<2>第4期科学技術基本計画に向けて取り組むべき重要課題

1.科学技術分野における国際協力の推進

 科学技術分野における国際協力については、関係府省、機関間で連携を密にして取り組むことが重要であり、科学技術外交の観点も踏まえながら、以下のような様々な施策を体系的に講じていく必要がある。

(1)先端研究分野での協力の推進

1)我が国が強みを有する分野での協力の推進

 今世紀において、環境・エネルギー、自然災害、感染症などの地球規模課題に対処し、人類全体にとって持続可能かつ安全で質の高い生活を実現していくために、また、真理を探求し、人類の英知を創出する基礎科学の発展のために、高い科学技術水準を有する諸外国との国際共同研究等を推進することは極めて重要である。我が国の研究開発は、これからの人類にとって益々重要になる環境・省エネルギー技術等、安全で持続可能な生活を実現していく上で鍵となる分野に強みを有している。科学技術外交を強化する観点からも、このような分野を中心として、先端研究分野での国際協力を強力に推進していくことが必要である。このため、独立行政法人科学技術振興機構の「戦略的国際科学技術協力推進事業」についても、将来の規模について具体的な見通しを立てて拡充を図っていくべきである。

2)大規模プロジェクトへの参画の在り方

 技術力の発展、研究の大規模化に伴い、国際宇宙ステーション(ISS)、国際熱核融合実験炉(ITER)や統合国際深海掘削計画(IODP)等、大規模な国際プロジェクトが増えている。経済協力開発機構(OECD)・グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)や2008年に沖縄で開催されたG8科学技術大臣会合等、大規模プロジェクトに関する国際協力について世界的に議論が活発化しているほか、特にEUではESFRI(研究施設に関する欧州戦略フォーラム)等で汎欧州的に必要となる大規模研究施設のロードマップの作成等が進められている。
 我が国としても、今後、国際的な大規模プロジェクトへの参画の在り方について、長期的な見通しの下、基本的な方針を持つ必要がある。その際、それぞれの分野における我が国の国際的な位置づけや科学的意義、科学的検討の熟度、当該プロジェクトに関する国民の負担と社会還元との関係等を勘案した上で、国際的に主導的な立場を担うべきか、国際社会の一員として一定の参画にとどめるかの議論と判断を行うことが重要である。さらに、我が国が主導すべきプロジェクトについては、予算シーリングを硬直的に運用せず、柔軟な予算措置を可能とすることも必要である。

(2)ODAとの連携等による地球規模課題対応等の分野での協力の推進

 地球規模の問題が顕在化している開発途上国等において、科学技術力によって現地と協力しながらそれらの問題を解決していくことは、国際社会における我が国の責務であると同時に、その取組を通じて相手国及び我が国の科学技術をさらに発展させていくことにもつながるものであり、この分野での協力は一層強化していく必要がある。
 従来、開発途上国との共同研究において、相手国研究機関の研究環境の整備を十分行うことが課題となっていたが、そのような課題も解決するための取組として、文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構は、外務省及び独立行政法人国際協力機構と連携し、平成20年度より国際共同研究とODAによる技術協力を組み合わせた研究支援事業「地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)」を立ち上げた。
 本事業は環境・エネルギー、自然災害、感染症などの地球規模課題に対処するため、アジア・アフリカ諸国等との国際共同研究を推進し、合わせて現地の人材育成を行うものであり、科学技術外交を推進する上で重要な取組である。この仕組みは世界に先駆けた新たな国際協力の形態として国内外から注目されており、将来の見通しを立てて更なる拡充を図っていくことが重要である。

 また、独立行政法人日本学術振興会、独立行政法人国際協力機構が連携して取り組んでいる「科学技術研究員派遣事業」は、開発途上国と日本国内研究機関との接点や交流の機会等を作る上で有効な事業であり、効果的に活用することが期待される。このほか、同会がアジア・アフリカ地域を対象に、中核的研究拠点構築と若手研究者育成への支援を目的に実施している「アジア・アフリカ学術基盤形成事業」についても更なる充実が期待される。

