿って、我が国の排他的経済水域等における水産資源の適切な保存・管理、水産動植物の増養殖の推進等に重点的に取り組むことにより、海洋生物資源の持続的な利用を図ることが重要であり、生態系全体の維持、環境汚染の防止等に配慮する必要がある。
また、海洋の生態系と深いかかわりをもっている陸域の施策との連携や海洋に与える負荷の少ない材料等の開発を進めることが重要である。
● 水産資源の管理・回復の推進
水産資源が将来にわたって合理的に利用されるためには、水産資源の賦存量や生態系等の科学的知見に基づき、適切な漁獲制限を実施することが必要である。我が国周辺水域については、多くの魚種について資源状況が悪化しており、これらの魚種について適正な資源管理を実施していくことが重要な課題である。このため、資源状況の悪化の著しい魚種については、科学的な情報も充分に踏まえた上、当該資源が分布・回遊する海域単位で、その資源の積極的な回復を図るための計画を定め、資源状況に対して過剰となっている漁獲能力の削減を始め、資源の積極的培養、資源が生息する漁場環境の保全等の資源回復に必要な措置を総合的に実施していくことが重要である。
また、資源管理に向けた漁業者間の自主的な取り組みを促進・定着化するため、体制の整備をその地域の実情に合わせて総合的に行うことが重要である。
● 沖合水産資源の持続的利用のための漁場整備対策
我が国周辺海域で海洋生物資源の生産性を向上し、持続的な利用を図るために、沖合において最新技術の応用により広域にわたる資源増大効果を有する大規模な漁場を整備する必要がある。これには、栄養塩の豊富な深層水を表層にくみ上げることにより、水産資源の食物連鎖の第一次生産者である植物プランクトンの生産性を高める等いくつかの方法が考えられるが、構造物の素材が海洋環境に及ぼす影響や海洋深層流を湧昇流に転じることで変化する海洋循環の影響の評価を、事前に十分行うべきである。
● 海洋生物資源全体の持続的利用の推進
海洋生態系全体を保全し、海洋生物資源の持続的利用を可能とするためには、我が国周辺のみを考えるだけでは十分ではない場合があり、国際的な取り組みが必要である。また、特定の魚種を保護すればいいのではなく、鯨類、海鳥類等の高次捕食者を含む海洋生態系全体の調査を実施し、それに基づいた管理を実施することが重要である。
● 水産資源の積極的な培養と持続的養殖の推進
水産資源の再生能力を積極的に活用するため、水産資源の回復を推進するための栽培漁業や沿岸漁場の整備開発を推進するとともに、養殖業については漁場環境の改善あるいは保全のための計画の作成・実施、関連技術の開発等を推進する必要がある。このため、水産資源の産卵・ふ化・成長等の基礎的知識の情報収集を含む研究活動が重要であり、これらの情報を活用しつつ、水産資源の増産を図るための技術開発を推進するべきである。その際、水産用医薬品の適正使用とともに、適正な餌料の投与等により環境負荷の軽減を図り、生物多様性の保全や環境汚染の防止に十分配慮した養殖業や栽培漁業、その海域浄化のための関連技術開発、沿岸漁場の整備・開発等を推進する必要がある。
● 海洋バイオマス利用技術開発
人類は、石油系プラスチック製品の大量生産・消費により、これまでにない生活の利便性を達成できたが、同時に環境問題等の課題に直面している。これを解決する方法の一つとして、未利用海洋バイオマス資源を高度利用し、使用後に自然界の微生物や分解酵素によって水と二酸化炭素に分解されて行く生分解性プラスチックを含む環境調和型プラスチック製造技術等を開発する必要がある。
● 海洋における未知微生物の活用
海洋及び海底地殻から未知の微生物を分離・培養する技術を開発し、その技術を用いて未知微生物及び遺伝子(ゲノム)を収集して、遺伝子資源ライブラリーを構築することにより、微生物遺伝子資源の利用環境を整備する必要がある。未知微生物の遺伝子(ゲノム)情報の調査・研究を進めることにより、海洋分野のみならず、医学・工学分野等幅広い分野への活用を図ることが重要である。
