長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について(答申案) 1 はじめに

 地球の全表面の約7割を占める海洋は、大気や陸域との相互作用を通じて地球環境の調和機能を果たしており、人類をはじめ地球上のすべての生命を維持する上で、不可欠な要素である。人類は、その発祥から現代にいたるまで漁業により海洋から食料を獲得し、海洋を通じて人的また文化的な交流を行ってきており、海運が発達してからは、様々な物を輸送するために海洋を活用してきた。海洋には未だに利用されていない資源が相当量残されており、循環型社会に適したエネルギー・資源の供給源となる可能性を有している。さらに人類は、海洋を利用するだけでなく、未知の世界を解明したいという科学的な興味と関心から、日々刻々と変化する海洋を探求し、諸現象の真理を追求することによって、科学の一体系である「海洋科学」を構築してきた。
 このように人類は海洋から、様々な形で海の恩恵を享受するとともに、海洋を探求することによって自らの知識の拡大と深化に結び付けてきており、これからも人類にとって海洋はかけがえのない存在である。
 これまで海洋は、その巨大な容量と浄化機能により人類の活動による環境負荷を受入れ、希釈・分解すること等により人類の良好な生活環境を維持してきたが、近年の人口増加、経済社会活動の拡大等による負荷の増大は、海洋汚染をはじめ、海洋生態系の攪乱(かくらん)、海洋生物資源の枯渇等を引き起こしている。また、自然災害の多発や人間活動等が引き起こした海岸侵食、砂浜の消失等が沿岸域のぜい弱性を増大させている。そのため、科学に基づいて海洋並びに地球の変動を予測し、有効な対策を行うための政策が要求されている。
 今後、人類が安全で快適に生活できる社会を構築するとともに、海洋が有する多様な恩恵を後世に継承するためには、これまでのように、海洋を単なる利用の場としてとらえるのではなく、生態系を含む健全な海洋環境を維持し、可能な限り回復を図るため、海洋が持つ総合性・複雑性を理解し、その理解に基づいて高い視点から海洋の利用について考えていくことが重要となっている。これからは、環境の保全と調和のとれた海洋利用を可能とするため、必要な知見の獲得・活用に努めるとともに、市民一人一人が海洋の重要性と自らが様々な面から海とかかわっていることを理解し、海洋を持続的に利用していくためには何をなすべきか考えていかなくてはならない。
 このような視点から、今後の海洋政策の展開に当たっては、「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」という3つの観点をバランスよく調和させながら、持続可能な利用の実現に向けた戦略的な政策及び推進方策を示すことが重要である。
 また、海洋を知り、守り、利用するあらゆる場合において、国際社会との協力関係が重要である。特に、海洋に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」)発効によって新たな海洋の秩序ができつつあり、世界中の多くの国々が同条約に基づいて海洋の利用や海洋環境の保護等に努力を傾けるようになってきている。
 科学技術・学術審議会では、「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」の諮問を受け、海洋開発分科会を中心に審議を行ってきた。審議においては、これまでの海洋利用に重点を置いた検討ではなく、我が国の海洋政策全般にわたる総合的な視点からの検討が重要であるとの認識に立ち、「21世紀初頭における日本の海洋政策」を副題としたように、「海洋開発」を「海洋研究・基盤整備」、「海洋保全」、「海洋利用」の各分野を包含した「海洋政策」全般を示すものであるととらえて検討を行った。そのため、海洋開発分科会の下に海洋研究・基盤整備委員会、海洋保全委員会、海洋利用委員会を設置し、各分野の海洋政策の推進に関して審議するとともに、海洋開発分科会において今後10年程度を見通した我が国全体としての海洋政策の基本的考え方及び推進方策について検討を行った。
 21世紀社会において豊かな海と共存する人間性豊かな社会を実現し、潤いのある生活を送るために、本答申の内容に沿って真に日本国民の利益となる海洋政策が実施されることを強く期待する。

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