 「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」においては、大学等が海外研究機関との協力の下、8カ国(タイ、ベトナム、中国、インドネシア、インド、ザンビア、フィリピン、ガーナ)に計12カ所の研究拠点を開設しており、相手研究者・研究機関との協議に基づき、該当地域や世界全体にとって重要な感染症を取り上げ、活発な研究活動を展開している。ここでは、我が国のODAによって建設された施設を活用するなど、ODAを活用した先駆的な取組も行われている。今後とも、このような形での取組を発展させていくことが重要である。

 さらに、タイのアジア工科大学院(AIT)への協力や、アセアン10か国における人材育成を支援する独立行政法人国際協力機構のプロジェクト「アセアン工学系高等教育開発ネットワーク(AUN/SEED‐NET)」などのこれまでの成功例に加え、現在、エジプト・日本科学技術大学(E‐JUST)、インド工科大学(IIT)ハイデラバード校設立構想等、開発途上国における科学技術や工学分野等の大学設置プロジェクトをはじめ、ODA事業への大学等の参画が増えている。

 以上のように、近年、我が国の大学等研究機関による知的貢献の面で、ODA事業との連携や活用が増えていることから、関係府省、機関が連携を密にした一体的な実施体制のもとでの取組の強化が重要である。

(3)アジア・アフリカ諸国等と対等なパートナーシップで取り組むべき分野での協力の推進

 上記の取組に加え、中国、韓国、シンガポール等、科学技術力を高めてきているアジア・アフリカ諸国等の研究機関と対等なパートナーシップで共同研究を推進することは、我が国にとって今後ますます重要であり、この分野での協力も強化していく必要がある。
 現在、このような趣旨で科学技術振興調整費プログラムにおいて、「アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進(国際共同研究の推進)」が実施されているほか、独立行政法人科学技術振興機構の「戦略的国際科学技術協力推進事業」においても、中国、韓国、シンガポール、インド、南アフリカ等が既に対象国とされている。今後も、これらの取組を一層戦略的に推進することが重要である。

 特に、アジア地域では欧米への留学や研究交流などを通じて国際的な感覚を身につけた研究者が多数輩出されていることに加え、今後も著しい科学技術の発展が見込まれることに鑑み、当該地域との協力の重要性はますます大きくなると考えられる。現在、独立行政法人日本学術振興会では、科学技術振興調整費プログラム「アジア科学技術コミュニティ形成戦略」において、アジア各国の主要ファンディング機関の長が一堂に会し、ネットワークの強化を図る「アジア学術振興機関長会議(ASIAHORCS)」や卓越したアジア人若手研究者の育成を目指す「HOPEミーティング」、地域内の学術会議・研究者交流への支援などの国際交流事業等を推進している。また、同会においては、アジアの相手国との対等なパートナーシップに基づく共同研究を支援する「アジア研究教育拠点事業」等を実施し、研究者のニーズに基づく研究交流を推進している。これらを更に充実することが重要である。
 上記のようなことを踏まえ、アジア地域とは、今後一層、先見性を持って、域外にも開かれつつ、新興国の先進的な部分を柔軟に取り入れるなど相互利益の関係構築を目指し、将来を見据えた協力関係を発展させることが重要である。