21世紀において、循環型社会の実現に適応する新エネルギー及び再生可能エネルギー・資源の利用に重点的に取り組むことが重要である。
海洋には、風力・波力・潮力・温度差・太陽光等のエネルギーが広く分布するため、環境に配慮しつつ、これら海洋エネルギーの利用を推進することが重要である。そのため、欧州諸国では、電力消費における再生可能エネルギーの割合に目標を設定する等して、再生可能エネルギーの普及に努めており、例えばドイツでは、「再生可能エネルギー法」等が制定されている。
日本でも電力分野における新市場拡大措置の導入に向けた検討を行う等、再生可能エネルギーのさらなる利用推進に向けて状況が進展しつつあるが、海洋に分布する再生可能エネルギーについても、国として中・長期的に取り組むべきである。
また、栄養塩に富み、清浄で、低温安定性のある海洋深層水の科学的機能を解明し、2次利用について可能性を広げる等、海洋深層水の利用の促進に取り組むことが重要である。
● 洋上における風力発電の推進
近年、陸上を中心とした風力発電の導入が増加しているが、国土が狭い我が国においては、騒音や景観等の問題により、今後の新たな陸上への導入には一定の限界があるものと予想される。今後は立地条件に優れた洋上等を活用し、生態系等周辺の環境に配慮しつつ、風力発電の導入に向けた具体的な検討を進める必要がある。そのためには、風力エネルギーの出現特性の研究や、電力供給の不安定性等の風力発電固有の技術的課題の解決に向けた取り組みが必要である。
● 循環型社会に対応するための再生可能エネルギー活用技術
再生可能エネルギー(波力ポンプ、洋上風力発電、太陽光発電等)を利用した水質改善技術等の開発が重要である。現在、使い捨て電池を使用しないため産業廃棄物が減少するというメリットを有する波力発電方式の灯浮標が船舶交通の安全確保に使用されている実績がある。同様の発想により、再生可能エネルギーを用いて汚濁の進んだ水質の改善を行う技術と、海洋生物資源を用いた手法と組み合わせることは海本来の美しさを取り戻すための技術開発として重要である。
● 海洋深層水の利用の推進
海洋深層水は、海水の95%にも及ぶ膨大な賦存量を有するほか、数年~数千年で再生循環することが知られており、低温安定性の観点から温度差発電、冷却水等のエネルギー分野での利用を図ると共に、清浄性、富栄養性の観点から水産業、食品・医薬品等の分野での利用等を図ることが重要である。また、これらの資源の賦存量と再生速度等をより正確に推定するための手法を開発する必要がある。
● 海水淡水化技術開発
他の淡水化方式に比べ省エネルギーかつ低コスト型である「逆浸透法」技術についての研究開発を行う必要がある。一方で海塩製造に逆浸透法を用いる例もあるが、淡水放流による漁業への影響が問題視されており、両技術をうまく組み合わせることが重要である。また、砂漠地域や東南アジア諸国でも水不足に悩まされており、これらの国に技術移転することは大きな国際貢献として重要である。
● FRP廃船の高度リサイクルシステムの構築
FRP(繊維強化プラスチック)廃船の不法投棄、放置艇の沈廃船化等の問題に対処するとともに、資源の有効活用等に資するため、FRP廃船の粉砕片をセメント等の原材料として利用するリサイクル技術、船体の長寿命化や劣化損傷個所の取り替えの容易化等のリユース技術を確立する必要がある。
我が国の領海及び排他的経済水域には海底の表面付近に鉱物資源が、また海底下にはエネルギー資源(石油・天然ガス)が賦存している。その一部分については調査がなされてきたが、大部分は今後の調査が待たれている。これらの資源は海洋生物資源及び海洋エネルギーと並んで我が国の今後の市民生活の基盤を支えるために大切なものである。鉱物資源とエネルギー資源は将来国際的に不足するとの予測もあり、環境影響の極小化を図り、未利用の海洋資源を利用するための技術開発に重点的に取り組むことが重要である。
資源に乏しい日本において産業が発展したのは資源の安定供給確保があったからであり、今後とも資源の安定供給確保を最重要課題として、海洋鉱物・エネルギー資源の継続的な開発を行う必要がある。