(4) 二国間、多国間の枠組みの有効な利用

 我が国の国際協力をより効果的に行い、国際社会への貢献を目に見える形で展開していくためには、我が国と相手国・地域の科学技術の水準、相互補完関係、競合関係等を踏まえ、二国間及び多国間の枠組みを組み合わせ有効に利用することが重要である。
 二国間の協力については、これまで培ってきた両国政府間・機関同士の良好な協力関係を維持発展させるとともに、国内においては、関係府省、機関間の連携を図り、各種の政府間対話、科学技術協力協定による協力等を一層効果的に推進することが重要である。
 さらに、多国間の枠組みを含めた地域的な協力枠組について、これまで以上に効果的な活用を図る必要がある。その際、先進諸国との協力における経済協力開発機構(OECD)や、アジア・アフリカ諸国等とのネットワークを持つ国際連合教育科学文化機関(UNESCO)等国際機関の一層の活用を図るとともに、国際的な活動を行うNGOなどとの連携も視野に入れるべきである。

(5) 国際共同研究と留学制度との連携

 国際共同研究を基盤として、それを相手国との長期的な関係の構築・発展につなげていくため、国際共同研究に関与した相手国の若手研究者が我が国で学位を取得することを支援するなど、国際共同研究と留学制度の効果的・体系的な組み合わせを図り、人材育成に資するようにすべきである。

2.国際的な人材流動の促進、国際研究ネットワークの強化

 今日、科学技術の世界では、国籍にとらわれず、自らの力を最も伸ばし、発揮でき、活躍できる場を求めて、人材が国境を越え流動する頭脳循環(ブレイン・サーキュレーション)の流れが進んでいる。こうした中、我が国の研究者の海外への長期派遣数は近年減少傾向にあるほか、外国の研究者の受入数も伸び悩んでおり、我が国の科学技術コミュニティが世界の人材流動の流れから取り残されてしまうのではないかと危惧されている。

 我が国の研究基盤を強化するとともに、我が国と諸外国の各分野における相対的な強み、弱みを分析した上で、我が国が強みを有する分野に関しては、国際的な研究開発拠点の整備を進め、世界中から最先端の研究者を引き付ける一方、必ずしも優位ではないが推進すべき分野については、諸外国の最先端の研究開発拠点とのネットワークを強化し、それらの長所を取り込んでいくことが急務である。

 研究者等の国際的な流動性の向上を図るため、国全体として、体系的に施策を展開することが必要である。具体的には、「留学生30万人計画」、平成21年度より新たに開始されている「国際化拠点整備事業(グローバル30)」、平成21年度補正予算により開始される「若手研究者海外派遣事業」などを有機的に連携させ、留学生交流から研究者の派遣・招へいに至るまで総合的に施策を講じていくべきである。

 また、平成17年度から実施されてきた「大学国際戦略本部強化事業」の成果を活かし、大学等研究機関の国際化を引き続き推進することが重要である。

(1)日本の研究者等の海外派遣の拡充

 文部科学省の国際研究交流状況調査によると、平成18年度における日本の研究者の海外派遣については、1ヶ月未満の派遣者数は13万2千人に達し増加傾向にあるものの、1ヶ月以上の派遣者数は約4200人にとどまり、平成12年度の約7700人から毎年減少している。我が国の研究者が、海外の優れた研究機関で研究経験を積み、世界の研究者との切磋琢磨により研究能力を高めていく上で、長期の海外派遣数を増やすことが急務である。

 研究者等の海外派遣によって期待される効果としては、主に以下の要素があるが、特に、我が国が強みを有し、世界の研究をリードして個性を発揮する分野では、3.の国際研究ネットワークの核になる研究者の輩出を目指していくべきである。

  1. 海外の先端研究に参画し、研究能力を高める。
  2. 国際水準の研究コミュニティの在り方等を直に体験する。
  3. 国際研究ネットワークに入り込み、その核として活躍できる力をつける。

1)研究者に至るまでのステージに応じた施策の必要性

1.初等中等教育段階

 語学力、コミュニケーション能力、グローバルな視野で発想する力、リーダーシップ、交渉力など、将来国際的なネットワークの中核として活躍するために必要となる基礎力を、初等中等教育から、大学学部、大学院の段階を通じて育成することが必要である。特に、初等中等教育の段階からのコミュニケーション能力と外国語運用力の強化が課題である。
 また、その後の人生に与える影響も大きい高校生段階において、留学はもとより、種々の国際交流に参加できる機会を充実することが重要である。