● 海洋石油技術の先端的研究開発
石油(天然ガスを含む)資源は、代替エネルギーが開発されるまでの間、人間活動を支える主要なエネルギー資源の一つであり、その安定供給は極めて重要である。このため、基礎技術である海洋石油開発システム及び部材の耐久性や安全性を向上するため、新しい材料創製技術、加工技術及び掘削技術の開発、大水深掘削システムの安全性に関する研究等を行う必要がある。これらの開発により生み出された新しい材料や加工技術・使用技術は海洋石油開発システム以外の海洋構造物に適用することが可能であり、我が国の技術レベルを総体的に押し上げることに貢献する。
● 海水リチウム採取実用化技術開発
海水中に存在する有価希少資源である海中溶存リチウム採取の実用化のため、リチウムを選択的に採取する分離吸収剤を開発することが重要である。現在の技術は、経済的採算性がとれるレベルよりわずかに下であるが、今後の研究開発の成功により実用化が可能である。リチウムで実績を積むことで、将来的に他の希少金属への応用が期待される。
● エネルギー資源としてのメタンハイドレートの調査及び開発
メタンハイドレートは、日本近海に我が国の天然ガス消費量の100年分が埋蔵されているとの試算もあり、その活用が可能となれば日本におけるエネルギー自給率を上ることに貢献すると考えられる。このため、日本周辺海域におけるメタンハイドレートの資源量把握のための基礎調査や、メタンハイドレートの探査・開発・生産技術等に関する研究開発を行うことは重要である。海域のメタンハイドレートについては世界的に関心が高まってきており、国際協力を念頭において調査及び開発を進めることが必要である。
● 石油・天然ガス等エネルギー資源の開発
電力供給における電源構成は、将来的に再生可能エネルギーを積極的に導入していく必要はあるが、当面は供給安定性や効率性の観点から化石燃料系のエネルギー資源に依存することは避けられない。日本周辺海域においても水深900m-1000mの海底で天然ガスを発見する等の成果が得られているが、総じて日本の大水深における調査及び開発技術は諸外国から大きく遅れている。我が国のこれら技術水準向上を継続的に行うことが重要である。
● 海洋における鉱物資源の調査及び開発
我が国は第3次国連海洋法会議で採択された先行投資保護決議に基づき、1987年にハワイ南東沖にマンガン団塊の先行鉱区割当てを受け、同鉱区において概要調査を実施した。このような国際的な枠組みでの活動とともに、広大な海域を有する南太平洋諸国等と共同で実施している排他的経済水域内での鉱物資源調査等の国際協力は重要な事項として挙げられる。今後は、将来の開発に即時対応できるように賦存状況調査を継続するとともに、鉱物資源の経済的な開発に向け、採鉱等に必要な技術開発スケジュールの策定等の検討を進める必要がある。また、国際海底機構で新たに開始されるコバルトリッチクラスト及び海底熱水鉱床にかかる探査に関する規制(マイニングコード)の審議にも積極的に取り組むべきである。
● 資源開発及び国土・領海の基本情報の知的基盤整備
資源開発・海洋空間利用等の海洋利用並びに国土・領海・排他的経済水域等の基本情報の整備に資するために、地質調査船等を使用して日本周辺海域の海洋地質調査を行う必要がある。調査研究により得られた海底下地質に関する基盤情報を整備し、海洋地質図やデータベースを作成・公開することで、産業界を含むすべての国民に対して正確で詳細な情報提供を行うべきである。排他的経済水域における海洋・海底情報整備は、我が国の権益を確固とするとともに、国連海洋法条約の枠組みにおける権利を行使し、義務を果たす上で重要である。
● 国連海洋法条約を踏まえた大陸棚の調査
国連海洋法条約に基づき大陸棚を領海基線から200海里を超えて画定するためには、我が国は「大陸棚の限界に関する委員会」に2009年までに大陸棚の限界についての詳細を、これを裏付ける科学的・技術的データと共に提出し、その勧告を受けなければならない。このため、本邦南方海域、南鳥島周辺海域等その可能性のある海域について、期限に遅れることがないよう、関係省庁間の緊密な連携を図り、計画的に詳細な海底地形調査等を行うことが喫緊の課題である。