2. 大学学部生・大学院生

 研究活動への参加を始める大学の学部、大学院の学生については、中国、インド、フランス、ドイツなどの国では、戦略的に派遣方策を講じ、海外の経験を積み重ねて、視野の広いグローバルな人材を育成している。我が国においても、海外企業へのインターン等も含め、大学の学部、大学院の段階での派遣の強化が必要である。また、海外での学位取得を促進することも課題である。

3. ポストドクター・助教等の若手研究者

 研究活動のフロンティアにおいて、新たな局面を切り拓いていく立場にある若手研究者については、我が国ではその意識が国内志向となっていることが指摘されている。このことに関して、大学院生やポストドクターは研究活動の重要な部分を担っており、海外に派遣しにくい場合があること、研究者の任期制が拡大し、流動性を高める効果がある反面、任期中は国内業務に集中する必要があり、海外に出にくい場合があることが指摘されている。また、大学における助教等のポストが過小であり、本務教員に占める若手教員の割合が減少し、教員の年齢構成が逆ピラミッド構造になっていること、助教やポストドクター等の若手研究者にとって、帰国後のポスト確保に不安があることなどが指摘されている。
 さらに背景として、大学院の段階で、米国では若手研究者の長所を伸ばし、積極性、自立心を育み、挑戦を奨励する傾向が強く、このような環境で育成された博士号取得者は学界以外への就職にも有利であり、将来に多様なキャリアパスが確保されているのに対し、我が国では、必ずしもこのような状況になく、将来に不安を抱きやすいとの指摘もある。ポストドクターについては、直ちに海外の機関でも研究に従事できる能力が育成されるよう、大学院教育、研究者養成の充実も重要な課題である。
 このような要因について、分野による違いにも配慮しながら、対応策を講じ、我が国の研究者コミュニティや研究機関が、世界的な頭脳循環の一角として重要な位置を占めることができるようにすることが急務である。

2)「若手研究者海外派遣事業」等の効果的な推進

 平成21年度の補正予算において独立行政法人日本学術振興会に造成される基金(300億円)により、大学の学部生、大学院生、若手研究者について平成25年度までの5年間で1.5~3万人を海外に派遣する事業が開始されるが、このような若手研究者等を海外に派遣する事業を効果的に推進し、我が国で強まっているとされる研究者コミュニティの内向きの意識の改革を図る必要がある。
 その際、具体的な国際共同研究に従事するなど目的意識の明確な若手研究者等を積極的に支援することが重要である。また、学生が学んだことを途上国で実地に試したり、博士号を取得する直前に、自分がその後海外の研究所に行くために、数週間のラボビジットを行ったりするなどの様々な主体的かつ実践的な試みを奨励することにより、次世代を担う研究者の積極性と自発性を伸ばし、国際的な視点を持って研究活動を展開する能力を高めるようにすべきである。若手研究者等が海外で研究を行うためには、所属する大学等研究機関の組織的なサポートも必要である。

3)海外経験の正当な評価、若手研究者のポストの拡充、基盤的経費の拡充

このような海外での研究経験やその成果が、若手研究者の採用時などに正当に評価され、かつ、透明で公平性の高い人事システムが、我が国の大学、研究機関において普及していくようにすることが極めて重要である。
 また、近年、助教等の若手研究者の割合が減少していることに関しては、海外派遣の減少をもたらすのみならず、将来的な研究者の後継者不足につながりかねないことが懸念されている。そのため、大学、研究機関においては、現在の教授の退職後等の機会に助教など若手研究者のポストを拡充すること、さらに、国においては、助教等の若手研究者のポストの抜本的な拡充が可能となるよう基盤的経費(運営費交付金、私学助成)の拡充を図ることが必要である。