● 海底調査等の体制整備
鉱物資源調査や地質調査等の海洋調査は、調査目的に合った特殊な調査船により行われている。また、未知の領域に対する効率的な調査を行うためには常に最新の技術を保つことが求められる。このため、各種調査船の効率的な運用をはじめ、21世紀における海洋資源調査船のあるべき姿等について、国策に対応できる調査体制の検討と整備を行うことが重要である。
沿岸空間は、生活の場・交通の場・産業の場・漁業生産の場・レクリェ-ションの場等多くの側面を有しており、多くの利用分野が輻輳(ふくそう)している。特に、海岸線に近い部分では物理的にも飽和状態となっている状況も見受けられる。このように各種の海洋利用分野が重複する傾向にある沿岸空間において、利用分野間で連携を行い、調和のとれた多機能な沿岸空間利用を目指すための事業及びそのための技術開発に取り組む必要がある。
● 循環型社会を目指した港湾を核とした総合静脈物流システムの構築
環境問題等の顕著化で、近年、生産・消費のための流通である動脈物流に対して回収・リサイクルを行う静脈物流への関心が高まり、循環型社会を支える物流システムの構築が重要な課題となりつつある。今後は、静脈物流の特性を把握するとともに、派生する関連貨物を含めた需要予測も求められている。循環型社会の実現を図るため、静脈物流の拠点となる港湾において、既存ストックを最大限に活用し、物流コストの低減及び環境負荷の軽減を主眼においた静脈物流システムを構築する必要がある。
● 環境配慮型の港湾・漁港施設整備の推進
港湾・漁港等の整備にあたっては、貴重な自然環境への影響を最小限に抑制するに止まらず、施設の建設や改良における海水交換型防波堤や緩傾斜護岸等の環境配慮型構造を積極的に導入する必要がある。その際には、これまでの港湾の開発・管理を通じて蓄積してきた潮流や漂砂等の知見、水質浄化機能や生物生息状況等に関する調査研究等の成果の活用を図ることが重要である。
● より高い信頼性を有する廃棄物海面埋立処分場の技術開発
本来は循環型社会を実現して廃棄物を出さないことが理想であり、廃棄物については循環的な利用を徹底することが重要であるが、現状では、廃棄物最終処分場のひっ迫は、多くの地方自治体の課題であり、当面海面埋立処分も継続せざるを得ない。廃棄物の減量化や再利用の促進を前提に、港湾においては、将来の開発計画との調整を図るとともに、廃棄物海面埋立処分による環境影響等を最小化するという観点から、廃棄物海面埋立処分場を整備し、適正な廃棄物の最終処分を行っていくことも必要である。また、より信頼性の高い廃棄物海面埋立処分場を整備するため、高性能遮水材料の開発、汚染物質遮蔽(しゃへい)性能評価及び監視システムの開発、耐震性の向上等により信頼性を向上し、廃棄物の適正処分を行うべきである。
● 効率的な交通体系の構築
沿岸空間を高度利用し、広域的な地域の活性化を推進するとともに、国際競争力のある高質な物流サービスを提供するためには、道路、港湾、海上空港等の主要な基盤施設を、周辺環境に十分配慮しながら継続的に整備することが必要であり、各種の交通機関が連携した総合的な交通体系を構築することが重要である。
● 水産物の水揚げ・流通・加工機能を一元化した施設の整備
水産資源に対して多様化・高度化する市民の消費要求に対応し、安全かつ高品質な水産物を安定的に供給するために、流通・消費システムの効率化・高度化を推進するための水産物の水揚げ・加工・流通を行う多様な機能を沿岸空間に持たせることが適当であり、水産物産地市場等における一次加工施設等必要な施設の整備を行う必要がある。
● 海洋空間の高度利用を図るための超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の活用