4)大学等の海外事務所の在り方

 大学や独立行政法人などが組織として外国にネットワークを展開していく際、日本の研究者を含む当該地域における研究者コミュニティと国内の本部等をつなぐために、海外事務所を設置することもある。海外事務所の役割は、これまで海外の研究者コミュニティとのネットワーク構築が中心に考えられてきたが、今後は我が国の研究機関の海外設置を進めることも重要な課題であり、その際のサポート機能も期待される。
 また、特に大学の海外事務所については、設置ありきで設けるのではなく、各大学にとっての具体的な設置目的や使命を事前に明確にし、国内の本部との連携を密にして、その役割を十分発揮できるようにすることが重要である。その際、独立行政法人日本学術振興会の海外事務所との連携を図ることも有効である。

5)研究所の海外設置

 我が国の研究機関を国際的な中核拠点にすることは重要な課題であるが、言語環境の問題等もありそれを早期に十分に実現することには限界もあることから、より効果的に世界最先端の研究情報に接し、共同研究や研究交流を進めるために、我が国の独立行政法人等の研究機関が海外に研究所を設置することは有意義である。このような海外の研究拠点を設置する際の制度面の課題の整理のため、国において、必要な調査研究を行うことが必要である。

(2)外国の研究者の受入れの拡充

 世界から多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材を引き付けることは、全世界的な知識基盤社会への移行が進む中、我が国の研究機関の国際化を図る上で、一層重要になっている。英米では博士課程における外国人学生の比率は我が国に比べはるかに高い上増加傾向にある。実際欧米等の大学では、海外の優秀な学生を引き付けるために、積極的な招へいを行っている。こうして引き付けた学生は、定住して市民となり、あるいは、帰国等により国を離れても、当該国の海外ネットワークを構成する形で間接的に、欧米の活力を支えている。さらに欧米では、ネットワーク継続のため、帰国する留学生や研究者に資金を出したり、再招へいを行うような取組を実施している。

 一方、海外からの研究者を受け入れることには国際貢献という側面もある。国際連合教育科学文化機関(UNESCO)のデータによれば、世界人口の分布と比較して研究者人口の分布は偏在している。自国に十分な研究者コミュニティや研究基盤がない国や地域の研究者に対して、研究機会を提供するという観点からも、研究者受入れを考えていく必要がある。

 なお、我が国に外国の研究者を招へいする際、英語圏の国とは異なる問題がある。日本語ができる外国の研究者は少なく、世界トップレベルの研究人材を招へいしようとする場合には、英語での意思疎通に不自由のない環境を特別に整備する必要がある。

1)外国の研究者受入れのための支援措置の拡充

 従来から独立行政法人日本学術振興会のフェローシップ事業等により外国の研究者の招へいが行われ、また、平成21年度の補正予算により先端的な研究分野における組織的な研究者招へいへの支援が行われるが、上記の観点も踏まえ、優秀な外国の研究者の受入れを、日本の研究者の海外派遣と同等に重視し、国として今後、支援措置を拡充する必要がある。その際、「留学生30万人計画」により我が国に受け入れた優秀な留学生が再び来日し、研究に従事するような招へいプログラムとしての活用も必要である。

2)大学等研究機関における外国の研究者の受入れ体制の整備

 外国の研究者の受入れに関しては、まず、我が国の大学等研究機関は、その優れた研究成果を国際的により強力に発信して、存在感とブランド力を高めるとともに、より自由で研究しやすく、海外の制度と整合性のある制度を備えた研究環境を整備して、外国の優秀な研究者を引き付けるための魅力を向上させる必要がある。また、優秀な研究者を招くには、待遇面で諸外国の研究機関に劣らない好条件を提示することが重要であり、それが可能となるような財政措置を含めた条件整備も課題である。
 さらに、大学等研究機関での留学生や研究者の受入れに際して、生活面でのケアの負担が担当教員にかかっているが、専門性の高い職員を配置した事務局体制を整備し、外国との調整と部局内の調整の両面を行えるようにすることや言葉の面など様々なサポートを充実することが不可欠である。

3)周辺環境の整備

 上記の対応は、優秀な外国の研究者の受入れのための重要な必要条件ではあるが、十分条件ではない。特に、家族を持つ研究者の招へい、永住や次世代以降の滞在までも視野に入れる場合、英語圏の国々とは異なり、研究環境に加え、それ以外の周辺環境の整備の重要性は大きくなる。
 しかし、我が国の研究機関全てについて早急にこのような周辺環境整備を求めることは現実的には困難であるため、研究機関の集積が進んでいる都市等において、周辺自治体等と連携し、子どもの教育、配偶者の就職、宿舎、医療などの面で、外国の研究者の家族にも暮らしやすい環境を特区のような形で重点的に整備していくことが必要である。国は、このような社会と科学技術との隘路を解決するための具体的な施策を講ずる必要がある。

4)帰国後のネットワークの維持・発展

 さらに、留学生や外国の研究者が帰国等により出国する場合にも、国際的に開かれたネットワーク構築の重要な役割を担う者として関係の維持・強化を図る必要がある。例えば、独立行政法人日本学術振興会が招へいし、日本での研究を終えて離日した元外国人特別研究員等で組織される研究者ネットワークへの支援や、我が国で学位を取得して帰国した元留学生や研究者の再招へい、少額の研究費の支給による支援などが考えられる。

3.科学技術の国際活動を推進する基盤の強化

 上述したような方策を講じることにより、科学技術関連の国際活動を通じて世界各国との共存共栄関係を維持・発展させるとともに、世界的な研究・人材ネットワークの確固たる一員となって、我が国の科学技術振興を図っていくことが必要であるが、我が国としては、そのための共通基盤として補強すべき点がある。具体的には、国際動向の継続的把握や、科学技術の国際活動を担う科学技術アタッシェなどの体制の強化、技術の普及・標準化に向けた取組及び機微技術・安全保障関連技術等の取扱いである。

(1)海外動向情報の収集・分析体制の充実

 国際的な科学技術の最先端の動向を把握したり、国や地域の特性に応じた国際協力や国際交流を行っていく上で、海外動向に関する情報を継続的に収集・分析できる体制と、そのための人材育成を充実することは重要である。

 研究開発競争で遅れを取らないためには、諸外国で研究プログラム立ち上げに先立ち行われる議論を早期に把握する必要があり、新興分野を中心とした科学技術動向分析が常時必要である。このようにして収集した情報のうち、我が国の研究者が応募可能な諸外国・機関等の研究プログラム等に関するものは、整理して体系的に我が国の研究者に提供することも研究開発の国際交流を促進する上で重要である。
 また、調査結果を国別に比較する場合、得られたデータ・情報を解釈する際には各国特有の背景を理解することが必要になる。特に我が国では、断片的な調査が各所で一過性に行われる傾向があり、継続的な情報収集の蓄積に乏しいため、十分な分析ができていない。
 さらに、各国特有の背景の理解は、公表された情報ではなく、類似の質問を関係者に繰り返すようなことで見えてくるものであり、調査者個人に知識やノウハウとして蓄積されていく要素が強く、調査者の知見をいかに継承していくかが課題である。とりわけBRICs諸国をはじめとして、科学技術力を高め、我が国にとって協力の重要性が増している国々の動向の把握が重要である。

 以上のような観点から、情報を継続的・組織的・体系的に収集・蓄積・分析できる拠点が必要である。このような形で情報が整備され、当該国の情報が分野横断的に利用できれば、政策担当者にとっても交渉を有利に進めることができる。今後、独立行政法人科学技術振興機構の研究開発戦略センター(CRDS)等の体制の一層の充実について検討する必要がある。