国土の狭い我が国において多機能な沿岸利用を行うために、メガフロートは有効な社会資本整備手法と考えられる。沿岸空間のうち、海岸線に近いほど利用が輻輳(ふくそう)しており、利用者の権利関係も複雑である。メガフロートは、沿岸空間でもやや沖合に離れた海上に設置することを念頭においているため、こうした面からも今後の活用が望まれている技術である。今後は、環境に十分配慮しつつ、防災基地、海上レジャー基地、海上空港等への活用を目指すことが重要である。
貿易立国である我が国にとって海上輸送の効率性と安全性を確保することは不可欠である。現在トラックで行われている長距離幹線輸送(主に500km以上)を内航海運・フェリー・鉄道へ転換するモーダルシフトは、地球温暖化防止、省エネルギー対策、交通混雑の緩和、大気汚染対策等の観点から改めて脚光を浴びており、今後も引き続き推進すべき状況にある。内航海運の利用促進のため、市場の活性化及び経済性に優れ環境負荷の小さな船舶の建造促進等を図り、効率的な海上輸送へのモーダルシフトを推進することが必要である。
船舶の運航の技能と経験を有する船員は、すべての海事産業のヒューマンインフラストラクチャー(人的資源)であり、優良な船員を安定的に確保することは海事産業の発展、良質な輸送サービスの提供のために不可欠な要素である。優良な船員を安定的に確保するためには、船員の教育・育成・就職の充実により若年船員の確保を図ること、離職した船員が再度船員として活躍できること、安全かつ適正な労働環境の整備を図ること等の諸施策に取り組んでいくことが重要である。
近年、東南アジア等の日本関係船舶が多数航行している海域で海賊及び船舶に対する武装強盗(以下、海賊という。)事件の発生件数が増加しており、安全な船舶の航行に対する大きな脅威となっていることから、海賊に対する有効な対策を通じた船体・乗員の安全確保、安全な海上航行及び輸送の実現を図る必要がある。
● 海上輸送の定時性・迅速性・安全性等の確保
近年の経済のグローバル化等により、我が国の国際港湾において国際競争力の低下とアジアにおける我が国港湾の相対的な地位の低下が生じている。このため、港湾諸手続についてパソコン又は身近な場所で各種の手続きを一括して行うワンストップサービス等のソフト面での施策並びに国際水準の大水深(高規格)ターミナルの整備等のハード面での施策を有機的に組合せ、海上輸送の効率性と船舶航行の安全性を両立させた海上ハイウェイネットワークを構築し、国際的に遜色(そんしょく)のない国際港湾の整備等を推進する必要がある。また、我が国の市民生活・経済活動を支える海上交通を、ITを活用した船舶の知能化や陸上支援の高度化・整備、情報ネットワークの構築、海上通信の高度化等により高性能化・多機能化を行い(インテリジェント化)、安全性の飛躍的向上や物流の効率化等を図る次世代海上交通システムを構築するための取り組みを進める必要がある。また、船体、機関、通信、救命及び消火用の機器等が関係条約に定められた基準以下のサブスタンダード船について、航行、人命財産の安全等の面での問題から、国際海事機関(IMO)をはじめとする種々の国際的な場で、サブスタンダード船排除のための検討を行っていく必要がある。
● 安全な海上輸送の実現のための海賊対策
近年の海賊行為の多発化は、貿易立国たる我が国の主要な海上輸送ルートへの脅威となっているばかりでなく、地域全体の社会の安定と経済の繁栄に大きな影響を与える問題となっている。アジア海域における海賊対策はアジア諸国の主導により促進されるべきであるとの考えに基づき、アジア諸国の海上警備機関並びに海事政策当局、民間海事関係者等との間で、協力・連携体制を確立していくとともに、今後は、海上警備機関の取締り体制の整備、民間海事関係者における自主警備策の強化、情報交換促進のためのネットワーク構築への支援等の海賊対策の強化により、安全な海上航行及び輸送を実現する努力が重要である。また、我が国は様々な場を通じて海賊対策について問題提起や協力の促進を行う必要がある。
● 海上交通の安全性、効率性を支える開発保全航路の整備