(2)研究者以外の科学技術の国際活動を担う体制の強化

 研究者に限らず、科学技術関連の国際活動を担う科学技術関係者の体制を強化することは、科学技術外交の基盤を整備する上で、極めて重要である。

1)科学技術アタッシェ等の機能強化

 在外公館の科学技術アタッシェの役割は非常に重要であり、在外の研究者や大学、関係機関の海外拠点等との情報交換や協力体制の構築を推進することが必要である。
 そのため、科学技術アタッシェを増員することが必要であるが、将来的には、文部科学省と外務省が連携し、博士号を持つ人材を科学技術アタッシェ等に加えていくことも検討すべきである。我が国の政府関係者は海外のカウンターパートと比較して異動が激しく、国際的ネットワークを築きにくい面があるため、そのような点への対応も期待される。なお、その際には、科学技術アタッシェは行政的な感覚も備えていることが要求されるため、そのための研修・訓練が必要である。

2)研究機関等の国際関係担当者の機能強化

 科学技術アタッシェに加え、大学等研究機関や研究助成機関の海外拠点における人材、大学等研究機関において国際関係業務を担う専門人材の役割も重要である。文部科学省、外務省、大学等研究機関、研究助成機関及びそれぞれの海外拠点等が協力し、これら関係機関が連携した効果的な活動プログラムや、実際の協力活動への従事等を通じた国際業務担当専門人材の実践的な育成プログラム、さらに、これらの人材の採用、給与体系など人事の在り方を含めたキャリアパス等を開発・整備することが求められており、国は、そのための具体的な施策を講ずる必要がある。

(3)我が国発の科学技術の普及・標準化

 我が国の科学技術を国際的に普及させ、標準化につなげるためには、当該分野の国際的なネットワークの中に入っていくことが必要である。従来、科学技術関連の国際標準は、我が国が関与しないところで決まってしまう傾向があったが、共同研究を通じて研究の輪を広げることで、研究手法、研究成果の普及・標準化の獲得につなげていくことが必要である。

 国際標準化のため、企業・産業界では、ISO(国際標準化機構)等の専門委員会の議長等の積極的な引受け、経済産業省では、人材育成などの面での支援など、官民が連携した取組が進められているが、大学等研究機関、研究者も、これらの取組との連携・協力を深め、積極的な役割を果たすことが求められている。
 国際的なネットワークに我が国がしっかり関与・参画していくためには、国際機関等が開催する会議等に対して、政府と大学等研究機関が連携し、専門家を積極的に派遣する体制を整えたり、我が国がホストとなって開催するものを増やしたりすることや、博士号を持った行政官が長期的に関与することが有効である。

(4)機微技術、安全保障関連技術の扱い

 国際交流や国際共同研究を進める際、機微技術や安全保障関連技術の扱いには留意が必要であり、原子力、宇宙、精密測定等の分野については特に注意が必要である。このようなセンシティブな分野での不十分な管理は、国際的な交流の利益を上回る国際的な問題を招来し、大学等の研究機関自身にとっても円滑な研究活動を阻害するリスクが存在することを多くの関係者が認識することが必要である。

 我が国の大学等研究機関においては、上記の認識のもと、自覚と対応力を高めるべきであり、組織的に、外国為替及び外国貿易法に沿った適切な機微技術管理を行うことや、留学生、研究者の受入れ時において、安全保障の面から経歴チェックを実施することが必要である。また、ビザ発給段階における関係当局によるチェック体制の整備についても検討することが必要である。
 大学等研究機関において上記のような対応を組織的に実施するためには、機微技術の管理等についての専門的な知識を有する人材を育成し配置して、各機関における担当者・担当部署を明確化することが必要である。そのために、経済産業省が整備している大学・研究機関用の機微技術管理のガイダンス等を活用し、担当者向けの集中講座を実施するなどの方策が必要である。また、こうした専門人材の育成、配置について、国からの積極的な働きかけや支援策が必要である。

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)

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