我が国には東京湾、伊勢湾、関門海峡等の船舶航行量が多く船舶交通の要衝である区域があり、これらの区域には開発保全航路を配置している。開発保全航路は、国際海上輸送及び国内海上輸送を担う船舶等の航行の安全性、安定性を支える重要な機能を果たしており、より一層の船舶の安全かつ円滑な航行の確保を図るため、また、海難事故による油流出事故等の海洋汚染を未然に防ぐために、新規航路の開削、既存航路の拡幅や増深等の改良及び航路標識の整備を、海洋環境等に配慮しつつ、必要に応じて行う必要がある。また、航路の安全性を維持・確保するため、水深の維持、沈船や浮遊物の除去を行う等、航路を適正に管理することも必要である。また、ITを活用した安全かつ円滑な船舶航行への取り組みも重要である。
● 地球温暖化対策としてのモーダルシフトの推進
物流分野における二酸化炭素排出量の削減のため、船舶のエネルギー消費効率を向上させるスーパーエコシップの開発をはじめとする新技術の導入、規制の見直し、国内輸送向けのターミナルの整備、海上ハイウェイネットワークの構築等を行い、環境負荷の少ない大量輸送機関である海上輸送へのモーダルシフトの推進やそのための基盤となる内航海運の競争力強化を実現する必要がある。
マリンレジャー、ヨット・サーフィン・ダイビング等のマリンスポーツ、水族館や海浜公園等、海洋性レクリエーションの発展を図ることは、市民の余暇の充実、豊かな市民生活の形成、地域経済の活性化等のため、ますます重要な課題になっており、市民が容易に海に親しめる場を提供し、創造していく必要がある。他方、プレジャーボートによる海難の増加傾向、交通渋滞・騒音・ごみ問題等の課題があり、政策の立案・推進に当たっては、こうした課題の解決と海洋性レクリエーション活動の活性化を「車の両輪」として進めることが適当である。
海洋性レクリエーションの健全な発展を含め、海洋政策の推進に当たっては海洋に対する市民の理解が重要であり、市民の海洋に対する関心が高まるような社会環境を醸成する必要がある。その際、諸外国の成功例を参考にしつつ市民一人一人の自主的な諸活動を尊重し、また、その地域が持つ独自性に配慮しながら、情報提供の推進や自主的安全意識の向上等を通して、地域を中心とした自律的な海洋管理を促進するという視点にも留意すべきである。
● 海洋性レクリエーション空間の整備・普及促進
海浜部を持つ公園・緑地等において、自然環境等を活用した海洋性レクリエーション空間の整備を含め、多様な需要に対応するための整備、運営を行うべきである。また、海洋性レクリエーションを健全に普及・促進するための基盤整備や安全性の確保等の施策を実施することが重要である。この際、沿岸漁業とレクリエーションとの共存実現にも配慮する必要がある。
● プレジャーボート等の適正な係留・保管の推進
人々が海に親しめる魅力あるウォーターフロント(水辺空間)の創造に向けて、プレジャーボートの係留・保管施設を整備するとともに、地域の実状に応じて既存の港湾、漁港、河川等の施設を活用した係留施設の設置や陸上保管を推進することにより、水域の適正な利用を図るべきである。
● 海洋性レクリエーションに対応した安全確保
気象・海象等の情報提供機能の充実、事故防止・救助体制の充実や人々の安全意識の普及啓発等により安全確保面で海洋性レクリエーション活動を支援する必要がある。これらの施策の実施に際しては、市民の自主性を重んじ、海洋性レクリエーション活動等との調和の下に図られることに配慮する必要がある。また、事故防止、安全の向上を進める一方で、利用者の要望に対応した規制・制度の適正化、利用者負担の一層の軽減等を進めるための検討を引き続き推進するべきである。
● 魅力ある空間創造のための干潟・藻場、緑地、海浜等の整備
市民が海の美しさ、やすらぎ、豊かさを感じ、海に親しむことのできる魅力ある空間を創造するため、人々が水際線を自由に行き来できる空間や生態系にも配慮した空間の整備を推進する必要がある。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --